アルバムレビュー(邦楽)2026年

2026年8月17日 (月)

日本の民謡や盆踊り唄を独自のグルーヴで聴かせる

Title:夜明け烏が渡るまで
Musician:中西レモン

今日紹介するのは、もともと江州音頭の歌い手として活躍しつつ、各地の民謡を現代音楽風にあらたに解釈し、大きな話題となっているシンガー、中西レモンの最新アルバムです。ただ、この「民謡を現代風に解釈」というスタイル自体は、正直なところ最近、決して珍しくはありません。もともと、ソウルフラワーユニオンなども自身が奏でるロックミュージックの中に民謡の要素を積極的に取り入れてきましたし、最近では民謡クルセイダーズやすずめのティアーズなど、民謡と現代のポピュラーミュージックを融合させたスタイルの音楽を発表するミュージシャンが多く出てきています。

彼もそんなスタイルが大きな特徴的なミュージシャンの一人。このアルバムでも、同じく、民謡とポップスを融合させて注目をあつめているデゥオ、すずめのティアーズが全面的に参加しています。本作では他にもジャンプ・ブルースのグループ、Bloodest Saxophoneやキーボーディストのエマーソン北村も参加。ロックやジャズ、フォークなどの様々な音楽的な要素を民謡に取り入れています。

ただ、そのように様々なミュージシャンが民謡とポップスを融合させる中でも、このアルバムは特に魅力的に感じました。それは、中西レモンの楽曲が、非常にグルーヴ感のあるサウンドを作りあげている点です。

例えば冒頭を飾る「タント節」。北東北に伝わる盆踊り唄だそうですが、こちらにBloodest Saxophoneが演奏に参加。スカやジャンプブルースの要素を取り入れながら、盆踊りのリズムをグルーヴ感あふれる演奏で聴かせてくれています。青森県黒石市を代表する民謡「黒石よされ」もかなりユニーク。かの「砂漠のブルース」を彷彿とさせるような演奏とリズム感が特徴的で、東北の民謡が、見事、アフリカのグルーヴ感と融合しています。新潟県の民謡「山田はんや」に至っては、リズミカルなビートが特徴的。伸びやかな民謡の歌声をバックにしつつ、リズミカルなグルーヴ感を作りあげています。

他にも様々な音楽との融合が実にユニークで、富山県の盆踊り唄「新川古代神」では、ブラジルのリズム、バイフォンを起用。こちらもラテン風ながら独特のグルーヴ感が魅力的。民謡というよりも脱衣じゃんけんで有名になってしまった「野球拳」も、スカのリズムで軽快に聴かせてくれますし、自分くらいの年代では、どちらかというとドリフターズでおなじみの「北海盆唄」も、こちらもバイフォンのリズムで軽快に聴かせつつ、ブラジル音楽の要素を取り入れた爽やかなサウンドは、どこかシティポップ的な要素も感じられます。

収録曲どの曲も、様々な音楽性を巧みに取り入れており、民謡の魅力を残しつつ、独自のグルーヴ感を作りあげている構成が実に魅力的。なによりも、日本の民謡や盆踊り唄の中に実はちゃんと用意されている、現代でも通用するグルーヴ感をしっかりと引き出している、その実力、その慧眼に感心させられる傑作アルバムに仕上がっていました。あらためて日本の民謡の魅力を実感した、そんな作品でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

MOTHERLAND/BIGMAMA

Motherland_bigmama

BIGMAMAの新作は「音楽を奏でる空想遊園地」をコンセプトとしたアルバムとなっており、遊園地のアトラクションや風景をモチーフとした楽曲が並びます。ただ、楽曲的には、ヘヴィーなバンドサウンドにバイオリンを加えたBIGMAMAらしいドラマチックなサウンドに、メランコリックなメロディーラインが載ったいつものスタイル。独特なサウンドはインパクトはあり、爽やかなメロディーラインはポップで心地よさはあるものの、ベタさも感じられる内容に。良くも悪くもBIGMAMAらしい作品となっていました。

評価:★★★★

BIGMAMA 過去の作品
Dowsing For The Future
君がまたブラウスのボタンを留めるまで
君想う、故に我在り
Synchronicity(HY+BIGMAMA)
Fabula Fibula
BESTMAMA
-11℃
Tokyo Emotional Gakuen

tone/Uru

女性シンガーソングライターUruの4枚目となるアルバム。今回も初回盤ではカバーアルバムが付属しており、平井堅の「瞳をとじて」やMrs.GREEN APPLEの「青と夏」、さらにはさだまさしの「たとえば」をカバーしています。とにかく歌が上手く、清涼感たっぷりのボーカルが実に魅力的なミュージシャンなのですが、前作同様、オリジナルに関しては似たようなタイプのバラード一本調子。ボーカルが魅力的なだけに、もうちょっとどうにかならんのか、と思うのですが。カバーアルバムは5ですが、オリジナルは3というところで。

評価:★★★★

Uru 過去のアルバム
オリオンブルー
コントラスト

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2026年8月16日 (日)

大バズりしたバンドの現在位置

Title:VS Tairiku Ondo
Musician:テレビ大陸音頭

Tvtairikuondo

2014年、ある高校生バンドの音源がネット上で大バズりして話題を呼びました。北海道を拠点に活躍するそのバンドはテレビ大陸音頭。当時高校生だった4人組によるバンドで、なんと当時の全国ネットのテレビ番組にまで出演するなど大きな話題となりました。そして、驚くのはその音楽性。この手のテレビ番組にまで出演してバズるバンドというと、一般的にはメロディーラインの優れた、いわば売れ線のバンドとなりがちですが、彼らの奏でるのはむしろ比較的、マニアックとも言えるような「アートパンク」と言われるような分野。正直なところ、決して万人受けするようなタイプの音を出しているバンドではないにも関わらず、大バズりしたことも、非常に意外性がありました。

その後も2025年にはフジロックの「ROOKIES A GO-GO」に出演するなど話題となりましたが、正直なところ、最初に比べると若干、一時期ほど注目度が薄くなった感は否めません。ただ、そんな中でもライブハウスを中心に着実に活動を進め、今年、ついにリリースされた待望のデビューアルバムが本作となります。

アルバムは、その大きな話題となった「俺に真実を教えてくれ!!」からスタート。バンドサウンドは非常にシンプルかつタイトながらもしっかりとしたグルーヴを感じられ、その一方で疾走感あるラップ気味のボーカルスタイルながらもどこかポピュラリティーと、そして歌詞からはユーモラスを感じさせます。

続く「異次元の暮らし」もギターリフを主導としたシンプルなサウンドの中に、いきなり「仲良い友達が川に流されてる/俺はそれを見てるだけ」という非常にシュールな歌詞からスタートします。「hentai」もかなりユニークな作風。ボーカルとシンクロするギターサウンドからスタートする冒頭は、どこかZAZEN BOYSを彷彿とさせつつ、途中からはサイケなギターサウンドになだれ込んだかと思いきや、最後はなんとスペーシーなエレクトロサウンドが顔を覗かせるという、かなり実験的でユニークな構成となっています。

後半の「超常現象を信じてみる。」もファンキーなギターとドラムスがハイテンポに展開する独特のリズム感覚が実にユニークな作品。そして最後を締めくくる「夜について」も、スペーシーなエレクトロのサウンドに、メランコリックなメロディーラインを前に押し出した曲調となっており、彼らのまた違った側面を垣間見れる楽曲となっています。

海外ではblack midiや、あるいはちょっと懐かしいミドリに似ているという指摘もあるようです。ただ、正直言って、ミドリのようなエッジの効いた狂気は楽曲からはあまり感じられません。むしろ、空間を聴かせるシンプルなサウンドに独自のグルーヴ感、そして意外とポップな側面も感じられる点に、個人的にはOGRE YOU ASSHOLEや、あるいはゆらゆら帝国あたりに連なる部分も感じます。ただ、そんな中でも独特のグルーヴ感や、歌詞の言語感覚、さらにはエレクトロサウンドなども取り込む自由さも感じられ、バンドとしての圧倒的な独自性を感じます。

一方で、最初知った時に高校生だった彼らも既に20歳。そして満を持したデビューアルバムがわずか7曲20分弱という内容の寡作さはちょっと気にかかります。また、最初に知った「俺に真実を教えてくれ!!」は高校生らしい若さ、初々しさを一種の武器になっていたのに対して、20歳という大人になった現在、その年齢と比して楽曲が初々しすぎないか、ということもちょっと懸念点に感じてしまいます。

そんな気になる点はありつつ、やはり圧倒的な個性を覚えるバンドなだけにこれからの活躍が非常に楽しみ。ライブに楽曲制作に、さらなる経験を重ねて、日本を代表するバンドになりそうな、そんな予感も覚える作品。これからの彼らにも注目です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

etc.works4/MONGOL800

MONGOL800が、トリビュートアルバムに参加した際にカバーした曲や他ミュージシャンへの提供曲のセルフカバー曲、未発表曲などを収録した企画盤的なアルバム。モンパチらしい軽快なパンクロックが並ぶ作品なのですが、特にユニークなのがカバー。井上陽水の「少年時代」や美空ひばりの「川の流れのように」をモンパチ流にカバーしているほか、なんと安室奈美恵with SUPER MONKEY'Sの「TRY ME~私を信じて~」のカバーも収録。最初、トランシーなイントロが流れて来て、原曲まんまな路線を無理やりカバーするのはおもしろいと思ったら、途中からバンドサウンドベースのスカのリズムによりカバーに。これはこれでおもしろかったのですが、原曲そのままなユーロビートでのカバーもおもしろかったかも(笑)。

評価:★★★★

MONGOL800 過去の作品
愛彌々(MONGOL800×WANIMA)
LAST PARADISE
愛彌々2(MONGOL800×WANIMA)

BAND-AID/The Ravens

Bandaid_ravans

Dragon AshのKj率いるThe Ravansの4枚目となるアルバム。メランコリックなメロディーラインを前面に出した作風で、メロディーラインにはインパクトも感じられれますが、全体的に似たようなタイプの曲が多く、正直、目新しさは感じません。ラテンのテイストを取り入れつつ、メランコリックなメロを前面に押し出す方向性は、ここ最近のKjっぽい感じなのですが、新機軸は感じられず、全体的に平凡な感じが否めない作品でした。

評価:★★★

The Ravens 過去の作品
ANTHEMICS
SCARECROWS

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2026年8月14日 (金)

天才シンガーの活動を網羅

Title:ふわふわ~ALL TIME BEST
Musician:川本真琴

1996年にシングル「愛の才能」でデビュー。2ndシングル「DNA」で初のベスト10ヒットを記録し一躍ブレイク。その後も「1/2」「桜」などのヒットを飛ばし、一世を風靡したシンガーソングライター、川本真琴。ただ、その人気絶頂の最中、徐々にリリースペースが落ち、2002年にはソニーとのメジャー契約を解消。しばらくは事実上の活動休止状態となりました。

その後は2006年に活動を再開したものの、またすぐに活動を休止したりして、ある意味マイペースに、インディーズでの活動を行ってきた彼女。ただ、ここ最近はようやく徐々に活動ペースもあがってきて、2023年には久々となるニューアルバムもリリース。そして今回リリースされたのは、初期メジャー時代の作品から、2010年代以降のインディーズ時代の作品まで網羅的に収録したオールタイムベストとなります。

川本真琴については、過去に何度かこのサイトでも紹介してきましたが、今回あらためて彼女の代表曲を網羅的に聴いてみて感じるのは、川本真琴というシンガーソングライターは、間違いなく「天才」と称することが出来る実力を持ったミュージシャンである、ということでした。メロディーメイカーとしての才能を感じられるのはいわゆるAメロ、Bメロからサビへの展開が非常に自然で、かつ徐々に盛り上がり、気が付いたらサビの高揚感を味わえるような展開になっている点。これは大ヒットした「DNA」もそうですし、「1/2」や「ピカピカ」など、彼女のヒット曲のいずれにも大きな特徴として感じられます。

また、感情をストレートに、そして時としてエロチックにあらわしたような情熱的な歌詞も魅力的。「DNA」の

「AH!抱き合ったら
こんがらがっちゃうよね
脳でなんかわからないよ」
(「DNA」より 作詞 川本真琴)

という歌詞もそうですし、「1/2」の

「唇と唇 瞳と瞳と 手と手
神様は何も禁止なんかしてない 愛してる 愛してる 愛してる」
(「1/2」より 作詞 川本真琴)

なんていう表現も、まさに川本真琴の真骨頂と言えるでしょう。

個人的に、この川本真琴のひとつの到達点と思っているのが「桜」で、卒業式の空気感をそのまま包んだような、これで最後という切なさと将来への希望を見事バランスさせたメロディーラインに、最初からサビの部分まで一気に上り詰めるメロディー展開の妙も絶品。「あたしとあたしの手があなたにふれた時/できない できない できない」という爽やかな中でエロティシズムを感じさせる歌詞も魅力的。川本魅力の才能を、これでもかというほど詰め込んだ名曲になっています。

ただ、この初期のメジャーレーベル時代は多忙によるプレッシャーで精神的にも限界になったようで、活動を休止。インディーズに移ってからはマイペースな活動を再開しています。今回のアルバムではDisc1ではメジャー時代、Disc2は主にインディーズ時代の作品が収録されている構成となっています。そして、こうやって2つの時期の曲を通して聴いてみると、残念ながらインディーズ時代の作品には、初期のような才気あふれるような楽曲はあまり見受けられません。

もちろんインディーズ時代の曲でも魅力的な曲はあります。「ホラーすぎる彼女です」などはメロディアスでしっかりとインパクトもありますし、「ゆらゆら」も爽やかなポップ路線が川本真琴らしさを感じます。ただ、やはり初期のメジャー時代の曲と比べると、メロディーにしても歌詞にしてもいまひとつ。決して悪くはないのですが、全盛期と比べてしまうと物足りなさは否めません。

そんなこともあって、Disc1は申し分ない傑作に対して、Disc2は惜しい内容といった印象。ただ、Disc1のすごさはDisc2のマイナスをはるかに凌駕する内容になっており、その点を差し引いても文句なしの傑作だったと思います。そして、なんとこのたびメジャーレーベル、ソニーミュージックへの復帰が決定!本作は、そのソニーからのリリースとなっていますし、またメジャー再デビュー後のシングル「Superstar」「きいていて」も収録されています。メジャーを離脱した時の経緯から考えると、メジャー再デビューは意外でしたし、驚きでもあるのですが、時代を経て、彼女のメジャーへの見方も、またメジャーの彼女への見方も変わってきたということでしょうか。おそらく、メジャー復帰により活動がさらに活発になりそう。これからの彼女の活躍に期待したいところです。

評価:★★★★★

川本真琴 過去の作品
音楽の世界へようこそ(川本真琴feat.TIGAR FAKE FUR)
The Complete Single Collection 1996~2001
願いがかわるまでに
川本真琴withゴロニャンず(川本真琴withゴロニャンず)
ふとしたことです
新しい友達
ひかり


ほかに聴いたアルバム

LOVE PSYCHEDELICO NAKED SONGS/LOVE PSYCHEDELICO

今回の作品は、彼らの過去の代表曲について、メンバーのNAOKI自身が、ゼロからリミックスした作品。「当時脳裏に描いていた本来の、本当の完成形」となったアレンジで収録したセルフリミックスアルバムだそうです。もちろん、基本的にはオリジナルと大きな変化はなく、ベスト盤的な楽しみ方もできる一方、オリジナルに比べて、よりエッジの効いたサウンドとなっており、耳元でダイレクトな演奏を聴いているような、よりリアリティーある演奏に仕上がっています。LOVE PSYCHEDELICOの魅力がより伝わる作品になっていました。

評価:★★★★★

LOVE PSYCHEDELICO 過去の作品
This Is LOVE PSYCHEDELICO~U.S.Best
ABBOT KINNEY
IN THIS BEAUTIFUL WORLD
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST Ⅱ

15th ANNIVERSARY TOUR-THE BEST-LIVE
LOVE YOUR LOVE
LOVE PSYCHEDELICO Live Tour 2017 LOVE YOUR LOVE at THE NAKANO SUNPLAZA
"TWO OF US"Acoutsic Session Recording at VICTOR STUDIO 302
Complete Singles 2000-2019
20th Anniversary Tour 2021 Live at LINE CUBE SHIBUYA
A revolution
Premium Acoustic Live “TWO OF US” Tour 2023 at EX THEATER ROPPONGI

大黒ミサ THE END OF SEASON ONE “FINAL” @SSA/聖飢魔Ⅱ

The-end-of-season-one-final-ssa

地球デビュー40周年を記念して、昨年行われた大黒ミサツアーのファイナル、11月30日にさいたまスーパーアリーナで行われた大黒ミサ(ライブ)の模様を収録した作品。映像作品としてリリースされたものが配信でもリリースされており、今回紹介するのはそちらのアルバム。デビュー40周年記念の黒ミサということで、ワースト(ベスト)的なセレクトとなっており、信者にとっては聴きごたえ十分な作品に。ただ、映像作品ではフル収録されている(と思われる)トークの部分が配信ではカットされているのがちょっと残念かと。

評価:★★★★

聖飢魔Ⅱ 過去の作品
XXX-THE ULTIMATE WORST-
BLOODIEST
聖飢魔Ⅱ 期間再延長再集結「35++執念の大黒ミサツアー -大阪-」
聖飢魔II 期間再延長再集結「35++執念の大黒ミサツアー -東京FINAL-」
SeasonⅡ

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2026年8月11日 (火)

今、最も注目されるトラックメイカー

Tilte:イ三
Musician:原口沙輔

Isan

おそらく、現在最も注目をされているミュージシャンの一人であろう、原口沙輔。ボカロPとしても活躍し、特に「人マニア」はビルボードのボカロチャートで14週連続1位を獲得するなど、圧倒的な人気を確保しました。本作は、その彼の3枚目となるアルバム。ただ、彼はこのアルバムを「実質のファーストアルバムであり、ベストアルバムであり、ラストアルバム」と語っており、まさにいままでの彼の活動のひとつの集大成とも言えるアルバムとなっています。

彼は非常に実験的なミュージシャンであり、「ミュージシャン」という以上に「トラックメイカー」という表現がピッタリくるかもしれません。実際大ヒットして、本作にも収録されている「人マニア」についても、かなり挑戦的な作品で、重音テトのボーカルが、ひとつの言葉ごとに分解されたように配置され、ピアノとドラムで刻まれるリズムはかなりアバンギャルド。これが14週も1位を獲得するほどヒットしていた事実にも驚かされます。

今回のアルバムについても、31曲もの曲が収録されているのですが、アルバム全体の長さとしては56分。1曲あたり1分から、長くて2分程度の短い曲が並んでおり、次から次へと繰り広げられる「音の実験場」みたいな構成となっています。パソコンの起動音からスタートする本作は、事実上の1曲目はタイトルチューンでもある「イ三」からスタートするのですが、エレクトロやノイズ、メロウなポップを融合した、挑戦的な楽曲。続く「有す」もアバンギャルドなエレクトロのビートと、静かなストリングスとピアノの音色の対比がユニークな挑戦的な作品となっています。

ほかにも「千号」ではサイケでダイナミックなギターサウンドを大胆に導入してきたり、「理性」では女性ボーカルによるポエトリーリーディングを加えてきたり、重音テトを用いた「それに命」では、ボカロと人のボーカルというデュオに挑戦していたり1曲あたりが短い曲の連続ながらも、様々な音の挑戦が試みられています。また、「誰か」では、最初は和風なサウンドが入りつつ、途中からエレクトロビートが加わり、最後はサイケでダイナミックなバンドサウンドで締めくくるなど、3分という短さとは思えない大胆な展開が繰り広げられる作風になっています。

さらには「仮有0一」「仮有0二」ではU-zhaanのタブラに鎮座DOPENESS、環ROYのラップが重なる挑戦的なスタイル。リリックが哲学的なのも特徴的ですが、「仮有0三」ではあのいとうせいこうも参加。「有」という意味についての哲学的な考察は、このアルバムのひとつのテーマとなっています。

全体的には挑戦的な作風の曲が多いものの、メロディアスなポップチューンももちろん多く収録されており、バーチャルライバーの月ノ美兎が参加した「贋ト旧称」はメロウなピアノやストリングスをバックに、月ノ美兎のボーカルと語りでダンサナブルなポップチューンに。「僅力」でも郷愁感あるメロディーをしっかりと聴かせてくれています。全31曲というボリュームで、次々と展開していく構成なのですが、アルバムとしては聴きやすさを感じさせるのは、ここらへんのポップスセンスがアルバム全体を貫いているからでしょう。

ただ、正直言ってしまうと、メロディーメイカーとして原口沙輔については、ちょっと物足りなさを感じてしまう点は事実。純粋にメロディーだけでの勝負となると、いまひとつ的に感じてしまう点も否定できません。とはいえ、サウンドを含めてその実験精神や、その中でのメロディーとのバランスという点においては、間違いなく今のシーンにおいても指折りの、卓越したミュージシャンと言えるでしょう。本作は、そんな原口沙輔の実力を存分に感じさせる傑作。まだまだ彼の活躍は続きそうです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

いきものがかり meets 2

数々のミュージシャンたちがいきものがかりの曲をカバーしたコラボレーションアルバムの第2弾。JUJUや礼賛、スキマスイッチ、原口沙輔、ねぐせ。といった若手からベテランまで、様々なミュージシャンたちがいきものがかりの曲をカバーしているほか、NHK BS「玉置浩二ショー」で披露された、玉置浩二といきものがかりのコラボ「帰りたくなったよ」、さらにいきものがかり本人たちにより、「ありがとう」をリメイク(本人たち曰く20%増し)した「超ありがとう」も収録されています。ただ、基本的にはいきものがかりの原曲に沿ったカバーとなっており、あまり目新しさはない反面、ファンにとっては安心して聴けるカバーアルバムといった感じに。ちなみにスキマスイッチの「じょいふる」では途中、2人が名古屋弁で会話するシーンがあったりして、個人的にはちょっとうれしかったりして。

評価:★★★★

日本武道館 LIVE 2026 kanekoayano/kanekoayano

Budokankanekoayano

カネコアヤノ率いるバンド、kanekoayanoが、今年1月15日に開催した初の日本武道館単独ライブの模様を収録したライブアルバム。カネコアヤノ名義の曲もkanekoayanoとしての曲も織り交ぜてのセットリストになっていますが、全体的にバンドアレンジにマッチさせて、よりダイナミックな演奏を聴かせてくれるライブアルバムに。カネコアヤノが、わざわざバンドを結成して演りたかった音が何なのか、ということがより明確になっているライブアルバムでした。

評価:★★★★★

カネコアヤノ 過去の作品
燦々
燦々 ひとりでに
よすが
タオルケットは穏やかな
カネコアヤノ 単独演奏会 2022 秋 - 9.26 関内ホール
タオルケットは穏やかな ひとりでに
よすが ひとりでに
カネコアヤノ Billboard Live ワンマンショー 2023 - 12.15 Billboard Live OSAKA
石の糸(kanekoayano)
石の糸 ひとりでに
LIVE 2025 kanekoayano(kanekoayano)

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2026年8月 9日 (日)

音楽で登山

Title:スーパー登山部
Musician:スーパー登山部

今回紹介するのは名古屋を拠点に活動し、現在、もっとも注目を集めているインディーポップバンドと言えるスーパー登山部。「登山部」という名前の通り、全員が実際に登山を行い、山小屋などでもライブを行うなど、その活動のユニークさでも注目を集めているようです。ただ一方、音楽性でも高い評価を受けており、特に本作に収録されている「燕」はかの蔦谷好位置が年間ベストとして選んだことでも話題となるなど、現在、高い注目を集めています。

そんな彼女たちの奏でる楽曲は、ソフトロックやシティポップ、フォークを基調とした爽快なポップチューン。そんな楽曲を歌うボーカルHinaの透明感あふれる声が大きな魅力となっています。前述の「燕」はピアノや軽快なドラムのリズムで爽やかなポップチューン。爽快感ある楽曲ともマッチするような前向きな希望に満ちた歌詞も特徴的。「意志拾い」は男女デゥオでフォーキーな作風となっていますし、「ITAI」ではピアノ中心にミディアムテンポで聴かせつつ、後半では美しい歌声で力強く歌い上げるスケール感あるナンバーになっています。

かと思えば「ハイライト」は疾走感あるバンドサウンドを聴かせる比較的ロック色の強いナンバーなどもあったり、TENDREが参加している「樹海」は、メロウなR&B風の曲になったり、さらに、終盤の「スーパー銭湯もある」では裏打ちのリズムで脱力感のある楽曲となったりとバラエティー豊富に展開。前述の通り、ソフトロックやシティポップ、フォークなどを軸につつつも、バラエティーある展開に、彼女たちの音楽性の広さを感じさせます。

さらにこのアルバムでユニークなのは、アルバム全体を通じて、音楽で登山を体験できるような構成になっている点でしょう。1曲目はオープニング的な「Departure」でスタート。続く「Breathe」で一息ついた後、山道でみかけた「燕」に元気をもらいながら、「頂き」にたどり着きます。ただ、「頂きと思って近付くと/道まだ続く」といっており、この登山はまだまだ続くことを感じさせます。

そして中盤には「ハイライト」と続き、「樹海」はもう帰り道でしょうか。ちょっと寒い季節のようで「木枯らし」に出会った後、山から下りた後は、まさに「スーパー銭湯もある」で疲れた身体を癒す、といった感じでしょう。最後は「風を辿る」でこの登山の総括といった感じ。楽曲的にも爽やかなソフトロックで、このアルバムを通じて感じるスーパー登山部らしさを体現化した曲となっています。

今回のアルバムは基本的に彼女たちがいままで発表してきた曲を収録した内容となっており、いままでの活動の集大成的なアルバムになっているそうです。どの曲も非常に爽やかなポップが並んでおり、まさに優しい木陰の下で、山頂に向かってピクニックしているような、そんな雰囲気を感じさせます。ここでも何度か紹介している鈴木実貴子ズといい彼女たちといい、名古屋では今、生きのいいインディーバンドが続々と出てきているようですね。地元ということでも応援したいところですが、それを差し引いても文句なしに注目したいバンドなのは間違いありません。本作も年間ベストクラスの傑作。これから、もっともっと注目が集まりそうな予感のする傑作でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

三者山羊/Chevon

最近、注目をあつめている3ピースバンドChevonのメジャーデビュー作。バンド名「Chevon」とは「成熟したヤギの肉」の意味だそうで、このバンド名といい、やけに「ヤギ」がらみが多いのはボーカルの名前が谷絹(ヤギヌ)茉優だからみたいです・・・。今回はじめて聴いたのですが、基本的にメランコリックなメロディーラインが特徴的。バンドサウンドはファンキーな曲やちょっとメタル入ったヘヴィーな曲までバラエティー富んでいる点はユニーク。和風な味付けをされた曲もあったりと、サウンドの面白さを感じます。ただ一方、メロディーラインについてはちょっと哀愁メロに頼りすぎで一本調子な部分も。ここらへん、今後の成長に期待したいところです。

評価:★★★★

1996 30th anniversary edition/坂本龍一

坂本龍一の過去の作品をピアノ、ヴァイオリン、チェロによるトリオ編成で再録音したコンピレーションアルバム。タイトル通り、1996年にリリースした作品で、リリース30周年を記念してリマスタリングが行われ、再発されました。2012年にアメリカでリマスター盤がリリースされ、その際、16曲目が坂本龍一本人の意向で「Bring them home」から「Self Portrait」に入れ替わっていますが、本作も基本的にそのリマスター盤に沿った内容となっています。

「Merry Christmas Mr.Lawrence」など、おなじみの楽曲も収録されたコンピ盤で、全面的にピアノとストリングスによるメランクリックでメロディアスな作品が特徴的。おそらく、坂本龍一を詳しく知らない人は、坂本龍一といったら、こういう作品かYMOの楽曲を思い起こしそうな感じなのですが、それはそうとして、やはり教授の書くメロディーラインは非常に美しくて魅力的。もちろん、文句なしの傑作アルバムと言えるでしょう。

評価:★★★★★

坂本龍一 過去の作品
out of noise
UTAU(大貫妙子&坂本龍一)
flumina(fennesz+sakamoto)
playing the piano usa 2010/korea 2011-ustream viewers selection-
THREE
Playing The Orchestra 2013
Year Book 2005-2014
The Best of 'Playing the Orchestra 2014'
Year Book 1971-1979
async
Year Book 1980-1984

ASYNC-REMODELS
Year Book 1985-1989
「天命の城」オリジナル・サウンドトラック
BTTB-20th Anniversary Edition-
BLACK MIRROR : SMITHEREENS ORIGINAL SOUND TRACK
Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020
12
サウンドトラック「怪物」
TRAVESIA RYUICHI SAKAMOTO CURATED BY INARRITU
The Best of Tohoku Youth Orchestra 2013~2023(東北ユースオーケストラと坂本龍一)
Opus
エナジー風呂(U-zhaan&Ryuichi Sakamoto feat. 環ROY×鎮座DOPENESS)

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2026年8月 3日 (月)

実力派3人によるバラエティー富んだ作品

Title:forgotten
Musician:冬にわかれて

ミュージシャン名が独特ながらも詩的な印象を受けるバンド、冬にわかれて。このバンドについては今回、はじめて知ったのですが、メンバーは寺尾紗穂、伊賀航、あだち麗三郎という、それぞれもソロでも活躍しているミュージシャンたち3人によるスーパーグループで、結成が2017年で、なにげにこれが既に4枚目となるアルバムだとか。冬にわかれてという名前も印象的ですが、こちらは詩人、尾崎翠の詩「冬にわかれて」の一節「冬にわかれて 私の春に住まなければならない」からとられているそうです。

サウンドはアコースティックな楽器がメインとなる構成で、楽曲も基本的にはフォークを基調とした作風。「冬にわかれて」というバンド名のイメージ通り、冬らしい静けさと、どこか寂寥感も覚えつつも、同時にアコースティックな楽器からどこか暖かみを感じさせるメロディーとサウンドが特徴的になっています。そして、そんなフォーキーな作風をベースとしながらも、楽曲によって顔をかえてくるようなバラエティーのある構成も大きな魅力となっていました。

まずオープニングに続く事実上の1曲目「夜半の火の子守歌」は、ちょっとくすんだ感じを醸し出す寺尾紗穂のボーカルも魅力的な、ムーディーでジャジーな作品からスタート。かと思えば、続く「ペパーミント・タイムス」は一転、エレクトロサウンドも用いた、アンビエント風のポップチューンに仕上がっています。さらにそれに続く「シーフー」では、異国への旅をテーマとした歌詞の曲となっており、サウンドもどこか異国情緒を感じさせるような作風に仕上げています。

その後も「東京レイン」はメロウなソウルチューン。個人的にはちょっとKIRINJIも彷彿とさせました。さらに「素粒子のダンス」はピアノやフルートのサウンドを爽快に聴かせる明るくメロウなポップチューン。そして楽曲はピアノでポップに爽快に聴かせる「君の旅」が終盤のハイライトとなり、最後はエレピで静かにジャニーに聴かせる「みらい」で締めくくられます。

そんな感じで全10曲38分という比較的短い長さの作風の中、様々にバラエティー富んだ作品が並ぶアルバムとなっています。これはやはり3人が3人とも、それぞれにソロでも活躍を続けるミュージシャンたちということで、その音楽性の広さがそのままバンドにも反映された、ということなのでしょう。また、それぞれの音楽性を制約することなく、好きなように活動を続けているからこそ、時として空中分解しがちなスーパーグループでありながらも、既に8年以上にわたり、4枚ものアルバムをリリースできたのかもしれません。

ただ一方ではアルバム全体を貫くような共通点もしっかりと感じられるアルバムとなっており、まずなによりも寺尾紗穂の暖かみのありつつ、感情のこもったボーカルが魅力的。また、全体的にアコースティックなサウンドが共通項となっており、どこかフォーキーな雰囲気が漂う点も、アルバム全体がバラバラにならずにまとまっている大きな要因でしょう。また、「ペパーミント・タイムス」や「君の旅」のような、どこか外へ旅立っていくような歌詞も目立ちますし、最後も「みらい」と先へ進んでいこうとするスタンスも感じられます。この点もアルバム全体に共通項を感じさせる部分でした。

そんな訳で、それぞれがソロで活躍するメンバーそれぞれがしっかりとその魅力を伝えて、バラエティー富んだ作風を聴かせてくれる傑作。決して派手な作品ではありませんが、ゆっくりと聴き入りたい、そんな作品となっていました。これからの夏の暑い時期でもしんみりと心に染み入ってくるような作品です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Crest/Anarchy

Crest_anarchy

Anarchyの10枚目となるアルバムは、KMが全曲プロデュースを手掛ける作品。PUNPEEやWatsonなどの豪華ゲストも参加しています。最近のAnarchyの傾向でもあるのですが、全体的にわかりやすさを感じる作品となっており、彼に求められる「下流社会のリアル」のようなテーマ性もわかりやすく綴られています。また、プロデューサーとしてKMが入ったことによって、メロウなサウンドやエレクトロビートなどを取り入れた、全体的に都会的に洗練されたサウンドになっている点も特徴的。Anarchyの描く「下流社会」というリリックと、KMによる都会的なサウンドが若干ミスマッチな感も否めなくはないのですが、全体的にはやはりAnarchyの世界観がしっかりと伝わる、いい意味で聴きやすさ、ポピュラリティーを感じさせる作品となっていました。

評価:★★★★

Anarchy 過去の作品
Dream and Drama
Diggin' Anarchy
DGKA(DIRTY GHETTO KING ANARCHY)
NEW YANKEE
BLKFLG
THE KING
NOISE CANCEL
LAST

Chunk of Red/ビレッジマンズストア

結成20周年イヤーにリリースされた7曲入りのミニアルバム。もう、そんなベテランの域に入るようなバンドなんだ・・・とちょっと驚かされますが、勢いのあるガレージロックに、感情を込めたシャウト気味のボーカルは、まだまだ若々しさを感じますし、それがまた彼らの魅力なのでしょう。この勢いあるガレージロックに、歌謡曲的な哀愁感あるメロという組み合わせは魅力的ですし、歌謡曲風でありつつも変にウェットすぎず、ベタになりすぎないというバランス感覚の良さも魅力的。ただ、以前から勢い1本の似たような曲が多いのも課題な感もあります。とはいえ、本作に関しては、7曲入り20分強という内容なだけに、そういうマイナス点が気にならないうちに一気に聴き切れる内容となっており、ビレッジマンズストアの魅力をしっかりと感じられる作品になっていました。

評価:★★★★★

ビレッジマンズストア 過去の作品
正しい夜明け
YOURS
愛とヘイト
re:Rec BEST『遊撃』

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2026年7月28日 (火)

あまりにも保守的な・・・。

Title:COVERS
Musician:徳永英明

昨年、はじめて徳永英明のライブに足を運んだのですが、その時に感じたのが「演歌のリサイタルみたい・・・」という印象でした。悪い意味で客の年齢層が高い・・・。彼と同世代のミュージシャンのライブは、それこそ最近でもTM NETWORKや米米CLUB、聖飢魔Ⅱなどのライブに足を運んでいるのですが、もうちょっと下の年齢層も見受けられるのですが、彼のライブは私以上の年代がほとんど。いや、彼の活躍時期を考えると、私よりも下の世代もいてもおかしくないのですが、ともすれば私より年上の、それも女性がほとんどで、そのため、まるで「演歌のリサイタル」みたいな印象を受けてしまいました。

ただ、そういう客の構成になってしまうのも正直ちょっと納得してしまうのも今回のアルバム。2000年代に「VOCALIST」シリーズが大ヒットを飛ばした彼ですが、今回のアルバムはその続編的なカバーアルバム。「『いちご白書』をもう一度」「飾りじゃないのよ涙は」「つぐない」など、数多くの名曲をカバーしています。

カバーの出来自体はもちろん悪くありません。名曲の数々が、徳永英明の、清涼感がありつつも独特の渋みのあるボーカルで感情たっぷりに歌い上げられています。基本的にしっかりと歌を大切にするようなカバーとなっており、独自のアレンジや解釈はなく、楽曲の持つ本来的な良さをしっかりと救い上げるカバーとなっています。選曲も「昭和の名曲」的な曲から、「JAM」「Story」といった、J-POP以降のヒット曲もカバーしています。

しかし、ここから感じられるのはあまりにもな保守性。なんか、完全に過去の名曲のカバーだけで食べていこうとしていないですか?ミュージシャンとしての歩みを完全に止めてしまい、過去のヒット曲だけで生きていこうとする、演歌歌手のような雰囲気を感じてしまい、そしてそれが前述の、彼のキャリアを考えるとあまりにも「狭い」客層につながっているようにも思います。

とはいえ、ちょっと意外だったのがカバーアルバムとしては「VOCALIST6」から11年ぶりという、久々のカバーアルバムだったという点。ただ、その間、カバーアルバムでのベストアルバムを4枚も(!)リリースしており、その結果、彼が「カバー曲を歌う歌手」というイメージを定着される結果になっていたと思います。一応、その間にオリジナルアルバムを2枚もリリースはしているのですが・・・。ただ、もうこうなっては、彼の過去の栄光と他の人のふんどしを借りる形でのカバーで生きていくしかないのかなぁ・・・とちょっと悲しくも感じてしまいカバーアルバムでした。

評価:★★★

Title:HIDEAKI TOKUNAGA Concert Tour 2025 ALL REQUEST
Musician:徳永英明

で、こちらは私も参加した昨年のライブツアーの模様を収録したライブアルバム。タイトル通り、ファンからのリクエストに基づいた選曲になっており、カバー曲を含む、彼の過去の代表曲を網羅したセットリストとなっています。ちなみに前述の「COVERS」では初回盤としてライブアルバム「HIDEAKI TOKUNAGA Concert Tour 2024 ALL BEST 3」がついているバージョンもあり、その音源も聴いたのですが、オールタイムベスト的なセットリストは前作も同様です。

セットリスト的には、変わり映えしない部分もあり、目新しさはないものの、ただ、ベスト的なセレクトということでやはり聴かせるものがあります。現在、65歳(!)という年齢でもほとんど衰えを感じさせない(というよりも、年齢を経て、渋みが強くなった)ボーカルは今でも魅力的。そういう意味で往年のファンにとっては、満足のいくライブアルバムになっていると思います。

また、彼の強みとして、過去に数多くのヒット曲を生み出してきたがゆえに、カバー曲と並べたとしても、彼のオリジナル曲が全く見劣りしない点。このライブアルバムでも「駅」「ハナミズキ」「愛の讃歌」といったカバーが収録されていますが、「レイニーブルー」「壊れかけのRadio」のような徳永英明のオリジナル曲と並べても、メロディーラインのインパクトや、なによりも楽曲の知名度を比べても全く遜色ありません。最近ではすっかり「カバー曲歌手」になってしまった感もある彼ですが(といってもオリジナルアルバムもちゃんとリリースしているですが)、オリジナルでもしっかり勝負できている点が、彼の大きな強みに感じました。

とはいえ、こちらも基本的に過去のヒット曲に頼っている感じが、やはりかなり保守的である点は否定はできません・・・。素直に楽しめるライブアルバムではあることは間違いないと思うのですが。

評価:★★★★

徳永英明 過去の作品
SINGLES BEST
SINGLES B-Side BEST

WE ALL
VOCALIST4
VOCALIST&BALLADE BEST
VOCALIST VINTAGE
STATEMENT
VOCALIST 6
ALL TIME BEST Presence
Concert Tour 2015 VOCALIST&SONGS 3 FINAL at ORIX THEATER
ALL TIME BEST VOCALIST
BATON
永遠の果てに~セルフカヴァー・ベストI~
太陽がいっぱいPlein Soleil~セルフカヴァー・ベストII/徳永英明
LOVE PERSON
Concert Tour 2023 ALL BEST 2


ほかに聴いたアルバム

Archive/三浦大知

三浦大知の楽曲を数多く手掛ける、音楽プロデューサーUTAが手掛けた楽曲のみを収録したコンピレーションアルバム。いかにも今時のR&Bな感じの売れ線ポップから、かなり挑戦的なエレクトロチューンまで、基本的には三浦大知の良さを生かしたメランコリックなメロに、エレクトロなサウンドを加えた楽曲がメインなのですが、同じR&Bという枠内でありつつも非常に幅広い音楽性を感じさせるコンピレーションアルバム。三浦大知とUTAの相性の良さを感じます。全41曲、かなりボリューミーな内容ですが、三浦大知とUTAの魅力を存分に感じられるアルバムでした。

評価:★★★★★

三浦大知 過去の作品
D.M.
The Entertainer
FEVER
HIT
BEST
球体
OVER
DAICHI MIURA ARENA LIVE 2024 OVER at 有明アリーナ(2024.3.24)

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2026年7月24日 (金)

「UMEツアー」で生まれた楽曲を収録

Title:梅 明和電機
Musician:明和電機

Umemeiwa

電気を使用しながら、アナログなスタイルで音を鳴らす奇妙な楽器を生み出し、それをもとにパフォーマンスを行っている芸術ユニット明和電機。今回紹介するのは、そんな明和電機が、実に24年ぶりにリリースしたニューアルバムです。今回のアルバムは、昨年行った47都道府県をすべて回るライブツアー「UMEツアー」で演奏された楽曲を集めた作品。タイトルの「梅」とは「松竹梅」の「梅」で、フルセットのバンドでのパフォーマンスを「松」、数人のメンバーでのライブを「竹」とカテゴライズした上で、明和電機の社長、1人だけでのパフォーマンスを「梅」とカテゴライズ。その1人のみで行われたライブツアーなので「UMEツアー」と名付けられ、今回のアルバムタイトルともなっています。

独特の楽器を用いたユニークなパフォーマンスが特徴的な明和電機ですが、明和電機の主眼はあくまでも独特な楽器。今回のアルバムでも、例えば「ゴムベースの歌」で用いられている楽器は「ゴムベース」と言って、太いゴムを鳴らしてベース音を出すというシンプルかつユニークな独自の楽器ですし、風船でピアニカを鳴らす自動ピアニカやチターを自動演奏するメカチターなど、ライブでは、電気で動くのを見ているだけでユニークな楽器でのパフォーマンスが大きな魅力となっています。

そのため、正直言ってしまえば、音楽的にはさほど特筆するほどの独自性があるわけではありません。あくまでも楽器演奏を楽しんでライブを盛り上げるための音楽であって、ある意味、音楽自体が明和電機の一番やりたいこと、ではありまえん。しかし、とはいってもここはミュージシャンとしても30年以上のあるキャリアのある明和電機。音楽自体も決して手を抜いている訳ではありませんし、むしろパフォーマンスを楽しむため、ちゃんと壺を抑えたような作品が並んでいます。

例えばアルバム冒頭を飾るのは、このライブツアーのテーマソングともなった「ジョリジョリジャーニー」ですが、47都道府県をすべて回るというツアーの雰囲気にピッタリマッチするような、ちょっとカントリー風のロードムービー風の作品になっていますし、前述の「ゴムベースの歌」も、ゴムベース1本で武道館を制覇した、という物語がバックにあり、ちゃんとスタジアムロック風の作品に仕上げています。「SUSHI BEAT」という寿司型のモジュールを元とした「スシスシパーティー」はテクノのダンスチューンを聴かせてくれます。

感情たっぷりの「白い乾電池」はしっかりと泣きのメロディーを聴かせてくれ、シンガーソングライターとしての実力をみせてくれますし、「ママミミモミモミ」は、「マ」と「ミ」と「モ」だけで歌詞を構成するという、ユニークかつアバンギャルドな作風となっており、こちらも音楽の側面でもキテレツな明和電機らしさを感じる作品となっています。

ただ、このアルバム、演奏しているのは前述の明和電機が独自に発明したユニークな楽器たち。どのように演奏されているのか、パフォーマンスとしては間違いなく楽しい楽器たちなのですが、音だけ単独で聴いていると、正直言ってしまって、チープでスカスカという面は否めません。もちろん、このチープさが明和電機のひとつの「味」であることは間違いなく、ファンにとってはそれも含めて楽しめるのは間違いないのですが、楽器自体の背景を知らないと、どうしてもスカスカな感じがあり、純粋に音だけで聴くとちょっと物足りなくなってしまう点は否めません。こればかりは仕方ないのかもしれませんが。

ちなみに本作は、現時点でストリーミング配信等は行われておらず、公式サイトの通販でのダウンロード販売もしくはライブ会場でのCDの販売のみとなっています。公式サイトの通販では、デモ音源や社長による同時解説の音源、さらにハイレゾ音源がついているバージョンもリリースされています。ただ、公式サイト通販で、「UMEツアー」の最終日、筑波での公演の模様を収録した映像も販売されているので、明和電機がはじめて、という方には、まずこちらの映像を見た方が、より明和電機の魅力を感じることが出来るかも。ちなみに、私はこちらの映像作品も購入。こちらの感想は明日アップする予定です!

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

PYRAMID/Novelbright

約2年ぶりとなるニューアルバム。彼ららしい爽やかでメランコリックなポップチューンが並ぶ一方、韓国のシンガーソングライターEric Namとコラボした「Everywhere I Go」のような、今時の洋楽のR&Bポップ風なナンバーがあったり、「Chasing blood」のようなダイナミックでヘヴィーなロックチューンがあったりと、彼らにしては挑戦心を感じさせるナンバーも見受けられます。ただ、これらの曲はどこかよそ行きというか、無理やり背伸びして演奏している感がいなめず、ちょっとチグハグさも感じます。まあ、今後、徐々にこういったいろいろなタイプの曲に挑戦し、自分たちのものに出来ればいいとは思うのですが。

評価:★★★★

Novelbright 過去の作品
WONDERLAND
開幕宣言
Assort
CIRCUS

CYCLE HIT PLAYLIST 2025→1991 Spitz Debut 35th Limited-time Edition/スピッツ

Cyclehitplaylist20251991

スピッツのデビュー35周年を記念して配信されたプレイリスト。スピッツの最新シングル「灯を護る」から、デビューシングル「ヒバリのこころ」まで、すべてのシングルをリリースとは逆順に並べられたプレイリストとなっており、来年の3月24日までの限定配信となっています。スピッツのシングルをこうやって並べて聴くと、最新シングルからデビュー時のシングルまで、いい意味でそのスタイルにあまり変化がないことい驚かされます。大いなるマンネリという部分も否めませんが、ただ、デビュー35年を経て、いまだに新鮮味を感じさせるスタイルに驚かされますし、それだけ長い期間、同じようなスタイルでも新鮮味を感じさせるのは、なんといってもメロディーラインの圧倒的な良さが要因でしょう。正直、最新シングル「灯を護る」も非常に魅力的なメロディーを聴かせてくれており、ともすれば90年代のシングルと並べても全く違和感がありません。全51曲約3時間半というボリューミーなプレイリストでしたが、それでも全く飽きさせない内容になっていました。

評価:★★★★★

スピッツ 過去の作品
さざなみCD
とげまる
おるたな
小さな生き物
醒めない
CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection
見っけ
花鳥風月+
ひみつスタジオ
劇場版 優しいスピッツ a secret session in Obihiro
空の飛び方 30th Anniversary Edition
新しい季節に聴きたいスピッツ
ハチミツ 30th Anniversary Edition

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2026年7月20日 (月)

先行き不安な世の中だからこそ。

Title:TAKE IT ROSY!
Musician:及川光博

通常、ミュージシャンの活動パターンというのは、まずアルバムとして新作を作り、その新作に関するツアーを行う。それが終わったら、新たなアルバムの制作にうつる・・・そういうパターンの繰り返し、というのがまずは王道のルーティンだったりします。ただ、その一方、まずはライブ活動ありきで、そのライブで、新作で盛り上がるためにアルバムをリリースする、というパターンのミュージシャンもいます。おそらくミッチーこそ及川光博は、完全に後者のパターンでしょう。アルバムは積極的にリリースしているのですが、いずれも「ライブで盛り上がるため」ということを意図した作品が続いています。

今回のアルバムはデビュー30周年を記念してリリースされた、約2年ぶりの新作。アルバムタイトル「Take It Rosy」はいうまでもなく「Take It Easy」(=気楽に行こう)のもじりなのですが、「物事をバラ色に捉えよう」「前向きに生きよう」という意味だとか。また、「戦争、経済不安、格差社会など、未来が不透明で、生きづらい時代だからこそ、”バラ色の未来”をイメージして、日々を笑顔で送ることの大切さを歌っている」と公式サイトでも紹介されており、彼らしい前向きのメッセージにあふれる作品に仕上がっています。

そんなアルバムの収録曲だからこそ、まさにライブで盛り上がりそうな、明るく前向きなポップチューンが並びます。ホーンセッションも入って、ミッチーらしい明るさにあふれた「スターダスト・カーニバル」も、まさに前向きな歌詞をあわせて、聴いていてウキウキ楽しくなってくる明るいポップチューンになっていますし、「デンジャラス・ビューティー」も彼らしい明るくポップでファンキーな楽曲に仕上がっています。

「心配性エレジー」は非常にユニークな歌詞も印象的。この手のユーモラスな歌詞をファンキーなリズムに乗せて歌うあたり、ある意味、ファンクの王道的なナンバーと言えるかもしれません。タイトル通り、心配性な人間の悩みを歌ったような曲なのですが、ただそれを明るい曲で歌い上げる点、ある意味、アルバムのテーマとも言える、世の中に対して必要以上に心配に抱え込むような人たちに対して笑い飛ばすような歌詞と言えるかもしれません。

作品的には、全体的にミッチーらしいファンクの要素を入れてリズミカルにまとめあげた明るいポップチューンが並びます。一方で、エレクトロサウンドを入れて、80年代風な雰囲気を醸し出す「FAKE IN LOVE」やビートロック風の「明日も。」といった曲もあり、全体的にバラエティーも。ただ、アルバムとしては新しいことに挑戦した、というよりも、ミッチーらしい明るいライブ向けのポップチューンを並べたような作品になっています。

正直、アルバムとしては1曲目、9曲目が事実上のイントロ、アウトロとなっており、事実上、7曲入りというミニアルバムレベルの作品。約2年ぶりのアルバムが7曲入りというあたり、ちょっと物足りなさも感じてしまいますが、ライブを前にして、ライブで盛り上がる新曲を作り出したという感もあるのでしょう。ライブでは盛り上がりそうな曲が並んでいました。

そんな訳で、まさにライブのために作られた感もある1枚。また、前向きに進もうというメッセージも、ある意味、ミッチーなりの社会性を持ったコンセプトも印象的な作品となっています。ただ、そんなこと抜きに、純粋に楽しいポップチューンで盛り上がりそう。ミッチーのライブも久しぶりに行きたいなぁ、と思いつつ・・・。とりあえずは彼のライブの楽しさを思い描ける新作でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

TM NETWORK TOUR 2025 YONMARU+01 -LIVE-/TM NETWORK

Yonmaru01

昨年10月から続いていた、7ヶ月連続でサブスク解禁されてたTM NETWORKのライブアルバムの最終作。昨年3月から4月にかけて行われた「YONMARU+01」の模様を収録した作品。40周年記念のライブシリーズのラストを飾るツアーだったようですが、ただ昔の作品は少なく、それぞれの曲についてもかなりアレンジをほどこされた内容となっています。ある意味、これはこれで彼らが現役のミュージシャンだ、というアピールにも感じるのですが、一方でやはり全盛期の80年代90年代の曲を期待していた向きからすると、ちょっと物足りなさも感じてしまうアルバム。最後の締めくくりとしてはちょっと不完全燃焼感もあります。まあ、あくまでも現在進行形のミュージシャンにとっての「通過点」に過ぎない、という見方も出来るのかもしれませんが。

評価:★★★★

TM NETWORK 過去の作品
SPEEDWAY
TM NETWORK THE SINGLES 1
TM NETWORK THE SINGLES 2
TM NETWORK ORIGINAL SINGLES 1984-1999
DRESS2
QUIT30
GET WILD SONG MAFIA
GET WILD 30th Anniversary Collection - avex Edition
Gift from Fanks T
Gift from Fanks M
LIVE HISTORIA T 〜TM NETWORK Live Sound Collection 1984-2015〜
LIVE HISTORIA M〜TM NETWORK Live Sound Collection 1984-2015〜
DEVOTION
40+ ~Thanks to CITY HUNTER~
How Do You Crash It?
TM NETWORK TOUR 2022"FANKS intelligence Days"at PIA ARENA MM-LIVE-
TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days~DEVOTION~-LIVE-
TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days 〜STAND 3 FINAL〜
TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days~YONMARU~-LIVE-
TM NETWORK 2024 intelligence Days FANKS inside -LIVE-

Awesome City Club BEST Ⅱ/Awesome City Club

昨年、デビュー10周年を迎えた彼らですが、2026年で活動休止を宣言した彼ら。本作は、その10年間の歩みをまとめた集大成的なベストアルバム。もちろん大ヒットした「勿忘」も収録されています。全体的にはメロウな歌を聴かせる爽やかなポップチューンが並ぶ作品。この10年間の作品を並べて聴いてみると、彼らの大きな魅力は、2人の男女ツインボーカル。atagiとPORINの2人のボーカルが上手く絡みあい、楽曲の魅力を高め、また楽曲を個性的なものとしています。たった10年で活動休止というのはちょっと残念ですが・・・今後のメンバーのソロでの活躍に期待しましょう。

評価:★★★★★

Awesome City Club 過去の作品
Awesome City Club BEST
Torso
Catch The One
Grow apart
Grower
Get Set
Cheers to 10!!

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2026年7月14日 (火)

50年かけてつくったアルバム

Title:1976
Musician:奇妙礼太郎

先日の「森、道、広場」で久しぶりに奇妙礼太郎のライブを見てきました。海をバックにしたステージでのライブで、海辺という雰囲気にもピッタリとするアコースティック主体で、いい意味での脱力感のあるほんわかとしたステージに魅了されてきました。その後見た、坂本美雨のステージにもゲストとして参加し、そちらでも肩の力の抜けたボーカルを聴かせてくれていました。

そんな彼の最新作「1976」。この数字は彼の生年である1976年に由来しているとか。今年は彼にとって50歳という節目の年であり、さらに7月3日には、なんと自身初となる日本武道館での単独ライブも行われるなど、まさに彼にとって区切りの年とも言える今年。このアルバムも自身が「たぶん50年かけて作りました。」とコメントしており、いままでの彼の集大成とも言える作品になっています。

ただ、そんな集大成的なアルバムですが、それゆえに非常にシンプルに「歌」を聴かせるアルバムになっていました。CMのタイアップ曲にもなっている「元気でやってるか」は、まさにタイトル通り、ピアノやホーンが祝祭色を感じる明るく歌い上げるポップチューン。TBS系ドラマ「終のひと」の主題歌にも起用された「愛がすべてのこと」も、ピアノやホーンでメロウにソウルに聴かせるナンバーですが、こちらもどこか明るさを感じさせる「歌」を主軸とした作品になっています。

その後もフォークやソウル、ジャズ、ブルースなどの要素を取り入れ、音楽的な素養の高さを感じさせつつ、基本的にはあくまでも「歌」を聴かせるシンプルな作風に終始しています。しんみりフォーキーに聴かせる「silvers」やブルージーでムーディーな「Budda Beat Clubへようこそ」、バンドサウンドをバックに力強く歌い上げる「陽炎」、最後はジャジーなピアノを入れて力強く歌い上げる「わたしのうた」はタイトル通りに自らを見つめなおし、そして肯定するという、明るく前向きな精神を感じさせるナンバーで締めくくり。まさに50年の集大成にふさわしい締めくくりと言えるでしょう。

さらに今回のアルバムの特徴としてはカバー曲が多く収録されている点。アルバム冒頭から「オー・シャンゼリゼ」からはじまりますし、さらに「愛の讃歌」、さらに「いとしのエリー」のカバーにも挑戦しています。選曲に関してはお決まりのナンバーといった感じで、ある意味、非常にベタな感じもするのですが、これらのカバーはカバーで、奇妙礼太郎のボーカリストとしての魅力を強く感じる仕上がりとなっています。「オー・シャンゼリゼ」はどこか脱力感ある気の置けないボーカルが彼らしいですし、「愛の讃歌」はシャンソンの名曲を力強く歌い上げ、ボーカリストとしての力量を感じさせるカバーに。「いとしのエリー」も、彼らしい素朴なボーカルにより、サザンの原曲とはまた異なる魅力を感じさせるカバーに仕上がっていました。

奇妙礼太郎というと、アニメーションズ、天才バンド、奇妙礼太郎トラベルスイング楽団と、数々のバンドやグループのボーカルとして曲を発表してきましたが、50年の区切りの年に、やはりソロの、奇妙礼太郎という生身のひとりの人間としての、「歌」にスポットをあてたアルバムをリリースしているあたり、このシンプルな「歌」こそが彼の原点である、ということを主張しているようにも感じました。そして今回のアルバムに関しては、そんな奇妙礼太郎のシンガーソングライター、そして「歌手」としての魅力を存分に感じられる作品になっていたように感じます。決して派手ではありませんし、挑戦的でもありません。以前の彼の作品でよく見られた、エロをテーマとした飛び道具的な作品もありません。あくまえでも「歌」に向き合った1枚。シンプルがゆえに聴きごたえある作品でした。

評価:★★★★★

奇妙礼太郎 過去の作品
More Music
ハミングバード
たまらない予感
奇妙礼太郎
オールウェイズ


ほかに聴いたアルバム

Éclore/GLIM SPANKY

ベスト盤リリースを経てリリースされたGLIM SPANKYの新作は、いままでよりもグッとポップでメロディアスな色合いが増えた作品に。もともとGLIM SPANKYといえばゴリゴリのルーツ志向の楽曲が魅力的な一方、ちょっと中途半端にJ-POP寄りといった印象も受けたのですが、今回のアルバムに関しては、「春色ベイビーブルー」のようなポップ色が強い作品もあり、その点にもっと振り切れたように感じます。もちろん、いままでの通り、ルーツ志向の強い作品もあり、また、ボーカル松尾レミのスモーキーなボーカルを生かしたスタイルも相変わらず。ベスト盤リリース後、新たな一歩を踏み出した感のある新作。この方向性が今後、さらなるケミストリーを生み出すのか・・・注目したいところです。

評価:★★★★

GLIM SPANKY 過去の作品
ワイルド・サイドを行け
Next One
I STAND ALONE
BIZARRE CARNIVAL
LOOKING FOR THE MAGIC
Walking On Fire
Into The Time Hole
The Goldmine
All the Greatest Dudes

Excuse Error/WANIMA

WANIMAの新作は、7曲入りのミニアルバム。WANIMAといえば、いわゆる陽キャの典型みたいな形でネットミーム的に写真が使われたりもするのですが、今回のアルバムでは内省的な歌詞も覗かせ、単なる明るいだけの彼らではない姿を垣間見せる楽曲も。ただ、とはいえ全体的には彼ららしいメロディアスパンクの曲がメインとなっており、パッと聴いた感じだけだと、いつものWANIMAらしさが継続されています。ただ、そんな中で新たな歩みも感じさせる作品となっており、今後の展開も気になってくる、そんな1枚でした。

評価:★★★★

WANIMA 過去の作品
Are You Coming?
Everybody!!
COMINATCHA!!
Cheddar Flavor
Fresh Cheese Delivery
愛彌々(MONGOL800×WANIMA)
Catch Up
愛彌々2(MOGOL800×WANIMA)
Sorry Not Sorry

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