アルバムレビュー(邦楽)2025年

2025年2月14日 (金)

多彩なゲスト陣を迎えた結成10周年後の新作

Title:Shades of
Musician:WONK

デビュー当初より、高い音楽性に裏打ちされたクオリティー高い楽曲が各所で評判を呼んでいたエクスペリメンタル・ソウルバンドWONK。2023年に結成10周年を迎えた彼らが、新たな一歩を踏み出しリリースしたニューアルバム。今回は公式サイトによると「自らの音楽的ルーツを見つめ直し、音楽史に名を残してきたソウルやヒップホップ界のレジェンド、そして、これからの音楽史に名を残すであろう面々と」作り上げたアルバムだそうで、数多くゲスト勢の参加が特徴となっています。

まず今回もまた、非常にクオリティーの高い楽曲がズラリと揃っている点も大きな魅力。まずアルバムは、「Fragments」でのピアノの静かな弾き語りからスタート。メランコリックなメロディーラインも耳を惹きますが、後半に至って、徐々にゴスペルライクなコーラスが加わり荘厳感を覚える曲調も大きな魅力に。続く「Essence」も、ピアノとストリングスのサウンドが美しく聴かせるメランコリックな歌が耳に残るナンバーと、清涼感と哀愁感を同居された美しいサウンドとメロが耳を惹く楽曲からスタートします。

その後も、メロウでジャジーな「Fleeting Fantasy」、荘厳なオペラ調なサウンドからハードコアなラップが登場するダイナミックな展開が耳を惹く「Here I Am」、哀愁感たっぷりのメロをたっぷり聴かせる先行シングル曲の「Passione」、郷愁感を覚えるサウンドが特徴的な「Endless Gray」など、メランコリックでメロウなメロディーラインを軸に、バラエティー富んだ楽曲を聴かせてくれています。

一方、冒頭に書いたように、多彩なゲスト勢も魅力的で、おそらくもっとも耳を惹くのが「Life Like This」。メロウなソウルナンバーですが、そのボーカルから一発で久保田利伸とわかるのはさすが。他にも「Skyward」では韓国のラッパー、BewhYが参加していますが、ちょっと耳慣れない韓国語のラップが大きなインパクトに。ラストを締めくくる「One Voice」ではJ Dilaも所属していたラップグループSlum VillageのT3に、デトロイトのトラックメイカーK-Naturalが参加。こちらもピアノとストリングスを軸とした美しくもメロウなトラックと、力強いラップが大きな魅力になっています。

そんな訳でゲストミュージシャンを加えた多彩な音楽性で、非常にクオリティーの高いポップミュージックを聴かせてくれたWONK。ただ、ちょっと気になるのは、クオリティーが高いのは間違いないのですが、全体的にちょっと優等生っぽすぎるかな、とも感じたのも事実。楽曲的に目新しさもあまりありませんでしたし、耳にこびりついて離れないようなポップなメロもなく、無難にまとめ上げている面は否めないとも感じてしまいました。

とはいえ、この点を差し引いても十分に傑作と言えるアルバムに間違いないでしょう。そんな部分も含めて非常に良くできたポップアルバムに仕上がっていたと思います。結成10年を迎えて、新たな一歩を踏み出した彼ら。今後の彼らにも期待できそうです。

評価:★★★★★

WONK 過去の作品
BINARY(WONK×THE LOVE EXPERIMENT)
Moon Dance
EYES
artless


ほかに聴いたアルバム

Pearl/ゴスペラーズ

ゴスペラーズがメジャーデビュー30周年を記念してリリースした5曲入りのEP。全曲、メンバー自ら作詞作曲を手掛けた曲が並び、この30年とこれからの未来に対するメッセージがつまった作品に。昨年リリースしたEP「HERE&NOW」は全曲、他のミュージシャンが作詞作曲を手掛けた曲でしたので、それと対照的な構成となっています。また、ラストは「ひとり」のカップリング曲でファンからの人気も高い「東京スヰート」をビックバンド風にアレンジした「東京スヰート 2024」も収録。そんなアルバムであるため、楽曲は基本的には実にゴスペラーズらしい、王道なナンバーと仕上がっています。その点、目新しさのようなものはないのですが、30周年のメッセージを込めたEPだからこそ、あえて王道を行く楽曲を収録したのでしょう。30周年を区切りに新たな歩みをはじめるゴスペラーズ。これからの彼らの活躍にも注目したいところです。

評価:★★★★

ゴスペラーズ 過去の作品
The Gospellers Works
Hurray!
Love Notes II
STEP FOR FIVE
ハモ騒動~The Gospellers Covers~
The Gospellers Now
G20
Soul Renaissance
What The World Needs Now
G25 -Beautiful Harmony-
アカペラ2
The Gospellers Works 2
HERE&NOW

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2025年2月10日 (月)

平均年齢67歳!

Title:Sustainable Banquet
Musician:吾妻光良&The Swinging Boppers

日本を代表するジャンプ・ブルースバンド、吾妻光良&The Swinging Boppersの約5年半ぶりのニューアルバム。結成45周年、バンドメンバーの平均年齢が67歳という高齢者バンドの彼ら。メンバーは基本的に他の仕事と兼業している「アマチュアバンド」であるというのも大きな特徴(ただ、吾妻光良は既に会社を定年退職しているようですし、他のメンバーも年齢的にそろそろ退職の時期だと思うのですが・・・)。ある意味、日本でもっとも有名な「アマチュアバンド」かもしれません。

総勢12名、ホーンセッションやピアノもメンバーに加わり、非常に賑やかな彼ら。以前から非常に明るいジャンプブルースやスウィングジャズの楽曲を聴かせてくれるのですが、今回は特に終始明るくハッピーなナンバーが並んでいました。タイトル通り、みんなであつまって明るい宴会風景をそのまま描いたような「打ち上げで待ってるぜ」からスタートし(「ドロン」なんていう、いかにも還暦世代らしい死語も登場したり・・・)、軽快でコミカルながらもシニカルな歌詞も印象的な「俺のカネどこ行った?」、ラストを締めくくる「BIG BUG BOOGIE」も非常に楽しいブギウギのナンバーで締めくくられています。

今回はゲスト勢も目立ち、軽快な「Boogie-Oogie」ではEGO-WRAPPIN'が参加。中納良恵が力強いボーカルを聴かせてくれていますし、ナット・キング・コールの「L-O-V-E」のカバーでは、Leyonaが参加し、爽やかなボーカルで軽快で歌い上げています。

基本的に聴いていて純粋に楽しい、ウキウキするようなJUMP&JIVEの曲が並んでいるのが大きな特徴。平均年齢67歳という年齢を感じさせない力強く、軽快で明るいサウンドが非常に魅力的となっています。ただ、一方、前作と同様、気になるのが歌詞の世界で、年をとった自分たち、今の時代についていけなくなった自分たちを自嘲的につづっています。私自身ももうアラフィフ世代に入ってきており、決して若くないのですが、歌詞にはちょっと違和感を覚えます。なにが違和感なのかなぁ・・・と思ったのですが、自分たちの価値観を自嘲的に描いたように見せつつも、実はどこか今の文化・風潮を下に見ている部分が垣間見れる「老害」的な部分を感じてしまうからのように感じます。

ただ、この点について、前作「Scheduled by the Budget」ではHIP HOPを偏見混じりに取り入れたりして、かなり嫌悪感を覚える部分もあったのですが、今回に関しては、そこまでの嫌悪感はありません。楽曲自体の楽しさがしっかりと先に立った感じがあり、ちょっと違和感がある部分はありつつも、楽曲自体の楽しさをさほど歪めるものにはなっていません。

とはいえ1点だけちょっと気になったのは前述の「俺のカネどこ行った?」で、いろいろとお金を取られて辛い・・・といった歌詞なんですが・・・ただ、吾妻光良って、日本テレビの執行役員まで務めて、子会社の社長まで歴任した、サラリーマンとして列記としたエリートなんですよね・・・正直、その経歴を考えると「お金がない」的な歌詞はちょっと違和感を覚えてしまいました。

そんな部分はありつつも、概ね、非常に楽しめるJUMP&JIVEの楽曲を聴かせてくれていたと思います。平均年齢67歳ですが、年齢的な衰えは全くなく、これからもまだまだ元気な活動が続きそうです。心の底から陽気で楽しい音楽が流れてきたアルバムでした。

評価:★★★★

吾妻光良&The Swinging Boppers 過去の作品
Scheduled by the Budget


ほかに聴いたアルバム

901号室のおばけ/柴田淳

しばじゅんの約4年ぶりとなるニューアルバム。彼女らしい切ないラブソング「綺麗なままで」からはじまり、非常に怖い歌詞がインパクトの「〇〇ちゃん」や、歌謡曲風の「透明な私」など、それなりにバリエーションを出しつつ、ピアノとストリングス主体のサウンドでしんみりメランコリックに聴かせるスタイルはいつもと同様。楽曲として安定感はあるものの、一方で、全体的に無難な感じは否めず、インパクトは薄めか。いい意味で安心して楽しめる彼女らしいアルバムではあるのですが。

評価:★★★★

柴田淳 過去の作品
親愛なる君へ
ゴーストライター
僕たちの未来
COVER 70's
あなたと見た夢 君のいない朝
Billborda Live 2013
The Early Days Selection
バビルサの牙
All Time Request BEST~しばづくし~
私は幸せ
プライニクル
おはこ
蓮の花がひらく時
20th Anniversary Favorites:As Selected By Her Fans

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2025年2月 7日 (金)

プロフェッショナリズムを感じさせる偉大なギタリストのコンピ盤

Title:VINTAGE VIOLENCE~鮎川 誠GUITAR WORKS
Musician:鮎川誠

2023年に74歳でこの世を去ったギタリストの鮎川誠。ご存じシーナ&ザ・ロケッツやサンハウスのメンバーとして活躍し、日本のロックシーンを代表するギタリストとして多くのミュージシャンから敬愛されてきた彼。そのため、様々なミュージシャンとのコラボを行い、ギタリストとしても参加してきたのですが、今回は彼が主にギタリストとして参加してきた楽曲をまとめた、サブタイトル通り、彼のワーク集となります。

コラボ、という話をすると彼のギターがコラボとして向くのかどうか、と言われると微妙な部分があって、鮎川誠のギターは、間違いなく目立ちます。彼のギターは、ブラック・ビューティーという愛称を付けられたギブソン・レスポール・カスタムで、そこから紡ぎだされるサウンドは、ブルースやブリティッシュロックに強い影響を受けたガレージサウンドが特徴的。決して派手なギタープレイを聴かせる訳ではないものの、力強いヘヴィーなサウンドと、絶妙なグルーヴ感が強い魅力となっており、どんな楽曲の中でもしっかりと主張してくるため、曲によっては必ずしもマッチしない場合もあるかもしれません。

それでもこのワーク集では、思った以上に様々なタイプの楽曲と、鮎川誠のギターサウンドがコラボしています。自身のバンド、サンハウスやシーナ&ザ・ロケッツ、また鮎川誠ソロ名義の作品も多いのですが、一方でYMOによるビートルズのカバー曲「Day Tripper」や、高橋幸宏の「Murder By The Music」にも参加。鮎川誠のギターのタイプとはちょっと異なりそうなニューウェーヴの楽曲の中で、しっかりそのギタープレイを主張しながらも、楽曲の中に上手く溶け込ませています。

泉谷しげるの「火の鳥」とのコラボもユニーク。かなりハードロック寄りの楽曲で、力強い泉谷しげるのシャウトに、これでもかというほどの鮎川誠のギタープレイも印象的。コラボの中でもあまり抑制されず、好き勝手に弾きまくっているのが爽快な感じ。ジャズピアニストの佐山雅弘とのコラボ「From Dusk Till Dawn」も印象的で、こちらは軽快なピアノと繰り広げられるブルースのインストナンバーに。シンプルながらもしっかりと主張してくるブルージーな鮎川誠のアコースティックギターが強い印象に残ります。

印象に残るコラボといえば、イジワルケイオールスターズ「Say Good Bye (赤バージョン)」でしょう。アニメから派生されたユニットのようですが、甲本ヒロトやチバユウスケ、さらにルースターズのメンバーから、黒夢の清春、プリプリの中山加奈子、さらには元光GENJIの諸星和己まで参加している、よくこれだけ揃えたな・・・と今から考えると、かなり豪華なユニットの中に参加。ここでも鮎川誠のギターが、しっかりと主張しています。

さらに異色なのが原由子の「ヨコハマ・モガ」で、桑田佳祐らしいムーディーな昭和歌謡曲なのですが、ここではギターだけではなく、なんとボーカルで参加。原由子とムーディーなデゥオを繰り広げられています。

これらのコラボで感じるのは、独特で主張の強いギタープレイと反して、その参加している楽曲については、かなりの柔軟性を感じさせるという点。ある意味、彼のギターが楽曲の中でしっかりと組み込まれるのであれば、どんな楽曲であろうと全力で参加するという、彼のプロフェッショナルな精神性も感じられます。

もちろん、彼自身のバンドや鮎川誠ソロ作で、彼が嗜好する楽曲も存分に味わえる本作。あらためて鮎川誠が意外なギタリストであったことを実感できるコンピレーションアルバムでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

CITRUS CURIO CITY/フレデリック

フレデリックの最新作は全8曲入りのミニアルバム。以前からメランコリックなメロとリズミカルでダンサナブルなリズムの組み合わせはインパクトはあるものの、似た曲が多い、という弱点のあった彼ら。今回のミニアルバムも確かに似たタイプの曲は多い反面、ギターサウンドを前に押し出した曲がメインながらも、「Hapiness」のようなシンセを前に押し出した曲や「hitotoki no raspberry」みたいにファンキーさを前に出してきた曲など、それなりにバリエーションを付ける点にもチャレンジしている感も。ただ、その分、インパクトの面では前作より弱かった印象も。

評価:★★★★

フレデリック 過去の作品
フレデリズム
TOGENKYO
フレデリズム2
ASOVIVA
ANSWER(フレデリック×須田景凪)
フレデリズム3
優游涵泳回遊録

GOOD DAY/ハナレグミ

約3年半ぶりのリリースとなるハナレグミの9枚目のオリジナルアルバム。いつもと同様、日常風景を描いた、ほっこりと暖かい雰囲気のポップスが魅力的。基本的にはアコースティックベースのサウンドがメインなのですが、途中からバンドサウンドも入り、スケール感もある「Wide Eyed World」やエレピが入って軽快な「会いにいこう」のような曲も。ただ、前作同様、全体的にほっこりと暖かい雰囲気ながらもインパクト不足が気になるところ。ちょっと無難すぎるという印象も・・・。

評価:★★★★

ハナレグミ 過去の作品
あいのわ
オアシス
だれそかれそ
どこまでいくの実況録音145分(ハナレグミ,So many tears)
What are you looking for
SHINJITERU
Live What are you looking for
発光帯

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2025年1月31日 (金)

相手の色もしっかり出したコラボアルバム

Title:HATA EXPO-The Collaboration Album-
Musician:秦基博

シンガーソングライター秦基博の新作は、サブタイトル通りのコラボレーションアルバム。今回のコラボレーションアルバムのために収録した作品6曲に、既発表曲の4曲の全10曲入りとなるアルバム。秦基博が影響を受けたり、縁があったりする様々なミュージシャンとのコラボとなっています。

やはりまずは耳を惹くのはアルバムの冒頭を飾るスピッツの草野マサムネとのコラボ曲「ringo」。昔から敬愛していたミュージシャンだったそうで、草野マサムネが他のミュージシャンと楽曲を共作するのは本作が初だそうです。力強いギターサウンドを目立つロックなアレンジながらも、秦基博らしさも草野マサムネらしさも感じさせる爽やかでポップなメロディーラインが魅力的な楽曲となっています。

この曲もそうなのですが、今回のコラボ曲、いずれもコラボ先のミュージシャンの特徴を生かしたようなコラボが多かったように感じます。続くsumikaの「ハローサーリアル」もホーンセッションやピアノが入った、sumikaらしい祝祭色のある楽曲。リサ・ローブとのコラボとなった「Into the Blue」も、楽曲としてはリサ・ローブに寄せた、英語詞で爽快なアコースティックテイストの洋楽テイストの強いポップス。ハナレグミとのコラボの「No Where Now Here」も、ハナレグミらしい日常を描いた暖かいポップソングに仕上がっています。

ちょっと異色だったのが又吉直樹の「ひとり言」で、こちらは又吉直樹の朗読と秦基博の歌という組み合わせのユニークなコラボに。ただ、又吉って最近、本職のお笑いとして活動しているんでしょうか・・・?

そして今回のコラボアルバムを聴いて思ったのは、秦基博というミュージシャンは、ある意味、非常にコラボしやすいミュージシャンではないか、という点でした。シンガーソングライターとしての実力、シンガーとして暖かみのある声質などもコラボ相手としては最適ですし、また、ひとつ大きな要素だと思うのは、ミュージシャンとしてあまり癖が強くない、という点。秦基博というミュージシャンは楽曲もシンプルなポップですし、声にしても、万人受けするような声であってあまり癖がありません。

この点はシンガーソングライターとして強みでもあるし、ある意味、弱点とも言えるかもしれませんが、ことコラボという点においては、特に相手にとっては非常にやりやすい。ほどよくコラボ相手のカラーをつけつつ、シンガーソングライターとしての実力から、秦基博としての要素もしっかりと入れられる、そんな理想的なコラボに仕上がる感じがあります。それだからこそ、こういったコラボアルバムが出来上がるのですし、また数多くのミュージシャンとのコラボを行っているのでしょう。

そして、今回のコラボアルバムの最後を締めるのは、先日もKANのベストアルバムで紹介したばかりのKANとのコラボ曲「カサナルキセキ」。この曲のすごさについては先日、ここに記載したばかりなので繰り返しませんが、このコラボアルバムの最後を締めくくるにふさわしい、まさにこれぞコラボレーションといった作品となっています。

ちなみに今回、既発表曲はこの「カサナルキセキ」を含めて4曲のみだったのですが、その他にも秦基博はいろいろなミュージシャンとのコラボを行っています。どうせなら、これらのコラボ曲を集めて、コラボベストを企画してほしいような・・・。参加ミュージシャンのファンや秦基博のファンはもちろんのこと、広いリスナー層におすすめできそうなアルバムでした。

評価:★★★★★

秦基博 過去の作品
コントラスト
ALRIGHT
BEST OF GREEN MIND '09
Documentary
Signed POP
ひとみみぼれ
evergreen
青の光景
All Time Best ハタモトヒロ
コペルニクス
evergreen2
BEST OF GREEN MIND 2021
Paint Like a Child

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2025年1月27日 (月)

全日本人必聴のポップスアルバム!

Title:IDEASⅢ~the very best of KAN~
Musician:KAN

2023年11月に、61歳という若さでこの世を去ってしまったシンガーソングライターのKAN。彼の死から、早いものでもう1年が経過しましたが、ここに来て、KANのベストアルバムがリリースされました。2007年にリリースされたベストアルバム「IDEAS the very best of KAN」の続編的なアルバムで、2枚組となっており、Disc1は「IDEAS」がそのまま収録。Disc2は「IDEAS」リリース以降の楽曲が収録された内容となっています。

このサイトではいろいろな形でKANがいかに優れたシンガーソングライターであるか、紹介してきましたので、いまさら言うまでもないかもしれません。ただ、このベスト盤の紹介を借りて、あらためてKANのすばらしさを改めて語るとしたら、ビリー・ジョエルやポール・マッカートニーのような洋楽の要素を楽曲にふんだんに取り込みながらも、彼なりの味付けを行い、しっかりと誰もが楽しめるエンタテイメントとしてのポップソングにまとめあげている、そこが大きな魅力であり、また彼のシンガーソングライターとしての実力を強く感じさせます。「愛は勝つ」のイメージが強く、同作がいかにもJ-POP的な「人生の応援歌」的な歌詞となってしまっていたため、ともすればJ-POPの枠組みでとらえられがちな彼ですが、楽曲の影響としては、あまり邦楽や歌謡曲からの影響は感じられません。しかし、いかにも洋楽の影響を前面に押し出したような、ともすればスノッブ的な要素は皆無。洋楽ポップスの要素を実に自然体に、日本語ポップの世界に取り入れている彼の実力は、もっともっと評価されてもいいのではないでしょうか。今回のベスト盤であらためて彼のすごさを感じました。

ただ、名曲があまりにも多いKANの楽曲の中で、正直、「IDEAS」のセレクトは物足りなすぎます!個人的に、彼の最高傑作とも思っている「REGRETS」も、KANの私的ベストソングである「ときどき雲と話をしよう」も入っていませんし、ライブの定番である「Oxanne-愛しのオクサーヌ-」も未収録ですし、「1989 (A Ballade of Bobby & Olivia) 」も「けやき通りがいろづく頃」も「秋、多摩川にて」も入っていません。まあ、それだけ名曲が多い、ということなのですが・・・。

とはいえ、「IDEAS」の収録曲を眺めると、様々なバリエーションのあるKANの楽曲を、タイプ毎に代表的な曲を取り上げて、ほどよくバランスを取ったセレクトであるとも感じます。ビリー・ジョエル直系のピアノポップ「Songwriter」に、ポール・マッカートニー直系の「サンクト・ペテルブルグ -ダジャレ男の悲しきひとり旅-」、しっかり聴かせるバラードナンバー「星屑の帰り道」に、コミカルな「猿と犬のサルサ」。ほっこりと暖かい「カレーライス」に、素朴なラブソングの「まゆみ」、そして片思いの歌詞が切ない「言えずのI LOVE YOU」に、おなじみの「愛は勝つ」・・・彼のいろいろなタイプの曲がバランスよく選曲されており、KANがどういうミュージシャンなのか、よくわかる魅力的な内容になっていました。

今回、追加収録となった「Disc2」の方は、「IDEAS」リリース後の楽曲なのですが、その後リリースされたアルバムが3枚だけだったため、基本的にはシングル曲を中心のセレクトに。むしろこちらでは、KANが別プロジェクトで録音し、アルバム未収録となっていた楽曲がメインとなっています。現在では入手不可能となっている木村和名義での弾き語りアルバム「何の変哲もないLove Songs」から「何の変哲もない Love song」「雪風」、ジョンB、菅原龍平、ヨースケ@HOMEと組んだCabrellsから「Chu Chu Chu」、シンガーソングライターのKとのユニットK-KANの「赤字のタンゴ」、山崎まさよしとのユニット、YAMA-KAN「記憶にございません」と、KANの積極的な活動が見て取れます。

そんな中でも特筆すべきはアルバムの最後に収録されている秦基博とのコラボ曲「カサナルキセキ」でしょう。こちら、KANが「キセキ」のタイトルで、秦基博が「カサナル」のタイトルで別々に楽曲を発表。実はこの2曲、コードが共通しており、2曲を重ねることにより、楽曲が完成するというスタイル。別々の曲を重ねることにより、別の曲が完成するというスタイル自体は、Corneliusの「STAR FRUITS SURF RIDER」のような例はあるものの、全く別の歌モノの曲を重ね合わせるというスタイルは、かなり珍しいのではないでしょうか。特に歌詞もメロディーラインも、楽曲の途中は重なりあうようで、微妙にすれ違いを続け、最後の最後に歌詞もメロディーも重なりあうという展開は鳥肌モノ。KAN(と秦基博)のとんでもない才能を感じさせる実験的な作品に目をみはります。

まさにKANというミュージシャンの魅力がつまったベストアルバムで、全日本人に(笑)是非とも聴いてほしいベストアルバムです。ちなみに今回のベスト盤が「IDEAⅢ」で、「IDEAⅡ」がない理由は・・・どうもスタッフのおふざけだったようで、なんとなく、ここもKANの精神を受け継いでいるような(笑)。あらためて、KANのすごさを感じることのできるベストアルバムでした。

評価:★★★★★

KAN 過去の作品
IDEAS~the very best of KAN~
LIVE弾き語りばったり#7~ウルトラタブン~
カンチガイもハナハダしい私の人生
Songs Out of Bounds
何の変哲もないLove Songs(木村和)
Think Your Cool Kick Yell Demo!
6×9=53
弾き語りばったり #19 今ここでエンジンさえ掛かれば
la RINASCENTE
la RiSCOPERTA
23歳

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2025年1月21日 (火)

懐かしい90年代を感じつつ

Title:ゴールデン☆ベスト CORVETTES
Musician:CORVETTES

ここでも何度か取り上げている、複数のレコード会社共通の廉価版ベストアルバムシリーズ「ゴールデン☆ベスト」。あまりいままでチェックしてこなかったミュージシャンを含め、代表曲を手っ取り早く聴けるため、いろいろと重宝するシリーズなのですが、今回紹介するのは80年代から90年代にかけて主に活動していた男性5人組バンドCORVETTESです。

個人的に彼らを懐かしいなぁ、と思って今回聴いてみたのは、1993年にドラマ主題歌として起用された「瞳を僕にちかづけて」を知っていたから。この1993年という年は、フジテレビ系ドラマ「振り返れば奴がいる」の主題歌となったCHAGE&ASKAの「YAH YAH YAH」が大ヒットを記録したように、ドラマ主題歌が軒並み大ヒットを記録しました。本作は日テレ系ドラマ「日曜はダメよ」の主題歌に起用され、彼らとしては最大のヒット曲となっています。ただし、オリコンシングルチャートでは最高位14位に留まっており、大ヒットには程遠く、おそらくリアルタイムでヒットシーンを追いかけていた方でも、「懐かしい!」と感じる方と「知らない・・・」と思う方が分かれそうに感じます。

そしてこのベスト盤の最初に本作は収録されています。今回、久しぶりに同曲を聴いたのですが、そこで強く感じたのは、とにかく売れることを意識した曲だった、という点でした。この1993年という年、ドラマ主題歌と共に音楽シーンの大きな流行になったのが、いわゆるビーイング系。明確に売れることを狙った、ある意味、工業生産物のような手法を取った乱発気味の音楽制作は、賛否両論がわかれましたが、同曲に関しては、明らかに、当時流行だったビーイングの手法を取り入れています。まずサビ先という楽曲構成。さらにはサビの一番最初に曲のタイトルを持ってくる手法。そして、サビのインパクトだけを異様に重視し、サビ以外のメロがやっつけ気味となっているような楽曲。いずれもいかにもビーイング系の手法を模倣したような、当時の流行にのっかかって、「売れる」ことを意識した曲になっていました。

今回のベスト盤で、はじめて「瞳を僕に近づけて」以外のCORVETTESの曲を聴いたのですが、彼らの代表曲といえる同曲とは異なる作風の楽曲がメインとなっていました。「あのカーブを過ぎたら」のように、いかにも90年代的なアレンジの曲もあったものの、「瞳を僕にちかづけて」の前のシングルとなる「YOKO・・・さよならの向こうに」「Dracula」などはAOR風のちょっとムーディーな大人のポップといった印象も受ける作品に。一方、「NEVER」「ジサンサー」などはいずれもハードロックな作品になっており、彼らの嗜好としてはここにあったのかな、とも感じます。

もっとも、ハードロックとAORという明らかに異なった作風の曲が並んでいるあたり、バンドとしての方向性もいまひとつ定まっていなかったようにも感じました。この点が、バンドとしていまひとつ、大ブレイクに至らなかった大きな要因のようにも感じました。また、バンドとしては、シングル曲は「瞳を僕にちかづけて」が最後。その後、ベスト盤1枚、オリジナルアルバム1枚をリリースし、1994年には活動休止となってしまいます。ただ、その後、1998年に再結成し、その後は活動を続けているだけに、おそらくメンバーの仲が悪くなった訳でも音楽をやめてくなった訳でもなく、純粋にヒット作を求められ、同作があまり大ヒットには至らなかった結果、一時的にバンド内にギクシャクが生まれたのではないでしょうか。

90年代の音楽シーンをちょっと懐かしく感じつつ、その中で迷走気味だったバンドの活動を感じられるベストアルバム。他にも「Danger City」のようにテレビ主題歌になった曲もありますので、懐かしさを感じる方はチェックしてみて損のない1枚だと思います。

評価:★★★

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2025年1月20日 (月)

小西康陽がボーカルに挑戦!

Title:失恋と得恋
Musician:小西康陽

かのピチカート・ファイヴのメンバーとしても知られ、数多くのミュージシャンたちへのプロデュースや楽曲提供を手掛けてきた小西康陽。ここ最近はPIZZICATO ONE名義でのソロ活動が続いてきましたが、今度は本名「小西康陽」名義でのアルバムがリリースされました。

今回、この小西康陽名義のアルバムの最大の特徴は、自らが歌っている、という点。なんでも2022年にギターの弾き語りライブを行ったところ、「過去の自作曲を自ら歌うこと」に目覚めたそうで、本作は主に2023年8月に丸の内コットンクラブで行われた「小西康陽・東京丸の内」のために編曲されたものだそうです。

まず楽曲のアレンジに関しては、そこはさすが小西康陽、文句のつけようのないクオリティーの高い作品を聴かせてくれています。今回はピアノ、ベース、ドラムス、ギター、チェロという5人編成での録音。ジャジーなサウンドが大きな特徴となっており、比較的シンプルながらもしっかりと聴かせるアレンジとなっています。

そんな中でもドラムのリズムだけをバックに歌い上げる「陽の当たる大通り」や、ボッサ風の「むかし私が愛した人」、チェロのみをバックに歌う「きみになりたい」、ピアノジャズアレンジの「動物園にて」など、バラエティーのある作風に。特に、ドラムのみ、チェロのみというアレンジは、小西康陽のボーカルをより際立たせるようなアレンジとなっており、ボーカリスト小西康陽として挑戦的なアレンジとなっていました。

さて、本作で一番の注目すべき点はやはり小西康陽のボーカルというポイントでしょう。正直言えば、彼のボーカルは決して上手いものではありません。穏やかな雰囲気の、大人の渋みも感じさせるボーカルというとポジティブな表現ですが、いかにも「おじさん」という感じのボーカルで声量もなければ、音程もいまひとつ安定していません。

ただ、とはいえ本人としてはそんなことは百も承知。このボーカルがジャズ主体のアレンジにちゃんとマッチして聴こえるあたり、さすがは小西康陽の力量の高さを感じさせます。彼の決して上手くはないボーカルが、ひとつの味として感じられるように、しっかりと作りこまれている感があります。

ただ、それでも、特にピチカートの楽曲を小西康陽が歌う点についてはかなりの違和感が・・・。やはりメロディーラインにしても歌詞にしても、あくまでも野宮真貴を前提としてつくられた曲なだけに、彼のような「おじさん」がそれを歌うと、正直なところ、かなりの違和感を覚えてしまいます。まあ、そのギャップも「味」と言われればそうなのかもしれないのですが・・・。この違和感の強さは最後までぬぐえませんでした。

楽曲自体の出来としては申し分ないですし、小西康陽のボーカルも、それなりの「味」として感じられると思います。ただ、前述の違和感を受け入れられるかどうかで、アルバムの印象は変わりそう。個人的には、違和感が違和感のまま残ってしまった感は否めません。もちろん、小西康陽の実力はしっかりと感じられる作品ではあるのですが、オリジナルは越せなかったかな、とも思う1枚でした。

評価:★★★★

小西康陽(PIZZICATO ONE) 過去の作品
ATTRACTIONS! KONISHI YASUHARU Remixes 1996-2010
11のとても悲しい歌(PIZZICATO ONE)
わたくしの二十世紀(PIZZICATO ONE)
なぜ小西康陽のドラマBGMは テレビのバラエティ番組で よく使われるのか。
井上順のプレイボーイ講座12章(小西康陽とプレイボーイズ)
前夜 ピチカート・ワン・イン・パースン(PIZZICATO ONE)


ほかに聴いたアルバム

Fujii Kaze Stadium Live “Feelin' Good”/藤井風

昨年8月24日、25日に横浜の日産スタジアムで行われたワンマンライブの模様を収録したライブ盤。Blu-ray形式でリリースされているほか、配信盤とCD盤でもリリースされています。全体的にメランコリックな歌をしっかり聴かせる、というイメージのパフォーマンスが多く、そういう意味ではスタジアムライブっぽくない感じもするのですが、それはそれで藤井風の魅力といったところでしょう。ただ、このスタイルのパフォーマンスをしっかりとスタジアムレベルでも聴かせてくれるというのはさすが。一度、彼のライブにも足を運んでみたい、と感じさせるようなライブアルバムでした。

評価:★★★★★

藤井風 過去の作品
HELP EVER HURT NEVER
HELP EVER HURT COVER
Kirari Remixes(Asia Edition)
LOVE ALL SERVE ALL

The Golden Age Of Punk Rock/Ken Yokoyama

ハイスタやBBQ CHICKENSなどで活躍する横山健の新作は、パンクロックのカバーアルバム。ただ選ばれているのは70年代のパンク勢ではなく、主に80年代から90年代にかけて活躍したNOFXやRANCID、Bad Religionなどといったバンドの楽曲。基本的に彼がリアルタイムで体験した、思い入れのあるミュージシャンたちということなのでしょう。パンクロックという枠組みにとらわれず、The Get Up Kidsのようなエモ系や、Blink-182などポップ寄りのバンドも選ばれているのもちょっと意外な印象も。全体的に有名所の王道を抑えたようなセレクションとなっており、奇をてらっていない感、純粋なパンクロックへの敬愛ぶりも感じさせます。横山健が好きな人は、逆にここに紹介されているバンドたちのアルバムを聴いてみるとよいかも。

評価:★★★★

Ken Yokoyama 過去の作品
Four
Best Wishes
SENTIMENTAL TRASH
Ken Yokoyama VS NUMBA69(Ken Yokoyama/NAMBA69)
Songs Of The Living Dead
4Wheels 9Lives
Indian Burn

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2025年1月18日 (土)

中途半端な印象が否めない

Title:Lab.
Musician:go!go!vanillas

男性4人組ロックバンド、go!go!vanillasによる、約2年ぶりとなるニューアルバム。2014年にメジャーデビューし、昨年、デビュー10周年を迎えた中堅バンドの彼ら。今年は日本武道館2デイズライブを、既にソールドアウトさせるなど、その人気を確立しています。

go!go!vanillasのイメージとしては、いかにも今どきのロックバンドというイメージの軽快でポップなバンドサウンドを鳴らしているグループというイメージ。実際、彼らの楽曲を聴くと、軽快でポップなナンバーが目立ちます。ただ、その中でもメンバー全員がThe Beatlesの影響を公言しているグループのようで、海外のロックの影響をはじめとして、比較的幅広い音楽性はその楽曲から垣間見れることが出来ます。

例えば「クロスロオオオード」はギターサウンドのイントロをはじめ、軽快で疾走感あるサウンドはオルタナ系以降のギターロックの影響を感じさせますし、続く「来来来」はガレージロックの影響も感じさせます。また「SHAKE」はおしゃれな感じのサウンドでAORやシティポップ風の作品となっていますし、「Persona」はファンキーなリズムを取り入れたりもします。

ただ一方ではやはり全体的にはポップなメロディーが主体となっている楽曲になっており、本格的にルーツサウンドを取り込んでいるか、と言われると微妙。様々な音楽性の影響は感じられるし、そこにバンドとしてのルーツを感じさせるのは間違いないのですが、ただ、結果としては、耳ざわりのよいポップなメロを前面に押し出している、よくありがちなギターロックバンドという印象が否定できません。

そしてバンドとしてはどうにも中途半端な立ち位置となっていまっているのが非常に惜しい感じもします。ポップスさを追及するとしても、それだけを売りにするとしてはいまひとつ。逆に中途半端なサウンドのバリエーションが足を引っ張ってしまっている感も否めず。一方でサウンドの方にしても、そのルーツやバリエーションを売り出そうとしても、中途半端にポップなメロに引っ張られてしまって、それを売りにできるような感じでもありません。結果として、非常に中途半端になってしまったというイメージが否めません。

売上的にも、日本武道館2デイズをソールドアウトさせるほどの人気を獲得しつつも、チャート的には20位前後をうろうろしている感じでいまひとつブレイクしきれないのもここらへんの中途半端さが影響している感もします。もっとも、そのバラエティーのある音楽性から感じられる音楽的素養は注目すべき点もありますし、それを上手くポップに落とし込んでいる実力も感じされます。そういう意味では、あと一皮むければおもしろいバンドとなって一気にブレイクできる印象も受けるのですが。そこらへん、今後のさらなる成長を期待したいところです。

評価:★★★★

go!go!vanillas 過去の作品
THE WORLD

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2025年1月17日 (金)

ポップなメロに、深い音楽性を取り入れて

Title:GOLD HOUR
Musician:大橋トリオ

シンガーソングライター、大橋トリオの約3年8ヶ月ぶりとなるニューアルバム。オリジナルアルバムとしてはちょっと久しぶりとなる新作ですが、ただ、今年はTHE CHARM PARKとのコラボアルバム「Trio&Charm」をリリースしていますし、途中、ベストアルバムやコラボベストのリリースもありましたし、むしろ、精力的に切れ目なく活動している印象すら受ける大橋トリオ。むしろオリジナルアルバムで4年近いインターバルが空いていた方が意外に感じました。

毎回、いい意味でジャズやソウル、AORの要素を組み込んだ大人のポップソングを、アコースティックベースのサウンドで聴かせてくれる彼。いい意味で安定感があり、クオリティーの高いポップを安心して聴ける、という印象を受ける反面、それゆえに正直なところ逆に「地味さ」も感じてしまう点も否定できません。それゆえに、チャート的にはいつも10位~30位程度を行ったり来たりと、それなりにヒットしているけどブレイクまではいかない・・・という煮え切れなさもこの地味さゆえ、なのかもしれません。

本作に関しても、いつもと同様、ジャズやソウル、AORの要素を組み込んだ大人のポップスを安定したクオリティーで聴かせてくれます。そういう意味では良くも悪くもいつもの大橋トリオといった印象を受けるのですが、ただ、そんな中でも今回のアルバムはここ数作の中では頭ひとつ出ている、心にしっかり残る楽曲が並ぶアルバムになっていたように感じました。

まず冒頭を飾る「空とぶタクシー」が心地よい感じ。アコギの爽快なサウンドとリズミカルとすら感じられるテンポのよいリズムが印象的なのですが、爽やかでありつつ切なさも感じられるメロディーラインがキュンと来ます。続く「エトセトラ」も、メランコリックなメロディーラインが印象的。途中のメロディーの転調も個人的にはかなりグッと来る部分があります。

「季節によせて」も強い印象に残るバラードナンバー。エレピで切なく聴かせるナンバーで、「スティーヴィー・ワンダーに歌わせたい」というテーマでつくられた楽曲だそうですが、まさにスティーヴィーの楽曲に通じる、ポップだけどメロウなR&Bナンバーに仕上がっています。

後半も、ジャジーなアレンジにファンキーさも感じるドラムのリズムも気持ちよい「風船メモリー」や、暖かいメロディーラインが印象に残る「カラタチの夢」など、後半も魅力的なナンバーが並びます。「カラタチの夢」はテレビ東京系ドラマ「きのう何食べた? season2」のオープニングテーマで、このドラマは見ていないのですが、ドラマタイトルからして、ドラマにもマッチしたほんわかとした雰囲気も感じさせます。

終盤の「薤露青」はエキゾチックでちょっとサイケさもあるアレンジが耳を惹く楽曲。宮沢賢治の詩にメロをつけた曲だそうですが、ちょっと不思議な雰囲気の曲調がアルバムの中でちょうどよいインパクトになっています。そしてラストの「巡(めぐる)」はアコギやピアノなどアコースティックなサウンドを軸にゆっくりと聴かせる楽曲。実に大橋トリオらしい作品でアルバムは締めくくられます。

最初にも書いた通り、今回のアルバムでも決して目新しい大橋トリオを提示した訳ではなく、いつもの彼らしい大人のポップソングを聴かせてくれます。ポップなメロディーラインで楽曲全体としては広いリスナー層にアピールできそうなポピュラリティーを持っていながら、サウンドなど要所要所にジャズやソウルの要素を取りいれた、その音楽性の広さ・深さを感じさせる仕事ぶりも彼らしいところ。さらに今回のアルバムに関しては、サウンドのバリエーションもさることながら、インパクトのあるメランコリックで切ないメロが強い印象を残す作品になっており、ここ数作の中では一番の出来だったように感じます。あらためて大橋トリオというミュージシャンの魅力を再認識できた傑作でした。

評価:★★★★★

大橋トリオ 過去の作品
A BIRD
I Got Rhythm?
NEWOLD
FACEBOOKII
L
R

FAKE BOOK III
White
plugged
MAGIC
大橋トリオ
PARODY
10(TEN)
Blue
STEREO
植物男子ベランダー ENDING SONGS
植物男子ベランダーSEASON2 ENDING SONGS
THUNDERBIRD
This is music too
NEW WORLD
ohashiTrio best Too
ohashiTrio collaboration best -off White-
カラタチの夢
Trio&Charm(大橋トリオ&THE CHARM PARK)


ほかに聴いたアルバム

ORION/SPECIAL OTHERS ACOUSTIC

昨年は2月から9月にかけて、毎月25日を「ニコニコの日」と称して、にぎやかな新曲をリリースするなど積極的な活動が目立ったSPECAIL OTHERS。本作はそんな彼らのアコースティック編成による別名義のアルバムになるのですが、「ACOUSTIC」名義での活動をスタートさせ、10周年の記念のアルバムとなります。25日にリリースした新曲は、既にスペアザ名義の直近作「Journey」に収録されていますが、こちらもほっこりと心が温まるような楽曲が収録。この寒い冬の季節にもピッタリの、いい意味で安心して聴ける楽曲が並んでいました。

評価:★★★★

SPECIAL OTHERS 過去の作品
QUEST
PB
THE GUIDE
SPECIAL OTHERS
Have a Nice Day
Live at 日本武道館 130629~SPE SUMMIT 2013~
LIGHT(SPECIAL OTHERS ACOUSTIC)
WINDOW
SPECIAL OTHERS II
Telepathy(SPECIAL OTHERS ACOUSTIC)
WAVE
Anniversary
Journey

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2025年1月13日 (月)

「Screamadelica」期を彷彿とさせるような

Title:Come Ahead
Musician:Primal Scream

途中、シングルコレクションやライブアルバムのリリースなどのリリースもあったため、そんなに間が空いたんだ、とちょっと意外な感じもするのですが、実に約8年ぶりとなるPrimal Screamのニューアルバム。ジャケット写真はスコットランドの労働組合の重鎮であるボビー・ギレスピーの父親だとか。そういわれれば、面影がどこか似ているような・・・。

そんな久々となる今回のアルバム、作品の全体的な印象としては、どこか彼らの名盤である「Screamadelica」を彷彿とさせるような内容となっていました。アルバムの冒頭を飾る「Ready To Go Home」は、最初、ゴスペルからスタート。それが徐々にテンポをあげていき、本編がはじまると、リズミカルでファンキーなリズムのダンスチューン。ブラックミュージックの影響も強い、軽く酩酊感のあるグルーヴィーなサウンドは、まさに「Scramadelica」を彷彿とさせます。

続く「Love Insurrection」もミディアテムテンポで歌い上げるメロウなボーカルのナンバーながらも、バックに流れるグルーヴィーなサウンドが心地よいミディアムソウル風の楽曲。「Innocent Money」も4つ打ちのリズムで軽快な、ディスコ風のダンスナンバー。こちらも楽曲に流れるストリングスの音色が醸し出す、ちょっと懐かしい70年代的な雰囲気が実に魅力的な楽曲になっています。

軽快なパーカッションがトライバルに聴かせる「Circus of Life」も、まさに「Screamadelica」期を彷彿とさせるリズミカルでグルーヴィーなナンバー。アフロビートっぽい雰囲気も魅力的な楽曲。終盤の「The Centre Cannot Hold」も軽快でリズミカルなダンスチューン。こちらもちょっとトライバルでグルーヴィーなバンドサウンドが大きな魅力となっています。

そんなグルーヴィーでリズミカルな楽曲が並ぶ本作なのですが、ユニークなのがその制作過程で、本作はボビーが、はじめてアコギを使い1人で作曲した作品だそうです。アコギで作成しつつ、これだけグルーヴィーな作品が出来上がるのはちょっと意外な感じがします。一方、本作のタイトル「Come Ahead」はボビーの出身地、グラスゴーの言葉で、喧嘩の時に「出てこい」と挑発する時に使う言葉だそうで、この反骨精神はいまだ変わらず、といった印象を受けます。

また、リズミカルな作品の中に、「Deep Dark Waters」のような、哀愁たっぷりのメロディーをこれでもかというほど聴くことが出来る曲があったり、ラストの「Settlers Blues」も、こちらもメランコリックな歌をサイケフォークなサウンドにのせて聴かせる楽曲。メランコリックな歌も大きな魅力に感じました。

8年前の前作「Chaosmosis」は、彼らの集大成的な作風という印象を受けましたが、8年というインターバルをあけてリリースされた本作は、ある意味、彼らの原点回帰とも言える作品かもしれません。聴いていて素直に心地よかったし、これはライブで聴けば気持ちよさそうだなぁ。Primal Screamというバンドの魅力あふれる傑作でした。

評価:★★★★★

primal scream 過去の作品
Beautiful Future
Screamadelica 20th Anniversary Edition
More Light
Chaosmosis
Give Out But Don't Give Up:The Original Memphis Recordings
MAXIMUM ROCK ‘N’ ROLL: THE SINGLES
Demodelica
Live at Levitation


ほかに聴いたアルバム

Groovy Steppin Sh*t/Lisha G

Lishag

アメリカはサウス・カロライナの女性ラッパー、Lisha Gが、フィラデルフィアのプロデューサーTrini Vivとタッグを組んでリリースしたアルバム。ミディアムテンポのトラップのリズムで聴かせるラップが特徴的。トラップというと、ダウナーでメランコリックというイメージも強いのですが、彼女の場合、ドリーミーな雰囲気はともかくとして、比較的明るい雰囲気のサウンドが特徴的で、個性的で聴きやすさを感じさせます。日本語の情報がほとんどなく、おそらく本作がまだ2作目という彼女ですが、今後の活躍に期待です。

評価:★★★★

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