アルバムレビュー(洋楽)2024年

2024年9月 8日 (日)

全盛期のblurのナンバーを連発

Title:Live At Wembley
Musician:blur

昨年、8年ぶりのニューアルバム「The Ballad of Darren」をリリース。サマソニにも来日したblur。最近は、時折「これが最後」という発言をしながらも、断続的な活動が続いていますが、昨年11月には再び活動休止を宣言。しかし、その後もまたライブに出演するなど、結局、blurとしての活動を続けています。もう、別にわざわざ活動休止を宣言しなくても、メンバー全員、時間が合った時に断続的に活動を続ければいいと思うのですが・・・。

今回、彼らがリリースしたアルバムは昨年7月8日、9日にイギリスのウェンブリー・アリーナで行われたblur史上最大規模での開催となったライブの模様を収録したライブアルバム。スタジアムライブらしいスケール感を感じさせるパフォーマンスで、特に彼らの代表曲が演奏された時の盛り上がりに感じる広い会場全体を覆うような一体感には、スタジアムライブらしいダイナミックさを感じます。

今回のライブアルバムで特徴的なのはそのセットリスト。バンド史上最大規模のライブということもあって、彼らのその代表曲を惜しげもなく披露しています。最新アルバムからのナンバー「St Charles Square」に続いては、いきなり「There's No Other Way」からスタート。前半でも「Coffee&TV」を披露しているほか、後半戦に入ると「End of a Century」「Country House」「Parklife」「Song2」「This Is a Low」と代表曲が続き、会場のテンションが一気に上がる中、おなじみ「Girls&Boys」で大盛り上がり。その後も「Tender」を披露するなど、まさに代表曲づくしのセットリストとなっています。

さらに大きな特徴として、彼らの勢いが最も強かった1993年の「Modern Life Is Rubbish」、1994年の「Parklife」からの選挙区が特に多いのも特徴的。「Modern Life Is Rubbish」からは5曲が、「Parklife」からはなんと6曲が選曲されています。他に「The Great Escape」からは3曲と意外と少な目。「blur」からは4曲が選曲。26曲中18曲までが、1993年から1997年までのナンバーに集中しています。

一方、最新アルバム「The Ballad of Darren」からはわずか2曲。「13」からは2曲、「Leisure」からは1曲、「Think Tank」からもわずか1曲。さらに前々作「The Magic Whip」からは選曲なしという構成に。ベテランバンドがこの手のベスト的なセットリストが組まれる時に、得てして全盛期以降の比較的最近の曲を選曲しがちなのですが、ほとんどが彼らの全盛期のナンバーからの選曲となっているあたり、彼らの潔さを感じます。

また、そんな選曲になっており、彼らの1990年代の楽曲をあらためて聴いてみたからこそ、blurの魅力、あれだけ人気のあった理由をあらためて実感できるライブ盤になっていました。軽快でポップ、わかりやすいメロディーラインを書きながらも、サウンドにしろメロディーにしろ、どこかひねりが加わり、単純なポップにならないとするアイロニック的な視点を感じさせますし、一工夫の入ったサウンドからは彼らのウィットさも感じさせます。

blurといえば90年代のブリットポップブームの中、最近、再結成が大きな話題を呼んだoasisと比較されることが多いのですが、王道路線を行くようなoasisのロックに比べて、ポップより、かつ王道をあえて外したようなblurの楽曲はまさしく対照的。この両者がしのぎを削っていた90年代のイギリスのロックシーンは、本当にすごかったよな・・・と、リアルタイムを経験した身にとってはなつかしさも感じてしまいました。

まさにblurの魅力のつまったベスト盤的なライブアルバム。あらためてblurのすごさも感じましたし、入門盤としてもピッタリのアルバムだったと思います。しかし、blurのライブ、一度生で見てみたい!また、是非日本に来日してライブを披露してほしいものです。

評価:★★★★★

blur 過去の作品
MIDLIFE:A Beginner's Guide to Blur
All the People... Live in Hyde Park: 2nd July 2009
PARKLIVE
The Magic Whip
THE BALLADS OF DARREN

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2024年9月 7日 (土)

最新作は映画のサントラ盤

Title:Confidenza
Musician:Thom Yorke

ご存じRADIOHEADのボーカリスト、トム・ヨークの最新作は映画のサントラ盤。イタリアの映画監督、ダニエレ・ルケッティ監督の最新作「Confidenza」の音楽を担当し、その映画に使われた曲が収録されているのが本作となります。ちなみに、この映画「Confidenza」は残念ながら日本では一般の映画館では公開されていないようで、「信頼」という邦題がつけられて、5月に行われたイタリア映画祭でのみ公開されたようです。

映画のサントラ盤というと、どちらかというと単発的なアイディアをちりばめたような、短いインスト曲が並び、映画を見ていない人が単独で聴くとちょっと厳しい部分がある、という曲が少なくありません。今回のアルバムに関しても、正直、そういう部分もあることは否めません。全12曲入り36分という長さのアルバムで、1分代の短い曲が3曲、1分に満たない曲も1曲収録。短いインスト曲も少なくありません。ただ、それでもこのサントラ盤は、しっかりとトム・ヨークの魅力の詰まったアルバムに仕上がっていました。

1曲目の「The Big City」から、まずはトム・ヨークの本領発揮的な1曲。不気味な雰囲気ただようエレクトロサウンドにストリングスの音色が重なり、幻想的な曲調となっているこの曲は、いわばRADIOHEADの延長戦上にも感じるメランコリックさを覚える1曲。続く「Knife Edge」も静かでメランコリックな歌が印象的な歌モノの1曲。こちらも優しく聴かせるメロディーラインにトム・ヨークのメロディーメイカーとしての才が発揮されています。

中盤の同じく歌モノの「Four Ways In Time」も、メランコリックに歌い上げる歌と哀愁感漂うストリングスのサウンドが印象的。全体的にホーンやストリングスを使って、醸し出す不気味で幻想的な雰囲気が特徴的。楽曲にはアバンギャルドさを感じ、一歩間違えると一気に崩れ落ちそうな危うささを感じさせます。映画は、お互い公になると人生が壊れてしまうような秘密をお互いに打ち明けた男女の物語ということなのですが、この楽曲のスリリングさは、その映画の内容に沿ったもの、といった感じでしょうか。そしてその一方で、そんなスリリングな楽曲の中に流れるメランコリックなメロディーラインにはトム・ヨークらしさを感じます。

最後は賑やかでアバンギャルドな「On The Ledge」で締めくくり。明るい雰囲気ながらも、全体的にごちゃごちゃで崩れ去ってしまいそうな雰囲気は映画のラストともマッチするのでしょうか。最後の締めくくりとしてはまとまりがなく終わった感もあるのですが、それはそれでまた、アルバムに大きなインパクトを与えていたように感じます。

文句なしにトム・ヨークの新作として聴くべき傑作アルバム。映画のサントラ盤ですが、トム・ヨークの最新のオリジナルアルバムの1枚として考えても全く問題ない内容だったと思います。トム・ヨークらしさを存分に感じられる1枚でした。

評価:★★★★★

Thom Yorke 過去の作品
The Eraser Rmx
Tomorrow's Modern Boxes
Suspiria(Music for the Luca Guadagnino Film)
Suspiria Unreleased Material
ANIMA
Not The News Rmx EP


ほかに聴いたアルバム

Louis In London (Live At The BBC)(邦題:この素晴らしき世界~ルイ・イン・ロンドン・ライヴ・アット・ザ・BBC)/Louis Armstrong

ご存じ、ジャズ・ミュージシャンのレジェンド中のレジェンド、サッチモことルイ・アームストロング。本作は1968年7月2日にイギリスBBCで録音された、生前最後のライヴ音源。内容的に彼も相当気に入っていたようで、録音を収録したテープを友人に送り、来客があるたびに聴かせていたそうです。ただ、それだけリリースを望んでいた音源にもかかわらず、いままで音源がリリースされることはなく。彼の死から50年以上を経て、ようやく音源としてリリースされました。

おそらく誰もが知っているであろう「この素晴らしき世界」を含む、彼の代表曲が収録されている本作。ライヴ音源ということで、より自由に楽しむようなパフォーマンスが収録されているのですが、生前最後、という飾り言葉がつくアルバムでありながらも、パフォーマンスに全く衰えはなく、サッチモの、時には陽気に、時にはムーディーにしっかりと聴かせるパフォーマンスが収録されています。まあ、「生前最後」といっても、亡くなるのは、ここから3年も先の話なのですが。代表曲が多く収録されている点でも入門盤としても最適な1枚。彼のパフォーマンスが存分に楽しめる作品でした。

評価:★★★★★

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2024年8月26日 (月)

ロサンゼルスで作成した最新作

Title:L.A.Times
Musician:TRAVIS

スコットランドはグラスゴー出身のロックバンド、Travisによる約4年ぶりとなるニューアルバム。スコットランドのバンドなのに、ロサンゼルス?といった感じもするのですが、ボーカルのフラン・ヒーリィがロサンゼルスに所有しており、長い時間を過ごしてきたスタジオで作成した作品になっているそうです。

今回のアルバムはヒーリィ本人が「『The Man Who』以来、最も私的なアルバム」と語っているようですが、非常にシンプルでフォーキーな作風となっています。まず1曲目「Bus」などが典型的で、60年代のフォークを彷彿とさせるような哀愁たっぷりのメロディーラインが印象的。「Live It All Again」もアコギのアルペジオでフォーキーに聴かせる楽曲になっており、ファルセットのボーカルも耳を惹きます。「Naked In New York City」もアコギをバックに感情たっぷりに歌い上げるフォーキーな作品になっています。

そのほかにもバンドサウンドをバックに、ゆっくりメロディアスに聴かせる「Raze the Bar」、哀愁たっぷりのピアノでテンポよく聴かせる「Gaslight」「The River」は分厚いバンドサウンドでダイナミックに聴かせるロックバンドらしい作品になっていますが、この曲でもメランコリックな美メロがしっかりと印象に残ります。

ここ数作、シンプルな歌をシンプルなサウンドで聴かせるアルバムが続いていますが、今回のアルバムも基本的にはここ数作の彼らの方向性に沿ったアルバムになっていました。正直言って、目新しさはほとんどないのですが、それでもアルバムをしっかり聴かせてくれる美しいメロディーラインは本作も健在。このメロだけで十分アルバムを傑作と言えるレベルに押し上げられるのはさすがといった感じでしょう。

ただ、そんなアルバムの中で唯一、異色的だったのが最後を飾るタイトルチューンの「L.A.Times」。メランコリックなサウンドにポエトリーリーディング的なボーカルで、ラップを取り入れたともいえる本作ですが、ヒーリィがロサンゼルスで経験した格差社会を描写した社会派な歌詞が描かれています。基本的に内省的な歌詞が多い彼らで、なおかつ本作ではその影響がより顕著なだけに、かなり異色に感じれますが、それだけロサンゼルスの格差の状況がヒーリィにとっては大きな印象を残したのでしょう。また、このような異色な作品が含まれていることがまた、アルバムにバリエーションと奥行きを与えていました。

基本的にはいつものTravisらしい作品ですが、一方でロサンゼルスという立地が重要な要素となったアルバムになっていた本作。ここ最近、美メロをしっかりと聴かせる傑作が続いていましたが、本作もそんなアルバムと並ぶ傑作に仕上がっていました。最近は、日本では一時期ほどアルバムがリリースされた時に話題にあがらなくなってしまった感もありますが、イギリスの公式チャートでは本作も最高位2位を記録し、変わらぬ人気を見せています。これだけの傑作をリリースし続けるだけに、この人気は納得でしょう。これからもまだまだ彼らの人気は続きそうです。

評価:★★★★★

TRAIVS 過去の作品
Ode to J.Smith
WHERE YOU STAND
Everything at Once
10 Songs

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2024年8月23日 (金)

ダンスチューンを前面に押し出した新作

Title:Happenings
Musician:KASABIAN

デビューアルバムから前作がベスト10入り、さらには2006年にリリースされた2枚目のアルバムから7作連続、全英チャートで1位を獲得している、まさにイギリスの国民的バンドとも言えるKASABIANの約2年ぶりとなるニューアルバム。前作「The Alchemist's Euphoria」リリース前にリードボーカルのトム・ミーガンが、妻への暴行という大事件を起こしバンドを脱退。結成以来となるバンドの危機を迎えた彼らでしたが、前作に引き続き、本作も無事に、チャート1位を獲得。その変わらぬ人気ぶりを見せつける結果となりました。

アルバムの方向性としては、ここ最近のKASABIANと大きな変化はありません。ポップなメロディーラインを中心軸に、ダイナミックなバンドサウンドとエレクトロサウンドをいわゆるサウンドの両軸としてリスナーを楽しませてくれる方向性。正直言えば目新しさはないかもしれませんし、ともすれば「ベタ」と言ってしまうサウンドかもしれません。日本のメディアがあまり彼らを強く取り上げないのもそういった、目新しさのなさが大きな要因かもしれません。ただ、そんなある種のわかりやすさ、楽しさがKASABIANの最高の魅力であり、それゆえに彼らが国民的バンドとして人気を確保しているのではないでしょうか。

今回のアルバムに関しては、あえて言えばエレクトロなダンスチューンがより耳に残るアルバムに仕上がっていたように感じます。冒頭を飾る「Darkest Lullaby」は、まさに彼ららしいとも言える哀愁感たっぷりのメロディーラインを、ダンサナブルなエレクトロサウンド載せたディスコチューン。続く「Call」も同様にリズミカルでトランシーなダンスチューンに仕上がています。

そんなエレクトロチューン2曲に続く「How Far Will You Go」は一転、ノイジーでダイナミックなギターロックチューンへとチェンジ。ここでKASABIANのロックバンドらしさを見せつけたかと思えば、続く「Coming Back To Me Good」はバンドサウンドに打ち込みのリズムを入れたダンスチューンとなっており、リズミカルなダンスナンバーの目立つ展開となっています。

その後も「Passenger」のようなダイナミックなギターロックの楽曲を入れつつも、「Hell Of It」「Italian Horror」のように、エレクトロサウンドを取り入れたダンサナブルなナンバーが目立つ展開に。アルバム全体としてリズミカルな曲が多く、そのようなダンスチューンがアルバム全体に強いインパクトを与えています。ただ一方でアルバムの最後を飾る「Algorithms」は、伸びやかで爽やかなメロディーラインを前に押し出した、スケール感もあるギターロックのナンバー。「リズム」でインパクトを持たせたような今回のアルバムでしたが、最後の最後に、しっかりと「歌」を聴かせる、彼らなりの矜持を感じさせるエンディングになっていました。

前述のように楽曲的には目新しさはありません。ただ、そんな点を差し引いても十分すぎるほど楽しむことが出来る「傑作」と言えるアルバムに仕上がっていたと思います。その点、さすが国民的バンドとしてのKASABIANの実力を感じさせる作品。リードシンガーの脱退という危機を乗り越え、KASABIANの快進撃はまだまだ続きそうです。

評価:★★★★★

KASABIAN 過去の作品
West Ryder Pauper Lunatic Asylum
VELOCIRAPTOR!
48:13
FOR CRYING OUT LOUD
The Alchemist's Euphoria


Radical Optimism/Dua Lipa

前作「Future Nostalgia」がグラミー賞の最優秀ポップ・ボーカル・アルバムを受賞するなど、ポップアイコンとして快進撃を続けるDua Lipaの3枚目となるアルバム。前作もポピュラリティーの強い、聴いていて純粋にポップアルバムとして楽しめる作品となっていましたが、今回も全体的にダンスミュージックの多い、聴いていて素直に楽しめるアルバムに仕上がっていました。楽曲的な目新しさという面は薄いのですが、それ以上にポップスアルバムとしての強度を感じさせる作品で、特に本国イギリスやアメリカで高い支持を受けるのも納得感のある作品でした。

評価:★★★★★

Dua Lipa 過去の作品
Future Nostalgia

Greatest Hits/Avril Lavigne

ポップアイコンといえば彼女も忘れてはいけないでしょう。日本でも高い人気を誇るシンガーソングライター、アヴリル・ラヴィーンの初となるベストアルバム。既にデビューから20年以上が経過している彼女。初期の作品は今から聴くと、懐かしくも若々しさを感じさせます。今から聴くと、非常にベタな感じもするのですが、ただこういうタイプの曲って、ある意味彼女を起点として多くの女性シンガーたちが影響を受けたスタイルで、結果「ベタ」になった訳で、彼女はいわばオリジナル的な立ち位置にあります。あらためてポップなメロディーはインパクトがありますし魅力的。ほどよくヘヴィーなロックサウンドとのバランスも良く、あらためて彼女がこれだけ人気になった理由も十分わかるような気がするベストアルバムでした。

評価:★★★★★

Avril Lavigne 過去の作品
Goodbye Lullaby
Avril Lavigne
HEAD ABOVE WATER
Love Sux

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2024年8月19日 (月)

今回も日本になじみのある題材の曲も・・・

Title:Love Heart Cheat Code
Musician:Hiatus Kaiyote

オーストラリアはメルボルンにて結成された4人組バンド、Hiatus Kaiyote。前作「Moon Valiant」は、リリース前にボーカルのナオミ・ネイマールの乳がんが発覚し、さらにはその後はコロナ禍により録音もままならない状況になるなど、困難な状況が続き、リリースまで約6年という歳月を要してしまいました。それに比べて今回のアルバムは特に大きな障害もなく、前作から3年というインターバルでのリリース。ただ、内容としてはもちろん前作に引き続きの傑作アルバムに仕上がっていました。

Hiatus Kaiyoteの楽曲というと、ソウル、ネオ・ソウルなサウンドをベースに、ロックやジャズなど、幅広い音楽性を取り入れつつも、ポップにまとめあげている作風が大きな魅力。その方向性は今回のアルバムでも変わっていません。まず前半に関しては、シンプルにソウルやR&Bの影響が強いナンバーが並びます。1曲目の「Dreamboat」はストリングスとピアノでスケール感あるドリーミーなサウンドを聴かせつつ、ネイマールの美しい歌声で力強く歌い上げる、ソウルでスケール感のある作品。「Telescope」もリズミカルなビートをバックにメロウに歌い上げるネオソウルのナンバー。「Everything's Beautiful」はファンクのリズムを入れつつも、力強く歌い上げるソウルナンバーと、前半はソウルやR&Bをストレートに取り入れた作品が並びます。

様々な作風の楽曲という点では本作では後半から。エレクトロサウンドを取り入れたドリーミーなポップ「Longcat」からはじまり、「How To Meed Yourself」ではサウンドはジャズからの影響を感じさせますし、タイトルチューンである「Love Heart Cheat Code」では基本的にはメロウなソウルナンバーなのですが、そのサウンドからはサイケデリックな要素も。さらに「Cinnamon Temple」は様々なサウンドを取り入れたダイナミックなサウンドで、ロック的な要素も強く感じる作品となっていますし、ラストは、ジェファーソンエアプレインのカバーなのですが、その「White Rabbit」もアバンギャルドなサウンドで、ロックテイストの強い作品に仕上げています。

アルバムの前半と後半で、楽曲の方向性が変化した作品となっていますが、やはりアルバム通じて大きな魅力であるのが、前作でも感じたのですが、ナオミ・ネイマールのボーカル。ソウルフルに歌い上げる力強さがありつつも、同時に優しさと清涼感のある歌声が大きな魅力。楽曲によってそのスタイルを使い分けるボーカルは大きな魅力でしたし、彼女のボーカルが、アルバム全体に統一感を与える大きなキーにも感じられました。

ちなみに前作「Moon Valiant」では「天空の城ラピュタ」や「もののけ姫」にちなんだ作品があるなど、日本との親和性も強い作品でしたが、今回も前述の「Longcat」は日本初のネットミームである「のびーるたん」の海外での呼び名にちなんでつけられたタイトルだそうです。そういう意味では今回も日本との意外な親和性はうれしいところ。ちなみに10月には来日ライブも予定されています。

前作に引き続き今回も非常に魅力的に仕上がった傑作アルバム。基本的にはポップな作風にまとまっているため、幅広いリスナー層が楽しめそうな作品。前述のとおり、日本になじみのある題材を取り上げた作品もありますし、日本でも広く聴かれてほしい作品です。ドリカムやMISIAあたりが好きなら気に入るかも?

評価:★★★★★

Hiatus Kaiyote 過去の作品
Moon Valiant


ほかに聴いたアルバム

Breathe...Godspeed/Verraco

Verracod

コロンビア出身のDJ、プロデューサーによる4曲入りのEP。リズミカルなエレクトロダンスミュージックは基本的にシンプルで、ある意味、難しいことなく楽しめ、そして踊れるような楽曲が並びます。ただ、楽曲によっては微妙にラテンの要素が加わっているのがユニークなところ。ラテンの要素を前に押し出すというよりも、ちょっと隠し味的に加わっているところがまたユニークで、シンプルなエレクトロながらも、この点が微妙な癖となって、より楽曲を魅力的なものとしています。

評価:★★★★★

The Healer/Sumac

今回紹介するSumacはアメリカ/カナダのポストメタルバンド。日本の灰野敬二ともコラボを組んで、何枚かアルバムをリリースしたことあるバンドのようで、メタリックなサウンドを入れつつも、どちらかというとプログレやポストロック的なサウンドを聴かせてくれるバンド。本作も1時間16分に及ぶ長さがらも、わずか4曲入り。1曲あたり12分~25分という長さとなっており、ダイナミックなバンドサウンドにデス声も入れて、ゆっくりと複雑に構成された楽曲が特徴的。ロックリスナーとしてはヘヴィーなサウンドはやはり聴いていて心地よさを感じさせつつ、その凝った楽曲には耳を惹かれます。長尺の楽曲ながらも、飽きることなくしっかりと楽しめるアルバムでした。

評価:★★★★★

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2024年8月18日 (日)

アバンギャルドさとポピュラリティーが同居

Title:Sentir Que No Sabes
Musician:Mabe Fratti

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今回紹介するのは、グアテマラ出身で、メキシコシティーを中心に活動しているチェリスト、Mabe Frattiの4枚目となるアルバム。以前からアルバムは高い評価を受けていたようですが、特に今回のアルバムでは、各種メディアで高評価を受けて、さらに注目が高まっているようです。

彼女の音楽性に関しては、英語版のWikipediaではアバンギャルド、エクスペリメンタルという表現をされています。チェリストというと、イメージとしてはクラシックというイメージを受けるのですが、彼女の楽曲に関しては、そんな一般的なチェリストのイメージとはかけ離れています。アルバムの冒頭を飾る「Kravitz」は一定のリズムを刻むベースラインに、ピアノとホーンセッションが不穏なセッションを繰り広げるアバンギャルドなサウンドが耳に行きます。挑戦的と言えば「Elastica Ⅱ」はまさにそんな1曲で、アバンギャルドなストリングスと力強いドラムスのリズムの実験的なインストナンバーに仕上がっています。

同じ、「Elastica Ⅰ」も「Ⅱ」と同様、サイケな雰囲気を醸し出すメタリックなインストナンバーですし、このメタリックでサイケなサウンドはそのまま次の「Margen del indice」へと続いていきます。アルバム全体として、アヴァンギャルドな作風の楽曲が多く、次の展開を読めないようなサウンドに耳をひかれる内容に。ポストロック、サイケロック的な様相の強いアルバムになっています。

ただし、おそらくこれだけならこのアルバム、そこまで高い評価を受けるような作品にはなっていなかったように感じます。このアルバムの大きな魅力は、これだけアバンギャルドなサウンドを組み込みつつ、非常にポピュラリティーの高いメロディーラインが流れていること。そして、それを歌い上げる彼女の歌声が、清涼感あふれて耳を惹きつけるものである、という点でしょう。

まさにそんな特徴が発揮されるのが2曲目の「Pantalla azul」。1曲目の雰囲気から一転、メランコリックなサウンドにメロディアスでポップなメロディーライン、そして彼女の美しい歌声というグッとポピュラリティーのあふれる作品に仕上がっています。その後、アバンギャルドな「ElasticaⅡ」に続く「Oidos」も、メランコリックなチェロの響きと彼女の歌声が実に美しいナンバー。先ほど、サイケな作風と紹介した「Margen del indice」でも彼女はテンポよいチェロの音色をバックに美しい歌声を聴かせてくれていますし、ラストを締めくくる「Angel nuevo」は幻想的なコーラスラインを取り入れたドリーミーな雰囲気を醸し出すナンバーとなっています。

アバンギャルドな要素とポップな要素が絶妙なバランスで配された作品ともいえる本作。それゆえに、その独特なサウンドに耳を惹かれつつ、一方ではいい意味でポップで聴きやすいアルバムとなっていました。いろいろな側面から非常に魅力的な傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

Mabe Fratti 過去の作品
Se Ve Desde Aqui


ほかに聴いたアルバム

Below The Waste/Goat Girl

イギリスはサウスロンドン出身のガールズバンド、Goat Girlの3枚目となるアルバム。ノイジーでローファイなギターサウンドに気だるい雰囲気の女性ボーカルという組み合わせが魅力的。基本的には淡々と楽曲は進んでいくのですが、楽曲によっては力強いシャウトを入れてきたり、よりポップなメロを聴かせてくれたり、フォーキーなサウンドを聴かせてくれたりと、意外とバラエティーの富んだ展開も魅力的。基本的には前作から大きな変化はないのですが、何気に惹かれるサウンドが魅力的な新作です。

評価:★★★★★

Goat Girl 過去の作品
On All Fours

One Hand Clapping/Paul McCartney&Wings

本作は、もともと1974年に録音されたスタジオライブ作品。同タイトルのWINGSのドキュメンタリー番組のために録音された作品だったのですが、同番組がお蔵入りとなったため、録音音源も未発表に。その後、一部の音源は公開されたのですが、このたびアルバムとしてリリースされ、話題となっています。WINGSの代表曲にビートルズのカバーも含めた全26曲。全曲、ポップで明るくメロディアスな本作は、聴いていて直に楽しいものがあります。もちろん録音状態にも問題ありませんし、これが長年、未発表だったのが逆に不思議な感じが。純粋にPaul McCartney&Wingsの新たな作品として楽しめるアルバムでした。

評価:★★★★★

PAUL McCARTNEY 過去の作品
Good Evening New York City
NEW
Egypt Station
McCartneyIII
McCartney III Imagined

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2024年7月28日 (日)

ワクワクして楽しめるエレクトロポップアルバム

Title:BRAT
Musician:Charli xcx

2022年にリリースした前作「Crash」が、イギリスのチャートで1位、全米チャートでも7位を記録するなど、大ヒットとなったイギリスの女性シンガーソングライター、Charli xcx。もともと、イギリスのレイブシーンで活躍していたミュージシャンだそうで、もともとJusticeのようなフレンチ・エレクトロのミュージシャンたちからの影響を公言しているとか。今回のアルバムもイギリスチャートでもアメリアビルボードチャートでもベスト10を記録。また、各種メディアでも高評価を記録しているなど、注目のアルバムとなっています。

個人的に彼女、Charli xcxのアルバムを聴いたのは本作がはじめてなのですが、確かに一言で言えば、難しいこと抜きで楽しめる、聴いていてとても心地よいエレクトロのアルバムだったと思います。

まずアルバム冒頭の「360」は、まずは軽快でリズミカルなエレクトロポップからスタート。まずはアメリカのR&B系ポップの流れを組むような、ある意味、今どきなポップチューンからスタートするのですが、続く「club classics」はタイトルの通り、クラブ系の王道を行くような疾走感あるトランシーなエレクトロチューン。聴いていて思わず身体が動き出しそうなナンバーとなっています。

その後も、基本的には軽快なエレクトロアレンジを主軸に置きつつ、「Talk Talk」「Apple」のような軽快な歌を聴かせるようなタイプの楽曲を聴かせてくれたかと思えば、「Von dutch」「Rewind」「Mean girls」のような疾走感ある強いエレクトロビートを前面に押し出して、よりクラブ寄りの楽曲を聴かせてくれたりと、クラブシーンに軸足を置きつつ、広くポップフィールドで活躍する彼女らしい構成のアルバムになっています。また、「I might say something stupid」「So I」のようなしんみり聴かせるミディアムチューンも間に挟んでおり、アルバムの中でほどよくチルアウトできる展開にもなっています。

基本的に最初に書いた通り、難しいこと抜きで楽しめるエレクトロポップが並んでおり、聴いていてワクワクしてくるような楽曲が大きな魅力。その分、正直なところ目新しさはありませんし、作風的にも挑戦的といったものもあまり感じません。ただ、それを上回る楽しさがこのアルバムでは感じられるのは間違いなく、それがこのアルバムが高い評価を得ている大きな要因であるのでしょう。

個人的にも年間ベストクラスに楽しめたアルバムだったと思います。クラブシーンで活躍している彼女なだけに、クラブや、あるいはライブでこれらの曲を聴けたらとても楽しめそうだし、軽くトリップできそうだなぁ、ということも感じます。広いリスナー層にお勧めできそうな楽しいエレクトロポップアルバムです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Forever/BON JOVI

デビュー40周年を迎えた彼らが、約4年ぶりにリリースしたニューアルバム。いつも通りの王道的なハードロック路線といった感じで、良くも悪くも安心して聴ける作品。あえて言えば、ちょっと爽やかにポップにまとまった感じもあって、若干今風にアップデートされているのかな、といった感もあるのですが、基本的にはいままでのBON JOVIの路線から大きく変わるものではありません。良くも悪くも大いなるマンネリといった感も。

評価:★★★★

BON JOVI 過去の作品
Lost Highway
THE CIRCLE
GREATEST HITS-THE ULTIMATE COLLECTION
What About Now
Burning Bridges
This House Is Not For Sale
2020

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2024年7月20日 (土)

人気ラッパーと人気プロデューサーのコラボ

Title:WE DON'T TRUST YOU
Musician:Future&Metro Boomin

Title:WE STILL DON'T TRUST YOU
Musician:Future&Metro Boomin

今やヒットシーンの中で代表的なジャンルとなったトラップの第一人者であるアメリカのラッパー、Futureと、数多くのラッパーと組んでヒット曲をリリースしてきたプロデューサー、Metro Boominがコラボを組んだアルバム。3月に「WE DON'T TRUST YOU」というアルバムをリリースしたかと思えば、4月にはその続編となる「WE STILL DON'T TRUST YOU」という、前作から呼応したユニークなタイトルのアルバムを2枚組というボリュームでリリースし話題となっています。

Futureはデビューから既に10年以上活躍し続ける中堅ラッパーで、毎作、ヒットを飛ばしていますが、今回のニューアルバムも2作とも難なくチャート1位を獲得。その人気のほどを見せつけています。それだけの人気を誇るラッパーなだけに今回のアルバムに関しても参加しているミュージシャンが超がつくほど豪華。「WE DON'T TRUST YOU」ではthe WeekndやTravis Scott、Kendrick Lamar、「WE STILL DON'T TRUST YOU」では同じくthe WeekndやJ. Cole、ASAP Rockyといった日本でもおなじみの有名ラッパーが名を連ねています。

その2作連続してリリースされた今回のアルバムですが、その両者の違いは明確。どちらもトラップらしいリズミカルな哀愁たっぷりのサウンドが流れるのですが、「WE DON'T TRUST YOU」は基本的にはラップのアルバム。一方、「WE STILL DON'T TRUST YOU」では歌モノがメインのアルバムとなっています。ただ、「WE DON'T~」でもラップとはいえ、歌心のあるメロディアスなフロウを聴かせてくれますし、「WE STILL~」でも比較的ダウナーで淡々とした歌も多いので、続けて聴いてひとつの作品と感じらえるような構成になっていました。

また、基本的にダウナーなメランコリックな作風の曲が続いており、全体として似たタイプの曲が多い印象も。そのような中で、「WE DON'T TRUST YOU」ではKendrick Lamarが参加している「Like That」のちょっと物悲しい感じの語るようなラップが印象的。Rick Rossが参加している「Everyday Hustle」のくすんだ雰囲気のラップとサウンドも耳を惹きます。一方、「WE STILL DON'T TRUST YOU」では、The Weekndが参加している「All to Myself」のメロウなソウルチューンが絶品。「Right 4 You」も、懐かしいBoyz Ⅱ Menの「End Of The Road」のワンフレーズが用いられているメロウなナンバーとなっています。

ある意味、目新しさや「これ」といった楽曲は正直ないのですが、良い意味で安心して聴けるアルバムだったと思います。似たようなタイプの曲が多いとはいえ、それなりにバリエーションも加え、「WE DON'T~」は1時間弱、「WE STILL~」は1時半弱、しっかりと聴き切れるボリュームになっていました。メロウでポップな要素も強いアルバムなので、HIP HOPリスナーだけではなく比較的幅広いリスナー層が楽しめそうな作品です。

評価:どちらも★★★★


ほかに聴いたアルバム

Lives Outgrown/Beth Gibbons

イギリスのロックバンド、Portisheadのボーカリストによる初のソロ作。基本的にはアコースティックなサウンド主体でメランコリックに、かつダウナーに聴かせる作風ですが、所々にヘヴィーなギターサウンドやバンドサウンドも加わり、ダイナミックさも感じる構成に。彼女の伸びやかな歌声も大きな魅力。全体的には落ち着いた雰囲気のアルバムですが、時折加わるダイナミックなサウンドにロックな要素も強く感じ、思わず聴き入ってしまうようなアルバムでした。

評価:★★★★★

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2024年7月15日 (月)

グラミー賞受賞で知名度が一気にアップ

Title:Night Reign
Musician:Arooj Aftab

前作「Vulture Prince」が大きな話題を呼んだアメリカはニューヨーク・ブルックリンを拠点に活躍するパキスタン出身の女性シンガーソングライター。前作の時点で、日本では完全に無名のミュージシャンで、前作を聴いた当時はGoogle検索をかけても日本語のサイトは皆無という状況でした。しかし、前作が大きな評価を受け、グラミー賞ではなんと最優秀新人賞にノミネート。こちらは残念ながら受賞は逃したものの、最優秀グローバルミュージックパフォーマンス賞を受賞。それに伴い日本での知名度も一気に上がり、現時点でGoogle検索をかけるとレコード会社やCDショップ、音楽系メディアの彼女の日本語の紹介記事がズラリと並ぶ結果となっています。

前作では、彼女の美しい伸びやかな歌声とエキゾチックな雰囲気あふれるアコースティックなサウンドが見事に融合し、独特の幽玄的なサウンドを作り上げている傑作アルバムとなっていました。今回のアルバムに関しても基本的にその方向性は変わりありません。まさにアルバムの冒頭を飾る「Aey Nehin」は、まさに低音部を利かせ、ちょっと気だるさを感じさせつつも美しいボーカルと、エキゾチックなアコギの音色がピッタリとマッチ。

続く「Na Gul」はジャジーなピアノをバックに、美しくも伸びやかなボーカルを聴かせる楽曲。もともと本作は、マ・ラカ・バイというインドの詩人によるウルドゥー語の詩を中心に構成されたアルバムだそうで、この曲は、その詩人によるウルドゥー語の詩に曲をつけた1曲。ウルドゥー語の独特の1曲。さらに次の「Autumn Leaves」はスタンダードナンバーの1曲なのですが、トライバルなパーカッションも入り、独特のエキゾチックな雰囲気がムンムンあふれる1曲となっています。

この「Autumn Leaves」に続く「Bolo Na」も非常にダークな低音で聴かせる不気味さを感じる曲で、美しく清涼感あふれる前半からガラッと変わった中盤へ。さらにその後は再び清涼感のある明るいナンバーへとシフト。特に後半では「Reat Ki Rani」の哀愁あふれる歌が心に響きますし、「Whiskey」でも美しいアコースティックギターの音色をバックに歌い上げる彼女のボーカルの美しさに心を捉えられます。

最初にも書いたとおり、前作と同様、エキゾチックさを感じさせるアコースティックでジャズの要素も入ったサウンドに、ほどよくトライバルな要素も加わり、低音部を聴かせつつ、伸びやかで美しく聴かせる彼女のボーカルのバランスが実に素晴らしい傑作アルバム。前作も2021年の私的年間ベストアルバムの7位に本作を選びましたが、今回も間違いなく年間ベスト候補と言える傑作アルバムに仕上がっていました。前作以降、日本での知名度のグッと上がった彼女。これだけの傑作をリリースするだけに、まだまだその人気は高まりそうです。

評価:★★★★★

Arooj Aftab 過去の作品
Vulture Prince


ほかに聴いたアルバム

POST HUMAN: NeX GEn/BRING ME THE HORIZON

2020年にEPをリリースしつつも、オリジナルフルアルバムとしては約5年8ヶ月ぶりとなるイギリスのヘヴィーロックバンドの新作。メタルやハードコアの影響を受けつつ、メランコリックなメロディーラインと、打ち込みを入れつつ、これでもかというほど分厚くしたバンドサウンドが特徴的。日本で言えば、完全にONE OK ROCKやMY FIRST STORY、coldrainあたりがこのバンドの流れを組むようなサウンドを奏でていますが、新作はまさにBMTHらしさ全開のアルバムに。前述の日本のバンドが好きなら、まずは聴くべき1枚。

評価:★★★★

Silence Is Loud/Nina Archives

イギリスのブラッドフォード出身のシンガーソングライターによるフルアルバムとしてはデビュー作。UKのクラブ/ジャングルシーンの中心人物として注目を集めているそうですが、終始、軽快なジャングルのビートが鳴り響く中、キュートさも感じる彼女のボーカルでポップに歌い上げている作品。クラブシーンで注目を集めつつ、作品はいい意味でポップにまとまっていて、いい意味で広いリスナー層が楽しめそうなポップな内容に仕上がっていました。

評価:★★★★★

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2024年7月14日 (日)

60年代ポップのいいとこ取り

Title:A Drema Is All We Know
Muscian:The Lemon Twigs

ブライアン・ダダリオとマイケル・ダダリオの兄弟による、アメリカのロックデゥオ、The Lemon Twigsの、ちょうど1年ぶりとなるニューアルバム。ここ最近、立て続けに優れたポップなアルバムをリリースし、注目度や評価があがっている彼ら。評価の高かった前作からわずか1年でリリースされた本作もまた、注目高まる彼らへの期待にしっかりと応えたアルバムに仕上がっていました。

まずアルバムの感想を一言で言ってしまえば、これでもかというほど心地よいキュートなギターポップの並ぶ作品となっています。今回のアルバムに関して、彼ら自身「マービー・ビーチ」なる造語で表現しています。こちら音楽的にリバプールとローレル・キャニオン(=カリフォルニアにある60年代から70年代にかけて、数多くのミュージシャンたちが住んでいた地域)と表現しており、要するに、60年代のマージー・ビートと、ビーチ・ボーイズやママス&パパスのような60年代のアメリカ西海岸のポップソングを融合させたような音楽ということを表現したのでしょう。

そんなリバプールのサウンドもローレル・キャニオンのサウンドも、非常にキュートなメロディーラインを聴かせてくれるポップスという共通項がありますが、今回のアルバムはそんな両者の楽曲の良いとこ取りをしたポップスが並ぶ作品になっています。まず1曲目「My Golden Years」の最初のギターのストロークから、思わずガッツポーズをしてしまうようなポップスリスナーも多いのではないでしょうか。ポップでちょっぴり切ないキュートなギタポの本作。まさに「マービー・ビーチ」ということを実感させられる本作。個人的にはどこかラーズや、80年代のギタポの要素も感じます。

「They Don't Know How To Fall In Place」もギターのエフェクトがいかにも60年代的ですし、途中に入るハーモニーも、60年代フォークの影響を色濃く感じるキュートでポップな作品。タイトルチューンの「A Dream Is All I Know」も、ちょっぴり切ないメロディーが心地よいポップソング。イントロにテルミンを入れていたり、隠し味的に入っているサイケな楽曲に深みを与えています。

ミディアムチューンでドゥーワップの要素を入れた「In The Eyes Of The Girl」は、マージービートというよりもアメリカの色合いの強いポップス。軽快なバンドサウンドで楽しさと切なさを同居させたような「How Can I Love Her More?」も、いかにも60年代的なポップスで、耳を惹きます。

絶妙なハーモニーが実に美しく、暖かいメロディーを聴かせてくれる「Ember Days」も魅力的ですし、マイナーコードでちょっと怪しい雰囲気を醸し出す「Peppermint Roses」も、こちらはマージービートの色合いの強いナンバーで耳を惹きます。そしてラストを飾るのは「Rock On(Over and over)」で、タイトル通り、ノイジーなギターサウンドも耳を惹くロックンロールのナンバー。こちら懐かしい60年代的な雰囲気満載で、アルバムは幕を下ろします。

まさに前述した通り、英米の60年代ポップスのいいとこどりしたような、これでもかというほどキュートでポップなアルバム。もっと言えば、うっすら80年代ギタポの影響も感じられ、そういう意味では今から昔に至るまでのポップソングをいいとこどりした感じもあり、そりゃあ、これだけの傑作が生みだされるような、といった印象も受けます。もちろん、それはネガティブな意味ではなく、昔の曲のいいとこどりしつつも、これだけの優れたポップソングにまとめあげているのは彼らの実力。申し分ない傑作アルバム、それも今年を代表する1枚と言ってもいい作品に仕上がっていました。

ただ、残念ながらチャートアクションはあまり芳しくなく、スコットランドチャートでベスト10入りしているものの、アメリカビルボードでは圏外。イギリスでもダウンロードチャートで24位にランクインしている程度に留まっており、ブレイクにはまだほど遠い状況となっています。ただ日本では、ビルボードチャートで82位にランクイン。こちらもチャート下位とはいえ、洋楽が苦戦している日本の状況を考えると、英米でブレイクしていない彼らがチャートインしてくることがある意味快挙で、それだけ日本での注目度の高さを伺えます。いわば「ビッグ・イン・ジャパン」的な立ち位置になるのでしょうか?でも、これだけ優れたポップソングを書くバンドなだけに、いずれ英米でも人気は高まるはず。日本での人気の高さに日本人の先見性の高さを誇りたいところ。これからの活躍に期待です。

評価:★★★★★

The Lemon Twigs 過去の作品
Songs For The General Public
EVERYTHING HARMONY


ほかに聴いたアルバム

Blue Electric Light/Lenny Kravitz

ちょっと久しぶり、約6年ぶりとなるレニー・クラビッツのニューアルバム。今回のアルバムも実に彼らしさを感じるアルバムで、ほどよくヘヴィーでノイジーなテンポのよいギターサウンドが心地よく、いかにも「ロック然」とした楽曲が並んでいます。ギターサウンドの中にほどよくエレクトロサウンドを取り入れている点も、楽曲にダイナミズムを増してほどよいインパクトに。目新しさはありませんが、レニー・クラビッツを聴いた、ロックを聴いたという満足感を覚えるアルバムになっていました。

評価:★★★★

Lenny Kravitz 過去の作品
Black and White America
Strut
Raise Vibration

66/Paul Weller

66歳の誕生日の前日にリリースされた、ポール・ウェラー兄貴のニューアルバム。四捨五入して70歳という年に達しても、まだまだ現役感あふれる活動で元気いっぱいの兄貴。ただ、楽曲の円熟味は以前に増しているような感もあります。今回もムーディーな雰囲気の、いかにも「大人のロック」といった雰囲気の曲が並ぶアルバムに。卒はない、といった印象もありますが、完成度も高く、大ベテランの彼らしいアルバムに仕上がっていました。最近は70歳を過ぎても元気いっぱいなロックシンガーも少なくありませんが、彼もまだまだ元気にその活動を続けてくれそうです。

評価:★★★★

Paul Weller 過去の作品
22 DREAMS
Wake Up The Nation
Sonik Kicks
A Kind Revolution
True Meanings
In Anohter Room
Fat Pop
An Orchestrated Songbook

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