アルバムレビュー(洋楽)2024年

2024年12月24日 (火)

中年Tylerの想いを綴った新作

Title:CHROMAKOPIA
Musician:Tyler, The Creator

Chromakopia

早いものでソロでは7枚目となるTyler,The Creatorのニューアルバム。今回のアルバムはいままでにない内省的なアルバムとして大きな話題を呼んでいます。まずなんといっても話題なのは、作中のナレーター役として、彼の母親、ボニータ・スミスを起用。アルバムの中でも母親らしい彼女の諭しの言葉が散りばめられているそうです。

Tyler,The Creatorといえば、20才の時にソロアルバム「Goblin」をリリース。その露悪的なイメージが良くも悪くも話題を呼びました。そんな彼ももう33歳。列記とした大人の男性となっています。特に今回のアルバムでは、中年の域を迎えての彼としての迷いが表現されているようで、母親の期待に応えられなかった自分と、一方で自分らしい人生を歩みたいという希望の間に悩む姿が描かれているそうです。

特に後半の「Take Your Mask Off」では「And I hope you find yourself/And I hope you take your mask off」(そしてお前が自分自身を見つけられることを望む/そしてお前がそのマスクをはずせることを望む)と、まさに中年を迎えて自分らしさとは何か、迷うような姿をストレートに描写した、内省的な歌詞も特徴となっています。

・・・ということを書いているのですが、もちろん、全英語詞。それもスラングなどを含んでわかりにくい歌詞の内容をそのまま理解できる訳もなく、アルバムの歌詞の内容については、雑誌やWebメディアの紹介記事のほぼ受け売りな訳ですが(苦笑)、ただ一方で、そんな歌詞の内容を理解できなくとも、今回のアルバムは純粋にリズミカルなラップとそのトラックを十分に楽しめる傑作に仕上がっていました。

特に全編、バラエティー富んだトラックが魅力的で、ゴスペル風なコーラスが入りつつ、一転、強いビートでダイナミズムに展開する「St.Chroma」からスタートし、メランコリックでちょっと不気味なトラックが魅力の「Rah Tah Tah」に、ギターサウンドが入ってダイナミックに聴かせる「Noid」と、様々なタイプの作品が続きます。

「Darling,I」では、シンセのメロウなトラックで、メランコリックな歌も。アコギと美しいハーモニーでメランコリックに聴かせるも、リズムにトライバルな要素が加わっているのがおもしろい「I Killed You」や、ボーカルパートがコミカルな「Sticky」などなど、最後までバラエティーに富んだトラックが並んでおり、耳が離せません。

そろそろ発表されている、2024年の各種メディアでの年間ベストアルバムでも軒並み上位にランクインしており、今年を代表する傑作と称されている本作。確かに非常に出来のよいアルバムで、その理由も納得が行きます。内省的な歌詞も話題ですし、その歌詞がストレートにわからない私たちにとっても、そのラップやトラックで十分すぎるほど楽しめる傑作アルバム。あらためて彼の実力を認識できた作品でした。

評価:★★★★★

TYLER,THE CREATOR 過去の作品
Goblin
Wolf
CHERRY BOMB
Flower Boy
IGOR
CALL ME IF YOU GET LOST


ほかに聴いたアルバム

SABLE,/Bon Iver

Sable

Bon Iverの実に約5年ぶりとなる新作は4曲入りのEP。さらに1曲目はわずか12秒のオープニング的な作品なので、3曲のみの事実上のシングルとも言っていい内容。ただ、その3曲については基本的にギターと歌のみのシンプルな作品になっているのですが、彼らしい狂おしいほど美しい音色と歌を聴かせてくれる珠玉のポップミュージックが並ぶ内容になっており、5年というインターバルの後でリリースされる作品としては非常に充実感の強い作品になっています。来るフルアルバムは、また年間ベストクラスの傑作になりそうです。

評価:★★★★★

Bon Iver 過去の作品
Bon Iver
iTunes Session
22,A Million
i,i

Patterns in Repeat/Laura Marling

当サイトで取り上げるのは今回が初めてですが、イギリスの最高音楽賞ブリッド・アワードの受賞経験があり、グラミー賞にもノミネートされたことのあるイギリスのシンガーソングライター。アコギをベースにストリングスやフルート、曲によってはエレピなどを取り入れつつも、基本的にシンプルなサウンドで暖かくフォーキーに聴かせる曲がメイン。メランコリックなメロディーラインに彼女の美しいボーカルで暖かく聴かせてくれる歌が特徴的。目新しさはないものの、暖かいポップが胸に響く作品で、高い評価も納得の、彼女の才能を感じさせる作品でした。

評価:★★★★★

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2024年12月22日 (日)

原点回帰を感じさせる高揚感ある楽曲も

Title:Strawberry Hotel
Musician:Underworld

ご存じ、日本でも高い人気を誇るイギリスのテクノユニット、Underworldのニューアルバム。今年はサマーソニックでもヘッドライナーをつとめるなど、相変わらずの人気の彼ら。直近のアルバム「DRIFT SERIES 1」から早くも5年というインターバルを経てのアルバムとなっています。また、前作「DRIFT SERIES 1」も、「DRIFT」というプロジェクトに沿ってリリースされたEPの寄せ集め的なアルバムだったので、純然たるオリジナルアルバムとしては2016年の「Barbara Barbara, We Face a Shining Future」以来、実に約6年半ぶりとなるニューアルバムとなりました。

今回のアルバム、特に前半に関しては、原点回帰という言葉も飛び出すような、実にUnderworldらしい心地よくリズミカルなテクノチューンの並ぶ作品となっていました。特に2曲目の「denver luna」が秀逸で、疾走感あるリズムで、徐々に高揚していくかのようなサウンドは、彼らの代表曲である「Born Slippy」を彷彿とさせるかのよう。続く「Techno Shinkansen」も、タイトルからして日本人にはなじみあるのですが、新幹線に乗っているかのような疾走感あるテクノチューンが心地よい楽曲。ちなみに同作のMVでは、「テクノ新幹線」という日本語が登場するのと共に、新幹線からの風景をサンプリングした映像が流れており、日本人には必見のMVとなっています。

さらにこれらのナンバーに続く「and the colour red」もリズミカルなビートとミニマルなサウンドで心地よくトリップできそうなアシッドハウスな楽曲。そしてそれに続く「Sweet Lands Experience」まで、前半はUnderworldの王道を行くような、聴いていて素直に心地よいリズミカルなテクノチューンが続きます。

ただ、ちょっと雰囲気が変わるのはここからの後半で、全体的にメランコリックな雰囲気を漂わせる曲調が特徴的。哀愁感のある歌が入る「Burst of Laughter」や、Underworldらしい高揚感あるリズムを聴かせてくれるものの、全体的にメランコリックなサウンドを聴かせる「King of Haarlem」。さらには、「denver luna」のアカペラバージョンも登場し、こちらは曲が持っていたメランコリックな側面をより強調したアカペラとなっていました。

さらに終盤の「Gene Pool」「Oh Thorn!」はアップテンポながらもドリーミーな雰囲気でちょっとチルアウト気味。さらにアメリカのフォークシンガーNina Nastasiaをボーカルに迎えた「Iron Bones」も同じく、フォーキーな歌モノの楽曲。さらにラストの「Stick Man Test」はなんとギターのアルペジオでしんみり聴かせる作品で締めくくり。終盤はチルアウトな展開でアルバムは幕を下ろします。

正直、前半の高揚感あふれるナンバーがもっと後半まで続いてほしかったな、という印象も受けなくもなかったのですが、ただ、それはそれとして、後半のメランコリックなナンバーにも耳を惹く作品も多かったですし、なによりも、前半、中盤そして後半と、様々な作風が展開される構成は、最後まで飽きることなくアルバムを聴くことが出来る作品。単純なフロア志向ではなく、ミュージシャンとしての幅広い音楽性も感じられるアルバムになっていたと思います。

とはいえ、本作の特に前半に関しては高揚感あるリズムとサウンドが心地よく、ライブでも一度体験してみたいなぁ。基本的にフェスなどでの出演も多い彼らですが、単独ライブで全国をまわってくれないかなぁ。

評価:★★★★★

UNDERWORLD 過去の作品
Oblivion with Bells
The Bells!The Bells!
Barking
LIVE FROM THE ROUNDHOUSE
1992-2012 The Anthology
A Collection
Barbara Barbara, we face a shining future
Teatime Dub Encounters(Underworld&Iggy Pop)
DRIFT Episode1 "DUST"
DRIFT Episode2 "ATOM"
DRIFT Episode3 "HEART"
DRIFT SERIES 1 - SAMPLER EDITION


ほかに聴いたアルバム

SUPERCHARGED/THE OFFSPRING

日本でも人気のアメリカのパンクロックバンド、オフスプリングの約3年半ぶりとなるニューアルバム。マイナーコード主体ながらも陽気でポップなパンクチューンの連続。正直、目新しさはほとんどなく、ある意味、いつも通りのオフスプ。紋切型的な楽曲が並ぶのはいつも通り。ただ一方で、その分、難しいこと抜きに、素直に楽しめるポップなアルバムになっていた点もいつも通りでした。

評価:★★★★

THE OFFSPRING 過去の作品
RISE AND FALL,RAGE AND GRACE
DAYS GO BY
Let The Bad Times Roll

In Session(Deluxe Edition)/ALBERT KING WITH STEVIE RAY VAUGHAN

ブルースギタリストのレジェンド、Albert Kingと、白人ブルースギタリストの代表的なミュージシャン、Stevie Ray Vaughanによる歴史的なセッションをおさめたアルバム。もともとは1983年12月にカナダでのテレビ番組用に収録されたライブ音源。1999年にCDリリースされた後、2010年にはDVD付で再リリース。さらに今回、いままでCD音源では未収録だった「Born Under a Bad Sign」、「Texas Flood」、「I'm Gonna Move to the Outskirts of Town」の3本を追加収録。リマスターを施されて完全版としてリリースされました。2人のレジェンドギタリストの共演ということで、その迫力あるパフォーマンスが楽しめるのですが、2人のギターのヒリヒリするようなやり取り・・・というよりは、大御所ギタリストと、そんな彼を慕う後輩ギタリストのプレイということで、和気あいあいとした、肩の力が抜けたようなプレイが魅力的です。ただ、CD音源未収録だった3曲に関しては、2010年リリースのDVDの方には収録済。また、2010年のバージョンは私も入手しているのですが、DVDで見た映像での2人の共演の方が魅力的だったので、こちらを再発してほしい感も。Amazonでは中古を含めて品切れ状態のようですし・・・。とはいえ、この音源自体は素晴らしい内容なので、↓の評価で。

評価:★★★★★

ALBERT KING WITH STEVIE RAY VAUGHAN 過去の作品
In Session

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2024年12月13日 (金)

期待のガールズロックバンドの2作目

Title:No Obligation
Musician:The Linda Lindas

2022年にリリースしたデビューアルバム「Growing Up」が話題となり、同年にはサマソニにも出場。注目を集めたアメリカの4人組バンド、The Linda Lindas。メンバーは女性4人組で、最年長のギターボーカルのベラ・サルザールでもまだ20歳。最年少のドラムス、ミラ・デラガーザに至っては14歳という若さも話題となりましたが、日本人的に一番注目を集めたのはやはりこの「The Linda Lindas」という名前。この名前は2005年の日本映画「リンダ リンダ リンダ」に由来する名前。ちなみにこの映画のタイトルはもちろん、ブルーハーツの名曲「リンダリンダ」に由来しています。メンバーは全員、アジア系、ラテン系、またはアジア系とラテン系のハーフということで、日系かと思いきや、中国系ということで出自的には日本と関わりはないものの、ただ、やはり日本人的にもなじみを感じてしまいます。

一方、平均年齢が10代という女の子4人組バンド・・・ながらも、楽曲的にはかなりパワフルなパンクロックを聴かせてくれる点も大きな魅力。本作は1曲目「No Obligation」からいきなりタイトルチューンからスタートするのですが、しゃがれ声のボーカルで疾走感あるギターサウンドを聴かせてくれるハードコアパンクな楽曲からスタート。いきなりガツンとヘヴィーなナンバーからスタートとなります。

ただ、アルバム全体としてはヘヴィーな作風よりもむしろポップな楽曲が目立つ内容。続く「All In My Head」は、むしろアヴィリル・ラヴィーンあたりを彷彿とさせそうなギターポップな楽曲となっていますし、「Once Upon A Time」なども軽快でリズミカルなポップチューン。後半の「Don't Think」なども、むしろキュートさすら感じられるポップなメロが特徴的なギターロックのナンバーとなっています。

もちろん「Too Many Things」のような、メロディーこそポップながらもヘヴィーなギターサウンドを前に押し出したような作品や、同じくパンキッシュな「Resolution/Revolution」のような楽曲、さらには「Excuse me」でも、「No Obligation」同様、ちょっとデス声気味のがなり声でヘヴィーに聴かせる楽曲に。ポップな要素とヘヴィーな要素がほどよくバランスされた構成に仕上がっていました。

そしてもうひとつ印象的なのは、前述の通り、平均年齢10代というバンドであるにも関わらず、90年代あたりのインディーロックやパンクロックの影響が強く、ある種のなつかしさを覚える点でしょう。インタビュー記事などを読むと、影響を受けたバンドとしてヤー・ヤー・ヤーズやダム・ダム・ガールズなど2000年代以降のバンドを挙げており、単純にオールド志向といった感じでもないのですが、90年代のインディバンドから2000年代のバンドを通じて、その精神や音楽性が脈々と受け継がれている、といった感じなのでしょうか。

前作でも目新しさという面では物足りなさを感じました。今回のアルバムに関してはパンクロック以上にポップな歌を聴かせるような路線によりシフトした感はありますが、やはり目新しさという点ではちょっと不足気味。売上面ではまだブレイクには至っていないものの、そこらへんの物足りなさが影響しているのかもしれません。ただ、その点を差し引いても、まだまだ伸びしろのある彼女たち。今後に期待したいところ。次回作以降も要注目です。

評価:★★★★

The Linda Lindas 過去の作品
Growing Up


ほかに聴いたアルバム

City Lights/The WAEVE

ご存じblurのグラハム・コクソンとThe Pipettesのメローズ・エリナー・ドゥーガルによる2人組ユニット、The WAEVEの2枚目となるアルバム。アコースティックなサウンドを取り入れたカントリーテイストの作品もあるものの、基本的にはギターサウンド主導のメロディアスな作品がメイン。特に後半は分厚いサウンドでドリーミーに聴かせる曲も目立ちます。バラエティーに富んでいた前作に比べると、楽曲のバリエーションは限定的になったものの、その分、バンドとしての方向性は明確になった感じも。

評価:★★★★

The WAEVE 過去の作品
The Waeve

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2024年12月 9日 (月)

90年代に一世を風靡したバンドのレア音源集

キュートなボーカルとポップなメロで、90年代に日本でも一世を風靡したスウェーデンのバンド、The Cardigans。かなり久しぶりに聞いた名前ですが・・・今回、そんな彼女たちのアルバム未収録音源などを収録したレア音源集が2枚同時にリリースされました。

Title:The Rest Of The Best - Vol.1
Musician:The Cardigans

Title:The Rest Of The Best - Vol.2
Musician:The Cardigans

個人的にも、大学時代にoasisやblurと並んで、大好きではまっていたバンドの一つだっただけに、久々に彼女たちのアルバムを聴いてみて、懐かしいという気持ちがいっぱいです。収録されている音源は、シングルのカップリングやサントラへの提供曲、限定リリースされたリミックス版や、日本、フランス、イギリスでリリースされたアルバムのボーナストラックに収録された曲が収録されているそうです。

また、今回、完全に初のアルバム収録曲・・・ばかりではなく、日本及びオーストラリアの限定リリースで1997年にレア音源集「The Other Side Of The Moon」をリリースしており、多くの曲が同作と重複していますし、2008年にリリースした「ベスト・オブ・カーディガンズ」のデラックスエディションに収録されていたレア音源とも重複しています。ただ、両作とも、既に製造中止しているため、本作をリリースする意味はあるのですが。ただ、同作は個人的にリアルタイムで聴いていた音源。うっすらと聴き覚えのあるような曲もあるのは、その時聴いていたからでしょうか・・・。

今回、レア音源集ということなのですが、本作の収録曲を聴き、あらためてThe Cardigansというバンドが実に魅力的だったなぁ、ということを強く感じました。本作収録曲でも、アルバム未収録曲とは思えないようあ充実したポップ作も少なくありません。例えばVol.1の冒頭に収録されている「Pooh Song」もそんな1曲でしょう。1994年にリリースしたシングル「Sick&Tired」のカップリング曲なのですが、非常に温かみがあるサウンドとキュートでポップなメロディーラインが実にカーディガンズらしく魅力的。Vol.2に収録されている「(If You Were)Less Like Me」もメロにインパクトがあり魅力的。(おそらく)後期の作品らしく、ボーカルのニーナには大人の魅力を感じさせますし、バンドもロックテイストが強くなり、力強いサウンドが魅力的。こちらは後期カーディガンズの魅力を感じさせる曲となっています。

一方、ただ単純に、暖かいサウンドとキュートなメロのポップバンドというだけではなく、例えばVol.1収録の「Blah Blah Blah」は微妙にひねくれたメロとサウンドに妙なインパクトがありますし、「War(First Try)」のような、ヘヴィーなバンドサウンドを入れて、ロックな側面を強調した曲も。Disc2では「Hold Me」のようなブルージーなギターを聴かせる作品も聴かせてくれたりします。

収録曲は、Vol.1は比較的初期の作品、Vol.2は後期の作品が収録されているようで、そのため、Vol.1ではおそらく日本でのカーディガンズの一般的なイメージに沿ったような、キュートなポップソングが多く、一方、Vol.2では後期カーディガンズで聴かせてくれたような、哀愁感ただよう大人の雰囲気の楽曲が多く収録されています。レア音源集でありつつ、カーディガンズの歩みも感じられる構成になっていました。

ちなみに大ヒットした「Carnival」「Lovefool」は「Puck Version」として収録。こちらは以前、アナログ盤でリリースされたリミックス盤に収録されていたバージョンのようで、アコギ1本で物憂げな雰囲気で聴かせるナンバー。「Carniva」に至っては、ボーカルがニーナではありません(おそらくギターのピーターか?)。ただ、原曲の持つポップスさはそのままで、これはこれで魅力的な楽曲となっています。

レア音源集ということでデモ音源も多く入っていますが、ただ、どれも楽曲としては完成しており、デモ音源でありがちな、明らかに未完成な作品というのはありません。そういう点も含めて、レア音源集とはいえ、基本的にカーディガンズの魅力をしっかりと伝えてくれるような「アナザーベスト」のようなアルバムに仕上がっていました。これが最初の1枚、というのはさすがに厳しいかもしれませんが、少なくともコアなファン向けではなく、カーディガンズというバンドを知っている方だったら、間違いなくお勧めできるアルバム。今は、彼女たちは活動休止状況のようですが、かのoasisも活動を再開させた今、彼女たちも再び、本格的に活動を再開してくれないかなぁ。

評価:どちらも★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Beautiful Happening/Fairground Attraction

1988年にリリースしたデビューシングル「Perfect」が大ヒットを記録。それに続くアルバム「First Kiss」も大ヒットを記録し、一躍注目を集めるものの、1990年に突然解散したFairground Attraction。「First Kiss」はいまだに名盤という評価を受け、伝説のバンドとすらなっていた彼らでしたが、なんと昨年、奇跡の再結成を発表。そしてついにリリースされた2枚目となるアルバムが本作です。

作品は全編、アコースティックギターがメインのフォーキーで暖かい作風。楽曲によっては、ブルースやカントリーの要素も入れつつ、全体的には優しくも懐かしさを感じさせるフォークロックな作風となっています。そのため、全体的に地味という印象も否めず・・・。とはいえ、メロディアスなメロディーラインは魅力的ではあり、35年以上の年月を経て、いまだにその実力を感じさせてくれる1枚でした。

評価:★★★★

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2024年12月 7日 (土)

懐かしくも新しい2000年代にフォーカス

Title:Y2K!
Musician:Ice Spice

最近、アメリカで注目度が急速に高まっている女性ラッパーIce Spice。昨年リリースした「Like...?」は当サイトでも紹介しましたが、昨年はイギリスのシンガーソングライターPinkPanthernessとコラボした「Boy's a Liar Pt.2」がビルボードで3位、Nicki Minajとコラボした「Pincess Diana」が4位、さらには同じくNickiとコラボした「Barbie World」が7位と3曲がベスト10入り。一気に注目を集めました。

前作「Like...?」はEP盤でしたので、純然たるオリジナルアルバムとしては初となる本作。「Y2K」というタイトルは、ある一定以上の世代の方についてはちょっと懐かしさを感じさせる言葉ですが、彼女の誕生日である2000年1月1日にちなんでつけられた名前だとか。しかし、誕生日が2000年の1月1日というのはすごいですね・・・。

楽曲は、前作同様、全編、強いエレクトロビートがとにかく耳を惹く、リズミカルでダンサナブルなトラックがインパクト大。ちょっと不気味な雰囲気の「Phat Butt」からスタート。続く「Oh Shhh...」ではTravis Scottがゲストで参加。ただ、どちらかというとTravis Scott的な要素以上にIce Spiceらしさが前に出たような作品に。逆に同じくラッパーのGunnaが参加した「...Bitch I'm Packin'」ではトラップ色が強くなっており、こちらはゲスト側の影響でしょうか。

他にもメロディアスなフレーズが流れ、ポップに聴かせる「Did It First」や、ビートにトライバルな要素が加わった「Gimmie A Light」「GYAT」、どこかメランコリックさを感じるラップに、ポップさを感じる「Think U The Shit」など、バラエティーを加えつつ、ただ、全体的にはヘヴィーなエレクトロのビートをリズミカルに聴かせるスタイルのラップがメイン。正直、そういう意味では似たようなタイプの曲が多いのですが、一方でアルバム全体としても11曲25分という短さで、そのため、似たタイプの曲が多くても、最後まで飽きることなく一気に聴いてしまえるアルバムとなっていました。

また、今回のアルバムの大きな特徴なのが2000年代前後のヒット曲をサンプリングしている点。例えば「Phat Butt」ではDem Franchize Boyzの2004年のヒット曲「Oh I Think Dey Like Me」をサンプリング。「Gimmie A Light」では、Sean Paulの2002年のナンバー「Gimme the Light」からサンプリングしているなど、2000年前後のカルチャーを積極的に取り込んでいるとか。最近、2000年前後のファッションが再度注目を集めているそうですが、彼女もまた、流れに沿ったアルバムとなっています。日本でもかつて70年代が注目を集めたり、80年代が注目を集めたりしましたが、既に20年以上前になった2000年代。懐かしくも一定以下の世代には逆にある種の新しさを感じさせる点、注目を集めている要素でしょうか。(2000年代に青春期を過ごした世代が、会社の上席者となり、いろいろな意思決定が出来るような世代になった点も大きいかもしれませんが)

そんな懐かしくも新しい作品。ただ、HIP HOP等の詳しくない方にとっては、どこまで懐かしさを感じるのかは微妙なのですが…。ただ、リズミカルなエレクトロビートを軸とした楽曲は、HIP HOPをあまり聴かない層にとっても耳なじみやすく、25分という短さもあって、飽きることなく最後まで楽しめるアルバムになっていました。シングルのヒットにもかかわらず、本作はビルボードのHot Albumsではベスト10入りは逃しており、まだまだ彼女自身の人気の面ではこれからの部分もあるのですが、今後、さらなる人気の上昇も期待されます。今、もっとも注目すべきHIP HOPミュージシャンの一人であることは間違いないでしょう。今後の活躍にも注目です。

評価:★★★★★

Ice Spice 過去の作品
Like...?


ほかに聴いたアルバム

Absolute Elsewhere/Blood Incantation

アメリカのデスメタルバンドによる4枚目のアルバム。彼らのアルバムを聴くのは前々作「Hidden History Of The Human Race」以来となるのですが、ダイナミックでヘヴィーなバンドサウンドとデス声という組み合わせは、いかにもデスメタル然とはしているものの、今回のアルバムではエレクトロサウンドを取り入れたり、トライバルなリズムを取り入れたり、様式美に陥らない様々な試みがユニーク。バンドとしての挑戦心も感じられる作品でした。

評価:★★★★

Blood Incantation 過去の作品
Hidden History Of The Human Race

Maple to Paper/Becca Stevens

ジャズやフォークのジャンルで活躍するアメリカのシンガーソングライターによる新作。本編はすべて弾き語りによる作品で、アコースティックギターのみの演奏をバックにメランコリックに歌い上げる優しいボーカルが魅力的な作品に。清涼感あるボーカルで、時には優しく、時には切なくメランコリックに聴かせる歌声も魅力的な作品でした。

評価:★★★★

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2024年12月 3日 (火)

挑戦的でありつつ、懐かしさと暖かさも

Title:EELS
Musician:Being Dead

Eels

アメリカはテキサス州オースティンで活動する3人組インディーバンド、Being Deadの2枚目となるアルバム。デビュー作「When Horses Would Run」も一部で注目を集めたようですが、この2枚目となるアルバムは各種メディアでも高い評価を集め、注目のバンドとなっているようです。

楽曲は、オルタナ系のギターロックを主軸としつつ、同時にフォークソングの影響を受けているような楽曲で、オルタナ系ギターロックのドリーミーで、時としてダイナミックさを感じるサウンドに魅了されつつ、同時にフォークソングのなつかしさを同居している点が大きな特徴。また、ポップでキュートなメロディーラインは、オルタナ系ギターロックバンドとフォークソングの共通項とも言えるのでしょう。

実際、1曲目「Godzilla Rises」はまさにそんなギターロックのアレンジながらもメロディーラインはどこか懐かしさを感じさせるフォークロック風。続く「Van Goes」はむしろ80年代あたりのインディーギターロックを彷彿とさせる懐かしさを感じさせるポップなギターロックになっていますし、かと思えば「Nightvision」は、こちらはむしろ70年代的とすら感じさせる、懐かしいフォークロック風の楽曲に。

さらに「Love Machine」などは女性ボーカルで軽快なポップスとなっており、こちらはむしろネオアコ的な要素を感じさせる楽曲に。かと思えば「Gazing at Footwear」は不穏な雰囲気のノイジーなギターを前に押し出した作品となっており、リバーブをかけたボーカルも加わり、こちらはむしろサイケな作風となっています。

基本的にキュートでどこか懐かしさと暖かさを感じさせるポップなメロを軸に、バラエティー富んだ作風を聴かせる彼らですが、もうひとつ大きな魅力は、その歌を爽やかさを感じさせる男女のツインボーカルで歌われているという点。今回、詳細なバンドプロフィールは今一つわからなかったのですが、ジャケ写を見る限り、おそらく女性2人+男性1人というバンド編成のようですが、男女ボーカルを上手く組み合わせたボーカルスタイルが大きな魅力になっています。

例えば「Problems」では男女のボーカルのハモリが楽曲に暖かさを与えていますし、「Ballerina」は男女のやり取りがどこかコミカルさを感じさせる軽快でリズミカルなギターロックのナンバーとなっています。一方で「Big Bovine」では清涼感ある女性ボーカルで哀愁感漂う楽曲に仕上げていますし、全体的に非常に男女ボーカルの声質を上手く使い分けた楽曲が並んでいるように感じました。

フォークソングとオルタナ系の融合という意味では、同じようにカントリーとシューゲイザーの両方から影響を受けたWednesdayも思い起こされるのですが、アメリカではこの手のバンドが流行りつつあるのでしょうか。ただ、挑戦的な作風がありつつも、懐かしさと暖かさを同居されたメロディーやサウンドが非常に魅力的。今後、さらに注目を集めそうなインディーロックバンドの傑作です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

JAPANESE SINGLES COLLECTION-GREATEST HITS-/Huey Lewis & The News

1985年に、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の主題歌として起用された「The Power Of Love」が大ヒットを記録し、一躍ブレイクを果たしたアメリカのロックバンド、Huey Lewis&The News。日本でも人気を博した彼らの、本作は日本でのシングルを集めたおなじみのシリーズ。もちろん、前述の「The Power Of Love」も収録されています。彼らは現在でも活動を継続しているようですが、やはり基本的に人気を博していたのは80年代。そういうこともあって、楽曲は全体的にいかにも80年代なロックというイメージが。とにかくアップテンポで明るく、時としてシンセも加わったスタイル。徹底的に陽気さが前面に押し出されている作風は、社会全体が明るかったんだろうなぁ、ということを感じさせます。ポップな楽曲が素直に楽しいアルバムでした。

評価:★★★★

Electric Lady Studios:A Jimi Hendrix Vision/Jimi Hendrix

最近、権利関係が整理され、次々と新たな音源がリリースされているJimi Hendrix。今回は、彼の逝去直前の1970年6月から8月にかけて、エレクトリック・レディ・スタジオで収録された39曲が収録。うち38曲が未発表音源となっています。さらに、レコーディングスタジオ誕生を追ったドキュメンタリー「エレクトリック・レディ・スタジオ:ヴィジョン」がBlu-rayでついてくるという豪華なボックスセットになっています。ただ、未発表音源と言え、基本的には既発表曲のテイク違い。想像力あふれるジミのギタープレイはやはりカッコよく、魅力的とはいえ、デモ的な作品も多く、CDだけで3枚組というフルボリュームのアルバムは、やはりどちらかというとマニア向けといった感は否めません。熱心なファンなら、そのテイク違いを聴き比べて、曲の変化を楽しめそうですが・・・。

評価:★★★★

Jimi Hendrix 過去の作品
VALLEYS OF NEPTUNE
People,Hell And Angels
MIAMI POP FESTIVAL(THE JIMI HENDRIX EXPERIENCE)
BOTH SIDES OF THE SKY
Live in Maui
Los Angeles Forum - April 26, 1969(The Jimi Hendrix Experience)
Jimi Hendrix Experience: Live At The Hollywood Bowl: August 18, 1967

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2024年11月30日 (土)

RADIOHEADの詰め合わせ?

Title:Cutouts
Musician:The Smile

RADIOHEADのトム・ヨークが2020年に立ち上げた新バンドThe Smile。メンバーは同じRADIOHEADのギタリストであるジョニー・グリーンウッド、Sons of Kemetのドラマー、トム・スキナーの3人組。今年の1月に2枚目となるアルバム「Wall Of Eyes」をリリースしたばかりですが、それからわずか9か月という短いスパンで、早くもニューアルバムがリリースされました。

今回のアルバムは、OxfordとAbbey Road Studioで、前作「Wall Of Eyes」と同時期にレコーディングされた作品だとか。そういう意味では前作「Wall Of Eyes」とは姉妹盤のようなアルバムと言えるでしょう。その前作「Wall Of Eyes」は個人的にRADIOHEADが「OKコンピューター」の後にリリースしたかもしれないアルバム、と評しました。そういう意味では今回のアルバムも楽曲の方向性としては同じ。もっと言えば、いかにもRADIOHEAD的な作品を詰め合わせたようなアルバムと言ってしまえるかもしれない作品でした。

アルバム冒頭の「Foreign Spies」のスペーシーなエレクトロ路線もいかにもといった感じですし、「Instant Psalm」のようなアコースティックなサウンドをベースとして聴かせるメランコリックな歌は、こちらもいかにもトム・ヨークらしい、と言ってもいいかもしれません。特に「Colours Fly」のような、サイケ気味のギターサウンドでちょっと不気味に、でもメランコリックに聴かせるスタイルなど、いかにも「OKコンピューター」の頃のRADIOHEADというイメージがあります。

ただ、そんな中で印象に残るのがまず「Zero Sum」。こちらはリズミカルなドラムに、ファンキーさを感じる軽快なギターサウンドが特徴的。ちょっとサイケ気味なギターのエフェクトがトム・ヨークらしい感じもするのですが、ロックンロール的な色合いも感じさせる軽快なギターロックが、こちらはちょっとRADIOHEADとは異なる路線の、方向性も感じさせる曲になっています。

印象に残るという意味では、中盤の「Don't Get Me Started」も耳に残ります。最初は無機質なエレピのリフからスタートし、ドリーミーなトムの哀愁たっぷりの歌が重なります。後半にはここにトライバルなパーカッションが加わり、サイケさが増します。こちらはRADIOHEADらしさを感じさせる作品となっています。

後半には「The Slip」「No Words」のようなギターロック路線の作品も並び、こちらは「The Bends」のあたりのRADIOHEADも彷彿とさせる感じでしょうか。最後はアコギでフォーキーに聴かせる「Bodies Laughing」で締めくくり。最後はしっかりと「歌」で締めくくるアルバムとなっていました。

いろいろな挑戦的なサウンドを取り入れつつも、一方ではしっかりとしたメロディーラインの歌を聴かせて、意外とポップにまとめ上げている点も大きな特徴ですし、こちらもRADIOHEADに通じるものの。この点もトム・ヨークらしい、と言えるのかもしれません。前作と同様、一時期のRADIOHEADのような目新しさは少ないのかもしれません。ただ、こちらも前作と同様、トム・ヨークが演りたい音楽を演りたいように演ったアルバムと言えるかもしれません。前作同様の傑作アルバム。特にRADIOHEADが好きならたまらなく感じられる作品でした。

評価:★★★★★

The Smile 過去の作品
A Light For Attraction Attention
Wall Of Eyes


ほかに聴いたアルバム

In Wave/Jamie xx

イギリスのロックバンドThe xxのメンバー、ジェイミー・スミスのソロプロジェクト、Jamie xxの、実に約9年ぶりとなるニューアルバム。テンポよく軽快なエレクトロチューン。基本的にハウスの要素を強く感じさせつつ、楽曲によってはアンビエントの色合いが強い曲や、よりメロウなR&B的な色合いの強い曲、リズミカルなダンスチューンなど、バラエティー富んだ作風が魅力的。ただ、高揚感一歩手前の抑え気味なサウンドで、全体的には聴き終わった後、どうも印象が薄く感じてしまう点がちょっと気になってしまいました・・・。

評価:★★★★

Jamie xx 過去の作品
In Colour

Harlequin/Lady Gaga

Lady Gagaの新作は、映画「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」で自身が演じるキャラクターからインスパイアされた曲を収録したアルバム。インスパイアされて作成された新曲から、「聖者の行進」「ザッツ・エンターテイメント」「遥かなる影」などカバー曲も多く収録されています。楽曲的にはムーディーなジャズ風の曲からビックバンド風の曲など、レトロな楽曲が目立ちながらも、ヘヴィーなバンドサウンドを聴かせるロッキンなナンバーも。バラエティーを富み、ほどよくポップに聴かせる、Lady Gagaらしい作品になっていました。

評価:★★★★

LADY GAGA 過去の作品
The Fame
BORN THIS WAY
ARTPOP
Cheek to Cheek(Tony Bennett & Lady Gaga)
Joanna
A Star Is Born Soundtrack(アリー/ スター誕生 サウンドトラック)(Lady Gaga & Bradley Cooper)
Chromatica
BORN THIS WAY THE TENTH ANNIVERSARY
Dawn Of Chromatica
Love For Sale(Tony Bennett & Lady Gaga)

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2024年11月26日 (火)

ポップス史に残るアンビエントの名盤の30周年記念盤

Title:Selected Ambient Works Volume II (Expanded Edition)
Musician:Aphex Twin

今回紹介するのは、テクノ、エレクトロニカを代表するイギリスのミュージシャンAphex Twinが1994年にリリースし、ポップス史に残る名盤として誉れ高い「Selected Ambient Works Volume II」の拡張バージョン。かの、エレクトロシーンを代表するワープ・レコードの第1弾アルバムでもある本作が、リリースから30周年という区切りの年ということで、Expanded Editionとしてリリース。オリジナルでもCDで24曲入りというボリューミーな内容だったのですが、そこにCDでは3曲が追加され、CDで3枚組、LPでは4枚組というボリュームでのリリースとなっています。

Aphex Twinといえば、ここ最近では、直近のアルバム(といってももう10年前の作品になるんですが・・・)の「Syro」もそうですし、同じく彼の代表作として名盤の誉れ高い「Richard D. James Album」もそうだったのですが、ドリルンベースと呼ばれるような、独特のビート感のあるエレクトロ作が多く、個性的なビートを奏でるエレクトロニカのミュージシャンというイメージが強くついています。

それだけにもし、最近、彼について知って、改めてこのアルバムを聴いてみると、ちょっとビックリする方もいるかもしれません。本作は「Selected Ambient Works」というタイトルの通り、全編、アンビエントな作風が貫かれている作品。静かに聴かせるエレクトロのサウンドを、ミニマルに聴かせる楽曲がズラリと並んだアルバムとなっており、独特のビートを聴かせるドリルンベースの姿はありません。

ただ、そのようなアンビエントの作品の中にどこか不気味で不穏な雰囲気を漂うサウンドを忍び込ませつつ、かつ、ところどころに、ドリルンベースの作品で聴かせるような独特のビートを組み込ませている点が非常にユニーク。「#5」などはまさに不穏さを奏でるビートが印象的ですし、「#8」もちょっとトライバルな雰囲気を加味されたビートが非常に独特で耳を惹きます。

また一方で不気味な雰囲気のサウンドのみならず、特に後半に至るにつれて、ドリーミーで、どこか優しさを感じさせるサウンドも垣間見れる点も大きなポイントで、特に「#21」あたりは、かなり優しいメロディーラインが流れてくるような作品に。Aphex Twinの音楽の根底には、このような暖かくも優しいメロディーセンスが流れているからこそ、数多くの名曲を世に送り出しているんだろうな・・・そのようなことを、このアルバムでは感じさせてもくれました。

今回のアルバムで、オリジナル作品ではLP盤にのみ収録されたレア音源「#19」もまた、そんなAphex Twinのメロディーセンスを感じさせる、ドリーミーで、荘厳さも感じさせる作品。また、今回、追加収録された「th1[evnslower]」「Rhubarb Orc.19.53 Rev」も、荘厳さを感じさる独特のサウンドに、どこかメロディアスな作風が魅力的。どちらもAphex Twinの魅力を感じさせる作品となっています。

全27曲3時間強。かなりボリューミーな作品ながらも、Aphex Twinの魅力がしっかりと感じられる作品で、ある意味、BGM的になりがちなアンビエントの作品ながらも、癖も強く、しっかりと楽しめるアルバムで、さすが名盤の誉れ高い作品だけある傑作でした。これを機に、あらためてチェックしておきたいポップス史に残る名盤です。

評価:★★★★★

Aphex Twin 過去の作品
Syro
Computer Controlled Acoustic Instruments pt2 EP
orphaned deejay selek 2006-2008(AFX)
Cheetah EP
Collapse EP
Blackbox Life Recorder 21f / In A Room7 F760


ほかに聴いたアルバム

My Method Actor/Nilüfer Yanya

前作「PAINLESS」が、各種メディアの年間ベストアルバムの上位にランクインするなど、アルバムをリリースする毎に大きな話題となっているイギリスのシンガーソングライターの3作目。基本的には前作から大きな方向性は変わらず、ファルセット気味のボーカルでメロウに聴かせるUKソウルの歌を主軸に据えつつも、時としてメタリックにすら感じられるヘヴィーなギターサウンドや打ち込みも取り入れており、全体的にロックテイストも強いダイナミックなサウンドに心地よさも感じます。毎回、日本でも話題に・・・と言っているのですが、本国でもいまひとつ、大ブレイクには至っていないようですが・・・間違いなく、要チェックのシンガーソングライターだと思います。

評価:★★★★★

Nilüfer Yanya 過去の作品
Miss Universe
PAINLESS

143/Katy Perry

約4年ぶりとなるKaty Perryのニューアルバム。タイトルの「143」とは「I Love You」をあらわす数値(対応するアルファベットの数をあらわしています)であると同時に、彼女の「エンジェルナンバー」でもあるそうです。全編軽快なエレクトロのダンスチューンが並んでおり、四つ打ちの曲が多いという点では前々作「Prism」に近い作風なのかもしれませんが、さらに今回の作品はダンサナブルな部分が前面に押し出されている作品に。いつもの彼女の作品と同様、いい意味でポップで、万人に聴きやすさを感じさせるアルバムでした。

評価:★★★★

Katy Perry 過去の作品
One Of The Boy
Teenage Dream
Prism

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2024年11月25日 (月)

新作は「月」がテーマ

Title:Moon Music
Musician:Coldplay

本国イギリスのみならず、アメリカをはじめ全世界的に圧倒的な人気を確保しているColdplay。その彼らの約3年ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。今回も、本国イギリスでは当たり前のようにナショナルチャートで1位を獲得したほか、アメリカビルボードチャートでも1位を獲得。これは2014年にリリースされたアルバム「Ghost Stories」以来の記録で、4作ぶりの1位返り咲きに。いまだに根強い人気を感じさせるアルバムとなりました。

前作「Music of the Spheres」も宇宙をテーマとしたようなアルバムで、スペーシーな作風の曲が目立った1枚でしたが、今回のアルバムのテーマも、タイトル通り「月」と、またしても宇宙をイメージさせられるようなテーマとなっています。ただ、スペーシーなエレクトロサウンドがメインだった前作に比べると、例えば1曲目「MOON MUSIC」はピアノをベースとしたメランコリックな作風が特徴的。続く「feelslikeimfallinginlove」も、美メロにピアノが重なるというColdplayらしいメロディアスでメランコリックなナンバーに仕上がっています。

その後もアコギをメインとした「JUPiTER」やスケール感もって歌い上げる「iAAM」など、Coldplayらしい美メロを聴かせるメランコリックなナンバーが並びます。美メロという点では特に印象的だったのが後半の「ALL MY LOVE」で、ピアノをバックに、ゆっくりと美しいメロディーで歌い上げる、その歌が非常に胸に響くナンバー。ストリングスも入って醸し出しているスケール感も大きな特徴になっています。

一方では「WE PRAY」ではイギリスの女性ラッパー、Little Simzをゲストに迎え、Coldplayの哀愁たっぷりの歌にラップが重なる独特のナンバーに。「GOOD FEELiNGS」のようなエレクトロダンスチューンも入っていたりと、ほどよいバリエーションも特徴的。全体的には美メロをベースにメランコリックに聴かせる曲をメインとしつつ、ほどよい楽曲のバリエーションというバランスの良さが、世界的な人気を誇る彼ららしいセンスも感じさせます。

前作「Music of the Spheres」はメロディーラインが今一つで、正直なところ、かなり厳しい出来のアルバムになっていました。今回のアルバムに関しても、正直言えば、全体的に地味という印象は否めず、以前と比べるとその失速ぶりが伺わせます。ただ一方、前作でかなり厳しかったメロディーラインについては今回のアルバムではかなり本領発揮という水準に戻ってきた印象も。ここらへんは、さすが人気バンドとしての底力も感じさせます。久しぶりにColdplayのメロの魅力を感じることが出来た作品でした。

評価:★★★★

COLDPLAY過去の作品
Viva La Vida or Death And All His Friends(美しき生命)
Prospekt's March
LeftRightLeftRightLeft
MYLO XYLOTO
Ghost Stories
A HEAD FULL OF DREAMS
Kaleidoscope EP
Live In Buenos Aires
Love In Tokyo
Everyday Life
Music of the Spheres


ほかに聴いたアルバム

Born Horses/Mercury Rev

アメリカのサイケデリック・ポップバンドの新作。前作「Bobbie Gentry's The Delta Sweete Revisited」はアメリカのシンガーソングライター、ボビー・ジェントリーのカバーアルバムだったため、オリジナルアルバムとしては「The Light in You」以来、実に約9年ぶりのアルバムとなります。毎回、独特な世界観を提示するサイケなポップチューンを聴かせてくれる彼らなだけに、久々の新譜も期待していたのですが・・・サイケポップという部分もあったものの、ピアノやストリングスをベースとしたアレンジで、ムーディーでメランコリックな楽曲を聴かせるアルバムに。いままでの彼らのイメージとは異なる内容になっており、ともすればムード歌謡の様相すら感じられる作品に。良くも悪くもベタな印象を受けてしまい、Mercury Revの久々の新譜としては、今一つピンとこない作品でした。

評価:★★★

Mercury Rev 過去の作品
The Essential Of Marcury Rev
Snowflake Midnight
Strange Attractor
The Light In You
Bobbie Gentry's The Delta Sweete Revisited

Endlessness/Nala Sinephro

前作「Space 1.8」が大きな話題となったカリブ系ベルギー人のミュージシャン、ナラ・シネフロの最新作。基本的にアンビエントジャズにカテゴライズされる楽曲で、メランコリックでジャジーな楽曲を聴かせてくれるのですが、ストリングスやピアノ、サックス、アコースティックギターのような生楽器とエレクトロサウンドの間を自由に行き来するような音楽性がユニーク。全体的にドリーミーな色合いの作品が多く、独特の音楽性ながらも、いい意味で幅広い層に訴求できそうな聴きやすさも併せ持っていました。高い評価も納得の傑作です。

評価:★★★★★

Nala Sinephro 過去の作品
Space 1.8

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2024年11月 1日 (金)

シューゲイザーを代表するバンドの全盛期を網羅したボックスセット

Title:UNREADABLE COMMUNICATION - ANXIOUS RECORDINGS 1991-1993
Musician:CURVE

今回紹介するのは、主に1990年代に活躍した、イギリスのバンド、CURVEの4枚組ボックスセット。シューゲイザー系バンドの代表格のひとつと目されており、特に1992年のデビューアルバム「Doppelganger」はシューゲイザーを代表する名盤としてよく取り上げられる1枚。私もその存在は以前から知っていたのですが、彼女たちに対して特に注目したきっかけが、今年聴いてみたシューゲイザー系のボックスセット「Still in a Dream」もちろん、同作の中に彼女たちの作品も収録されていたのですが、個人的に思いっきりツボにはまり、そしてちょうどよいタイミングで知ったのが、このボックスセットのリリース。今回、はじめてアルバム単位でCURVEの作品を聴いてみました。

このボックスセットは全4枚組の内容となっているのですが、Disc1は1991年にリリースされた3枚のEPの曲がそのまま収録。Disc2はデビューアルバム「Doppelganger」、Disc3には2枚目のアルバム「Cuckoo」がそのまま収録。Disc4にはライブ音源やリミックス音源、シングルミックスなどが収録されています。バンドは1994年に一度解散するものの、1996年に再結成。その後、2005年まで活動を続け、アルバムやEPをリリースしていますが、サブタイトル通り、最初の活動期である1991年から1993年までの作品を収録しており、再結成後の作品は今回は未収録となっています。

個人的にCURVEがツボにはまった要素は主に5つとなります。1つ目はシューゲイザー直系のギターノイズ。2つ目はこちらはインダストリアルからの影響を感じる打ち込みも入ったヘヴィーなバンドサウンド。さらに3つ目は、こちらはマッドチェスターからの影響を感じるようなグルーヴィーなサウンド。そしてそんなヘヴィーでグルーヴィーな音を奏でつつ、女性ボーカルのトニ・ハリディによる清涼感ある歌声を聴かせてくれるのが4つ目の特徴で、そして最後は、シューゲイザーバンドに共通する、これらのサウンドと相反するようなキュートでポップなサウンドが流れている点、この5点が大きな魅力に感じました。

そんなバンドの持ち味はデビューEPの1曲目「Ten Little Girls」から既に発揮されています。イントロからして非常に分厚いバンドサウンドのグルーヴィーなサウンドからスタート。ちょっと気だるさを感じさせるトリ・ハリディの歌はポップにまとめあげられています。どちらかというとマッドチェスターの流れを感じさせる楽曲となっているのですが、CURVEの魅力を存分に感じさせる曲に仕上がっています。

そしてDisc2のアルバム「Doppelganger」は名盤の誉れ高い作品なだけに、CURVEとしてのひとつの完成形にも感じます。1曲目「Already Yours」は、デビュー曲「Ten Little Girls」と同様、けだるいボーカルを聴かせるグルーヴ感を前に出した作品になっていますが、よりポップスさが増した印象。続く「Horror Head」もギターノイズにキュートなハイトーンボイスで歌われるポップな歌が加わるドリームポップの作品に。その後もCURVEの魅力のつまった曲が並んでおり、本作が名盤と称される理由もわかるように感じます。

Disc3の「Cuckoo」も「Doppelganger」に負けず劣らずの名盤で、1曲目の「Missing Link」はインダストリアル風のヘヴィーで疾走感あるギターサウンドにちょっと怪しげながらも勢いのあるメロディーラインが非常にポップで耳を惹きます。楽曲としては前作に比べると若干インダストリアル色が強くなった印象が。また一方で、「Unreadable Communication」ではエレクトロのサウンドも取り入れていたりします。この点、Disc4収録の「Falling Free」ではAphex Twinによるリミックスを取り入れていたりしています。私はまだ聴いていないのですが、活動再開後の作品はエレクトロを取り入れた作品もあるそうで、エレクトロサウンドへの興味はこの時点から生じていたことを感じさせます。

この時期のCURVEの楽曲を聴くと、バンドとしての魅力を強く感じさせる一方、やるべきことはやりつくした感もあり、当初、1994年で解散してしまったというのはさもありなんかな、とも思ったりもします。ただ、それだけにこの時期のアルバムについては非常に濃い内容となっており、今回の4枚組のボックスセット、非常に聴きごたえのある作品でした。シューゲイザー好きなら文句なしにチェックすべき作品。今度は、活動再開後の作品も聴いてみたいなぁ。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Starchris/Body Meat

アメリカはフィラデルフィアを拠点に活動するエレクトロミュージシャン、Christopher Taylorのソロプロジェクト、Body Meatのソロデビュー作。ドリーミーだったり、メタリックだったり、メロウに聴かせたり、音数を絞ったり、曲毎にスタイルを変えるエレクトロサウンドが挑戦的であり、かつユニーク。ただ、そんなエレクトロサウンドの中で流れてくる「歌」がメランコリックで意外とポップ。比較的、実験的な色合いが強いサウンドの中で、この歌が大きなポップの要素となって、聴きやすさを感じさせるアルバムとなっています。Body Meatという名前、今のうちに注目しておいた方がよさそうです。

評価:★★★★★

Manning Fireworks/MJ Lenderman

Manningfireworks

シューゲイザー系インディーロックバンド、Wednesdayのギタリストによるソロ3作目。前作「Boat Songs」はシューゲイザー直系のサウンドにカントリーロックの要素を加えた音楽性が非常におもしろく、2022年の私的年間ベストアルバムで3位に入れるなど、個人的にかなりはまった作品でしたが、新作はシューゲイザー色は鳴りを潜め、一気にカントリー寄りにシフトした作品に。哀愁たっぷりのメロでかなり渋い雰囲気のカントリーロックとなり、いままでのイメージとはかなり変わってしまった感が。個人的に壺だった前作の方向性からはかなり外れてしまった感があり、ちょっと残念に感じました。

評価:★★★★

MJ Lenderman 過去の作品
Boat Songs
And The Wind(Live and Loose!)

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