アルバムレビュー(邦楽)2024年

2024年12月29日 (日)

「アニソン」の歴史も感じる、充実の12枚組ボックスセット

Title:藤子・F・不二雄生誕90周年記念 藤子・F・不二雄 MUSIC HISTORY

今年は藤子・F・不二雄こと藤本弘先生の生誕90周年にあたる年。それを記念し、様々な企画が行われていましたが、本作は企画の中のひとつで、藤子・F・不二雄作品のアニメやドラマ主題歌・挿入歌などが収録されているCDボックス。以前も同様の企画が行われたことがありましたが、本作では、収録内容はかなり徹底されており、ドラえもんやパーマン、キテレツ大百科などおなじみのアニメはもちろんのこと、2002年に放映されたドラマの「エスパー魔美」の主題歌や、今年放映されたNetflixアニメ「T・Pぼん」、個人的にはかなり懐かしいテレビ番組「藤子不二雄ワイド」の主題歌まで収録。全12枚組という、フルボリュームな内容に、ギッシリと藤子Fアニメ(ドラマ)の主題歌が収録されており、先生の作品が何度もアニメ化(ドラマ化)されて、多くの人に親しまれてきたんだなぁ、ということをあらためて感じます。

ただ、それだけ徹底された収録内容ながらも、いくつか未収録になっている曲もあり、まずは1973年に日本テレビで放映された「ドラえもん」の曲は未収録。藤本先生も内容については否定的だったようですから、こちらは完全に「なかったこと」になっているんだろうなぁ、ということも感じます。また、キテレツ大百科のエンディングだったTOKIOの「うわさのキッス」も未収録。これは(旧)ジャニーズが許可を出さなかったのか、とも思うのですが、一方、Kis-My-Ft2「光のシグナル」や忍者の「おーい!車屋さん」が収録されているので、そういう訳ではないのでしょう。やはり山口達也の件が関連しているのか・・・?また、ちょっと謎なところでは、2017年に放映されたドラマ「スーパーサラリーマン左江内氏」の主題歌、三代目J Soul Brothersの「HAPPY」も未収録。こちらはドラマもアンタッチャブルな存在じゃないはずなので・・・ただ、LDHが許諾しなかったのでしょうか。

さて、この膨大な主題歌集、リアルタイムに聴いていなかっただけに、あまり詳しく知らない曲もあれば、逆に小学生のころ、毎週心待ちにしてみていた番組の主題歌もあったりするので、非常に懐かしい思いをしながら聴いた曲もあったりと、かなりボリュームのある内容でしたが、子供のころに帰ったように楽しめた内容でした。そしてこの主題歌集を聴いて感じたのは、特に90年代以前、アニメソングがいまのように「売れ筋のミュージシャン」が歌う訳ではなく、あくまでもキッズソングとして扱われていた時代の曲に、特徴的なものをふたつ感じました。

まずはあまり「売れる」ことを意識していないキッズソングだから、ということもあって、逆にユニークでちょっと挑戦的にすら感じさせる曲が少なくないこと。特に「キテレツ大百科」関連の曲に特徴的で、いまやJ-POPのスタンダードナンバーともなっている「はじめてのチュウ」などが典型的。他にも「すいみん不足」など、かなりユニークな曲が目立ち、あまり売れることを意識しなくてもよかったからこその曲というのが、今となっては面白さを感じます。

あと、多いのが、いわゆるこれから売っていこうというアイドルの曲も目立つという点。こちらも当時のアニメソングは今の様なタイアップ効果があまり期待されなかった反面、アニメのヒットによっては、「誰もが知っている曲」に大化けする可能性もあったことから、売り出していこうというアイドルのタイアップにピッタリだったのかもしれません。それこそキテレツ大百科では、後にX JAPANのToshiの奥さんとなり、洗脳騒動の黒幕となってしまった元アイドルの守谷香が曲を歌っているほか、21えもんの忍者や、ひょっとしたら谷村有美あたりもこの並びと言えるかもしれません。

また、このアニメソングの取り扱いという意味で興味深く感じたのが、ドラえもん映画の主題歌のラインアップ。これがまさに、80年代から今に至るまで、アニメソングがどのような捉えられ方をしたか、というのがよくわかるような曲となっており、初期の作品は、ドラえもん(大山のぶ代)本人が歌っていたり、正直、あまり曲が売れることを意識していないような曲が並びます。これが90年代あたりは完全に迷走しており、いわゆる「芸能人」が主題歌を歌うことになっているのですが、「なんでこんな人が選ばれたのか?」というのが不思議なようなラインアップ。アニメソングの主題歌がJ-POPとして売れ始めた時期ではあるものの、まだ今よりも軽視されていた(特にドラえもんのような子供向けのアニメについて)傾向がうかがえるようなラインナップとなっています。

これが2000年代以降、特に声優陣が変更になってからは様変わり。今を時めくようなミュージシャンたちが主題歌を歌うようになり、最近でも星野源やミスチル、ヒゲダンにVaundyなどといった大物が参加。本作では未収録ながらも、来年の映画の主題歌はあいみょんですから、すっかりドラえもん映画の主題歌も様変わりしました。特にこれらの作品が収録されているDisc12については、アニメ主題歌集というよりは、最新のJ-POPのオムニバスとして楽しめるような内容になっていました。

ただ・・・正直、ドラえもん映画主題歌、やはり好きなのは、自分がリアルタイムで見ていたということもあるのですが、最初期のナンバーなんですけどね。「少年期」「ポケットの中に」「友達だから」とか、本当に名曲揃いなんですよね。

そんな懐かしさを感じつつ、アニメソングの立ち位置の変化も感じさせつつ、それを含めて、藤子Fアニメの歴史も感じさせるオムニバスアルバムでした。個人的には、藤子アニメというと、当然、藤本先生の作品のみならず、藤子Aこと安孫子素雄先生の作品も、同じ「藤子不二雄作品」として楽しんでいただけに、本当は、安孫子先生の作品、忍者ハットリくんや怪物くんなどの主題歌も合わせたボックスセットを希望したいのですが・・・それは、今では無理は話なのでしょうが・・・。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

BOYS and/SOPHIA

2022年、9年ぶりに活動を再開したSOPHIA。昨年、10年ぶりの新曲がリリースされましたが、デビュー30周年を迎えた今年は、「もう一度デビューする」をテーマに、彼らのデビュー作「BOYS」のオマージュ作をリリース。「BOYS」収録曲中心のセルフカバーに新曲2曲を加えた構成になっています。基本的に、シンセにバンドサウンドを加えたサウンドを軸に、メランコリックでポップなメロが特徴的。30年前の曲ながらも、しっかりしたメロディーラインを書いているだけに、30年後のセルフカバーにもしっかり耐えられる楽曲となっています。その聴かせるメロはさすが。今後の本格的な活動再開と久々のフルアルバムにも期待したいところです。

評価:★★★★

SOPHIA 過去の作品
2007
BAND AGE
15
ALL SINGLES 「A」
ALL-B SIDE 「B」

未来大人宣言
20th ANNIVERSARY BESTI YOUNG <1995-2000>
20th ANNIVERSARY BESTII YOUNG ADULT <2001-2007>
20th ANNIVERSARY BESTIII ADULT <2008-2013>

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2024年12月28日 (土)

沖縄独自の結婚式文化を楽しめるコンピレーション

Title:沖縄ニービチソング決定盤

今回紹介するのは、沖縄民謡のコンピレーションアルバム。ここで「ニービチ」とは沖縄の言葉で結婚のことで、タイトル通り、沖縄の結婚式で歌われる曲を集めたコンピレーションアルバムとなります。公式サイトで詳しい説明があるのですが、沖縄の結婚式というのはかなり特徴的だそうで、参加人数は100名を超えるのが普通。余興も絶え間なく行われるそうで、まさに親類縁者一同を集めてのお祭り騒ぎ、といった感じなのでしょう。

基本的には楽曲は似たようなタイプの曲が多く、演奏は三絃がまず入り、そこに笛や太鼓が加わるパターン。男性ボーカルか女性ボーカルの曲にわかれるのですが、こちらもはもりはなく、ユニゾンのみ。音を重ねて美しく聴かせるという演奏スタイルがメインとなっていました。

また、沖縄民謡というと、軽快で明るく踊れる曲というイメージもあり、特に結婚式の曲というと、そういうタイプの曲をイメージできそうですが、ただ、本作を聴き始めると、最初の方はむしろゆっくりと歌い上げるようなタイプの曲が並びます。アルバムの冒頭を飾るのは「かぎやで風節」は、披露宴の開会のサインで、この曲がないと披露宴ははじまらない、と言われるような曲だそうですが、男性のユニゾンの歌でゆっくりと歌い上げるタイプの曲となっています。

ただ、ゆっくりと歌い上げるようなタイプの曲がメインとはいえ、結婚式で歌われる歌ということで、当たり前ですが全体的に明るさが漂う祝祭色を感じさせる曲ばかり。歌詞は琉球弁に、こぶしをたっぷり利かせた歌い方をするのでほとんど聴き取れないのですが、中盤の八重山民謡「目出度節」ではタイトル通り「めでたい~」とストレートに歌われる歌詞もあったりして。結婚式らしさを感じます。

一方後半は、太鼓のリズムが軽やかに、語弊を恐れずに言ってしまうと、実に沖縄民謡らしいと感じさせるようなリズミカルな楽曲が並びます。特に「根引ち音頭」は軽快でリズミカルな太鼓の音色に、男女というスタイル、「めでたい」と歌われる歌詞もあって、比較的わかりやすい祝祭色豊かな楽曲。最後を締めくくる「唐船どーい」は披露宴の締めくくりで必ず歌われるそうですが、フィナーレを飾るにふさわしい軽快なナンバーになっており、沖縄の披露宴の楽しさも伝わってきます。

そんな訳で、独特な文化をもった沖縄の結婚式・披露宴の模様を肌で感じられるようなアルバムで、沖縄音楽に興味があるのならばうってつけの1枚だと思います。ただ、ひとつ疑問に思ったのは、上記の公式サイトでは「現在でも歌われている」と書かれているのですが、本当でしょうか?例えば、本土でも結婚式といえば「高砂の謡」が有名で「欠かせない」と紹介されているケースも少なくありませんが、正直、現在、結婚式で歌われることはほとんどないような・・・。その点だけはちょっと気になってしまいました。

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

The Ordinary Road/ストレイテナー

途中、ミニアルバムやベスト盤を挟みつつ、オリジナルフルアルバムとしては約3年10カ月ぶり、久々となるストレイテナーの新作。ただ、楽曲の方向性としては、オリジナルフルアルバムとしての前作「Applause」と同じ方向性。ギターロックという路線はもちろん変わらないものの、作風としてはかなりポップ寄りに。メロはそれなりにインパクトもあり、素直なギターロックは聴いていて楽しい一方、やはりゴリゴリの洋楽テイストの強いロック路線の曲もそろそろ聴きたいかも。

評価:★★★★

ストレイテナー過去の作品
Immortal
Nexus
CREATURES
STOUT
STRAIGHTENER
21st CENTURY ROCK BAND
Resplendent
Behind The Scene
Behind The Tokyo
COLD DISC
Future Soundtrack
BEST of U -side DAY-
BEST of U -side NIGHT-
Black Map
Applause
Crank Up
フォーピース

25th anniv. re-edit best + SOULS 2024/bird

今年、デビュー25周年を迎えたbirdによるベスト盤。「re-edit」というタイトルからもわかるように、全曲、ショートバージョンに再編集した作品。また「SOULS 2024」として彼女のデビュー作であり、ヒット曲である「SOULS」のリメイク作も収録しています。ただ、ショートバージョンといっても全曲3、4分程度の長さとなっており、よくありがちなDJ Mixにような一部だけピックアップする形ではありません。基本的にリズミカルでメロウなソウルやジャズの要素を入れつつ、オーガニックな雰囲気を感じさせるポップが魅力。ただ一方、ショート版とはいえ、全21曲1時間17分に及ぶフルボリューム。正直、似たタイプの曲が多く、最初の方は魅力的な曲に惹かれていたのですが、後半、徐々に飽きてきた感はいなめません。ショートバージョンでフルボリュームのベスト盤にするよりも、もうちょっと曲数を絞った方がよかったような・・・。

評価:★★★★

bird 過去の作品
BIRDSONG EP
MY LOVE
NEW BASIC
9
lush
波形
bird 20th Anniversary Best

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2024年12月23日 (月)

「ライブアルバム」というよりは・・・

Title:Live O Rec
Musician:cero

Liveorec

今や日本のネオソウル/シティーポップを奏でるバンドとして、実力人気共に屈指のバンドとなったcero。昨年リリースしたオリジナルアルバム「e o 」も非常に高い評価を受けましたが、今回はそれに続くアルバムとして、彼ら初となるライブアルバムをリリースしました。主に昨年12月に恵比寿リキッドルームでのライブの音源を中心に収録した作品に。彼らは、ライブでそのアレンジを大きく変化させてくるバンドなだけあって、原曲とはまた異なる味わいのある、ライブ音源ならではのアレンジが楽しい作品となっています。

実際、冒頭を飾る「Nemesis」では、最初、ライブがはじまる高揚感をあらわすようなドリーミーでサイケなアレンジを組み込んでいますし、彼らの代表曲である「マイ・ロスト・シティー」では原曲以上にサイケなアレンジとなっており、ライブならではのトリップ感をより味わえるようなサウンドを聴かせてくれています。

もともとリズミカルでライブ向けともいえる「Elephant Ghost」では、パーカッションのリズムをより前に押し出して、踊りやすいアレンジになっているのはライブならでは、といった感じでしょうか。同じくトライバルなパーカッションでリズミカルな「魚の骨 鳥の羽根」は、比較的原曲と同じようなアレンジになっていますが、ボーカルといい演奏といい、ライブでの盛り上がりを感じさせるのは、ライブ盤ならでは、といった感じでしょうか。

またユニークなのが終盤の「outdoors」で、原曲と比べてアコースティックベースなシンプルなサウンドが特徴的なのですが、雨の音ではないかと思われる音がそのまま収録。本作は2020年の日比谷野音でのライブ音源が用いられているそうなので、その時の音がそのまま使われているのでしょうか。ボーカルの音もちょっとこもった感じなのも、おそらくわざとでしょう。結果、タイトル通りのアウトドアでのフィールドレコーディングでの録音のような、質感のあるアレンジとなっています。

さて、このライブアルバムがユニークなのは、ライブ音源をそのまま収録したアルバムではない、という点でしょう。彼らならではのミキシングも行われているほか、ホームレコーディングによるオーバーダビングなども行われており、ライブ音源をもとに、あらたなアレンジの作品を作り上げたアルバムとも言えるかもしれません。そのため、MCなどはもちろん、観客の歓声なども収録されておらず、ライブならではの臨場感は感じられません。ライブの臨場感を残す、というよりは、あくまでもライブアレンジの作品を記録する、という意味合いが強いライブアルバムと言えるかもしれません。

ただ、とはいってもライブアレンジで原曲の雰囲気がガラリと変わった作品はなく、基本的にライブ向けに、よりリズムの部分を強調したり、サイケさを増してドリーミーな要素を強めたりと、ライブならではのアレンジがほどこされていました。また、今回のライブアルバム、「e o 」リリース後のライブということもあって、同作からの作品が多い一方、彼らの代表曲も多く収録されており、そのため、ベスト盤的な楽しみ方もできる作品となっていました。

ライブの臨場感を収録したというよりも、ライブでのアレンジを記録に残した作品という意味では、ライブアルバムという以上にceroのリミックスアルバムといった感もある作品とも言えるかもしれません。そういう意味でもオリジナルアルバムと並んで、ceroの「新たな作品」としても楽しめるアルバム。彼らのライブでの臨場感は、やはりライブに参加してこそ、といった感じなのでしょうか。むか~し、一度だけイベントライブで彼らのステージを見たことはあるのですが・・・またライブに参加してみなくては・・・。

評価:★★★★★

cero 過去の作品
My Lost City
Obscure Ride
POLY LIFE MULTI SOUL
e o

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2024年12月20日 (金)

ロック志向、ルーツ志向の強い35年目のアルバム

Title:SQUEEZE and RELEASE
Musician:真心ブラザーズ

今年、デビュー35周年を迎えた真心ブラザーズ。そういえば、先日紹介したスカパラも35周年でしたね。調べてみると、この年は、フリッパーズ・ギターにドリカム、X JAPAN、THE BOOM、LINDBERGなどなど、かなり豪華なミュージシャンたちがこの年にデビューしており、一種の当たり年だった??時期的に、世の中はバンドブーム真っただ中。それだけに多くのバンドがデビュー出来たのでしょう。そんな中、デビュー以来、一時的な活動休止はあったものの、ほぼコンスタントに活動を続けている真心ブラザーズ。正直、シングル曲ではベスト10ヒット未経験の彼らが、これだけ長く活動を続けているというのは、あらためて振り替えると驚きの感すらあります。

そんなデビュー35周年を迎えてリリースされた今回のオリジナルアルバム。区切りの年でのリリースであることを意識してか、全体としてロックやルーツ志向も強い、骨太でロックなアルバムに仕上がっていました。

まずアルバムの冒頭1曲目、2曲目は実にYO-KINGらしい、真心ブラザーズらしい楽曲が並んでいます。1曲目「あたまの中は大自由」はYO-KINGが叫びまくるヘヴィーなロックチューン。タイトル通りそのままがテーマの、実に自由奔放な歌詞が彼らしさを感じます。続く「オレは音楽」は、こちらもYO-KINGらしい音楽への愛情をそのままつづったブルースロック風のナンバー。ルーツ志向を垣間見せつつ、自己主張も強い歌詞が彼らしさを感じる楽曲となっています。

その後も「DIVIDE」や、「大崎の次は五反田だよ」のようなブルースロック志向やカントリーロック風の「カンナ」、ハードなギターリフ主導のハードロック風ナンバー「ジングルベル」に、ブルースハープとワウワウギターでソウルテイストの強い「おれんち」、そして最後はこれまたヘヴィーなギターでゆっくりダイナミックに聴かせる「急がない人」と、全体的にブルースロックあるいはハードロックの色合いの強い、ルーツ志向、あるいは骨太なロック志向の強い作品が目立ちます。

一方でちょっとユニークなのが「Mic Check」で、桜井ナンバーである本作は、ハードロックにHIP HOPの要素を取り入れた楽曲。ここらへん、ロック志向、ルーツ志向の強いYO-KINGとは異なる、比較的、幅の広い音楽に興味を持つ桜井秀俊らしい作風となっていますし、そんな2人が同じバンドとして活動している点が真心ブラザーズのおもしろさなのでしょう。

また、もうひとつ特徴的なのは、歌詞で、全体的に身近な出来事をテーマとしつつ、どこかユーモアを交えた視点で綴っているのもまた、真心の大きな魅力と言えるでしょう。「大崎の次は五反田だよ」も、そんな恋人の日常風景を描いた歌詞が、親近感を覚えますし、ユーモラスといえば「ジングルベル」で、ここ最近の10月やともすれば11月になっても、日のよっては暑さを感じる最近の日本を、秋や冬のイベントをからめてユーモラスに描写しているのも彼ららしさを感じます。どの曲も、そんな日常的な風景描写が目立ち、ちょっとほっこり、そしてどこかユーモラスを感じさせるのが、彼ららしさといった感じでしょう。

今回のアルバムはいい意味で非常に真心ブラザーズらしさにあふれた作品で、そういう意味でも35周年という区切りの年にふさわしい1枚だったと言えるかもしれません。また、35年目というベテランバンドでありながらも、ともすれば勢いすら感じさせる作品なのも見事。何よりも純粋に音楽、特にロックへの愛情も強く感じる作品になっていました。大きなヒットこそなくても、真心ブラザーズの活躍はまだまだ続きそうです。

評価:★★★★★

真心ブラザーズ 過去の作品
DAZZLING SOUND
俺たちは真心だ!
タンデムダンデイ20
GOODDEST

Keep on traveling
Do Sing
PACK TO THE FUTURE
FLOW ON THE CLOUD
INNER VOICE
トランタン
Cheer
TODAY

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2024年12月17日 (火)

オリジナルとは全く異なる魅力を感じる傑作

Title:My Favorite Things
Musician:柴田聡子

今年2月、アルバム「Your Favorite Things」をリリースしたシンガーソングライター、柴田聡子。ただ、その前作「Your Favorite Things」は作風がグッとネオソウル方面にシフトし、いままでの柴田聡子とはちょっと雰囲気の異なる傑作に仕上がっていました。そして、前作リリースから約8ヶ月のスパンを経て、早くもニューアルバムのリリースとなりました。ただし、今回のアルバムは前作「Your Favorite Things」の弾き語りバージョン。「Your Favorite Things」で共同プロデューサーとして名前を連ねていた岡田拓郎から、「弾き語り盤を作ったらどうか」というアイディアをもらったことが本作制作のきっかけ。そんなこともあって、本作も「Your Favorite Things」同様、岡田拓郎が共同プロデューサーとして名を連ねています。

そして、本作はそのオリジナル「Your Favorite Things」としっかり双璧をなすような傑作に仕上がっていました。ギターやピアノ、ストリングスや曲によっては打ち込みまで取り入れてメロウに仕上げていたオリジナルに対して、本作はシンプルなアコースティックのアレンジに特化したからこそ、曲のコアな部分の魅力がしっかりと発揮された作品に仕上がっていました。例えば「Synergy」は、オリジナルではバンドサウンドでメロウにまとめられた作風に仕上がっていましたが、本作ではアコギ一本のみのアレンジ。しかしだからこそ、メロディーラインの本来持つ魅力や、また柴田聡子のボーカルのメロウさに耳を惹く楽曲のリアレンジしています。

そういう意味でも魅力的だったのが中盤の「うつむき」「白い椅子」でしょうか。どちらもオリジナルではシンセのアレンジなども入って、非常にメロウなネオソウル風のナンバーとなっていますが、本作ではどちらもアコギ1本で聴かせるアレンジ。前述の「Synergy」と同様、ボーカルやメロディーがもともと持っていた魅力を発揮しているのはもちろんなのですが、加えて、シンプルにつま弾いているアコギの演奏も、シンプルながらも、そのフレーズが微妙に歌やメロにからみついて印象に残ります。

本作に関して、公式サイトで柴田聡子自身が「実力不足やひとりでのアレンジへの考えの不足を実感」して、「この一枚がなかったら、私はこの先どこまでもぼんやり弾き語りをつづけていただろう」と語っていますが、シンプルなアコギのアレンジながらも漫然と弾き語っているわけではないこのアルバムのアレンジの妙は、要所要所に感じることが出来ます。

終盤では「素直」が秀逸。オリジナルでも比較的シンプルなアレンジで聴かせるタイプの曲となっているのですが、本作では、アコギで静かに弾き語りつつ、ボーカルをより前に押し出した構成によって、ちょっとファンタジックで切なさを感じさせる歌詞の世界が、より胸に響いてくるようなアレンジに仕上がっています。

「Your Favorite Things」の弾き語り盤でありながらも、単なるアコースティックアレンジのアルバム、ではなく、全く別のアレンジがほどこされて、オリジナルとは別の魅力を強く感じさせる傑作アルバムになっていました。柴田聡子の魅力や実力、さらには本作を提案し、プロデュースを手掛けた岡田拓郎の実力を存分に感じさせる内容になっています。企画盤ということでオリジナルと比べてスルーされがちですが、オリジナル同様、まずはチェックしておきたい傑作です。

評価:★★★★★

柴田聡子 過去の作品
柴田聡子
愛の休日
がんばれ!メロディー
ぼちぼち銀河
Your Favorite Things


ほかに聴いたアルバム

YOU NEED FREEDOM TO BE YOU/9mm Parabellum Bullet

今年結成20周年を迎える9mmの、約2年ぶり10枚目となるアルバム。9mmといえば、ダイナミックなバンドサウンドに、哀愁感たっぷりのメロディーラインが特徴的。今回のアルバムでも、これでもかというほど哀愁感を漂わせるメロディーが特徴的なのですが、一方、サウンドについては、ギターロックではあるのですが、ダイナミックさは薄れて、かなり薄味のポップス風味に。メロディーラインも基本的にマイナーコードでメランコリックで聴かせるスタイルなだけに、どうにもマンネリ気味なのは否めず。全体的に薄味でどうにも物足りなさを感じてしまいました。

評価:★★★

9mm Parabellum Bullet 過去の作品
Termination
VAMPIRE
Revolutionary
Movement
Dawning
Greatest Hits
Waltz on Life Line
BABEL
DEEP BLUE
TIGHT ROPE

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2024年12月16日 (月)

インスト曲はカッコいいが・・・。

Title:35
Musician:東京スカパラダイスオーケストラ

タイトル通り、スカパラデビュー35周年を記念したオリジナルアルバム。今回も豪華ゲストがボーカルとして参加したアルバムとなっており、imaseにSHISHAMOの宮崎朝子、10-FEETのTAKUMA、菅田将暉、元関ジャニ∞ことSUPER EIGHTなどといったメンバーがズラリ。また、ちょっと変わったところでは、習志野高校吹奏楽部や、Eテレの「天才てれびくん」出演者のてれび戦士がゲスト参加した楽曲なども収録されています。

さて、今回のアルバム、全15曲中7曲とほぼ半分がインストという、ここ最近のアルバムの中では比較的インスト曲の多いアルバムに仕上がっています。そして、このインスト曲が非常にカッコいい!まず冒頭を飾る「Wings Of Phoenix」は疾走感あるインストナンバーなのですが、にぎやかな分厚いホーンセッションで押し寄せてくるようなサウンドに、アグレッシブなピアノやギターのソロが耳に残ります。それに続く「The Last Ninja」もインストのナンバーなのですが、こちらもホーンセッションにバンドサウンドを入れた分厚いサウンドが刻むスカのリズムが非常にカッコよく、くすんだ雰囲気のメロディーラインとサウンドも非常に魅力的。

その後もラテン風なリズムがカッコいい「Ska Fandango!」や哀愁感たっぷりのサウンドで、タイトル通りのスリリングな楽器の共演が印象に残る「トーキョー・デッド・ヒート」など、非常に魅力的なインストの楽曲が並びます。ちょっと怪しげでくすんだ雰囲気の楽曲は、昔のスカパラを彷彿とさせる感じ。ここ最近のスカパラのポップ寄り路線に関しては、否定的な方も少なくないかと思うのですが、今回のインスト曲に関しては、まさにスカパラの本領発揮といった感じではないでしょうか。スカパラの真骨頂はここにあり!と感じさせるようなインスト曲でした。

ただ、そんなインストナンバーに対して、正直今回、歌アリの曲に関しては今一つだったように感じます。一番厳しかったのはSUPER EIGHTがゲストボーカルとして参加した「あの夏のあいまいME」で、SUPER EIGHTって誰?と思ったのですが、関ジャニ∞が改名した名前なんですね。ボーカルがあまりにも軽すぎて、かなり厳しい感が否めません・・・。もっとも、この曲に限らず、imaseをボーカルに迎えた「一日花」にしても、SHISHAMOの宮崎朝子をゲストとして迎えた「教えてウスボロス」にしてもボーカルが軽い・・・。今回、特にインスト曲はヘヴィーな作風になっていただけに、ボーカル曲の軽さが目立ったように感じますし、インスト曲をヘヴィーにしたからこそ、逆にあえてボーカル曲は軽くしたのかもしれません。

しかし、結果として、やはりスカパラは今回のインスト曲のように、ちょっとくすんだ雰囲気を漂わせるヘヴィーなナンバーの方が似合っている、そう感じてしまいました。ポップなスカパラに関しても確かに悪くはないのかもしれませんが、この手のホーンセッションの入った軽快なポップスって、よくありがちであり、スカパラとしての独自性という点で若干弱いようにも感じます。

スカパラがボーカル付のポップ路線にシフトしてから久しく、その方向性に関しては賛否あるようですが、今回のインスト曲を聴く限りだと、ちゃんとかつてのスカパラらしさを、今でも演ろうと思えば演れるという、彼らの実力を再認識できる作品でした。ただ、一方で、ボーカル曲の軽さを聴くにつれて、今の彼らの嗜好はやはりこの路線なのか、とも思うと、ちょっと複雑な気持ちにもなったりします。やはり今回のヘヴィーなインスト路線のスカパラがカッコいいなぁ。たまには、こういう路線でまるごとアルバム1枚聴かせてほしい感じもするのですが。

評価:★★★★

東京スカパラダイスオーケストラ 過去の作品
Perfect Future
PARADISE BLUE
WILD SKA SYMPHONY
Goldfingers
HEROES
Sunny Side of the Street
on the remix
Walkin'
欲望
Diamond In Your Heart
SKA ME FOREVER
The Last
TOKYO SKA Plays Disney
The Last~Live~
TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA~Selecao Brasileira~
Paradise Has NO BORDER
GLORIOUS
2018 Tour「SKANKING JAPAN」"スカフェス in 城ホール" 2018.12.24
TOKYO SKA TREASURES ~ベスト・オブ・東京スカパラダイスオーケストラ~
SKA=ALMIGHTY
S.O.S. [Share One Sorrow]
JUNK or GEM


ほかに聴いたアルバム

ゴールデン☆ベスト Yes We're Singles 1984~1989/REIMY

レコード会社共通の廉価版ベスト盤シリーズ「ゴールデン☆ベスト」。本作は、麗美名義でも活躍していたシンガーソングライターREIMYの、タイトル通り1984年から1989年にリリースされたシングルをまとめた楽曲。当初は松任谷正隆・由実夫妻おかかえのアイドルという形でキャリアをスタートさせたようで、初期の「青春のリグレット」などユーミンのバージョンが有名なのですが、オリジナルは彼女なのですね。初期は松任谷由実作詞作曲の曲が並んでおり、いかにもユーミンらしい楽曲が並びます。一方、その後はアイドルポップ風の曲が並んだり、歌謡曲風にシフトしたり、さらに最後の方はいかにも80年代風のシンセポップの曲が並んだりと、1984年から89年というたった5年なのに、曲調が様々に変化しています。かなりこの辺、彼女をどういうスタイルで売っていこうか、かなり迷走していた感も否めません・・・。ちなみに彼女がアイドルからシンガーソングライターへ脱皮するのはこれ以降のようです。これ以降の作品についてはきちんと聴いていないので、SSWとして独り立ちして、徐々に彼女のスタイルを確立していったといった感じなのでしょうか。1曲1曲はよく出来ているのですが、これだけ楽曲として迷走しちゃっていのは、良くも悪くも「アイドル」だったんだな、ということを感じるベスト盤でした。

評価:★★★★

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2024年12月15日 (日)

「あの頃」を彷彿とさせる作品

Title:17
Musician:cali≠gari

タイトル通り、17枚目のオリジナルアルバムとなるcali≠gariの約1年ぶりのニューアルバム。ここ最近、比較的シンプルなギターロック路線のアルバムが続いている彼ら。今回のアルバムに関しても、比較的シンプルで変態性の薄めのギターロックのアルバムに仕上がっていました。冒頭を飾る「サタデーナイトスペシャル」こそ、ヘヴィーでアバンギャルドな作風の曲となっていますが、続く「龍動輪舞曲」はメロディアスでポップなギターロックナンバー。「化ヶ楽ッ多」は、曲名こそアバンギャルドな感じですが、こちらもメランコリックなメロながらも軽快でポップな楽曲に。「暗い空、雨音」も郷愁感のあるメロディーラインが大きなインパクトのある作品に仕上がっています。

今回は、打ち込みをあまり用いなかったということで、その影響もあって、全体的にギターロックの作風で統一された感もあります。また、同時にいどこか漂うのが80年代や90年代のJ-POPを彷彿とさせるような懐かしさ。特に典型的なのが、ある種のタイトルチューンとも言える「ナイナイ!セブンティーン!」で、完全にBOOWYやGLAYあたりを彷彿とさせるような80年代から90年代のビートロックの王道を行くような作品。もちろん、あえて狙って演っているのでしょうが、ある世代にとってはなつかしさすら感じさせる作風となっています。また、前述の「龍動輪舞曲」も90年代J-POP風の楽曲。アルバム全体としてもどこか懐かしさが漂っています。

さらに終盤、「東京アーバン夜光虫」はムーディーでジャジーな雰囲気が魅力的。最後の「沈む夕陽は誰かを照らす」なムーディーな歌謡曲という色合いすら感じさせるバラードナンバーで、こちらもどこか漂う懐かしさも魅力的でした。

「バカ!バカ!バカ!バカ!」のようなパンキッシュな作品も挟みつつ、ただ全体的には比較的シンプルで、王道の90年代J-POP路線を彷彿とさせるようなギターロックが並ぶ作品に。前々作「15」も比較的シンプルなギターロック路線だった結果、ちょっと小さくまとまってしまった感がありましたが、それに比べると今回は、あえてこの王道路線を狙いました感があり、アルバム全体としても聴きごたえのあった1枚に仕上がっていたと思います。しっかりとcali≠gariの実力を感じられる1枚でした。

評価:★★★★★

Title:17.5
Musician:cali≠gari

そして、その後、約3か月のスパンでリリースされたのが本作。「アルバム『17』制作過程で生まれるも、諸事情により割愛せざるを得なかった曲」という説明がされていますが、基本的には「17」収録曲の別バージョン+新曲2曲、さらには尾崎豊の「十七歳の地図(SEVENTEEN'S MAP)」のカバーが収録された全14曲という構成となっています。要するに、アルバム「17」のアナザーテイク集といった感じの作品です。

特にやはり注目なのは、この「十七歳の地図(SEVENTEEN'S MAP)」のカバーで、基本的には歌い方を含めて原曲に忠実なカバー。ユニークなのは、同じく思いっきりJ-POP風の「ナイナイ!セブンティーン!」と並ぶ形で収録されており、ここだけ一気にあの頃のJ-POP感が強まる構成に。ここの展開はなかなか面白いので、オリジナルの「17」でも「十七歳の地図」を収録しておけばよかったのに・・・とも思ってしまったのですが。

またアルバム「17」収録曲のアナザーテイクに関しては、正直、あまり大きな変化はありません。オリジナルに比べてイメージをガラリと変えたような曲はありませんし、楽曲の原型をイメージさせるようなデモ音源的な曲もありません。あえて言えば、「17」収録の最終版の方が、サウンド的にはちょっとヘヴィーになっていたかも?「17」の制作過程で生まれた曲ということで、ひょっとしたら当初は、もうちょっとポップな作風を目指していたのかもしれません。

そういうこともあって、オリジナルの「17」と比べると、若干ファンズアイテム的な側面も強い作品。ただ、前述の通り「十七歳の地図(SEVENTEEN'S MAP)」は、その前の「ナイナイ!セブンティーン!」との並びで要チェックな作品でもありますので、そういう意味ではお勧めしたい1枚と言えるかもしれません。cali≠gariらしい遊び心を感じさせるアルバムでした。

評価:★★★★

cali≠gari 過去の作品
10
cali≠gariの世界

11
12
13
この雨に撃たれて
ブルーフィルム-Revival-
15
16


ほかに聴いたアルバム

出現!鼠浄土/キュウソネコカミ

メジャーデビュー10周年を迎えるキュウソネコカミのニューアルバム。今回も、勢いのあるパンキッシュなギターロックにシンセの音色を加えた、キュウソネコカミらしい疾走感あふれるロックを聴かせてくれるのはいつもと同様。メロはポップでインパクトも十分でしっかりと耳に残ります。また、「わや」「正義マン」のような、シニカルでユーモラスな社会派な歌詞も特徴的。いつも通りといえばいつも通りなのですが、聴いていて率直に楽しさも感じられるロックアルバムでした。

評価:★★★★

キュウソネコカミ 過去の作品
チェンジ ザ ワールド
ハッピーポンコツランド
人生はまだまだ続く
キュウソネコカミ -THE LIVE-DMCC REAL ONEMAN TOUR 2016/2017 ボロボロ バキバキ クルットゥー
にゅ~うぇいぶ
ギリ平成
ハリネズミズム
モルモットラボ
私飽きぬ私

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2024年12月10日 (火)

インパクトは十分!

Title:ベスト・オブ・マハラージャン
Musician:マハラージャン

いろいろなポップミュージックを聴いていると、正直、このミュージシャンは何で売れないんだ!?と思うケースは多々あります。特に個人的に結構はまったポップミュージシャンが、思ったほど売れず、徐々にフェイドアウトしてしまうほど残念なケースはありません。森広隆とか、SUEMITSU&THE SUEMITHとか、個人的にはまって、「これは!」と思いつつ、結局売れなかったミュージシャンは何人もいます。

今回紹介するのはこのサイトでも何回か紹介しているポップミュージシャンのマハラージャン。特に2021年のデビュー作「セーラ☆ムン太郎」は話題を呼び注目を集めました。個人的にも2021年にリリースされたアルバム「僕のスピな☆ムン太郎」ではじめて彼の曲を聴いて、「これは!」と思ってはまったのですが・・・ただ、残念ながらこの時点に至ってもブレイクには至っていません。

このマハラージャンというミュージシャン、名前からして大きなインパクトがあるミュージシャン。マネジメント事務所の名前が「油田LLC」という会社なので、その名前にちなんでいるそうです(でもマハラジャはインドの王様で油田は関係ない・・・)。ファンクをベースとしたリズミカルなポップソングが魅力的で、話題となった「セーラ☆ムン太郎」もちょっとブラックミュージックの要素も入った軽快なポップチューンとなっているのですが、同じくファンキーな「いいことがしたい」「適材適所」など、そのリズムが魅力的。また、ディスコ風の「蝉ダンスフロア」やエレクトロチューンの「ラジオネーム オフトゥン大好き」など、ダンスチューンという点を共通項としてバラエティー富んだポップな作品を聴かせてくれますし、「その気にさせないで」のようなアイドルポップのような爽やかなポップチューンも。全体的にいい意味で耳障りのよいポップな楽曲を聴かせてくれており、ヒットポテンシャルは十分ある楽曲が並びます。

さらに大きな魅力であり彼の特徴と言えるのがその歌詞。ちょっとシニカルで、コミックソング的でありつつも真面目なテーマ性も垣間見れる歌詞が魅力的で、ノベルティー的な要素と純粋に真面目なポップソング的な要素がほどよくバランスしている絶妙なポップチューンに仕上げています。

例えば「セーラ☆ムン太郎」はタイトルからしてあきらかにセーラームーンのパロディー風の歌詞なのですが、歌詞の内容については、目立たないところでがんばるような人たちへのエールともとれるような内容に。「蝉ダンスフロア」は長く土の中で時間を過ごし、地上に出てくる蝉をテーマとしつつ、コミカルながらもどこか悲哀さを感じさせる歌詞が特徴的。コミカルな歌詞ながらも、単純に「笑い」を目指したようなコミックソングとは一線を画する歌詞が印象に残ります。

そんなヒットポテンシャルのあるメロも書け、個性もあるミュージシャンながらも、残念ながら現在に至るまで大ブレイクには至っていません。非常に残念でありつつ、これほどのミュージシャンがブレイクできないのが不思議にすら感じてしまうのですが、ただ一方、その理由がなんとなくわからないでもない曲があって、それがエレクトロナンバー「ラジオネーム オフトゥン大好き」。こちら、水曜日のカンパネラでおなじみのケンモチヒデフミが参加した曲なのですが、正直、メロにしろサウンドにしろインパクトの強度がワンランク違います。メロや歌詞もさることながらも、そのサウンドも一度聴けば一発で覚えるような、マハラージャンの他の楽曲に比べてもさらに強いインパクトがあり、ポップミュージシャンがブレイクするためには、このレベルのインパクトがないとダメということかなぁ、ということを感じたりもしてしまいました。

ちなみにこのベスト盤を区切りにマハラージャン、ミュージシャン名義をMHRJとあらため(呼び方は変わらずマハラージャンだそうです)、トレードマークだったターバン姿もやめたそうです。若干迷走気味のような気もしないでもないのですが・・・。とはいえ、彼の曲が魅力的であることは間違いなく、もしまだチェックしていない方がいたら、このベスト盤、是非ともチェックしてほしい1枚。このまま埋もれてしまうにはあまりにも惜しいミュージシャンです。

評価:★★★★★

マハラージャン 過去の作品
僕のスピ☆なムン太郎
正気じゃいられない
ミーンミーンミーン☆ゾーンゾーンゾーン


ほかに聴いたアルバム

King Gnu Dome Tour THE GREATEST UNKNOWN at TOKYO DOME/King Gnu

Kinggnulive

今年1月に開催された東京ドームでのKing Gnuのライブ音源を収録した配信限定のライブアルバム。「W●RK」では椎名林檎本人もゲスト参加。東京ドームでのライブなだけに、全体的にかなりスケール感を覚える作品。全30曲1時間42分に及ぶ楽曲は、King Gnuの代表曲も並びます。全体的にメランコリックに聴かせる楽曲が多く、いい意味でわかりやすいメロディーラインにKing Gnuのポップ志向も感じられます。ただ、正直、東京ドームレベルの大箱にはちょっと合ってない感じも否めないような・・・。

評価:★★★★

King Gnu 過去の作品
Sympa
CEREMONY
THE GREATEST UNKNOWN

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2024年12月 8日 (日)

もう結成20周年

Title:SUB MACHINE, BEST MACHINE
Musician:UNISON SQUARE GARDEN

バンド結成20周年を記念してリリースされたUNISON SQUARE GARDENのベストアルバム。CD3枚組の本作は、Disc1としてレアトラック集が収録。Disc2、3では過去の代表曲がシングル曲を中心に、リリース順に収録。特に初期の作品については再レコーディングも行われています。さらに初回盤では2015年に行われた日本武道館ライブの模様を収録したBlu-rayを収録。BOX仕様の受注生産限定盤では、ライブやMVを収録したBlu-ray5枚組というボリューミーな内容に仕上がっています。

UNISON SQUARE GARDENといえば、まだまだ若手バンドという括りで見ていたのですが、もうバンド結成から20年もたっているんですね・・・。もっとも、メジャーデビュー2008年なので、そこからは16年なのですが。とはいってもメジャーデビュー16年。昨今ではバンド寿命も長くなったので、デビュー16年というのは、まだ「中堅」くらいのカテゴリーなのですが、時の流れの速さを感じます。

さて、今回のベスト盤、いきなり最初はレア音源集からスタートというちょっと異例(?)な構成になっているのですが、このレア音源集がちょっとユニークで、シングル曲中心のベスト盤と比べると、バンドサウンドを前に押し出した、ロックバンドとしての側面を強く感じさせる曲が目立ちます。

結成後、はじめてスタジオ入りして演奏したという「星追い達の祈り」にしても、分厚いバンドサウンドが目立つ作品となっていますし、「ミカエルは雲の上」にしても、オルタナ系ギターロックのメインストリームを行くようなバンドサウンドを聴かせてくれています。現時点で最新のアルバム「Ninth Peel」では、比較的バンドサウンドを前に押し出して、ロックバンドらしさを感じさせる作風になっていましたが、彼らのとしては、初期から一貫してロックバンド志向であるということを感じました。

じゃあ、それらの作品が彼らに合っているのか、というとちょっと微妙な部分があり、確かに彼らの「売り」であるポップなメロディーや個性的な斎藤宏介のボーカルを生かす形という意味では、ヘヴィーなバンドサウンドを前に押し出したスタイルはあまり合っていない部分も。もっとも、Pixesはじめ、オルタナ系ギターロックバンドの特徴としてヘヴィーなバンドサウンドと相反するようなポップなメロという特徴もあるのですが、正直、彼らのバンドサウンドは、このアルバムの収録曲を聴く限りでは平凡で特に個性もない内容であるため、彼らの「売り」が十分生かされていない感があります。

そういう意味では初期のシングル曲から、バンドサウンドを抑えめにして歌やメロを前に押し出したスタイルを取った彼らに関しては彼らの慧眼を感じさせます。実際、やはりシングル曲の方が彼ららしさがしっかり出ていて、かつボーカルのスタイルにもピッタリ。特にDisc2から3にかけて楽曲の勢いはどんどん増していき、ブレイクポイントとなった「リニアブルーを聴きながら」「シュガーソングとビターステップ」あたりは彼らの勢いを最も感じさせます。

その後の曲、特にDisc3からの曲に関しては、同じような軽快でポップな作品がメインということもあって、正直、少々マンネリ気味というのは否めないのですが、それでも比較的最近の作品「kaleido proud fiesta」もインパクト十分な作品で、彼らの魅力を十分に感じることが出来ます。挑戦心という意味ではちょっと薄いのですが、ここ最近の作品に関しては、中堅バンドらしく安定してきた、と言えるのかもしれません。

そんなUNISON SQUARE GARDENの20年を総括した・・・とも言えそうなベストアルバム。3枚組はそれなりのボリュームですが、ポップな作品が多く、いい意味で聴きやすい内容でした。ここ最近、若干大きなヒットに乏しいような感もあるのですが、これだけインパクトのあるポップソングを書けるのならば、また近いうちに大きなヒットソングも生まれそうです。

評価:★★★★

UNISON SQUARE GARDEN 過去の作品
CIDER ROAD
Catcher In The Sky
DUGOUT ACCIDENT
Dr.Izzy
MODE MOOD MODE
Bee-Side Sea-Side 〜B-side Collection Album〜
Patrick Vegee
Ninth Peel

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2024年12月 2日 (月)

KANへのオマージュソングで感涙

Title:A museMentally
Musician:スキマスイッチ

2023年にデビュー20周年を迎えたスキマスイッチ。今年はトリビュートアルバムのリリースがあったり、地元名古屋で「スキマフェス」なるイベントを行ったりと、新たな一歩を歩み出した彼ら。ただ、新作としては2021年に2枚同時にリリースされた「Hot Milk」「Bitter Coffee」以来となる、約2年7ヶ月ぶりのニューアルバムとなりました。

今回のアルバムで、なんといってもまずは特筆しなくてはいけないのは、9曲目に収録されている「魔法のかかった日」でしょう。本作は、2023年に逝去した、KANに対するオマージュソング。出だしのフレーズは、完全にKANの名曲「Songwriter」を彷彿とさせますし、そこに流れるピアノのアルペジオは、KANの楽曲によく取り入れられる、ビリージョエル直系のピアノのフレーズを彷彿とさせますし、歌詞の中には「青春の風」「ときどき雲と話をしよう」「涙の夕焼け」「遥かなるまわり道の向こうで」「世界でいちばん好きな人」「永遠」とKANの代表曲のタイトルが織り込まれています。

最初、この曲に関しては、前情報が全くなしに聴いて、最初のイントロからして「KANちゃんっぽいなぁ~」と思いながら聴いたのですが、歌詞に次々とKANの曲のタイトルが登場し、「これは、KANに対するオマージュなのでは?」と気が付きました。そうして歌詞を聴くと、あきらかにKANに対する敬愛の念を感じさせるような内容となっており、正直、KANのファンとして、聴いていて涙が流れてきました。まさにスキマスイッチのKANに対する愛情を強く感じさせる楽曲になっています。

もともと、スキマスイッチとKANの関係といえば、2017年にリリースされた、スキマスイッチの曲をリアレンジした「re:Action」というアルバムの中で、スキマスイッチの曲を分析し、解体し、新たなスキマスイッチっぽい新曲「回奏パズル」という曲をKANが作り上げたことがあったのですが、この曲は、まさに「回奏パズル」に対するスキマスイッチからの回答といっていい楽曲とも言えるでしょう。スキマスイッチの実力も感じさせる楽曲にもなっていました。

この曲を含んで今回のアルバム、スキマスイッチのポップミュージシャンとしての力量のよくわかる、バラエティー富んだポップアルバムに仕上がっていました。初期のスキマスイッチらしさを感じる、彼らの王道路線といえる「逆転トリガー」や、恋人との日常でのよくあるような喧嘩の風景を描いたコミカルな「ごめんねベイビー」、ピアノの音色が軽快な、明るいポップチューン「コトバリズム」や、さらにストリングスとピアノでクラシカルに聴かせるバラードナンバー「君と願いを」と、いい意味で安定感を覚えるポップチューンが並びます。

そんな中でもブルージーなバラードナンバー「遠くでサイレンが泣く」や、同じくブルージーなミディアムチューン「Lonelyの事情」あたりは、彼らの曲の中でも比較的洋楽テイストも強く、かつ「大人」な雰囲気も感じさせます。ここらへんにも、20周年を迎えてベテランの領域に入ってきた彼らの、ミュージシャンとしての力量を感じさせました。

個人的に、この「魔法がかかった日」が収録されているだけで非常に惹かれる作品なのですが、それを差し引いても、ここ数作の中でも特によく出来た秀作だったように感じます。バラエティー富んだ作品には、安定感を覚えると同時にベテランとしてのある種の余裕も感じました。彼らの実力を強く感じさせてくれる作品でした。

評価:★★★★★

スキマスイッチ 過去の作品
ARENA TOUR'07 "W-ARENA"
ナユタとフカシギ
TOUR2010 "LAGRANGIAN POINT"
musium
DOUBLES BEST
TOUR 2012 "musium"

POP MAN'S WORLD~All Time Best 2003-2013~
スキマスイッチ TOUR 2012-2013"DOUBLES ALL JAPAN"
スキマスイッチ 10th Anniversary Arena Tour 2013“POPMAN'S WORLD"
スキマスイッチ 10th Anniversary“Symphonic Sound of SukimaSwitch"
スキマスイッチ
TOUR 2015 "SUKIMASWITCH" SPECIAL
POPMAN'S ANOTHER WORLD
スキマスイッチTOUR2016"POPMAN'S CARNIVAL"
re:Action
新空間アルゴリズム
スキマノハナタバ~Love Song Selection~
SUKIMASWITCH TOUR 2018"ALGOrhythm"
SUKIMASWITCH 15th Anniversary Special at YOKOHAMA ARENA ~Reversible~
スキマスイッチ TOUR 2019-2020 POPMAN'S CARNIVAL vol.2
スキマノハナタバ ~Smile Song Selection〜
スキマスイッチ TOUR 2020-2021 Smoothie
Hot Milk
Bitter Coffee
スキマスイッチ TOUR 2022 "cafe au lait"
POPMAN'S WORLD -Second-
SUKIMASWITCH 20th Anniversary "POPMAN'S WORLD 2023 Premium"


ほかに聴いたアルバム

OVER HEAD POP/浅井健一

一時期ほどのオーバーワーク気味ではなくなったものの、今年はUAと組んだバンドAJICOとして久々にEPをリリースするなど、相変わらず精力的な活動が目立つ浅井健一。AJICOのEPに続いてリリースされたのがソロ名義となるアルバム。1曲目の「Fantasy」は彼らしい、くすんだ感じのギターサウンドと、アイロニックな歌詞が非常にかっこよく、前半に関しては、これぞベンジーといった感じの、退廃的な雰囲気漂うカッコいいロックチューンが並んで、さすがの実力を感じさせるのですが、比較的似たようなタイプの曲が多いだけに後半はちょっと飽きが来るのが最近のベンジーの作品の共通項といった感じで・・・。そういう意味ではAJICOみたいな別の才能を加えると、ベンジーの実力ももっと生きるのかもしれませんが。

評価:★★★★

浅井健一 過去の作品
Sphinx Rose
PIL
Nancy
METRO(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS)
Sugar(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS)
BLOOD SHIFT
Caramel Guerrilla
Mellow Party -LIVE in TOKYO-(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS)

Back To The Pops/GLAY

2023年にデビュー30周年を迎えたGLAY。オリジナルアルバムとしては約3年ぶりのため、30年目を迎えた彼らにとって30年後初となるアルバムですが、本作のテーマ「30年目のGLAYのデビューアルバム」だそうです。そのため、全体的にいかにもGLAYらしい楽曲が並んだ本作。「会心ノ一撃」あたりはいかにも90年代っぽい作品ですし、「その恋は綺麗な形をしていない」もいかにもGLAYらしい作品。「whodunit」では韓国の男性アイドルグループENHYPENを迎え、デジタルロックやラップの要素を加えた作品なのですが、基本的なメロはGLAYらしい作品ですし、GLAYのイメージをガラリと変えることなく、そこに適度に「目新しさ」を加えてくるあたりも彼ららしいといった印象。GLAYとして求められることにきちんと答えているという点、目新しさはない一方、ここらへんのバランス感覚をしっかりとれるあたりはさすがだな、とも感じさせます。良くも悪くも、いかにもGLAYらしいアルバムでした。

評価:★★★★

GLAY 過去の作品
GLAY
JUSTICE
GUILTY

MUSIC LIFE
SUMMERDELICS
NO DEMOCRACY
REVIEWII~BEST OF GLAY~
REVIEW 2.5 〜BEST OF GLAY〜
FREEDOM ONLY
HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-

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