アルバムレビュー(邦楽)2024年

2024年4月14日 (日)

今でも人気を誇る伝説のバンド

Title:A Generation of 1993-1996 ~ふたたび新しい旅に出る~
Musician:Spiral Life

Spiral

当時、女子中高生を中心にアイドル的な人気を獲得していたロックバンドBAKUのメンバーだった車谷浩司が、デビューを目指していた石田小吉と組んで結成したユニットSpiral Life。その洋楽テイストの強い音楽性が注目を集め、徐々に人気を集めてきたものの、音楽性の相違からわずか3年で解散。ラストライブは横浜アリーナで行うなど、ブレイク寸前と言われつつも、残念ながらブレイクとまでは至らず、その活動に幕を下ろしています。

そんなSpiral Lifeのデビュー30周年を記念したボックスセットがタワーレコードの通販限定という形でですが、リリースされました。CD5枚組からなる本作は、Disc1から3で、彼らがリリースした3枚のオリジナルアルバムをアナログマスターからリマスター。Disc4では「OTHER SONGS & DEMO TRACKS」と名付けて、シングルのカップリングやデモ音源を収録。さらにDisc5では1993年のライブハウスとホールで行われたライブの模様を収録した未発表のライブ音源集となっています。

個人的に、Spiral Lifeは活動していた最中から名前は知っていたのですが、その当時はさほどチェックしておらず、後追いで知ったバンド。ただ、今となってはリアルタイムで聴いておかなかったことを後悔するような、個人的に私の音楽性の好みからして理想とも言えるバンドだったりします。

彼らの大きな特徴は、まずは90年代のイギリスのインディーロックや同じくアメリカのオルタナ系ギターロックバンドからの影響が顕著なバンドサウンド。シューゲイザー系や、特に後期に関してはスマパンからの影響も顕著で、その影響を全く隠していない無邪気さは、一部ではパクリ扱いされていたりもするのですが、個人的にはかなり壺なサウンド。さらにこのバンドサウンドをバックに奏でられるメロディーラインは非常にキュートでポップ。爽やかながらもメランコリックさが同時にあって胸がキュンとさせられる魅力があります。個人的にも大好きなのが「(DON'T TELL ME NOW!) PLEASE PLEASE MR.SKY -空に鳥がいなくなった日-」で、爽やかな切ないメロディーラインが実に魅力的な名曲です。

さらに彼らの曲を魅力的にしているのが、車谷浩司と石田小吉の音楽性の微妙な違い。車谷浩司は、Spiral Life解散後のAIRとしての活動を見せばわかる通り、特に後期になればなるほどヘヴィーロックへ傾倒していく一方、石田小吉はその後のSCUDELIA ELECTROの活動でわかる通り、シューゲイザー系への傾倒を続けつつ、エレクトロサウンドへの興味を増していきます。この異なる音楽性のせめぎ合いがSpiral Lifeの楽曲に幅を持たせ、大きな魅力となっています。

2人の音楽性が最も異なる方向性を示してしまっているのがラストアルバム「FLOURISH」で、1曲目「GARDEN」は、まさにその後のAIRを彷彿とさせるようなヘヴィーロック路線の曲からスタートしたかと思えば、「MAYBE TRUE」では非常にキュートなメロディーのギターロックが顔を覗かせます。マンチェサウンドを彷彿とさせる「DANCE TO GOD」やホーンセッション入って祝祭色の強い「TRUST ME」などバリエーションも豊富。ラストの「NERO」はこれでもかというほど分厚いギターサウンドを聴かせつつ幕を下ろしています。車谷と石田の異なる音楽的嗜好の中で、お互いが主張し合いつつ、なんとか折り合いをつけたアルバムといった感じなのですが、結果としてはSpiral Lifeの中でもベストと言える傑作に仕上がっていたと思います。

もっとも、この音楽性の違いがゆえに、わずか3年という活動期間で幕を下ろした訳で、そういう意味では諸刃の剣だったということなのでしょうが。ただ、Spiral Lifeの到達点であり、かつ、同作は日本のポップス史上に燦然とその名を残した傑作だったと思います。

このヘヴィーでノイジーなギターサウンドと、ポップでキュートなメロディーラインというのが実に私の好みにピッタリとマッチしており、個人的にはまさに理想的なバンド。ただ、それだけ惹かれている方は少なくないみたいで、本作はタワレコ限定で、かつ1万5千円という高額のボックスセットにも関わらず、オリコンアルバムチャートではなんと34位にランクイン。いまだに高い支持を得ていることをうかがわせます。現在、車谷浩司も石田小吉も、新作をあまり発表しておらず、開店休業状態なのですが、最後には殴り合いの喧嘩をしたというあのCOMPLEXですら再結成ライブを実施しているだけに、Spiral Lifeも再結成して新作・・・とは言わないまでも、ライブくらい演ってくれないかなぁ・・・と思ってしまいます。あらためてSpiral Lifeが素晴らしいバンドであったことを実感させられるボックスセットでした。

評価:★★★★★

Spiral Life 過去の作品
FURTHER ALONG-20th anniversary mix-

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2024年4月13日 (土)

ネクライトーキーは、とにかく楽しい

Title:TORCH
Musician:ネクライトーキー

途中、セルフカバーアルバムやEPを挟みつつ、オリジナルフルアルバムとしては約2年9ヶ月ぶりとなるニューアルバム。本作に収録されている「bloom」はNetflixのアニメ「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」のテーマ曲となり話題にもなりました。ちょっと久々となる今回のニューアルバムは、同曲も含む14曲を収録。いままでのアルバムよりも曲数はありつつ、全47分。良い意味でほどよいボリューム感のアルバムとなっています。

ネクライトーキーの楽曲と言うと、とにかく聴いていてワクワクする楽しいポップソングというイメージがあります。今回のアルバムに関しても、そんな明るく、素直に楽しいポップチューンの並ぶアルバムになっていました。分厚いビートとシンセのピコピコサウンドがインパクトのある「浪漫てっくもんすたぁ」は、ユーモラスな作風の典型的にネクライトーキーらしい楽曲でしょう。「どたまかち割るね」というユニークな歌詞もネクライトーキーらしい感じ。ネクライトーキーらしいというとシングル曲でもあった「ふざけてないで」もそんな感じでしょうか。軽快なギターロックナンバーなのですが、リズミカルで明るいポップチューン。ちょっとコミカルなギターリフやユーモラスに入ってくるシンセの音も大きな魅力でしょう。

タイトルもユニークながらもメロディーラインも印象的なのは「新島工場探検隊」で、こちらも軽快なギターロックナンバーなのですが、サビの部分で転調するメロディーがインパクト。この転調するサビが、個人的にどことなく、80年代あたりのエピックソニー系あたりの香りを感じさせるのは私だけ?もっともネクライトーキーもソニーミュージック所属で、ここらへんは脈々と流れるレコード会社の空気感が反映されているのでしょうか。

アルバムの中でほどよい空気感を醸し出しているのが「わっしょいまっしょい」で、日常をほんわかした視点で描く脱力系の楽曲になっているのがユニーク。「浴びるように酒を呑んだなら/明日も仕事を頑張りましょい」という歌詞もいい感じ。この歌詞をもっさの舌ったらずなボーカルで歌われると、ちょっと幼さを感じさせるボーカルなのに、「浴びるように酒を呑んだなら」というギャップのある歌詞もまたユニーク。もっとも彼女は既に29歳らしいので、別に浴びるように酒を呑んでいても全く問題はない訳ですが・・・。

そんな脱力感のある楽曲から、ヘヴィーでダイナミックなサウンドが特徴的な「ねぇ、今どんな気分?」という落差のある展開もユニーク。歌詞も、ほんわかに頑張ろうと歌う全曲からいきなり「最低な一日になっちゃった」という、こちらも落差ある展開がユニーク。そんな展開はありつつ、終盤の「だから、」では力強く歌い上げるミディアムテンポのロックナンバーなのですが、

「昨日まで家だったもんが
瓦礫の山になった」
「昨日まで夢だったもんが
砕けた泡になった」
(「だから、」より 作詞 もっさ)

と、かなり虚無的な世界観がドキリとさせられる楽曲で、ただ明るくコミカルなだけではないネクライトーキーの別の側面も感じられます。

そんな感じで、全体的には前作以上にバラエティーのある展開になっている本作。一方、アルバム冒頭の「ちょうぐにゃぐにゃ」やラストの「石ころの気持ち」などはストレートな疾走感あるポップなギターロックとなっており、ギターロックバンドとしての王道路線もしっかり聴かせてくれます。今回も聴いていてとても楽しい傑作になったのは間違いありません・・・が、全体としての出来としては正直、前作の方が上だったかな、とも感じてしまいました。

正直、前作の「はよファズ踏めや」や「誰が為にCHAKAPOCOは鳴る」のような一度聴いたら忘れられないようなインパクトはちょっと薄め。まあ、自分にとって前作ははじめて聴くネクライトーキーで、その分インパクトも大きかった、という点もあるのかもしれませんが、そうだとすれば、今回のアルバム、前作を踏まえての新たな姿が見ることが出来なかった、という点でもちょっと残念だったかもしれません。

もちろん、前作ほどではなかったとはいえ、間違いなく今回のアルバムも傑作に仕上がっていたと思います。最近、比較的メランコリックなメロディーを聴かせるミュージシャンが多い中、ネクライトーキーのような底抜けに明るいロックバンドは貴重。ポップソングのワクワクさを素直に体現化された作品でした。

評価:★★★★★

ネクライトーキー 過去の作品
FREAK
MEMORIES2


ほかに聴いたアルバム

Trio&Charm/大橋トリオ&THE CHARM PARK

ご存じ大橋トリオと、韓国系アメリカ人で、現在は日本を拠点に活動を続けるマルチプレイヤーでシンガーソングライターのCharmのソロプロジェクト、THE CHARM PARKとのコラボアルバム。THE CHARM PARKは以前、アジカンに楽曲提供を手掛けた曲を聴いた程度なので詳しくはわからないのですが、基本的には両者とも、楽曲の方向性は同じようで、アコースティックなサウンドでちょっとメランコリックにしんみり聴かせる「大人のポップス」といった印象の楽曲がメイン。一言で言うと「良質なポップス」といった感じでしょうか。ただ、良くも悪くもいつもの大橋トリオの路線の延長線といった感じで、あまり目新しさを感じなかったのは残念でした。

評価:★★★★

大橋トリオ 過去の作品
A BIRD
I Got Rhythm?
NEWOLD
FACEBOOKII
L
R

FAKE BOOK III
White
plugged
MAGIC
大橋トリオ
PARODY
10(TEN)
Blue
STEREO
植物男子ベランダー ENDING SONGS
植物男子ベランダーSEASON2 ENDING SONGS
THUNDERBIRD
This is music too
NEW WORLD
ohashiTrio best Too
ohashiTrio collaboration best -off White-
カラタチの夢

PORTRAIT/フジファブリック

フジファブリックの新作は、かなりバラエティーに富んだ作風が印象的なアルバム。フレデリックと組んだ「瞳のランデヴー」のようなディスコチューンがあったり、アコギでしんみり聴かせる「月見草」みたいな曲があったり、「ショウ・タイム」のようなギターロックのナンバーがあったりと、バラエティー豊か。その分、若干方向性があいまいな部分もあったりするのですが、それも含めてこの音楽性の自由さがフジファブリックらしさなのかもしれません。

評価:★★★★

フジファブリック 過去の作品
TEENAGER
CHRONICLE
MUSIC
SINGLES 2004-2009

STAR
VOYAGER
LIFE
BOYS
GIRLS
STAND!!
FAB LIVE
F
FAB LIST 1
FAB LIST 2
I Love You

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2024年4月12日 (金)

伝説のライブ

今回紹介するのは、かなりアンダーグラウンドなテイストの強いライブアルバム。「キングオブノイズ」という異名を持つノイズバンド、非常階段と、一部のライブハウスでは出禁になるほどの過激なパフォーマンスが話題を呼んだパンクロックバンド、ザ・スターリンの共演が大きな話題を呼んだ1981年4月に京都・磔磔で行われた伝説的ライブイベント「Answer」の模様を収録したライブアルバム。特に、ザ・スターリンのライブパフォーマンスはいままでブート盤でしか公表されたことはないそうで、今回、初の正式音源化ということでも大きな話題となっているようです。

Title:Answer 81 1981.4.19. Vol.1
Musician:非常階段+アウシュビッツ+ほぶらきん

こちらはその「キングオブノイズ」非常階段に、共演となるアウシュビッツ、ほぶらきんの3バンドが合わさったライブ盤。まず最初は非常階段の演奏が42分強、延々と続きます。即興のノイズパフォーマンスが続いていき、ただただ分厚いノイズが続くアバンギャルドな演奏。かなり好き嫌いは別れると思いますが、慣れてくると、不思議とこの不協和音的なノイズが心地よく聴こえてくるから不思議です(笑)。この音の洪水を延々に聴かされると、トリップして気持ちよくなるか、気が狂いそうになって気持ち悪くなるか、どちらかのような・・・。

その後のアウシュビッツ、ほぶらきんというバンドは今回が完全な初耳。アウシュビッツはノイズミュージックのためのインディーレーベルとして知られるアルケミーレコードをJOJO広重と共に立ち上げた、ロックバンドINUの元メンバーだった林直人のバンド。ダイナミックでヘヴィーなバンドサウンドを聴かせるロックバンドで、そのサウンドからはプログレからの影響も感じさせます。こちらも分厚いバンドサウンドとギターノイズで埋め尽くされた音が特徴的なのですが、力強い迫力ある演奏が印象に残ります。

そしてユニークだったのがほぶらきんというバンド。関西でわずか4年だけ活動し、4枚のEPと2枚のソノシートだけ残したバンドなのですが、かなりアバンギャルドでユーモラスあふれる音楽性が特徴のバンドで、一部でカルト的な人気を集めたとか。曲はどれも長くて2分程度という曲が続くのですが、フリーキーなサウンドをバックにとにかく叫びまくる音楽性がかなり自由でユニーク。かの石野卓球も音楽的に影響を受けたそうで、確かに、このユーモラスで自由な音楽性は、特に初期に電気グルーヴに通じるものも感じられました。

評価:★★★★★

Title:Answer 81 1981.4.19. Vol.2
Musician:ザ・スターリン

で、Vol.2がスターリンのライブ音源。彼らの音楽性はかなりストレートなパンクロック。疾走感あふれるバンドサウンドに、ボーカル遠藤ミチロウの激しくシャウトするボーカルが特徴的。このライブアルバムは全15曲という内容ながら、30分弱という長さで、1曲あたり2分弱。勢いがあり一気に楽曲を畳みかけるようなライブパフォーマンスとなっています。

音源的には決してクリアではなく、ザラザラとした音感があります。ただ、この決してクリアではない音が逆にまるでライブ会場にいるかのようなリアリティーを与えて、楽曲の迫力をより強く感じさせます。バンドサウンドはかなり荒々しく、とにかくパンクロックの初期衝動をそのまま体現化したようなサウンド。ある意味、売れてしまって毒気が抜かれた「パンクロックバンド」が多くなってしまっている現在ですが、まさにパンクロックが本来持っていた迫力と毒気が、そのまま伝わってくるようなライブアルバムとなっています。

これがパンクロックだ!ということを、ちょっと陳腐な表現ながらも強く感じさせるライブアルバム。これ、生で見たらすごかっただろうな・・・ということを感じてしまいます。確かに、Vol.1の3バンドあわせて、これが同じライブステージで見れたとしたら、かなり圧倒されたろうな、と感じますし、この4つのバンドが同じ場所にいたこと自体が驚きを感じます。確かに、これは「伝説」になるようなライブだ、ということを強く感じた作品。アンダーグラウンド的なバンドが並ぶアルバムですが、ぜひともチェックしてほしいライブアルバムです。

評価:★★★★★

非常階段 過去の作品
初音階段(非常階段 starring 初音ミク)

ザ・スターリン 過去の作品
I was THE STALIN~絶賛解散中~完全版


ほかに聴いたアルバム

Indian Burn/Ken Yokoyama

約2年半ぶりとなる横山健のニューアルバム。ある意味、非常にいい意味で愚直なメロディアスパンクといった印象で、シンプルでストレート、メロディアスなパンクロックのナンバーが並ぶアルバム。前作「4Wheels 9Lives」はバラエティー富んだ展開となっていましたが、本作は「Deep Red Morning Light」のように裏打ちのリズムで軽快に聴かせるようなナンバーもあったり、ヘヴィーなナンバーから、ポップなメロを押し出したナンバーまでそれなりにバリエーションも聴かせつつも、基本的にはシンプルなパンク志向の楽曲となっていたように感じました。

評価:★★★★

Ken Yokoyama 過去の作品
Four
Best Wishes
SENTIMENTAL TRASH
Ken Yokoyama VS NUMBA69(Ken Yokoyama/NAMBA69)
Songs Of The Living Dead
4Wheels 9Lives

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2024年4月 9日 (火)

女王、降臨 再び

Title:ユーミン乾杯!!~松任谷由実50周年記念コラボベストアルバム〜
Musician:松任谷由実

2022年にデビュー50周年を迎え、ベストアルバム「ユーミン万歳!」をリリースした松任谷由実。そのデビュー50周年企画のラストを飾るのが本作。今回はコラボベストと題したアルバムなのですが、過去のコラボ曲を収録・・・という形ではなく、彼女の代表曲を様々なミュージシャンがリアレンジしてコラボするという企画盤。ユーミン自らミュージシャンの選定や企画、選曲にも関わったそうで、今回、10組のミュージシャンとのコラボが実現しています。

そんな中でも大きな話題となったのは、桑田佳祐とのコラボ「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない) 2023」。もともとは桑田佳祐&His Friends名義の「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない) 」というタイトルで1986年、87年に放送された日テレ系音楽番組「Merry X'mas Show」のテーマ曲として使用されたものの、長らく音源はリリースされず、2012年に桑田佳祐のベストアルバム「I LOVE YOU -now & forever-」に収録されて話題となりました。

今回、その曲をあらためて松任谷由実とのデゥオという形で収録。途中、お互いの代表曲をそれぞれがカバーするという遊びの要素も入るような、ユニークで楽しいカバーに仕上がっています。また、松任谷由実、小田和正、財津和夫名義で1985年にリリースされ、こちらも長いことCD化されてこなかった「今だから」もCD初収録。こちらも大きな話題となっています。

そんな話題性も強いコラボアルバム。岡村靖幸らしいファンキーに仕上げた「影になって」や、PerfumeっぽいエレクトロアレンジのYOASOBIとのコラボ「中央フリーウェイ」、この手のコラボでは常連のRHYMESTERとのコラボ「SATURDAY NIGHT ZOMBIES」、パーカッションやホーンでエキゾチックなバンドサウンドに仕上げたSuchmosのYONCEとのコラボ「真珠のピアス」、原曲の持つ妖艶さをさらに強調したくるりとのコラボ「輪舞曲」、彼女たちらしいロックンロール風のアレンジに仕上げたGLIM SPANKY「真夏の夜の夢」など、ユーミンの曲を様々なスタイルでカバーしたバラエティーに富んだ構成がとてもユニークに感じます。

ただし、ここにユーミンが現れると風景が一変します。もう、どう考えてもユーミンの曲にしか聴こえない。それまで耳に惹かれていたコラボ相手の独特の個性は完全にぶっ飛んで、ユーミンの声しか耳に入ってきません。コラボ相手のミュージシャンたちは完全に「前座」扱い。バンドならばバックバンド扱いですし、ボーカルは完全にバックコーラス。もう圧倒的に松任谷由実の姿しか、そこには入ってきません。

特にすごかったのが乃木坂46と小室哲哉とのコラボによる「守ってあげたい」で、乃木坂46は終始、バックコーラスの「その他大勢」扱い。あれだけ個性の塊である小室哲哉ですら、彼らしいアレンジは控えめで、完全に松任谷由実の曲、としか感じられません。特に乃木坂に対してはボーカリストとしての格の違いを見せつけている、としか思えません。

もちろん、「Kissin' Christmas」に関しては完全に桑田佳祐と対等のコラボとなっていますし、「今だから」もさすがに他のユーミンだけの曲にはなかっていないのですが、本当の意味でコラボ曲と言えるのはこの2曲だけなのでは?あえて言えば、GLIM SPANKYの松尾レミのボーカルは、ユーミンにいい勝負を挑めるだけの個性はありましたし、YONCEやくるり、岡村靖幸のカバーも、それなりにユーミンの曲の中で個性を出したアレンジにはなっていましたが、女王の前でいい勝負が出来た、程度となっており、結果としては完全にユーミンカラーに染め上げられてしまっています。

そう考えるとコラボとしての意義については若干疑問にすら感じてしまいます。もともとユーミン自体、非常にあくの強いボーカリストであり、どんな曲でも彼女が登場すれば完全にユーミン色に染まってしまう訳で、そんな中、コラボ相手に遠慮なく、ボーカルを前に押し出したような楽曲構成については、もうちょっと考えてほしかったな、とは思うのですが。ただ、自己顕示欲の強いミュージシャンたちの中でも、特に自己顕示欲の強い松任谷由実だからこそ、こういうスタイルでのコラボになってしまった、そんな感じがしました。

様々なミュージシャンたちの演奏の中で、まさに松任谷由実が降臨し、他のミュージシャンたちは、ただただ彼女を崇めたてるしかなかった・・・そんな風景が思い浮かぶようなアルバム。逆に言えば、ユーミンのファンにとってみれば、原曲のイメージも崩れず、楽しめるアルバムにはなっていたと思いますし、変なアレンジや試みがない点、いい意味でも安心して聴けるアルバムにはなっていたかと思います。いろいろな意味で松任谷由実らしいアルバムでした。

評価:★★★★

松任谷由実 過去の作品
そしてもう一度夢見るだろう
Road Show
日本の恋と、ユーミンと。
POP CLASSICO
宇宙図書館
ユーミンからの、恋のうた。
深海の街
ユーミン万歳! ~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~


ほかに聴いたアルバム

世紀のうた・心のうた -服部良一トリビュート-

戦前から戦後にかけて活躍し、数多くのヒット曲を世に送り出した作曲家、服部良一。今年はNHK朝の連続テレビ小説で、彼が作曲を手掛けて、数多くのヒット曲を歌った笠置シヅ子をモデルとしたドラマが放送されて話題になりました。おそらく、それに連動した企画なのでしょうが、服部良一のトリビュートアルバムがリリース。真心ブラザーズ、曽我部恵一、スチャダラパー、小西康陽など豪華なミュージシャンたちが名前を連ねています。

カバーは基本的に原曲に充実ながらも、それぞれの個性もしっかりと出ている点がユニーク。真心ブラザーズがカバーした「ヘイヘイブギー」はYO-KINGのボーカルもマッチさせた軽快なブギに仕上げていますし、「おしゃれ娘」をサンプリングしたスチャダラパーの「おしゃれミドル」も彼ららしい、ユーモラスで軽快な楽曲に。後半は、石丸幹二、望海風斗、井上芳雄といったミュージカル経験者の歌手がカバーしていますが、こちらも実力者らしい伸びやかで力強い歌をしっかりと聴かせてくれています。実力者がしっかりと集ったカバーアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★★

再生-Saisei-/DJ KRUSH

約4年2ヶ月ぶりとなるDJ KRUSHのニューアルバム。アルバム全体、不穏な空気の流れる作風が印象的。サウンド的には「奇迷-Kimei-」のように、比較的、今風のビートを奏でるような曲もあるものの、全体的には最新鋭のHIP HOPのビートといった感じではありません。ただ、非常にエッジを効かせたタイトなサウンドは非常にカッコ良いものがあり、アルバム全体を流れる空気感も統一されており、耳を惹きつけるものがあります。ビートメイカーとしての実力を感じさせてくれる作品でした。

評価:★★★★★

DJ KRUSH 過去の作品
Butterfly Effect

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2024年4月 8日 (月)

ミュージシャンの個性と楽曲の魅力をしっかりと感じさせるカバー

Title:みんなのさだ

さだまさしのデビュー50周年を記念してリリースされたトリビュートアルバム。数多くのミュージシャンたちがさだまさしの楽曲をカバーしたアルバムなのですが、これが予想していたよりも素晴らしいアルバムに仕上がっていました。

個々のカバーがなかなかの絶品。槇原敬之の「案山子」も、暖かい彼のボーカルが曲とマッチし、マッキーのボーカリストとしての魅力を感じさせる楽曲となっていますし、上白石萌音の「秋桜」も清涼感あるボーカルで楽曲の主人公とちょうど年代も類似しているためか、歌詞の世界がより耳に入ってきます。三浦大知の「風に立つライオン」も、彼のボーカリストとしての実力を存分に感じられる感情たっぷりのカバーで、ボーカリストという側面だけならば、おそらくさだまさしを上回っているかも。高橋優の「精霊流し」も、彼の歌い方がさだまさしと似ているような感があり、原曲の雰囲気そのままなカバーがとてもよい感じ。wacciの「関白宣言」は、若手ミュージシャンによるカバーなだけに、どう仕上がるのかと思っていたのですが、原曲の持つコミカルな感じを上手くすくいあげている名カバーに仕上がっています。

そんな中で異色作とも言えるのがMOROHAの「新約『償い』」で、さだまさしの名曲「償い」からインスパイアされたMOROHAのオリジナル作。ただ、原曲の「償い」が、「交通事故で人を死なせてしまった主人公が、被害者の遺族に償いを続ける」というストーリーなのに対して、「新約」の方は「新型コロナをうつしてしまっい祖父を死なせてしまった主人公が、コロナ感染のきっかけとなった音楽活動を辞めようとするが、祖父の遺言からそれを乗り越えて音楽活動を続けようとする姿」を描いています。新型コロナをうつしてしまうというのは不可抗力な部分があり、多かれ少なかれ過失の要因が強い交通事故とは違いますし、「新約」については「償い」も行っていません。正直、MOROHAの新曲としてはいい曲だとは思うのですが、さだまさしのカバーに並べるとなると、かなり違和感があるのは否めませんでした。

そんな異色なカバーもありつつ、全体的にはカバーしたミュージシャンたちの個性や魅力を反映させつつ、同時にさだまさしの魅力もしっかりと伝わるカバーに仕上がっていたと思います。思うに、さだまさしというミュージシャン、ボーカリストとしては清涼感あるボーカルであくの強いボーカルといった印象は受けません。一方で、メロディーや、特に歌詞の世界に関しては彼の個性が強く反映された、彼にしか書けない作品をつくってきています。そのため、楽曲からボーカルの部分を入れ替えたとしても、さだまさしの魅力はそのまま楽曲に残りますし、逆に楽曲自体の個性が強いだけに、ミュージシャンが自らの個性を楽曲にぶつけても、決して楽曲自体の持つ魅力が損なうことはないのでしょう。そのため、これだけ魅力的なカバーアルバムが生まれてきたのだと思います。

また個人的には、むしろ以前聴いたさだまさしのベストアルバム以上に、さだまさしの魅力を感じることが出来ました。こう書くと、カバー曲が原曲を超えたのか、と誤解されそうですが、そうではなく、以前聴いたさだまさしのベストアルバムは3枚組のフルボリューム。魅力的な曲が多かった反面、3枚組というボリュームになってしまうと、説教臭かったり、若干、歌詞に団塊の世代的な価値観が混じっていたりと、マイナスポイントも気になってしまいました。ただ今回のカバーアルバムは、その中でも選りすぐりの14曲を収録。このくらいのボリュームならば、さだまさしのマイナス点が気にならず、魅力だけを存分に味わうことが出来る構成にもなっていたと思います。

そういう意味ではさだまさしの入門盤としてもむしろ最適なアルバムかもしれません。カバーしているミュージシャンは若手・・・・・・と言えないベテランも少なくないのですが、少なくともさだまさしのファン層よりはかなり下の世代をターゲットとしているミュージシャンなだけに、これをさだまさしの入り口として、という意味では最適でしょうし、そういう意味でも優れた企画だったと思います。個人的には、このアルバムを聴いて、あ、自分、意外とさだまさしの曲、好きだ、と感じたアルバムにもなっていました。カバーを通じてさだまさしの魅力を感じられた作品でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

WINTER SONGS FOR YOU!/カジヒデキ

Winter_

カジヒデキのウィンターソングやクリスマスソングを集めた配信限定のコンピレーションアルバム。カジヒデキらしい軽快で暖かく、ちょっと切なさも感じさせるポップソングが並んでいます。どこを切り取ってもいかにもカジヒデキという曲の連続で、それはウィンターソングだろうがクリスマスソングだろうが変わりません。この点、大いなるマンネリといえばマンネリですが、カジヒデキの楽曲の強度の強さもあらためて感じたアルバムでした。

評価:★★★★

カジヒデキ 過去の作品
LOLIPOP
STRAWBERRIES AND CREAM
TEENS FILM(カジヒデキとリディムサウンター)
BLUE HEART
Sweet Swedish Winter
The Blue Boy
秋のオリーブ
GOTH ROMANCE
THE PERFECT E.P.

音楽/SUPER BEAVER

前作「東京」からちょうど2年ぶりとなるSUPER BEAVERのフルアルバム。ヘヴィーなロック路線で行くのか、ポップ路線で行くのか、いまひとつ立ち位置が中途半端な印象を受け、前作「東京」はその中でポップ寄りの路線を感じましたが、今回のアルバムは再び正統派のギターロックといった感じで、ややヘヴィー寄りにシフトした印象でしょうか。疾走感あってほどよくヘヴィーなバンドサウンドは、確かに良くも悪くも売れ線といった印象もあるのですが。ただラストの「小さな革命」「当事者であれ」という繰り返されるフレーズはかなり共感を覚え、強く印象に残りました。

評価:★★★★

SUPER BEAVER 過去の作品
アイラヴユー
東京

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2024年4月 2日 (火)

36歳の三浦大知

Title:OVER
Musician:三浦大知

前作「球体」から約6年ぶりとなるフルアルバム。その前作「球体」はコンセプトアルバムという立ち位置だったので、純粋なオリジナルフルアルバムとしては「HIT」以来、約7年ぶりとなるニューアルバムとなります。今回、このアルバムレビューを書くにあたって気が付いたのですが、三浦大知って、もう36歳なんですね・・・。Folder5以来のイメージがあるから、もうそんなに「おじさん」になっちゃったんだ・・と思ってしまいました。

さて今回の新作については、まず良くも悪くも今時のサウンドメイキングに、もっと言ってしまえば「売れ線の音」になっていたように感じます。冒頭を飾る先行シングル「Pixelated World」のダイナミックなエレクトロサウンドも、続く「能動」のラップからスタートし、エレクトロサウンドのリズミカルなビートも、また、メランコリックに歌い上げるボーカルスタイルも、正直、ちょっとK-POPっぽさを感じさせる部分もあります。

その後もリズミカルなエレクトロチューン「好きなだけ」や、こちらも売れ線の王道を感じさせるバラードナンバー「Flavor」など、「売れ線」と書いてしまうと、ちょっとネガティブな響きを持ってしまうかもしれませんが、ただ、しっかりと作り込まれたエレクトロサウンドのクオリティーの高さは間違いありません。また、言うまでもないかもしれませんが、声量のあり、かつ非常に伸びやかな三浦大知のボーカルの魅力は本作も健在です。

前作「球体」はコンセプトアルバムということで、サウンドの側面でかなり凝ったアルバムに仕上がっていました。そのため音楽的な評価は高かったのですが、若干取っつきにくさはあったかもしれません。その分今回のアルバムは、楽曲的には決して凝ったアルバムではないのかもしれませんが、その分、下手なギミック的な部分がない分、三浦大知のボーカリストの魅力はより存分に発揮されていたのではないでしょうか。

とはいえ、良くありがちな売れ線のサウンドに関しては、ちょっと物足りなさを感じた前半。そんな印象が大きく変わったのは後半でした。後半のバラードナンバー「羽衣」は、ハイトーンボイスで聴かせるミディアムテンポのナンバーで、感情たっぷりにちょっと切なさも感じられる三浦大知のボーカルは魅力たっぷり。終盤の「Sheep」は非常にシンプルなサウンドで三浦大知のファルセットをこれでもかというほど聴かせるナンバー。まさに三浦大知のボーカリストの力量あっての楽曲となっています。後半は、前半に比べると、より三浦大知のボーカルの魅力を生かした、優れた作品が並んでいたように感じました。

ボーカリストとしての魅力をさらに強く感じさせる傑作アルバム。年齢を重ねて、さらに表現力に磨きがかかってきたようにも感じさせます。彼だからこそ完成させうる、素晴らしいアルバムでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

The Roller Skating Tour/Nulbarich

約2年半ぶりとなるNulbarichのニューアルバム。メロウなジャズ、ソウルをベースに、ちょっと懐かしいテイストを加味しつつ、軽快でポップにまとめあげているスタイルはいままで通り。前作から引き続き、エレクトロのテイストが目立ち、懐かしさを感じられるAORの要素も強くなった感じも。相変わらずクオリティーの高いポップチューンを聴かせてくれています。ただ、残念ながらNUlbarichは今年いっぱいで活動を休止するとか。確かに完成度の高い作品なだけに、Nulbarichとして演れることは演りつくしたといった感もあるのでしょうか。とはいえ、Nulbarichは事実上、JQのソロプロジェクトなだけに、名義を変えて新たな音楽活動を再開するのでしょう。次の一歩も楽しみです。

評価:★★★★★

Nulbarich 過去の作品
Who We Are
Long Long Time Ago
H.O.T
The Remixies
Blank Envelope
2ND GALAXY
NEW GRAVITY

U30 Contract TAKASHI UTSUNOMIYA ANTHOLOGY 1992-2023/宇都宮隆

TM NETWORKの宇都宮隆のソロデビュー30周年を記念してリリースしたソロキャリアのベストアルバム。ソロでの作品のみならず、BOYO-BOZO名義の作品も収録しているベスト盤になっています。基本的にはTM NETWORKのイメージをそのまま引き継いだような曲が多いのですが、一方で、端正な彼のボーカルを通すと、どんな曲でも宇都宮隆の曲になるような印象が。TM NETWORKの曲も、このボーカルを軸に据えた曲作りを行っていたため、ウツのソロ曲に関してもTMの延長線に感じてしまうのはそのためでしょう。それだけ魅力的かつ個性的なボーカリストと感じます。ただ、残念ながらTM時代の曲を超える曲がないのは残念。また、ソロキャリアの中での最大のヒット「少年」がなぜか未収録なのも残念。一方、ボーナストラックとして、小室哲哉作曲の「JINGI・愛してもらいます」も収録。小室曲をあえてカバーする、というここまでは面白いのですが、間奏になぜかTRFのヒット曲のフレーズがそのまま使われています。小室哲哉に媚びている・・・訳ではないと思うのですが、ただ、ちょっと小室に寄りすぎでは?とも思ってしまったりもして、違和感が・・・。

評価:★★★★

宇都宮隆 過去の作品
TRILOGY
mile stone

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2024年3月29日 (金)

日本の移民について考えさせられる1冊

今日は最近読んだ書籍の紹介です。

といっても、広い意味での音楽関係の書籍。韓国出身で現在は日本を拠点に活動しているラッパー、Moment Joonによる著書「日本移民日記」。もともとは韓国のソウル出身で、2010年に大阪大学に留学し、日本に移り住んだ彼。日本における「移民」という立場から、日本の病巣をえぐった2020年にリリースされたアルバム「Passport&Garcon」は当サイトでも紹介したのですが、聴いた時点で「年間1位の傑作」と称し、実際、2020年の私的年間ランキングで1位に選ぶ傑作でした。本作は、その彼が2020年11月から翌年にかけて岩波書店のWEB「たねをまく」に掲載されたエッセイを中心にまとめた1冊です。

「移民」として日本に在住する彼が、その立場の視点から日本での暮らしを描写した内容になっているのですが、彼の立ち位置というのがユニークで、韓国からの移民として話題になる、戦時中に日本に移民した在日韓国人でもなく、経済的な理由から日本に来たようなブラジル系の外国人でもなく、最近一部で話題となっている政治的理由での難民でもありません。ただ日本が好きで日本に移住してきた彼は、おそらく日本にいる外国人の中での割合としては実はかなりの比率を占めるのかもしれませんが、このように「移民」として自らの視点から語られるのは、逆に珍しいように思います。

そんな彼だけに、日常の中で感じられる外国出身であるからこそ感じられる違和感という視点が非常に興味深く感じられました。特に第1章で指摘される外国人をひとつの「キャラクター」として認識されるという指摘は非常に鋭く印象的。また、第2章で指摘されている日本語がうまいと「〇〇さんは心が日本人」と言われることがよくある、という指摘も印象に残ります。おそらく、言った本人としては決して差別をしようとして言ったのではないでしょう。ただ、いずれの事象も私たちが心の中で薄っすらと持っている、外国人を自分たちとは異質の存在として識別している感情の発現。言われた人たちがやはり嫌な思いをする時点で、言った本人に「悪意」がなかったとしてもやはり一種の「差別」的な言動である点は認識すべき話なのかもしれません。

音楽的なエッセイもあって、第5章、第6章では、HIP HOPにおいて、いわゆる「Nワード」(差別用語)がどのように使用されているのかを分析しています。本人の修士論文の触りを要約した内容だそうですが、特に日本においてこの差別用語がHIP HOPでどのように使用されているかの指摘が非常に興味深く感じます。日本のHIP HOPでは「Nワード」が「社会的文脈」ではなく「ヒップホップの文脈」でのみ行われている(要するに「差別」ということに対して意識的に取り組んでおらず、HIP HOP的に海外で「Nワード」を多様しているからスタイルだけ真似しているという指摘)は私も何となく日本のHIP HOPに対して感じていたことで、その点を実例を用いつつ、論理的に分析しており、読み応えのある内容となっていました。

全体的に非常に理論立った文章を書く方で、内容にも説得力を感じさせます。特にミュージシャンのこの手のエッセイは、良くも悪くも感情的な文体になることが多い中で、これだけ理論的な文章を書くミュージシャンは珍しいかも。エッセイという形態なだけに読みやすさを感じさせる一方で、しっかりとした主張も伝わってくる内容で、とても読み応えのある1冊。自分の中にある、外国人を「差別」する感情も含めて、いろいろと考えさせられるエッセイでした。

そんな彼が、ニューアルバムをリリースしましたので、今回は一緒に紹介したいと思います。

Title:Only Built 4 Human Links
Musician:Moment Joon&Fisong

Onlybuilt4humanlinks

同じく大阪で活躍するラッパーで、在日韓国人であるFisongとのコラボアルバム。Moment Joonが新たに立ち上げたレーベル「HOPE MACHINE FACTORY」からの第1弾リリースとなるそうです。前作「Passport&Garcon」リリース後、一度は引退宣言もしており、どうなるのか気にしていたのですが、レーベルを立ち上げて、こうやってMoment Joonとしてアルバムをリリースということは、今後もコンスタントに活動を続けていくのでしょうね。良かったです。

前作「Passport&Garcon」は、前述の通り、日本人が無意識に持つ差別的意識を描写したリリックが印象に残る作品で、どちらかというとリリック面で注目を集めることが多い作品でしたが、今回の作品については今時のビートを意欲的に取り込んだ作品に。同作の紹介には「ドリル、ネオブーンバップ、クランク、ローファイ・デトロイト」と書かれています。細分化している今のHIP HOPシーンのリズムについては正直、追い切れていないのですが、「Warawasenna/嘲」あたりはドリル、「Waru/悪」あたりはネオブーンバップといった感じでしょうか。ラッパー以上にHIP HOPミュージシャンとしてのMoment Joonの実力を感じさせます。

一方では前作で意欲的だったリリックについての主張は今回は控えめ。本作でも「Robbin'Time/懲」のような社会派なリリックもあったり、リリックでは日本語や英語だけではなく韓国語も取り入れているあたり、在日韓国人であるという(前述の書籍を読む限りだと、Moment Joonをそう称してよいのか悩むところですが)パーソナリティーを押し出した感はあるのですが、印象としては前作ほど強く残るものではありません。

結果として、良くも悪くも今時のHIP HOPといった感じの印象が残ります。HIP HOPミュージシャンとしてのMoment Joonの実力はわかるものの、良くありがちなHIP HOPのアルバムという感想にもなってしまいます。まあ、「Passport&Garcon」のようなアルバムを作り続けるのは難しいだけに、仕方ない部分もあるのでしょうが・・・。とはいえ、前作が10年に1枚クラスの傑作だっただけにちょっと残念にも感じます。とはいえ、意欲的に今風のリズムを取り込むあたり、彼のHIP HOPミュージシャンとしての実力も感じられた作品。これからの活躍にも期待です。

評価:★★★★

Moment Joon 過去の作品
Passport&Garcon
Passport&Garcon DX

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2024年3月24日 (日)

「すこし・ふしぎ」な世界

Title:Contact
Musician:角銅真実

シンガーソングライターやパーカッショニストとして活躍。ceroや原田知世のライブサポートとしても活躍し、徐々に注目を集めている角銅真実。前作「oar」もかなり評価が高く、注目を集めたのですが、前作から約4年。ちょっと久々となるニューアルバムをリリース。こちらも前作と勝るとも劣らない傑作アルバムに仕上がっていました。

前作「oar」で、まずは大きな魅力だったのが角銅真実の声でした。清涼感あるウィスパー気味のボーカルが大きな魅力である彼女。前作は、その彼女の声に焦点を絞ったシンプルなサウンドメイキングが大きな特徴でした。今回の作品においても、もちろん彼女のこのボーカルが大きな魅力であることには変わりありません。「Carta de Obon」ではアコースティックなサウンドをバックに、ちょっとウィスパー気味のボーカルで清涼感あるボーカルを魅力的に聴かせる楽曲に仕上げてきています。

ただ、そんな中、今回のアルバムはむしろサウンドの面に焦点を絞ったような作品に仕上げています。特に今回のアルバムテーマとして「聴こえたものを聴こえたまま」だったそうで、録音の場で聴こえた様々な音をそのまま捉えたような作風に仕上がっていました。ジャケット写真も、水の中に彼女が顔を突っ込んだようなデザインとなっていますが、1曲目の冒頭「i o e o」はいきなり彼女が水の中に顔を突っ込んだ音をそのまま録音したような音からスタート。さらに「枕の中」では、まずでフィールドレコーディングのように、虫の声が聞こえる中、アコギと彼女のボーカルでしんみりと聴かせるような作品。「落花生の枕」でも同様に、鳥の鳴き声の中、彼女の静かな微笑みと、そしてチェロやアコギの音色をそのまま捉えたような作品に仕上がっています。

そしてこのアルバムのコンセプトが「すこし・ふしぎ」だそうで、こちら、かの藤子・F・不二雄先生が自分の作品について掲げたコンセプト。F先生は自分の作品について、本格的なSF作品ではなく「すこし(S)・ふしぎ(F)」と表現しています。彼女もそんなF先生のスタンスに共感を覚え、今回のアルバムコンセプトを「すこし・ふしぎ」として設定したそうです。

確かに今回のアルバム、ちょっとファンタジックで、ちょっと「ふしぎ」な雰囲気の作風になっている点も大きな特徴でした。例えば1曲目「i o e o」もアコギやチェロ、フルートなどの音色の中、ファンタジックな雰囲気の作風に。続く「蛸の女」も民謡風の曲調で静かに聴かせる彼女のボーカルのバックには、ベースやホーン、アコギなど様々な音が鳴っており、ちょっと不思議な雰囲気に。全体的にシンプルなアコースティックのサウンドを聴かせるのが特徴的だったのですが、「聴こえたものを聴こえたまま」がテーマだった作品なだけに、様々な音が取り入れられており、幻想的で、ちょっと不思議な雰囲気の作風になっていたのが今回の大きな特徴となっていました。

そんな中でもアルバムのひとつの核になっていたのが中盤の「長崎ぶらぶら節」。彼女の出身地、長崎の民謡を歌った作品なのですが、彼女のボーカルにもエフェクトがかけられて、こちらも不思議な雰囲気に。最初は静かにスタートするのですが、途中からストリングスやピアノ、バンドサウンドが登場し、徐々に賑やかに。さらに後半ではラテンのリズムまで登場してきており、まさにすこし・ふしぎのコンセプトにピッタリな展開を聴かせてくれました。

ただ、様々な音を取り入れたアルバムでありながらも、基本的にはアコースティックベースのシンプルな音の作りが特徴的な故に、J-POPにありがちな「様々な音を入れて音が過剰になってしまった」という感じは全くありません。むしろ、あるがままを録音したにも関わらず、必要最低限の音のみで構成されたように感じる作風に。そのため、いろいろな音が鳴っているのに、不必要な音が一切ないという、これまたある意味「すこし・ふしぎ」なアルバムに仕上がっていました。

前作も傑作でしたが、今回も間違いなく年間ベストクラスの傑作に仕上がっていたと思います。ボーカリストとしての彼女の魅力を強く感じた前作に続き、今回ではさらに彼女の音楽性の幅広さ、その実力を強く感じるアルバムになっています。是非、彼女の「すこし・ふしぎ」な世界を体験してほしい、そんな作品でした。

評価:★★★★★

角銅真実 過去の作品
oar


ほかに聴いたアルバム

dip/夜の本気ダンス

結成15周年を迎えた夜の本気ダンスが、その記念すべき年にリリースした約4年半ぶりのニューアルバム。全編的に軽快でリズミカルなギターロックチューンが並びます。特に特筆したいのが1曲目の「ピラミッドダンス」で、かのケンモチヒデフミとのコラボ。楽曲的には完全に歌詞の世界を含め、水曜日のカンパネラです。勢いのある軽快なギターロックが並んでおり、聴いていて非常に心地よく楽しめるのですが、手放しに絶賛するには曲のバリエーションといいインパクトといい、ちょっと物足りなさが残ってしまう部分も。傑作一歩手前の、非常に惜しい感じが否めないのですが・・・。「ピラミッドダンス」ほどのインパクトある曲がもう1曲あれば、とも思ってしまうのですが。

評価:★★★★

夜の本気ダンス 過去の作品
DANCEABLE
INTELLIGENCE
Fetish
PHYSICAL

Flying To The Top/AK-69&¥ellow Bucks

Flying_to_the_top

ラッパーのAK-69と¥ellow Bucksがタッグを組んでリリースしたEP。あえてバラエティーあるHIP HOPに挑戦したそうで、リリックとしては方向性の異なる楽曲が並ぶのですが、良くも悪くも、いかにもラッパー的な価値観、世界観的なリリックですし、トラックにしても似たようなメランコリックでダークなトラックが多いので、さほどバラエティー富んだ・・・という印象は受けません。ただ、逆にそれはそれで統一性はあり、ファンにとってはいい意味で受け入れられやすい形なのかもしれませんが。

評価:★★★★

AK-69 過去の作品
THE CARTEL FROM STREETS
THE RED MAGIC
The Independent King
Road to The Independent King
THE THRONE
DAWN
無双Collaborations -The undefeated-
THE ANTHEM
ハレルヤ-The Final Season-
LIVE:live
The Race

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2024年3月23日 (土)

ラストを迎えることの誇り

Title:BAD HOP
Musician:BAD HOP

Badhoplast

おそらく、2024年の音楽関連の最大のニュースのひとつがBAD HOPの東京ドームでの解散ライブでしょう。川崎市を拠点とするラップクルー、BAD HOP。2010年代後半から徐々に話題を集めだし、人気を確保してきました。その彼らが、結成10周年を迎える2024年に解散を発表。そのこと自体も大きなニュースですが、さらに大きな話題となったのが、解散ライブを東京ドームで実施するというニュース。人気のグループとはいえ、まさかの東京ドームワンマンという驚きを持って迎え入れられました。

個人的にもライブに興味があり、時間が合えば行ってみたいな、とは思っていたのですが、正直、おそらく売り切れることはないだろう、と高をくくっていました。ところが、チケットは見事ソールドアウト。当日、東京ドームは5万人という大入りという状況だったそうで、率直なところ、彼らを見くびっていた・・・と言わざる得ません。

その人気ぶりに驚くのは、BAD HOPというグループが、かつての常識から考えると一般的に決して「売れ線」と言われるグループではなかったからです。もともと出自からして、川崎市の池上という、本人たち曰く「日本で一番空気の悪い場所」からスタートしたグループ。アンダーグラウンドであることを前に押し出しており、ある意味、本場アメリカのHIP HOPのストリート感を漂わせるリリックは、評価は高かったものの、決して一般受けするものではありません。トラックにしても、流行のトリップを全面的に取り入れたものではあるものの、その「流行」はあくまでも本国アメリカでの話で、日本において、HIP HOPリスナーの間ならともかく、一般のリスナー層に広く聴かれているか、と言われると、決してそうではありません。

それにも関わらず、ラストライブというイベント性があるとはいえ、東京ドーム5万人をソールドアウトさせる人気のほどには驚かされると同時に、HIP HOPというジャンルのすそ野が、もうそれだけ広がっているんだな、ということを実感させられ、また同時に認識を改めさせられました。既にヒットチャートではHIP HOPというジャンルが席巻しているのですが、BAD HOPのようなアンダーグランド性の強いグループがここまで受け入れられていているという事実を、東京ドームライブのソールドアウトによって、非常に具体的に可視化されたように感じます。

さて、本作は、そんな彼らのラストアルバムとなる作品。8曲入り30分弱のミニアルバム的な構成となります(ただ、その後、メンバーのソロ作やフューチャリング曲を追加した拡張版がリリースされていますが)。楽曲的にはラストに東京ドームへのライブへ望む彼らの決意をストレートに綴ったリリックが目立ちます。1曲目からしていきなり「TOKYO DOME CYPHER」。リリックは、彼らのいままでの歩みから東京ドームでライブを行うことの誇りが綴られています。「Fianl Round」もタイトル通り、ラストライブにのぞむ決意を綴った作品。同じく「Last Party Never End」も友人や彼女とのデートを想定したリリックになっているものの、おそらく、ラストライブに足を運んだファン全員を相手として想定しているようなリリックがユニーク。ラストの後の決意も感じられるリリックになっています。

そしてラストを飾るのが「Champion Road」。ピアノを入れてメランコリックで、そしてダイナミックなサウンドで、彼らの強い誇りと、そしてこれからを感じさせるリリックで、まさにラストにふさわしい作品となっています。

楽曲的には正直言って目新しさは感じません。メランコリックなサウンドにトラップのリズムを加えたスタイルは、良くも悪くもいつものBAD HOPといった感じ。やはりラストだからこそ、あえていつも通りのBAD HOPしていたのかもしれません。また、あえて言えば、いままでに比べて、よりマイクリレーが前面に押し出されてたように感じるのも、やはりBAD HOPとしてのラストを意識したものでしょうか。そういう意味で、純粋に、音楽的に考えると決してBAD HOPとしての最高傑作、といった感じではありません。ただ、最後を迎えるにあたって、間違いなく欠かすことができない1枚だったのかな、という印象を受ける作品でした。

これでBAD HOPとしての活動は終わり、というのは残念ですが、それと同時にこのアルバムを聴くと、やはりもうBAD HOPとしてはやり切ったのだろうな、という印象も受けるアルバムでした。それと同時に、彼らのようなアンダーグラウンド色の強いグループが、東京ドームを埋められたという事実を提示したことも、非常に大きな彼らの意義だったように感じます。これからはメンバーがソロで活動を続けるのでしょうが、その動向も見逃せません。メンバー全員のこれからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

BAD HOP 過去の作品
BAD HOP 1DAY
Mobb Life
BAD HOP HOUSE
BAD HOP ALLDAY vol.2
BAD HOP WORLD
BAD HOP HOUSE 2


ほかに聴いたアルバム

50th Anniversary Special A Tribute of Hayashi Tetsuji-Saudade-

作曲家林哲司のデビュー50周年を記念してリリースされたトリビュートアルバム。トリビュートと言っても、本人が自分の持ち歌を新録で収録している曲もあり、冒頭の中森明菜の「北ウイング-CLASSIC-」にいきなり持っていかれます。全体的には哀愁たっぷりのシティポップが並んでおり、原曲準拠なカバーを基本的には落ち着いたボーカルのカバーに仕上がっています。以前聴いた林哲司の5枚組の作品集では、シティポップという枠組みで考えると、ちょっと期待はずれな内容だったのですが、こちらはそんな中でも特にヒット曲を凝縮しているだけに、すべて魅力的なシティポップの作品が収録されており、ともすれば前述の作品集よりも、より林哲司という作曲家の魅力に触れられるアルバムだったかもしれません。

評価:★★★★★

ケツノポリス13/ケツメイシ

タイトル通り13枚目になるケツメイシのニューアルバム。HIP HOPからエレクトロのダンスチューン、メロディアスなポップから聴かせるバラードなどなど、バラエティー富んだ作風が特徴的。歌詞もコミカルなナンバーから正統派のラブソング、J-POPらしい前向き応援歌まで多彩。商店街へのエールやアントニオ猪木ネタの曲、おじさんの悲哀を歌った曲やら農家を取り上げた曲まで非常にユニークな歌詞はケツメイシらしい感じ。基本的には身の回りの出来事を歌詞にしたコミカルな曲調は、もうケツメイシのお家芸といった感じか。ある意味、大いなるマンネリ気味ではあるのですが、安心して聴けるアルバムにはなっていました。

評価:★★★★

ケツメイシ 過去の作品
ケツノポリス5
ケツノポリス6
ケツノポリス7
ケツの嵐~春BEST~
ケツの嵐~夏BEST~
ケツの嵐~秋BEST~
ケツの嵐~冬BEST~

KETSUNOPOLIS 8
KETSUNOPOLIS 9
KTMusic(KTMusic)
KETSUNOPOLIS 10
ケツノポリス11
ケツノパラダイス
ケツノポリス12

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2024年3月19日 (火)

高橋幸宏の偉大さを感じるベストアルバム

Title:THE BEST OF YUKIHIRO TAKAHASHI [EMI YEARS 1988-2013]
Musician:高橋幸宏

昨年1月、70歳でこの世を去ったミュージシャン、高橋幸宏。以前から、体調が悪い状況であることは知られていたものの、突然の訃報には多くの音楽ファンがショックを受けました。2023年は3月には坂本龍一も逝去し、わずか3ヶ月で、YMOのメンバーが2人も鬼籍に入るというショッキングな事態となってしまいました。

本作はそんな中リリースされた、高橋幸宏のベストアルバム。1988年から2013年にかけて所属したEMI時代の作品からセレクトしたベストアルバムで、選曲は鈴木慶一。さらに、砂原良徳がリマスターを施すという、単なる既存曲を寄せ集めただけのアルバムではない、なかなか豪華な仕様のベストアルバムとなっています。もちろん、収録されているのは高橋幸宏のソロとしての作品のみですが、彼がどのようなミュージシャンだったのか、あらためて概観できるベストアルバムになっています。

さて今回のベスト盤を聴いて、まずは、高橋幸宏というミュージシャンはとても優しいメロディーを書くミュージシャンということを再認識しました。例えば「しあわせになろうよ」などは、非常に暖かく、ちょっと切なさも感じられるメロディーが印象的。「GOOD DAYS,BAD DAYS」も、胸がキュンとなるような切ないメロと歌詞が強く印象に残りますし、「ちょっとツラインダ」もアコギで聴かせるフォーキーでメランコリックなメロディーラインが胸に響きます。

正直、彼の書くメロディーラインは決して派手ではありません。わかりやすいサビがある訳でもありません。ただ、聴き終わった後、しっかり心に残るメロディーラインを書いてきています。それは本当の意味でメロディーメイカーとしての才能がある、ということなのでしょう。また、大きなポイントなのが、彼のメロディーは聴けばすぐに「高橋幸宏の曲だ」とわかるような個性があります。この点も彼の大きな魅力であり、かつメロディーメイカーとしての実力を持っている証のように感じました。

またサウンド的にもバラエティーに富んでおり、彼が様々な音楽に挑戦していたことがわかります。ちょっと大滝詠一っぽさを感じるシティポップの「青空」、ジャズやボッサの要素を感じる「海辺の荘」、打ち込みでリズミカルな「風につづく道」、レゲエ風の「星屑の町」など、幅広いジャンルへのあくなき挑戦心を強く感じます。

本作でちょっと残念だったのは1988年から2013年までの作品からのベストアルバムということで、それ以前の作品に関しては収録されていない点。例えば1978年のデビューアルバム「サラヴァ!」は彼の代表作の1枚と言ってもいいのですが、このアルバムからの曲は当然収録されていません。次は、オールタイムベスト、さらにはYMOをはじめとする彼が関わったバンドの中から、彼が作曲を手掛けた曲まで収録したようなベストアルバムをリリースしてほしいなぁ。権利関係でいろいろと難しいかもしれませんが・・・。

高橋幸宏というミュージシャンの偉大なる才能を感じることが出来たベストアルバム。まだ70歳という若さでこの世を去ってしまったのは、本当に残念すぎるということを思いました。改めて、彼のご冥福をお祈り申し上げます。

評価:★★★★★

高橋幸宏 過去の作品
Page by Page
GOLDEN☆BEST
LIFE ANEW
Saravah Saravah!
GRAN ESPOIR
IT'S GONNA WORK OUT 〜LIVE 82-84〜


ほかに聴いたアルバム

moonriders アンコールLIVEマニア・マニエラ+青空百景/ムーンライダーズ

2022年12月25日に恵比寿The Garden Hallで行われた、ムーンライダーズの1982年のアルバム「青空百景」と、同年にリリースされた「MANIA MANIERA」の再現ライブの模様を収録したライブアルバム。両方のアルバムはいずれもオリジナルを聴いたことないのですが、様々なタイプのサウンドを組み込んだ実験性も感じられる作風で、それでいてどこかシニカルでありつつ同時にコミカルさも感じられる作風が魅力的。以前聴いた「FUN HOUSE year」のボックス版でも感じた、80年代90年代あたりのムーンライダーズらしさを感じさせるライブ盤でした。

評価:★★★★★

ムーンライダーズ 過去の作品
Ciao!
moonriders Final Banquet 2016 ~最後の饗宴~
It's the moooonriders
Happenings Nine Months Time Ago in June 2022
moonriders「FUN HOUSE years」BOX

Timeless/MUCC

2022年5月4日に結成25周年を迎えたMUCC。この記念イヤーの最後を締めくくるのがこのオリジナルアルバム。前半に関してはかなりカッコいい。ロックバンドとしてのMUCCの側面を全面的に押し出した構成になっており、ヘヴィーでダイナミックなサウンドが耳を惹きます。一方、後半に関しては、かなり哀愁感漂うメロディーラインを前面に押し出したような曲がメイン。ともすれば「ムード歌謡曲」の範疇に入りそうな曲もありました。ここらへんのバランスがMUCCの特徴でファンにとっては魅力なのかもしれませんが、ムード歌謡曲風の曲に関しては、ちょっとベタすぎる感もあっていまひとつ。前半はカッコよかっただけにちょっと残念な感はあるのですが。

評価:★★★★

MUCC 過去の作品
志恩
球体
カルマ
シャングリラ
THE END OF THE WORLD
T.R.E.N.D.Y.-Paradise from 1997-
脈拍
BEST OF MUCC II
カップリング・ベストII

壊れたピアノとリビングデッド

新世界
新世界 別巻

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