アルバムレビュー(邦楽)2024年

2024年9月13日 (金)

ヴィジュアル系バンドの祖

Title:ゴールデン☆ベスト Sixty Years
Musician:Der Zibet

今回も、レコード会社を超えて廉価版ベストアルバムの共通タイトルとして使われる「ゴールデン☆ベスト」シリーズの紹介。1985年にデビュー。その独特のヴィジュアルや耽美的な楽曲の世界観で、後のヴィジュアル系バンドに大きな影響を与えたと言われています。本作は、タイトル通り、デビューから1989年まで所属していたSixty Records時代の楽曲を集めた初期ベスト盤となっています。

楽曲的には、もろに80年代のギターロックといったイメージの音。アルバムの冒頭を飾る「天国へOVER-DRIVE」は典型的なビートロックの楽曲ですし、「Bad Lemon」もドラムの音に80年代的なものを感じさせる、力強いビートロックのナンバー。一方で、いかにも80年代的なニューウェーヴからの影響も顕著で、「Yo-Yo-Yo」「Blue Film」など、ニューウェーヴ風のサウンドを感じさせる曲も少なくありません。

また、後のヴィジュアル系への影響も感じさせるのは、その妖艶なボーカルスタイル。特にアルバム後半の「LOVE ME」「DANCE INTO THE MIRROR」は、その歌い方はあきらかにその後のヴィジュアル系バンドに続くスタイルに感じさせます。

その楽曲性やボーカルスタイルなど、同時期にデビューし、同じくヴィジュアル系の元祖的な存在のBUCK-TICKに近いものを感じさせます。実際、Der Zibeのボーカル、ISSAYはBUCK-TICKの櫻井敦司と仲が良かったようで、音楽的にもお互い影響を与えていた模様なので、ある意味、似ている部分があるのは当たり前なのかもしれません。

もっと言えば、「もろに80年代のギターロック」という彼らのスタイル、今の視点からすると「よくあるタイプ」と思ってしまうのかもしれませんが、むしろ彼らの方がオリジナルで、彼らの後に似たようなバンドが数多く出てきたために、そのように感じてしまうのかもしれません。また、ヴィジュアル系の祖とはいえ、その耽美的なボーカルも、後のヴィジュアル系のように、熱心なリスナー以外には抵抗感があるような、必要以上に癖のあるものではありません。良くも悪くも、後のヴィジュアル系は、彼らのスタイルのうち、その特徴的な部分を強調していったことが伺えます。

彼らは1996年に一度解散した後、2007年に再結成。コンスタントに活動を続けていたようですが、2023年にボーカルのISSAYが不慮の事故により急逝。バンドとしては活動停止という状況となってしまったようです。非常に残念ですが、そのスタイルに影響を受けたバンドは今なお数多く活動しており、その影響の大きさをうかがわせます。そんな今の日本の音楽シーンに大きな影響を与えた彼らの初期ベスト。J-POPの歴史を知るためにも最適な1枚です。

評価:★★★★

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2024年9月 6日 (金)

安定した良作

Title:CIRCLES
Musician:Monkey Majik

ここ最近のMonkey Majikは、楽曲の安定感が非常に増したように感じます。もともと2016年の「southview」、2018年の「enigma」が脂ののりまくった傑作アルバムに。その後の「northview」「curtain call」も、その2作には及ばないものの、洋楽テイストと邦楽テイストがバランスよくブレンドされた、Monkey Majikらしさを感じさせる良作が続いていました。

本作は、そんな中、前作から約1年半のインターバルでリリースされた彼ら14作目となるオリジナルアルバム。前作からのリリース間隔の短さにも彼らの勢いを感じさせますが、今回も彼ららしさを感じさせる良作となっていました。

楽曲は、メランコリックでソウルテイストも強い「Scramble」からスタート。続く「O.G.Summer」はDef Techが参加したホーンセッションも軽快な、リズミカルで疾走感あるポップチューン。メランコリックなメロのギターロックテイストの強い「HYLMN」に、エレクトロポップ「Imposter」と、バラエティー富んだ展開が続いていきます。

その後も爽快なギターとメランコリックな歌が印象的な「Borderline」、ピアノバックにしんみり聴かせるJ-POPらしいバラードナンバー「Unknown」、そして締めくくりはエレクトロサウンドでメランコリックに聴かせる「be with you」で締めくくりとなります。

基本的にはJ-POP色が強いのですが、バタ臭さを感じるメランコリックなメロディーラインは洋楽テイストをたっぷりと含んだ感じ。この洋楽っぽいけど、メロなど基本路線はJ-POPであるため日本人にも聴きやすいという絶妙なバランスこそが彼らの大きな魅力。今回のアルバムでもそんなMonkey Majikの魅力を存分に味わうことが出来ました。

ただ、基本的には良作であることは間違いないのですが、一方で目新しさはありませんでしたし、正直、全体的には無難にまとまっていたのも事実。一定の安定感ある作品に仕上がっていた点は間違いないのですが、出来としては「southview」「enigma」には及ばなかったかな、というのが正直な感想です。

とはいえ、アルバム全体としては安定感のある出来になっていたのは間違いありません。バンドは間違いなく今、いい状態なのでしょう。一時期に比べて、売上という面では落ち着いた感じはあるのですが、これだけ良い状態なのですが、ひょっとしたらまた人気も上向きになってくるかも。結成から20年以上を経過したベテランバンドである彼らですが、まだまだこれからも楽しみです。

評価:★★★★

MONKEY MAJIK 過去の作品
TIME
MONKEY MAJIK BEST~10years&Forever~
westview
SOMEWHERE OUT THERE
DNA
Colour By Number
southview
enigma
COLLABORATED
northview
20th Anniversary BEST 花鳥風月
curtain call

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2024年9月 3日 (火)

山口冨士夫在籍時の貴重な音源

Title:屋根裏 YaneUra Oct.'80
Musician:裸のラリーズ

ここ最近、かつて幻と言われていた音源の再発からスタートし、多くのライブ音源がCDとしてリリース。「幻のバンド」から、徐々にその実態を世に現わしてきている裸のラリーズ。今回もまた、ライブ音源がリリースされました。今回リリースされた音源は、1980年10月29日に東京のライブハウス、屋根裏で行われたライブ音源を収録したもの。このライブ音源が非常に貴重なものであるのは、村八分やTEARDROPSでの活動でも知られる伝説的なギタリスト、山口冨士夫が参加した音源であるため。山口冨士夫は1980年にラリーズに加入し、翌年の3月には脱退。その期間中、行ったライブ活動はわずか7回だったそうで、このライブ音源はそのうちの1回を収録したものということですから、その貴重さはわかるかと思います。

そんな、まさに日本ロック史上に残る貴重なライブの模様を収めた音源であるのですが、まず感じるのは非常に音がいい、ということ。1980年という時代のライブハウスでの音源でもあるにも関わらず、かなり音はクリアに聴こえます。いままで聴いたラリーズのライブアルバムのうち、60年代70年代に比較してももちろんのこと、90年代の録音音源である「CITTA '93」と比べても遜色ありませんし、「BAUS '93」と比べると、こちらの方がより録音状態は良好になっています。

また、山口冨士夫が加わり、ツインギターの体制となったことにより、むしろ音的にはまとまり、裸のラリーズの目指す音楽の方向性がクリアになっているようにすら感じました。

今回の山口冨士夫のギターは、水谷孝のギターと対立して緊迫感あるプレイを聴かせる、というよりも2人が協力してラリーズの音楽を作り上げているというように思います。例えば「俺は暗黒」では2人のギタープレイを聴かせてくれていますが、どちらもノイズを響かせる強烈なギターサウンドを対立させることなく、ともにラリーズのサイケな音世界を作り上げていますし、それは続く「氷の炎」でも同様。本作でももちろん、これでもかというほど狂暴な、ノイズギターの洪水に圧倒されるアルバムになっているのですが、水谷孝と山口冨士夫の2人の共演により、裸のラリーズの世界が、より強調されたように感じました。

また、このツインギターの効用としてもうひとつ感じたのは、他のライブアルバムに比べると水谷孝の「歌」がより目立つものになっていたように感じます。個人的な推測に過ぎないのですが、山口冨士夫のギターがあるからこそ、水谷孝は自身の歌により集中できたのかもしれません。結果、裸のラリーズが狂気のギターサウンドの裏に実は隠し持っていた「ポップ」な部分を強く感じることが出来たように思います。

ある意味、この点でもっとも印象的だったのが彼らの代表作でもある「夜、暗殺者の夜」で、強烈なギターノイズに、メロディアスなギターが絡むような構成となっており、他のライブ音源などに比べても、よりメロディアスな部分が強調されていたようにすら感じました。

これだけライブ音源として「まとまりがあってポップだ」と書いてしまうと、特に裸のラリーズのようなタイプのバンドだと、むしろライブ音源としてまとまりすぎており、緊迫感という意味では他のアルバムの方が上だ・・・と捉えられてしまうかもしれません。しかし、実態としては全くそんなことはなく、ライブ音源として裸のラリーズの狂気や緊迫感はこのアルバムでもしっかり捉えられています。ともすればギターノイズを強調しすぎるあまり、むしろ音的に割れてしまったような音源もある中、今回のライブ音源は間違いなく、裸のラリーズのバンドとしての実力、魅力がしっかりと収められているアルバムとなっており、個人的にはいままで聴いたライブ音源の中でベストに上げても過言ではない作品ですらあったように感じました。

それだけ山口冨士夫のギターは、裸のラリーズのサウンドのひとつのパーツとしてピッタリとあてはまっていたと思うのですが、1年程度、わずか7回のライブだけで脱退してしまったというのは、この音源の内容を考えると、逆に意外に感じてしまいます。まあ、水谷孝と山口冨士夫という2人の個性的なギタリストが、やはり長く同じバンドで活動できなかったのでしょうね。ただ、他の回のライブ音源も世に出てくれないかな、とも期待してしまったりして。どんどん音源の発掘が進むラリーズ。今後、どのような音源が出てくるのかも、楽しみです。

評価:★★★★★

裸のラリーズ 過去の作品
67-’69 STUDIO et LIVE
MIZUTANI / Les Rallizes Dénudés
'77 LIVE
CITTA'93
BAUS'93

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2024年9月 2日 (月)

「長谷川白紙」のアルバム

Title:魔法学校
Musician:長谷川白紙

フルアルバムとしては約4年8か月ぶりと、ちょっと久々となるシンガーソングライター、長谷川白紙のニューアルバム。今回のアルバムで大きな話題となっているのが、かのFlying Lotusが主宰するレーベル、Brainfeederへの移籍後初となる作品という点。海外への積極的な進出・・・といった感じではないのでしょうが、ただネットの普及により、海外のレーベルとの距離も一気に近づき、よりボーダーレスな活動が可能になっているように感じます。

また、もう今回のアルバムリリースに際してひとつのトピックスとなったのが、いままで頑なに拒んでいた自身の写真を今回公開したという点。いままで、長谷川白紙を「男性シンガーソングライター」と勝手に書いてしまっていたのですが、いままでジェンダーも公開していなかったようで、かつてTwitterで、音楽を聴く上で男か女かは意味をなさない、という趣旨の発言もしていたそうです。実際、公開された白紙のアーティスト写真は、やはりジェンダーレスを意識したような写真となっています。

女性が歌うこと、あるいは男性が歌うことに意味のある曲もあるので、楽曲において性別が関係ない、とまでは言えないのですが、ただ実際、ファルセットボイスで美しく聴かせる白紙の歌にジェンダーは意味をなさないのかもしれません。今回のアルバムでも、現代ジャズな要素を取り入れたアバンギャルドなサウンドの中で鳴り響く白紙のボーカルは、あくまでも楽曲の中の様々なサウンド要素のひとつとなっており、ジェンダーは意識されません。さらに言えば今回のアルバムでは、よりファルセットを強調し、性別不詳な感は強くなっており、よりジェンダーレスを意識したボーカルスタイルをとっているように感じます。

さらに今回のアルバムに関しては前作「エアにに」と比べてよりアバンギャルドな要素が強く、かつそんなサウンドをより前に押し出したような楽曲が増えたように感じます。アルバムの冒頭を飾る「行っちゃった」はまさにそんなアバンギャルドさを前面に押し出した、迫力あるサウンドが襲い掛かるような楽曲になっていますし、KID FRESINOとのコラボ曲となった「行つてしまった」も、これでもかというほどBPMをあげたサウンドで突っ走るアバンギャルドなサウンドが特徴的です。

ただ一方で、ファルセット主体で聴かせる長谷川白紙の「歌」はこのアバンギャルドなサウンドの中でも非常にポップに鳴り響いています。バーチャルシンガー花譜への提供曲のセルフカバーである「蕾に雷」では、ジャズの要素も強いサウンドの中、清涼感ある歌をポップに聴かせてくれていますし、ピアノアルペジオ主体と本作の中では比較的シンプルなサウンドとなっている「禁物」では、メランコリックな歌は心に響いてきます。

さて、そんなアバンギャルドさとポップスさを兼ね備えた本作ですが、海外のレーベルからのリリースという意味でのボーダーレス、性別を意識させないボーカルスタイルという意味でのジェンダーレス、音楽を楽しむ上では、本来「不要」であるはずの「壁」を取り除いた作品になっていたように感じます。もっと言えば、このボーダーレスやジェンダーレスをあまり意識させない点も大きな特徴だったように感じます。特にジェンダーレスに関しては、この点を意識した場合、あえて前に押し出しているミュージシャンが多いように感じます。ただ長谷川白紙の本作に関しては、その点も非常に自然体。そういう意味でも、純粋に長谷川白紙というひとりのシンガーソングライターによる音楽を楽しめるアルバムと言えるのかもしれません。個人的には、サウンド的にちょっと詰め込みすぎていて、「エアにに」の方が良かったかな、とは思うのですが、それを差し引いても十分傑作と言える作品だったと思います。ごちゃごちゃと理屈抜きで、「壁」を作らずに純粋に「長谷川白紙のアルバム」として楽しみたい1枚でした。

評価:★★★★★

長谷川白紙 過去の作品
エアにに
夢の骨が襲いかかる!

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2024年9月 1日 (日)

いかにも80年代という時代を感じる

Title:ゴールデン☆ベスト 1986-1989 MOON YEARS
Musician:CADILLAC

複数のレコード会社が共同で使用している廉価版ベストシリーズ、ゴールデン☆ベスト。そのミュージシャンの代表曲が、CD1枚もしくは2枚程度のボリュームで網羅されているため、入門盤としてはピッタリのシリーズ。今回紹介するのは1980年代に活動していた3人組ロックバンド、CADILLACのベストアルバムです。

といっても、CADILLACというバンド、音源を聴くのもはじめてなら、名前を聴くのも完全にはじめて。1982年に結成し、1986年にシングル「悲しきRadio Station」、アルバム「キャディラック」でデビュー。1987年にはシングル「青春のあいうえお」がTBS系ドラマ「毎度おさわがせします3」の挿入歌に起用、さらにシングル「NO NO NO」が同じくTBS系ドラマ「オヨビでない奴!」の主題歌にも起用。当時はレコード会社的にもかなり「売ろう」としていたことを感じさせます。

ただ、残念ながら大ブレイクには至らず。オリコンの情報によると、デビュー作「悲しきRadio Station」は最高位27位と、デビュー作としてはそこそこ好調なスタートを切ったようですが、ドラマ挿入歌となった「青春のあいうえお」も最高位21位と、そこそこのヒットは記録したものの大ヒットには至っていません。結果、1989年にシングル7枚、アルバム5位をリリースして解散。ただ、2007年には再結成し、アルバムもリリース。現在もライブを中心に活動を続けているようです。

今回のゴールデン☆ベストでは、彼らの代表曲を網羅。アルバム未収録だった「先生!あんた踊れるか?」「NO NO NO」も収録されています。ジャケット写真からもわかるように、不良性を前に出してきた、いかにも風貌のロックンロールバンドといった感じで、特に髪型については若干の時代性も感じさせます。

楽曲的には昔ながらのロックンロールの影響を感じさせる楽曲。「holiday」「キャロライン」などはいかにもオールドファッションなロックンロールやロカビリーの影響を受けたを聴かせてくれています。ただ一方で、パッと聴いた感じだと、ロックンロールやロカビリーという色合いよりも歌謡曲の色合いを強く感じます。ドラマ主題歌となっている「NO NO NO」などはまさに典型で、ロックンロールの影響を感じさせつつも、メロディーラインはもろに歌謡曲。「青春のあいうえお」もまた、哀愁感漂うメロディーラインはいかにも歌謡曲的です。

おそらく、80年代という時代により、今よりルーツ志向を前に押し出すことが出来ず、また、事務所的に売ろうとしているスタンスがあるため、必要以上に歌謡曲的になってしまっているような印象を受けます。おそらく、様々なタイプの曲がヒットするようになってきた今だったら、もっとロックンロール色を押し出したような作品がリリースできたのではないか、と残念には感じてしまいます。

メジャーデビューから最初の解散までがわずか3年と短かったことも含めて、正直、業界に翻弄されちゃったのかな、ということも感じます。もっとも、それを含めて彼らの実力だった、と言われると否定はできないのですが。全体的に80年代という時代を感じさせる楽曲にはある種のなつかしさも感じるベスト盤でした。

評価:★★★★

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2024年8月31日 (土)

貫禄すら感じさせる新作

Title:Rejoice
Musician:Official髭男dism

おそらく、今、最も人気のあるミュージシャンの一組であるOfficial髭男dism。本作でも「ミックスナッツ」「Subtitle」という大ヒットシングルを収録しており、その勢いは止まりません。前作「Editorial」では人気ミュージシャンとしての余裕と勢いを感じられた作品でしたが、今回のアルバムもまた、そんな今や日本を代表するミュージシャンとなった彼らの余裕と、ある種の貫禄すら感じさせるアルバムになっています。

まず今回の作品に関して思うことは、非常にアルバムらしい構成になっているという点でした。アルバムの冒頭を飾る「Finder」は、まず静かなピアノのアルペジオからスタートし、徐々に高揚感があがっていくような構成。2分程度という比較的短い、オープニング的な曲となっており、そこに続く「Get Back To 人生」はファンク風なリズムで軽快に聴かせるポップチューンでリスナーの耳をつかんだ上に、3曲目は大ヒットナンバー「ミックスナッツ」へと続く展開で、一気にリスナーをアルバムの世界に惹きこむような展開になっています。

中盤は爽快でポップなナンバーが続きつつ、アルバムが後半に突入する前に、また大ヒットしたシングル「Subtitle」でリスナーを惹きつけ、さらにダイナミックなロックナンバー「Anarchy」で盛り上げつつ、一気に後半に突入。終盤は「TATTOO」で盛り上げた上でラストは「B-Side Blues」というピアノバラードでしんみり締めくくられます。

アルバム全体の流れを考えつつ、リスナーの耳を惹きつけ、要所要所にヒットシングルを配するという構成で、全16曲でひとつの「作品」としても作り上げられていると感じさせます。ともすれば最近のアルバム、特に今時のミュージシャンのアルバムは、先行配信シングルを並べただけのプレイリスト的な作品が多くなっています。本作についても全16曲中、8曲が先行配信されている内容になっているものの、(インターリュード1曲を含むものの)半数はアルバム曲となっており、アルバムを単なるプレイリスト化させずに作品として作り上げようとする彼らの意思を感じさせます。

また、ヒゲダンの作品は以前からR&Bやソウルといったブラックミュージック的な要素を入れつつ、全体的にはいい意味で万人受けするポップスに仕上げている点が大きな特徴であり魅力でしたが、今回のアルバムに関しても、そのバランスが絶妙に保たれています。「Get Back To 人生」ではファンクの要素を、「日常」ではネオソウル的な部分など、彼らのブラックミュージックからの影響は随所に感じさせますが、ほどよく彼らのルーツを楽しみつつも、全体としてはそんな難しいことを考えずに楽しめるポップな作品に仕上げています。

なによりも1曲目の「Finder」や「Chessborad」のように、楽曲としてスケール感を覚えるような曲も多かったのもこのアルバムの大きな特徴。広い会場でのライブや、そのような会場で多くのファンと盛り上がるシーンを想定しているような曲も多く、彼らの人気バンドとしての自信や余裕を感じさせるとともに、同時に貫禄すら感じさせるアルバムにもなっていました。

前作も人気バンドとしての余裕を感じさせるアルバムでしたが、さらにそこから一歩進んで、日本を代表するバンドとしての貫禄すら感じさせるアルバム。楽曲としても充実作が多く、バンドとして脂ののった状況であることも感じさせます。ただ、以前からバンドとして脂ののった状況の時に生み出されるような「奇跡の1枚」を期待していたのですが、ただ、すでに彼らはそんな「奇跡」で傑作を生みだすのではなく、このレベルのアルバムはコンスタントに生み出してきそう、そんな安定感も覚える作品になっていました。個人的には現時点でのヒゲダンの最高傑作かも。バンドのさらなる成長と進化を感じさせる1枚でした。

評価:★★★★★

Official髭男dism 過去の作品
エスカパレード
Traveler
TSUTAYA RENTAL SELECTION 2015-2018
Official髭男dism one-man tour 2019@日本武道館
Traveler-Instrumentals-
HELLO EP
Editorial
ミックスナッツEP
one-man tour 2021-2022-Editorial-@さいたまスーパーアリーナ

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2024年8月30日 (金)

今度のテーマはフォーク!

Title:町あかりのニューフォーク
Musician:町あかり

女性シンガーソングライター、町あかりの最新作は全4曲+うち1曲の別バージョン1曲、及び同曲のカラオケバージョン全10曲が収録されたEP盤。今年は「町あかりの歌謡曲春夏秋冬2024」というプロジェクトを立ち上げたそうで、春夏秋冬それぞれ別のテーマのEP盤をリリースする予定だとか。既に「春」バージョンとしてディスコをテーマとしたEP「地球出禁にしていいよ」がリリースされ、当サイトでも紹介されましたが、本作はその第2弾。タイトル通り、フォークをテーマとしたEP盤となります。

フォークといっても、60年代や70年代のいわゆる四畳半フォークとった感じではなく、楽曲的にはむしろ80年代以降のニューミュージックや、あるいは歌謡曲的な雰囲気を強く残すタイプの楽曲となっており、彼女の歌謡曲からの影響の強さを感じさせます。もっとも、EPのテーマとして「町あかりの歌謡曲」ですから、60年代フォークよりも歌謡曲の色合いが強いのは、あえての狙いなのかもしれませんが。

町あかりの曲と言えば、いかにも昔ながらの歌謡曲風の楽曲とは相反するような、今時の事象をうまく取り入れたユニークな視点の歌詞が特徴的で、今回の作品に関しても、1曲目「せいぜい星1つか2つ」はWeb上でよくありがちなAmazonなどのレビューコメントに付された星の数を曲に取り込んでいますし、「目立った傷や汚れなし」も楽曲のテーマ的には巣立っていく子供を見送る親をテーマとしつつ、そこにメルカリの評価的なコメントを加えています。

ただやはり気になるのが、いままでの彼女の楽曲でもよくあったのですが、せっかくインパクトある歌詞があったも、ワンアイディアのみで最後まで終わらせてしまって、いまひとつ歌詞の展開に面白さがない曲が少なくないのが残念なところで、本作でいうと、「せいぜい星1つか2つ」がそれ。インパクトある表題曲なのですが、「あいつは星5つ/僕はせいぜい星1つか2つ」という歌詞と「小さな地球でレビューされただけさ/広い宇宙い 僕の星がきっとある」の2つのフレーズが繰り返されるのみで、歌詞の展開としては物足りなさを感じてしまいます。

それでも本作では「100均にあるかもしれない」は、新しい街に来た時の期待が徐々にさみしさと孤独感に変っていく状況を、「100均」をキーワードに展開させていく歌詞は聴かせるものがあり、しっかりと彼女の作詞家としての実力も感じることが出来ました。

そんな訳で、「町あかりの歌謡曲春夏秋冬2024」の第2弾である本作。秋には第3弾、冬には第4弾のリリースが予定されているのでしょうが、今度のテーマは何になるのでしょうか?またユニークなアイディアあふれる歌詞で聴かせてくれそう。楽しみです。

評価:★★★★

町あかり 過去の作品
ア、町あかり
あかりの恩返し
EXPO町あかり
収穫祭!(町あかり&池尻ジャンクション)
あかりおねえさんの ニコニコへんなうた
それゆけ!電撃流行歌
別冊!電撃流行歌
総天然色痛快音楽
地球出禁にしていいよ~ディスコあかり~

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2024年8月27日 (火)

膨大な楽器を用いる

Title:Song Symbiosis
Musician:トクマルシューゴ

新作としては実に約8年ぶり。かなり久しぶりのニューアルバムとなります。ここ最近のトクマルシューゴの話題といえば、「ちいかわ」のアニメの音楽を手掛けたということ。お茶の間で親しまれているアニメの音楽を彼が手掛けるというのはちょっとビックリしましたが、主題歌含めてアニメの世界にもピッタリとマッチしており、トクマルシューゴの才能を感じることが出来ました。

さて、トクマルシューゴといえば、膨大な量の楽器を操り、その楽曲を作り上げる点がひとつの大きな特徴でした。今回のアルバムは公式サイトの説明によると「本作での使用楽器は、これまでのアルバムを超え、より一層おびただしい数に達している」そうです。今回のアルバムタイトル「Symbiosis」というのはあまり聞きなれない英語ですが、「共生」という意味だとか。まさにこの膨大な楽器と歌が「共生」している、という趣旨のタイトルになるのでしょうか。

実際、今回のアルバムもまた、様々な音が次々と登場してくる、とても楽しいアルバムになっています。最初の「Toloope」ではバンジョーのように聞こえますし続く「Counting Dog」ではテルミンの音色も登場。その後もアコースティックギターやエレキギター、ドラムやピアノなどといったおなじみの楽器はもちろん、「Sakiyo No Furiko」ではアコーディオン的な音も登場しますし、「Bird Symbiosis」で登場するのはマリンバでしょうか?他にも様々な楽器が登場しており、さほど詳しくない私はどのような楽器が登場するのかわかりかねる部分も多いのですが、多種多様な音の宝庫。すごい陳腐な言い方になってしまい申し訳ないのですが、まさに「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現が、これほどピッタリくる音楽はないかもしれません。

また、加えて面白いのは、これだけ様々な楽器を取り入れていながら、音としては非常にすっきりしており、あくまでも歌を主軸にした曲になっているという点でしょう。とかくJ-POPでは「様々な音を取り入れる」というと、これでもかというほど分厚い音の壁を作り上げた、のっぺりとした音作りが目立つのですが、トクマルシューゴの音は、これだけたくさんの音を取り入れつつも非常にシンプルさを感じさせる音像になっており、全体的にオーガニックさを感じさせる暖かくメロディアスな歌モノの曲が並びます。

ただ、そんな曲の中でも微妙に実験的な精神が垣間見れるのもユニークなところ。「Kotohanose」はピアノの音色のシンプルでドリーミーな感触が耳に残りますし、「Resham Firiri」もトライバルなリズムに、南国的な言語で歌われるエキゾチックさあふれる作品に。「Chanda Mama Door Ke」も1分に満たない作品ながらも、エキゾチックな雰囲気が漂う作品に、彼の挑戦心を感じます。

冒頭に、最近のトクマルシューゴの仕事というと「ちいかわ」への楽曲提供と書きました。「ちいかわ」も、お茶の間で受けそうなキャラクターを前面に押し出しつつ、実は話によっては「毒」を持ったような回も少なくありません。ある意味、トクマルシューゴの音楽も、パッと聴いた感じだとポップな歌モノでありつつも、実は実験精神あふれているという二面性は「ちいかわ」に通じるところがあるのかもしれません。

久々の新作となった本作でしたが、今回もトクマルシューゴらしさを感じさせる実験性とポピュラリティーをしっかりと兼ね備えた傑作アルバムに仕上がっていました。幅広い層が楽しめるポップなアルバムです。

評価:★★★★★

トクマルシューゴ 過去の作品
Port Entropy
In Focus
TOSS


ほかに聴いたアルバム

Premium Acoustic Live “TWO OF US” Tour 2023 at EX THEATER ROPPONGI/LOVE PSYCHEDELICO

昨年全10箇所13公演で開催したアコースティックホールツアー「Premium Acoustic Live "TWO OF US" Tour 2023」のうち、東京・EX THEATER ROPPONGI公演を収録したライブ盤。彼女たちの代表曲をアコースティックなアレンジで聴かせてくれます。シンプルなサウンドをバックに力強く歌い上げるスタイルが印象的。シンプルなだけに彼女たちの歌の良さがより前に出てきているように感じる作品で、全3枚組のボリューミーな内容ながらも、最後まで飽きずに聴けるアルバムでした。

評価:★★★★★

LOVE PSYCHEDELICO 過去の作品
This Is LOVE PSYCHEDELICO~U.S.Best
ABBOT KINNEY
IN THIS BEAUTIFUL WORLD
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST Ⅱ

15th ANNIVERSARY TOUR-THE BEST-LIVE
LOVE YOUR LOVE
LOVE PSYCHEDELICO Live Tour 2017 LOVE YOUR LOVE at THE NAKANO SUNPLAZA
"TWO OF US"Acoutsic Session Recording at VICTOR STUDIO 302
Complete Singles 2000-2019
20th Anniversary Tour 2021 Live at LINE CUBE SHIBUYA
A revolution

北山修/きたやまおさむ ゴールデン☆ベスト

レコード会社共通の廉価版ベストシリーズ「ゴールデン☆ベスト」シリーズ。今回は、「ザ・フォーク・クルセイダーズ」のメンバーとして知られ、主に作詞家として数多くのヒット曲を手掛けてきた北山修のベスト盤。北山修のゴールデン☆ベストというと、てっきり、彼が作詞を手掛けた多くの作品が収録されたベスト盤かと思いきや、こちらは基本的に北山修が歌った曲を集めた、あくまでも「ミュージシャン北山修」のベスト盤。ただ、北山修が作詞を手掛けた代表曲を彼自身が歌った音源を集めたため、微妙なMCも収録されたライブ音源なども収録されており、資料的な価値は大きいものの、熱心なファン以外が聴くのはちょっと厳しい側面も・・・。彼が歌った曲、ではなく、純粋に彼が作詞を手掛けた代表曲をまとめた作品集が聴きたかったかも。

評価:★★★

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2024年8月25日 (日)

楽曲のバラエティーは富んでいるが・・・。

Title:残夢
Musician:Ado

「狂言」以来、約2年半ぶりとなるAdoの2枚目のオリジナルアルバム。ONE PIECEの映画の劇中歌によるアルバムやカバーアルバムのリリースなどもあったため、オリジナルアルバムが2枚目、かつ2年半もインターバルが開いていたことが意外に感じます。大ヒットした配信シングル「唱」を含む16曲入り。うち、14曲が配信シングルとしてリリース済というのは、最近のアルバムによるある傾向になります。

オリジナルアルバムの前作「狂言」では、作家陣に彼女と同様、ネット発のミュージシャンである、いわゆるボカロPを起用していた彼女。一方、ONE PIECEの劇中歌では、J-POP系のミュージシャンたちを作家陣として起用されており、売れるとやはりそういう「有名所のミュージシャンたち」を作家陣として用いてしまうのか・・・とちょっと複雑な気持ちになりました。ただ今回のオリジナルアルバムでは、著名なJ-POPミュージシャンを起用する一方で、ボカロPも多く作家陣として起用しており、ネット発のミュージシャンとしての矜持も感じさせる作家陣のセレクトとなっていました。

今回のアルバムもまた、彼女のパワフルな歌唱力をこれでもかというほど聴かせるような楽曲が目立ちます。彼女がブレイクした「うっせえわ」もそうですし、本作に収録されている大ヒットシングル「唱」もそうですが、基本的にドスの利いた低音ボーカルで力強く歌い上げるタイプの曲が彼女のスタイルとしては求められているのでしょう。カバーアルバムを聴くと、もっと緩急つけて表現力を聴かせるようなタイプの曲も対応できるシンガーだとは思うのですが、期待に応えるとどうしても、力強くがなり上げるタイプの曲がメインとなってしまうのでしょう。

その上で今回のアルバムに関しては比較的バリエーションのある作風になっているように感じます。Mitchie Mが手掛けた「オールナイトレディオ」はシティポップ風の作品になっていましたし、なとりが手掛ける「MIRROR」はネオソウル風、Vaundyが手掛ける「いばら」は90年代のJ-POP風のギターロック路線と楽曲によっていろいろなタイプの曲が並びます。ただ、その結果として感じてしまうのは、いまひとつAdoのミュージシャンとしての方向性がいまひとつはっきりしないという点でした。

もともとAdo自体が、シンガーソングライターではなくあくまでもボーカリストである、という点にも起因しているのでしょう。ただ、今回のアルバムではいろいろなタイプの曲を起用に歌うがゆえに、ミュージシャンとしてAdoがどのような方向に向かうのか、彼女の軸はどこにあるのか、いまひとつはっきりと感じられず、ただ与えられている曲を起用に歌い上げているだけ・・・いろいろな方向性に散らばった曲を聴くと、どうしてもそう感じてしまいます。

そんな中で比較的、ボカロPとの相性の良さを感じます。ヒットした「唱」もボカロPによる提供曲ですし、あえていえば変な癖がないゆえに、聴いていてAdoのボーカルだけにスポットがあてられる形となり、結果、Adoの魅力を最大限引き出しているのかもしれません。一方、今回のアルバムで言えば、椎名林檎が提供した「行方知れず」はどこか椎名林檎のボーカルに引っ張られているような感がありますし、B'zが提供した「DIGNITY」もいかにもB'zらしいロックバラードに感じます。ここらへん、厳しいことを言ってしまえば、Adoのミュージシャンとしての方向性が定まっていないため、提供するミュージシャンの個性が強い場合には、そのミュージシャンの個性にAdoが引っ張られて行ってしまう傾向になるのかもしれません。

そういう意味でもAdoとしての今後の課題も感じられた作品。個人的にはバラエティーの持たせ方としても、もっとしんみりと表現力を生かしたような作品を増やして、Adoのボーカリストとしての実力を伸ばしたうえで、彼女だけの個性を確立させていった方がいいようにも感じたのですが。まあ、まだまだ伸びしろのあるミュージシャンなだけに、これからといった部分も大きいのでしょう。彼女がどのように自己のスタイルを確立していくのか、今後に注目したいところです。

評価:★★★★

Ado 過去の作品
狂言
ウタの歌 ONE PIECE FILM RED
Adoの歌ってみたアルバム


ほかに聴いたアルバム

Timeless Melodies -a tribute to dustbox-

パンクロックバンドdustboxが現在のメンバーとなってから25周年を記念してリリースされたトリビュートアルバム。先日、スプリットアルバムをリリースしたばかりのHAWAIIAN6やlocofrankのほか、04Limited Sazabysのような下の世代のバンドも参加。パンク系バンドをメインにかなり豪華なメンバーが名前を連ねています。楽曲的にはパンクなカバーがメインなのですが、女性ボーカルでシンセを入れて軽快なポップ風のカバーに仕上げたWienners「Emotions」やエレクトロサウンドを取り入れたDALLJUB STEP CLUB「New Cosmos」をはじめ、同じパンクの枠内であっても意外とバラエティーに富んだ展開が楽しめます。dustboxのファンはもちろん、参加ミュージシャンに興味があればチェックして損はないトリビュートアルバムになっていました。

評価:★★★★

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2024年8月24日 (土)

デビュー作からボーカリストとしてのスタイルを確立

Title:Believe In (2024 Remaster)
Musician:谷村有美

1990年代に「ガールズポップ」の代表的なミュージシャンとして一世を風靡した谷村有美。その彼女のリリースしたアルバムが、リマスター版としてCD及びLP盤としてリリースが決定されました。まずリリースされたのが1987年のデビュー作「Believe In」。彼女が22歳の時の作品となります。

今回のリマスター盤リリースにあたって、谷村有美をシティポップとしての流れから捉える向きがあるようです。ただ、この捉え方については、リアルタイムに聴いていた立場からすると、当初、正直ちょっと違和感を覚えたのは事実です。シティポップというと、どちらかというと洋楽テイストの強いポップスというイメージがあります。一方、谷村有美の楽曲は典型的なJ-POPというイメージ。ちょっとシティポップという枠組みに入れるのは違和感がありました。

ただ、今回のデビューアルバムをあらためて聴くと、確かにシティポップの枠の中に谷村有美を入れるというのもわからなくはないな、ということを感じました。例えば「未完成」などは軽くラテン風のリズムを入れつつ、全体的にはAORという印象の強い作品。以前から何度も聴いたことあるデビュー作「Not For Sale」も、あらためて聴くと確かにAORという枠組みにあてはまるようなポップスに仕上がっています。

全体的に爽やかなメロディーラインの流れるAOR風のポップスがメイン。今から聴くと、後期の作品に比べると、もっとメロウなAOR路線がより強く感じられるような印象を受けました。谷村有美が全盛期だった90年代は、いわゆるアイドル冬の時代。そのような時期に彼女はキュートなルックスでアイドル的な人気を博しながら、よりミュージシャン性を強めることによって、アイドル路線をあえて外すことによって人気を得てきた面があります。このAOR路線というのは、このアイドル路線をあえて外した結果、たどり着いた音楽性のようにも感じます。全体的にメロディーラインも、あえてアイドルポップのようなフックを利かせることを避けたような作風にも感じますし、全体的により「ミュージシャン路線」を強調したような作風に感じました。

また、デビュー作、また彼女はまだ22歳という時期の作品なのですが、既にボーカリスト谷村有美のスタイルが確立されているように感じました。ちょっと舌ったらずな感じと、クリスタルボイスとも称されるその歌声が非常にキュートで耳に残りますし、それがアイドル的な人気を博したのもわかるように思います。

そんなデビュー作にして既に谷村有美の魅力を存分に感じさせてくれた本作。今回リマスター版ということなので、当初、特にリマスター版らしいボーナストラックもなく、ちょっと残念にも感じていたのですが、なんと実際に聴いてみると、アルバムの最後にシークレットトラックが収録!情報が全く出ていないので、詳しいことは不明なのですが、楽曲は「ためいき色のタペストリー」のピアノ弾き語りバージョン。おそらく、現在の彼女による再録音ではないかと思われます。そうだとすると、声はちょっと震えて不安定になっている部分はあるのですが、今なお変わらないクリスタルボイスを聴くことが出来、ボーカリスト谷村有美の健在ぶりを感じます。

8月には2枚目の「Face」のリマスターが、11月には3枚目「Hear」のリマスターのリリースが決定されており、今後もリマスターシリーズが続きそう。昔、聴いたいたアルバムで、久しぶりに彼女のアルバムを聴くことになりそうですが、あらためて谷村有美の魅力を感じされそうで楽しみです。

評価:★★★★★

谷村有美 過去の作品
タニムラベスト

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