アルバムレビュー(邦楽)2023年

2023年3月17日 (金)

ボーカリストとしての魅力あふれるベスト盤

Title:原田知世のうたと音楽
Musician:原田知世

原田知世のデビュー40周年を記念してリリースされたオールタイムベスト。今回のベストアルバムを聴きながら考えたのですが、原田知世って、気が付いたらすごいよい立ち位置にいるよなぁ、ということをふと思いました。1980年代のアイドル全盛期にデビューし、一躍人気を確保しつつも、アイドル冬の時代となった90年代には上手く女優としてシフト。現在までその地位を確保しています。

歌手としても最初のアイドル歌手から「ボーカリスト」としてちょうど上手くシフトしたのが顕著で、1983年に「時をかける少女」でブレイク。その後も「天国にいちばん近い島」「早春物語」がヒットを記録するものの、徐々に売上は下降気味に。そんな中、1997年にシングル「ロマンス」がスマッシュヒット。カーディガンズなどの人気でスウェーディッシュポップが注目を集める中、カーディガンズのプロデューサーであるトーレ・ヨハンソンプロデュースという点が大きな話題となり、その当時の渋谷系ブームの流れにのって大きな話題となりました。

当時、リアルタイムで「ロマンス」は聴いていたのですが、既に原田知世といえば、「過去のアイドル」というイメージ。シングル曲も低迷していた中、この曲はまさに起死回生のヒットというイメージがあります。オリコン最高位39位で、売上枚数も累計6.8万枚というのは、当時としてもかなり寂しい数値で、その程度しかヒットしなかったのか・・・と意外に感じたのですが、同曲も含む直後のアルバム「I could be free」はベスト10ヒットを記録しているので、このシングルの売上以上に多くのリスナーの支持を集めたのでしょう。

ただ、今回のベスト盤、リリース順に並んでいるようなのですが、この曲あたりで彼女のボーカリストとしてのスタイルも大きく変わったように感じます。デビュー直後の彼女のボーカルは、ある意味、非常に淡々としており、機械的な印象すらあります。それが大きく変わったのはこの「ロマンス」以降。デビュー当初からの清涼感ある歌声に、柔らかさを伴う表現力も加わり、ボーカリストとしてあきらかに一皮むけた感のある成長を遂げています。

その後、2000年代には高橋幸宏らが結成したバンド、pupaでボーカルを担当。またシングルとしてはその後、大きなヒットはないものの、2016年にはカバーアルバム「恋愛小説2-若葉のころ」はチャート4位というヒットを記録。このベスト盤もオリコン最高位8位(ビルボードでは13位)とヒットを記録するなど、ボーカリストとして今に至るまで一定以上の評価を受けています。

今回、特にここ最近の曲については原田知世の曲はあまり聴いていなかったので、はじめて聴いた曲がほとんどだったのですが、やはりボーカリストとして非常に魅力的だな、ということを改めて感じます。特に「ロマンス」やそれに続く同じくトーレヨハンソンプロデュースの「シンシア」も同様なのですが、アコースティックベースの暖かいサウンドに彼女のボーカルがピッタリとマッチします。

Disc2の、比較的最近の曲に関してもアコースティックベースの作品が多く、彼女の歌声ともピッタリマッチする良曲が続きます。そういう意味では、しっかり彼女のボーカルという素材を調理した作品が多く、彼女は作家陣にも恵まれていたんだな、ということをあらためて感じます。そんな彼女のボーカルを軸として構成された曲なので、ベスト盤全体としての統一感もあり、非常に良質なポップアルバムとして楽しめた作品でした。

オリジナルアルバムとしても昨年、「fruitful days」をリリースしていますし、ミュージシャンとしても積極的な活動を続ける彼女。過去のデータを調べると、2009年の「eyja」以降、彼女の作品に触れるのは久しぶりだったようですが、やはりコンスタントにチェックしなくてはいけませんね。あらためて彼女のボーカリストとしての魅力を感じる1枚でした。

評価:★★★★★

原田知世 過去の作品
eyja


ほかに聴いたアルバム

Flowers/OKAMOTO'S

OKAMOTO'Sの最新作はいわゆる企画盤なのですが、その企画とは「メンバー内コラボレーションアルバム」。通常、OKAMOTO'Sの楽曲の多くは、オカモトショウ、オカモトコウキが楽曲制作を担当しているのですが、今回のアルバムでは他のメンバー、ハマ・オカモト、オカモトレイジも作詞作曲ほか楽曲制作に参加。メンバー4人が様々な組み合わせで楽曲制作に参加したアルバムとなっています。

で、そんな企画盤の本作ですが、これが意外なほどアルバムの出来が良かったので驚き。メロディーラインはメランコリックながらもいつも以上にインパクトもあり、ちょっと癖のあるオカモトショウのボーカルにもマッチ。OKAMOTO'Sのアルバムは、「惜しい」出来の作品が多いのですが、これが予想外に傑作に仕上がっていました。むしろメンバー全員が楽曲制作に参加した方が、良いアルバムが出来るのでは?このメンバーコラボが次回作以降にどんな影響を与えるのかわかりませんが、これを機に、OKAMOTO'Sの音楽性がもっと広がりそう。

評価:★★★★★

OKAMOTO'S 過去の作品
10'S
オカモトズに夢中
欲望
OKAMOTO'S
Let It V
VXV
OPERA
BL-EP
NO MORE MUSIC
BOY
10'S BEST
Welcome My Friend
KNO WHERE

Ampersand/Spangle call Lilli line

ミニアルバム「Remember」から約1年10ヶ月ぶり、フルアルバムだと実に約4年ぶりとなるSCLLの最新作。本作では2008年のアルバム「PURPLE」以来、実に15年ぶりに共同プロデューサーとしてsalon musicの吉田仁を迎えた作品になっています。そのため、初期に回帰したようなサウンドが特徴的となっており、よりドリーミーなエレクトロポップの路線に。シティポップ寄りだったり、ポストロック寄りになったりと、作品によって様々にシフトしていたSCLLですが、ある意味、エレクトロポップ路線により焦点を絞ったアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★

Spangle Call Lilli Line 過去の作品
VIEW
forest at the head of a river

New Season
Piano Lesson
SINCE2
ghost is dead
Dreams Never End
SCLL
Remember

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2023年3月13日 (月)

曰くつきのリミックス盤

Title:百薬の長
Musician:椎名林檎

このアルバムに関しては、ご存じの通り、公式通販サイト限定盤についてくるグッズがヘルプマークや赤十字のマークに酷似し騒動となり、結果、アルバムのリリース自体も延期。CDリリース以上の話題となってしまいました。そのグッズを巡る騒動についての雑感については後程、書こうと思うのですが、そんな曰くつきのアルバムとなってしまった本作。グッズ自体、椎名林檎がノータッチだと公言してしまった以上、このアルバム自体も彼女がノータッチという可能性もありうるのですが、ただ、そんな状況を差し引いても、このアルバム自体の出来は、非常に素晴らしいものに仕上がっていました。

基本的にエレクトロ系のミュージシャンが自由に彼女の曲のリミックスを行っている本作。結果として、それぞれのリミックスにおいて、それぞれのミュージシャンの個性が前に押し出されているようなアレンジに仕上がっていました。まずアルバムの冒頭は、アメリカのエレクトロミュージシャンTelefon Tel Avivのリミックスによる「あの世の門 ~Gate of Hades~ (Telefon Tel Aviv Version)」からスタートするのですが、ダウナーながら力強いビートを奏でるエレクトロアレンジが耳を惹きます。そしてそれに続くは砂原良徳による「JL005便で ~Flight JL005~ (B747-246 Mix by Yoshinori Sunahara)」なのですが、こちらも聴けば一発でまりんらしさを感じる音作りとなっています。

アシッド・ジャズの第一人者、Gilles Petersonによる「ちちんぷいぷい ~Manipulate the time~ (Gilles Peterson’s Dark Jazz Remix)」も音数を絞ったエレクトロビートが非常にカッコよいナンバーに。岡村靖幸がリミックスを手掛けた「長く短い祭 ~In Summer, Night~ (Yasuyuki Okamura 一寸 Remix)」は最初は普通のエレクトロといった感じなのですが、後半になると岡村ちゃんらしいファンキーな要素も感じられます。

そしてなんといっても聴いていて一発で彼のリミックスだとわかったのが石野卓球による「浴室 ~la salle de bain~ (Takkyu Ishino Remix)」で、疾走感あるテクノチューンが実に石野卓球らしい楽曲に。ラストを締めくくる鯵野滑郎の「いとをかし ~toogood~ (Ajino Namero Bon Voyage Remix)」も楽しいチップチューンに仕上げています。

エレクトロチューンを中心に、12人12様に椎名林檎の楽曲を好きなようにいじった今回のアルバム。グッズ騒動でケチが付いてしまった形になってしまいましたが、内容的には非常に優れたアルバムですし、なによりも12人の優れたトラックメイカーの実力を感じることが出来る作品になっていました。椎名林檎の、という以上にリミキサーとして参加したミュージシャンに興味がある方は要チェックのアルバムです。

評価:★★★★★

椎名林檎 過去の作品
私と放電
三文ゴシップ
蜜月抄
浮き名

逆輸入~港湾局~
日出処
逆輸入~航空局~
三毒史
ニュートンの林檎~初めてのベスト盤~


ほかに聴いたアルバム

TIME LEAP/佐藤千亜妃

Timeleap

佐藤千亜妃のニューアルバムは、「時間旅行」をテーマとした5曲入りのEP盤。前EPの「NIGHT TAPE」ではメロウな楽曲を聴かせてくれた彼女。本作では、その延長戦上を意識しながら、軽快なR&B風のポップスに仕上げられており、いかにも今どきのポップソングという印象を受ける作品になっていました。この方向性がおもしろいのでは?と思った前作に比べると、今回はちょっと方向性がはっきりしなくなっていた作品に。いろいろな意味で挑戦の過程といったイメージはあるのですが・・・。次の一手は?

評価:★★★★

佐藤千亜妃 過去の作品
SickSickSickSick
PLANET
KOE
NIGHT TAPE

curtain call/MONKEY MAJIK

途中、ベスト盤のリリースを挟んだため、純然たるオリジナルアルバムとしては約3年ぶりとなるMONKEY MAJIKのニューアルバム。ここ最近、比較的安定した良作が続いていますが、本作もそんな良作の1枚。前半から中盤にかけてはシンセで爽快に聴かせるニューウェーヴ風の楽曲が、終盤はアコースティックにしんみり聴かせる作品が並んでいます。全体的には派手さはないものの、卒なくポップにまとめあげているという印象の作品に。洋楽テイストを醸し出しつつ、ほどよくJ-POPに着地させている作風に彼ららしさを感じます。

評価:★★★★

MONKEY MAJIK 過去の作品
TIME
MONKEY MAJIK BEST~10years&Forever~
westview
SOMEWHERE OUT THERE
DNA
Colour By Number
southview
enigma
COLLABORATED
northview
20th Anniversary BEST 花鳥風月

続きを読む "曰くつきのリミックス盤"

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2023年3月10日 (金)

「穏やか」ではないサウンド

Title:タオルケットは穏やかな
Musician:カネコアヤノ

現在、人気上昇中。個人的にも今、もっとも注目を集めるシンガーソングライターのひとりであるカネコアヤノ。フォーキーなメロディーラインと、そんなメロに沿ったような、どこか郷愁感漂いつつも、一方で歌詞の登場人物の体温を感じられそうな歌詞が特徴的。先日もはじめて彼女のライブに足を運び、その実力を再認識したのですが、そのライブツアーのタイトルにもなったアルバムがこちら。オリジナルアルバムとしては、約1年8か月ぶりのニューアルバムとなります。

特に今回のアルバムに関しては、よりギターサウンドやバンドサウンドを前に押し出した、ロックテイストの強いアルバムに仕上がっています。そもそもアルバム冒頭「わたしたちへ」は、これでもかというほど強烈なギターノイズからスタート。さらにギターを聴かせつつ、そのノイズの向こうから彼女のボーカルが顔を覗かせるというスタイルになっています。

その後も「予感」では途中からハードロックテイストのギターリフが登場。非常にヘヴィーでダイナミックなバンドサウンドを聴かせてくれますし、「気分」もメランコリックなメロが流れつつ、サウンドはドリーミーでサイケテイスト。タイトルチューンの「タオルケットは穏やかな」もノイジーなギターサウンドが前に押し出された楽曲となっています。

前作「よすが」は比較的、楽曲のバリエーションの多い作品に仕上がっていました。それに比べると本作は「楽曲の幅」という面では若干狭め。その点、よりロックなサウンドを主軸として、良く言えば統一感のあるアルバムに仕上がっていました。もっとも、そんな中でも「月明かり」はギターのアルペジオで聴かせる作品になっていましたし、最後の「もしも」は打ち込みのリズムを入れるなど、決してヘヴィーなギターサウンド一本やり、という訳ではありません。特に「もしも」は最小限のサウンドに留めて、空間を聴かせるような作風が印象的。タイプとしては坂本慎太郎の作品に似ている感もあるのですが、ちょっと他の楽曲とは異なる作風にも挑戦しています。

もちろん、そんなヘヴィーなサウンドに全く負けていないカネコアヤノのボーカルも特筆すべき存在でしょう。先日、足を運んだライブでも、ヘヴィーなバンドサウンドと対峙する彼女のボーカルが非常に印象に残りましたが、これだけヘヴィーなサウンドを前に出しつつも、しっかり「歌」を届けるスタイルは本作でも変わりありませんでした。

よりサウンド主体となった今回のアルバム。ここ最近、年間ベストクラスの傑作を続けざまにリリースしている彼女ですが、本作も文句なしに年間ベストクラスの傑作だったと思います。あらためて彼女の実力を実感した1枚でした。

評価:★★★★★

カネコアヤノ 過去の作品
燦々
燦々 ひとりでに
よすが

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2023年3月 6日 (月)

現時点での集大成

Title:映帶する煙
Musician:君島大空

今、最も注目を集めている男性シンガーソングライターの一人、君島大空。毎回、EPがリリースされる都度大きな話題となりますが、ちょっと意外なことに本作がフルアルバムとして初のリリースとなります。ちなみに、相変わらず難読なアルバムタイトルが続きますが、本作はこれで「えんたいするけむり」と読むそうで、「色や景色が互いに写りあうこと」という意味だそうです。

今回のアルバムは初のフルアルバムということもあるのでしょう、現時点での君島大空の集大成といった印象を受けます。特にサウンド面において。直近のEP「袖の汀」では、比較的アコースティックベースで歌をしっかりと聴かせるという印象がありました。一方、今回のアルバムはアコースティックなサウンドに留まらない様々なサウンドを取り入れており、君島大空の音楽性の広さを感じさせる構成となっています。

まずアルバムはタイトルチューンの「映帶する煙」からスタートするのですが、こちらはイントロ的なインストチューン。いきなりノイズからスタートしており、アコースティックというイメージを大きく覆します。そのイントロに続く実質的な1曲目である「扉の夏」はアコギとピアノをバックに彼のハイトーンボイスで静かに聴かせる彼らしいナンバー、夏の風景を気だるく描写する歌詞も印象的に聴かせてくれます。

ただし、続く「装置」は様々な音をサンプリングして彩豊かな賑やかなサウンドが印象的な曲ですし、「世界はここで回るよ」も前半、アコースティック風のサウンドながらも後半は不気味なエレクトロノイズが重なります。さらに「都合」に至っては、ノイジーなギターサウンドを軸にするロックチューン。君島大空のボーカルもサウンドに合わせてか、(彼にしては)低音でシャウト気味に歌っています。

さらに「回転扉の内側は春?」ではユニークなサウンドを多くサンプリングした、ちょっと陳腐は表現になりますが、おもちゃ箱をひっくり返したようなサウンドが特徴的。ラストを飾る「No heavenly」もヘヴィーなギターを軸にしたダイナミックなサウンドが特徴的となっています。

様々なサウンドに挑戦しているという点、前々作「縫層」に共通するものを感じます。同作は非常に自由度を感じさせるアルバムでしたが、今回のアルバムも同作と同様、君島大空の自由な音楽性を強く感じる作品になっていました。ただ、それと同時に、今回の作品は前作「袖の汀」からつながる、アコースティックテイストの楽曲をハイトーンボイスで静かに聴かせるというスタイルもアルバムの中で同時に提示していました。「19℃」「光暈」などといった作品がそれ。こういった歌をしっかり聴かせるアコースティックな楽曲が、アルバムの中でいわば連結管のような役割を果たして、アルバム全体に統一感を与えていました。

結果として、まさに現時点における君島大空の集大成となった今回のアルバム。彼の魅力を存分に感じさせる作品になっていました。文句なしの年間ベストクラスの傑作アルバムだと思います。今年は彼のますますの飛躍が期待できそうです。

評価:★★★★★

君島大空 過去の作品
縫層
袖の汀


ほかに聴いたアルバム

ユーモア/back number

昨年は紅白歌合戦に出場し、大きな話題となるなど、現在も高い人気を誇るバンドback numberの、実に約3年10か月ぶりとなるニューアルバム。分厚いサウンドにメランコリックなメロディーラインは、良くも悪くも売れ線のJ-POPといったイメージを強く持ってしまう構成に。特に一部、小林武史が参加しているのですが、ストリングスを使っていかにも音を塗りたくったようなサウンドメイキングはいかにも彼らしいのですが、どうも楽曲を平坦にしてしまっている印象を受けます。純粋に「歌」を聴かせるバンドなんだから、サウンドはもうちょっと薄味の方がよいようにも思うのですが・・・。

評価:★★★★

back number 過去の作品
スーパースター
blues
ラブストーリー
シャンデリア
アンコール

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2023年3月 4日 (土)

坂本龍一の音楽家としての意欲も感じる

Title:12
Musician:坂本龍一

現在、がん闘病中の坂本龍一。ただ、音楽活動については積極的に続けており、昨年末もオンラインでのライブ配信を行い大きな話題となりました。そしてそんな中リリースされたのが、オリジナルアルバムとしては実に約6年ぶりとなるアルバム。タイトル通り、12曲の楽曲が収録されている作品となっています。

タイトルを見ればすぐにわかると思うのですが、今回、楽曲のタイトルには日付が振られています。今回のアルバムは彼の闘病生活の中で、日記を描くにように作成された作品となっており、それぞれ作成した日の日付がアルバムタイトルになっています。スタートしたのは2021年の3月。そこから11月へと飛んで、そのあとは2022年の3月まで、比較的コンスタントなペースで作成が進められています。

日々変化する体調の中での、その時々の体調と音楽作成のペースがリンクしていくのでしょう。おそらく特に2021年の11月以降は体調も持ち直し、また、多くの曲が作成されているあたりは、ひょっとしたらアルバム制作も意識したのかもしれません。特に序盤「20210310」から「20220123」はピアノで静かに聴かせるアンビエントのような作品が続いており、また曲によっては、彼の息遣いが録音されていると思われる曲も。ここらへんの曲はピアノで音をひとつずつ拾いつつ、生きているということをアピールするような曲が続いていたように思います。

ユニークなのはその後「20220202」「20220214」などエレクトロを取り入れた作品が並んだり、さらに「20220302」には「saradande」という副題がついているなど、ただ音を紡ぐのではなく1つの曲を作り上げようとするような創作意欲も感じさせる曲も並びます。特にこの時期、3月26日にはオーチャードホールでのコンサートにゲスト出演しており、おそらく体調としてもかなり盛り返してきたのでしょう。それが楽曲にも表れているのではないでしょうか。

そういう意味では後半になると、複雑で独特のメロディーラインを聴かせるピアノ曲が並びます。特に日付的にはラストとなる「20220404」は非常に美しいピアノで奏でるメロディーが印象的な曲。序盤のようなアンビエント的な曲調ながらも、しっかりと構築されたメロディーラインのある曲に仕上がっています。

全体的にはアンビエントテイストが基調となりつつ、坂本龍一の音楽家として衰えることない意欲を感じさせる美しい作品に仕上がっていました。決して「闘病中のアルバムだから」といったような同情的な見方ではなく、ひとつの音楽作品として非常に美しい音を聴かせてくれる傑作アルバムに仕上がっていたと思います。おそらくラストの日付が「20220404」と1年前ということを考えると、この続きもあるのではないでしょうか。あえて言わせてもらえば、次回作も期待して待っています!

評価:★★★★★

坂本龍一 過去の作品
out of noise
UTAU(大貫妙子&坂本龍一)
flumina(fennesz+sakamoto)
playing the piano usa 2010/korea 2011-ustream viewers selection-
THREE
Playing The Orchestra 2013
Year Book 2005-2014
The Best of 'Playing the Orchestra 2014'
Year Book 1971-1979
async
Year Book 1980-1984

ASYNC-REMODELS
Year Book 1985-1989
「天命の城」オリジナル・サウンドトラック
BTTB-20th Anniversary Edition-
BLACK MIRROR : SMITHEREENS ORIGINAL SOUND TRACK
Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020

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2023年3月 3日 (金)

戦前リズム・ボーイズの世界

Title:山賊の合唱 リズム・ボーイズの世界 1934-1939

戦前のSP盤復刻レーベル、ぐらもくらぶ。当サイトでもなんどか取り上げている注目のレーベルですが、ここ最近、しばらく戦前SP復刻盤のオムニバスアルバムのリリースがなく、どうしたんだろうか、と心配していましたが、ちょっと久々にアルバムがリリースされました。今回のアルバムは戦前のリズム・ボーイズの曲を集めたアルバム。リズム・ボーイズとは戦前のコーラスグループ。主に4人の男性グループからなるこの「リズム・ボーイズ」は、合唱により楽曲に奥行きが増すということもあり、一世を風靡。さらに演芸の世界でもあきれたぼういずのような「ボーイズもの」として波及したとか。今回のアルバムはその「リズム・ボーイズ」の楽曲を集めた作品となります。

もともとリズム・ボーイズはジャズボーカル・グループを範としており、「ジャズコーラス」とも呼ばれたそうで、もともとは戦前のアメリカン・サウンドを模したところからスタートしているそうです。今回のアルバムは主に録音時期順に収録しているのですが、特に前半の曲は、軽快な(当時の)「洋楽調」の作品が並びます。1曲目「愉快な水車」はかなり洋楽のジャズテイストが強い作品になっています。しかし、2曲目の表題曲となったポリドール・リズム・ボーイズの「山賊の合唱」は演奏こそジャズ調なのですが、歌詞やメロディーラインはどうも和風な民謡的な要素が見え隠れしています。

ただ、その後も前半は比較的「洋楽調」。「恋人がないとね!」などは低音部のボイスパーカッションが入っていて、四つの音声というリズム・ボーイズの特性をよくあらわした曲調になっています。また、リズム・ボーイズといっても、女性ボーカルがメインにリズム・ボーイズがバックコーラスというスタイルの曲が多く、「雨の降る日も」「春の溜息」などはまさにそのようなタイプの曲。爽やかな女性ボーカルに合唱が加わり、楽曲に厚みが出た作品に仕上がっています。

しかし、後半になれば時代と共に、徐々に民謡調、浪曲調の曲が増えていきます。「草津節」などタイトル通り、「草津節」をリズム・ボーイズ風にアレンジした曲ですし、「モダン十戒」などは完全に浪曲風。洋楽的な流行でも時代を経るとすっかりと日本風に変わってしまうという日本の音楽の傾向は昔から変わらないようです・・・。

さらに時代が下ると、戦時色が色濃く反映された曲が収録されています。「支那の兵隊」などはコミカルながらも、非常に戦時色強い歌詞が特徴的ですし、「上海特別陸戦隊」「砲車行」など、特にあえてなのでしょうが、戦時色が強い曲が並びます。また「日本萬国博覧会の歌-紀元二千六百年記念-」という、幻に終わった戦前の万博の曲なんかも収録されており、その時代性をうかがわせるセレクトになっています。

最後には、この「リズム・ボーイズ」の流れから派生した演芸「ボーイズもの」の音源も収録されており、まさに「リズム・ボーイズ」の世界をいろいろな方向に広げて様々な曲を収録した選曲に仕上がっており、この1枚で「リズム・ボーイズ」というものがどのようなムーブメントであったのかわかる最適な1枚になっていました。ここらへんのいい意味で卒のないセレクトはさすがです。戦前SP盤の魅力がまたひとつしっかりと伝わってくるオムニバスアルバムでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

秋の日に/宮本浩次

宮本浩次が女性ボーカル曲をカバーしたアルバムの最新作。本作は6曲入りのミニアルバム。女性ボーカル曲のカバーアルバムが続いているのはセールス的に好調だからなんでしょうが、ただ、正直なところ、彼の独特なボーカルスタイルで歌っているだけの「カラオケ」というイメージがぬぐえません。今回のアルバムでは初回盤で彼のソロライブの模様をおさめたライブ盤が収録されており、そこでエレカシの曲も披露しているのですが、そちらの方が圧倒的に出来がよい・・・。そろそろやはりエレカシとしての活動に戻ってほしいなぁ。

評価:★★★

宮本浩次 過去の作品
宮本、独歩
ROMANCE
縦横無尽

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2023年2月28日 (火)

原点回帰?

Title:メトロパルス
Musician:CAPSULE

Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅのプロデューサーとして、今やすっかりその名前を知らない人のいないプロデューサーとなった中田ヤスタカ。一時期に比べてPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅの人気が落ち着いてきたり、また、彼自身、あまり積極的に新たなミュージシャンのプロデュース業を手掛ける訳ではないため、一時期に比べると、その名前を聞く機会は減りましたが、昨年はかのAdoに提供した「新時代」が大ヒットを記録。その実力をまた知らしめる結果となりました。

そんな中田ヤスタカがメンバーとして参加しているユニットがCAPSULE。もともと中田ヤスタカの名前が知られる前の1997年から活動を行っているだけに、なにげに結成25年を誇るベテランユニットだったりします。中田ヤスタカ自身が参加しているということもあり、他のプロデュース業と異なり、特に彼がプロデューサーとして成功した後は、彼の演りたい曲をこのユニットで行う、という実験的なスタイルを取るユニットになっていました。

ここ最近は中田ヤスタカのソロとしてアルバムをリリースしていたりして、オリジナルアルバムとしては実に約7年10ヶ月ぶりとなるのが本作。一時期はEDM路線を取り、こしじまとしこのボーカルもひとつの「音」のような扱いのアルバムも目立っていましたが、今回のアルバムはちょっと懐かしさを感じさせる彼女のボーカルも前に押し出した「歌モノ」のエレクトロアルバムに仕上がっていました。

1曲目「ひかりのディスコ」からして、タイトルどおりのディスコチューンなのですが、サウンドからはラウンジ的な要素も感じられます。続く「ギヴ・ミー・ア・ライド」「フューチャー・ウェイヴ」も力強いエレクトロビートがベースとなりつつ、メロディー主導の歌モノ。スペーシーでレトロフューチャー的な作風が耳に残ります。

続く「スタート」もハンドクラップにエレクトロサウンドがちょっと懐かしさを感じる作品になっていまうし、「ワンダーランド」も一昔前のAORを彷彿とさせる楽曲。「シーサイド・ドリームス」もエレクトロサウンドがちょっと80年代っぽさを感じさせます。ラストの「トゥー・マイ・ワールド」もちょっとチープさを感じさせるエレクトロサウンドが懐古的に感じる曲に仕上がっていました。

既に知る人ぞ知る的な話ですが、このCAPSULE。デビュー当初はラウンジの要素を多く取り入れた、完全にピチカート・ファイヴのフォロワー的なユニットでした。もちろんその後、中田ヤスタカは独自のサウンドを構築していったのはご存じの通りですが、今回のアルバム、ラウンジの要素が入っていたり、レトロフューチャー的な要素が入っていたりと、ここらへん、初期のCASPULEを彷彿とさせる部分も感じさせる作品に仕上がっていました。

もちろん、ヘヴィーなエレクトロサウンドが軸となっており、もっとラウンジ色が強く、エレクトロ色は薄めだった初期の彼らの作品とは異なります。ただ、サウンドの方向性としてはどこか原点回帰的な印象も受けるアルバムに仕上がっていました。初期CAPSULEの時に感じた、中田ヤスタカの音楽的原点が反映されたアルバムになっていたのかもしれません。

様々な作品のプロデュースを手掛ける中でのリリースとなり、挑戦的な作品となっていたここ数作のCAPSULEの作品とは異なり、「挑戦」という肩肘はったような要素が抜けた、でも中田ヤスタカが演りたいんだろうなぁ、という音楽で構成された作品になっていました。そういう意味では目新しさという点はちょっと薄いものの、ただ純粋なポップアルバムとして非常に聴きやすいアルバムになっていたと思います。中田ヤスタカの音楽的趣向がより現れたような新作でした。

評価:★★★★★

CAPSULE 過去の作品
FLASH BACK
MORE!MORE!MORE!
FLASH BEST
PLAYER
WORLD OF FANTASY
STEREO WORXXX
rewind BEST-1(2012→2006)
rewind BEST-2(2005→2001)

CAPS LOCK
WAVE RUNNER


ほかに聴いたアルバム

退廃惑星/ROCKETMAN

お笑い芸人のふかわりょうのミュージシャンとしての名義ROCKETMANとして、約6年ぶりにリリースしたニューアルバム。「退廃惑星」というタイトルとは裏腹に、MICOやトミタ栞といった女性ボーカル、さらにはボーカロイドまで取り入れた優しい女性ボーカルを前に押し出したエレクトロポップの作品が目立ちます。目新しさことありませんが、リスナーにとっては非常に心地よいポップミュージックが流れる、いい意味で壺をついた作品になっていました。

評価:★★★★

RCOKETMAN(ロケットマン) 過去の作品
thank you for the music!
恋ロマンティック!!

ohashiTrio collaboration best -off White-/大橋トリオ

大橋トリオがいろいろなミュージシャンとコラボを行った曲を集めたベストアルバム。ただ、コラボが入ったとしても良くも悪くもいつも通りの大橋トリオの良質なポップソングが並びます。ある意味、あまり癖が強すぎないため、どんなミュージシャンとのコラボもはまりやすいのかも。そういう意味では彼らしさを感じるベストアルバムになっていました。

評価:★★★★

大橋トリオ 過去の作品
A BIRD
I Got Rhythm?
NEWOLD
FACEBOOKII
L
R

FAKE BOOK III
White
plugged
MAGIC
大橋トリオ
PARODY
10(TEN)
Blue
STEREO
植物男子ベランダー ENDING SONGS
植物男子ベランダーSEASON2 ENDING SONGS
THUNDERBIRD
This is music too
NEW WORLD
ohashiTrio best Too

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2023年2月24日 (金)

ベテランバンドの底力

Title:新世界
Musician:MUCC

2022年に結成25周年を迎えたヴィジュアル系バンドMUCC。前作「惡」はアルバムとして初のベスト10ヒットを記録するなど、ここに来てバンドの人気が上がり調子になりつつありますが、そんな中、リリースされたちょうど2年ぶりとなるニューアルバムが本作となります。

そんな彼らの新作ですが、実にJ-POPらしいバンドだな、ということを強く印象に残りました。「J-POPらしい」と書くと、「良くも悪くも」という枕詞がつきそうで、必ずしもポジティブな表現にならないかと思いますが、このアルバムに関しては、確かに「良くも悪くも」という部分もあるのですが、どちらかというとポジティブな要素でこのような表現を使わせてもらいました。

バンドとして基本的にハードコアをベースとしたヘヴィーなサウンド。メロディーラインは(こちらは良くも悪くも)ヴィジュアル系らしいメランコリックで耽美的な世界を感じさせるもの。ここらへんはいかにも、といった印象を受けます。実際、アルバムの冒頭を飾る「星に願いを」も、続く「懺把乱」も、ヘヴィーなバンドサウンドを前に押し出した作品となっています。

ただ、J-POPらしいと言ったのは、このようなサウンドをベースとしつつ、様々な音楽的な要素を取り込み、なおかつポップにまとめているという点。ダビーな雰囲気の「パーフェクトサークル」やファンキーな「HACK」、ピアノでムーディーにまとめる「COLOR」に、最後に聴かせる「WORLD」は郷愁感たっぷりのメロディーが印象に残る楽曲に仕上げています。

ここらへん、しっかりリスナーの壺をつきつつ、最後まで決して飽きさせません。メランコリックなメロディーラインはいわゆるヴィジュアル系のそれであり、抵抗感のある人もいるかもしれませんが、それを差し引いても、もし彼らが90年代のヴィジュアル系全盛期にデビューしていたら、もっと大人気のバンドになっていたんじゃないか、ということを感じます。今回のニューアルバムは、そんな彼らの魅力をしっかり詰め込んだ、25周年の記念アルバムらしい内容になっていました。

評価:★★★★

で、このアルバムにおさめきれなかった作品が、ミニアルバムとしてリリースされました。

Title:新世界 別巻
Musician:MUCC

Bekkan 

むしろバリエーションの多さという観点では、こちらの方に軍配があがりそうなミニアルバム。「猿轡」はラップを取り入れてミクスチャー風に仕上げていますし、「別世界」はドリーミーなサウンドを聴かせる内容に。「HOTEL LeMMON TREE」はホーンセッションが入ってムーディーでジャジーな軽快なナンバーになっていますし、「終の行方」はピアノバラードでまとめています。

確かにこのバリエーションの多さは、「新世界」本体に入れてしまうとアルバム全体がバラバラになりそうですし、そのため、アルバム収録曲からはみ出てしまった、という理由は納得がいきます。ただ一方で、こうやって「別巻」としてリリースされたのは、そのままボツにするのは惜しいくらいの楽曲の出来だったからでしょう。実際、その理由も痛いほどわかる、MUCCの幅広い音楽性がわかる楽曲が並んでいます。

個人的には、むしろ「新世界」本編によりこちらの方がより魅力的だったように感じます。なんとなく、本編以上に楽曲に自由度があり、彼らが純粋に音楽を楽しんでいるような、そんなアルバムにも感じました。

結成25周年といっても、ベテランとして停滞せずに、むしろ勢いの増した感のある彼ら。その人気は今後、さらに高まりそうです。

評価:★★★★★

MUCC 過去の作品
志恩
球体
カルマ
シャングリラ
THE END OF THE WORLD
T.R.E.N.D.Y.-Paradise from 1997-
脈拍
BEST OF MUCC II
カップリング・ベストII

壊れたピアノとリビングデッド

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2023年2月21日 (火)

サウンド面がさらに進化

Title:GAMA
Musician:ゆるふわギャング

Gama

ゆるふわギャング単独名義の純粋なオリジナルアルバムとしては、実に約4年ぶりとなる新作。実は昨年6月にリリースされていたのですが、リアルタイムではチェックが漏れてしまっており、遅ればせながら久々の新作をチェックしました。

ゆるふわギャングは実生活でも恋人どおし(という書き方はいまでもOKなんですよね?)のラッパー、Ryugo IshidaとNENEと、プロデューサーAutomaticによるユニット。トラップを取り入れつつ、独特の酩酊感あるサウンドが特徴的なHIP HOPユニット。ゆるふわギャング単独名義となる「Mars Ice House」「Mars Ice House Ⅱ」はいずれも独特のサウンドが魅力的で、私もリアルタイムで聴いてすっかり彼らの世界観に魅了されました。

そして今回の新作に関していえば、このサウンドの独自性をさらにつき進めた感のあるアルバムに仕上がっていました。全体的な印象としては純粋なトラップというよりも、もっとエレクトロ路線にシフトしたのが本作の大きな特徴。1曲目の「INTRO」からして、細かいリズムをベースとしながらもエレクトロサウンドのドリーミーな音が楽曲全体をコーティングしています。

その後も「E-CAN-Z」では、彼ららしい酩酊感もあるエレクトロサウンドでちょっとコミカルに聴かせてくれますし、「LAV」などもドリーミーなエレクトロサウンドが魅力的。アルバム全体としてトラップ的なビートを入れつつもエレクトロのサウンドが幻想感を作り出している、独特の作風が大きな魅力となっています。

このエレクトロ路線で一番特徴的なのは「Step」でスペーシーなサウンドが繰り広げられるこの曲は、なんとあのナカコー作曲による作品。そういわれると往年のスーパーカーを彷彿とさせる路線の曲にも感じられます。彼らのエレクトロ路線が顕著に感じさせる作品になっています。

また、他にも「Drug」ではノイジーなビートが展開されたり、「Sorayama Shoes」ではホーンセッションを入れて哀愁感あるトラックが印象的だったり、酩酊感を覚えるドリーミーな路線を軸にしつつバリエーションもあるトラックを最後まで楽しませてくれます。またダウナーな「Amethyst」のようなトラップの王道を行くような曲も展開されています。

一方で、「Mars Ice House」では大きな特徴となっていた、北関東のヤンキー的な不良の日常という歌詞の世界は、「Ⅱ」に引き続き今回も希薄。全体的に抽象的な歌詞が多く、ここらへん、以前のようなリリックよりもトラックに主軸を置いていることも感じます。もっとも今回のアルバムに関しては、このトラックの独自性が非常に強く、むしろ抽象的な歌詞の方がサウンドを邪魔せずにすっきりと収まっているようにも感じました。

ちょっとチェックが遅くなってしまったのですが、今回のアルバムも申し分ない傑作に仕上がっていたと思います。またサウンド面ではさらに独自の進化を遂げた作品になっていたと思います。まだまだ成長を続ける彼ら。これからの活躍からも目が離せなさそうです。

評価:★★★★★

ゆるふわギャング 過去の作品
Mars Ice House
Mars Ice House II
CIRCUS CIRCUS(ゆるふわギャング&Ryan Hemsworth)


ほかに聴いたアルバム

BLOODIEST/聖飢魔Ⅱ

80年代から90年代にかけて一世を風靡したヘヴィーメタルバンド、聖飢魔Ⅱ。1999年の解散後もしばしば再結成してライブを行っていたり、なによりボーカルのデーモン閣下のソロでの活躍もあり、リアルタイムで彼らの活躍を知らない人でもご存じの方は多いのではないでしょうか。解散後も再結成時のミサ(=ライブ)の模様を収録したミサ教典(=ライブアルバム)のリリースはあったのですが、純然たるオリジナル作品としての大教典(=アルバム)としては、実に23年ぶりとなる作品となるそうです。

本編の方は、正統派ともいえるヘヴィーメタルといった印象。目新しさはありませんが、逆にファンにとっては期待通りの作品といった感じではないでしょうか。ベテランの彼ららしい安定した仕事ぶりを楽しむことが出来ます。ただ、ユニークに感じたのは初回盤についてきた「地獄のBONUS TRACKS」なる付属盤。再結成以降に発表した作品をまとめたのですが、ハードロック色が強かったり、曲によってはブルースからの影響も感じるなど、意外なほど幅広い彼らの音楽性を感じます。その実力を強く感じる内容になっていました。

次のオリジナルアルバムはいつになるのかわかりませんが、おそらく今後も断続的に再結成して活動を続けていくんだろうなぁ。ライブの評判もいいみたいなので、一度見てみたいのですが・・・。次回の再結成時には・・・。

評価:★★★★

聖飢魔Ⅱ 過去の作品
XXX-THE ULTIMATE WORST-

ブギウギ ワンダー☆レビュー/スターダストレビュー

スタレビの初期のナンバーにホーンセッションを取り入れてブギウギ調にまとめた企画盤的なミニアルバム。ブギウギといっても戦前のブルースではなく、笠木シズ子の「東京ブギウギ」につながるような音楽性が特徴的。ホーンセッションで非常に明るいポップソングにまとめられており、素直にウキウキ楽しめそうな音楽に。彼らのライブでも盛り上がりそう。

評価:★★★★

スターダストレビュー 過去の作品
31
ALWAYS
BLUE STARDUST
RED STARDUST

太陽のめぐみ
B.O.N.D
Stage Bright~A Cappella & Acoustic Live~
SHOUT
スタ☆レビ-LIVE&STUDIO-
還暦少年
STARDUST REVUE 楽園音楽祭 2018 in モリコロパーク
スターダスト☆レビュー ライブツアー「還暦少年」
年中模索
STARDUST REVUE「楽園音楽祭 2019 大阪城音楽堂」
Mt.FUJI 楽園音楽祭2021 40th Anniv.スターダスト☆レビュー Singles/62 in ステラシアター

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2023年2月18日 (土)

「伝説のバンド」の16年ぶりの新譜

Title:The End of Yesterday
Musician:ELLEGARDEN

今や、半ば「伝説のバンド」的扱いになっているELLEGARDENが、ついに約16年ぶりとなるニューアルバムをリリースしました。ELLEGARDENといえば、the HIATUSやMONOEYESなどで活躍している細美武士が組み、彼の名前が最初に広まったバンド。一躍人気を獲得しましたが、2008年にバンドは活動休止となりました。ただ、活動休止後の細美武士の活躍はご存じの通り。さらにギターの生形真一はNothing's Carved In Stoneでこれまた人気を博し、ドラムスの高橋宏貴もTHE PREDATORSなどで活躍と、活動休止後のメンバーの活躍も目立ちます。

そんなメンバーそれぞれのソロでの活躍もあり、徐々に「伝説化」していったELLEGARDENですが、2018年に活動を再開。当初はライブでの活動のみだったのですが、昨年、久しぶりに新曲がリリースされ、さらに待望となるニューアルバムのリリース。2006年にリリースされた「ELEVEN FIRE CRACKERS」から実に16年ぶりとなるニューアルバムとなりました。

ELLEGARDENといえば、デビュー初期は比較的イギリス寄りのギターロック路線、その後は徐々にUS寄りのパンクロックにシフトしていったというイメージがあります。久々となった今回のアルバムは、基本的には解散前の路線の延長線上といった感じ。特にアメリカのエモコア、メロディアスパンクバンドあたりと親和性の強そうな、洋楽テイストも強いメロディアスな楽曲を分厚いバンドサウンドの上で聴かせてくれています。

今回のアルバムも全11曲、方向性として統一感がありますが、逆に言うと、バリエーションという意味ではちょっと乏しいものも感じます。ただ、その点を差し引いても40分というアルバムの長さもちょうどよく、分厚いバンドサウンドにポップでメロディアスな歌が心地よく、途中、まったくダレることなく最後まで一気に楽しめます。

全体的には洋楽テイストの強いアルバムなのですが、ポップなメロディーはどこかメランコリックさも加味されて、ウェットな歌謡曲的な要素も感じます。この手のメランコリックさはエモコア系バンドに共通する部分ではあるものの、特に彼らの場合はそんなメロディーが私たちの耳にもピッタリとマッチして心地よく流れてきます。

また歌詞は全英語詞と全日本語詞の曲が混じった構成に。こういうタイプのバンドは多いのですが、ただ、この手のバンドはよく、英語詞の曲はカッコいいけど、日本語曲は急に平凡なJ-POPになってしまって今一つ…というケースが少なくないのですが、彼らに関してはこの両者の出来にほとんど差がありません。この点はエルレの実力であり、またバンドの大きな魅力なのでしょうし、このアルバムの大きな特徴のひとつとなっています。それだけメロディーラインが魅力的でしっかりしているという証拠でしょう。

似たようなタイプの曲が多い、とはいえ、英語詞と日本語詞の別もありますし、より哀愁感のました「ダークファンタジー」やヘヴィーなギターリフが特徴的でよりヘヴィネスさを増した「Firestarter Song」、疾走感のあるギターロックの「10am」など、もちろんいろいろなタイプの曲も顔を覗かせます。ただ、全体的に無理に楽曲のバリエーションをつけるよりも、エルレらしい演りたい曲を演りたいように演奏しているという印象も強く、久しぶりのアルバムではあるものの変な気負いのようなものはなく、自由に楽しく作り上げたアルバムといった印象を受ける1枚でした。

今後はエルレも継続的に活動を続けるのでしょうか。メンバーそれぞれ他のバンドと兼務しているだけに活動は大変そうですが、それでもこれからの活躍も楽しみになってきます。久々に聴いたエルレのアルバムでしたが、その魅力を存分に感じられた作品でした。

評価:★★★★★

ELLEGARDEN 過去の作品
ELLEGARDEN BEST(1999~2008)


ほかに聴いたアルバム

MAGNETIC/木村カエラ

木村カエラの新作は、AIとの共作「MAGNETIC」、SANABAGUNが参加した「井の頭DAYS」、GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーとのコラボ曲「Color Me」など様々なミュージシャンとコラボを行った作品。ラテンからラップ、エレクトロ、ギターロックなど様々な要素を詰め込んだ楽しいポップスアルバムに仕上がっており、最初から最後まで楽しめる作品になっています。様々なミュージシャンとコラボし、いろいろな音楽性を詰め込んでも、いい意味で肩の力が抜けた楽しいポップスアルバムに仕上げてくるのが彼女らしいところ。人気面で少々落ち着いた彼女ですが、そのアルバムの魅力は変わりありませんでした。

評価:★★★★

木村カエラ 過去の作品
+1
HOCUS POCUS
5years
8EIGHT8
Sync
ROCK
10years
MIETA
PUNKY
¿WHO?
いちご
ZIG ZAG
KAELA presents on-line LIVE 2020 “NEVERLAND”

ukabubaku/パスピエ

前々作「synonym」リリースが2020年12月9日、前作「ニュイ」リリースが2021年12月8日、そして本作リリースが2022年12月7日と、ちょうど1年マイナス1日のリリース間隔でアルバムをリリースしているパスピエ。これにどういう意味があるのか、いまひとつわかりかねるのですが・・・。ただ、アルバムの作風としてはいつも通りといった感じで、シンセのサウンドを主軸にしつつ、幻想的な曲があったり、メロディアスな曲があったり、アバンギャルドな曲があったりとバリエーションを富んで聴かせます。ただ、そんなバリエーションを含めて、良くも悪くもいつものパスピエといった印象も受けるアルバム。もうちょっとぶっとんでもおもしろいと思うのですが。

評価:★★★★

パスピエ 過去の作品
ONOMIMONO
演出家出演
幕の内ISM
娑婆ラバ
&DNA
OTONARIさん
ネオンと虎
more humor
synonym
ニュイ

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