アルバムレビュー(洋楽)2023年

2023年12月24日 (日)

マッドチェスタームーブメントの楽曲を網羅的に収録

Title:come together adventures on the indie dancefloor 1989-1992

1980年代後半から1990年代にかけて、イギリスはマンチェスターを中心に行ったムーブメント、マッドチェスター。マンチェスター・サウンドという名前でも知られているのですが、Wikipediaによると「ダンサブルなビートとドラッグ文化を反映したサイケデリックなサウンドが特徴とされるロックのスタイルを指す」と定義付けされています。ストーン・ローゼズやシャーラタンズ、ハッピー・マンデーズが代表的なミュージシャンとされるのですが、私自身、これらのミュージシャンについてリアルタイムに聴いていた世代ではありません。ただ、これらのミュージシャンがoasisをはじめとして90年代後半のブリットポップに大きな影響を与え、その流れから、このムーブメントについては知っていました。今回紹介するのは、そのマッドチェスターのミュージシャンたちの曲を集めたコンピレーションアルバム。前述のミュージシャンをはじめ、インスパイラル・カーペッツ、808 State、James、Spaceman3、さらにはPrimal Screamなど、マッドチェスターの代表的なミュージシャンたちの曲がズラリと並ぶ、全4枚組の、ボリューム感あるもののかなり充実したコンピレーションアルバムとなっています。

個人的には、マッドチェスターについては、自分の好きなoasisのルーツではあるものの、ストーン・ローゼズの1stや、primal screamの「Screamadelica」は聴いていたのですが、そんなに幅広く聴いていたことはありませんでした。それで今回はじめて、マッドチェスターの楽曲をまとめて聴いてみたですが、個人的に思いっきり好み!完全に壺にはまりました。

まずアルバムは、マッドチェスターを代表するHappy Mondaysの「W.F.X.」からスタート。ギターサウンドにパーカッションを入れたグルーヴィーなリズムが心地よいのですが、よれよれのボーカルもいかにもといった感じ。このどこか酩酊感あるサウンドが、ドラッグ文化を反映しているといったところなのでしょう。808 Stateの「Pacific State」も、スペーシーな四つ打ちテクノが心地よいリズミカルなチューン。The Farmの「Stepping Stone」もぶっといグルーヴィーでファンキーなサウンドが身体に心地よく響きます。

Disc2はおなじみThe Stone Rosesの「Fools Gold」からスタート。こちらもグルーヴィーなサウンドとイアン・ブラウンのなよなよなボーカルが魅力的。そういえば、昔、フジロックでイアン・ブラウンを見たことがあって、その時はあまりに下手なボーカルに「どこがいいんだろ?」と思ったんですが、今聴くと、このヘタウマなボーカルがサウンドに酩酊感を加えて、非常にマッチしているんですね。今さらながらその魅力に気が付きました。

Disc3ではThe Shamen「Pro>Gen」のような、4つ打ちテクノにラップが載るスタイルの曲も。ちなみにDisc4に収録されているRuthless Rap Assassinsの「And It Wasn't A Dream」みたいなHIP HOPチューンもあり、この時代の初期のHIP HOPを取り入れていたこともわかります。様々なジャンルを取り込んでいたという意味では、Disc4の冒頭を飾るThe Soup Dragonsの「I'm Free」も印象的。レゲエのリズムを取り入れて祝祭色が豊かなナンバーながらも、マッドチェスターらしいグルーヴ感も同時に感じさせる楽曲となっています。

あと余談ながら、Disc1収録のParis Angels「All On You」やDisc4のMC Tunes Versus 808 State「Tunes Splits The Atom」などは、初期電気グルーヴっぽい感じのサウンドになっており、いまさらながら電気グルーヴのマッドチェスターからの影響の強さを感じました。以前、YouTubeで、電気グルーヴのルーツを語る「Roots of 電気グルーヴ」という番組があったのですが、その時、彼らのルーツの1つとして語られていたPop Will Eat ItselfもDisc4に「X,Y and Zee」が収録されています。

そんな訳で、ギターサウンドを主体としつつ、ファンクやソウル、HIP HOPやテクノ、レゲエまで取込み、酩酊感あるグルーヴィーなサウンドに仕立て上げているマンチェスター・サウンド。ある意味、自由度も高いサウンドなのですが、その魅力は何か、と考えた時、誤解を恐れずに言えば、ニセモノであるということが、マンチェスター・サウンドの大きな魅力だったのではないか、ということを感じました。

彼らは様々なサウンドを取り入れていますが、ファンクにしろHIP HOPにしろテクノにしろ、イギリスが「本場」ではありません。なおかつ、本格的にそのジャンルに取り組むというよりも、自分たちのサウンドに、そのエッセンスを取り入れた、という点を強く感じます。

ただ、一方で、あくまでもサウンドの心地よさを追及したグルーヴ感が実に魅力的。前述のWikiの説明では「アーティストと観衆の上下関係や垣根を取り払うことを目指した」と書かれているのですが、音楽性のこだわりは2の次。いかに観衆に心地よく響くか、心地よく踊ってもらえるかを目指した結果として、様々なジャンルのサウンドの「いいとこ取り」なのでしょう。結果として、この「こだわりのなさ」が、ある種のマンチェスター・サウンドの大きな魅力につながっていたようにも感じました。「本場」であれば、このような「いいとこ取り」はある種のこだわりは、コミュニティーからの反発もあってなかなか出来ないでしょう。マンチェスターの地が「本場」ではなく、取り入れたサウンドも「ニセモノ」であることが逆にこだわりなく、観衆の心地よさだけ追及するサウンドを生み出すことが出来た、そんな印象を受けました。

かなりボリューミーなコンピレーションアルバムだったのですが、個人的に壺をつきまくった作品の連続で、最後まで一気に楽しむことが出来たアルバム。途中、耳が一切離せないような内容になっていました。実に魅力的なオムニバスアルバム。リアルタイムにマンチェサウンドを楽しんでいた層はもちろん、oasisやblurが好きだった私の同世代、さらにはもっと若いロックファンまで、おすすめのコンピレーションです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Random Access Memories (Drumless Edition)/Daft Punk

2013年にリリースし、各所で高い評価を受けた、Daft Punkのラストアルバム「Random Access Memories」。先日、同作の10周年記念盤がリリースされましたが、こちらは異色作。本作からドラムパートを抜いたドラムレスバージョンだそうです。正直、いままであまり行われなかった試みのような感じがするのですが・・・。原曲に比べると、やはりリズムパートを抜いただけに、メロディーラインがより際立った感じのあるアレンジに仕上がっています。ただ一方ではリズムパートを抜いたところで全体としての印象はあまり大きく変わらなかったかも、という感じも。興味深い試みですが、どちらかというとファンズアイテム的な1枚かもしれません。

評価:★★★★

DAFT PUNK 過去の作品
TRON:Legacy
RANDOM ACCESS MEMORIES
Random Access Memories (10th Anniversary Edition)

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2023年12月15日 (金)

全盛期oasisの充実ぶりを物語る名盤

Title:The Masterplan - 25th Anniversary Remastered Edition
Musician:oasis

2014年から2016年にかけて、「チェンジング・ザ・サン」プロジェクトと題して、デビュー作「Definitely Maybe」から3rdアルバム「Be Here Now」までの3作の再発・リマスターが行われてきたoasis。今後は徐々に「Standing on the Shoulder of Giants」以降の作品もリマスターされていくのかなぁ・・・と漠然と考えていたのですが、このアルバムを忘れてはいけない!とばかりに、1998年にリリースされた、彼らのシングルのカップリング曲を集めた、いわゆるB面ベストである「The Masterplan」の25周年記念盤がリリースされました。

本作がリリースされた90年代中盤の音楽シーンを、リアルタイムで体験された方ならわかると思うのですが、この時期のoasisの人気はすさまじいものがありました。特に1995年にリリースされた「 (What's the Story) Morning Glory?」の頃の人気はすさまじく、同作は全世界で2500万枚という驚異的なヒットを記録しています。同作は、どの曲もシングルカットできそうなくらいの捨て曲のない充実した内容であり、この時期のoasisの勢いを、内容の面からも感じさせるアルバムになっていると思います。

ただ、もしoasisが1990年代に、いかに脂がのりまくっていて勢いがあったかを知るか知りたい、と言われたら、間違いなくこの「The Masterplan」を勧めるでしょう。

このアルバムは、前述の通り、この時期のシングル曲のカップリングを収録したB面ベスト。通常、シングルのカップリングと言えば、一番目立たない存在であり、ある意味、穴埋め的な曲が多く、もしくは目立たないからこそ、アルバムに収録すると違和感の出るような挑戦的な曲が多い、という印象があります。

しかし、このアルバム、どの曲もシングルカットしても不思議ではないような、インパクトのある楽曲が並んでいます。特に1曲目はいきなり「Acquiesce」からスタート。oasisの代表曲の1曲といっても過言ではない曲で、ノエル、リアム兄弟が2人でボーカルを交互に取っているのが印象的な楽曲。そういえば、この曲ってカップリングだったっけ・・・といまさらながら驚いてしまいます。

続く「Underneath the Sky」もメランコリックなメロディーラインが胸をつく名曲。これと「Don't Look Back In Anger」がカップリングとは・・・どれだけこの時期のノエルのメロディーメイキングは冴えまくっていたんだ、と驚かされます。

その後も疾走感あるギターロック「Fade Away」も、これシングルじゃなかったっけ??って驚かされる、彼らの代表曲の1曲とも言える作品ですし、「Half the World Away」もベスト盤にも収録されている代表曲の1つ。こちらもメランコリックなメロに胸がキュンとなりそうなナンバー。ラストを飾るタイトルチューンともなっている「The Masterplan」も、oasisらしいストリングスやホーンを入れてメランコリックに聴かせる美メロがさく裂している楽曲。こちらもベスト盤に収録されており、彼らの代表曲のひとつと言えます。

カップリング曲集なのに、なんでここまで彼らの代表曲になるような曲が並んでいるのか!とこれだけでも驚かされるのですが、その他にもストリングスが入って、ちょっと優雅にメロディアスに聴かせる「Going Nowhere」やoasisらしい力強いギターサウンドとメランコリックなメロがインパクトある「Listen Up」、爽やかで軽快なギターロックが楽しい「Stay Young」など名曲揃い。下手なオリジナルアルバムに負けない・・・どころか個人的には内容の充実さでは、oasisのアルバムの中でも「 (What's the Story) Morning Glory?」「Definitely Maybe」に次ぐ出来栄えではないか、と感じさせる名盤に仕上がっています。

ちなみに後に、oasisが全盛期ほどの名盤を出せなくなってしまった頃、「あの頃にいい曲を惜しげもなく出しすぎた。取っておけばよかった。」みたいなことをノエルがぼやいていたことを記憶しています。ただ、おそらくあの頃のノエルは、これだけのメロディーが、湯水のごとく、次から次へと浮かんできたのでしょうね。それだけの充実ぶりを感じさせますし、そのころのoasisのものすごさを垣間見れるアルバムとなっています。

ただ、ちょっと残念なのは25周年記念盤ということですが、オリジナル盤をリマスターしただけで、追加のボーナストラックなどは収録されていません。また、日本盤のリリースもなく、輸入盤のみのリリースとなっています。せっかくなので、その当時のライブ音源や、これらの曲のデモ音源、あるはカップリング曲ながらも同作未収録になっている曲などを追加してほしかったのですが・・・。その点は残念なのですが、oasisを語る上で、避けては通れない名盤なのは間違いありません。全ロックリスナー、必聴の1枚です。

評価:★★★★★

oasis 過去の作品
DIG OUT YOUR SOUL
Time Flies 1994-2009
Original 1993 Demos
Definitely Maybe (Remastered) (Deluxe)
(WHAT'S THE STORY)MORNING GLORY?(Remasterd)(Deluxe)
BE HERE NOW(Deluxe)
KNEBWORTH 1996


ほかに聴いたアルバム

RUSH!(ARE U COMING?)/Måneskin

今年1月にリリースされたアルバム「RUSH!」に新曲5曲を加えたリメイク版。最初5曲がこのアルバムの新曲になるのですが、力強いサウンドとメランコリックなメロディーラインというスタイルは他の曲と同様。基本的にそのスタイルに大きな変化はありません。これぞロック!といった感じの力強いギターとリズミカルなビートはとても心地よいのですが、新装版となって22曲1時間7分。このタイプの楽曲なら、もうちょっとすっきりとした短さの方がよかったかも。

評価:★★★★

Måneskin 過去の作品
Teatro d'ira - Vol.1
RUSH!

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2023年12月12日 (火)

荒々しさを感じる初期ライブ盤

Title:Jimi Hendrix Experience: Live At The Hollywood Bowl: August 18, 1967
Musician:Jimi Hendrix

その圧倒的なギタープレイで、今なお多くのロックリスナーを魅了するジミ・ヘンドリックス。もともと膨大な未発表音源やライブ音源が存在し、逝去後も主にブートレグとして数多くの音源が流出。ただ、90年代半ばに、裁判の末、ヘンドリックスの遺族に権利があると確定し、ヘンドリックスの音源を管理するEXPERIENCE HENDRIXが設立されて以降、徐々に音源も整理され、そのような中でも新たな音源が「正規版」として数多くリリースされ続けているのはご承知置きの通りとなっています。

ただ、そのような中、今回公表された音源は、なんとブートレグとしても世に出ることのなかった、完全未発表音源。アメリカデビュー直前の1967年8月に、アメリカのハリウッド・ボウルにて、ママス&パパスの前座として登場したジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのパフォーマンスを収録したライブ盤。ジミヘンの比較的活動初期によるライブパフォーマンスであり、いまさらこのような音源が出てくるのか、と驚いてしまうような、貴重なライブ音源となっています。

そんな貴重な音源ではあるのですが、ただ残念ながら、レビューなどを見ていると、その評価は決して高くはないようです。この日のジミヘンはあくまでもママス&パパスの前座。そのこともあってか、フルパワーのパフォーマンスではない、という指摘もあるようです。確かに、そのギタープレイはやはりジミヘンらしい迫力はあるものの、どこかチグハグ的な部分も否めません。また、音質的にも、聴いていて問題はないレベルではないものの、決して高音質ではありません。なによりも、音のバランス的にボーカルが前に出すぎておりバランスが悪く、その点も音源全体としてチグハグという印象を受ける要因だったりします。

ただ、個人的にそんなマイナス点を差し引いても、このライブ音源、非常にカッコよく、耳を惹かれるパフォーマンスだったと思います。チグハグな部分は確かにその通りな部分もあるのですが、このチグハグさも含めて、逆にバンドとしての荒々しさ、その現場に立ち会ったかのようなリアリティーを感じさせます。1967年という時期は、まだジミヘンにとっても、初期の時代。このチグハグさにも、どこか「完成前」であることの魅力を感じました。

さらにこのアルバムでは、ビートルズの「Sgt.Pepper's Lonely Club Band」や、ボブ・ディランの「Like A Rolling Stone」のカバーも披露。どちらも完全にジミヘン色に染め上げたカバーとなっており、非常に聴きどころのある音源となっています。特に「Sgt.Pepper's Lonely Club Band」はかなり圧倒的な迫力のあるギターとダイナミックなバンドサウンドで、原曲とはまた全く異なる魅力を感じさせるカバーとなっていました。

個人的に本作で珠玉い感じたのはMuddy Watersの「Catfish Blues」のカバー。ブルースをそのままロック流に解釈したカバーが魅力的で、味わいのあるブルージーなフレーズをヘヴィーなギターで聴かせてくれており、まさにブルースロックという呼び名の通り、ブルースとロックをダイレクトに融合させたサウンドが耳を惹きます。この曲に関しては、渋みのあるジミヘンのボーカル自体も非常に魅力的。ここらへんはひょっとしたらジミヘンの出自と関係するのかもしれませんが、ブルースロックとカテゴライズされるホワイト・ブルースのミュージシャンとは明らかに異なる、よりブルース寄りのロックがある種のすごみも感じさせました。

評価は決して高くはないようですが、個人的には、いままで聴いたジミヘンのライブ盤の中で下手したら上位に来るようなカッコよさを感じさせるライブ音源だったと思います。なによりも若々しく未完成ゆえの荒々しさが大きな魅力に感じました。間違いなく本作でも彼の実力を感じることが出来るライブ盤だったと思います。

評価:★★★★★

Jimi Hendrix 過去の作品
VALLEYS OF NEPTUNE
People,Hell And Angels
MIAMI POP FESTIVAL(THE JIMI HENDRIX EXPERIENCE)
BOTH SIDES OF THE SKY
Live in Maui
Los Angeles Forum - April 26, 1969(The Jimi Hendrix Experience)

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2023年12月11日 (月)

新曲が加わり大幅にボリュームアップ!

ご存じ、いまなお絶大な人気があり、多くのミュージシャンへの影響を続けているThe Beatles。今年、なんとここに来て新曲がリリースされて大きなニュースとなりました。さらに、今回、「赤盤」「青盤」の愛称で知られる彼らの2組のベストアルバムに、その新曲や、その他の曲が加えられ、「2023エディション」として再リリースされ、話題を呼んでいます。

Title:The Beatles 1962-1966(2023 Edition)
Musician:The Beatles

こちらは「赤盤」。タイトル通り、1962年から1966年に発表された曲を集めたベストアルバム。

Title:The Beatles 1967-1970(2023 Edition)
Musician:The Beatles

こちらは「青盤」。こちらは1967年から1970年の楽曲が収録されています。

まずやはり注目なのは「The Beatles 1967-1970」の最後に収録されている新曲「Now And Then」。1996年にリリースされた「Real Love」以来、27年ぶりの新曲だそうです。もともとジョン・レノンが70年代後半に書いていた楽曲で、1994年に行われた「ザ・ビートルズ・アントロジー」プロジェクトの際に新曲としてリリースしようと試みたのですが、当時の技術ではデモ音源に入っている雑音の除去が困難ということで、制作作業が中止されていました。ただその後、AI技術の発展により雑音の除去も行えるようになり、このたび見事、「新曲」と日の目を見ることになったそうです。

楽曲は非常にメランコリックなメロディーラインが印象的。ジョンのボーカルに対して、ポール・マッカートニーやリンゴ・スターのコーラスラインが非常に印象的。さらに過去の音源からジョージ・ハリスンの声もバッキングボーカルとして加わっているそうです。4人のハーモニーを聴かせているあたり、4人の繋がりをあえて強調しているように感じます。メロディーラインは物悲しく、ノスタルジックな雰囲気もあり、過ぎ去ったビートルズとして現役だった日々を思い起こしているようにも感じさせます。これが最後であるという物悲しさを、どこか感じさせる楽曲にも感じました。

さて、今回、リメイク盤のリリースにあたり、「1962-1966」では12曲、「1967-1970」では新曲をふくめ9曲、あらたに追加しています。追加曲は「I Saw Her Standing There」「Here And There Everywhere」のような「この曲、ベスト盤に収録されていなかったのか」と驚くような代表曲も多く、The Beatlesの名曲の多さにあらためて感心してしまいました。ちなみに元のベスト盤は全てオリジナル曲だったのですが、「Twist And Shout」「Roll Over Beethoven」のようなビートルズのバージョンが有名なカバー曲が収録されています。

収録曲に関しては言うまでもなく名曲揃いで、ビートルズの魅力をしっかり感じされるアルバムなのは間違いありません。ただ・・・ただ単に収録曲を増やしたという点は若干疑問があって、結果として「1962-1966」は63分から94分、「1967-1970」は99分から134分に一気に収録時間が伸びています。個人的には元のバージョンくらいの長さが、アルバム通じて楽しめる長さとしてはちょうどよい(それでも99分はちょっと長いのですが)と思っていたのですが・・・。ちょっとただ単に長くなりすぎているようにも感じました。もっとも、ストリーミングの時代、これだけの長さにしたのは、ひょっとしたら「プレイリスト」を意識したのかもしれませんが。

しかし、ほぼ毎年のように手を変え品を変え、「ニューアイテム」をリリースし続けるThe Beatles。それがほぼすべてベスト10入りするくらいヒットを続けているあたり驚きなのですが、今年はついに「新曲」をリリース。次の「弾」は何になるのかなぁ。このビートルズ商法、若干呆れつつも、ここまでくると同時に楽しみにもなってくるのですが。さてさて。

評価:どちらも★★★★★

The Beatles 過去の作品
LOVE
On Air~Live At The BBC Volume2
1+ (邦題 ザ・ビートルズ 1+)
LIVE AT THE HOLLYWOOD BOWL
Get Back (Rooftop Performance)


ほかに聴いたアルバム

Japanese Singles Collection-The Greatest Hits-/Janet Jackson

日本でリリースされたシングルを網羅的に収録した日本独自企画によるベスト盤「ジャパニーズ・シングル・コレクション」シリーズ。このシリーズ、どちらかというと80年代に人気を博したミュージシャンが多いのですが、彼女の場合は90年代以降がメイン。本作にも収録されている2000年にリリースされたシングル「Doesn't Really Matter」はリアルタイムでのヒットを知っている世代なだけに、非常に懐かしく感じました。

もちろん彼女は80年代から活躍している訳で、ユニークなのはその時代に応じてスタイルを徐々に変えている点。80年代はやはり80年代っぽく、お兄ちゃんの影響を受けたようなファンキーでリズミカルな曲調が多いですし、90年代以降はもっとメロウなR&Bチューンがメインになってきます。この柔軟さも彼女が長く人気を維持している大きな理由なのでしょう。

現時点で直近のアルバム「Unbreakable」から、もう8年が経過しているものの、同作はビルボードでしっかり1位を獲得するなど、まだまだバリバリの現役の彼女。これからもヒットシングルをリリースし続ける予感も。ただあらためて彼女の実力を振り返るには最適なベストアルバムだったと思います。Janet Jacksonの魅力がしっかりとつまったアルバムでした。

評価:★★★★★

Janet Jackson 過去の作品
Number Ones(ベスト・オブ・ジャネット・ジャクソン)
Unbreakable

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2023年12月 3日 (日)

本来の意味での・・・「エモい」アルバム

Title:Desolation's Flower
Musician:Ragana

今回紹介するのは、ワシントン州オリンピアで結成された2人組ヘヴィーデゥオRagana。MariaとColeyの2人からなるユニットなのですが、姓は明らかにされていないそうで、謎めいた部分を残したユニットとなっています。音源はもちろん、名前を聞くのもこれがはじめて。本作は高い評価を得ているそうで、今回はじめて本作をチェックしてみました。

ブラックメタルやスクリーモを取り入れた非常にヘヴィーな作風が特徴的。まず1曲目はいきなりタイトルチューン「Desolation's Flower」からスタートするのですが、ヘヴィーでメランコリックさもあるサウンドをゆっくり聴かせつつ、途中から空間を切り裂くかのような、女性ボーカルのシャウトが入ってきます。続く「Woe」も同様。ギターノイズを前面に押し出したサウンドは、メタルやスクリーモというよりもインディーロック的な要素を感じさせますが、メランコリックさを感じさせるサウンドに、胸をかきむしりたくなるような、焦燥感のある女性ボーカルのシャウトが印象的です。

このスクリーモ的なヘヴィーでメランコリックなサウンドに、女性ボーカルのシャウトというスタイルが続く前半に対して、後半はちょっと雰囲気が変わります。「Pain」では静かなギターサウンドに、メランコリックで清涼感のある女性の歌が入るというスタイルに。ラストを締めくくる「In the Light of the Burning World」も同様に、静かなギターのアルペジオに狂おしいほど切ない女性の歌が印象的な作品。前半の作品では空間を切り裂くのが女性のシャウトでしたが、後半は、静かなサウンドの中に時折入る、ヘヴィーでダイナミックなギターノイズが空間を切り裂いてきました。

スタイル的には大きく前半と後半でわかれる本作ですが、ただ、荒涼とした雰囲気の世界観はアルバム全体を貫かれています。また、前半の女性のシャウトといい、後半のヘヴィーなサウンドといい、胸をかきむしりたくなるほどのエモーショナルなサウンドである点も大きな特徴と言えるでしょう。「エモい」と言えば、最近の若者言葉として知られており、非常に汎用的な使われ方をしていますが、もともとは音楽のジャンルとしての「エモ」を語源としたもの。彼女たちの音楽は「エモ」ではありませんが、エモーショナルなそのサウンドは、もともとの用語の使い方通り「エモい」と言えるアルバムだったと思います。

ブラックメタルやスクリーモを取り入れたメタリックでヘヴィーなサウンドは好き嫌いがわかれる部分はあるかもしれませんが、そのメランコリックでエモーショナルなサウンドは、おそらく広いリスナー層の心をかきむしるような、切なさを感じさせる作品だと思います。サウンド面でも感情的な面でもガツンと響いてくる本作は、年間ベストクラスの傑作アルバムだったと思います。今後にも注目のユニットです。

評価:★★★★★

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2023年12月 2日 (土)

齢90。バリバリ現役

Title:All My Love For You
Musician:Bobby Rush

いろいろなところで話題となっている話なのですが、今年に入り、著名なミュージシャンの訃報が相次いでいます。坂本龍一、高橋幸宏、谷村新司、大橋純子、もんたよしのり、X JAPANのHEATH・・・特にBUCK-TICK櫻井の急逝はショックでしたが、個人的に非常にショックだったのが、なんといってもKANちゃんの逝去・・・。個人的に大ファンなミュージシャンなだけにかなりのショックでいまだに引きずっています・・・。

この相次ぐミュージシャンの逝去のニュースに陰謀論的なものを持ち出す人もいるみたいですが、ただ単に、ポップス全盛期のミュージシャンたちが年を取って、お迎えが来るような世代に差し掛かったから、という理由だけだと思います。もっと言えば、ミュージシャンたちの健康寿命が延びた点や、ポピュラーミュージックの新陳代謝が以前ほど激しくなくなったため、年を取っても第一線で活躍するミュージシャンが増えたため、大きなニュースとして取り上げられるミュージシャンの逝去のニュースが増えた、という点も大きいでしょう。

なんでここでこんな話を持ち出すかと言えば、ロックやJ-POP系よりももっと昔に黄金期を迎えたブルースの世界では、とっくの昔から逝去者が相次いでいるからで、特にブルースとオールドソウルの専門誌「Blues&Soul Records」では、毎号のように追悼の特集記事が載っていますし、ニュース欄では、1ページまるごと逝去者のベタ記事というケースも毎号のお決まりのようになっています。そういう意味では、著名なポップミュージシャンの逝去のニュースは今後も続くでしょうし、それはそれで仕方ないことなのかもしれません。

で、ブルースの世界では既に「レジェンド」と言われるようなミュージシャンが、ほとんど鬼籍に入ってしまったのですが、その中で数少ないリビングレジェンドであるのが彼、Bobby Rush。なんと御年90歳!!しかし、約3年ぶりとなるニューアルバムをリリースし、その健在ぶりと、バリバリの現役であるをアピールしています。

1曲目「I'm Free」からして、ホーンセッションを入れて、いまだに艶すら感じさせる力強い歌声を聴かせるファンクブルースからスタート。「Running In And Out」も軽快に力強く聴かせる正統派のブルースナンバー。「I Want To」も、年齢を感じさせないパワフルでロッキンな歌声を聴かせるファンクブルースのナンバーと続いていきます。

その後も伸びやかな歌声でゆっくりと歌い上げるソウルナンバーの「One Money Can Stop a Show」や、ギターとハープをバックに聴かせるミディアムブルースの「I'll Do Anything For You」「You're Gonna Need A Man Like Me」など、現役感バリバリに聴かせる楽曲が並びます。

特に印象的なのは先行シングルにもなっている「I'm The One」で、こちらも力強いブルースナンバーなのですが、歌詞が印象的。おそらく日本人にとっても聞き取れるようなわかりやすい歌詞で、Muddy WatersやB.B.KING、ハウリンウルフなどといったブルースのレジェンドたちの名前を並べつつ、自分は彼らとは違うと異なり、「俺は俺だ」と歌い上げる、そのキャリアに裏付けされたBobby Rushのプライドを感じさせる楽曲となっていました。

正直なところ、さすがにこの年になってからの作品ですので目新しさは感じません。Bobby Rushらしさを体現化したアルバムとも言えるでしょう。ただ一方で、齢90歳になりながらも、これだけ現役感のあるアルバムを作り上げるのは驚異の一言。アルバムの出来としては4つくらい相当なのですが、そのキャリアと、90歳を超えてもお元気なところに敬意を評して1つ追加で。この調子で行くと、これがラストのオリジナルアルバムではない可能性も高いなぁ。これからも末永くお元気で!!

評価:★★★★★

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2023年11月28日 (火)

シューゲイザーからの影響がストレートなインディーロック

Title:Cartwheel
Musician:Hotline TNT

今回紹介するバンドは、ミネソタ州出身で、ニューヨークはブルックリンを拠点に活動を行っているシンガーソングライター、ウィル・アンダーソンによるソロプロジェクト、Hotline TNTの2枚目となるアルバム。Hotline TNTというバンドの名前はもちろん、ウィル・アンダーソンの名前を聞くのもはじめてだったのですが、Pitchforkをはじめとして、メディアで高い評価をうけているようでしたので、今回、はじめて聴いてみました。

そして楽曲のタイプとしては、一言で言えば、完全に私好みのもの。シューゲイザーからの影響をストレートに受けたインディーロックで、ギターのホワイトノイズにポップなメロディーラインという、いい意味でひねりのない、ダイレクトなシューゲイザー系のギターロックを聴かせてくれています。

まず1曲目「Protocol」のギターの爽やかなストロークから耳を惹きますが、その後はまさにシューゲイザーからの影響が顕著なギターのホワイトノイズに、ゆっくりとしたメロディーラインで「歌」を聴かせる楽曲になっています。続く「I Thought You'd Change」も同様に、ノイジーなギターサウンドにメロディアスでポップな歌が心地よい楽曲。さらに「Beauty Filter」はダイナミックなサウンドが魅力的な楽曲となっています。

その後も基本的に、楽曲を埋め尽くすようなノイジーなギターサウンドをバックにメロディアスな歌が流れるというシューゲイザー系のインディーロックバンドの本家本流を行くような楽曲が並びます。間違いなく、この手のギターロックが好きなら気に入りそうな作品でしょうし、個人的にも壺に入りまくりな1枚でした。

ただ・・・若干物足りなさを感じたのは、シューゲイザー好きにとってはたまらないギターノイズを楽しめる内容ながらも、メロディーラインの弱さが気にかかった点でした。比較的、淡々とした歌がメインとなっていて、「美メロ」と言ってしまうにはちょっと物足りない内容に。後半の、疾走感あるポップソングの「Out of Town」やミディアムテンポで聴かせる「Maxine」などは悪くはないとは思ったのですが・・・。ちょっとメロの弱さは気にかかりました。

もっともその点を差し引いても、アルバム全体として十分「傑作」と言えるだけの内容でしたし、なによりも個人的に非常に「壺」にはまったアルバムでその点でも非常に楽しめた作品でした。シューゲイザー好きなら間違いなく気に入るであろう1枚です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Titanic/Vidrio

Vidrio

メキシコ在住のグアテマラ人チェリストのMabe FrattiがHector Tostaと組んだユニット、Vidrioのデビューアルバム。といっても、どちらの方も全くはじめて聞く名前で、Hector Tostaに至っては、どんなミュージシャンなのかいまひとつ不明だったのですが・・・チェロの音色をはじめ、ストリングスやウッドベース、ピアノを取り入れた、ジャジーな感じながらもフリーキーさも併せ持ったサウンドに、Mabe Frattiの伸びやかで美しい歌声が魅力的。ジャズをベースにしながらも、フォーキーな要素やトライバルな要素も感じさせる独特のサウンドが魅力的。日本ではほとんど紹介されていないようですが、その独自のサウンドに惹かれる1枚でした。

評価:★★★★★

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2023年11月25日 (土)

優しさを感じさせるボーカルとサウンドが魅力的

Title:Madres
Musician:Sofia Kourtesis

Madras

今回紹介するのは、ベルリンを拠点にして活動するペルーのDJ、Sofia Kourtesis(ソフィア・コルテシス)のデビューアルバム。各種メディアで非常に高い評価を受けている作品で、彼女に関しては、音源はもちろん、名前を聴くのも初めてだったのですが、今回、その評判のデビューアルバムをチェックしてみました。

楽曲的には、リズミカルなエレクトロチューンがメイン。リズミカルなサウンドが聴いていて心地よさを感じさせるのですが、その「心地よさ」を決定づけているのが彼女のボーカルでしょう。基本的にはエレクトロなリズムトラックが主軸となるサウンドで、彼女のボーカルはこの手のエレクトロアルバムではよくあるパターンなのですが、サウンドのひとつ、として位置づけられている構成となっています。ただ、優しく暖かみのあるサウンドは、アルバムの中でも大きな魅力となっているのは間違いありません。また、その結果として、エレクトロサウンド全体としても暖かみの感じさせる音色となっており、エレクトロのアルバムながらも、どこか暖かみを感じさせるという点が本作の大きな魅力となっていました。

アルバムは、いきなりタイトルチューンの「Madres」からスタート。壮大な印象もある伸びやかなサウンドには、どこかトライバルな雰囲気も感じさせます。本作は彼女の母親について書いた曲だとか。伸びやかな清涼感あるボーカルも魅力的な楽曲に仕上がっています。また、3曲目の「Vajkoczy」は、癌と診断された彼女の母親の命を救った、著名な神経外科医の名前から取られた作品だとか。リズミカルで軽快なエレクトロサウンドが魅力的な楽曲となっています。

前半は、そんなリズミカルで清涼感もあるエレクトロチューンがメイン。基本的にはストレートにリズミカルな楽曲がメインとなっており、いい意味で聴きやすさが印象に残る楽曲が並びます。四つ打ちのリズミカルなサウンドがメインながらも、どこかトライバルな要素も見え隠れする点もひとつの魅力に感じました。

一方、ダウナーな歪んだサウンドに語りにようなボーカルが入る「Moving Houses」を挟んで、終盤は少々違った雰囲気に。続く「Estacion Esperanza」では、かのManu Chaoも参加。前半でも隠し味のように入っていたトライバルな要素をより前に押し出した作品に。続く「Cecilia」も疾走感あるエレクトロチューンながらもトライバルな要素が入った作品になっていますし、ラストを飾る「El Carmen」も同様。最後は、アルバム全体に流れているトライバルな要素を押し出した締めくくりとなっていました。

優しいボーカルとリズムトラックが魅力的な前半と、前半から隠し味的に加わりつつも、後半でより鮮明になるエッジの効いたトライバルなリズムが魅力的なアルバム。いい意味で聴きやすさがありつつも、どこかひっかかる癖のような要素も入っている、魅力的なエレクトロサウンドの作品でした。広いリスナー層にもアピールできる傑作アルバムだったと思います。ライブで聴いても気持ちよさそうですが、CDや配信で聴いてもその魅力に魅了される、そんなアルバムでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Lahai/Sampha

イギリスはロンドン出身のシンガーソングライター、Samphaの約6年ぶりとなるニューアルバム。エレクトロベースなサウンドにしんみりとメランコリックに聴かせるソウルなボーカルが載るスタイル。全編的にエレクトロビートを取り入れつつも、どこかオーガニックな色合いすら感じさせる暖かみのある楽曲が大きな魅力。ソウルミュージックがベースながらも、メロはシンプルなポップという点、いかにもUKソウルという印象も受ける1枚。幅広いリスナー層が楽しめそうな暖かみのあるソウルアルバムでした。

評価:★★★★★

1989 (Taylor's Version)/Taylor Swift

"Taylor's Version"としてリリースしている過去作のリメイク最新作は2014年にリリースしたアルバム「1989」のリメイク。同作は、いままでカントリーという枠内で活躍していた彼女が、その壁を取り払い、ポップミュージシャンとして大きく飛躍した1枚でした。今回、久々に同作を聴いてみたのですが、いい意味でポップミュージシャンらしい、明るく、広いリスナー層が楽しめる楽曲が並ぶアルバムだと、改めて気がつかされました。ポップミュージシャンとしての本領発揮の1枚とも言えるのではないでしょうか。今や、世界的な人気を誇るポップシンガーである彼女ですが、ある意味、その一歩を踏み出したアルバムと言えるでしょう。

評価:★★★★★

TAYLOR SWIFT 過去の作品
FEARLESS
RED
1989
REPUTATION
Lover
folklore
evermore
Fearless (Taylor's Version)
RED(Taylor's Version)
Midnights
Speak Now(Taylor's Version)

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2023年11月19日 (日)

現役感あふれるまさかのオリジナルアルバム

Title:HACKNEY DIAMONDS
Musician:The Rolling Stones

おそらく、本年度最大の音楽ニュースの一つであることは間違いないでしょう。ローリングストーンズが完全オリジナルのニューアルバムをリリース!2021年にオリジナルドラマーであるチャーリー・ワッツが逝去。その後の動向も気になっていたのですが、正直なところ、こんなに早いタイミングでオリジナルアルバムをリリースしてくるとは思いませんでした。2016年にはアルバム「Blue&Lonesome」をリリースしているのですが、こちらはブルースのカバーアルバム。純然たるオリジナルアルバムとしては2005年の「A Bigger Bang」以来、実に18年ぶりのニューアルバムとなります。

ロック史に名を残す大レジェンドのストーンズも、ミック・ジャガーはなんと今年80歳。キース・リチャーズも79歳。若干年下のロン・ウッドでも76歳と、まだまだお元気とはいえ、一般的にはすっかり「おじいちゃん」になってしまっています。しかし、そんな年齢を全く感じさせない、現役感あふれる演奏をこのアルバムでも聴かせてくれています。まずアルバムを聴き始めて最初に飛び込んでくる「Angry」からして、80歳を過ぎて、色艶さえ感じさせるミック・ジャガーのボーカルに驚かされます。続く「Get Close」で聴かせてくれるギターの力強いこと・・・。そのギターに負けないミックのボーカルの力強さも驚くべき限りです。

特に前半では「Bite My Head Off」「Whole Wide World」など、かなり分厚いバンドサウンドを前に押し出した、力強い「ロック」な曲が目立ち、メンバー全員が80歳に手が届く年になっても、変わらず元気であることをアピールするかのような曲が並びます。その後もブルースナンバーの「Dreamy Skies」や、ストーンズ流のダンスチューン「Mess It Up」、ストーンズの十八番とも言えるバラードナンバー「Tell Me Straight」は、こちらもおなじみのキースボーカルの曲と、バラエティー富んだ展開が続いていきます。

またゲスト陣も非常に豪華で、「Bite My Head Off」では、こちらも元気な「おじいちゃん」のポール・マッカートニーが、「Live By The Sword」ではエルトン・ジョンが、「Sweet Sounds Of Heaven」ではスティーヴィー・ワンダーとLady Gagaが、とレジェンドたちがズラリと参加し、さすがストーンズ・・・といった豪華な面子が名前をそろえています。この並びの中では、さすがのLady Gagaも「若手」になってしまいそう。ちなみに「Mess It Up」「Sweet Sounds Of Heaven」ではチャーリー・ワッツのドラムプレイが使われているほか、「Live By The Sword」ではビル・ワイマンもベースで参加しており、こちらもちょっとうれしくも懐かしいゲスト参加となっています。

楽曲としてはバリエーションがあるものの、全体的には目当たらしい感じはなく、かつての経験からストーンズが手元に持っている手札を並べた感のある構成になっており、新たな挑戦といった感はありません。まあ、この年齢になってオリジナルアルバムを作ること自体が挑戦、と言えるかもしれませんが・・・。ただ、この年齢になっても、ある意味「年齢」を全く言い訳にしていない現役感あるアルバムを作り上げている点自体が驚きと言えるかもしれません。少なくとも80年代90年代あたりの作品と並べても、遜色ないどころか、むしろ上回る出来の内容とすら言えるかもしれません。

ちょっと気にかかるのがアルバムラストを締めくくるのが、彼らのバンド名の元となったブルースの巨人、Muddy Watersの「Rolling Stone Blues」のカバーという点。このアルバムがラストであることを意識して最後の最後に・・・なんてことも考えてしまいます。年齢からすると、確かにこれが最後になってしまっても不思議ではないのですが、まだまだ元気に現役を続けて、90歳になっても新作を作り続ける、そんな姿を期待してしまうのですが。

ともすれば最近のベテランミュージシャンのニュースというと、過去作のリメイクだったり、ビートルズのように未発表音源の発掘だったり、さらにはもっと残念なニュースとして訃報が飛び込んでくるケースも少なくない中、ストーンズほどの大レジェンドが、バリバリの現役ミュージシャンとして「ニューアルバムリリース」というニュースが飛び込んでくるのはやはりうれしい限り。確かに往年のアルバムに比べると、というのはあるかもしれませんが、あのストーンズの新作という点を差し引いても、十分「傑作」と言えるだけのクオリティーのアルバムだったと思います。次回作、さらにその次も期待できちゃいそうな、パワフルなアルバムでした。

評価:★★★★★

The Rolling Stones 過去の作品
Shine a Light: Original Soundtrack
Some Girls LIVE IN TEXAS '78
CHECKERBOAD LOUNGE LIVE CHICAGO 1981(邦題 ライヴ・アット・ザ・チェッカーボード・ラウンジ・シカゴ1981)
(MUDDY WATERS&THE ROLLING STONES
GRRR!
HYDE PARK LIVE
Sweet Summer Sun-Hyde Park Live
Sticky Fingers Live
Blue&Lonesome
Ladies & Gentlemen
ON AIR
Voodoo Lounge Uncut
Honk
The Rolling Stones Rock and Roll Circus
A Little Bang (Bigger Bang Tour EP)
GRRR Live!
Licked Live In NYC


ほかに聴いたアルバム

AUDIOBOOK/Sam Gendel

マルチ・インストゥルメンタル奏者、サム・ゲンデルのニューアルバム。かなりのワーカホリックぶりで、昨年は3枚(!)ものオリジナルアルバムをリリースし、今年もこれが2枚目(!)。あまりにワーカホリックぶりで、全てのアルバムを追い切れていません・・・。本作は、基本的にエレクトロサウンドをメインに、ウッディーなリズムを入れてきたり、ジャジーな要素を入れてきたり、トライバルなリズムを入れたりとバラエティー豊富な展開が楽しめるアルバムに。楽曲タイトルは「AB」からスタートし、最後は「YZ」と、アルファベットを2文字づつ並べただけ、というそっけないものなのですが、タイトルをつけるよりもアイディアが先行してしまっているといった感じでしょうか。そのワーカホリックぶりはまだまだ止まらなさそうです。

評価:★★★★

Sam Gendel 過去の作品
Satin Doll
AE-30
Superstore
blueblueblue

Utopia/Travis Scott

今、もっとも人気のあるラッパーの一人、Travis Scottの、実に約5年ぶりとなるニューアルバム。本作も本国アメリカはもちろんのこと、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリアなど世界各国で1位を獲得。その強さを見せつけています。ただ、いままでトラップの代表的なラッパーといった感じだった5年前の作品とは異なり、トラップの楽曲は少なめ。聴きやすいメランコリックなサウンドはそのままに、強いビートを聴かせるような曲が多く、そのビートが非常にカッコいい作品。いい意味で耳障りのよい、幅広いリスナー層が惹きつけられそうな作品となっており、確かにその高い人気は伊達じゃない、そう感じる作品でした。

評価:★★★★★

Travis Scott 過去の作品
ASTROWORLD

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2023年11月 7日 (火)

素直にワクワクできるエレクトロ作

Title:Changing Channels
Musician:Pangaea

イギリスのダブステップのミュージシャン、Kevin McAuleyのソロプロジェクト、Pangaeaのフルアルバムとしては2枚目となる作品。もともと、Pangaeaとしてデビューしたのは2010年のセルフタイトルのEP盤だそうで、その後2016年にはフルアルバム「In Drum Play」をリリースう。本作はそれから7年のインターバルを経てリリースされたアルバムで、今回、Pitchforkで高評価を得ていたことをきっかけに、はじめて本作を聴いてみました。

ダブステップのエレクトロアルバムである本作なのですが、一言で言うと、いい意味で王道路線ど真ん中。四つ打ちのリズムを難しいこと抜きとして素直に楽しめるアルバムに仕上がっていました。

アルバムは女性ボーカルも入れて疾走感あるエレクトロチューン「Installation」からスタート。ミニマル的な女性ボーカルのトラックがトリップ感を誘いつつ、軽快なエレクトロビートが心地よいナンバーに。同じくミニマル的な女性ボーカルのトラックが軽快な「Hole Away」から、「If」はトライバル的なビートが心地よいナンバーに仕上がっています。

中盤の「The Slip」とタイトルチューンでもある「Changing Channels」もミニマル的なエレクトロビートが心地よいナンバー。特に「Chaning Chennels」は7分にも及びこのアルバム一番の長尺ナンバーで、中盤には高揚感のあるビートも登場し、クラブでかかったら盛り上がりそうなナンバーに。音源で聴いていても気分がアガル楽曲となっています。

このアルバムの中では比較的BPMが遅めの「Squid」に繋がり、ラストの「Bad Lines」は逆にアルバムの中で最も最速のBPMとなっているトランスのナンバー。こちらもちょっとベタな感じのするトランスチューンなのですが、アルバムの最後を締めくくるにふさわしい高揚感のある楽曲となっています。

アルバムとしては率直に言って目新しさはないものの、逆に、その目新しさのなさが素直にアルバムを楽しめる大きな要素ともなっており、アルバム全7曲、最後までその軽快なエレクトロのリズムにワクワクしながら楽しむことが出来るアルバムになっていました。聴いていて、これだけワクワクしながら楽しめるアルバムも珍しいかもしれません。今年のベスト盤候補の1枚とも言えるほどの傑作アルバムだったと思います。文句なしに楽しめる作品でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

For All The Dogs/Drake

For_all_the_dogs_drake

ハイペースなリリースが続くDrakeによるニューアルバム。Drake単独名義の前作「Honestly,Nevermind」ではハウスの要素を取り込んだ異色作となっていたのですが、今回は再びHIP HOPの作品として回帰。ただ、全体としてトラップなリズムを取り入れつつ、メランコリックなメロの入った歌モノの曲が目立つ作品。ただ、ここらへん、歌モノの傾向が強いのはかつてからのDrakeのアルバムの方向性だっただけに、基本的にはDrakeらしいと言えるアルバムになっています。HIP HOPリスナーに留まらない幅広いリスナー層が楽しめそうな内容なのはDrakeらしさを感じる作品になっていました。

評価:★★★★

DRAKE 過去の作品
Thank Me Later
TAKE CARE
Nothing Was The Same
If You're Reading This It's Too Late
VIEWS
More Life
SCORPION
Care Package
Dark Lane Demo Tapes
Certified Lover Boy
Honestly, Nevermind

Javelin/Sufjan Stevens

Javelin

アメリカのシンガーソングライター、Sufjan Stevensのニューアルバム。単独名義としての前作「The Ascension」では打ち込みを用いたドリーミーな作風となっていましたが、今回のアルバムはアコギやピアノを用いてしんみり聴かせるアコースティックな作風になっています。ただ一方で、「Goodbye Evergreen」では途中からサイケなサウンドに展開したり、タイトルチューンの「Javelin (To Have And To Hold)」でも後半にはエレクトロサウンドが顔を見せたりと、単なるフォーキーな作品とは一線を画するユニークな構成になっているのが彼らしい感じ。フォーキーな作風とサイケな作風の様々なパターンでアルバムを作ってくる彼ですが、今回の作品はフォーキーな作風をメインに、サイケな要素がちょっとした隠し味的な味付けとなっている、そんな作品でした。

評価:★★★★★

Sufjan Stevens 過去の作品
The Age of Adz
Carrie&Lowell
Planetarium(Sufjan Stevens, Bryce Dessner, Nico Muhly, James McAlister)
The Ascension
A Beginner’s Mind(Sufjan Stevens&Angelo De Augustine)

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