アルバムレビュー(洋楽)2023年

2023年3月20日 (月)

ブラジル音楽界の巨匠による2作品

今日紹介するのは、ブラジル音楽界の巨匠、レチエイス・レイチに関する2枚のアルバム。今年、日本独自でCD化され、話題を呼んでいるようです。

Title:O enigma Lexeu
Musician:Letieres Leite Quinteto

レチエイス・レイチというミュージシャンは音源はもちろん、名前を聴くのも今回はじめてのミュージシャンです。1959年にブラジル北東部のバイーア州で生まれた彼は、アフロブラジリアンをベースとした音楽で特に2000年代のブラジルの音楽シーンに大きな影響を与えたそうです。残念ながら2021年に新型コロナウイルスにより61歳という若さで生涯を終えました。こちらはそんな彼がクインテットを率いて録音した1枚。もともと2019年に配信限定でリリースされてリアルタイムでも話題になったそうですが、このたび、あらためてCD化されたようです。

音楽の紹介としてはクロスオーバー・ジャズという表現を使っており、類似のミュージシャンとしてウェザーレポートのようなフュージョンジャズ系のミュージシャンの名前があげられています。確かに、基本的にはシンプルで、比較的王道を行くような爽快なジャズがメイン。メロディアスであか抜けたサウンドは、日本でも広いリスナー層が楽しめそうな作品となっています。

特に前半の「Tres Yabas」などは、まさにメランコリックな美しいピアノの調べが耳を惹きますし、「Tramandai」も哀愁感たっぷりのサックスの音色が胸に響きます。ラストの「Mestre Moa do Katende」もテンポのよい軽快なジャズナンバーになっており、日本でもおしゃれなラウンジに流れてきそうな・・・・・・という表現は、あまり誉め言葉にはなっていませんか?

ただ、これだけだとよくありがちなクロスオーバー系のジャズユニットということになるのですが、彼らがユニークなのはアフロブラジリアンというジャンル通り、アフロ系のサウンドを組み込んでいる点でしょう。1曲目の「Casa do Pai」は郷愁感あふれる作品なのですが、パーカッションの音色が響いていますし、その後も軽快でトライバルなパーカッションがアルバムの中のひとつの重要なキーとして機能しています。

フュージョン系ジャズのような耳なじみやすさがありつつ、一方ではトライバルなパーカッションが独特のグルーヴを作り上げている、そんな一味変わったジャズの傑作アルバムになっていました。遅ればせながら、レチエイス・レイチという才能に惹かれた1枚でした。

評価:★★★★★

Title:Cancao da Cabra
Musician:Sylvio Fraga&Letieres Leite

こちらはブラジルはリオ・デ・ジェナイロ出身のシンガーソングライター、シルヴィオ・フラーガがレチエイス・レイチとタッグを組んで作成されたアルバム。こちらも2019年にリリースされた作品が日本限定でCD化されたようです。

クロスオーバー・ジャズがベースだった上記「O enigma Lexeu」と比べると、こちらはあくまでもシルヴィオ・フラーガがメインのアルバム・・・なのですが、かなり多彩な音楽性を聴かせてくれます。1曲目の「Eua」からして、いきなりギターロックの作品になっており、ちょっとビックリしますし、逆に「O Lagarto e o Gato Largado」は「O enigma Lexeu」にも通じるような、弦楽器の重奏を美しく聴かせる作品に。かと思えばタイトル曲である「Cancao da Cabra」はアコースティックギター1本を静かに爪弾きながら、メランコリックな歌声を聴かせる作品になっています。

その後も「Sono do Burgo」「Sei da Cor da Noite」はブラジル音楽の色合いが濃い作品になっていますし、かと思えば終盤「Sao Bernardo」はメタリックなサウンドからスタート。アバンギャルドな作風かと思えば、後半はサックスをベースに伸びやかな歌声を聴かせる曲調に。ラストの「Nevoeiro」もアコースティックギターをベースにしつつ、アバンギャルドさを感じさせる作品に仕上がっています。

全体的にはラテン系やブラジル音楽をベースとしながら、メランコリックなメロを重ねつつ、一方でどこかポストロック的なアバンギャルドさも垣間見れる作品になっていたように感じます。クロスオーバー・ジャズに徹していた「O enigma Lexeu」に比べると、よりレチエイス・レイチの幅広い音楽性が垣間見れる作品になっていたようにも感じました。

どちらもレチエイス・レイチの才能を強く感じられる作品。いまさらながらですが、わずか61歳という早世が惜しまれます。ブラジル音楽好きに限らず、広いリスナー層が楽しめる傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

| | コメント (0)

2023年3月19日 (日)

現役感バリバリ

Title:Mercy
Musician:John Cale

先日、御年75歳でバリバリの現役として活躍しているIggy Popのニューアルバムを紹介しました。今回紹介するのは、The Velvet Undergroundのメンバーとしてもおなじみのジョン・ケイル。なんとこの3月で御年80歳!!そんな彼が、なんとオリジナルアルバムをリリース。約6年ぶりとなる新作ということですが、さらにそのアルバムが、非常に挑戦的な作品になっていたというから驚かされます。もともと彼自体、キャリアのスタートからして現代音楽だったようですが、その時の挑戦心が、80歳となった今でも全く衰えていないのが驚かされます。

アルバムはまずタイトルチューンの「MERCY」からスタートしますが、ドリーミーなエレクトロチューン。続く「MARILYN MONROE'S LEGS(beauty elsewhere)」はタイトルとは裏腹に、メタリックなエレクトロサウンドを入れつつ、不気味で、ちょっとドリーミーな雰囲気が独特な作品となっています。

このように基本的に作品はドリーミーなサウンドで展開していきます。そんな中でもお経のような淡々としたボーカルが不気味に響く「THE LEGAL STATUS OF ICE」はメタリックなサウンドが特徴的。メランコリックな歌を聴かせる「I KNOW YOU'RE HAPPY」から、ラストはピアノやストリングスの音を物悲しく聴かせる「OUT YOUR WINDOW」も、金属音を響かせるようなピアノの音色がどこかメタリック。ラストはどこか無機質なメタリックさを感じさせる楽曲で締めくくられます。

そんな本作の中で、もうひとつ特徴なのはジョン・ケイルのボーカルでしょう。上にも書いた通り、御年80歳の彼。もちろん、もう「おじいさん」の声なのですが、そんな渋みのある声をアルバムの中で上手く生かしています。全体的にはサウンドのひとつとして楽曲に溶け込ませているような曲が多いのですが、「TIME STANDS STILL」ではメランコリックに力強く歌い上げていますし、「I KNOW YOU'RE HAPPY」では前述のようにメランコリックな歌を聴かせてくれます。彼の渋みのあるボーカルが、本作では重要な味になっていました。

また、もう一つ大きな特徴が、若手ミュージシャンが多く参加している点。特に「STORY OF BLOOD」では、今話題の女性シンガー、Weyes Bloodが参加。その歌声を聴かせてくれていますし、「EVERLASTING DAYS」ではAnimal Collectiveが参加。他にも様々なミュージシャンが参加しています。ともすればおじいちゃんと孫くらいの年の差がありながら、これだけ多くのミュージシャンに声をかけて参加させているあたり、彼の若々しさと年をとっても変わらない挑戦心を感じます。

もちろん、その結果としてのアルバムの出来が悪いわけありません。あのジョン・ケイルだから、という点抜きとして、現役感をバリバリ感じられる文句なしの傑作アルバムに仕上がっていました。しかし、自分が80歳になった時、これだけ柔軟に生きられるのか・・・ということを考えると、あらためてジョン・ケイルのすごさを感じ入ります。これだけ若々しいんだから、まだまだ次も、次の次も、新作を世に送り出してくれそうですね。いつまでもお元気で!!

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

NO THANK YOU/Little Smiz

Little

前作「Sometimes I Might Be Introvert」が大絶賛を受け、イギリスを代表する音楽賞、ブリッド・アワードで最優秀新人賞を獲得するなど、一躍注目のミュージシャンとなった、イギリスのラッパー、Little Simzの新作。HIP HOPを主軸にしつつ、メランコリックな歌も聴かせてくれるポップな作風が魅力的。また、エレクトロサウンドやトライバルなリズム、ジャズやオーケストラサウンドなど幅広い音楽を取り入れた作風に仕上げており、最後まで飽きさせません。前作に引き続き、本作もかなり高い評価を受けそう・・・。非常に自由度の高い作品ながらも、彼女の実力も実感できた傑作でした。

評価:★★★★★

| | コメント (0)

2023年3月14日 (火)

ロックオペラ第2幕

Title:ATUM-actⅡ
Musician:The Smashing Pumpkins

以前も紹介したスマパンがはじめたプロジェクトの第2弾。昨年11月に「ATUM-actⅠ」として配信限定のアルバムをリリース。全3部作となる同プロジェクトは、1月に第2幕、4月に第3幕がリリースされ、第3幕リリースと同時に3枚組のCDをリリースという壮大な「ロックオペラ」となっています。そして、予定通り配信限定でリリースされたのが第2幕となる本作。無事、リリースされました。

ある意味、スマパンらしいともいえる重厚なプロジェクトである本作。静かな森の中にいるようなイントロからスタートする冒頭の「Avalanche」は、途中からシンセを主導としつつダイナミックなアレンジを展開。続く「Empires」は一転、ヘヴィーなギターリフ主導のハードロック風のナンバーへと続きます。ただ、いずれも重厚さを感じるアレンジとメランコリックなメロディーラインという点は共通。「actⅠ」も同様でしたが、ある意味、非常にスマパンらしいといる作風になっています。

その後も、「Neophyte」「Night Wave」「Every Morning」のようなシンセを主体にドリーミーに聴かせる作品を軸にしつつ、その間に「Moss」「Beguiled」といったヘヴィーなギターリフ主導のハードロックな作品が交互に展開されるような構成に。ある意味、夢見心地なサウンドで夢の世界にリスナーをいざないつつ、ヘヴィーなサウンドでガツンとリスナーの目を覚ます、といった感じでしょうか。アルバム全体としての統一感を持たせつつ、リスナーを飽きさせない展開を聴かせてくれる作品になっています。

最後はシンセでニューウェーヴ風の分厚いサウンドを聴かせつつ、メランコリックなメロディーラインをしっかり聴かせる「The Culling」、ピアノとアコギというアコースティックなサウンドで暖かくも切ないメロを聴かせる「Springtimes」で締めくくり。最後まで美しいメロの曲をしっかりと聴かせる点、スマパンらしい締めくくりと言えるかもしれません。

そんな訳で「actⅠ」に続く同作。基本的には前作から引き続き、分厚いサウンドとメランコリックなメロに実にスマパンらしさを感じさせる作品になっていました。ただ、前作から引き続き、ということはつまり逆に言うと、前作の気になったについてもそのままということ。シンセのアレンジはちょっとチープに感じてしまいますし、ダイナミックなアレンジはちょっと大味に感じてしまいます。そういう点を含めてもスマパンらしいといえばらしいのかもしれませんが・・・。

評価:★★★★

The Smashing Pumpkins 過去の作品
Teargarden by Kaleidyscope
OCEANIA
(邦題 オセアニア~海洋の彼方)
Monuments to an Elegy
SHINY AND OH SO BRIGHT,VOL.1/LP:NO PAST.NO FUTURE.NO SUN.
CYR
ATUM-actⅠ

| | コメント (0)

2023年3月12日 (日)

初の全米1位獲得シングルも収録

Title:Gloria
Musician:Sam Smith

2019年に自らがノンバイナリーであることを公言したSam Smith。同アルバムの先行シングルともなった「Unholy」は、ドイツ出身のシンガーソングライターで、トランスジェンダーでもあるキム・ペトラスとタッグを組んだ作品。同作は全米ビルボードチャート1位を獲得し、ノンバイナリーとトランスジェンダーを公言するミュージシャンが同チャートで1位を獲得するのは初の快挙だったそうです。

今回のアルバムは前作から約3年ぶりとなるニューアルバム。そんな彼の状況を反映されたアルバムだそうで、「創造的で眩しく、豪華で洗練された、予想外の、そして時にはスリリングでエッジの効いたサウンド」と「セックス、嘘、情熱、自己表現、不完全さに触れた歌詞」で構成されたアルバムとなっているそうです。実際、アルバムの1曲目を飾るのはタイトルそのまま「Love Me More」でゴスペル調のコーラスも美しい楽曲なのですが、タイトル通り、自分を愛せるようになってきた、という現在の心境を歌っています。

・・・とまあ、こうやって書くと、いかにも昨今のLGBTを反映した作品になっていますし、いわば「政治的な正しさ」を感じさせるアルバムにも感じさせます。そうなるとちょっと堅苦しいんじゃ・・・とすら感じたりするのですが、ただ実際は、そんなこと関係なく、今回のアルバムも文句なしに素晴らしいポップアルバムに仕上がっていました。

冒頭の「Love Me More」に続く「No God」も同じくメランコリックでゆっくり歌い上げる美しいナンバー。「Lose You」も物悲しく歌い上げる歌をバックに、打ち込みでリズミカルなビートが印象に残る楽曲に。カナダのSSW、ジェシー・レイエズをゲストに迎えた「Perfect」も力強く歌い上げるバラードナンバーに、と特に前半はその美しい歌声でメランコリックに歌い上げるポップチューンが続きます。

そしてこのアルバムの核となるのが中盤に組み込まれた前述の「Unholy」。荘厳に歌い上げるボーカルに、メタリックさも感じるエレクトロサウンド、そして後半から登場するキム・ペトラスのテンポよいラップが組み合わさった、挑戦心あふれた独自性の強い荘厳さを感じるナンバー。どこか気高さすら感じさせるこの曲は、全米1位も伊達じゃない、アルバムの中でも強いインパクトを持った作品に仕上がっています。

その後もアコギで聴かせる「How To Cry」、ダウナーなHIP HOP風のトラックが印象的な「Six Shots」、トライバルなリズムが印象的な「Gimme」、エレクトロダンスチューンで80年代っぽさも感じる「I'm Not Here To Make Friends」へと続き、タイトルチューン「Gloria」では荘厳なゴスペル調のコーラスを聴かせてくれます。

サム・スミスといえば、イギリスを代表するSSWなのですが、同じイギリスの大人気のSSWといえばエド・シーラン。個人的に時々混同してしまうのですが(笑)、今回のアルバムのラスト「Who We Love」では見事この2人のコラボが実現。実力派SSWの2人がタッグを組んだこともあり、非常に美しくメロディアスなポップチューンに仕上がり、このアルバムのラストを飾っています。

そんな訳で、バリエーションある作風を聴かせつつ、良質なポップチューンを並べた今回のアルバム。前述の通り、難しいこと抜きとして極上のポップスアルバムとして楽しめる傑作アルバムに仕上がっていました。ポップスシンガーとしての実力をいかんなく発揮した1枚。あらためてその魅力を強く感じることのできた作品でした。

評価:★★★★★

Sam Smith 過去の作品
IN THE LONELY HOUR
Thrill It All
Love Goes
Love Goes: Live at Abbey Road Studios


ほかに聴いたアルバム

JAPANESE SINGLES COLLECTION-GREATEST HITS-/Air Supply

ここでも何度か紹介している、主に80年代に人気を博した洋楽のミュージシャンの、日本でのシングル曲を集めた企画。今回はオーストラリアのポップバンドとして80年代に一世を風靡したAir Supply。名前は聴いたことはもちろんあるのですが、曲をまとめて聴くのははじめて。全体的にはメロディアスで爽やかなポップソング。良くも悪くも癖がないAORといったイメージなのですが、曲によってはカーペンターズを彷彿とさせる部分もあり、メロディーの良さはやはり耳を惹きます。いかにも80年代っぽい、広い層に支持されそうなポップソングが魅力的でした。

評価:★★★★

| | コメント (0)

2023年3月 7日 (火)

世界的に大ブレイク!

Title:RUSH!
Musician:Måneskin

前作「Teatro d'ira: Vol. 1」が大きな話題を呼んだロックバンド、マネスキンのニューアルバム。出身国が「イタリア」という珍しさもさることながら、この時代にハードロック路線を前面に押し出した、その音楽性も大きな話題になっています。一方で、ベースのヴィクトリアはバイセクシャルを公言したり、トップレスの衣装でパフォーマンスを行ったりと、現代的なLGBTにもつながるスタイルも話題を呼んでおり、ある意味、オールドファッションな楽曲を演奏しつつ、そのスタンスは現代につながっている、そんなバンドということでも大きな話題となっています。

本作は、そんな彼らの最新作。日本でも昨年、サマソニに来日し、そのパフォーマンスも大きな話題となりましたが、本作ではビルボード、オリコン共にベスト10ヒットを記録。日本だけでなく、イギリスのナショナルチャートでもベスト10ヒット、アメリカのビルボードチャートでも18位と、なんだ、みんな結局、こういうロックが好きなんじゃない、と思うような結果になっています。

また、そんな言わば「昔ながらのロック」を演りつつも、一方ではロックという枠組みの中でも意外とバラエティー富んだ曲調が魅力的で、今回のアルバムでも1曲目「OWN MY MIND」はヘヴィーなギター主体のハードロック風のナンバー、続く「GOSSIP」もかのトム・モレロをゲストに迎えて、ヘヴィーなギターリフが主導なヘヴィーロックとなっていますが、続く「TIMEZONE」は分厚いバンドサウンドでメロディアスに聴かせる、むしろパワーポップの色合いが強いような楽曲となっています。

その後もリズミカルなドラムが特徴的な「FEEL」や他にも「KOOL KIDS」は疾走感あるサウンドで、むしろパンクの色合いが強い楽曲に。「MARK CHAPMAN」も駆け抜けるようなサウンドが心地よいロックチューンに仕上がっていますし、リズミカルな「MAMMAMIA」あたりはオルタナ系の影響も感じさせます。また「IF NOT FOR YOU」のようなギターで静かに聴かせる曲も間に挟まっており、アルバムの中でちょうどよいインパクトとなっています。

ただ、アルバム全体としては何よりもギターを前に押し出したヘヴィーなバンドサウンドという点で統一されており、ロックのダイナミズムを体現化している点が大きな魅力。前作同様、いかにもロック然とした曲は、聴いていて素直に気持ちよいですし、やはりこういう難しいこと抜きに爆音を聴かせてくれるロックが好きなんだ!ということをあらためて実感できるアルバムになっていました。前作に続き、文句なしの傑作。世界レベルで注目を集めており、今後、ますます大きな存在になっていきそう。これからも気持ちよいロックを世界に広めてほしいです。

評価:★★★★★

Måneskin 過去の作品
Teatro d'ira - Vol.1

| | コメント (0)

2023年2月27日 (月)

懐かしい気持ちになる1枚

Title:Late Developers
Musician:Belle and Sebastian

昨年5月、実に純然たるオリジナルアルバムとしては約7年ぶりという新作をリリースしたベルセバ。今度は逆に、前作からわずか7か月。早くもニューアルバムがリリースされました。前作のアルバムは、ここ最近の彼らの作品ではベストとも言うだけの作品に仕上がっていただけに、今、バンドとしての勢いがある、ということでしょう。

その前作では彼ららしいギターポップの楽曲を軸にしつつ、バラエティー富んだ作風が大きな特徴となっていました。今回のアルバムでも「I Don't Know What You See In Me」でエレクトロサウンドを取り入れるなど、バリエーションは感じさせます。ただ、前作よりも全体的に彼ららしいギターポップ路線でまとまっている作品に仕上がっていました。それよりも今回のアルバムは聴いていて非常になつかしさを感じさせる曲が目立ったように感じます。

まずアルバムの1曲目「Juliet Naked」はいきなりマイナーコードの哀愁感たっぷりのイントロからスタート。こちらは60年代あたりのレトロポップの雰囲気を感じさせます。「Will I Tell You A Secret」もアコギでフォーキーに聴かせる楽曲でなつかしさを感じさせます。ギターロック路線の「So In The Moment」もどこか漂う70年代的な空気感になつかしさを感じさせます。

そしてなにより前述のエレクトロチューン「I Don't Know WHat You See In Me」は、まさに80年代テイストのあふれる作品。続く「Do You Follow」もシンセのサウンドを取り入れて、こちらも80年代的。ラストの「When The Cynics Stare Back From The Wall」、さらにタイトルチューンでもある「Late Developers」はいずれもベルセバらしい、牧歌的な明るさを感じるメロディアスなナンバーで締めくくられていました。

彼ららしい暖かさを感じるギターポップに、懐かしさを感じる今回の作品。もちろん楽曲からは70年代や80年代的な要素を感じさせるのですが、それ以上に彼らの書くメロディーラインの普遍的な暖かさに、昔、どこかで聴いたような、そんなノスタルジックな気持ちにさせる要素が入っているのでしょう。

前作からわずか7か月というスパンにかかわらず、前作同様、非常に魅力的な充実作に仕上がっており、現在のバンドの良好な状態を感じることが出来る傑作に仕上がっていました。聴いていてほっと暖かい気持ちになる1枚。広いリスナー層にお勧めできるアルバムです。

評価:★★★★★

Belle and Sebastian 過去の作品
Write About Love(ライト・アバウト・ラヴ~愛の手紙~)
Girls in Peacetime Want To Dance
How To Solve Our Human Problems
Days of The Bagnold Summer
What To Look For In Summer
A Bit of Previous


ほかに聴いたアルバム

Bob Corritore&Friends:You Shocked Me/Bob Corritore

ブルース・パーピストのボブ・コリトーが、彼の盟友とセッションを行った曲を集めたアルバム。前半は軽快なギターサウンドも目立つ、ロックンロール寄りのブルースが、後半は比較的王道とも言えるブルース路線の曲が並びます。他にもソウル風の作品もあったり、バラエティー豊かな曲調が魅力的。最後まで魅力的なブルースソングの並ぶアルバムでした。

評価:★★★★★

Amdjer/Lucibela

このアルバムも、2022年ベストアルバムを後追いで聴いた1枚。ミュージックマガジン誌ワールドミュージック部門で年間9位を獲得した、カーボ・ヴェルデの女性ボーカリストの作品。哀愁たっぷりのメロディーラインをしっかり聴かせてくれる1枚で、そこに加わるパーカッションのリズムが独特の色合いを加えています。

評価:★★★★★

| | コメント (0)

2023年2月26日 (日)

ロックンローラーのイギー復活!

Title:Every Loser
Musician:IGGY POP

ここ最近、大物ミュージシャンの訃報が目立ちます。今年に入ってたった2か月にも関わらず、かのジェフ・ベックをはじめ、EW&Fのフレッド・ホワイト、デヴィッド・クロスビー、テレヴィジョンのトム・ヴァーレイン、バート・バカラック、さらに先日もデ・ラ・ソウルのトゥルーゴイ・ザ・ダヴの訃報も飛び込んできましたし、日本でも年明けに高橋幸宏の訃報が飛び込んできたほか、鮎川誠、ムーンライダーズの岡田徹、そしてつい先日もハイスタの恒岡章の急逝というショッキングなニュースが飛び込んできました。

ただ、これは「異常事態」というよりも、ロック全盛期でポピュラーミュージックがビジネスとして急成長を遂げた1960年代、70年代から50~60年を経て、当時、20代だった若者が、70、80代になり、寿命を全うした、というケースが増えたから、ということでしょう。実際、前述のミュージシャンたちも恒岡章こそまだ51歳という若さだったのですが、他のミュージシャンたちはほぼ70代や80代。大往生ではありませんが、少なくとも早世という年齢ではありません。残念ながら今後もこの傾向は続いていくでしょう。

一方では70歳を過ぎてもなお、現役でバリバリ活躍するミュージシャンも少なくありません。ローリング・ストーンズも、チャーリー・ワッツこそ鬼籍に入ってしまったものの残ったメンバーはバリバリの現役。ビートルズも残ったメンバーは2人になってしまいましたが、ポールもリンゴも現役のミュージシャンとして精力的な活動を続けています。そして今回紹介するIggy Pop。ご存じザ・ストゥージーズのメンバーであり、過激なパフォーマンスで知られた彼も、現在75歳。しかし、バリバリの現役活動を続けています。

特に今回のアルバムは非常にヘヴィーなロックチューンを聴かせてくれており、齢75歳にして、まだまだ20代に負けないくらいの若々しさを感じる作品になっていました。1曲目「Frenzy」のイントロからヘヴィーなギターサウンドでスタートし、現役のパンクバンド顔負けの力強いボーカルを聴かせてくれます。続く「Strung Out Johnny」もヘヴィーなロックチューン。ただこちらは、年齢の積み重ねを感じる渋みのあるボーカルが魅力的で、逆に、この年齢だからこそ出せる「味」を感じます。

その後も軽快なロックンロールチューン「Modern Day Ripoff」や疾走感あるタイトル通りのパンクチューン「Neo Punk」、力強いギターロックにシャフト気味のボーカルを聴かせる「All The Way Down」、さらにラストの「The Regency」も力強いギターロックに仕上がっており、最後の最後まで年齢を感じさせない力強いロックナンバーを聴かせてくれます。

その反面、中盤では「Morning Show」のようなミディアムチューンなナンバーをムーディーに聴かせてくれたり、インターリュード扱いですが、「The News For Andy」ではメランコリックなピアノの音色にのせて、渋い声で語りを聴かせてくれたりと要所要所にいい意味で年齢を感じさせる楽曲も聴かせてくれています。

イギーとしてはコンスタントに新作は作っているものの、前作「Free」はアンビエント的な作風。その前はUnderworldとのコラボ作があり、さらにソロとしての前々作「POST POP DEPRESSION」もおとなしい印象の作品でした。そういう意味では本格的なロックアルバムは久しぶり。さらにここ数作の彼の作品から、すっかりベテランとして枯れてしまったという印象すら受けていた彼ですが、いやいや、ロッカーとして全く衰えていなかったということをあらためて実感できたアルバムに仕上がっていました。

75歳という年齢を感じさせないパンキッシュな作品は、10代、20代という若い世代にも十分アピールできそうな内容だったと思います。一方ではいい意味での年齢を感じる渋みのある作品もあり、そういう意味では若手ミュージシャンでは絶対に達成できない境地にある作品でもあったと思います。文句なしの傑作アルバムで、年間ベストクラスの作品だったと思います。まだまだ現役の活動が続きそうなイギー。どうか、末永くお元気で!!

評価:★★★★★

IGGY POP 過去の作品
POST POP DEPRESSION
Teatime Dub Encounters(Underworld&Iggy Pop)
Free


ほかに聴いたアルバム

Sahara Koyo/Marmoucha Orchestra featuring Mehdi Nassouli

Saharakoyo

まだ続いています。2022年各種メディアでベストアルバムとしてセレクトされたアルバムで聴き漏らしていた作品を後追いで聴いた1枚。今回もミュージックマガジン誌ワールドミュージック部門で年間8位を獲得したアルバム。アフリカはモロッコで聴かせるグナワ音楽の作品で、イスラエル出身のピアニスト率いるオーケストラが、モロッコの弦楽器であるゲンブリの奏者を迎えての1枚。アフロビートなどを取り入れたトライバルな要素も強い作品ながらも一方ではジャズや管弦楽の要素も加えるなど、西洋音楽的な要素も多分に加えた作品。ほどよいトライバルさと爽やかさが融合された心地よい作品に仕上がっています。

評価:★★★★★

No Soul,No Blues/Stan Mosley

主にアメリカの黒人社会の音楽興行、チタリン・サーキットで活動をしており、知る人ぞ知る的存在だったソウルミュージシャン、Stan Moleyのニューアルバム。楽曲自体は昔ながらのソウルミュージックといったイメージなのですが、パワフルなボーカルがすごい!御年70歳だそうですが、そんな年齢を感じさせないパワフルさと、逆に年齢ゆえの深みのある表現力を持つボーカルに圧倒されるアルバムでした。

評価:★★★★

| | コメント (0)

2023年2月25日 (土)

「アフリカ」らしさに現代的な要素も加味

Title:N'Djila Wa Mudjimu
Musician:Lady Aicha&Pisko Cranes Original Fulu Mziki of Kinsasha

今回もまた、昨年、各種メディアで年間ベストとして選ばれていたものの、聴き逃していた作品を後追いで聴いた1枚。今回は、またミュージックマガジン誌ワールドミュージック部門で10位を獲得した作品です。

さて、「アフリカ音楽」と一言で言って、どんな音楽を想像されますでしょうか。おそらく、アフロビートのようなポリリズムを用いた強烈なパーカッションが鳴り響く音楽を想像されるのではないでしょうか。もちろん、「アフリカ音楽」と言っても、そのジャンルは多種多様にわたっています。地中海沿岸の地域では、むしろアラブ系の音楽に近いですし、サハラ砂漠ではご存じ、「砂漠のブルース」と呼ばれるようなブルースに近い雰囲気の音楽が聴けます。西アフリカの沿岸では、ハイライフのようなジャズの影響を受けたあか抜けたポピュラーミュージックもあったりと、アフリカ各地で様々なタイプの音楽を聴くことが出来ます。

ただ、あえてある種の偏見も加味した上で言ってしまうのならば、今回紹介するこのアルバムは、実に「アフリカ」らしい音楽を聴かせてくれます。楽曲はほとんど強烈なビートのパーカッションのリズムが主導して、シンプルなサウンドを展開するスタイル。そこに、ある種の呪術的な要素すら感じる男女の掛け合いが重なります。非常に「アフリカらしい」と言えるサウンドではないでしょうか。

このアルバムは、もともとコンゴ・キンシャサのスラム街で結成されたバンド、Fulu Mizuikiの中心メンバーであるPisco Craneと、彼らのストリートパフォーマンスに影響を受けたファッションデザイナーによるLady Aishaによるユニットだとか。ジャケット写真の奇妙なコシュチュームはそのデザインによるものでしょうか。

そんなユニットによる本作は、前述の通り、非常にトライバルな要素の強い、アグレッシブなリズムを中心とする楽曲を聴かせてくれます・・・が、一方でただただ伝統的なアフリカ音楽というだけではなく、微妙に現代的な要素を取り入れている点がユニークであったりします。例えば、アグレッシブなリズムトラックは、パーカッションだけではなく、電子音楽の要素も取り入れ、インダストリアル的な要素も感じられます。

他にも「Mutangila」のようなシンプルなリズムにエレクトロの要素を加味したようなトランシーな作品もありますし、「Two Seven」のようなノイジーなサウンドを取り入れてきている曲もあります。また「Kraut」は力強いシャウトを聴かせてくれ、どこかパンキッシュな要素も感じさせます。

そんな現代的な要素を加味しつつ、ただアルバム全体としては、実にアフリカらしさを感じさせるアグレッシブなサウンドが耳に残るアルバム。間違いなく、その力強いリズムに聴いていてワクワクさせられるのではないでしょうか。毎年、ミューマガ誌のワールドミュージック部門でベスト10に入ったアルバムは一通りチェックしているのですが、個人的にはこのアルバムが一番良かったように思います。いい意味でアフリカの音楽を聴いたという満足感を覚える1枚でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Sultan/Alune Wade

こちらも上と同様、ミュージックマガジン誌ワールドミュージック部門で年間7位に選ばれた作品。セネガル出身のベーシストによるアルバムで、こちらもある意味、アフリカらしさを感じるトライバルなリズムが大きな特徴となっていますが、一方でロックやジャズなどの要素も取込、いかにもなジャケット写真と裏腹に、意外とあか抜けた印象も受ける作品に。いい意味でワールドミュージックの枠にとらわれない、聴きやすさを感じる作品でした。

評価:★★★★★

Black Panther: Wakanda Forever - Music From and Inspired By

映画「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」の劇中歌や映画からインスパイアされた曲を集めたオムニバスアルバム。今回は特にRihannaが久々の新曲をリリースしたということでも話題になっています。全体的にはアフリカ系のミュージシャンが多く参加しており、トライバルな要素も強いアルバムに。とはいえ、基本的にハリウッド映画から派生したアルバムだなけに、全体的にはしっかりとアメリカの音楽としてコーティングされた感じが、今回紹介したほか2つのワールドミュージックのアルバムとは大きく異なる点。もっとも、それはそれで、アメリカとアフリカの音楽の融合として楽しむことが出来るのですが。

評価:★★★★★

| | コメント (0)

2023年2月20日 (月)

バラエティー富んだ作風が大きな魅力

Title:Sequana
Musician:Souad Massi

今回もまた、2022年に各種メディアで年間ベストに選ばれたアルバムのうち、チェックが漏れていたアルバムを後追いで聴いた1枚。今回もまた、ミュージックマガジン誌ワールドミュージック部門で6位を獲得したアルバム。アルジェリア出身、ベルベル人のシンガーソングライター、Souad Massi(スアド・マッシ)の通算10枚目となるオリジナルアルバム。彼女はもともと、政治色の強いロックバンドに参加していたそうですが、保守派による脅迫を受け国を離れ、フランスのパリに移住したそうです。

ベルベル人といえば、「砂漠のブルース」と呼ばれ、日本でも人気のあるマリのバンド、Tinariwenはベルベル人系のトゥアレグ族によるバンド。アルジェリア出身のシンガーソングライターということで、当然、似たようなタイプの音楽を想像するのですが、しかし、アルバムがスタートするとはじまる楽曲にはちょっと驚くのではないでしょうか。1曲目「Dessine-moi Un Pays」はしんみりギターのアルペジオからスタート。さらにフランス語のボーカルがのる哀愁たっぷりのバラード。むしろパリ在住ということでシャンソンとの親和性の高さも感じられるようなムーディーな曲調となっています。

と思えば2曲目「Une Seule Etoile」も哀愁たっぷりのムーディーなナンバーなのですが、パーカッションはラテン風。また1曲目とは違ったタイプの曲を聴かせてくれます。そして3曲目「Mirage」はトライバルなギターとパーカッションのサウンドにのせて勇壮な雰囲気で歌い上げる楽曲。これこそむしろ「砂漠のブルース」との共通点も感じられる楽曲になっており、彼女のプロフィールから「期待」されるような楽曲になっています。

この後も非常にバラエティーに富んだ音楽性を聴かせてくれるのがこのアルバムの大きな特徴。「Dib El Raba」はフォーキーで爽やかなポップソングに仕上がっていますし、「Ciao Bello」も途中からパーカッションが入った軽快なナンバーになっていますし、タイトルチューンである「Sequana」も爽やかなフォークソングに仕上がっており、メランコリックなメロが大きなインパクトとなっています。

さらに「Twam」に至っては、ガレージロック風の楽曲になっており、ここまでのアコースティックテイストの作品から大きく変化し、驚かされます。もっとも彼女の出自はロックバンドなだけに、こういった曲調は彼女にとっては自然なのかもしれませんが。

そんなバラエティーに富んだアルバムでともすればバラバラの音楽性といった印象も受けてしまいそうな作品なのですが、実際、アルバムを通して聴いてもそんな印象は受けません。その大きな要因がやはり全体としてメロディーの良さを感じさせる歌モノでまとめているという点がではないでしょうか。メランコリックなメロが胸に響いてくるのですが、特に魅力的に感じたのが「Ch'ta」で、メランコリックで爽やかなメロディーが強いインパクトを持っており、メロディーメイカーとしての彼女の魅力を存分に感じます。

そしてアルバム全体でどこか感じるトライバルな要素も楽曲に統一感を持たせているように感じます。例えばフォーキーな作風の「Dib El Raba」も後半になるとトライバルなビートが入ってくるなど、彼女の出自からくる音楽的要素が要所要所に感じられ、アルバムに統一感を与えているほか、楽曲全体の大きな魅力にもなっていたように感じます。

年間ベストに選ばれるのも納得の傑作アルバムで、彼女のアルバムははじめて聴いたのですが、すっかりその世界に魅了されてしまいました。アフリカ系の音楽が好きな方ならもちろん、バラエティー富んだ作風とインパクトあるメロディーラインはおそらく多くの方がはまるのではないでしょうか。非常に魅力的な1枚でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Người Phụ Tình Tôi/Như Quỳnh

Nguoi

こちらもミュージックマガジン誌ワールドミュージック部門で4位を獲得した1枚。アメリカ在住のベトナム人シンガーによる作品で、ベトナム戦争以前の曲を歌った作品だそうです。楽曲は哀愁感たっぷりの歌を感情たっぷりに歌い上げる作品で、日本のムード歌謡にも通じる1枚。加えて、エキゾチックな要素が我々日本人にとっても新鮮味があり、魅力的な1枚に仕上がっていました。

評価:★★★★

Timbuktu/Oumou Sangare

こちらも同じく、ミュージックマガジン誌のワールドミュージック部門で5位を獲得した作品。マリのワスル音楽を聴かせる女性シンガー。ワスルとは、マリの中でニジェール川以南の地域で、そこに古くから伝わる音楽を歌う彼女。郷愁感も強く感じる、哀愁たっぷりに聴かせる歌声が大きな魅力だが、一方ではトライバルなリズム、ロックの要素も取り入れたアグレッシブなサウンドも大きな魅力。

評価:★★★★★

| | コメント (0)

2023年2月19日 (日)

4部作最終章

Title:SZNZ:Winter
Musician:WEEZER

2022年、季節の節目にあわせて4枚のEPシリーズ「SZNZ」をリリースし続けた、アメリカのパワーポップバンドWEEZER。春分の日に「SZNZ:Spring」、夏至の日に「SZNZ:Summer」、秋分の日に「SZNZ:Autumn」とリリースし、12月21日に「SZNZ:Winter」をリリースしました。一応、日本では冬至は12月22日なのですが、世界標準時では冬至は12月21日なんですね。日本人にとっては、ひょっとしたら1日早いサプライズリリースとなったかもしれません。

そんな「SZNZ」シリーズの第4弾となる本作。いままでの作品はいずれもWEEZERらしさを感じる分厚いバンドサウンドにキュートなメロディーが乗っかかるというWEEZERの王道路線ともいうべき作品が続いていましたが、そういう観点で言えば今回のアルバムも間違いなくWEEZERの王道を行くようなメロディアスなパワーポップの曲が並んでいました。

冒頭を飾る「I Want A Dog」などはまさにWEEZERらしい分厚いギターロックをバックにミディアムテンポのちょっとメランコリックでキュートなメロが乗った楽曲。続く「lambic Pentameter」も同じくメランコックなメロが印象的なギターロックの楽曲に仕上がっています。「Basketball」もノイジーなギターサウンドをバックにメロディアスに聴かせるロックチューンに仕上がっています。

また、今回のシリーズの大きな特徴としてヴィヴァルディの「四季」にインスパイアさえた作品ということで、いままでのアルバムの中でもヴィヴァルディの「四季」からのフレーズが散りばめられてきました。ただ、前作「Autumn」で「四季」の中の「冬」をつかってしまったためか、今回はネタ切れ(?)。ただ、そんな中でクラシックのフレーズを使ってきたのが「Sheraton Commander」で、ヴィヴァルディと同じバロック期の作曲家、アルビノーニの「弦楽とオルガンのためのアダージョ ト短調」が使われており、ダイナミックなサウンドを聴かせてくれます。

その後も3拍子で軽快に聴かせる「Dark Enough to See the Stars」に、軽快なギターロック「The One That Got Away」と続き、ラストの「The Deep and Dreamless Sleep」も彼ららしい分厚いサウンドにキュートなメロのパワーポップ。最後までWEEZERらしい曲が並び、このアルバムは幕を下ろします。

いままでの3枚と同様、よくも悪くも彼ららしいメロディアスなパワーポップを聴かせる作品に。いい意味でリスナーが期待するようなWEEZER像を演じており、しっかりと壺をおさえたアルバムに仕上がっていました。これで4枚に及ぶプロジェクトを終了された彼ら。本作も7曲21分という短さですし、どのアルバムもミニアルバムなのですが、結果として4枚合わせると全28曲1時間半という、結構なボリュームのアルバムを1枚リリースした、ということになります。4枚ともいいアルバムでしたし、ここ最近、比較的良質なアルバムが続いている彼らなのでバンドとしての状態は良いのでしょう。とにかくWEEZERを聴いた!という満足感にひたれるアルバムでした。

評価:★★★★★

WEEZER 過去の作品
WEEZER(Red Album)
RADITUDE
HURLEY
DEATH TO FALSE METAL
Everything Will Be Alright in the End
WEEZER(White Album)
Pacific Daydream
Weezer(Teal Album)
Weezer(Black Album)
OK HUMAN
Van Weezer
SZNZ:SPRING
SZNZ:SUMMER
SZNZ:Autumn


ほかに聴いたアルバム

Pa'lla Voy/Marc Anthony

こちらは昨年の年間ベストのうち聴き漏れていたアルバムを後追いで聴いた1枚。本作はミュージックマガジン誌ラテン部門で1位を獲得した、アメリカで活躍するサルサ系ラテン歌手によるニューアルバム。リズミカルなパーカッションと哀愁たっぷりのメロディーが魅力的。サルサのアルバムのようですが、軽快な歌はポピュラリティーも高く、普通のポップアルバムとしても楽しめそうなアルバムになっていました。

評価:★★★★

QVVJFA?/Baco Exu do Blues

Qvvjfa

こちらも年間ベストを後追いで聴いた1枚。こちらは同じくミュージックマガジン誌のブラジル部門で1位を獲得した、ブラジルはバイーア州出身のラッパーによるアルバムだそうです。ところどころエキゾチックさを感じさせつつも、全体的にはメロウでムーディーに聴かせるトラックが印象的。「ブラジル」という括りにとどまらず、純粋にHIP HOPのアルバムとして魅力的な1枚となっていました。

評価:★★★★★

| | コメント (0)

その他のカテゴリー

DVD・Blu-ray その他 アルバムレビュー(洋楽)2008年 アルバムレビュー(洋楽)2009年 アルバムレビュー(洋楽)2010年 アルバムレビュー(洋楽)2011年 アルバムレビュー(洋楽)2012年 アルバムレビュー(洋楽)2013年 アルバムレビュー(洋楽)2014年 アルバムレビュー(洋楽)2015年 アルバムレビュー(洋楽)2016年 アルバムレビュー(洋楽)2017年 アルバムレビュー(洋楽)2018年 アルバムレビュー(洋楽)2019年 アルバムレビュー(洋楽)2020年 アルバムレビュー(洋楽)2021年 アルバムレビュー(洋楽)2022年 アルバムレビュー(洋楽)2023年 アルバムレビュー(邦楽)2008年 アルバムレビュー(邦楽)2009年 アルバムレビュー(邦楽)2010年 アルバムレビュー(邦楽)2011年 アルバムレビュー(邦楽)2012年 アルバムレビュー(邦楽)2013年 アルバムレビュー(邦楽)2014年 アルバムレビュー(邦楽)2015年 アルバムレビュー(邦楽)2016年 アルバムレビュー(邦楽)2017年 アルバムレビュー(邦楽)2018年 アルバムレビュー(邦楽)2019年 アルバムレビュー(邦楽)2020年 アルバムレビュー(邦楽)2021年 アルバムレビュー(邦楽)2022年 アルバムレビュー(邦楽)2023年 ヒットチャート ヒットチャート2010年 ヒットチャート2011年 ヒットチャート2012年 ヒットチャート2013年 ヒットチャート2014年 ヒットチャート2015年 ヒットチャート2016年 ヒットチャート2017年 ヒットチャート2018年 ヒットチャート2019年 ヒットチャート2020年 ヒットチャート2021年 ヒットチャート2022年 ヒットチャート2023年 ライブレポート2011年 ライブレポート2012年 ライブレポート2013年 ライブレポート2014年 ライブレポート2015年 ライブレポート2016年 ライブレポート2017年 ライブレポート2018年 ライブレポート2019年 ライブレポート2020年 ライブレポート2021年 ライブレポート2022年 ライブレポート2023年 ライブレポート~2010年 名古屋圏フェス・イベント情報 日記・コラム・つぶやき 映画・テレビ 書籍・雑誌 音楽コラム 音楽ニュース