アルバムレビュー(洋楽)2022年

2022年12月24日 (土)

5作同時リリース!その2

突如リリースされたSAULTの5作同時リリースのアルバムの紹介。昨日からの続きとなります。

Title:Today&Tomorrow
Musician:SAULT

Sault-today-tomorrow

5枚の中で、バンドサウンド色が一番強かったのがこの作品。まず「In The Beginning」では力強いベースのリフとドラムスが重低音を響かせる中、ギターノイズが重なるスタート。一方、6分37秒にも及ぶ本作は、後半では一転、優しいボーカルにギターが重なるポップな様相の楽曲になります。

その後もギターサウンドを前面に押し出した曲が続き、特に中盤の「The Jungle」はヘヴィーなギターリフを主導とした作品でハードロック色が強い作風になっており、続く「The Plan」も疾走感あるギターサウンドにシャウト気味の女性ボーカルが重なるというパンキッシュな楽曲に。「Money」も同じくアップテンポなギターサウンドのパンキッシュな楽曲となっているなど、ギターロック色の強い作品となっていました。

もっとも全体的にはヘヴィーなベースラインとドラムスという重低音を強調した作風になっており、どす黒い雰囲気とファンキーな要素も兼ね備えており、そういう意味ではSAULTらしさはもちろん健在の作風にも仕上がっています。ソウルやファンクだけではなく、SAULTのロックという側面を強く感じることの出来るアルバムでした。

評価:★★★★★

Title:UNTITLED(God)
Musician:SAULT

Sault-untitled-god

そして、全5枚の中で全21曲、73分にも及ぶボリューム感たっぷりだったのがこちらのアルバム。SAULTではおなじみの「無題」というタイトルを含めて、最もSAULTらしさを感じさせる、ある意味「王道」とも言える作品になっており、今回同時リリースされた5枚のアルバムの「顔」的存在と言えるかもしれません。

伸びやかなストリングスを聴かせるオープニング的な「I Am Free」からスタートし、続く「God Is Love」はいきなりファンキーなベースラインとギターサウンドが響いてくる、実にSAULTらしい作品になっています。

その後はソウルを基調としつつバラエティーに富んだ展開が楽しめます。続く「Love Will Free Your Mind」はメロウな歌を聴かせるソウルナンバーに仕上がっていますし、「I Surrender」も同じく女性ボーカルでメロウに聴かせる楽曲に仕上がっています。「Champions」は女性コーラスを主導としつつ、ファンキーなサウンドでグルーヴィーに聴かせる作品になっています。

その後も力強いゴスペル風の「Spirit High」、同じくゴスペル風のボーカルに疾走感ファンキーなリズムでグイグイと押し込んでくるような「Love Is All I Know」、ジャジーに聴かせる「Safe Within Your Hands」、ソウルなサウンドに途中、ラップも加わる「Free」など、基本的にグルーヴィーなサウンドが流れている中、様々な作風の曲が並んでおり、ボリューム感ある内容ながらも最後まで飽きさせることがありません。「My Light」ではラテン調のリズムまで流れてくるメロウな楽曲になっており、あらためてSAULTの音楽性の幅広さを感じさせます。SAULTの魅力のつまったアルバムでした。

評価:★★★★★

そんなわけで全5枚。すべてあわせると3時間30分以上に及ぶボリュームのある内容を一気にリリースしたSAULT。そもそも彼らの最初のリリースとなった2019年の「5」から、わずか3年に6枚のアルバムをリリースしており、この5枚を含めると、実に11枚のアルバムをリリースしたことになります。そのあまりのハイペースぶりに驚かされます。

ただ一方、それだけのハイペースゆえに、個人的には若干、傑作続きだった以前の作品に比べると、若干、失速気味のようにも感じてしまいます。もちろん、今回の5枚のアルバムはいずれも傑作と称するには十分すぎる出来栄えだったとは思いますが、年間ベストクラスの傑作が続いていた以前のアルバムと比べると、残念ながらその水準には至っていなかったようにも思います。これだけハイペースではなくてもいいから、もうちょっと曲を絞った方がよいのでは?とも感じる部分は否定できませんでした。

個人的にはこの5枚のアルバムでおなか一杯になったので、次はもうちょっとスロウペースでしっかりと曲を絞った作品でOKですよ??とも思ってしまうのですが、でもこれだけワーカホリックなSAULTなだけに、次のアルバムも近いうちにリリースされるんだそうなぁ。まあ、それはそれで楽しみなんですけどね。そのリリース形態を含めて、目の離せないグループです。

SAULT 過去の作品
Untilted(Black is)
Untitled(Rise)
NINE
AIR

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2022年12月23日 (金)

突如、5枚同時リリース!!

ここ最近、非常にハイペースなリリースを続けるイギリスの実験的ファンクロックバンドSAULT。そのメンバーはベールにつつまれていましたが、ここに来て、シンガーソングライターのCleo SolやラッパーのKid Sister、Little Simzなどのプロデュースも手掛けるDean "Inflo 1st" Josiahがメンバーだと反映してきています。そんな謎のユニットだった彼らですが、リリース形態もユニークで、2021年にリリースしたアルバム「Nine」は99日間のみストリーミング&ダウンロード可能というリリース形態に。さらに今年11月1日に、SAULTのTwitterに突如、こんなツイートがなされました。

なんとリンク先から5日間のみアルバムがダウンロード可能という突然のアナウンス。さらにパスワードはこの文章の中から推測しなくてはいけないという、一種の「謎あてゲーム」的な要素も含まれたリリース形態。ちなみにパスワードは結構難しく、私もTwitter上でようやく探し当てることが出来、なんとかパスワードを解除することが出来ました(パスは"godislove"でした)。

さて、今回紹介するのは、そんな謎あてゲームの結果入手できた5枚のアルバム。ちなみに5日間のみのダウンロードでのリリースでしたが、現在は普通にストリーミングで聴くことが出来ます。

Title:11
Musician:SAULT

Sault-11

彼らのアルバムには数字のタイトルの曲が散見されますが、10月10日にリリースされたシングル曲「X」に続く形となるのが本作。1曲目「Glory」は非常にグルーヴィーでヘヴィーなベースラインからスタートし、アルバムへの期待を高めますが、途中からメロウな女性ボーカルが加わり、中盤には男性の説教(?)に合唱というスタイルが登場。ユニークな構成の作品に仕上がっています。

全体的には女性ボーカルによるポップな歌モノにヘヴィーなベースラインを中心としたファンキーなリズムが重なるという構成。実験性の高い彼らの作品の中では比較的ポップで聴きやすいという印象を受けます。特に「Together」はファンキーでリズミカル。ポップな女性ボーカルも加わり、どちらかというとちょっとレトロな雰囲気のするポップに。続く「Higher」も伸びやかなボーカルに爽快なエレピが入り、80年代あたりのブラコンを彷彿とさせるような楽曲に仕上がっています。

その後も「Envious」もメロウな女性ボーカルでしんみり聴かせるメランコリックでソウルなナンバー。「River」も同じくメロウなボーカルで静かに歌い上げるソウルバラード。ラストの「The Circle」もファンキーなベースラインをバックに清涼感ある美しい女性ボーカルでしんみり歌を聴かせる楽曲となっています。

そんな訳で彼らの作品の中では、特により「歌」にスポットをあてた作品。ただ一方ではSAULTの大きな魅力であるファンキーなリズムもしっかりと聴かせてくれており、しっかりとSAULTらしい壺も押さえられた作品になっています。そういう意味では彼らの最初の1枚としても最適の作品だったかも。いい意味で聴きやすさを感じた1枚でした。

評価:★★★★★

そして2作目・・・

Title:AⅡR
Musician:SAULT

Sault-aiir

今年4月にリリースされた「AⅠR」はいままでの彼らのイメージを覆すようなオーケストラアレンジによる作品でしたが、本作はいわばその第2弾とも言うべき作品。「AⅠR」と同じくオーケストラアレンジの作品が並んでいます。前回「AⅠR」の時はあまりの意外性にちょっと抵抗感も覚えた作品なのですが、さすがにこの全5枚というフルボリュームのアルバムの中では、どす黒いファンキーな作品の中の一服の清涼剤のような感覚を覚える作品になっていました。

ダイナミックなストリングスに伸びやかなコーラスラインも入れてスケール感を覚える作品は、クラッシックな交響楽というよりは、むしろ映画音楽のような感覚を覚える作品。1曲あたり5分程度という聴きやすさを感じる区切りもあり、作品としての複雑性もなく、あくまでもポピュラーミュージックの範疇に留まっている点も、映画音楽的な印象を覚える大きな要因でしょうか。大胆なオーケストラの導入という点に彼らの実験性を感じますが、一方で小難しさはなく、いい意味で聴きやすくポップにまとまっている作品に仕上がっていました。ちょっと薄味気味という印象は「AⅠR」同様ですが、全5枚同時リリースというボリュームの中では、その薄味さがちょうど心地よく感じるアルバムでした。

評価:★★★★★

Title:Earth
Musician:SAULT

Sault-earth

全5枚のアルバムの中で、本作の最大の特徴はトライバルなリズム。オープニング的な1曲目に続く「The Lord's with Me」はトライバルなリズムとピアノの重なりが印象的なナンバー。ある意味、アフリカ的なリズムと、その対極にある、西洋音楽の典型的な楽器であるピアノを重ね合わせることにより、アフリカと西洋の融合を図っているような、そんな印象すら受ける作品になっています。

さらに「Valley of the Ocean」ではメロウな女性ボーカルにトライバルなリズムが力強く重なる楽曲。さらにもっともトライバルな要素が強かったのが「Soul Inside My Beautiful Imagination」で、パーカッションの力強いリズムにコールアンドレスポンスが重なる、まさにアフリカ音楽的な要素を色濃く入れた楽曲に仕上がっています。

もっともアルバムとしては一方で「Stronger」のようにピアノをバックにメロウな女性ボーカルで歌いあげるような曲もあったりと、バリエーションも感じさせる作品に。冒頭でも書いたように、まさにアフリカと西洋音楽の融合を意図したアルバムだったのかもしれません。SAULTの新たな魅力も感じさせる作品でした。

評価:★★★★★

あと2枚の紹介は次回に!

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2022年12月20日 (火)

一気に注目度がアップ!

Title:Endure
Musician:Special Interest

本作がオリジナルアルバムとしては3作目となる、ニューオリンズ出身のノー・ウェーヴパンクバンド、Special Interestのニューアルバム。ここで紹介するのはこれが2作目となりますが、前作「The Passion Of」を紹介した時点では、日本はおろか、海外でもほとんどネット上に情報が上がっておらず、どんなバンドなのかほとんど謎・・・という状況でした。しかし、前作の評価が高かった影響で、知名度は一気に上昇。前作の段階ではなかったWikipedia(英語版)も無事、作成され、本作ではなんと輸入盤使用ながらも解説をつけた国内仕様のCDもリリース。現時点で彼らについて検索をかけると、日本でのインタビュー記事までアップされており、ここ2年で一気に知名度があがったことが伺えます。さらに本作では名門ラフトレードと契約。まさに今、最も注目されるバンドのひとつとなってきています。

もっとも基本的なスタイルは前作から大きく変化はありません。ハイテンポかつ強烈なドラムのビートにシャウト気味のボーカルが加わるパンキッシュなサウンド。本作も1曲目「Cherry Blue Intention」から疾走感あふれるビートが繰り広げられ、いきなりリスナーのテンションは上がりまくります。続く「(Herman's)House」はヘヴィーなギターリフとボーカルの力強いシャウトが特徴的な楽曲。パンキッシュという以上にヘヴィーなロック路線が特徴的な作品となっています。

その後もメタリックなビートでダウナーに聴かせる「Love Scene」や同じくノイジーなビートでインダストリアル色も強い「My Displeasure」など、ヘヴィーで緊迫感あふれるサウンドを聴かせてくれるのが大きな特徴的。前作同様、最後まで耳の離せないアルバムになっていました。

ただもうひとつ大きな特徴だったのが、そんな緊迫感あふれるサウンドの中で、意外とポップという側面を感じられる点でした。例えば「Foul」はヘヴィーでパンキッシュなバンドサウンドの中で繰り広げられる男女の掛け合いのボーカルにテンポ良さを感じますし、「Midnigh Legend」に至っては、エレクトロアレンジのディスコチューンに仕上がっているほど。「Kurdish Radio」もダークでメタリックなサウンドながらも、力強さを感じつつ伸びやかな「歌」も聴かせるナンバーとなっています。

今回のアルバムは前作以上にバリエーションも増え、かついい意味で聴きやすさも増した作品となっていました。ラフトレードに移籍し、また世間からの注目もグッとましたことから、以前より、よりリスナーや「マス」を意識したような曲づくりにシフトした、といった感じでしょうか。もちろん、前作に引き続き今回も文句なしの傑作アルバム。国内でもグッと注目度が高くなっただけに、来年のフジかサマソニあたりで初来日となりそう。これからの活躍にも注目です。

評価:★★★★★

Special Interest 過去の作品
The Passion Of


ほかに聴いたアルバム

As Above,So Below/Sampa The Great

アフリカのザンビアに産まれ、ボスワナに育ち、現在はオーストラリアを拠点に活動しているという、ユニークな経歴を持つ女性ミュージシャン/ラッパーの2枚目となるオリジナルアルバム。トライバルなリズムにリズミカルなラップ、さらに伸びやかなボーカルを聴かせてくれる曲調で、ちょっと怪しげな雰囲気を醸し出しつつ、トライバル的な要素とスタンダードなポップの流れを上手く取り込んだ独特のサウンドを繰り広げています。これからさらなる注目が集まりそうなシンガーです。

評価:★★★★★

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2022年12月17日 (土)

話題作に続く注目の2作目

Title:Stumpwork
Musician:Dry Cleaning

デビューアルバム「New Long Leg」がいきなり全英チャートで4位を獲得。また各種メディアでも高い評価を受け、年間ベストに数多くランクインするなど注目を集めたイギリスのポストロックバンド、Dry Cleaning。そんな話題作から、わずか1年6ヶ月というスパンで早くもニューアルバムがリリースされました。デビューアルバムでいきなり注目を集めた彼女たちだけに、2枚目も注目の1枚だったのですが、この2枚目のアルバム、彼女たちが決して奇跡のアルバムをリリースしたような一発屋ではないことを証明する傑作に仕上がっていました。

楽曲の基本的な路線は前作と同様。オルタナ系のギターロックが流れる中、ボーカルは「歌」ではなく、淡々とポエトリーリーディングを行うようなスタイル。ある意味、楽曲パターンとしては前作と大きく変わっていません。ただ、決して「歌」がないスタイルでありつつも、意外とそのサウンドゆえにポップでメロディアスと感じてしまう点がDry Cleaningの不思議であり、かつ大きな魅力であったりします。

実際、1曲目「Anna Calls From The Arctic」から、ちょっと気だるい感じのギターサウンドがメランコリックでメロディーを奏でています。この気だるいサウンドにポエトリーリーディングもピッタリマッチ。続く「Kwenchy Kups」もまた、ポエトリーリーディングにピッタリマッチするような気だるい雰囲気のサウンドに、メロディアスさを感じる方も多いのではないでしょうか。

注番の「Driver's Story」「Hot Penny Day」はノイジーでヘヴィーなギターを力強く聴かせる楽曲。タイトルチューンの「Stumpwork」もメランコリックなギターサウンドが魅力的。ちょっとだけ「歌」らしきパートも登場したりして?さらに後半の「Conservation Hell」は疾走感あるサウンドが心地よいナンバー。さらにラストを飾る「Icebergs」はサイケなサウンドも加わるノイジーなナンバー。ちょっと不気味な様相を醸しつつ、アルバムは幕を下ろします。

前作もそうだったのですが、ちょっとメランコリックでローファイな雰囲気のオルタナ系のギターサウンドと、ポエトリーリーディング的なフローレンス・ショウのボーカルが絶妙にマッチ。歌がないにも関わらず、ポップという印象を抱く、不思議な、かつDry Cleaningしかもっていないような個性的な雰囲気を醸し出すアルバムに仕上がっています。そういう意味でも前作に引き続いての傑作ですし、前作が気に入った方なら、間違いなく気に入りそうなアルバムだと思います。

ただ一方では、やはりローファイ気味のギターサウンド+ポエトリーリーディングという組み合わせではどうしてもバリエーションに限りがありますし、正直、前作から考えて似たようなタイプの曲が多かった、というのも事実。新鮮味という意味では残念ながら前作は超えられなかった感があります。実際、アルバムの売上的にもベスト10入りした前作から反転、本作は全英チャート最高位11位と惜しくもベスト10入りを逃す結果になっており、前作は超えられなかったかな、という印象も受けます。

そういう意味では良くも悪くも今後の動向も気になるバンドですが・・・一方では11月に初の来日公演も行われ、日本での知名度も上がってきた模様。今後のさらなる知名度アップにも期待がかかります。今後の展開にも注目したいバンドなのは間違いないでしょう。要注目の1枚です。

評価:★★★★★

Dry Cleaning 過去の作品
New Long Leg


ほかに聴いたアルバム

( ) 20th Anniversary Edition/Sigur Ros

アイスランドのポストロックバンド、シガー・ロスが2002年にリリースし、グラミー賞へのノミネートも果たし話題となった名盤「( )」。今回、リリース20周年を記念し、リマスター盤がリリース。さらにDisc2としてBサイトや未発表のデモ音源も収録されています。同作についてはリアルタイムにも聴いているのですが、今聴いても美しいギターのホワイトノイズとメランコリックなメロディーラインがドリーミーで素晴らしい作品になっています。基本的にDisc2も本編の延長的な作品なので目新しさはありませんが、このアルバム自体、今聴いてもドリームポップの傑作として魅力的な作品。久々にシガー・ロスの魅力を堪能できたリマスター盤でした。

評価:★★★★★

Sigur Ros 過去の作品
Með Suð Í Eyrum Við Spilum Endalaust(残響)
valtari(ヴァルタリ~遠い鼓動)
KVEIKUR
Odin's Raven Magic

Here It Is: A Tribute to Leonard Cohen

1960年代から活躍し、数多くのヒット作を世に送り出したシンガーソングライター、レナード・コーエン。2016年に亡くなるまで生涯現役で活動を続けた彼ですが、本作はそんなレナード・コーエンに対するトリビュートアルバム。ノラ・ジョーンズ、イギーポップ、ピーター・ガブリエルなど、そうそうたるメンバーが参加しています。全体的にはスモーキーな雰囲気でムーディーに聴かせる「大人な」ポップが多いのですが、その中でも圧倒的だったのが「If It Be Your Will」をカバーしたMavis Staples。現在83歳の彼女は、今でも作品を発表し続け、さらに最近のアルバムでもその圧巻なボーカルを聴かせてくれるのですが、このカバーでもその圧倒的なボーカルを感情たっぷりに聴かせてくれており、アルバムの中でも格の違いすら感じさせる内容になっています。全体的に良質なカバーが揃っているのですが、メイヴィスのカバーを聴くだけでも価値のある1枚かと。

評価:★★★★

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2022年12月16日 (金)

Thundercatの盟友によるニューアルバム

Title:Quality Over Opinion
Musician:Louis Cole

今回紹介するのはロサンゼルスを拠点に活動するドラマーであり、シンガーソングライター、プロデューサーとしても活動しているルイス・コールのニューアルバムです。今回、アルバムを聴くのもはじめてながら、彼の曲について聴くのもこれがはじめて・・・なのですが、ルイス・コールといえば、Thundercatの盟友として知られるドラマー。今年の来日公演でもThundercatと共に来日したことが話題となり、私もライブでそのプレイを既に体験済。そんな訳で、ルイス・コールについては、音源を聴くのはこれがはじめてでも、既にドラムプレイについてはライブを見たことがある、そんなミュージシャンとなります。

そんな訳で、Thudercatの盟友というイメージそのもの、楽曲の方向性としてはおそらくThundercatが好きなら間違いなく気に入りそうな楽曲になっています。さらに、ジャズの方向性が強いThundercatに比べると、よりポップスの方向性が強い、といった感じでしょうか。本作でもまず「Dead Inside Shuffle」は彼のハイトーンボイスを聴かせつつ、軽快で爽やかなポップチューンに。ドラムのリズムやギターサウンドにジャズ的な要素を感じつつも、全体的には爽やかなポップ寄りの作品に。続く「Not Needed Anymore」もアコースティックな様相の爽快なポップチューンに仕上がっています。

しかし、これがユニークなのが続く「Shallow Laughter」でガラッと雰囲気が変わる点。オーケストラアレンジと伸びやかなボーカルでしんみり聴かせるスケール感があって厳かな楽曲でグッと雰囲気が一転。かと思えばSam Gendelも参加した続く「Bitches」はプログレ的な要素も感じさせるダイナミックなバンドサウンドのインストナンバーに。そんな感じで、アルバムは次々と展開していきます。

ただ、基本的にはファルセットボーカルで美しくメロディアスな曲を聴かせるポップチューンが全体の軸になっています。その後もシンセを入れつつ暖かい雰囲気でメランコリックに聴かせる「Message」や、アコースティックギターで暖かく聴かせつつ、ファルセットボーカルの美しいボーカルが耳を惹く「Disappear」、女性ボーカリストのGenevieve Artadiを迎えてテンポよく軽快に聴かせるAOR風のポップチューン「Don't Care」など、いい意味で広い層にアピールできそうなメロディアスなポップチューンが目立ちます。

さらにエレクトロチューンを入れた軽快なダンスチューン「Planet X」、80年代を彷彿させるような軽快なエレクトロダンスポップ「Park Your Car on My Face」など、ちょっと懐かしさを感じさせるナンバーなどもあったりして、ここらへんも幅広い層が楽しめるポップチューンに仕上がっています。

一方で、途中、いきなり悲鳴が入り、後半一気にアバンギャルドに展開する「Let Me Snack」なんていうちょっと奇抜なつ実験的なナンバーがあったり、今風のジャズ的な音で疾走感ある展開となっている「Outer Moat Behavior」みたいな実験的な曲もあったりするため、ポップなメロという感覚で聴いていると、かなりビックリするような展開もあるかもしれません。ただ、アルバムの中でこれらの曲もちょうどよいインパクトになっているようにも感じました。

いろいろな音楽的要素を取り込んだ作品で、ルイス・コールの音楽的趣味の幅広さと、かつ音楽に対する自由度を感じさせるアルバム。バラエティー富んだ展開なゆえに、最後まで飽きることなく次の展開をワクワクしながら聴ける傑作になっており、今年のベスト盤候補とも言える作品だったと思います。ポップのアルバムとして広い層も楽しめそうな作品でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Laughing so Hard, it Hurts/Mavi

Mavi

アメリカはノース・カロライナ出身のラッパーによるオリジナルアルバムとしては2枚目となるアルバム。日本では完全に無名なミュージシャンなのですが、1曲目「High John」でいきなり日本のアニメをサンプリングしているように聞こえたのですが、気のせいでしょうか?全体的にループするメロウなトラックをまずは聴かせるスタイルで、ラップ以上にこのトラックが聴いていて非常に気持ちよさを感じる作品。全16曲ながらも38分程度の長さというのも楽曲が次々展開していくのにはちょうどよく、この心地よいメロウなトラックに酔いしれることの出来るアルバムでした。

評価:★★★★★

Se Ve Desde Aqui/Mabe Fratti

Sevedesdeaqui

メキシコで活動を行うチェロ奏者によるニューアルバム。ストリングスを主軸にシンセを加えたフリーキーなサウンドが特徴的。そこに伸びやかで清涼感がある女性ボーカルで、実験的ながらもどこか牧歌的だったりオーガニックだったりと、真逆な要素を感じさせるのがユニーク・・・ではあるのですが、このスタイル、ボーカルスタイルも含めて、終始どこかビョークが頭に浮かんできてしまうのが残念なところなのですが・・・。

評価:★★★★

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2022年12月 9日 (金)

熱狂的な人気

Title:Midnights
Musician:Taylor Swift

日本でも報道されているのでご存じの方も多いかとは思いますが、今、テイラー・スウィフトの人気がすさまじいものとなっています。約1年10カ月ぶりのリリースとなる本作ですが、このアルバムに収録された曲でアメリカビルボードHot100のベスト10を独占するという、ビルボード史上初となる快挙を達成。さらに来年予定されている約5年ぶりの全米ツアーのチケットの申し込みが殺到し、チケット販売会社のシステム障害が発生。チケット発売が取りやめとなる事態となりました。まさにポピュラーミュージック史上、類を見ない熱狂的な人気となっています。

この熱狂的な人気ぶりの要因のひとつは、2020年にリリースされた2枚のアルバム「forklore」「evermore」が、いずれも彼女の自己最高作とも言える傑作に仕上がっていたというのも大きな要因でしょう。この2作ではThe Nationalのアーロン・デスナーがプロデュースに参加。いままでの彼女とはちょっと異なった人選で、インディーロックの影響を反映させた作品になっています。テイラー・スウィフトといえば、特にカントリー歌手という出自から、少々保守的なポップシンガーに見られていました。ただ最近では反トランプを明言したり、性差別やLGBTへの差別を批判したりと、リベラル寄りのスタンスを明確にしています。その結果、いままであまり積極的に支持されなかった層まで、その支持を伸ばした結果が、今の熱狂的な人気につながったのではないでしょうか。

ただ、その2作連続でリリースしたアルバムから2年弱のインターバルを経てリリースされた今回の作品は、彼女の盟友とも言えるプロデューサーのジャック・アントロノフが全面的に参加。彼女にとってみれば挑戦的だった前2作と比べると、どちらかというとオーソドックスなポップ路線に回帰するような作風に仕上がっていました。

とはいえ、決して初期のカントリー路線・・・という訳ではありません。冒頭を飾る「Lavender Haze」からメロウなボーカルでリズミカルに歌い上げる、むしろR&Bに近いような楽曲になっていますし、「Maroon」もダークなエレクトロサウンドが楽曲に不穏な雰囲気を与えています。さらに「Snow On The Beach」では、こちらも今を時めく女性ボーカリストであるLana Del Reyが参加。伸びやかで美しい歌声を聴かせてくれています。

その後もメロディアスなポップチューンが並ぶ作品になっていますが、全体的には分厚いエレクトロサウンドで楽曲を彩るような構成の作品が並ぶのが特徴的。「You're On Your Own,Kid」「Midnight Rain」「Question...?」など、特にアルバムの中盤にエレクトロサウンドで聴かせるポップチューンが並びます。今回のアルバム、「Midnight」というタイトルなのは、今回のアルバム、真夜中に書かれた曲を集めたアルバムだそうで、ここらへんの分厚いエレクトロサウンドを入れる構成は、まさに夢の世界を表現したように感じます。それだけドリーミーな雰囲気の曲が並んでいました。

今回は、このように全体的にエレクトロポップを主軸にしつつも、彼女らしい聴きやすいメロディアスな歌モノを並べたアルバムに仕上がっていました。そのため、挑戦的だったここ2作に感じると、若干保守的。もっとも、それがネガティブな意味ではなく、あらためてポップミュージシャンとしての彼女の魅力を感じられる作品だったと思います。また、挑戦的ではないとはいえ、リズムなどはしっかりと今風なサウンドを取り入れており、しっかりと2022年にアップデートされた音楽である点は間違いありません。

ベスト10独占やらチケット販売中止やらのニュースについては、さすがにちょっと熱狂しすぎな感は否めないものの、それだけの人気となるのは納得の傑作アルバムとなっていました。まだまだ彼女の活躍が続きそう。まさに今の彼女を象徴するような充実作です。

評価:★★★★★

TAYLOR SWIFT 過去の作品
FEARLESS
RED
1989
REPUTATION
Lover
folklore
evermore
Fearless (Taylor's Version)
RED(Taylor's Version)

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2022年12月 5日 (月)

前作の方向性を踏襲

Title:The Car
Musician:Arctic Monkeys

Arctic Monkeysの前作「Tranquility Base Hotel & Casin」は、まさに賛否両論の異色作といっていい1枚でした。いままでのガレージロック路線が一転、オールドスタイルのムーディーな作風となり、ファンの間でも賛否両論を巻き起こすような作品となりました。本作は、そこから約4年5ヶ月ぶりとなるとなるニューアルバム。今回の作品はどのような方向性にシフトするのか、注目を集めるアルバムとなりました。

そして、結論から言うと、基本的には前作の方向性を踏襲したアルバムに仕上がっていました。しんみり聴かせるムーディーなアルバム。アルバムの1曲目「There'd Better Be A Mirrorball」のイントロからして、ストリングスとピアノでムード感たっぷりに聴かせるスタート。この1曲目のイントロから、もうリスナーにとってはどんなアルバムになるのか、予想の出来る作品になったのではないでしょうか。

そんな訳で、前作と同じ方向性のムード音楽を聴かせるスタイルの今回のアルバム。もっと言ってしまえば、このムード音楽という方向性がより強くなった作品にようにも感じます。続く「I Ain't Quite Where I Think I Am」はギターリフが入るのですが、非常にムーディーに聴かせるサウンドで、さらにストリングスも重なってムード音楽の雰囲気がさらに高まっています。さらに「Jet Skis On The Most」も同様に、ギター、ピアノそしてストリングスでムーディーな雰囲気を醸しつつ、しんみりゆっくり歌い上げるボーカルがメランコリックな雰囲気にさらに拍車をかけています。

タイトルチューンの「The Car」もストリングスで伸びやかに聴かせるムード感たっぷりのナンバー。エレピも入ってしんみり聴かせる「Big Ideas」やアコギアルペジオでメランコリックたっぷりの「Mr Schwartz」、ラストはストリングスが分厚く重なるサウンドが耳を惹く「Perfect Sense」で締めくくり。最後までストリングスやピアノを多用したムーディーな作風の曲が並びました。

前作同様、パッと聴いた感じだと地味な印象を受ける本作。ただよくよく聴くと、メロディーラインの美しさが耳を惹くナンバーになっていた・・・というのも前作と同様でした。今作は前作のように、ヘヴィーなバンドサウンドを聴かせるような曲もなく、一貫してしんみりとムーディーな雰囲気で聴かせる曲が並んでいます。前作の方向性を確固たるものとした作品と言えるかもしれません。

ただ結果としてアルバム全体としてちょっと似たようなタイプの曲が並んでしまった、といった印象は否めません。バリエーションという観点からすると、少々物足りなさを覚えてしまうという点は残念ながら否定できませんでした。また、同時に前作から同じ方向性のアルバムが続いただけに、やはりこちらもちょっとマンネリ気味なのは否めない部分も・・・。もちろん、そのメロディーラインの良さにより、しっかりと聴けるアルバムになっていたと思うのですが、美メロだけで突き通すとしてはちょっと物足りなさも感じてしまいます。

もし前作の前にこちらのアルバムがリリースされたら、傑作アルバムという評価になるのでしょうが、そういう意味で惜しさを感じるアルバムだったように思います。この2枚のムード歌謡路線のアルバムが続き、次のアルバムは再びガレージロック路線に回帰するのか、それとも・・・。今後の彼らの方向性に注目したくなる作品でした。

評価:★★★★

ARCTIC MONKEYS 過去の作品
Humbug
SUCK IT AND SEE
AM
Tranquility Base Hotel & Casin
Live at the Royal Albert Hall


ほかに聴いたアルバム

¡Ay!/Lucrecia Dalt

コロンビア出身で、現在はベルリンを拠点に活動している実験音楽家による新作。実験音楽といっても、彼女の出自であるラテンの音楽を取り入れつつ、ムーディーなメロディーラインを聴かせる作風。サイケデリックな要素や実験音楽的な要素も随所に感じるものの、一方ではムーディーな作風が意外と聴きやすさも感じられる作品に仕上がっていました。

評価:★★★★

blueblueblue/Sam Gendel

今年に入って早くも2枚目のアルバムとなるマルチ・インストゥルメンタル奏者、サム・ゲンデルのニューアルバム。昨年も複数枚のアルバムをリリースしており、そのワーカホリックぶりが目立ちますが、この最新アルバムは江戸時代に発展した日本の伝統的な刺しゅうである「刺し子」の模様にちなんだ作品となっており、曲名が、その模様の名称となっています。ただ、楽曲自体は「和風」というイメージはなく、ギターとサックスをベースにしつつ、ミニマルテイストのサウンドを静かに聴かせてくれます。サウンドにはフリーキーさを感じつつも、基本的には郷愁感を覚えるようなサウンドで、いい意味での聴きやすさも感じます。ただ、これまで聴いた彼のアルバムに比べると、新しいアイディア的な要素は薄めで、多作ゆえに全体的なクオリティーが若干下がってしまっているような感じも・・・。もうちょっと制作は絞ったような方がいいような・・・。

評価:★★★★

Sam Gendel 過去の作品
Satin Doll
AE-30
Superstore

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2022年11月28日 (月)

自由度の高いエレクトロの傑作

Title:Cherry
Musician:Daphni

Caribou名義でも活動しているカナダのエレクトロミュージシャン、Dan Snaith(ダン・スナイス)のソロプロジェクト、Daphni(ダフニ)のニューアルバム。Daphni名義のオリジナルアルバムとしては3枚目となるアルバムで、特に2017年にリリースされた前作「Joli Mai」は、各種メディアの年間ベストでも上位にランクインするなど、高い評価を受けるアルバムになりました。

・・・と言っても私自身、彼のアルバムを聴くのは今回がはじめて。どんなアルバムであるのか、よくわらかないまま今回アルバムを聴いてみたのですが、本作に関して、彼自身「このアルバムを統一したり、まとまらせたりするような明確なものは何もない。ただ作っただけなんだ」と語っているようで、実際にアルバム全体として特に統一感もあるわけではない、自由度の高いアルバムに仕上がっていました。

アルバム冒頭の「Arrow」はハウス系のリズミカルなミニマルナンバーになっていますし、続くタイトルチューンの「Cherry」は同じくミニマル系のナンバーなのですが、硬度のあるサウンドが繰り返されるテクノ系の楽曲に仕上がっています。かと思えば続く「Always There」はちょっとエキゾチックなサウンドが入ったメランコリックなナンバーで、1曲目2曲目とは明確に方向性が異なり、まさに自由度の高い作品ならではの展開となっています。

その後もスペーシーなエレクトロチューンの「Crimson」「Arp Blocks」に、ボーカルをサンプリングしてリズミカルに聴かせるミニマルテクノ「Mania」、疾走感あるサウンドにリズミカルなバンドサウンドが加わり、AOR的な様相も感じさせる「Take Two」、エレクトロサウンドにメロウさも感じさせる「Clavicle」に、同じくピアノとサンプリングされたボーカルでメロウさを感じさせる「Cloudy」と続いていきます。

かと思えば終盤はメタリックなビートで力強く聴かせる「Karplus」、ピアノの音色が入って力強いビート感の「Amber」と続き、続き、ラストはピアノを入れて軽快にリズミカルに聴かせる、タイトル通り、将来への希望を感じるような「Fly Away」と続きます。最後まで、前述の彼のインタビュー通り、自由度の高い作品に仕上がっていました。

ただ、統一感が本当にないかと言えば、アルバム全体で言えば、やはりミニマルなサウンドが一つの軸になっています。また、リズミカルな4つ打ちのビートは基本的に良い意味で変なひねりもなく、ポップで聴きやすい作風に仕上がっていた点もひとつの統一軸でしょう。さらにアルバム全体としてメロディアスなメロディーラインがしっかりと流れており、その点もポップで聴きやすいという印象を受けた大きな要素。全体的にいい意味でリスナーを選ばない、比較的広いリスナー層にお勧めできるアルバムになっていたと思います。

高い評価も納得の傑作アルバム。全14曲入り47分程度のアルバムの長さも最後まで楽しむにはちょうどよい長さですし、難しいこと抜きに、そのミニマルなサウンドを最初から最後まで楽しめる作品に仕上がっていました。

評価:★★★★★

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2022年11月27日 (日)

強烈なビートでインパクトの塊

Title:MATA
Musician:M.I.A.

Mata

イギリスを拠点に活動するタミル系スリランカ人の女性シンガーソングライターM.I.A.の最新作。前作「AIM」から実に6年ぶり、少々久しぶりのニューアルバムとなりました。ただ、前作「AIM」の時に「これがアルバムのフォーマットとして最後のリリースとなる」とアナウンスしていたのですが、結局、新作も無事、アルバムの形でのリリースとなりました。もっとも今回は、CDというフォーマットでのリリースはなく、配信オンリーのリリースだったようですが・・・。

さて、そんな久々となった今回のアルバムでしたが、今回もまた、ムーンバートンやバンガラといったジャンルの影響を取り込みつつ、強烈なトライバルなビートの連続に、とにかく胸湧き踊るような、そんなアルバムに仕上がっています。

オープニング的な「F.I.A.S.O.M.Pt1」に、続く「F.I.A.S.O.M.Pt2」は彼女の雄たけびからスタートする、まさにアルバムのスタートを飾るにふさわしいような作品に。さらに「100% Sustainable」は子供たちのコーラスラインと彼女のラップのみというフィールドレコーディングのような作品になっており、トライバルな要素がより強い作品となっています。

そして序盤の軸となっているのが先行シングルにもなっている「Beep」。彼女らしいトライバルな強いビートとハイテンポなラップが繰り出される強烈なリズムのナンバーが強いインパクトに。ただ、その2曲先、こちらも先行シングルとなっている「The One」は今時なトラップ的なサウンドを取り入れた曲になっており、ちょっと意外性も。もっともアルバムの中のひとつのピースとしてはしっかりとはまっている1曲にはなっています。

さらにここから先は同じような強烈なリズムのトライバルなエレクトロビートとラップを組みわせた彼女らしい作品が続きます。このアルバムに収録されているもう1枚の先行シングル「Popular」などはまさにそんなタイプのナンバーで、リズミカルでトライバルなエレクトロビートが印象的なナンバー。その後も終盤まで似たようなエレクトロビートが強烈なナンバーが続いていきます。

しかしラスト「Marigold」では雰囲気が一転。厳かな雰囲気もある合唱も加わったサウンドにメランコリックに歌い上げる楽曲に。強烈なビートが印象に残ったアルバムでしたが、最後の最後は彼女の歌が印象に残る楽曲で締めくくられていました。

そんな訳で、今回の作品もM.I.A.らしい強烈なトライバルビートが強く印象に残るインパクトの強い作品に・・・ある意味、インパクトの塊とも言うべきアルバムになっていました。正直なところ、全体的には目新しさもなく、少々強烈なビート一本やりな部分もなきにしもあらずな感も否めなかったのですが、ただ、そんな点を差し引いても最後まで耳の離せない、強烈なインパクトを与える傑作になっていたと思います。しかし本作は非常に残念なことに全くというほどヒットせず、全英チャートもビルボードも圏外だったとか・・・。売上面ではかなり残念な結果ではありましたが、しかしアルバムとして素晴らしいのは間違いないわけで、いままでのM.I.A.が気に入っていたのならば要チェックの1枚です。

評価:★★★★★

M.I.A. 過去の作品
KALA
MAYA
MATANGI
AIM

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2022年11月26日 (土)

なんと今年2枚目!

Title:Return of the Dream Canteen
Musician:Red Hot Chili Peppers

前作「Unlimited Love」リリース時からアナウンスはされてきましたが、前作からわずか半年。なんと今年2枚目となるレッチリのニューアルバムがリリースされました。既に大ベテランの彼らが、これだけ積極的にアルバムをリリースしてくる時点で驚きなのですが、今年は意外なことにバンド初となるスタジアムツアーを決行。さらに来年には単独公演としては約16年ぶりとなる日本公演も予定されており、その勢いはまだまだ止まりません。

そんな今年2作目となるニューアルバムは、前作に引き続き全17曲1時間15分というボリューミーな内容。さらに前作に引き続きリック・ルービンをプロデューサーとして利用。いかにもレッチリらしいアルバムに仕上がっています。さらに前作は比較的メランコリックな作風を前に押し出した作品になり、彼ららしいファンキーなサウンドがちょっと後ろに下がってしまった、という印象も受けるのですが、今回のアルバムは前作に比べて、グッと、レッチリらしいファンキーなサウンドが前に出てきたアルバムに仕上がっています。

アルバムの冒頭を飾る「Tippa My Tongue」からいきなり彼ららしいファンキーなリズムをグイっと前に押し出した作品になっていますし、「Reach Out」でもヘヴィーでファンキーなサウンドを聴かせてくれています。さらに「Fake as Fu@k」もミディアムテンポからスタートしつつ、サビでグッとファンキーなサウンドにテンポが変わる構成がなかなかユニーク。その後も「Afterlife」「Shoot Me a Smile」などファンキーなリズムで聴かせる作品も目立ちまし、「The Drummer」のような疾走感あるサウンドを聴かせつつ聴かせる反面、比較的ポップなメロディーラインの楽しめる曲などもあります。

ただ一方、今回のアルバムも前作同様、メランコリックに聴かせる抑え気味な作風の曲も目立ち、「Shoot Me a Smile」などもファンキーなリズムながらもメロはメランコリックですし、「Handful」のような力強いベースラインを聴かせつつ、哀愁感あるメロでしっかり聴かせるようなナンバーや終盤には「Carry Me Home」みたいな郷愁感たっぷりに聴かせる曲も並んでいたりします。

また今回のアルバムでひとつの目玉なのが、先行シングルにもなっていた「Eddie」で、こちらは2020年に亡くなったエディ・ヴァン・ヘーレンに捧げた曲。彼らのエディーに対する思いを感じるのようにメロディアスながらも非常に泣かせるようなメロディーラインが特徴的な楽曲に仕上がっており、アルバムの中のひとつの核となっています。

そんな感じで前作に比べるとレッチリらしいファンキーなリズムを前に押し出した楽曲がグッと増えた印象を受けるのですが、ただ前作同様、メランコリックなメロを前に出して、全体的に抑制気味な「大人なレッチリ」も感じさせるアルバムになっていました。ファンキーなリズムの楽曲を交えつつ、バラエティー富んだ作品だっただけに、前作ほどはダレることはなかったのですが、それでも全17曲1時間15分はちょっと長かったような感じも・・・。個人的にはやはり、あと3曲くらい絞ってくれた方がよかったようにも思います。

ただ、一方では前作同様、しっかりレッチリとしての実力は間違いなく感じさせるアルバムになっており、活動開始から40年近くが経過していながらこの現役感はさすが。まだまだこれからも脂ののった活動が続きそうな予感もさせてくれる、そんな1枚でした。

評価:★★★★★

Red Hot Chili Peppers 過去の作品
I'm With You
2012-13 LIVE EP
The Getaway
Unlimited Love

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