アルバムレビュー(邦楽)2021年

2021年12月27日 (月)

コンセプト異なる2枚同時作

ちょっと久しぶり、約3年半ぶりとなるスキマスイッチの新作は、コンセプトの異なる2枚のミニアルバムを同時リリースという意欲作となりました。

Title:Hot Milk
Musician:スキマスイッチ

まず「Hot Milk」。「タイアップ楽曲満載の“今、求められているもの”をテーマに、スキマスイッチのPOPサイドを収録した1枚」と位置付けられた1枚となっています。そしてもう1枚は・・・

Title:Bitter Coffee
Musician:スキマスイッチ

「Hot Milk」と対となる本作は「“今、メンバーが作りたいもの”をテーマにスキマスイッチの魅力であるシニカルな世界観や、今までにない挑戦的な楽曲を収録した1枚」。

そんな訳で対となる2枚のアルバムの同時リリースとなった本作。スキマスイッチというミュージシャンが持つ様々な音楽性を反映させたアルバムを目指した訳ですが、率直に言ってしまうと、どちらのアルバムも良くも悪くも非常にスキマスイッチらしいアルバムに仕上がっていました。

まず「Hot Milk」ですが、こちらは彼らの狙い通り、スキマスイッチの王道を行くような曲が並んでいます。まず1曲目の「OverDriver」ですが、最初にスタートするサビのメロディーからして、まさにスキマスイッチらしいメロににんまり。ギターの音やストリングスも入ってスケール感ある作品に仕上がっています。さらに彼ららしいのが「青春」。学生時代を描写するジュブナイル的な歌詞が彼ららしい作品で、切ないメロと歌詞も含めて、まさにスキマの王道を行くような作品に仕上がっています。さらに実に彼ららしいと言えるのが「スイッチ!」でしょう。爽やかでアップテンポなナンバーは、スキマスイッチが好きなら間違いなく一発で気に入りそうな楽曲になっています。

一方、「Bitter Coffee」の方ですが、確かに彼らが作りたいものに挑戦した、ような感じのする楽曲はありました。1曲目の「I-T-A-Z-U-R-A」にしても、彼らとしては珍しいベースラインを聴かせる楽曲で、よりファンキーな楽曲に。彼らにしては非常にヘヴィーなアレンジとなっている「G.A.M.E.」やシティポップ風の「フォークで恋して」など、彼らなりの挑戦も感じられました。

ただ正直なところ、こちらの作品にしても基本的にはスキマスイッチらしい楽曲が並ぶ内容になっていました。「いろは」「SINK」などはまさにスキマスイッチの王道を行くようなナンバーに。アルバム全体としても、「Hot Milk」に比べると、若干サウンドがヘヴィーで、歌よりも目立つ部分があるかな、という印象は受けるのですが、彼ららしい作品という印象を強く受ける内容になっていました。

結果としてはどちらのアルバムも良質な、安定感あるポップチューンが並んでおり、既にベテランの域に入りつつある彼らの実力を感じさせる作品になっていました。ただ一方、「Hot Milk」に関しては、いままで聴いたことあるような・・・という印象を受ける作品が多く、かつ昔の曲と比べると若干インパクトの欠ける印象に。「Bitter Coffee」に関しては、言うほど挑戦的な感じもせず、個人的にはもっと「こんな曲も出来るのか?」と思わせるような挑戦的な作品があった方がおもしろいのでは?と感じてしまうような内容になっていました。

またアルバムの中で一番良かったのがラストの「あけたら」で、こちらも既発表曲だったという点もちょっと残念だったかも。もちろん、アルバム全体としてはスキマスイッチの魅力をよく出せている良作だったと思います。ただ、良くも悪くも、ちょっとおとなしすぎたかな?

評価:どちらも★★★★

スキマスイッチ 過去の作品
ARENA TOUR'07 "W-ARENA"
ナユタとフカシギ
TOUR2010 "LAGRANGIAN POINT"
musium
DOUBLES BEST
TOUR 2012 "musium"

POP MAN'S WORLD~All Time Best 2003-2013~
スキマスイッチ TOUR 2012-2013"DOUBLES ALL JAPAN"
スキマスイッチ 10th Anniversary Arena Tour 2013“POPMAN'S WORLD"
スキマスイッチ 10th Anniversary“Symphonic Sound of SukimaSwitch"
スキマスイッチ
TOUR 2015 "SUKIMASWITCH" SPECIAL
POPMAN'S ANOTHER WORLD
スキマスイッチTOUR2016"POPMAN'S CARNIVAL"
re:Action
新空間アルゴリズム
スキマノハナタバ~Love Song Selection~
SUKIMASWITCH TOUR 2018"ALGOrhythm"
SUKIMASWITCH 15th Anniversary Special at YOKOHAMA ARENA ~Reversible~
スキマスイッチ TOUR 2019-2020 POPMAN'S CARNIVAL vol.2
スキマノハナタバ ~Smile Song Selection〜
スキマスイッチ TOUR 2020-2021 Smoothie


ほかに聴いたアルバム

セカンド/THE KEBABS

もともとthe pillowsの活動30周年記念映画「王様になれ」の中の架空バンドとして結成された、a flood of circleの佐々木亮介とUNISON SQUARE GARDENの田淵智也を中心とするバンド。よっぽど相性があったのか、映画の企画に留まらず継続的に活動を続け、2枚目となるアルバムリリースとなりました。前作同様、佐々木亮介のシャガレ声のボーカルをバックとしたガレージロックながらも、UNISON SQUARE GARDENに通じるようなキュートなメロが特徴的なアルバム。ただ、さすがに2枚目ともなると目新しさがなくなった感もあり、今回はさらにポップ寄りにシフトした結果、前作ほどのインパクトは欠けてしまったかな、といった感はあります。とはいえ、いいバンドには間違いないだけに、今後もコンスタントに活動を続けてほしいなぁ。

評価:★★★★

THE KEBABS 過去の作品
THE KEBABS

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2021年12月18日 (土)

彼女のスタイルを貫いたカバー

Title:うたの木 彼のすきな歌
Musician:渡辺美里

以前から「うたの木」シリーズとして続いている渡辺美里のカバーアルバム。今回の作品では「彼のすきな歌」と題して、女性ボーカルの彼女があえて男性ボーカルの歌を取り上げてカバーしています。ただ、この「異性ボーカルの曲をカバーする」というスタイル、正直企画として最近ありふれた企画になってしまっており、ご存じの通り、嚆矢になったのが徳永英明のカバーアルバム「VOCALIST」シリーズ。その後も似たような企画が次々と登場し、ここ最近ではエレカシ宮本浩次も女性ボーカルの曲をカバーしたアルバムをリリースし、ヒットを記録しました。

そういう意味では今回のこのカバーアルバム、企画の方向性自体は若干ありふれていて陳腐・・・とも言ってもいいかもしれません。ただし、そのセレクションはなかなかユニーク。スピッツの「チェリー」や斉藤和義の「歩いて帰ろう」のようなJ-POPのヒット曲から、彼女の盟友ともいえる大江千里の「Rain」に、布施明の「積木の部屋」のような歌謡曲。さらには水原弘の「黄昏のビギン」のような、昭和30年代のヒット曲まで、かなり幅広い作品が取り上げられています。

その中でも特にユニークなのは「冷たいアイスティー」。こちら宮本浩次の楽曲のカバーなのですが、前述のエレカシのボーカル、宮本浩次(ひろじ)ではなく、1996年にシングル「タイトでキュートなヒップがシュールなジョークとムードでテレフォンナンバー」でデビューしたシンガーソングライターの宮本浩次(こうじ)の方。「タイトで~」は若干話題になったので、ひょっとして知っている方もいるかもしれませんが、正直、知る人ぞ知る的なミュージシャン。ただ渡辺美里に楽曲提供を行っている縁もあり、美里ファンなら知っている人も少なくないかもしれません。そんな彼の、まさに知る人ぞ知る的な名曲をあえて取り上げるあたり、非常にユニークさと、ある種の彼女の「義理堅さ」も感じます。

また個人的にはソウルフラワーユニオンの「満月の夕」のカバーもうれしいところ。SFUの奥野真哉が最近、渡辺美里のライブのバンドリーダーを務めている縁もあるのでしょう。基本的に原曲に忠実なカバーなのですが、彼女の力強く包容力ある歌声も曲にマッチしており、とても良いカバーに仕上がっていました。

ただ一方、アルバム全体としては率直なところ、彼女のボーカルが合っていたカバーと若干合わなかったカバーにわかれていたように感じます。彼女のボーカルスタイルは、彼女のこれでもかといったボリュームあるボーカルで歌い上げるスタイル。あえていえば、彼女の色で楽曲を分厚く塗りたくるようなスタイルになっており、良く言えば迫力あるボーカルが耳に残り、悪く言えば、ちょっと平坦な印象も受けてしまうカバーが少なくありません。

その結果、特に歌謡曲系の曲は彼女のボーカルスタイルが合っていたように感じます。特に「積木の部屋」は、原曲の布施明も同じようなパワーあふれる歌声を聴かせるボーカルスタイルなだけに、渡辺美里との相性が抜群。同じく歌謡曲系の堺正章「街の灯り」なども彼女のボーカルとマッチしており、非常に良くできたカバーに仕上がっていたように思います。

また印象に残るのは大江千里の「Rain」のカバー。ご存じの通り、大江千里といえば数多くの楽曲を渡辺美里に提供してきたミュージシャンなだけに、美里ファンにとってはおなじみのミュージシャン。彼女が歌うと完全に渡辺美里の曲になってしまっており、全く違和感のないカバーに仕上がっていました。

逆に今一つだったのが、スピッツの「チェリー」や斉藤和義の「歩いて帰ろう」のカバー。元のミュージシャン自体があまり歌い上げるタイプではなく、自然体で歌うスタイルのボーカリストなだけに、彼女があまりにパワフルに歌い上げると、かなり違和感を覚えてしまいます。特にスピッツの場合、その淡々とした自然体のスタイルがシンプルな曲にマッチしているだけに、彼女のボーカルスタイルを当てはめると、かなり違和感を覚えてしまいました。

良くも悪くもボーカルスタイルを確立したミュージシャンなだけに、どの曲も同じような歌い方になってしまっていたのが若干残念な感じもしますし、結果、曲によって良し悪しのわかればカバーになったように感じます。ただ、選曲自体は非常に素晴らしいものでしたし、もちろん声量や音程などは全く問題ないのは言うまでもありません。そういう意味で安心して聴けるカバーアルバムだったのは間違いないと思います。収録曲に興味のある方や美里のファンなら文句なしに聴いて損のない1枚。次は、この選曲スタイルで女性ボーカリストのカバーも聴きたいかも。

評価:★★★★

渡辺美里 過去の作品
Dear My Songs
Song is Beautiful
Serendipity
My Favorite Songs~うたの木シネマ~
美里うたGolden BEST
Live Love Life 2013 at 日比谷野音~美里祭り 春のハッピーアワー~

オーディナリー・ライフ
eyes-30th Anniversary Edition-
Lovin'you -30th Anniversary Edition-
ribbon-30th Anniversary Edition-
ID
harvest
tokyo-30th Anniversary Edition-


ほかに聴いたアルバム

KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2020 "202020" 幻のセットリストで2日間開催!~万事休すも起死回生~ Live at 中野サンプラザホール 2021.4.28/斉藤和義

恒例となる斉藤和義のライブアルバム。今回は、今年4月に中野サンプラザで行われた、無観客での配信ライブの模様を収録したライブ盤。無観客ライブということもあって、印象としては元となるCD音源に近い演奏だったように感じました。ただ、このライブツアーの元となったアルバム「202020」が傑作だっただけあって、ライブ盤も名曲揃いで最初から最後まで楽しめる内容に。次のライブ盤は、ちゃんと客を入れた状態で、とも思ってしまうのですが。

評価:★★★★★

斉藤和義 過去の作品
I (LOVE) ME
歌うたい15 SINGLES BEST 1993~2007
Collection "B" 1993~2007
月が昇れば
斉藤“弾き語り”和義 ライブツアー2009≫2010 十二月 in 大阪城ホール ~月が昇れば 弾き語る~
ARE YOU READY?
45 STONES
ONE NIGHT ACOUSTIC RECORDING SESSION at NHK CR-509 Studio
斉藤
和義

Kazuyoshi Saito 20th Anniversary Live 1993-2013 “20<21" ~これからもヨロチクビ~ at 神戸ワールド記念ホール2013.8.25
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2014"RUMBLE HORSES"Live at ZEPP TOKYO 2014.12.12
風の果てまで
KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016“風の果てまで” Live at 日本武道館 2016.5.22
斉藤和義 弾き語りツアー2017 雨に歌えば Live at 中野サンプラザ 2017.06.21
Toys Blood Music
歌うたい25 SINGLES BEST 2008~2017
Kazuyoshi Saito LIVE TOUR 2018 Toys Blood Music Live at 山梨コラニー文化ホール2018.06.02
KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26 〜これからもヨロチクビーチク〜 Live at 日本武道館 2018.09.07
小さな夜~映画「アイネクライネナハトムジーク」オリジナルサウンドトラック~
弾き語りツアー2019 "Time in the Garage" Live at 中野サンプラザ 2019.06.13
202020
55 STONES

MONDO GROSSO OFFICIAL BEST/MONDO GROSSO

非常にそっけないタイトルなのですが・・・DJやプロデューサーとしても活躍する大沢伸一のソロプロジェクト、MONDO GROSSOのベスト盤。いわゆるクラブ系ミュージックで、R&B、ソウルなどの要素を取り入れつつ、全体的にはラテン色も強い内容。かなり豪華なゲスト陣がボーカルを務めるのも特徴的なのですが、全体的には女性ボーカルによるメロウな作風が特徴。良質なポップスという印象を受けるのですが、全体として良くも悪くも卒がないという印象を受ける内容でした。

評価:★★★★

MONDO GROSSO 過去の作品
何度でも新しく生まれる
Attune/Detune

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2021年12月13日 (月)

メランコリックなメロが良くも悪くも

Title:INNOCENCE
Musician:ACIDMAN

ACIDMANの約4年ぶりとなるニューアルバム。少々久しぶりのアルバムとなった本作ですが、まずACIDMANらしさが前面に出ている作品に仕上がっていたと思います。

まずなんといっても印象的なのはオープニングでしょう。心臓の鼓動のようなリズムからスタートし、ピアノの美しい音色が重なり、最後はノイズギターも入りダイナミックに盛り上がる展開。若干ベタといえばベタなのですが、聴いていて気分はかなり盛り上がること間違いありません。そこから事実上の1曲目「Visitor」はそのままダイナミックに盛り上がる・・・かと思いきや、ACIDMANらしい、アシッドジャズ的な要素も取り入れた、ちょっとクールダウンするような楽曲に。ただ、サビの部分は狂おしいほどメランコリックなメロディーラインを聴かせてくれています。まず、実にACIDMANらしい曲を聴かせる序盤戦といった感じでしょうか。

続く「歪んだ光」も、これでもかというほど叙情的に展開される非常に悲しげな歌詞とメロディーが印象的なナンバー。こちらは一転、ダイナミックでヘヴィーなバンドサウンドを聴かせる楽曲になっています。さらにアルバムのハイライトともいうべきなのがアルバムの中盤に位置する「灰色の街」。彼ら初となるシングルでのベスト10ヒットを記録したこの曲は、ストリングスも入りつつ叙情的に歌い上げる曲調が印象的な楽曲。ダイナミックなサウンドを聴かせるというよりもポップな歌を聴かせる点がいかにもシングル向けっぽいのですが、メランコリックな彼らのメロディーラインを魅力的に聴くことが出来る楽曲になっています。

胸をかきむしられるようなメランコリックなメロディーラインにダイナミックなバンドサウンドというACIDMANらしさが前面に押し出された作品。さらに本作ではそんな中でも「灰色の街」のような、シングル曲らしいインパクトある作品も加わっており、よりバラエティーがあり、多くのリスナーが楽しめる構成になっていたと思います。前半に関しては文句なしの傑作アルバムに仕上がっていたと思います。

ただインスト曲を挟んで後半になると、正直、少々過度にメランコリックなメロディーラインがアルバム全体から受ける印象を平坦なものにしてしまっているような感がありました。後半も、ファンキーなサウンドの「ALE」やシンプルで爽やかなギターを聴かせる「素晴らしき世界」、さらにホーンセッションを取り入れた「...ファンファーレ」と前半以上にバリエーションは豊富。ただ、ちょっとベタで過剰気味といえるメロディーラインもあって、最後まで聴くと、似たような作品が多い、という印象を受けてしまい、若干ダレてきてしまう点が否めませんでした。

彼らの大きな特徴であり魅力でもあるメランコリックなメロディーラインや少々過剰ともいえるサウンドが、前半では大きな魅力に感じられた反面、後半では弱点になっていたように感じた1枚。ただそれだけ、ACIDMANらしいメロやサウンドを前面に押し出した作品だった、ともいえるのかもしれません。まさにACIDMANらしいと言える1枚でした。

評価:★★★★

ACIDMAN 過去の作品
LIFE
A beautiful greed
ALMA
Second line&Acoustic collection
ACIDMAN THE BEST 2002-2012
新世界
有と無
Second line&Acoustic collection II
ACIDMAN 20th Anniversary Fans'Best Selection Album "Your Song"
Λ


ほかに聴いたアルバム

DIARY KEY/Base Ball Bear

前作「C3」以来、約1年9ヶ月ぶりとなるフルアルバム。前作同様、サウンド的にも歌詞的にも聴いて一発でBase Ball Bearとわかるようなサウンドが特徴的の、王道ともいえるギターロック。そのため、目新しさはほとんどありませんが、ジュブナイル的な歌詞と、ある意味、変なひねりなどがほとんどなく気持ちよく聴けるギターロックは大きな魅力になっている作品でした。

評価:★★★★

Base Ball Bear 過去の作品
十七歳
完全版「バンドBについて」
(WHAT IS THE)LOVE&POP?
1235
CYPRESS GIRLS
DETECTIVE BOYS

新呼吸
初恋
バンドBのベスト
THE CUT
二十九歳
C2
増補改訂完全版「バンドBのベスト」
光源
ポラリス
Grape
C3

八面六臂/SKY-HI

ラッパーとしても活躍しているダンスグループAAAのメンバーでもあるSKY-HIこと日高光啓のソロアルバム。基本的にHIP HOP的な要素は多く取り入れているものの、本作はメランコリックなメロディーラインが特徴的な歌モノがメイン。悪い意味でのアイドルポップ的に陥ることなく、HIP HOPの要素を上手く取り入れつつ、「今どき」のポップソングに上手くまとめあげている印象。よく出来た今どきのポップアルバムといった印象を受けた1枚でした。

評価:★★★★

SKY-HI 過去の作品
FREE TOKYO
JAPRISON
Say Hello to My Minions 2(SKY-HI×SALU)
SKY-HI's THE BEST

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2021年12月 6日 (月)

リスタート

Title:宜候
Musician:槇原敬之

先日、槇原敬之のアーティスト本である「歌の履歴書」を紹介しましたが、今回はその書籍と同時にリリースされたフルアルバム。ご存じのように昨年2月、覚せい剤所持により2度目の逮捕となった彼。最初の逮捕の時ほどではないものの、1度目の逮捕から20年以上が経過していただけに、当然、薬とは完全に手が切れたものだと思っていたファンにとっても大きなショックを受ける事態となりました。ただその後、リリース予定だったアルバム「Bespoke」が販売延期になったものの、CDの回収などはされず。それから約1年8ヶ月というスパンで早くもニューアルバムのリリースとなりました。

今回のアルバムに関しては、そんな復帰第1弾ということを強く意識した作品になっているのでしょう、彼としても「リスタート」という要素がアルバム全体に垣間見れる作品になっていました。イントロ的な1曲目「introduction~東京の蕾~」も大阪から東京に出てきた、彼のミュージシャンとしての原点を思い起こさせるような歌詞が特徴的。同じく続く「ハロー!トウキョウ」も、彼の上京間もない時代を彷彿とさせる歌詞が特徴的で、そんな同じく東京での日々を描いた1994年の作品「東京DAYS」のフレーズが登場してくることからも、原点回帰を意図した作品であるのは間違いないでしょう。

そもそもアルバムタイトルである「宜候」は、航海用語で「船を直進させること」を意味する用語だそうで、このタイトル自体、彼の新たな一歩を彷彿とさせますし、ラストを飾るそのタイトルチューン「宜候」では

「さよなら さよなら
今度こそさよならだ」
(「宜候」より 作詞 槇原敬之)

と、いままでとの決別を意図するような歌詞が印象的。この作品から新たな一歩を踏み出そうとする彼の決意を感じさせます。

そんなリスタートのアルバムということもあって、アルバム全体としては比較的、彼の王道を行くようなポップチューンが並んでいました。特に冒頭の東京2作に続く「悶絶」は、イントロからしていかにも彼らしいフレーズからスタートするのですが、槇原敬之としてはうれしくなるような王道のマッキーのラブソング。「特別な夜」のような、昔の仲間とのノスタルジーな感情を含んだ歌詞を聴かせる曲も、彼らしい作品と言えるでしょう。ただ一方、この曲でも仲間の一人が亡くなっていたり、「悲しみは悲しみのままで」も、亡くなった友人に対しての歌だったり、身近な友人に何かあったのかな?と思わせると同時に、彼ももう50歳を過ぎて、こういう悲しい出来事の1つや2つはあったんだろうなぁ・・・ということも感じてしまいました。

そんな中でちょっと説教臭く感じたのは「虹色の未来」。ただ、さすがに典型的な即物的快楽であるクスリで捕まった直後に「即物的ではない大切なもの」を訴えるような歌詞は書けなかったようで、多様的な価値観の重要性を歌った内容になっています。個人的に、以前の説教臭い曲はあまり好きではなかったのですが、これに関しては「アリ」。「虹色」というキーワード自体、最近話題のLGBTQを象徴するキーワードなのが印象的。「歌の履歴書」の中では、このLGBTQ運動からは一歩距離を置いているようなことを言っていたのですが、それはそれとして、やはり彼なりに思うところは大きいのでしょうか。

王道的な曲が並んだ結果、目新しさを感じる曲はありません。あえて言えば「わさび」の歌詞に、外部作家を取り入れた点でしょうか。ただ、祖母に対するメッセージを綴った曲は、槇原敬之らしさも感じられる曲になっており、王道的な今回のアルバムの中でも自然に溶け込んでいました。

正直なところ、歌詞にしてもメロディーにしても、全体的に卒がないといった印象は否めず、飛びぬけたようなインパクトのある楽曲というのは残念ながら本作では出会えませんでした。ただ一方で、しっかりと槇原敬之の実力を反映させた歌詞、メロディーを聴かせてくれており、安心して聴ける作品という点は間違いないと思います。あえて彼らしい王道を行くような作品にしてきたのは、やはり原点回帰、リスタートという意味合いも強いのでしょう。以前の「歌の履歴書」の感想でも書きましたし、今回の「宜候」の「今度こそさよならだ」というフレーズも、若干、逮捕の原因を自分の外部環境のせいにしているようにも読み取れて、また再犯してしまうのではないか、という一抹の不安がなきにしもあらずなのですが、とりあえずは今は、彼の復活をファンとしては素直に喜びたいところ。もう2度と同じ犯罪を犯さないように、切に祈るばかりです。本当に、勘弁してよ・・・。

評価:★★★★★

槇原敬之 過去の作品
悲しみなんて何の役に立たないと思っていた
Personal Soundtracks
Best LOVE
Best LIFE

不安の中に手を突っ込んで
NORIYUKI MAKIHARA SYMPHONY ORCHESTRA CONCERT CELEBRATION 2010~SING OUT GLEEFULLY!~
Heart to Heart
秋うた、冬うた。
Dawn Over the Clover Field

春うた、夏うた。
Listen To The Music 3
Lovable People
Believer
Design&Reason
The Best of Listen To The Music


ほかに聴いたアルバム

NO MOON/D.A.N.

オリジナルアルバムとしては約3年3か月ぶり。久々となるD.A.N.のニューアルバム。一時期、彼らのようなソウルやアシッドジャズの要素を取り込んだロックバンドが一種のブーム的に盛り上がりましたが、Suchmosの活動休止などもあって、かなり沈静化した感もあります。そんな中リリースされた彼らのニューアルバムは、そんな昨今の状況など全く知らぬ存ぜぬといった感もある、彼らの色合いを思いっきり押し出した作品に。ダウナーな感のあるエレクトロサウンドに、ファルセットボーカルを聴かせる作風なのですが、そのボーカルもサウンドのひとつといった構成になっており、エレクトロやテクノ、さらにはプログレの様相すら感じさせるかなり挑戦的な作品に。非常にユニークな作風に、聴いていて耳の離せなくなる1枚でした。

評価:★★★★★

D.A.N. 過去の作品
Tempest
Sonatine

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2021年12月 5日 (日)

戦時下でも明るいジャズソングを

Title:世紀の楽団 唄う映画スタア 岸井明
Musician:岸井明

今回紹介するのは、当サイトでもたびたび取り上げている、戦前日本のSP盤の復刻専用レーベル「ぐらもくらぶ」プロデュースによる、戦前日本のエンターテイメント紹介企画「ザッツ・ニッポン・エンタテインメント」シリーズの第5弾。今回は、戦前において古川ロッパと組んで、数多くの喜劇や映画にも出演した、タイトル通りの「映画スタア」、岸井明のアルバム。戦後の紅白歌合戦にも一度出場経験があるなど、まさに歌手としても一世を風靡した彼。本作は、そんな岸井明の業績を網羅的に取り上げたアルバムとなります。

ちなみに彼の曲に関しては、以前もアルバムを1枚、当サイトで紹介しているほか、「戦前SP盤」のオムニバスアルバムではよく登場する、個人的にも「おなじみ」なミュージシャン。いままでも彼のコミカルな曲を何度か紹介してきましたが、このアルバムであらためて彼の楽曲を網羅的に聴くことが出来ました。

今回のアルバムでは全2枚組で、彼が本格的に活動を開始した1935年の作品から、戦時中を挟み、戦後1951年の作品まで、時系列順に彼の作品が並んでいます。特にDisc1は1935年から1937年(昭和10年~12年)という、既に戦争は始まっていたものの、おそらく本土では、まだ戦争の影響が本格化する前の時代。洋楽のジャズのカバー曲も多く、「懐しの我が家」のようなアメリカのトラッドソングにも挑戦しているなど、ジャズのテイストがより強い曲が並んでいます。取り上げている題材も明るく陽気。「僕の彼女」「ほんとに困りもの」のような、恋人同士の軽妙なやり取りを描いている曲も多く、世の中全体が自由奔放で明るかったんだろうな、ということを感じさせてくれます。

一方、その雰囲気が変わるのがDisc2で、徐々に戦争の足跡が忍び寄り、曲も時局を反映した作品が目立ちはじめます。「野球選手の兵隊さん」「進軍スヰング」みたいに露骨に戦争が組み込まれているネタや「姑娘可愛いや」のような、当時の日中関係を反映させたような曲、「代用品時代」のような戦時下での庶民の生活を、ある意味シニカルな視点から描いたような曲だったりと、戦時下という時代性を反映した曲が目立ちます。

ただそれでも、そんな曲を含めて、全体的にはコミカルで明るいという路線を貫いており、戦時下の暗い世相の中でも、懸命に音楽の明るさで人々を楽しませようとしたその姿を感じられます。また、そんな戦時下の曲でも「理想の夫婦」みたいな、趣味が全く異なる夫婦の話をコミカルに描いた曲なんかもあったりして(って、これってドリカムが似たようなネタの曲を書いていたような)、戦時下を感じさせない明るい作風の曲も目立ちます。

庶民の、というよりも、その当時の都市部のちょっとモダンな人たちの暮らしを描いた歌詞は、なにげに今の私たちの心境にも共通するところもあったりして、洒落たジャズ風の曲調も合わせて、今の私たちでも十分楽しむことが出来るノベルティーソングが並んでいます。全2枚組のアルバムでしたが、最後までコミカルな作風を一気に楽しむことが出来る作品。戦前の日本の世相を覗き見ることもできる、そんなアルバムでした。

評価:★★★★★

岸井明 過去の作品
唄の世の中~岸井明ジャズ・ソングス


ほかに聴いたアルバム

キャンディーレーサー/きゃりーぱみゅぱみゅ

約3年ぶりとなるきゃりーぱみゅぱみゅのニューアルバム。早くもデビュー10周年を迎えた彼女ですが、正直なところ、一時期に比べて人気の面では若干下火になっているのは否めませんし、楽曲についても以前のように話題にならなくなりました。ただ今回のアルバム、特に序盤がすごい!「DE.BA.YA.SHI.2021」「キャンディーレーサー」ともに強いエレクトロビートでテクノ色を前面に押し出した楽曲に。さらに「どどんぱ」はリズムをそのまま歌詞にしたユニークな曲なのですが、強烈なビートに強く惹かれる名曲に仕上がっており、以前ほど楽曲が注目を集めなくなったがゆえに、楽曲の自由度がグッと上がった印象を受ける作品になっていました。

・・・が、残念ながらそれだけのインパクトの強い曲はここまで。それ以降は、以前のようにキュートなエレクトロポップが並ぶのですが、ただ、インパクトはいまひとつ。悪くはないのですが、序盤に比べると失速感が否めません。どうせなら、序盤3曲のようなタイプの曲で吹っ切れたら、非常におもしろい傑作アルバムになったと思うんですが、さすがにそこまで吹っ切れることは出来なかったということでしょうか。非常に惜しさを感じさせるアルバムでした。

評価:★★★★

きゃりーぱみゅぱみゅ 過去の作品
なんだこれくしょん
ピカピカふぁんたじん
KPP BEST
じゃぱみゅ

ベルカント号のSONGBOOKⅢ/ムジカ・ピッコリーノ

以前もこちらで紹介したEテレの子供向け音楽番組「ムジカ・ピッコリーノ」。ジャンルを問わない数多くの音楽を取り上げ、番組の中のバンド「ハッチェル楽団」がカバーしており、そのカバー曲をまとめたアルバムの第3弾。SMAPの「ダイナマイト」にダフトパンク「Around The World」、くるりの「ばらの花」や民謡「会津磐梯山」まで、実にバラエティー富んだジャンルの広い楽曲を取り上げており、音楽の楽しさを伝えてくれています。ラストに番組中で使われたモンストロの鳴き声が収録されており、これはちょっと微妙といえば微妙だけど、純粋に「番組のファン」としては、やはりうれしいのかなぁ。前作同様、収録曲は音楽ファンとして抑えておきたい作品ばかりなので、子供向け番組のサントラ、という枠にとらわれず、広い層にお勧めできる作品です。

評価:★★★★★

ムジカ・ピッコリーノ 過去の作品
ベルカント号のSONGBOOKⅠ
ベルカント号のSONGBOOKⅡ

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2021年11月26日 (金)

「普通」でない今だからこそ

Title:WE GO
Musician:TOMOVSKY

新型コロナが流行りだし、世の中が大きく変貌してから、既に1年半以上が経過しようとしています。その中で、コロナ禍の前の「普通」は大きく変化してしまいました。友人とみんなで集まるのも難しくなり、満員のライブ会場というのもなくなりました。そんな「普通」が「普通」でなくなった中でも人々は営みをつづけ、なんとかやりくりしつつ、今を過ごしています。

ただ、もともとそんな世の中の「常識」に対して斜めから観察し、ユニークでシニカルな視点を描いていたTOMOVSKYにとっては、むしろこの「普通」ではない現在を描くことは、お手の物といった感じではないでしょうか。前作「LIFE RECORDERS」はコロナ禍から半年あまりでのリリースということもあり、あまりコロナ禍が反映された内容ではありませんでした。そして、その前作からわずか1年というスパンでリリースされた本作は、まさにコロナ禍を存分に発揮させた内容。コロナ禍を曲に読み込んだミュージシャンは少なくありませんが、これほどユニークな視点で、なおかつ冴えわたった歌詞を書きまくっているアルバムは本作くらいではないでしょうか。

まず非常にユニークなのはタイトルチューンの「WE GO」

「前みたいな日々に
前みたいなカンジに
戻りたいなんて
思ってないんだよ」
(「WE GO」より 作詞 大木知之)

個人的にはコロナウイルスごときで、前の日常が崩されてたまるか、と思っているだけに、この歌詞には最初、疑問も感じました。ただ、聴きすすめていくと

「せっかく休んだんだからさ
全然ちがう事しなきゃだよ」

と、いわゆるコロナ禍の中で言われる「ニューノーマル」とも異なる、これはこれで新たな一歩を進もうという非常に前向きな内容。最後まで聴けば、思わず「なるほど」と思わされる、TOMOVSKYらしい歌詞になっていました。

もともとTOMOVSKY自体、「現場は部屋。作業は単独。外に出るのは誰もいない真夜中早朝。アルコールは部屋飲みか散歩飲み。何十年もソーシャルディスタンスな生活を送ってきた男。」(コメントより)だったそうで、このコロナ禍も自然に受け止めたらしく、「世界が止まっているあいだ」もまさに「世界が止まっているあいだは/世界が近くなった気がした」と、この状況の中での心境を素直に吐露していますし、「いちいちコロナのせいにしない」と歌う「コロナ関係なし」「一番怖いのは生きてる人間」と身も蓋もない歌詞を披露する「いちばん怖いのは」などなど、今までのTOMOVSKYの中でも、もっとも素直な感情をそのままストレートに歌った歌詞が目立ちました。

ただ、そんな中でちょっとほろりとさせてくれるのが最後から2曲目の「無事で」という曲。「何をしてでも/何て言われても/キミは生きててね」とコロナ禍の中で苦しい状況の世相も反映したような、メッセージソング。「生活保護とか/遠慮せず/もぎ取ってるといい」と彼にしては珍しく、社会性ある歌詞まで登場するなど、今だからこそ伝えられる非常に強い、彼らしいメッセージと言えるでしょう。

さらにユニークなのはここでガラッと雰囲気が変わり、ラストの「52」では「52歳」と「ご自由に」を書けたユニークなメッセージ。52歳まで生きれれば自由に生きれるんだよ!と実体験を踏まえたのか、その前の「無事で」からつながる、ユニークながらも前向きでメッセージ性の強い曲になっていました。

楽曲の方は、いつもながらの宅録スタイル。ピアノを中心とした比較的シンプルなアレンジの曲が並びます。「オトナになりたい」ではThe Beatlesの「Hello Goodbye」を楽曲に組み込むというユニークな試みも。とにかく最初から最後までTOMOVSKYだからこその歌える、コロナ禍を彼なりの視点で描写した1枚。最初はコロナの中でのソーシャルディスタンスな現状を肯定しているかのような歌詞に若干違和感を覚えたのですが、最後はみんなが明るく笑顔になれる、そんなTOMOVSKY流コロナ禍の過ごし方を歌った傑作でした。

評価:★★★★★

TOMOVSKY 過去の作品
幻想
秒針
いい星じゃんか!
終わらない映画
BEST3
SHAAA!!!
FUJIMI
SHINJUKU TIME 2018-1
SHINJUKU TIME 2018-2
LIFE RECORDER

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2021年11月19日 (金)

秦基博の魅力を感じる

Title:BEST OF GREEN MIND 2021
Musician:秦基博

3月に弾き語りベストアルバム「evergreen2」をリリースした秦基博。本作はそれに続く弾き語りTOUR「GREEN MIND 2021」の中からベストアクトをセレクトしたライブベストアルバム。2010年には「BEST OF GREEN MIND '09」がリリースされていますので、それに続く・・・と言いたいのですが、「'09」は純粋な録音音源に対して本作はライブ音源という違いがあります。

これは、以前にリリースされたベスト盤でのレビューでも書いたのですが、秦基博というミュージシャンは良くも悪くも非常にシンプルなポップミュージシャンというのが大きな特徴です。サウンド的に決して目新しいことや斬新なことをするようなミュージシャンではありませんし、じゃあメロディーラインに関して、特段大きな特徴があるのか、と問われると、圧倒的な美メロといった感じでも、ユニークな凝ったメロを書くミュージシャンという訳でもありません。

この、ただただシンプルなポップスを愚直に書き続けるというのが秦基博の大きな特徴なのですが、それゆえにアルバム単位ではインパクトが薄くなってしまうという転も気になる点でした。しかし、ベスト盤で彼の代表曲をまとめて聴くと、確かに優れたポップミュージシャンだな、と感じます。

なによりも彼の魅力が最も現れているように弾き語りアルバム。シンプルなポップソングを書く彼だからこそ、変に分厚いバンドサウンドよりも、シンプルな弾き語りの方がマッチしています。ただ、このライブアルバムの前提となる弾き語りベスト「evergreen2」はメロディーラインのインパクトも薄く、最後は若干ダレてしまうアルバムになっていました。

それだけに今回のライブアルバムについてもちょっと心配はしていたのですが、聴き始めるとそんな不安は完全に払しょくされました。オープニングを挟み冒頭の「僕らをつなぐもの」「Sally」がまずは非常に素晴らしい楽曲が並びます。シンプルなアコギで聴かせる曲なのですが、胸がキュンと来るような切ないメロディーラインが大きな特徴となっており、あらためて彼の魅力を感じることが出来ます。

その後も「やわらかな午後に遅い朝食を」「恋の奴隷」など、アコギ1本でしんみりと聴かせます。ドラムや打ち込みのリズムが入ったり、エレキギターで聴かせる曲もあるのですが、やはり全体的にはアコースティックギターでしんみりと聴かせる作品が魅力的。アコギのみだからこそ感じられる会場のスケールや、あるいはライブ会場の緊迫も、楽曲のちょうどよいアクセントになっていたように感じました。

こうやって曲を並べると、確かに比較的昔の曲の方が魅力的・・・という部分もあるのですが、「告白」「さよならくちびる」など比較的最近の曲でも魅力的な曲はありますのでご安心を。秦基博のメロディーメイカーとしての実力が、決して衰えたわけではないということを感じさせてくれる部分でもありました。

「evergreen2」はさほどはまれなかったのに、このライブ盤がこれだけ魅力的だった、というのはちょっと不思議でもあるのですが、昔の曲も収録されていた点と、やはりライブならではの緊迫感がいい影響を与えた点も大きかったように感じます。あらためてポップミュージシャン秦基博の実力を感じさせてくれるアルバムでした。

評価:★★★★★

秦基博 過去の作品
コントラスト
ALRIGHT
BEST OF GREEN MIND '09
Documentary
Signed POP
ひとみみぼれ
evergreen
青の光景
All Time Best ハタモトヒロ
コペルニクス
evergreen2

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2021年11月13日 (土)

「ジャンルレス」なアルバム

Title:ハレンチ
Musician:ちゃんみな

途中、EPのリリースもあったものの、オリジナルのフルアルバムとしては約2年ぶりとなるフィメールラッパー、ちゃんみなのニューアルバム。ラッパーとして活躍する反面、以前から活動のテーマとして「ジャンルレス」を標ぼうしている彼女。もちろん、その「ジャンルレス」は音楽のことに留まらず、性別や国籍という面でも言及しているのですが、ただ今回のアルバムに関しては、特に音楽性に関して彼女らしい「ジャンルレス」な展開になっていました。

1曲目「太陽」から、トラップ風のリズムながら切ないメロを聴かせる歌モノになっていますし、続く「Angel」もトライバルなリズムを聴かせる歌モノポップス。3曲目「君からの贈り物」もファンキーなリズムが印象的なポップチューンと、アルバム前半に関してはHIP HOP色が薄いポップな歌モノが並びます。

中盤以降はトラップ風のリズムにキュートな歌声を聴かせる「ホワイトキック」からスタートし、ハードコア風の「ピリオド」「Picky」など一転、HIP HOPなナンバーが並びます。一方内省的で、かつドリーミーな歌詞が印象的な「想像力」ではHIP HOPよりもむしろポエトリーリーディング的な楽曲。自らをみつめる歌詞も非常に心に残ります。

このようにHIP HOPに留まらない音楽性が特徴的だった本作。この音楽的なジャンルレスな点はちゃんみならしさと言えるでしょうし、大きな魅力にもなっていました。ただ一方で、それ以外の、特に歌詞の部分でジャンルレスを強調していたかというと、そこまで特徴的な印象は抱きませんでした。歌詞については特に前半は、切ないラブソングがメイン。正直言うと、結構「王道的」といった印象も受けました。

ただこの点も中盤以降に、より彼女らしさを発揮してきたのではないでしょうか。前述の通り内省的な歌詞が印象的な「想像力」に、さらに終盤の核となるのが「美人」でしょう。タイトル通り、女性にとっての「美」に焦点をあてて、彼女の主張をヘヴィーにつづるハードなHIP HOPチューン。かなり強烈なメッセージを帯びた作品になっており、アルバムの中でも大きな核となっています。

もっとも彼女、ジャンルレスといっても、この「美人」の歌詞もそうですが、しっかりと女性性という点を主軸に置いている印象も受けます。前半の切なさを感じるラブソングもそうなのですが、いわゆるジェンダーフリー的な部分を目指すのではなく、女性であるという点をしっかりと主軸に据えた上で、しっかりとした主張を繰り広げている感があります。決して女性であるということを捨てることなく、フィメールラッパーとしての主張をしっかりと伝える、それが彼女の大きな魅力なのでしょう。

もっとも反面、音楽性のジャンルレスはアルバム全体として焦点がぼやけてしまった印象もぬぐえません。実際、いままでの彼女の作品もそうなのですが、楽曲としてフックの弱さも感じてしまいます。そこらへん、難しい部分ではあるとは思うのですが・・・今後の彼女のさらなる成長も期待したいところなのです。

評価:★★★★

ちゃんみな 過去の作品
CHOCOLATE
Never Grow Up
note-book -Me.-
note-book -u.-

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2021年11月 9日 (火)

ソロとして複雑な気持ちに・・・

Title:縦横無尽
Musician:宮本浩次

昨年、初となるソロアルバム「宮本、独歩。」をリリース。さらにカバーアルバム「ROMANCE」もリリースするなど、ソロとして好調な活躍を見せるエレファントカシマシのボーカリスト、宮本浩次。この勢いにのり、オリジナルアルバムとしては約1年7ヶ月ぶりの2ndアルバムがリリースされました。アルバムのスパンが1年7ヶ月というのはオリジナルアルバムとしては短すぎるという印象はないものの、その間にカバーアルバムのリリースを挟んでいることを考えると、かなりハイペースなリリースぶりがうかがえます。

そんな彼の2作目のソロアルバムなのですが、アルバムの出来としては決して悪い訳ではありません。柏原芳恵の「春なのに」のカバーをはじめととして「ROMANCE」同様、歌謡曲にグッと寄った哀愁感あふれる作品や、エレカシから考えると、かなりポップという印象を受ける作品が目立ちつつ、宮本浩次の無骨ながらも力強いボーカルをしっかりと生かしたアルバムになっており、彼らしさがしっかり生かされたソロアルバムになっていたと思います。

ただ、聴いていて非常に複雑な気分にさせられるソロアルバムになっていました。まず1点目としてポップ路線ということなのですが、ちょっとあまりにもポップすぎるんじゃないの?という点。モータウンビートで軽快な「十六夜の月」だったり、歌謡曲路線で哀愁たっぷりに聴かせる「shining」などは、まあこれはこれでいいかも、とは思うのですが、「この道の先で」などはサビへの入り方など、かなり90年代な要素を感じるJ-POP的なポップスになっていますし、「passion」などもベタな前向き歌詞も含めて、ポップなメロでJ-POP的。ラストの「P.S.I love you」に至っては、サビ先というベタな売れ線J-POP路線。90年代にドラマ主題歌としても流れても不思議ではないくらいの曲になっていました。しかしこれらの曲、ポップな路線も悪くはないとはいえ、ちょっとあまりにもJ-POPすぎない??ということを感じてしまいました。

そしてもうひとつの点、むしろこちらの方が強く気になったのですが、今回のアルバムの中の曲には少なからずエレカシとして演れたのではないか、という曲が含まれていました。「stranger」はノイジーなギターサウンドでロッキンな作風ですし、「浮世小路のblues」など、哀愁感あふれるメロディーがダイナミックなバンドサウンドにのるスタイルなど、完全にエレカシでは?と思ってしまいます。さらに「Just do it」も疾走感あふれるガレージロック路線。これもむしろエレカシとして演った方がよかったのでは?とも思ってしまいました。

前作「宮本、独歩。」はソロアルバムらしく、エレファントカシマシでは演れなさそうな曲が目立ったアルバムになっていました。しかし、2作目の本作は、かなりの部分、エレカシの曲としても問題なかったのでは?と感じてしまう曲が並んでいます。皮肉にもそういう曲がまた宮本浩次のボーカルにもピッタリマッチしていたのですが、それならエレカシとしての活動を再開してもいいんじゃない?とも思ってしまい、それでもソロを続けているという点に、複雑な心境を抱いてしまいました。

さらに複雑な印象を受けてしまうのが、このソロアルバムがエレカシのアルバムよりも売れているという事実。結局、こういうJ-POP的なポップス路線の曲が聴きたかったってこと??なんか、このままポップ路線、もしくは歌謡曲路線にシフトしていきそうで、かなり危惧しているのですが・・・次はやはりエレカシとしてのアルバムを聴きたい・・・と前作の時も書いたんだよなぁ。

評価:★★★

宮本浩次 過去の作品
宮本、独歩
ROMANCE


ほかに聴いたアルバム

Amulet/SHE'S

4人組ピアノロックバンドのニューアルバム。「追い風」「Spell On Me」がドラマ主題歌にも採用され、そのタイトル通り「追い風」が吹いているような彼ら。爽やかなメロディーラインは良くも悪くも「売れ線」という印象も受けるのですが、ただ、ピアノロックバンドというスタイルながらも、あまりピアノを効果的に生かしたような作品もなく、消化不良な感じ。前作同様、悪くはないのですが、これといった特徴もない感じで・・・。彼らのアルバムを聴くのはこれが2作目なのですが、正直、次聴くかどうかといわれると微妙かなぁ・・・。

評価:★★★

SHE'S 過去の作品
Tragicomedy

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2021年11月 8日 (月)

彼ららしい曲の並ぶサブスク用アルバム

Title:Fresh Cheese Delivery
Musician:WANIMA

今回紹介するWANIMAのニューアルバムは、サブスク限定でリリースされた全18曲入りのニューアルバム。といっても、純粋なニューアルバムではなく、昨年9月にリリースされたミニアルバム「Cheddar Flavor」に、今年4月にリリースされたシングル「Chilly Chili Sauce」、8月にリリースされたシングル「Chopped Grill Chicken」をそのまま加えて、新曲「Brand New Day」を追加した18曲。サブスク的には過去のアルバムを続けて聴けばいいだけで何のため?という感もあるのですが、こうやって「アルバム」としてリリースするアナウンスをすれば、特にシングルなどは特に聴いてこなかったリスナー層を取り込めるというメリットもあるのでしょうか。というか、まさに私のことですが(笑)。

そんな訳で、2曲目から10曲目に関しては、以前「Cheddar Flavor」のレビューで紹介済、ということになるのですが、今回あらためて聴いてみました。ご存じの通り、Hi-STANDARDの横山健が代表をつとめるPIZZA OF DEATH所属の彼ら。基本的にはHi-STANDARDの流れを組む、「正統派」ともいえるメロディアスパンク路線ということは十分認識されていることとは思います。まさに今の夏フェス向けとも言えるミュージシャン。コロナ禍の中で、なかなかその本領が発揮できずにいるバンドと言えるかもしれません。

ただ、そんな中であらためて彼らの作品を聴いてみると、非常に歌謡曲的、あるいはJ-POP的な要素が強いバンドということがあらためて実感させられます。例えば「SHADES」などのある種の郷愁感ある風景描写は、歌謡曲的な要素を感じさせますし、同時に前向き応援歌的な歌詞にJ-POP的な要素も感じさせられます。「春を待って」などもタイトルそのままですが、郷愁感強い歌詞とメロディーラインがまさに歌謡曲的。ハイテンポでパンクロックなバンドサウンドとのギャップがまたWANIMAの人気の秘訣とも言えるかもしれません。

また、そのほかにも「離れていても」などはメランコリックなメロディーラインでポップにまとめあげており、ここらへんはJ-POP的な楽曲と言えるでしょうし、一方では「枯れない薔薇」でスカのリズムを、「Faker」でレゲエのリズムを取り入れたりと、ある種の「隠し味」のような要素を入れてきているのもまた、音楽性の幅を広げ、人気を確保するひとつの要因と言えるのかもしれません。

もっとも、この歌謡曲的、J-POP的な要素が「ベタ」という印象に結びついてしまうのも否めず、良くも悪くも「フェス向け」という感想を抱いてしまう点は否めないのですが。そういう点を含めてWANIMAらしさがよく出ていたアルバムだと思います。前作「Cheddar Flavor」の感想でも書いたのですが、また彼らのこういう曲を、早くライブで大声を出してみんなで歌える日が1日も早く来てほしいものです。

評価:★★★★

WANIMA 過去の作品
Are You Coming?
Everybody!!
COMINATCHA!!
Cheddar Flavor


WINDORGAN/Yogee New Waves

約2年半ぶりとなるYogee New Wavesのニューアルバム。今回のアルバムも、爽快なギターサウンドを中心として軽快なシティポップを聴かせてくれる安定の内容。基本的にポップなメロにはクオリティーの高さも感じられます。ただその反面、デビュー以来の課題だったYogee New Wavesらしさというか、彼らの独自性が若干後退してしまった印象も。個性を出すことよりも楽曲自体のクオリティーを重視した感じでしょうか。ただ個人的にはもうちょっと彼らにしか書けない独特のサウンドを聴きたい感も強いのですが。

評価:★★★★

Yogee New Waves 過去の作品
WAVE
SPRING CAVE e.p.
BLUEHARLEM
to the MOON e.p.

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