アルバムレビュー(邦楽)2021年

2021年3月 8日 (月)

名カバーが並ぶトリビュート盤

Title:TRIBUTE TO TRICERATOPS

1997年にシングル「Raspberry」でデビュー。今年、デビューから24年目を迎えたロックバンド、TRICERATOPS。大ヒット曲こそ、1999年の「GOING TO THE MOON」以降、目立った大ヒットはないのですが、「踊れるロック」をテーマとしたルーツ志向でかつポップなロックミュージックと、魅力的なライブパフォーマンスで根強い人気を持続している彼ら。そんなトライセラの楽曲を数多くのミュージシャンがカバーした、初のトリビュートアルバムがリリースされました。特に区切りの年でもないこのタイミングでなぜ?という印象も受けるのですが、2018年以降、活動休止状態に入っていた彼らが、昨年末から活動を再開。その活動再開の嚆矢としてのアルバム、ということなのかもしれません。

数多くのミュージシャンがトライセラの曲をカバーしたこのトリビュートアルバムですが、この手のトリビュートとして非常に理想的な、素晴らしいアルバムに仕上がっていました。それぞれのミュージシャンがそれぞれの個性を発揮しつつ、一方では原曲の良さをきちんと残したカバーになっており、カバーしたミュージシャンとトライセラのそれぞれの個性が、ほどよくバランスされた名カバーばかりが収録されたアルバムになっています。

まさにそんな典型例が1曲目の奥田民生による「ロケットにのって」でしょう。ヘヴィーなバンドサウンドによるアレンジは原曲からほとんど変わりませんが、奥田民生のボーカルが乗ることにより、完全に奥田民生の曲になっています。さらに続く「2020」は、デビュー時期が近く、特にデビュー当初は両者共通のファンも多かった、盟友GRAPEVINEのカバーなのですが、ギターのアルペジオをベースに、ゆっくりと聴かせるカバーは、GRAPEVINEの色にもピッタリとマッチ。GRAPEVINEの新曲といっても違和感ないカバーになっています。

スキマスイッチの「if」もBase Ball Bearの「Raspberry」も、原曲から大きな変化はなく、それぞれ原曲の良さをきちんと感じつつも、スキマスイッチ、Base Ball Bearらしさもきちんと発揮されたカバーになっていますし、特にカラッとしたギターサウンドで軽快に聴かせるLOVE PSYCHEDELICOの「New Lover」やピアノとアコギで幻想的に聴かせる山崎まさよしの「シラフの月」などは、完全にデリコ、山崎まさよしのフィールドにトライセラの曲を引きずり込んだ形のカバーに。ただ、原曲の良さはこれらのカバーでも失っていません。

CHABOの色が濃く出た、ブルージーな「New World」もユニークですし、このアルバムの中である意味、最もユニークで挑戦的だったのがKANの「トランスフォーマー」でしょう。全編打ち込みを取り入れたエレクトロポップに生まれ変わっている、KANちゃんらしいユニークなカバー。ただ、このエレクトロサウンドが「トランスフォーマー」に意外とマッチしており、楽曲の新たな魅力を引き出したカバーに仕上げています。

ミスチルの桜井和寿とトライセラがタッグを組んだQuattro Formaggiの「ラストバラード」も完全に桜井の曲になっています。そしてラストを締めくくるのは和田唱と小田和正の「Fever」。TBSの番組「クリスマスの約束2017」で披露された音源だそうですが、基本的に小田和正はコーラスに徹しているのですが、聴き終わった後は小田和正の印象も強く残ってしまう点も印象的。この2曲については、桜井和寿、小田和正のボーカリストとしての個性の強さを感じるカバーになっています。

そして、これだけ素晴らしいカバーが並んだもう1つの大きな要因は、間違いなく原曲が魅力的だから、ということでしょう。特に和田唱の書くメロディーラインがしっかりメロディアスでインパクトを持っているからこそ、多少乱暴なカバーをしたり、カバーするミュージシャンの個性を前に押し出したりしても、原曲の良さが失われないという点が、今回、数多くのミュージシャンが名カバーを披露した大きな要素になっているのではないでしょうか。

個人的にはTRICERATOPSというバンドは、日本でもっとも過小評価されているバンドのひとつだと思っているのですが、今回のカバーアルバムを聴いて、参加ミュージシャン個々の魅力はもちろんなのですが、それ以上にTRICERATOPSの実力、魅力を再認識したアルバムに仕上がっていたと思います。昨年末から活動を再開したトライセラ。次はついに、彼らのオリジナルアルバムのリリースとなるのでしょうか。早くトライセラの新譜も聴きたいです!

評価:★★★★★

| | コメント (0)

2021年3月 7日 (日)

アレンジャー4名で新たな挑戦

Title:蓮の花がひらく時
Musician:柴田淳

途中、カバーアルバム「おはこ」を挟んだものの、オリジナルアルバムとしては約2年2ヶ月ぶりとなるしばじゅんのオリジナルアルバム。今回のアルバムの大きな特徴としては、アレンジャーが4人に増やしたという点。いままでの彼女の楽曲にも参加してきた松浦晃久、森俊之に加えて、冨田恵一、山本隆二という2人のアレンジャーを追加し、アレンジャー全4名体制という中で制作されたアルバムとなっています。

今回は、この「サウンド」面にも相当力が入っているようで、初回盤は収録曲のインスト版が収録されたアルバムがDisc2としてついてくるあたり、その力の入れようがわかります。また、実際に全体的にはよりバラエティーに富んだサウンドに仕上がっている点が大きな特徴。4人のアレンジャーの個性がよく出ている作品になっており、序盤の「はじまりはじまり」「ループ」を手掛けた松浦晃久は、ロック系のダイナミックな音作りが特徴的。しばじゅんのボーカルに比べて前に出てくるアレンジになっているため、賛否はわかれそうなアレンジなのですが、アルバムの中ではひとつのアクセントとなっていました。

富田恵一は全編、プログラミングにより手掛けたアレンジが特徴的。ラテン調に挑戦した「ハイウェイ」などバラエティーに富んでおり、全編彼による打ち込みであるため、きめ細やかさを感じさせるアレンジが魅力的。そして山本隆二と森俊之はストリングスやピアノなどアコースティックな楽器を用いて、比較的シンプルなアレンジでしばじゅんの声を前に出して生かそうとするアレンジになっていました。

結果としてはバラエティー富んだ作風になっている一方、統一感に欠ける部分もあり、そういう意味では良い側面と悪い側面が同時に出たかな、という印象もあります。ただ、その一方で今回のアルバムは、バラエティーあるサウンドを前に押し出すために、あえて統一感をはからなかったのではないか、という印象も受けました。あらたな挑戦ということもあるのでしょうが、アレンジャーそれぞれにしばじゅんのボーカルをどのように味付けしていくのか、楽曲毎に比較の出来る作品だったと思います。

ただ、その上で、それだけ挑戦心のある試みでありながら、ちょっと無難にまとまっていたかな、という印象も受けました。松浦晃久はかなり攻めているのですが、結果、アレンジの主張が強すぎ、逆に山本隆二や森俊之はしばじゅんの声を生かそうとしているのですが、少々無難な感じに。富田恵一も、若干彼らしい個性は薄いような感じがします。ラテンやビックバンドなど、それなりに挑戦した曲もあったのですが、アレンジャーを前に押し出すのなら、しばじゅんのボーカルとの意外な相性を感じさせるユニークなアレンジがあってもよかったのではないかな、とも感じてしまいました。

一方、歌詞については、今回も悲しい失恋の歌がメイン。ここ最近、この胸をしめつけさせるような失恋の歌に純化したようなアルバムが続いていました。ただ、今回のアルバム、「はじまりはじまり」「ループ」「ハイウェイ」と、かなりヘヴィーな失恋の曲が並びつつ、後半になるに従い、徐々に明るさや希望も感じさせるような曲も増えてきています。「シャンデリアの下で」でも、未知の世界に踏み出そうとする人に対してエールを送るような曲になっていますし、ラストの「エンディング」も内容的には失恋のナンバーながらも、

「いつかこの人生を歩んだ意味を
知れたらいいと思う
君と出逢えた僕 という奇跡を」
(「エンディング」より 作詞 柴田淳)

とかなり前向きな姿勢で、次へ進む姿が見て取れます。

今回のアルバム、本人曰く「自信作」と語っているように、いろいろなところ、特にアレンジに力の入ったアルバムになっているように感じました。ただ、個人的にはこれといったインパクトのあるフレーズもありませんし、サウンドにしても、もうちょっと挑戦した方がおもしろかったのかも、とも思うアルバムになっていました。全体的にはいいアルバムだと思いますし、歌詞の面でもボーカルでもしばじゅんの魅力を強く感じる作品なのは間違いないと思います。今回、様々なアレンジャーと組んだ結果が、次のアルバムにどう生かされてくるのか・・・その点も注目です。

評価:★★★★

柴田淳 過去の作品
親愛なる君へ
ゴーストライター
僕たちの未来
COVER 70's
あなたと見た夢 君のいない朝
Billborda Live 2013
The Early Days Selection
バビルサの牙
All Time Request BEST~しばづくし~
私は幸せ
プライニクル
おはこ

| | コメント (0)

2021年3月 6日 (土)

懐かしさは感じるが

Title:ミリオンデイズ〜あの日のわたしと、歌え。〜 mixed by DJ和
Musician:DJ和

2017年にリリースした、2000年代のヒット曲を集めてDJミックスとして編集したアルバム「ラブとポップ ~好きだった人を思い出す歌がある~ mixed by DJ和」が大ヒットを記録して一躍注目を集めたDJ和。こちらは主に90年代のヒット曲を集めてDJミックスとしてつないだアルバム。個人的には、ちょうど中高生の頃のヒットした曲がメインであり、ターゲットとなる世代にドンピシャな選曲。そんな選曲の懐かしさに惹かれて聴いてみました。

まあ、そんな訳で、懐かしさにつられて聴いてみた、というこのアルバムの戦略にすっぽりはまって聴いてみた訳ですが、ただ、このアルバムに関しては(というか以前リリースされた「ラブとポップ」なんかも同じなのですが)率直に感じるものがあります。それはこの内容のアルバムなら、自分にもつくれるんじゃない??という身もふたもない感想。はっきりいって、このアルバムにDJ和なるDJの才能や実力はほとんど感じられません。選曲された曲は、「90年代のヒット曲」と言われて多分10人中10人が選びそうな無難なセレクト。妙にビーイング系の選曲が多いのは「バックにビーイングが協力しているんじゃない?」と大人の事情を感じてしまいますし、同じく、ソニー系が妙に多いのも(以下略)。曲の並びにしても、アップテンポな曲はアップテンポな曲でつなげて、ミディアムテンポな曲はミディアムテンポで、と特に工夫は感じませんし、つなぎの部分についても、特にこれといって特徴もありません。はっきり言ってしまえば、DJ和なる人物を取り上げなくても、ソニーミュージックの社員による企画で同じようなCDを作れちゃうんじゃない?とは思ってしまいます。

ただ一方で同時に感じるのは「そうはいってもコロンブスの卵で、この発想力と企画力はやはり評価されるべきなのでは?」とも思います。もともとWikipediaでDJ和なるものの経歴を調べると、通常の洋楽中心のDJで活動していたのですが、その中にJ-POPの曲を混ぜるとフロアが盛り上がることに気づき、J-POPをかけはじめたのだとか。クラブシーンにはさほど詳しくありませんが、彼がDJとしてデビューした頃には、すでにJ-POPをクラブでかけるような人がいたようにも記憶しているだけに、このスタイルの先駆的存在かどうかは不明なのですが・・・ただ、DJというスタイルにJ-POPを取り入れるという方法論の面では先見の明があったということが言えるのかもしれません。

さて、そんなアルバムの選曲なのですが、前述のとおり、主に中学生から高校生、さらには大学生の頃に聴いた曲の連続に唯々懐かしいな、と感じる一方で、正直言って、30年近く前の曲にも関わらず、楽曲としてあまり変化がない、ここらへんの曲が「今」リリースされていても、なにも不思議でないあたり、薄々感じていたのですが、ポピュラーミュージックの停滞ようなものも感じてしまいます。

あと、これはちょうど私が中高生の頃にあたるからなのかもしれませんが、ヒット曲の内容から考えると、非常に音楽シーンが濃かったな、ということを感じます。このアルバムの中の選曲の中で一番古いのはおそらくプリンセスプリンセスの「Diamonds」、一方、比較的新しいと思うのはORANGE RANGEの「花」。「Diamonds」というと、かなり昔の曲と感じる反面、「花」は比較的最近の・・・と思ってしまうのですが、「Diamonds」が89年、「花」が2004年の曲なので、この間、わずか15年程度なんですよね。逆に「花」はもう、18年も前の楽曲になってしまう訳で・・・。15年の間に数多くのミリオンヒットが生まれたこの時期は、本当に日本の音楽シーンが盛況だったんだな、ということをあらためて感じてしまいます。

ただし、90年代のヒット曲ということですが、ミスチルもスピッツもチャゲアスもB'zもサザンも未選曲。ここらへんは、レコード会社の都合を感じてしまいます。おそらく許可が下りなかったんだろうなぁ。そういう意味でも「企画もの」の域を超えるアルバムではなく、DJ和としての実力はほとんど感じられなかったのですが、純粋に企画ものとして懐かしさを感じたいのならば、聴いてみて損はないかと思います。もっとも、DJミックスですので、途中でブツ切りになってつながっている内容で、フルバージョンは聴けませんので、その点だけご注意ください。

評価:★★★

| | コメント (0)

2021年3月 5日 (金)

究極のオールタイムベスト

Title:ここにいるよ
Musician:中島みゆき

今回紹介するのは、中島みゆきの「セレクトアルバム」という位置づけでリリースされたニューアルバム。公式サイトに記載された「売り文句」によると、コロナ禍の中で、彼女の「糸」や「時代」「ファイト!」などに勇気を得て、それらの曲へのリクエストやCDアルバムに注文が集中したことから企画されたアルバムだそうで、全2枚組の内容で、1枚目が「エール盤」、2枚目が「寄り添い盤」と名付けられ、それぞれのコンセプトに沿った彼女の楽曲が収録されています。

そんなこともあって、アルバムのスタンスとしてはコンセプチュアルなセレクションアルバム、という立ち位置の作品ではあるのですが、選曲的には彼女の「オールタイムベスト」と言ってもいいような、代表曲を惜しみなく並べたような作品になっています。中島みゆきのベスト盤はいままで何度か発売されていますが、彼女の代表曲、特に大ヒット曲が網羅的に収録されるベスト盤は意外と発売されていません。直近のベストアルバムは「中島みゆき・21世紀ベストセレクション『前途』」ですが、こちらはタイトル通り、2000年以降にリリースされた曲だけ収録されているので、大ヒットした「地上の星」は収録されていますが、90年代以前のヒット曲は未収録です。90年代の大ヒット曲が比較的網羅されているのはミリオンセールスを記録した2002年の「Singles2000」ですが、こちらは「空と君のあいだに」から「地上の星」までのシングルが網羅されているものの、「時代」のようなそれ以前の曲は未収録となっています。

しかし、今回のベストアルバムは、Disc1の1曲目からいきなり「空と君のあいだに」からスタート。さらに「旅人のうた」と続き、その後も「糸」「ファイト!」「時代」そして「地上の星」と、大ヒット曲が出し惜しみなく続きます。Disc2もいきなりデビュー作「アザミ嬢のララバイ」からスタートし、「悪女」「たかが愛」のような代表曲、「タクシードライバー」のようなアルバム収録曲ながらも人気の高いナンバーもしっかりと網羅。初期のナンバーから最近のナンバーまでしっかりと網羅しています。

彼女のヒット曲の中で収録されていないのは、あとは「わかれうた」「浅い眠り」あたりでしょうか。ここらへんは、さすがにテーマに沿ってないと判断されたのか未収録になっているのはちょっと残念。ただ、その点を差し引いても、40年以上のキャリアを持つ彼女の、数多くのヒット曲、代表曲のうち、特に有名な曲をわずかCD2枚という短さで網羅的に聴けるという意味では、「究極のオールタイムベスト」といっても過言ではないセレクトだったと思います。

楽曲の良さについてはいまさら言うまでもありません。特に歌詞については、「エール盤」「寄り添い盤」という名前の通り、人々に対する「応援歌」的な位置づけになっているか・・・と思いきや、厳しい現実にしっかりと立脚し、甘くない現状を見せつける歌詞の世界は、まさに見事のひとこと。単純にうわべだけの応援歌になっていないからこそ、逆に、人々の心に深く刻み込まれるのでしょう。典型的なのが「ファイト!」で、ともすればサビの部分だけで単純な応援歌と誤解されがちなのですが、歌詞の中に登場してくるのは、現実社会の中で立ち行かなくなった一人の女性。「ファイト!」はそんな女性が自分を鼓舞するために歌うフレーズであり、その言葉はずっしりと鉛のように重くのしかかってきます。

あと、今回のアルバムであらためて感じたのが、彼女の曲のメロディーが持つ強度。一度聴いたら忘れられないフレーズが連発されているだけではなく、思わず一緒に歌いだしてしまうような、いい意味でわかりやすいメロディーラインが大きな特徴。その歌の力強さをあわせて、このアルバムを聴いてから、いまでも中島みゆきの曲が頭の中でかけめぐっています(笑)。あらためて彼女の曲の持つすごさを感じました。

そんな訳で、わずか2枚組の中島みゆきの入門的には最適なベストアルバムですし、また、彼女の代表曲をあらためて聴いてみたい方にもおすすめできるアルバム。ただ、そういえば彼女って、オールタイムベストってリリースしていないよなぁ。そろそろ、4枚組くらいのオールタイムベストを聴いてみたい気もするのですが・・・。

評価:★★★★★

中島みゆき 過去の作品
DRAMA!
真夜中の動物園
荒野より
常夜灯
十二単~Singles4~
問題集
組曲(Suite)

中島みゆき・21世紀ベストセレクション『前途』
中島みゆきConcert「一会」(いちえ)2015~2016-LIVE SELECTION-

相聞
中島みゆき ライブ リクエスト -歌旅・縁会・一会-
CONTRALTO


ほかに聴いたアルバム

モルモットラボ/キュウソネコカミ

バンド結成10周年と「ねずみ年」が重なった2020年。対となる2枚のミニアルバムをリリースし、昨年、1作目として「ハリネズミズム」をリリースしましたが、本作はその2作目となるミニアルバム。タイトル通り、ちょうど3分の内容となっている「3minutes」からスタートし、序盤は彼ららしい疾走感あるパンキッシュなナンバーからスタート。ヘヴィーなギターリフを聴かせる「囚」や、逆にポップ色の強い「薄皮」「シュレディンガー」に、フォーキーな「ぬいペニ」のような楽曲まで、いままでにないバラエティーの豊富さが楽しめます。終盤も「シャチクズ」「ポカリ伝説」みたいなユニークな歌詞の曲も。毎作、キュウソネコカミらしさをしっかりと感じさせつつ、傑作というには少々パンクロック的な勢いに頼りすぎな感があった彼らですが、本作は、勢いのあり、なおかつバラエティー富んだ作風でバンドとしての底力を感じさせる傑作になっていました。次はフルアルバムでしょうか。楽しみです。

評価:★★★★★

キュウソネコカミ 過去の作品
チェンジ ザ ワールド
ハッピーポンコツランド
人生はまだまだ続く
キュウソネコカミ -THE LIVE-DMCC REAL ONEMAN TOUR 2016/2017 ボロボロ バキバキ クルットゥー
にゅ~うぇいぶ
ギリ平成
ハリネズミズム

| | コメント (0)

2021年3月 1日 (月)

貴重な音源を収録した津軽民謡の記録

Title:真説じょんがら節 甦る津軽放浪藝の記憶

今回もまた、2020年のベストアルバムとして各種メディアで取り上げられた作品のうち、未聴だった作品を後追いで聴いた作品。今回はMUSIC MAGAZINE誌のワールドミュージック部門で10位を獲得したアルバム。ワールドミュージック・・・といっても、本作はタイトルからわかる通り、アフリカの作品でもアジアの作品でもありません。れっきとした日本の音楽。1920年代から40年代の戦前戦後の津軽民謡のSP盤を収録したアンソロジーアルバム。全2枚組のアルバムの中に、津軽民謡の貴重な音源が収録されたアルバムとなっています。

三味線と太鼓をバックに、伸びやかに歌い上げる津軽民謡は、もちろん今でも現役で、多くの民謡歌手が活躍されている分野。おそらく多くの方にとっては、どういう形であれ、多かれ少なかれ耳にしたことがある音楽であるかと思います。ただ一方で、しっかりとした音源でまとまって聴いているという方は、少なくとも当サイトに遊びに来てくださっているような世代では少ないのではないでしょうか。

今回紹介するアルバムに収録されている音源は、いずれも戦前戦後直後の音源。戦前及び戦後直後のSP盤ということで、曲によってはレコードのノイズが酷い曲もあることにはあるのですが、全体的には比較的、保存状況は良く、聴きやすい音源がまとまっていました。そしてあらためて、津軽民謡をこのような音源の形で聴くと、その魅力を強く感じることが出来ました。

まず大きな魅力のひとつは、なんといってもその歌声でしょう。力強く伸びやかで、張りのあるその歌声の迫力は、100年近くが経過した今のリスナーの心も大きく揺さぶるのではないでしょうか。アルバムの1曲目、工藤美栄子による「津軽じょんがら節」の伸びのある歌声にまずは耳を奪われるのは間違いなし。そして特にDisc1の中で印象に残るのが、12曲目「じょんがら節」から15曲目「津軽三下り」まででその歌声を聴かせる津軽家シワ(津軽家シワ子)など歌い手。どこか色っぽさを感じさせつつ、同時にドスが効いたようなパワフルなボーカルが強い魅力。CD付属のブックレットの曲紹介でも「澄んだ声と艶、切れのよさは、津軽の芸人中、最高だろう」と評されていますが、本作の中でもその歌声は非常に印象に残ります。

そしてもうひとつの主役が三味線。こちらも曲によってはかなりアグレッシブな演奏が魅力的で、Disc2の18曲目に収録されている「津軽あいや節」では切れのある澄んだ歌声の佐藤りつの歌も魅力的ですが、アグレッシブに勢いある演奏を聴かせる三味線も耳を惹きます。この三味線を弾いているのは高橋竹山。津軽三味線を全国に広めた第一人者と言われる方で、私でもその名前を聴いたことある方。確かに、このアルバムの中でも特に耳を惹く演奏が魅力的で、その実力を感じさせます。

また、本作で意外な発見だったのは、「じょんがら節」と一言で言ってもそのバリエーションの多彩さ。津軽民謡というと、「三味線に張り上げたこぶしを効かせた歌」というお決まりのスタイルを思い浮かべるでしょうし、実際、そのような典型的なタイプの曲も少なくありません。ただ一方ではDisc2の2曲目「津軽イタコ口ヨセ」のような、歌とほぼ太鼓のみで、「イタコ口ヨセ」を再現した不気味な雰囲気の曲もあったり、Disc2の8曲目「たんと節」のように、男女の掛け合いでコミカルさを感じさせる曲もあったりと、楽曲にもバリエーションを感じさせます。

さらに、その時代の出来事をそのまま歌詞として読みこんだ曲も少なくありません。Disc1の6曲目「津軽小原節」では、1920年にロシアのニコラエフスクで発生した、ソ連の赤軍パルチザン(共産主義のゲリラ部隊)による日本人捕虜殺害事件(尼港事件)をそのまま題材にしていますし、Disc2の15曲目「津軽小原節(上)」、16曲目「津軽よされ節(上)」では1932年の第一次上海事変の最中に、爆弾を抱えて敵陣を突破して自爆し、突撃路を切り開いたという爆弾三勇士を題材としています。この時代の津軽民謡が、決して「伝統芸」ではなく、現役の「ポピュラーソング」だったということを感じさせます。

私自身、決して普段、民謡をよく聴いているという訳ではないのですが、非常に聴きごたえのあるコンピレーションアルバムで、予想以上に楽しめた作品でした。企画としても貴重なSP盤を多く収録していますし、素晴らしい企画だったと思います。普段、民謡に縁のない方でも意外と楽しめるかも。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

#4 -Retornado- /凛として時雨

2005年にインディーレーベルよりリリースされた、彼ら初のフルアルバム「#4」をリマスターした作品。「#4」については今回はじめて聴いたのですが、疾走感あるギターサウンドとマイナーコード主体のメランコリックなメロディーラインを歌い上げる、切迫したようなボーカルという凛として時雨のスタイルはこの時期にすでに確立しており、曲によっては、確かに若々しさを感じさせる部分もあるのですが、今のアルバムと並べて聴いても全く違和感ない作品に。リアルタイムではほとんど売れなかったため、おそらく多くの方にとってははじめて聴く作品なだけに、「凛として時雨の新譜」的にも楽しめるアルバムでした。

評価:★★★★

凛として時雨 過去の作品
just A moment
still a Sigure virgin?
i'mperfect
Best of Tornado
es or s
#5

| | コメント (0)

2021年2月28日 (日)

「一発屋」の匂いも漂うが・・・

Title:すっからかん
Musician:瑛人

昨年、突如大ヒットを記録した男性シンガーソングライター、瑛人の「香水」。もともとリリースされたのは2019年4月だったのですが、TikTokなどで徐々に話題となり、昨年一気にブレイク。「ドルチェ&ガッバーナ」という具体的な固有名称が登場してくる点でも話題となりました。さらにこの曲は、メジャーどころかインディーレーベルからのリリースでもなく、完全な「自主制作」による楽曲で、それが最終的には紅白出場まで決める大ヒットまでつながったという点でも話題となりました。

ただ一方で、正直言ってしまうと「香水」でのヒットのインパクトが強すぎて、「一発屋」の雰囲気が漂っているのも否定できません。「香水」以降も配信オンリーで5枚のシングルをリリースしているものの、どの曲もヒットチャートの上位には入ってきていませんし、このアルバムも発売日の都合もあったものの、ビルボードで最高位9位、オリコンでは11位止まりと、「香水」のヒットと比べると、かなり厳しい結果となってしまっています。

私も正直言うと、「香水」のイメージが強すぎたので、アルバム単位ではあまり期待してしませんでした。ただ、アルバムを聴いてみた結果としては「思ったよりはよかった」というのが正直な感想です。まず楽曲的には、「香水」のイメージから大きく変わるものはありません。基本的にアコースティックギターでしんみり聴かせるミディアムチューンのナンバーがメイン。固有名詞も飛び出すような具体的な描写が印象的だった「香水」と同様、具体的な舞台や物語が用意されているような歌詞の世界の曲が並びます。

ほかにも隣の部屋の女の子に片思いしている「僕はバカ」や、既に結婚してしまった昔の恋人を思い出している「カルマ」なども、「香水」と同様、かなり具体的な恋愛心理の描写があり、聴いていて胸がズキッと痛くなるような歌詞が印象的。歌詞の内容もリアリティーある描写となっていて、ちょっと女々しい歌詞の内容も含めて、個人的には結構嫌いではありません。

また、ある意味一番驚いたのが「ハッピーになれよ」で、この曲、酒癖の悪いDV気質の父親の下でも家族について歌った、「香水」のイメージからするとかなりヘヴィーなナンバー。実体験だとしたら、かなりヘヴィーな内容で、聴いていて、失恋の歌とは別の意味で切なくなってくるようなナンバー。「香水」のようなラブソングのシンガーだとイメージすると、かなり意外性を感じる方も少なくないのではないでしょうか。

ただ、ここらへんの歌詞は意外と魅力的だったのですが、それでもアルバム全体を聴いた印象としては「これは一発屋になりそうだ・・・」と思ってしまったのが正直な感想でした。その理由としてはいくつかありますが、まず、メロディーの面でもサウンドの面でもインパクトが弱い点。それなりにわかりやすいフレーズを聴かせてくれるのですが、似たようなタイプの曲が多く、全体としては印象は薄めになってしまいます。また、歌詞にしてもメロディーラインにしてもサウンドにしても、「愚直」といった印象を受けるような、無難な作風に仕上げており(前述の「ハッピーになれよ」のような例外はありますが)、インパクトの弱さの大きな要因に感じます。

そして、それらの事項を含めて、結果として「一発屋」感が強い最大の理由としては、瑛人としての個性がほとんど感じられない点でしょう。はっきり言うと、ここで収録されている曲は、彼でしか歌えない、といった曲はありませんし、彼にしかもっていない特色をあげろ、と言われると、言葉につまってしまいます。ここに収録されている曲を聴いて感じる満足度は、同じ男性シンガーソングライターとして、例えば斉藤和義だとか、秦基博だとかを聴けば事足りてしまう、といって間違いではありません。斉藤和義とか、秦基博じゃだめなんだ、瑛人じゃなくては!といった感触は、残念ながらこのアルバムからは感じられませんでした。

「香水」があれだけヒットを出しただけに、今後についてそう簡単に困ることはないのかもしれませんが、率直に、次のヒットは厳しいだろうなぁ、と感じてしまうアルバムでした。ただ、決して悪いアルバムではないので、「香水」が気に入った人や、アコースティック系のSSWが好きな方なら聴いて損のないアルバムだとは思います。「香水」の次にも注目したいのですが、どうなるのでしょうか?

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

廻廻奇譚 / 蒼のワルツ /Eve

動画投稿サイトへの歌唱動画投稿や、ボカロPとしても活躍していた男性シンガーソングライターによるミニアルバム。彼のアルバムを聴くのは「おとぎ」「Smile」に続き3作目ですが、ボーカルスタイルとして落ち着きが増し、マイナーコード主体のアップテンポチューンという、ネット発ミュージシャンによくありがちなタイプの楽曲から、もうちょっと落ち着いて聴かせる楽曲が増えた印象。曲名はいかにも自意識過剰系のネット発という印象は否めないのですが、全体としてはいい意味でポピュラリティーが増した印象。ポスト米津玄師になれるか?

評価:★★★★

Eve 過去の作品
おとぎ
Smile

| | コメント (0)

2021年2月23日 (火)

14年目の彼ら

Title:MUD SHAKES
Musician:ザ・クロマニヨンズ

結成以来、ほぼ毎年、1枚ずつアルバムをリリースし続けているクロマニヨンズ。コロナ禍の中の2020年も例年と同様に、約1年2か月ぶりに新作をリリース。通算14枚目のオリジナルアルバムとなるのが本作です。通算14作目ということは、クロマニヨンズとしても結成14年目。ブルーハーツもハイロウズも結成10年で活動を終了している訳で、ヒロト&マーシーにとっても、バンド活動を14年も継続するというのはクロマニヨンズが初のケース。もともと、ブルハもハイロウズも10年程度でバンドを畳んだのは、10年活動を続けると、やはりマンネリ状態に陥るからな訳で、一方でクロマニヨンズとして14年も活動が続いているのは、14年続けても、まだバンドとして新たな可能性を感じるからこそバンド活動が続いているのでしょう。

もっとも、この14枚目のオリジナルアルバムにしても決していままでの彼らになかった新鮮なジャンルに挑戦している・・・という感じではありません。今回のアルバムも彼らが演っている音楽は愚直にロックンロール。ただ、14年目を迎える彼らは、というよりも、すでにブルハとしての活動から、30年以上バンドを演り続けているヒロト&マーシーのコンビによる音楽は、まさにプロフェッショナルとして最高峰とも言える領域に達している感のあるアルバムとなっています。

彼らがたどり着いた「最高峰とも言える領域」として、一言で言ってしまえば非常にシンプルなロックンロール。メンバー4人による絶妙なアンサンブルのバンドサウンドを貫いており、そういう意味ではブルハ以来、ロックバンドとしてのスタイルに大きな変化はないといえるかもしれません。バンドサウンドもそうですが、歌詞の世界もシンプルそのもの。今回も「ドンパンロック」やら「空き家」やら「新人」やら、およそ楽曲のタイトルとは思えないようなタイトルの、シンプルな歌詞の世界が繰り広げられています。ただ、そんな中でもクロマニヨンズとしての主張を感じさせる曲もあり、特に今回のアルバムの1曲目「VIVA!自由!!」がそれ。歌詞の内容はタイトル通りの自由賛歌なのですが、コロナ禍の中で、外出や人と会うのが制限され、活動の自由が奪われている今。まさにそのコロナに対する彼らのメッセージとも言えるのが本作であるように感じました。

また、シンプルなロックンロールの中で、様々なタイプの曲調が収録されているのも大きな特徴。「暴動チャイル(BO CHILE)」はタイトルから想像されるようなボ・ディドリー・ビートの曲ですし、「ドンパンロック」は昔ながらもギターポップ調の楽曲。「妖怪山エレキ」はモータウンビートが特徴的な軽快なナンバーですし、ラストの「かまわないでくださいブルース」もゴスペルを取り入れた楽曲。ここらへんの、特にルーツ志向の音楽性は、ブルハからの活動を含めてすっかりベテランとなったヒロト&マーシーだからこそ聴かせてくれる音楽性とも言えるでしょうし、彼らの実力を存分に感じさせる方向性とも言えるかもしれません。

バンドとしてより一層の深化を遂げた本作。ヒロト&マーシーはバンドとして15年目という未知の領域に進んでいくわけですが、まだまだクロマニヨンズとしての深化を期待できそうな、そんな傑作アルバムだったと思います。クロマニヨンズにしか作りえないクロマニヨンズらしい、そんな傑作でした。

評価:★★★★★

ザ・クロマニヨンズ 過去の作品
CAVE PARTY
ファイヤーエイジ
MONDO ROCCIA
Oi! Um bobo
ACE ROCKER
YETI vs CROMAGNON
ザ・クロマニヨンズ ツアー2013 イエティ対クロマニヨン
13 PEBBLES~Single Collection~
20 FLAKES~Coupling Collection~
GUMBO INFERNO
JUNGLE9
BIMBOROLL
ラッキー&ヘブン
レインボーサンダー
PUNCH
ザ・クロマニヨンズ ツアー PUNCH 2019-2020


ほかに聴いたアルバム

Passport&Garcon DX/Moment Joon

まさに2020年を代表するアルバムとなったMoment Joonの「Passport&Garcon」。2020年の私的ベストアルバム1位に選んだことは先日紹介した通りなのですが、なんとその後、同作にゲストを追加。さらに新曲を加えてリメイクされたアルバムがリリースされました。時代を反映させすぎたアルバムゆえに、今から聴くと、歌詞の一部がすでに古くなってしまっている感もあるのですが、新曲では、本編でとらえられなかったコロナ禍での日本の状態についても収録。同作を今の時代にアップデートされた作品になっています。ただ、今聴いても、このアルバムが伝えたい本質的なメッセージの強烈さは変わっておらず、やはり2020年を代表する傑作だったと再認識させられました。

評価:★★★★★

Moment Joon 過去の作品
Passport&Garcon

THE BOOK/YOASOBI

「夜に駆ける」が大ヒットを記録し、一躍注目を集めたボカロPのAyaseと、シンガーソングライターのikuraの2人によって結成されたユニット。歌詞の方向性としては、現実世界にどこかなじめないような2人が未来をつかもうとする姿を描いた歌詞といった感じでしょうか。「文学的」と称する向きもあるのですが、個人的には「いかにも」な言葉の羅列というイメージも強く感じてしまいます。Twitterで某音楽ライターが、サウンドのチープさを指摘し、一部で賛否両論となったのですが、確かに良くも悪くもサウンドはかなりチープ。ここらへんは良くも悪くもこだわりのなさも感じ、彼らが自分の楽曲の中で、どこに焦点を当てているかも逆の意味で明確になっているようにも感じます。いかにも意味ありげな歌詞の世界観も含めて、自分が中高生だったらもうちょっとはまっていたかも、といった感のあるバンド。もうちょっと楽曲的にバリエーションが増えればおもしろいとは思うのですが。

評価:★★★

| | コメント (0)

2021年2月19日 (金)

勢いが止まらない!

Title:Loveless Love
Musician:曽我部恵一

曽我部恵一の勢いが止まりません!2016年にリリースされたサニーデイ・サービスの傑作「DANCE TO YOU」以降、サニーデイでも積極的な活動を続ける曽我部恵一。2019年はサニーデイの活動はなかったものの、ソロとして「ヘブン」、「There is no place like Tokyo today!」と同時に2作もリリース。さらに2020年はサニーデイで新作「いいね!」をリリースしたかと思えば、さらに年末ギリギリに配信限定でリリースしてきたのが本作。まさに多作な状況が続いています。

普通、この手の「多作」な状況が続くと、楽曲としての出来は今一つになってきていまうケースが少なくありません。しかし、どうも曽我部恵一の場合はそうではないようで、サニーデイの作品は傑作続きですし、さらにその合間にリリースされるソロ作についてもはずれがありません。もうすっかりベテランの域に達している彼ですが、まさに今、ミュージシャンとして脂ののった状態である、ということは間違いないでしょう。

さらに特徴的なのが、アルバムとしてのベクトルが比較的明確で、いい意味で聴きやすさを感じるサニーデイの作品と比べて、曽我部恵一ソロの作品は、彼が演りたいことを自由に演っている感の強いアルバムに仕上がっているという点。おそらく、サニーデイとしても以前は比較的演りたい作品を演っていた部分はあるのですが、そうしてリリースされたアルバム「the City」が賛否両論だった影響もあるのでしょう(私は傑作だと思いますが)、その後リリースされたソロ作「ヘブン」「There is no place like Tokyo today!」は彼が演りたい音楽を演りたいように演ったソロ作となっていました。

そして今回のアルバムについても、まさにそんな曽我部恵一が演りたい音楽だけどサニーデイとしては発表できなかった楽曲が収録されたアルバムになっているように感じました。ジャンル的にはバラバラ感が強く、1曲目の「Cello Song」はエレクトロ色の強い楽曲ですし、「ただ一度」はサイケ感もあるバンドサウンドが特徴的。さらに「冬のドライブ」ではゆらゆら帝国か?と思うような、空間を生かしたシンプルでサイケなバンドサウンドの楽曲に仕上がっています。

比較的、サイケ感の強い楽曲にちょっとビックリする序盤から一転、「どっか」はアコギで聴かせるフォーキーな作品に。「永久ミント機関」は爽快なシティポップ風の作品になっていますし、「ブルーミント」はアコギで静かに聴かせるポップチューンに。ここらへんはサニーデイな曽我部が好きな人にも気に入りそうなポップチューンになっています。

その後は、音頭風のサウンドにダビーな処理を加えた「戦争反対音頭」や、幻想的なサウンドが特徴的な「満月ライン」など、本当にどの曲もバラバラと言えるようなサウンドが特徴的。彼がサニーデイとしては演れなかった、あるいは演りそこねたような楽曲が次々と登場していきます。そのため、アルバム全体としてはちょっと統一感のないような感じもしないではないのですが、それ以上に1曲1曲、非常に凝った作品が続き、メロディーラインにもインパクトがあり、何よりも勢いがあります。結果、アルバム全体としては曽我部恵一の勢いを感じさせる傑作アルバムに仕上がっていました。

また、もうひとつ特徴的なのがその歌詞の世界で、一言でいえば、日常と社会を交差するような歌詞が特徴的。「冬のドライブ」や「どっか」のような、日常に立脚したような歌詞が特徴的なのですが、「冬のドライブ」では「動物もウイルスもみな同じ」というコロナ禍を彷彿したような一説が登場したり、アルバムの中では「戦争反対音頭」なんていう社会派的な曲もあったりします。そして一番特徴的なのが「Sometimes In Tokyo City」で、東京の今の風景を描いたような歌詞なのですが、その中でも社会派的な視点も登場してきたりしています。よくよく考えれば、「日常的な歌詞」と「社会派な歌詞」というのは、それぞれ別々・・・と考えがちなのですが、間違いなく日常というのは社会の中で成り立っている訳で、そういう意味では両者は本来、切り離せられないものなのかもしれません。今回の曽我部恵一のアルバムでは、そんな「日常」と「社会」が交差する場所を描いたような歌詞が印象に残ります。

既に紹介した2020年年間ベストアルバムでも10位にランクインさせたように、間違いなく、2020年を代表する傑作アルバムだった本作。サニーデイの「いいね!」も傑作でしたが、個人的には本作の方が、より曽我部恵一の本質に迫った傑作アルバムだったように感じます。これだけ多作でありながら、このクオリティーを維持し続けるあたりに驚愕してしまうのですが、2021年もまだまだ彼の勢いは止まらなそう。これからの活躍も楽しみです!

評価:★★★★★

曽我部恵一 過去の作品
キラキラ!(曽我部恵一BAND)
ハピネス!(曽我部恵一BAND)
ソカバンのみんなのロック!(曽我部恵一BAND)
Sings
けいちゃん
LIVE LOVE
トーキョー・コーリング(曽我部恵一BAND)
曽我部恵一 BEST 2001-2013
My Friend Keiichi
ヘブン
There is no place like Tokyo today!
The Best Of Keiichi Sokabe -The Rose Years 2004-2019-
純情LIVE(曽我部恵一と真黒毛ぼっくす)

| | コメント (0)

2021年2月16日 (火)

音楽好きが「聴いておくべき曲」をカバー

Title:ベルカント号のSONGBOOKⅠ
Musician:ムジカ・ピッコリーノ

Title:ベルカント号のSONGBOOKⅡ
Musician:ムジカ・ピッコリーノ

特に子育て世代の方には、いまさら言うまでもない話かもしれませんが、「子供向け」ながらも大人もうならせるような非常に優れた番組が少なくないのがNHK教育。現在、毎週金曜日に放送させている子供向けの音楽教育番組「ムジカ・ピッコリーノ」も、「子供向け」の番組ながらも、大人から見てもあなどれない、優れた音楽番組となっています。今回紹介するアルバムは、2018年以降に放送された第6シリーズ、第7シリーズで取り上げられた楽曲を収録した作品となっているのですが、番組を見ていなくても、音楽が好きならアルバムだけでもチェックしてみて損のないカバーアルバムに仕上がっています。

番組の内容としては、音楽をなくした仮想空間の「ムジカ・ムンド」にさまよう「モンストロ」という怪獣を音楽の力で救出するというストーリー。「モンストロ」はそれぞれ、楽曲の記憶を有していて、ベルカント号のメンバーが、「モンストロ」が断片的に提示する楽曲の記憶をヒントに、その楽曲を演奏することにより「モンストロ」を救出するというストーリーとなっています。

まず、この楽曲を演奏するベルカント号のメンバー、ハッチェル楽団の構成員があなどれません。ボーカルは、あのOKAMOTO'Sのボーカル、オカモトショウ。ギターにはペトローズのメンバーで、東京事変にも「浮雲」の名前で参加している長岡亮介が参加。そのほか、藤原さくらなども参加しており、このメンバーによるカバーアルバム、というだけで聴く価値を感じる方も少なくないのではないでしょうか。

さらに素晴らしいのがカバーしている楽曲の数々。基本的に「音楽教育番組」ということなのですが、音楽が好きならば、まずはチェックしておくべきなスタンダードナンバーが数多く収録されています。それもジャンル的にはロックやポップスからスタートし、J-POPや演歌、アイドル歌謡曲にテクノポップ、ボサノヴァ、ラテン、クラシックに日本の民謡や、沖縄民謡まで網羅。それも「音楽の教科書」的な昔からの「唱歌」的な曲ではなく、音楽的な評価が高いポピュラーミュージックがずらりとならびます。

そもそも「SONGBOOKⅠ」の冒頭を飾る曲からして、くるりの「ばらの花」。さらにThe Whoの「My Generation」が続いたかと思えば、ガーシュウィンの「アイ・ガット・リズム」、山口百恵の「プレイバックPartⅡ」に、なんとオアシスの「ワンダーウォール」まで登場。その後もRIP SLYMEに水前寺清子にニュー・オーダーの「ブルーマンデー」まで登場。古今東西、ポピュラーミュージックとして聴いておくべきスタンダードナンバーが並びます。

「SONGBOOKⅡ」にしても、はっぴいえんどの「風をあつめて」からスタート。YMOの「TECHNOPOLIS」や嘉納昌吉の「ハイサイおじさん」、レッド・ツェッペリンの「イミグラント・ソング」ではおなじみのヘヴィーなギターリフとボーカルの咆哮もしっかりとカバーしていますし、さらにはボサノヴァの名曲、アントニオ・カルロス・ジョビン「Agua De Beber」やラテンのスタンダードナンバー、Gipsy Kingsの「ボラーレ」まで網羅しています。

さらにはポピュラーミュージックの枠組みを飛び越えて、クロード・ドビュッシーの「アラベスク第1番」やベートーベンの「交響曲第9番」もしっかりとカバー。サティの「ジムノペディ第1番」では、日常会話に重ねることにより「家具の音楽」というサティのコンセプトをしっかりと体現化しています。あえて言えば、ソウルやブルース、海外のHIP HOPといったジャンルの選曲がないのが残念なのですが、それを差し引いても、まさに音楽が好きなら、このアルバムを参考に原曲をめぐってみるもの楽しいのでは?と思わせるような選曲になっています。

カバーとしては、あくまでも子供向けの音楽教育番組という立て付けのため、原曲に沿った卒のないカバーに仕上げており、この「卒がない」という点でも、参加メンバーの実力を感じさせます。ボーカルのオカモトショウも、OKAMOTO'Sで聴く時には、ボーカルの線の細さが気になっていたのですが、本作では、癖のないボーカルスタイルに徹しており、くるりの「ばらの花」とか、オアシスの「ワンダーウォール」とか、意外と原曲にもマッチした歌を聴かせてくれており、ボーカリストとしての実力を再認識しました。

変にわけわからない合唱課題曲を歌わされるよりも、このアルバムを小学校の音楽の教科書として用いた方が、よっぽど音楽の楽しさ、おもしろさを体現できるのでは?そう感じさせるカバーアルバム。音楽好きにとっても、音楽好きとして「聴くべき曲」を網羅的に楽しめるという意味でも非常に優れた選曲の作品だったと思います。いや、あらためてEテレ、あなどれません。聴いていておもわずその内容にうならされてしまったアルバムでした。

評価:どちらも★★★★★


ほかに聴いたアルバム

くのいち/775

こちらも2020年ベストアルバムを後追いで聴いた1枚。MUSIC MAGAZINE誌レゲエ部門で1位を獲得したアルバム。大阪・岸和田出身のレゲエシンガー。全5曲入りのミニアルバムなのですが、最後の「友達のうた」など典型的なのですが、仲間や地元について歌った曲がメイン。良くも悪くも下町のヤンキー的な価値観の作風になっています。サウンドはシンプルな横ノリのリズムでポップで聴きやすいスタイル。ただ、そんな中で「Bon buri」は、大麻を思いっきり肯定し礼賛する1曲になっており、賛否はともかく、今の日本でよく商業ベースで(インディーズですが)リリースできたなぁ・・・と感心する作品になっています。この1曲だけでかなりインパクトのある作品になっていました。

評価:★★★★

| | コメント (0)

2021年2月12日 (金)

より彼らしい歌詞が魅力的

Title:Nonocular violet
Musician:山中さわお

現在、事実上の活動休止状態となっているロックバンドthe pillows。しかし、the pillowsのボーカリストであり、メインライターである山中さわおは、むしろthe pillows活動休止中の今、かなり積極的な活動が目立っています。5月にはソロアルバム「ELPIS」をリリース。さらに8月にはミニアルバム「ロックンロールはいらない」をリリースし、さらに11月には本作をリリース。もともと、今年はソロ活動が中心となることが予定されており、さらにコロナ禍の中でライブ活動もままならない状況だから新曲をたくさん書いていた、というのが大きな理由のようです。

「ELPIS」「ロックンロールはいらない」が通販限定でのリリースとなったため、ある意味、もっともプロモーションされ、もっとも目立った形でのリリースとなったのが本作。実は私自身、前2作が通販限定ということもあったため未チェックとなっており、ソロ作としては久しぶりに聴く形でのアルバムとなりました。

山中さわおのソロアルバムと言えば、最初の2作「退屈な男」「DISCHARGE」は楽曲的にもthe pillowsとは一線を画するような楽曲が並ぶ、ある意味、ソロ作らしいアルバムになっていました。一方で3作目の「破壊的イノヴェーション」はthe pillowsが活動休止中にリリースされたアルバムということもあってか、比較的、the pillowsと同じベクトルを向いたアルバムになっていました。

そして今回のニューアルバム、the pillowsが事実上の活動休止中だから、ということもあるのでしょうか、いままでのアルバムの中でもっともthe pillowsのサウンドに近いアルバムという印象を受けました。基本的にthe pillowsと同様の、テンポ良いオルタナ系ギターロックを奏でるバンドサウンド色の強い作品がメイン。1曲目のタイトルチューン「Nonocular violet」の楽曲の入り方なんかは、もろthe pillowsといった感じですし、「Old fogy」の出だしのギターリフなんかも、the pillowsらしい…というよりも山中さわお節といった方がいいんでしょうね。

オルタナ系のギターロックメインの中に「オルタナティブ・ロマンチスト」のようなリズミカルなロックンロールチューンが入っていたり、「V.I.P.」のような、よりヘヴィーなサウンドを聴かせる曲が入っていたり、さらにラストの「Vegetable」のような英語詞の楽曲が入っていたりする構成も、the pillowsのアルバムと同じような楽曲構成になっています。

いままで、the pillowsの曲と比べると、山中さわおの曲はインパクトを抑えめに仕上げていたような印象を受けましたが、今回のアルバムで言えば「サナトリウムの長い午後」のような、the pillowsのシングル曲としてリリースしても違和感のないようなフックの効いた曲も収録されており、そういう意味でもソロアルバムとしての力の入りようも感じます。

それだけに、これ、the pillowsとしてリリースしてもよかったのでは?なんて思ったり思わなかったりするのですが、一方で、孤独の中での人との絆を歌うような、山中さわおの色を、the pillowsの曲よりも強く感じます。

「笑われたってかまわないぜ
キミとの再会も叶うだろう」
(「Nonocular violet」より 作詞 山中さわお)

「はみだし者が二人で
はしゃいでた
自由だったな」
(「POP UP RUNAWAYS」より 作詞 山中さわお)

みたいな歌詞は、実に彼らしいと言えるでしょう。そして一方、その向こうにある希望を力強く歌っているのも特徴的で、

「輝く未来はきっと 目には見えない花を
育て続ける僕らに手招きしてるって
絵本のような夢はいつ覚める」
(「Nonocular violet」より 作詞 山中さわお)

「行こうぜ 心を奪い返しに行こう
秘策も武器もない それでいい
失うモノもない」
(「サナトリウムの長い午後」より 作詞 山中さわお)

なんて、どこか寂しげな要素を帯びつつも、希望を歌う歌詞に彼らしさも強く感じます。

そんな訳で、the pillowsが活動していない穴を埋めるかのような、山中さわおらしい作品が収録されたアルバムで、the pillowsファンも間違いなく気に入りそうなアルバムに仕上がっていました。個人的にも、いままでの彼のソロ作の中で一番のお気に入り。昨年リリースした残りの2作、未チェックだったのですが、やはり聴いてみようかなぁ・・・。でも、2021年は、the pillowsの活動再開も期待したいのですが。

評価:★★★★★

山中さわお 過去の作品
DISCHARGE
退屈な男
破壊的イノヴェーション


ほかに聴いたアルバム

Face to Face/雨のパレード

昨年1月にアルバム「BORDERLESS」をリリースしたばかりの雨のパレードですが、なんと12月にもう1枚アルバムをリリース。どうも山中さわおのソロと同様に、コロナ禍の影響でライブツアーがなくなったため、曲を書き始めた影響のようです。ファンとしてはうれしい話で、コロナ禍の副産物と言えるのかもしれません。楽曲的には、いつもの彼らと同様、AOR、シティポップ的な要素を中心に、エレクトロ、ファンク、ロックなどの要素を取り入れた楽曲。全体的にはメロウでスタイリッシュな、気だるい雰囲気の曲が多く、ウェットさはいままで以上。いままで、音楽的な偏差値の高さと反してインパクトの弱さが気になっていたのですが、いままでのアルバムの中では一番印象に残ったかもしれません。もうちょっとコアになる曲があればおもしろくなると思うのですが。

評価:★★★★

雨のパレード 過去の作品
Change your pops
Reason of Black Color
BORDERLESS

新小岩/ZORN

正直、BillboardのHot Albumsでこのアルバムがいきなり1位を獲得したのには驚きました。以前は般若主宰の昭和レコードに所属していたものの2019年に脱退。本作は脱退後初となる9枚目のオリジナルアルバム。「新小岩」という地名をタイトルにした通り、彼の出身地である新小岩での生活をつづったようなラップが特徴的。今どきなトラップの要素をふんだんにいれつつ、地元での仲間たちとの生活をラップしています。貧乏なアンダーグラウンド的な生活の実態を描く、といった社会派的な要素はないため、いわゆる「下町のヤンキー」然とした生活スタイルには全く共感できないのですが、ダウナーでメランコリックな雰囲気を漂わせたラップは確かに魅力的。まだまだこれからも注目を集めそうなラッパーです。

評価:★★★★

| | コメント (0)

その他のカテゴリー

DVD・Blu-ray その他 アルバムレビュー(洋楽)2008年 アルバムレビュー(洋楽)2009年 アルバムレビュー(洋楽)2010年 アルバムレビュー(洋楽)2011年 アルバムレビュー(洋楽)2012年 アルバムレビュー(洋楽)2013年 アルバムレビュー(洋楽)2014年 アルバムレビュー(洋楽)2015年 アルバムレビュー(洋楽)2016年 アルバムレビュー(洋楽)2017年 アルバムレビュー(洋楽)2018年 アルバムレビュー(洋楽)2019年 アルバムレビュー(洋楽)2020年 アルバムレビュー(洋楽)2021年 アルバムレビュー(邦楽)2008年 アルバムレビュー(邦楽)2009年 アルバムレビュー(邦楽)2010年 アルバムレビュー(邦楽)2011年 アルバムレビュー(邦楽)2012年 アルバムレビュー(邦楽)2013年 アルバムレビュー(邦楽)2014年 アルバムレビュー(邦楽)2015年 アルバムレビュー(邦楽)2016年 アルバムレビュー(邦楽)2017年 アルバムレビュー(邦楽)2018年 アルバムレビュー(邦楽)2019年 アルバムレビュー(邦楽)2020年 アルバムレビュー(邦楽)2021年 ヒットチャート ヒットチャート2010年 ヒットチャート2011年 ヒットチャート2012年 ヒットチャート2013年 ヒットチャート2014年 ヒットチャート2015年 ヒットチャート2016年 ヒットチャート2017年 ヒットチャート2018年 ヒットチャート2019年 ヒットチャート2020年 ヒットチャート2021年 ライブレポート2011年 ライブレポート2012年 ライブレポート2013年 ライブレポート2014年 ライブレポート2015年 ライブレポート2016年 ライブレポート2017年 ライブレポート2018年 ライブレポート2019年 ライブレポート2020年 ライブレポート2021年 ライブレポート~2010年 名古屋圏フェス・イベント情報 日記・コラム・つぶやき 映画・テレビ 書籍・雑誌 音楽コラム 音楽ニュース