アルバムレビュー(洋楽)2021年

2021年3月 2日 (火)

80歳目前でのアルバムデビュー!

Title:Found! One Soul Singer
Musician:Sonny Green

今回紹介するミュージシャンは「知る人ぞ知る」的な存在だったらしい、アメリカはルイジアナ出身の男性ソウルシンガー。来年80歳になるという超ベテランミュージシャンなのですが、なんと、これがデビューアルバムとなるそうです。ただもっとも、80歳間際で超遅咲きのデビューを果たしたシンガー、という訳ではなく、1969年にシングルデビュー。1973年にはシングル「Don't Write A Check WIht Your Mouth」がR&Bチャートで89位にランクインするスマッシュヒットも記録しているそうです。ただ、その後はコンピレーションアルバムなどへのゲスト参加はあったものの録音は途絶え、音楽フェスなどに参加するなど、歌い続けてはいたそうですが、アルバムをリリースする機会には恵まれなかったそうです。

そんな「知る人ぞ知る」的な存在だった彼ですが、なんと、ここに来てアルバムリリースを果たし、齢80歳間際になり、待望のアルバムデビューとなりました。個人的には、そんな彼を知ったのは雑誌「BLUES&SOUL RECORDS」誌で取り上げられていたのがきっかけなのですが、アルバムを聴いてみて、ソウルシンガーとしてのパワーにまずは驚かされます。アルバムはボビー・ブランドのカバー「I'm So Tired」からスタートするのですが、ドスの効いた力強いだみ声のボーカルをまずは聴かせます。声に伸びがあり、艶すら感じられるその歌声は、80歳間際だとは信じられないくらい。緩急つけたボーカルも感情たっぷりで、これだけの力を持ったソウルシンガーが、いままで埋もれてきたことにもビックリ。70年代から録音が途切れていた彼ですが、現役感が全く失っていないのは、その後も歌い続けてきたからでしょう。

アップテンポでパワフルなソウルボーカルを聴かせるような曲も素晴らしいのですが、それ以上に彼のシンガーとしての実力を感じさせるのがバラードナンバーで、「Are You Sure」は、震えるようなボーカルも聴かせる、まさに泣きのバラード。感情こもったピアノをバックに聴かせるボーカルが素晴らしく、やさしい歌声を聴かせてくれたかと思えば、一転、パワフルなボーカルでリスナーの耳を奪い取ります。60年代70年代の彼のシングル曲は聴いたことないのですが、おそらくボーカリストとしての衰えが全くないであろうことを感じさせます。

8曲目の「If You Want Me To Keep Loving You」も本作の聴きどころの1曲。もともとは1971年にリリースされたシングル「Jody's On The Run」のB面曲だったそうですが、次のシングル「Come And See Me」のB面にも収録され、彼の「代表曲」とも言える楽曲だそうで、今回のアルバムでもリメイクされ収録されているあたりに、彼のこの曲の対する思い入れの深さを感じます。確かに、ミディアムブルースのこの曲は、彼がそのボーカルをパワフルに歌い上げている、ボーカリストとしての持ち味をよく発揮されているブルースナンバーとなっており、思い入れの深さも納得。彼のボーカリストとしての実力を存分に感じる曲になっています。

アップテンポなソウルナンバーではパワフルに歌い上げるボーカルを聴かせ、ブルースナンバーでは、感情こもったボーカル、さらにソウルバラードでは、伸びやかで艶のあるボーカルでリスナーを魅了する・・・これだけのソウルシンガーがいままで埋もれていたのが不思議になるのと当時に、それだけアメリアのミュージックシーンの奥の深さを感じてしまうアルバムでした。ラストを飾る「Be Ever Wonderful」もタイトル通り、まだまだソウル/ブルースシンガーとして現役だ、ということを主張するようにファルセット気味のボーカルも入れて、伸びやかな歌声を聴かせるバラードナンバー。タイトル通り、まさにソウルシンガーを見つけた!!と主張したくなるような、驚くべき魅力的なボーカルを最後の最後まで聴かせてくれます。

衰えのない現役感あふれるボーカルでこれだけ魅力的な歌声を聴かせてくれるだけに、80歳とはいえ、まだまだこれからの活躍も期待したくなってしまう1枚。とはいえ、年齢が年齢なだけに「ご無理しないように・・・」とは言いたくなってしまうのですが、でも、次のアルバム、さらには可能であれば来日ライブまで期待したくなってしまうほど!まさに「見つけた!」と言いたくなるシンガーでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Song of Sage: Post Panic!/Navi Blue

本作が2作目となるアメリカのラッパーによるアルバム。ピアノやストリングスを用いた、美しいトラックをループさせ、その上に語るようなスタイルのラップを載せるスタイルが印象的。非常に美しいサウンドが終始、耳を惹くアルバムになっており、聴いていて心地よさを感じます。淡々と語るような落ち着いたラップもサウンドに絶妙にマッチ。ついつい聴き惚れてしまう、そんな傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

Heaux Tales/Jazmine Sullivan

フィラデルフィア出身の女性ソウルシンガーによる4枚目のオリジナルアルバム。全14曲入りのアルバムですが、うち約半数は様々な女性の語りによるトラック。伸びやかで美しい歌声で歌い上げる正統派のソウルに、ラップなどの要素も加わり、トラック的にも今どきへしっかりとアップデートされた作品に。ただ、アカペラ的な「Lost One」やアコギをバックにしんみり聴かせる「Girl Like Me」など、やはり彼女の歌声を中心に据えてしっかりと聴かせる楽曲が大きな魅力になっている作品でした。

評価:★★★★★

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2021年2月27日 (土)

ダイナミックなサウンドが心地よい

Title:Chants de femmes des Asturies
Musician:MUGA

今回も2020年のベストアルバムの後追いで聴いた1枚。本作は、Musici Magazine誌ワールドミュージック部門で9位を獲得したアルバム。スペインの北西部、アストゥリアス州の女性シンガー、クララ・ディアス・マルケスと、同じくスペインはブルターニュ地方のヴァイオリニスト、トマス・フェルダーとギタリストのマルタン・シャプロンによる3人組のユニット。そこに4人のゲストを迎えて作成されたのが本作だそうです。

ジャンル的にはヨーロッパトラッドということになるのでしょう。まず耳に飛び込んでくるのは、クララの力強いボーカル。ちょっとしゃがれた渋みのあるボーカルながらも声量がありパワフルなボーカルが強い魅力。うなるようにこぶしを利かせた節回しと、伸びやかなボーカルが耳を惹きます。ケルト民謡も彷彿とさせるようなメランコリックさと、勇壮さを感じさせる彼女のボーカルが、まずこのバンドの大きな魅力となっています。

そして、このボーカルと同じくらい惹かれたのが、非常にパワフルで力強いバンドサウンドでした。アルバムの冒頭「Anada de Viodo」は、いきなりヘヴィーでノイジーなギターサウンドからスタート。さらにバスドラの力強いリズムと、分厚いバイオリンの音色が重なり、ダイナミックな楽曲に仕上がっていました。続く「Ramu la Madalena de Tresmonte」も、まずは飛び込んでくるヘヴィーなギターとドラムスの音色に、ヨーロッパトラッド以上にロック的な要素を感じさせます。その後入ってくる、エキゾチックなフィドルの音色と、クララののびやかなボーカルが加わることにより、ロック的なダイナミズムさとトラッド的なエキゾチックな雰囲気が混ざり合う、独特の音楽性を醸し出していました。

その後も「Los Titos de Benllera」に至っては、ハードロックか、メタルじゃないか?というほどのヘヴィーなギターリフを前面に押し出していますし、ラストの「El Corri-Corri」もサイケデリック的な要素を感じさせるサウンドが魅力的。最初から最後まで、ある種「ロック的」と言えるダイナミックなバンドサウンドが大きな魅力となっているアルバムに仕上がっています。

そしてそんなパワフルなバンドサウンドに正面から対峙するクララのボーカルと、トマスのヴァイオリンの音色がまたパワフルかつスリリング。ゲストを加えたメンバーそれぞれが、真正面からそれぞれの音をぶつけ合い、そしてひとつのサウンドに昇華していく、ある種のすさまじさを感じる作品になっており、彼らの奏でる歌やサウンドに終始圧巻される作品でした。

ヨーロッパトラッドが好きならもちろんのこと、この作品、なにげに実はロックリスナーが楽しめるアルバムなのでは?とも感じるようなダイナミックな作品。聴き終わった後に、すさまじいものを聴いたと、しばし茫然としてしまうようなアルバムでした。こういうバンド、ライブで聴いたらすごいことになるんだろうなぁ・・・コロナ禍が終わったら、是非一度、日本にも来てほしいなぁ・・・。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

ManifestaSITI2020/Dato Siti Nurhaliza

こちらも2020年ベストアルバムの後追い。Music Magazine誌ワールドミュージック部門で、こちらは7位となったアルバム。マレーシアを代表する女性シンガーによる新作。哀愁感たっぷりに歌い上げる楽曲が並ぶ作品で、まさに「大衆歌手」といったイメージがピッタリくるようなアルバム。メロディーや節回しには歌謡曲的な部分も強く感じられ、日本人にとっても耳なじみやすい作品だと思います。確かにマレーシアを代表するような大物然とした雰囲気が漂ってくるアルバム。いい意味で、日本とマレーシア、同じアジアなんだなぁ、とも感じた作品でした。

評価:★★★★

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2021年2月26日 (金)

アフロビートにあか抜けたシティポップが?

Title:Everybody Get Agenda
Musician:Bantu

今回紹介するアルバムも、2020年のベストアルバムを後追いで聴いた1枚。こちらもMusic Magazine誌ワールドミュージック部門で8位にランクインしたアルバムとなります。このBantuというバンドは、もともとドイツでラッパーとして活躍していたナイジェリア系ドイツ人、Ade Bantuを中心とした13人組のアフロビートのバンド。今はナイジェリアに戻り、Bantuを率いて活躍。本作は、その中でリリースされた1枚ということになります。

そんな彼らのアルバムですが、まずは陽気なアフロビートの楽曲がとても楽しいアルバムとなっています。まさに1曲目「Animal Collective」はアフロビートの王道ともいうべき作品になっており、陽気なホーンセッションも加わったアップテンポのビートがとにかく楽しい楽曲。続く「Disrupt the Programme」も同じく、疾走感あるアフロビートなナンバーになっており、序盤からテンションがあがっていきます。

その後もハイテンポなアフロビートながらもメランコリックなメロが印象に残る「Me,Myself and I」や、アフロビートの創始者、フェラ・クティの息子で、自身もアフロビートのミュージシャンとして活躍するシェウン・クティが参加した「Yeye Theory」など、最後までハイテンションなビートに心が躍るアフロビートの楽曲が続いていきます。

ただ、本作の大きな特徴として、アフロビートのリズムが大きなインパクトとなっている一方で、妙にあか抜けたサウンドやメロディーラインが要所要所に顔をのぞかせる点が印象に残ります。「Water Cemetery」などもメロウなメロディーラインに、ラップを取り入れたHIP HOP的な要素を感じさせますし、「Cash and Carry」「Killers&Looters」などはジャジーなサウンドが随所に顔をのぞかせます。まあ、後ろの2曲については、同じくアフリカ音楽であるハイライフの影響を大きく受けている、といった感じではあるのですが。

さらにサウンド的に「あか抜けた」ものを感じさせるのが終盤の2曲で、「Man Know Man」は女性ボーカルによるメロウな曲調とフュージョン風のギターサウンドが印象的、「Big Lie」も男性ボーカルののびやかで爽やかなメロディーラインが印象に残る楽曲で、どちらもジャズ、ソウルの要素を入れた都会的なポップチューンとなっており、ジャンル的にはむしろ「シティポップ」とカテゴライズされそうな音楽。アフロビートの印象からするとかなりあか抜けた感じのするサウンドになっているのですが、トライバルな要素の強いアフロビートの作品との対比が非常にユニークさを感じさせるアルバムになっていました。

ここらへんは、もともとAde Bantuがドイツのベルリンで活躍していたミュージシャンだから、ということも大きいのでしょうか。ここらへんの西洋的な部分とアフリカ的な部分の対比が非常にユニークかつ上手く機能している傑作アルバムになっていたと思います。アフロビートが好きな方はもちろん、シティポップが好きな方にも惹かれる部分があるアルバムではないでしょうか。トライバルなビートとシティポップ的なサウンド、どちらも心地よく楽しめた傑作でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Whole Lotta Red/Playboi Carti

アメリカはアトランタ出身の人気上昇中のラッパー、Playboi Cartiによる3枚目のアルバム。本作では自身初となるBillboardチャート1位を獲得するなど、大きな注目を集めています。サウンド的にはいまだに流行が続くトラップのアルバムなのですが、一般にトラップとしてイメージされるようなダウナーでメランコリックな雰囲気というよりは軽快なポップといった感じ。そのため、ポップな耳でも聴きやすいアルバムとなっており、確かにこれは売れそうなアルバムだなぁ、ということを実感できる作品になっていました。

評価:★★★★★

Woman Of Steel/Yemi Alade

本作も2020年ベストアルバムの後追い。Music Magazine誌ワールドミュージック部門で6位を獲得したアルバム。ナイジェリアで人気の女性シンガーによるアルバム。楽曲としては、アフリカ音楽というよりもむしろラテンの色合いの強いアルバムで、メランコリックなフレーズが印象に残る作品。伸びやかなボーカルで聴かせる作品もありますが、基本的にはリズミカルな明るいナンバーが目立つアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★

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2021年2月22日 (月)

実験的だがポップでユーモアも

Title:Figures
Musician:Aksak Maboul

今日紹介するのも、2020年ベストアルバムを後追いした1枚。今回はMusic Magazine誌ロック(ヨーロッパほか)部門で1位を獲得した作品。「アクサク・マブール」と読むこのバンドは、1977年にマーク・オランデルとヴィンセント・ケニスによって結成されたベルギーのプログレッシブ・ロック・バンド。1977年と80年に2枚のアルバムをリリースしたものの、その後、活動を休止。2010年には再結成を果たし、ヴェロニク・ヴィンセント&アクサク・マブール名義で2枚のアルバムをリリース。そして「アクサク・マブール」名義では、実に1980年のアルバムから約40年ぶりとなるニューアルバムが本作となります。

今回、「ロック(ヨーロッパほか)部門」で1位を獲得したのが本作を聴くきっかけなのですが、アクサス・マブールというバンドは、実は音源を聴くのはもちろん、その名前を聞くのも今回がはじめて。前提となる彼らへの知識が全くない状況で今回のアルバムを聴いてみたのですが、2枚組約1時間15分、様々な「音」を取り込んだバラエティー富んだ内容に、一気に魅了された作品になっていました。

まずイントロ的な1曲目に続いてスタートする「C'est Charles」は打ち込みがメインとなるリズミカルなナンバー。なのですが、そのリズムは細かいハイハットの連続音は、まさに最近はやりのトラップからの影響を感じさせるナンバー。結成が1977年という超ベテランバンドにも関わらず、どこか今どきを感じさせるサウンドにまずは驚かされます。

かと思えば「Histoires de fous」はエレクトロピアノのナンバーがメランコリックで、若干レトロ的な雰囲気を感じさせる楽曲に。フランス語のボーカルも、哀愁感にピッタリとマッチ。そんな楽曲があるかと思えば「Formerly Known As Defile」はピアノやベル、打ち込みのリズムなどが軽快で楽しいおもちゃ箱のようなポップな楽曲。そのようにバラエティー豊かにアルバムは進行していきます。

Disc2になってもエレクトロな打ち込みでテンポよくリズムを聴かせつつ、その中に男女の会話を組み込んでどこかユーモラスな「Dramuscule」、インターリュード的な曲ながらもメタリックなサウンドが不気味な雰囲気を醸し出す「Excerpt from Uccellini」、ピアノやギターをアバンギャルドに聴かせる「Un certain M.」などなど、様々な作風の曲が展開されていきます。

特にDisc2は1分程度の作品に様々なアイディアを詰め込んだ「実験」的な曲も多く、そういう意味でもいかにもプログレ・バンド然とした要素も感じさせます。ただ、全体的には実験的な作品にもどこかポップやユーモラスな要素を詰め込んでおり、アルバム全体としては決して難解といったイメージはありません。むしろDisc2でも「Fatrasie pulverisee」は男女デゥオのフレンチポップとなっておりメロディアスで聴きやすさすら感じさせますし、ラストを飾る「Tout a une fin」も8分にも及ぶ曲になっており、サウンドには挑戦的な要素も感じさせるのですが、ポップでメロディアスな歌がしっかりと流れており、むしろ非常にポピュラリティーのある聴きやすさを感じさせます。

実験的な作風ながらもポップでユーモラスなサウンドを最後まで楽しむことが出来る傑作アルバム。大ベテランバンドで40年ぶりの新作ということですが、古さは全く感じる。逆に今風のサウンドすら感じさせる点も驚きすら感じます。今回彼らの音源はもちろん、名前もはじめて聞いたのですが、まだまだ私の知らない素晴らしいバンドはたくさんいるということですね。昔のアルバムもさかのぼって聴きたくなった、そんな傑作でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Siti of Unguja(Romance Revolution on Zanzibar)/Siti Muharam

アフリカ東海岸のインド洋上のある諸島、ザンジバル。そのザンジバルの女性シンガー、Siti Muharamのデビューアルバム。本作も2020年ベストアルバムを後追いで聴いた1枚で、本作がMusic Magazine誌ワールドミュージック部門で1位に輝いた作品。位置づけ的には「アフリカの音楽」となるのですが、シタールが鳴り響き、こぶしを効かせたボーカルを聴かせるスタイルは、むしろインド音楽の影響を強く受けた作品。ただ一方ではアラブ系の音楽やアフリカ系の音楽の要素も混じっており、独特の音楽性を聴かせてくれます。どこか妖艶な雰囲気も魅力的。アフリカの音楽の幅広さを感じさせる1枚でした。

評価:★★★★

Bom Mesmo E Estar Debaixo D'Agua/Luedji Luna

本作も2020年ベストアルバムを後追いで聴いた1枚。本作は、Music Magazine誌ブラジルミュージック部門で1位を獲得した作品。サンパウロを拠点に活動しているアフリカ系の女性シンガーによる作品で、ムーディーでジャジーな作風ながらも、一方ではアフリカ音楽からの流れを感じさせるトライバルなサウンドや、ラテン的な要素も感じさせる音楽で、まさにワールドワイドな音楽性を楽しめる作品になっています。ブラジル音楽といっても、その奥にある音楽性の深さを感じさせる傑作でした。

評価:★★★★★

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2021年2月21日 (日)

ハイライフの魅力を現在に伝える

Title:Alewa
Musician:Santrofi

今回紹介するアルバムも、2020年のベストアルバムとして取り上げられた作品のうち、未聴のアルバムを後追いで聴いたアルバム。今回もMUSIC MAGAZINE誌ワールドミュージック部門。今回は第5位にランクインしたアルバムです。19世紀に登場し、ガーナやナイジェリアなどに広がった、アフリカ音楽と西洋音楽を融合させた音楽、ハイライフ。今回紹介するSantrofiというバンドは、そんなハイライフを現在によみがえらせたガーナのバンドだそうです。

ハイライフという音楽自体は、このサイトでも何度か紹介したことがあります。ただ、いままで「ハイライフ」として紹介したアルバムは、ベテランミュージシャンや過去の音源のアンソロジー的な作品。しかし今回のアルバムは、ガーナの若手バンドで、まさに現在進行形の「ハイライフ」を奏でるバンド。イメージ的には、一昔前に流行ったジャンルのようですが、このアルバムを聴くと、今なお、しっかりと音楽のジャンルとして通用することがはっきりとします。

もともとハイライフという音楽は西洋音楽とアフリカ音楽の融合というのが大きな特徴のようですが、彼らの作品に関しては、その傾向がかなり顕著な内容となっています。1曲目「Kokrokoo」は、コールアンドレスポンスによる合唱とパーカッションのみという、まさにアフリカの音楽をそのまま収録したような内容に。続く「Alewa(Black and White)」はホーンセッションも入り、ジャズの要素も強く、いかにもハイライフといったイメージの曲なのですが、まだトライバルな雰囲気も強く感じる曲になっています。

しかし、続く「Kwaa kwaa」はギターサウンドがソウルテイストの作風になっていますし、ある意味タイトルそのまま「Africa」はアフロビート的なリズムが楽しめる反面、ギターに関しては、かなりロックのテイストの強く作品になっており、まさにアフリカ音楽と西洋のポピュラーミュージックの融合という作品に仕上がっています。

さらに彼らの音楽的な要素の幅広さはそれだけにとどまりません。「Odo maba」は陽気なラテンテイストのサウンドにジャズを融合させたような、心地よいポップチューンに。「Konongo kaya」も哀愁感たっぷりのサウンドはラテンの要素を感じさせます。もともとハイライフにはルンバやカリプソなどラテン音楽的な要素を強く感じる特徴があるのですが、まさにそんなラテンフレーバーを強く感じさせる心地よいポップソングに。そこに加わるポリリズムやコールアンドレスポンスなどのアフリカ的な要素が心地よく、まさにハイライフの魅力を現在に伝えているといっても間違いない作品が並びます。

そしてラストを飾る「Mobo」は非常にブルージーな作品に。ギターの音色もブルースの影響を感じさせますし、しんみりと歌い上げるボーカルもまさにブルース。このブルースとの融合というのは、個人的にはあまりハイライフとしてのイメージは強くないのですが、ただ、最後までしっかりとアフリカ音楽と西洋音楽の融合というハイライフの特徴をしっかりと踏まえた作品にまとめあげていました。

そんなまさにハイライフの魅力を現在に伝えた今回のアルバム。アフリカ的なトライバルな魅力と、洗練された西洋音楽のポピュラリティーを同時に感じるという、非常に優れた作品になっており、意外とポップな作風がゆえに、普段、ワールドミュージックに聴きなれていない方にもおすすめできる作品だったかもしれません。ベストアルバムの上位にランクインしてくるのも納得の傑作アルバムでした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Un Canto Por Mexico,Vol.1/Natalia Lafourcade

本作も2020年ベストアルバムを後追いで聴いた1枚。Music Magazine誌の、こちらはラテン部門で1位を獲得したアルバム。メキシコのシンガーソングライターによるアルバムだそうですが、ラテン調の作品ながらもポップでメロディアス。爽快で心地よいナンバーが並んでおり、日本人にとっても耳なじみやすい、いい意味でわかりやすいメロディーラインと、美しい彼女のボーカルが実に魅力的なナンバー。どこか感じさせるノスタルジックな雰囲気も実に魅力的な傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

What To Look For In Summer/Belle and Sebastian

コロナ禍により、ライブツアーやレコーディングが白紙になってしまったベルセバが、その代わりとしてリリースされたライブアルバム。2019年のワールドツアーからベストアクトを収録した2枚組のアルバムになっているのですが、彼ららしくメロディアスなポップチューンが並ぶ作品で、ライブならではの多幸感を作品から強く感じることの出来るアルバムに。ベルセバのベスト的な感覚でも楽しめるアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★★

Belle and Sebastian 過去の作品
Write About Love(ライト・アバウト・ラヴ~愛の手紙~)
Girls in Peacetime Want To Dance
How To Solve Our Human Problems
Days of The Bagnold Summer

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2021年2月20日 (土)

郷愁感あるサウンドは日本的??

Title:The Dancing Devils Of Djibouti
Musician:Groupe RTD

今回紹介するのも、ここ最近続いている、2020年のベストアルバムを後追いで聴いた1枚。今回もMUSIC MAGAZINE誌ワールドミュージック部門第3位にランクインしていたアルバム。日本にはちょっとなじみのない国かもしれませんが・・・エチオピアの北東、ソマリアにも隣接しているアフリカの国、ジブチ共和国。彼ら、Groupe RTDは、その国営ラジオ局のオフィシャルバンド。国営ラジオ局の厳しい制限に従ってわずか3日間で録音されたそうで、ジブチ初の外国向けのレコーディングアルバムとなるそうです。

これが初の外国向け、ということからもわかるように、いままでジブチの音楽というのはほとんど知られていませんでした。そんな中リリースされた本作は非常に貴重な音源とも言えるのですが、内容的にも非常に陽気な雰囲気で楽しい作品が並ぶ傑作に仕上がっていました。ちょっとアラビアテイストの混じった、エキゾチックな香り漂う「Buuraha U Dheer」に、同じく郷愁感漂うホーンの音色が印象的な「Raga Kaan Ka'Eegtow」など、隣国エチオピアの音楽では、日本での演歌に通じるような郷愁感ただようメロディーラインの曲が大きな特徴なのですが、本作もそんな郷愁感漂う作品が目立ちます。続く「Kuusha Caarey」なども、そんな郷愁感漂うメロが印象的ですし、「Raani」もどこか日本民謡的。こぶしの利いたボーカルには日本人の琴線に触れる部分も?

本作の紹介文には、「ジャズ、レゲエ、ダブ、ボリウッドなどの音楽スタイルを取り入れた」という記載があります。実際、「Suuban」などレゲエ的な要素も感じますし、ホーンセッションの軽快なリズムにジャズ的な要素も垣間見れます。また陽気でアップテンポなエキゾチックなサウンドはまさにボリウッドといった感じでしょうか。あまり知られていない地域の音楽ながらも、非常に様々なジャンルからの音楽を取り込んだ豊かな音楽的土壌を感じさせます。

ただ、それ以上に、前述した通り、どこか日本の民謡にも通じるような、日本人の琴線に触れそうなサウンドやメロディーが顔をのぞかせるのが、私たちにとっては大きな魅力ではないでしょうか。「Halkaasad Hhigi Magtiisa」のこぶしの利いたボーカルなど、まさに民謡的ですし、「liso Daymo」の横ノリのリズムも、どこかなじみを感じてしまいます。もちろん日本の音楽が影響を与えた・・・なんてことは思わないのですが、ひょっとしたらどこかつながっている部分があるのでは?なんて想像力をたくましくしてしまいます。

録音状態としてはフィールドレコーディング的な作品もあったり、サウンド的にはチープな部分があったりと、いろいろと泥臭さを感じる部分もあるのも大きな魅力のひとつ。粗いサウンドがゆえに、現場の息遣いを感じさせる作品になっているようにも感じました。まだまだ世界には魅力的な音楽がたくさんあるんですね!日本では知られざるジブチの音楽を聴いて、あらためてそう感じた傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

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2021年2月15日 (月)

一気に駆け抜けるビート

Title:Example
Musician:Sulaimon Alao Adekunle Malaika

今回紹介するのも2020年の各種メディアでのベストアルバムを後追いで聴いた1枚。今回はMUSIC MAGAZINE誌の年間ベストアルバム、ワールドミュージック部門で2位にランクインしたSulaimon Alao Adekunle Malaikaによるアルバム。KS1 Malaikaという名前でも知られるナイジェリアのフジという音楽を奏でるミュージシャンだそうです。

この「フジ」という日本人にもなじみのある名称が付された音楽は、ナイジェリアで人気のダンスミュージックのジャンルで、もともとはラマダンの断食シーズンにおいて、夜明け前に人々を起こすために演奏された音楽のジャンル、アジサーリから生まれた音楽だそうです。この「フジ」という名前は、紛うことなく日本の「富士山」に由来しているとか。もっとも、音楽的に日本の音楽が影響を受けている、という訳ではなく、シキル・アインデ・バリスターというナイジェリアで人気のミュージシャンが、「空港で日本一高い富士山を宣伝するポスターを見て思いついた」そうで、決して日本の音楽に由来するものではないものの、日本の「富士山」から名前を拝借しているあたり、日本人にとってはちょっとうれしく感じてしまうかもしれません。

さて、そんな今回のアルバムですが、作品としては「O Se Oju Je je」という曲と「Awa Eda Ti Oba Olorun Da」という20分を超える曲が2曲並ぶだけのアルバムになっています。基本的に、その2曲とも、陽気なダンスチューンというスタイルであり、どちらもフジの楽曲であり、スタイル的には大きく変わるものではありません。

スタートして最初に耳に飛び込んでくるのは、非常にチープな打ち込みのサウンド。ある意味、「粗削り」ともいえるサウンドはいかにもアフリカ的なのですが、このサウンドが妙に印象に残ります。そして、そのあとに一気に飛び込んでくるのが、パーカッションの疾走感あふれるビート。そこにコールアンドレスポンスを基調としたボーカルがのり、リスナーを一気に狂乱の渦に巻き込むような、そんなサウンドが展開されます。

この疾走感あふれるパーカッションのグルーヴが延々と20分以上続いていくわけですから、踊りながら聴いたら間違いなくトリップできそう。これが「夜明けにみんなを起こすための音楽」だとしたら、いきなり朝一からとんでもないほとハイテンションとなるわけで、アフリカ人のアグレッシブさに驚かされます。

そんなトリップ感あふれるビートが続いていく中、非常に気持ちよいのが途中で妙にあか抜けたホーンセッションやギターの音色が入ったり、妙にあか抜けたメロディアスなフレーズが飛び込んでくる点。ただただハイテンションで続いていくビートの中でのちょうどよい清涼感となって、アルバムの中でのちょうどよい「抜け」の要素となっています。ある意味、トライバルなビートやコールアンドレスポンスと、妙にあか抜けたメロディやホーンセッションの音色のバランスが絶妙で、最後まで全くだれることなく楽しめる大きな要因になっているように感じます。

そんな訳で、アルバムの中で大きな変化があるわけではないものの、全40分強の内容を一気に楽しむことが出来るアルバム。これ、ライブで聴いたら本当にトリップできて気持ちいいだろうなぁ・・・と感じてしまいます。ベストアルバムとして高い評価を受けるのも納得の1枚。ジャンルが「フジ」なだけにフジロックや富士山の麓で聴きたい??

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

No Fun Mondays/Billie Joe Armstrong

以前、Norah Jonesとの共作という形でのリリースはあったものの、純粋なソロとしては本作がデビュー作となります、ご存じGREEN DAYのボーカリストによるソロ作。とはいえ、本作もソロのオリジナルではなく、彼が過去に影響を受けた楽曲をカバーしたカバーアルバム。このコロナ禍でライブツアーが中止となり自宅待機を余儀なくされた影響で作成されたアルバムのようです。GREEN DAYのファンなら大喜びしそうなポップな曲調の楽曲ばかりで、そんな曲をいずれもメロディアスパンクなアレンジで仕上げている、非常にご機嫌なアルバム。彼の音楽的な原点がよくわかる、陽気なカバーアルバムとなっています。コロナ禍の副産物的な作品と言えるのですが、次はこれをライブ会場で聴ける日を願いたいです。

評価:★★★★★

on the tender spot of every calloused moment/Ambrose Akinmusire

本作も、2020年ベストアルバムとして選定されたアルバムのうち聴き逃していた作品を後追いで聴いた作品。本作はMusic Magazine誌ジャズ部門で1位を獲得したアルバム。現代ジャズ界で注目を集めるトランぺッターによる作品で、本作は2021年グラミー賞の最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム部門にノミネートされているそうです。フリーキーなサウンドも垣間見せるものの、基本的にはメロウでしんみり聴かせる、思ったよりもオーソドックスな「ジャジー」と表現されるようなサウンド。いい意味で聴きやすさを感じるアルバムでした。

評価:★★★★

Billie Joe Armstrong 過去の作品
Foreverly(BILLIE JOE+NORAH)

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2021年2月14日 (日)

海外で活躍する日本人SSWの話題作

Title:Sawayama
Musician:Rina Sawayama

「海外で活躍する日本人」というネタは、日本人にとっては大好きなネタで、特にメディアではよくこの手のネタは取り上げられたりします。ただ、得てして日本の芸能界に対する「忖度」が働くことが多々あり、日本の著名な芸能人が、ちょっと海外で取り上げられたりすると「世界の〇〇」と過剰にもてはやしたりする一方、日本では無名な芸能人が海外で活躍しても、なぜか日本国内ではほとんど取り上げられない、というケースが少なくないように思います。

今回紹介するRina Sawayamaもそんな海外で活躍するものの、日本ではあまり取り上げられていない「芸能人」の一人。もともと新潟出身で、父親の転勤をきっかけで4歳の時にロンドンに移住。日本出身イギリス育ちという出自を持つ彼女ですが、現在はイギリスを拠点に、シンガーソングライターとして活躍しています。残念ながら、まだ売上的にはブレイクという状況ではないのですが、音楽的な評価は非常に高く、NMEの2020年ベストアルバムで7位、ガーディアン誌のベストアルバムでは3位など、数多くの海外メディアの2020年のベストアルバムの上位に軒並みランクインするなど、間違いなく「2020年を代表するアルバム」の1枚となっています。

ただ、残念ながら日本では本作についてあまり大きく取り上げられることはありません。一応、「ロッキンオン」の年間ベストで18位にランクインしているものの、このアルバム自体、さほど大きく取り上げられた印象はありません。私も2020年のベストアルバムとしてメディアに取り上げられたアルバムのうち、聴き逃していたアルバムの1枚として遅ればせながら聴いてみただけに、人のことは言えないのかもしれませんが・・・。

そんな本作ですが、音楽的にはR&Bの影響を強く受けた軽快なポップス。本人は自分の音楽についてマライア・キャリーやジャスティン・ティンバーレイクの名前をあげたりするのですが、確かに基本的には「今どきのR&Bポップ」という印象を受けるアルバムとなっています。ただその一方、J-POPからの影響を非常に強く感じる作品にもなっています。実際、彼女自身はイギリス育ちとはいえ、もともとは日本人学校に通っていたそうで、数多くのJ-POPに触れてきたそうです。特に宇多田ヒカルの「First Love」や椎名林檎の「勝訴ストリップ」は最も大きな影響を受けたアルバムとして名前をあげるなど、間違いなく彼女の楽曲には邦楽の「血」が流れています。

特に顕著なのが「Paradisin'」で、わかりやくかつキャッチーなインパクトのあるサビを持つ楽曲構造は、あまり洋楽では見られないパターンで、典型的なJ-POP的な楽曲構成。日本人にとっても、非常になじみやすい曲調になっています。さらに顕著なのは、最後の「Tokyo Takeover」。途中、日本語詞のフレーズが登場するのですが、ここがもろ椎名林檎。「新宿のゴールデン街」なんていう、ちょっと椎名林檎すぎて露骨な固有名詞まで登場しており、椎名林檎からの影響がわかりやすく体現化された曲になっています。

さらに「STFU!」のようなメタリックなサウンドだったり、「Comme des Garcons(Like The Boys)」のようなエレクトロチューンが入ったり、「Who's Gonna Save U Now?」のようなニューウェーヴ風な曲が入ったりと、いい意味でこだわりのない、雑食的な音楽性もJ-POP的と言えるかもしれません。

また影響を公言するミュージシャンとして、洋楽勢でもマライア・キャリーやカーディガンズなど、日本人好みのミュージシャンをあげているあたりも特徴的で、キャッチーでわかりやすいメロディーラインといい、「日本人好みの洋楽」というイメージを強く持ちます。彼女の音楽は日本人的には非常になじみのある曲調とも言えるのですが、ひょっとしたら海外では、J-POP的な部分も含めて、彼女みたいなタイプの楽曲が、逆に新鮮に感じられているのかもしれません。

ちなみに彼女自身、「日本的」な部分を押し出しており、前述の「Tokyo Takeover」の中の日本語詞もそうですし、「Akasaka Sad」「Tokyo Love Hotel」なんて曲もありますし、「XS」の冒頭では、日本民謡的なこぶしが入ってきていますし、ここらへんの日本的な要素も、海外ではエキゾチックなものとして受けているのかもしれません。

アルバムとしては日本人受けしそうな内容ですし、日本でも間違いなく人気が出そうな1枚。彼女自身、以前日本でも「情熱大陸」で取り上げられたこともあるだけに、「完全無視」という状況ではないものの、海外での高い評価と反比例して、やはりあまり取り上げられることが少ない現状。ただ、これで「グラミー賞」とか受賞してしまったら、手のひらを返したように「海外で活躍する日本人」としてチヤホヤされるんだろうなぁ。ま、そんなうがった考えも思い浮かんでしまうのですが、本作が傑作なのは間違いありません。今のうちに、日本でも大ヒットするといいんですが・・・。

評価:★★★★★

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2021年2月13日 (土)

2020年という年をあらわした連作

Title:Untitled(Black is)
Musician:SAULT

2020年は新型コロナウイルスの蔓延が世界中を覆いつくし、非常に「暗い」1年となってしまいました。しかし、昨年大きな話題となったニュースはコロナ禍だけではありません。それと並ぶように大きな話題になったのが白人警官による黒人への暴力に端を発するBlack Lives Matter運動でした。主にアメリカで大きな流れとなったのですが、一方、日本でも大きな話題となりました。

今回紹介するのは、そんなBlack Lives Matterに呼応する形でリリースされたアルバム。ミュージシャンであるSAULTは、2019年に「5」「7」という匿名性の強いアルバムがリリースされ、ロンドンで一気に話題となったバンド、SAULT。正体不明の謎のバンドとして話題となり、ミュージシャンの名前からして「ソー」もしくは「ソールト」という異なる呼ばれ方をしているそうです。

今回のアルバムを聴いたきっかけは、こちらのサイトで2020年各種メディアのベストアルバムとして上位にランクインしてきていることを知ったから。リアルタイムでは聴き逃してしまったため、後追いでチェックしてみたアルバムなのですが・・・まずBlack Lives Matterに呼応するアルバムというメッセージ性関係なく、非常にカッコいいアルバムに仕上がっていました。

アルバムとしては、ソウルやファンクをベースに、ダブ、ロックやゴスペル、HIP HOPやアフリカ音楽の要素まで取り入れた、非常に黒い、グルーヴィーなサウンドを聴かせてくれています。特に「Don't Shoot Guns Down」ではトライバルなリズムを取り入れてきたり、「Bow」ではコールアンドレスポンスにトライバルなサウンドと、アフリカ的な楽曲を展開しています。

また一方では「Black」のような、トラップ的なリズムを取り入れたループするサウンドで、HIP HOP的な曲もあったりと、今風なサウンドも感じられまず。かと思えば一方では「Wildfires」「Sorry Ain't Enough」のように、レトロでムーディーなソウルチューンがあったり、さらにラストの「Pray up Stay up」も60年代のソウルを彷彿とさせるような魅力的なポップチューンだったりと、アルバム全体としてはどちらかというとレトロな要素が強く、どこかエロチックさも感じるサウンドが強い魅力に感じました。

ただ、おそらく何よりもこのアルバムで主張したいのは、Black Lives Matterに対応するメッセージでしょう。ジャケット写真からしてつきあげられた拳という印象的なものですが、アルバムの1曲目「Out the Lies」から、まず「Black is safety...」という語りからスタートするあたり、かなりストレートなメッセージ性を感じさせます。さらに「Don't Shoot Guns Down」では"Don't shoot,guns down.Racist policeman"というワードがストレートに綴られていますし、途中の「Us」でも"I beleieve the magic of blackness"というメッセージからスタートしていたりと、非常に伝わりやすい、わかりやすいメッセージ性が魅力的。この手のメッセージアルバムは、非英語圏の私たちには伝わりにくい部分があるのですが、本作は、あえてアフリカ色を出したサウンドと合わせて、私たちにもしっかりとメッセージが伝わってくるアルバムになっていました。

そして、そんな彼らが2020年にもう1枚リリースしたアルバムがこちら。

Title:Untitled(Rise)
Musician:SAULT

本作も、80年代的な明るさを感じさせる「Strong」や60年代のR&B的な「Fearless」など、やはりレトロな雰囲気が魅力的。今回もソウルやファンク、ジャズなどの要素を強く感じさせるアルバムになっています。ただ、同じ「Untilted」ですが、「Black is...」とその方向性は大きく異なります。メッセージ性が強く、そのメッセージゆえに影の要素を感じさせる「Black is...」と比べると、本作は、明らかに「陽」の要素を強く感じさせるアルバムになっています。3曲目に配置された「Rise」では、やはり語りが入るのですが、そのメッセージがいきなり"Good morning"からスタートするあたりも、明らかに明るさを感じさせるアルバムになっています。

その後も、彼ら流のディスコチューンともいえる「I Just Want to Dance」や、レトロなソウルチューンながらも清涼感あるボーカルが心地よい「Son Shine」、こちらもトライバルでアフリカ的ながらも、非常に明るさを感じさる「The Beginning&The End」など、全体的にちょっと懐かしさを感じさせつつ、明るい楽曲が並びます。

ただ、単純な明るさだけではなく、後半「No Black Violins in London」など微妙に不穏な空気を感じさせる語りが入っていますし、続く「Scary Times」"Hearing gunshots in the streets every nights"と、不穏な現状がそこには綴られています。間違いなく「Black is...」と呼応する形で作られた本作は、ある意味、「Black is...」の向こう側にある明るさを歌いつつ、一方ではその不穏さから、差別問題が単純に解決されるものではないという事実も物語っているように感じました。

とはいえ、ラストの「Little Boy」は女性ボーカルによる明るいポップチューンに仕上がっており、爽快な印象でアルバムは幕を下ろします。「Black is...」と「Rise」が対になっているアルバムということを考えると、非常に暗い雰囲気からアルバムがスタートし、「Rise」で祝祭色が強くなるものの、最後ではやはり不穏な現実を垣間見せ、しかしラストは明るい希望を感じさせつつアルバムは終わる…非常に印象的な構成になっていたように感じます。

メッセージ的にもサウンド的にも非常に優れたアルバムで、これは確かに各種媒体で絶賛を集めるのは納得の傑作アルバム。2020年を間違いなく代表する作品だったと思います。2020年がどういう年だったか、という時に、まずは紹介されそうな作品とも言えるでしょう。今回、彼らについては実ははじめて知ったのですが、そのサウンドにもメッセージにも一気に惹きつけられました。

評価:どちらも★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Weird!/YUNGBLUD

イギリスの新人ミュージシャンの登竜門とも言える「BBC Sound of 2020」の3位にランクインし注目を集めたシンガーソングライター、ドミニク・リチャード・ハリソンことYUNGBLUDの2枚目となるアルバム。ボーカリストとしては端正な声の持ち主で、比較的聴きやすいポップソングというイメージが強く、楽曲的にもハードロックやミスクチャー風の曲から、軽快なギターロックやよりポップテイストの強い曲までバリエーション豊か…というよりも、良くも悪くも「器用」というイメージを抱きます。まだ日本での知名度はさほど高くありませんが、日本でも、もっと広い層に人気が出そうな予感のあるミュージシャンです。

評価:★★★★

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2021年2月 9日 (火)

ちょっと懐かしいポップソングが魅力的

Title:Future Nostalgia
Musician:Dua Lipa

今回聴いたアルバムも、2020年に各種媒体でベストアルバムとされている中で、聴き逃したアルバムを後追いで聴いた1枚。今回は、主要メディアのベスト盤を集計し、トップ50リストを作成した、というニュースを参考に、ベスト10のうち、まだ聴いていないアルバムをチェックしました。1位のFiona Appleから4位のTalor Swiftまでは既にチェックして、ここのサイトでも紹介していますので、今回聴いたのは5位にランクインしたDua Lipaの「Future Nostalgia」。イギリスのシンガーソングライターによる2枚目のアルバムとなります。

2015年のデビュー後、2016年には新人ミュージシャンの登竜門ともいえるSound of 2016にノミネート。2018年にはグラミー賞の最優秀新人賞にノミネートされるなど、デビュー当初から高い評価を集めているシンガー。2枚目となる本作も、本国イギリスでチャート1位を記録したほか、アメリカでも最高位4位を記録。その他、各国で大ヒットを記録し、その人気を確固たるものとしています。

そんな彼女のアルバムですが、確かに、これはヒットを記録するだろうなぁ、という感想を抱く、聴いていて素直に心地よいポップチューンの並ぶアルバムになっています。1曲目はタイトルチューンの「Future Nostalgia」という曲からスタートするのですが、そのタイトルチューンそのまま。ちょっとメランコリックさもある軽快なエレクトロポップなのですが、イメージとしては90年代あたりのR&Bポップを彷彿とさせるナンバー。途中、ラップが入ってくるスタイルなどは、もうちょっと今どき寄りなのですが、聴いていて、懐かしさを感じるようなポップチューンが非常に耳障りの良さを感じます。

その後の曲も、どこか80年代や90年代初頭あたりの雰囲気を感じさせるポップチューンが並びます。力強いボーカルでロック調となっている「Physical」なんかは、まさにPVがMTVあたりに流れて、そのバックに流れてピッタリ来るような・・・まさに80年代的な匂いを感じる楽曲になっています。

特に懐かしさを感じるのは、哀愁感漂うメロがもろ80年代なダンスチューン「Love Again」。ほどよく入るストリングスも、あの時代の空気を感じさせますし、続く「Break My Heart」もリズミカルでメランコリックなナンバーなのですが、打ち込みのサウンドもどこかチープさも感じ、80年代っぽさを感じさせます。

メロディーラインもフックが効いていて、いい意味で非常に聴きやすさを感じさせますし、懐かしいメロディーラインが耳なじみやすく、ちょっと聴くつもりがついつい聴き進めてしまうような、広い層に支持されそうな、ポピュラリティーを持ったポップチューンが並びます。また、もちろん単純な80年代90年代の真似といった感じではなく、「Levitating」などは最近話題のラッパーDaBabyが参加するなど、単純な懐古趣味といった感じでもありません。そのため、懐かしさを感じるサウンドやメロディーながらも、古臭さはほとんど感じられず、しっかりと「今の音」として響いてくるアルバムになっています。

彼女、例によって日本ではまだまだ知名度が高くありません。ただ、これだけポピュラリティーある楽曲を書いて、メロディーラインも非常にわかりやすいものですから、日本でも十分ヒットが狙えそうな感もあります。というより、日本でこれだけ注目されていないことが不思議になるような、日本人の耳にもなじみやすい、ポップで楽しいアルバムになっていました。ま、もっとも私もこれがはじめて聴いた彼女のアルバムなんですけどね。これからさらに注目を集めそうな、そんな予感のある傑作アルバムでした。

評価:★★★★★

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