書籍・雑誌

2020年5月12日 (火)

ブルースの「背景」を伝える

本日は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。今回読んだのは、ブルース研究の第一人者、日暮泰文氏による「ブルース百歌一望」です。

本書の帯の紹介文にはブルースの「極上のプレイリスト」と書かれたこの本。その紹介の通り、日暮氏がブルースの曲を100曲(正確には101曲)を取り上げ、その曲にまつわる背景や物語を紹介していく、という一冊。タイトルの「百歌一望」というタイトル通り、ブルースの曲を通して見えてくる世界を描いた本となっています。

ただ、ここで注意しなくてはいけないのは、あくまでもブルースとそれをめぐる背景を描いた本であり、ブルースの有名曲を取り上げて紹介するディスクガイド的な書籍ではないという点。1ミュージシャンにつき原則として1曲ずつ紹介されているのですが、必ずしもそのミュージシャンの代表曲を取り上げている訳でもありませんし、必ずしもブルースを代表するような有名曲を取り上げている訳でもありません。

特にその傾向が強いのが序盤で、第1章の「ブルース近景」では、ブルース自体ではなく、ブルースの背景としてのアメリカの黒人社会によりスポットがあてられています。さらに第2章の「ブルース20曲から見た米国史」では、社会的な事象を歌に読み込んだブルースを紹介し、そのブルースを通じてアメリカの(特に黒人をめぐる)歴史を描いています。第3章の「ブルースとともに生きる」でも、タイトル通り、ブルースを通じて、アフリカン・アメリカンの生活風景を描いていますし、どちらかというと楽曲としてのブルースそのものというよりも、ブルースが伝えた時代や生活の匂いを伝えることに主眼が置かれたような本となっています。

そのため、この本を参考にブルースの世界に飛び込もう、というようなガイドブック的な意図をもって読みだすと、ちょっと辛い内容だったようにも思います。実際、私もそういうイメージで同書を読みだしたため、特に序盤は、この本の意図することがつかめずかなり戸惑いながら本を読み進めていきました。特に日暮氏の文体は論理的な展開よりもエッセイ調の文体が特徴的で、ブルースという音楽やブルース史を体系的に理解しようとするとかなり困難。後半の第4章「ヒストリカル・ブルース・レコード」や、第5章「ブルースの明日といま」では、タイトル通り、歴史に残るブルースの1曲を紹介したり、ブルースの現状を紹介したりと、プレイガイド的にも使える内容にはなっているのですが、この本全体としては、ブルースの完全な初心者にとっては、ちょっと厳しい内容だったように感じます。

ただ一方、プレイガイド的な読み方ではなくあくまでもブルースをめぐる「匂い」を伝える本だ、ということに気が付くと、非常に魅力的な1冊に感じはじめます。ブルースをめぐる背景をしっかり描写しているため、ブルースを聴く時の世界観がグッと広がりますし、また、どこかブルースが流れてくる世界にトリップしたような感覚を味わうことが出来ます。この本を読むと、ブルースというのは単なる音楽のジャンルではなく、アフリカン・アメリカンの生活や生き様を描いた文化であるこということに気が付かされます。

そういう意味では初心者によるガイドブックというよりは、ブルースをいろいろと聴き始めた人が、その音楽の奥深さをさらに知るために手にとるべき1冊と言えるかもしれません。ブルースという音楽の魅力にどっぷりとつかり込めることの出来る魅力的な1冊。まさに読みながらブルースの世界を旅できるような、そんな本でした。

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2020年4月10日 (金)

昭和を代表する音楽家の一代記

今日もまた、最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。

今回読んだのは、戦前から戦後にかけて数多くのヒット曲を手掛け、高校野球大会歌「栄光は君に輝く」や、阪神タイガースの応援歌「六甲おろし」の作曲家としても知られる作曲家、古関裕而の評伝。近現代史の研究家として数多くの本を出版している辻田真佐憲氏による1冊です。3月から、古関裕而の生涯をモデルとしたNHK朝の連続テレビ小説「エール」がスタートし、彼に関連する数多くの本が出版されており、ちょっと言い方は悪いのですが、それに便乗した1冊。ただ、著者の辻田氏は、以前、彼の書いた「日本の軍歌」を読み、その平易な表現でありながらも、しっかりと実証データの裏付けにより書かれた誠実な仕事ぶりが気に入り、彼の著書を何冊か読み、本書もその流れで手にとり読んでみました。

さて、今回の本は、古関裕而の生涯について書かれた1冊。基本的には、その生い立ちに沿った伝記的な内容となっています。ただ、これまでの辻田氏の著書と同様、時には小説のように「セリフ文」まで登場するようなわかりやすい書き方ながらも、一方では過去の古関裕而の本を単純に要約するのではなく、しっかりと一次資料にもあたり、裏付けを取った上で丁寧に書いている内容となり、その誠実な仕事ぶりに安心感を持って読み進むことが出来る内容になっています。

構成的にはシンプルに古関裕而の生涯について書かれた内容なだけに、著者としての目新しい主張などがあるわけではありません。ただ、戦前から戦後の高度経済成長期を人気作曲家として生き抜いてきただけに、激動の昭和史と重ね合わさっている人生は、読んでいてひとつの物語りのように惹きつけられるものがあります。

ただ戦後の経済成長期も数多くのヒット曲を世に生み出してきた古関裕而でしたが、本書の比重としては比較的戦前期に比重を置かれていたように感じました。特に戦中では前線への慰問に関して多くのページが裂かれるなど、かなり詳細に記載。一方では戦後に関しては比較的あっさりとした表現になっていたようにも感じました。もともと著者の辻田氏は、軍歌研究家として世に出てきたように専門分野は戦中。そういう著者の得意分野ゆえ、戦中期の記載が分厚くなってしまったのでしょうか。

もっとも、戦前に人気作曲家となった彼は、戦後になってもその人気を持続。特にスランプになることもなく、最後まで落ちぶれることなく、第一線で活躍したまま生涯を閉じています。戦後の活躍についても個人的にはもっと知りたかったような気がする反面、彼の人生の「物語性」という意味においては、確かにどうしても戦前・戦中の方に比重が行ってしまうのかもしれません。

今回、同書を読み、あらためて古関裕而の曲を聴いてみたくなり、You Tubeなどを用いて何曲か聴いてみました。彼の曲は昔の曲らしく、一つの音に一つの言葉が割り当てられている、字余りの曲が普通になった今としてはかなりゆっくりでかつしっかりと歌い上げているようなスタイルになっています。かなり雄々しい力強い曲調も多く、それが古くは多くの軍歌、時代を下って多くの応援歌や社歌などに彼の曲が求められた要因でしょう。ただ、一方で、楽曲はどこかモダンな雰囲気があり、昭和歌謡曲のようなウェットさは薄いように感じます。古関裕而という名前は知らなくても「栄光は君に輝く」や「六甲おろし」のように、今なお多くの人に親しまれている曲が多いのは、そこらへんも今の耳でも違和感なく聴けるモダンさがあるがゆえ、のようにも思いました。

コロムビアの専属作曲家して迎え入られれ、本格的にプロとしての道を歩みだしたのが昭和5年。そして亡くなったのは平成元年だったそうですので、同書でも書かれている通り、まさに「激動の昭和を体現した作曲家」と言えるでしょう。私は彼の名前だけは知っていましたが、これだけ長い時代にわたり人気を持続させてきたという事実ははじめて知りました。次は彼の手掛けた作品をCDなどでまとめて聴いてみたいなぁ。

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2020年4月 5日 (日)

懐かしいミュージシャンたち

本日は最近読んだ音楽関連の本の紹介です。アラフォーからアラフィフ世代には感涙モノの懐かしいアルバムを紹介する1冊が発売されました。

レコードコレクターの増刊としてリリースされているアルバム・セレクション・シリーズの最新作。今回は「ジャパニーズ・ロック80's」と名付け、80年代から90年代初頭のバンドブームの中で出てきたミュージシャンたちのアルバムを取り上げているアルバムカタログ本になっています。

今回のこの本で興味深いのはそのセレクトしているミュージシャンたち。80年代後半から90年代初頭というと、日本ではバンドブームと言われ、数々のバンドが誕生しブレイクしました。ただ一方でそういうバンドブームの中で出てきたミュージシャンたちに対する音楽ファンからの評価は決して高くなく、「音楽」的な側面から積極的にそういったミュージシャンたちを取り上げることはありませんでしたし、正直今でも、音楽的に高い評価を受けているのはブルーハーツ、ユニコーン、せいぜいBOOWY程度といった感じでしょう。

しかしこの本は一般的な評価の高くない80年代のバンドブームの中で出てきたミュージシャンたちをあえて取り上げて再評価しています。特に第1章にあたる「ARTIST PICKUP」で紹介されているミュージシャンでは、いままでこのタイプの本にあまり取り上げられないようなミュージシャンを大きく取り扱っています。TMネットワークやPRINCESS PRINCESSあたりは、この手の本で紹介されているのをはじめてみたような気すらします。さらにもうひとつユニークなのは、そういったバンドを、「売上」や「社会現象」という側面から取り上げるのではなく、徹底的に音楽の側面から評価している点。個人的にも中学生の頃に何度も聴いた懐かしいアルバムを、音楽的に分析している記事は非常に興味深く読むことが出来ました。

そういう意味で冒頭に書いた通り、80年代バンドブームをリアルタイムに体験してきたアラフォー、アラフィフ世代にとっては非常に懐かしく、自分の学生時代にトリップしたような感覚で読める1冊だったと思います。私のような40代半ばの世代にとっては、ここらへんのバンドブームは最後の最後を知っている世代。懐かしく読むことが出来、かつあらためてあの時代のアルバムを聴き直してみたいな、と強く感じたカタログガイドでした。

ただ一方で、結構癖の強い側面もあるガイド本だったようにも思います。「Introduction」に書かれている通り、あえて定番や有名作をはずしている部分もあるため、違和感のあるセレクトも少なくありません。例えば渡辺美里の欄では代表作の「ribbon」ではなく、正直、ファンの間ではあまり評価の高くない「Breath」と「Flower Bed」が取り上げられています。確かにこの時期の美里のアルバムにははずれはないのですが…彼女の本質が出ているのはやはり「ribbon」じゃないかなぁ…。

取り上げているミュージシャンも「80年代型ロックに特化」「ベテランやインディーズの作品は極力抑え」と書かれているのですが、その割には80年代を代表するような尾崎豊は「ARTIST  PICKUP」では取り上げられていませんし、後半になればなるほど、比較的サブカル系、インディー系のミュージシャンが目立ったような気もします。一方ではいかにも80年代的なたまは取り上げられていません。監修をつとまえた池上尚志の好みがかなり反映されているようにも感じました。

そのため、全くの初心者がこの本を参考に80年代ロックを聴き始める…にはちょっと注意が必要な感じもします。ただ本人曰く「これが80年代のジャパニーズ・ロックのニュー・スタンダードだ!というくらいの気持ちで選んでいる」という点はやはり買うべき点が多いように思われます。アラフォー・アラフィフ世代、BOOWYやTM、渡辺美里などにはまったことあるおじさん、おばさんたちは要チェックの1冊。この時代のミュージシャンは今のミュージシャンにも大きな影響を与えているので、20代、30代の方も、是非。これを機に、80年代ロックの再評価が進むのでしょうか。

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2020年3月29日 (日)

約28年ぶり(!)のミュージシャン本

今回は最近読んだ音楽関連の本の紹介。今回紹介するのは個人的に大ファンで、アルバムがリリースする毎に当サイトでも取り上げられている男性シンガーソングライターKANちゃんのミュージシャン本「KAN in the BOOK 他力本願独立独歩33年の軌跡」です。

1987年のデビューから33年。完全にベテランミュージシャンの域に達している彼ですが、自身のミュージシャン本はこれが2冊目。前にリリースしたのは1992年に発売したエッセイ集「ぼけつバリほり」以来で、実に約28年ぶりとなります。ちなみにこの前作「ばけつバリほり」は「愛は勝つ」が大ヒットした翌年。まだ世間では「愛は勝つ」の国民的ヒットの余韻が残っていた頃。一般的には「愛は勝つ」の一発屋的に捉えられることの少なくないKANちゃんですが、28年の月日を経て、2冊目のミュージシャン本を発売できるあたりに、非常に根強い人気を感じさせます。ちなみにオリジナルアルバムの直近作「6×9=53」はベスト10ヒットを記録しており、その根強い人気のほどを伺わせます。

本書では、そんな彼の33年間の歩みが音楽ライターの森田恭子のインタビューという形で語られています。「愛は勝つ」の誕生秘話やパリ留学時のエピソードなど、興味深い話がいろいろと登場し、KANちゃん初心者でも彼の歩みが概観的に知ることの出来るインタビューとなっています。

ただ、この本で最も読み応えがあったのが、KANに縁のある様々なミュージシャンへのインタビュー。様々なミュージシャンのファンが多い、ある種「ミュージシャンズミュージシャン」という側面もあるのですが、今回は、熱心なKANのファンとして知られるaiko、Mr.Childrenの桜井和寿という超豪華ミュージシャンへのインタビューを収録。さらに「ホスキモ」としてライブでユニットを組んでいる、スタレビの根本要、スキマスイッチの2人、そして秦基博へのインタビューも実施されています。

その中でも特に読み応えがあったのはaikoへのインタビュー。本書ではaikoとKANの対談という形式になっています。aikoが熱心なKANのファンという話はもちろん以前から知っていたのですが、この対談を読むと、aikoがここまで熱烈なKANのファンだったのか…とあらためてビックリしてしまうと同時に、KANもaikoもファンの私にとっては非常にうれしくなってしまいます。aikoはこの対談で、完全に単なる一ファンとなってしまっているのですが、KANに対する歌詞への質問は熱心なファンならではといった感じで、KANの曲の歌詞に関する貴重なインタビューも収録されており、かなり読み応えのある内容となっていました。

「ホスキモ」のメンバーに対するインタビューもKANの人となりに関する話題。いろいろな意味で癖のある人なんだなぁ、というのはなんとなくはわかっていましたが(笑)、あらためてインタビューで知ることの出来るKANちゃんの人となりは興味深く読みことが出来ました。また、ミスチル桜井のインタビューに関しても、桜井のKANへの高い評価をあらためて知ることが出来ます。ミスチルの曲「Over」がKANの曲の影響を強く受けていることは知っていましたが、あの大ヒット曲「終わりなき旅」も、KANの「MAN」と「まゆみ」を合体させたような曲だったんですね・・・。aikoといいミスチル桜井といい、KANの日本の音楽シーンに与える影響の大きさをあらためて感じてしまいました。

正直なところ、税込みで2,500円という内容からすると、若干ボリュームは薄かったような印象は否めません。KANの歩みに関するインタビューに関しても、比較的一般的なエピソードが並んでおり、もうちょっと突っ込んで欲しかったかも、と思う部分もありましたし、彼の手掛けた全曲、全アルバムの紹介くらいあってもよかったような感じもします。ただもちろんファンとしては興味深い話はたくさん載っており、彼のファンであれば読んでみて損のない1冊だと思います。インタビューによると今年はアルバムリリースも予定しているとか。かなり楽しみ!それまで、この本を読んで、彼の待望の新作を待ちわびていたいと思います。

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2020年3月21日 (土)

真面目な電気グルーヴ

本日は最近読んだ音楽関連の書籍に関する紹介。今回は、電気グルーヴが機材専門誌「Sound&Recording Magazine」で受けたインタビューを中心にまとめたムック誌「電気グルーヴのSound & Recording 〜PRODUCTION INTERVIEWS 1992-2019」です。

電気グルーヴというと、一般誌などでのインタビューでは人を食ったような発言などでユーモラスなものが多い印象ですが、この「Sound&Recording Magazine」ではうってかわって、そのようなユーモラスな発言は皆無。機材専門誌ということもあり、あくまでも使用した機材や録音方法などの話がメイン。そのため、初期から今に至るまで、一般的な彼らのイメージとは異なる、音楽に対して非常に真摯な、真面目な電気グルーヴの姿を読むことが出来ます。

本誌では、基本的にアルバム毎に順を追ってインタビューを掲載。アルバムによっては当時、インタビューを受けていない作品もあったため、そのようなアルバムも今回あらためてインタビューを行っています。その上で最後には「30年の音楽活動を振り返って」という最新の総括的なインタビューが行われている構成となっています。

話としては比較的専門的な話がメイン。私はといえば、シーケンサーやリズムマシーンとかがどのようなものか・・・という程度しか知らないずぶの素人。それだけにインタビューを読んでもおもしろくないのではないか、と懸念していたのですが、しかしとんでもない、読んでいて非常に興味深い内容になっていって、一気に読み進むことが出来ました。確かに、登場する機材などはほとんど知らないのですが、アルバム毎にそれらの機材をどのように使っていったか、という話は機材に詳しくなくてもとても興味深く読むことが出来ます。

このような機材や録音方法の話は他の音専誌ではなかなか読むことが出来ませんし、また登場する機材も写真で紹介されており、詳しく知らないとはいえ、写真をながめるだけでワクワクしてしまいます。石野卓球のスタジオの話もいままで詳しく知りませんでしたし、「Takkyu Studio」の写真が載っているのもうれしい限り。また、初期の彼らは様々な機材をうれしそうに作品の中で使い、一種の「機材オタク」みたいな感もあったのですが、年齢を経るにつれ、機材の進歩もあるのですが、徐々に最低限の機材に絞っていっている感じも、彼らがミュージシャンとして熟練されていく感もあり、おもしろさを感じます。特に「TROPICAL LOVE」はなんと、私の手元のiphoneにもインストールされているAPPLE GarageBandでほとんど作成されたというエピソードには、まさに「弘法、筆を選ばず」という言葉が浮かんできました。

さて、そんな興味深いインタビュー集ですが、あえてこの時期に発売される、という点も今回注目すべき点でしょう。ご存じの通り、昨年、ピエール瀧が覚せい剤所持で逮捕。現在もまだ、電気グルーヴの音源は発売停止の状態となっており、音楽活動も止まったままとなっています。そのような中であえて電気グルーヴの本を発売するというあたりに、これは、以前「電気グルーヴのメロン牧場ー死神は花嫁<6>」の感想でも書いたのですが、レコード会社のような安易な販売停止処分という処置を取らない、表現・言論の自由に対する出版業界の矜持を感じます。

今回、なんと本の中で使用されているCDのジャケットが写真ではなくイラストが使用されています。これはおそらく、CDジャケットに対して権利を有するソニーレコードが、ジャケット写真の使用を認めなかったためでしょう。出版社とは真逆の、レコード会社のあまりのケツの穴の小ささを感じさせる、情けない事例になってしまいました。

ちなみにアルバム「30」のインタビューの時に、インタビュアーが30年、活動を続ける秘訣を聴いているのですが、それに対するピエール瀧の回答として「オマエの卓球を探せ!そして仲良くやれ!以上。」(p103)と回答しているのですが、この回答が例の事件以降も有効であり、いままで以上に重みを増している点に感慨深く思ってしまいます。また、「30年の音楽活動を振り返って」ではピエール瀧ももちろんインタビューに参加。彼の最新の写真も収録されており、なんだかんだいっても彼の血色のよい穏やかな表情がうつった写真にうれしくなってしまいます。

そのインタビューでは「30周年の活動期間が短かったので『31』というアルバムを出そうと思っています。」(p109)なんていうとてもうれしい発言も。さらに今後の活動を聴かれ、まずは石野卓球が「とりあえず、サンレコのこの本と『メロン牧場』(ロッキング・オン)っていう出版業界のサポートで再始動できたので感謝しています。」(p111)と礼を述べているあたりに、なにげに彼の誠実な人柄もうかがえます。この2人は本当に人の食った発言をしつつも、音楽に対しては至って真摯かつ真面目な発言ばかりなんですよね。そういう意味でも彼らの人柄も感じられるインタビュー集。ファンなら必読です!

そういえば、電気グルーヴで思い出したのですが、先日、覚せい剤保持容疑で逮捕されて先日起訴された槇原敬之ですが、今に至ってもCDは販売停止になっておらず、配信も継続しています。おそらく彼は自身のレーベルを持っている影響なんでしょう。もともと覚せい剤逮捕でCD回収という悪弊が恒例になったのは、最初の槇原敬之逮捕に伴うCD回収がきっかけという説があります。もし、この状態が続けば、皮肉なことですが槇原敬之の2度目の逮捕が彼が最初につくった悪弊がなくなることになりそう。槇原敬之の逮捕は非常に残念なのですが、もしCD回収、配信停止がなくなれば、そのことだけは、今回の逮捕の「よかったこと」かもしれないですね。

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2020年1月24日 (金)

今のHIP HOPシーンをフォロー

今日は最近読んだ音楽関連の本の紹介です。一時期、大きな話題となったHIP HOP入門書の第3弾がリリースされました。

「文科系のためのヒップホップ入門3」。音楽ライターの長谷川町蔵氏と大和田俊之氏の対話形式によりHIP HOPの動向について書かれた本の第3弾。2011年に発刊された第1弾は「ヒップホップは音楽ではない」と言い切り、「ヒップホップは『場』を楽しむものである」という主張を繰り広げ、HIP HOPリスナー以外にとっては斬新さを感じさせる主張である一方、HIP HOPのコアなリスナーにとっては正鵠を得る見方だったようで、大きな話題となりました。

その後、昨年には2012年から2014年のHIP HOPの動向についてアップデートした第2弾を発刊。ただ、その段階で4年も前の話で終わっており、かつ、その当時から大流行していたトラップの「ト」の字も出てこないなど、完全に遅きに失した感は否めず。第3弾の発刊が待ち望まれていましたが、第2弾からわずか1年のインターバルで第3弾のリリースとなりました。今回はしっかり2018年の動向までキャッチアップ。ここ数年、シーンを席巻しているトラップまでしっかりと言及。また中間報告として2019年のシーンにも触れており、10月にリリースされたKanye Westの「Jesus Is King」にまでしっかりフォローしています。

ただ今回の中で一番興味深かったのが第3部「ブラックネスのゆくえ」。「オバマ政権下のアメリカ社会とヒップホップ」の副題で、アフリカ系アメリカ研究を行っている慶應義塾大学准教授の有光道生氏を迎え、ここ数年のアフリカ系アメリカンをめぐる社会動向にHIP HOPをからめて座談会形式で書かれた章。アメリカでいまだに続く黒人差別や、それをめぐるエンタメ界の動向などを描いています。ここらへんの話は、日本でも伝え聞こえてくる話はあるものの、なかなか大きなニュースとしては取り上げられない話が多く、また、単純に「黒人 vs 白人」みたいに二分化できるような動向でもない複雑な構図もあるため、非常に興味深く読みことが出来ました。ただ、もっとも全体的には「今のアメリカで起こっている事例の紹介」といった感じで、その結果の深い分析があるわけではなく、そういう意味で読み終わった後に「で?」みたいな感じもなきにしもあらずなのですが、それでもアメリカ社会の現状を垣間見れる、非常に興味深い章になっていました。

一方、2015年から2018年までのHIP HOPシーンについては、1年につき1章という章立てで、その1年のシーンを振り返っており、最後にはその年を代表するアルバムの紹介もついています。ただ、このHIP HOPシーンの紹介は、昔のようにHIP HOPを内輪的なゲームを行う「場」として紹介するよりも、純粋な音楽シーンとしての紹介が目立ってきているように感じました。それはシーンを1年毎に区切ってザっと紹介するというこの本のスタイルも影響しているのかもしれませんが、それ以上に、HIP HOP産業が大きくなり、ついにはアメリカの音楽業界の中でロックを抜いてもっとも売れるジャンルになってしまった今、第1弾で触れたような「ヒップホップは『場』を楽しむものである」という、かつての業界の前提が成立しえなくなってきているように感じました。

実際、本書でもDrakeに関するDisを巡って、「ヒップホップ的なバトルの構造を理解していないファンが彼(=Drake)にはいっぱいいる」(p223)と言及されています。おそらく、そういう現象は今後、Drakeに留まらないでしょうし、また、良くも悪くも内輪的な盛り上がりが一種の魅力だったHIP HOPというジャンルが、巨大産業になったことによって、ようやく広いリスナー層にアピールしていかなくてはいけないポピュラーミュージックの一ジャンルとして独り立ちした、ということなのかもしれません。それが長い目でみてHIP HOPにとってプラスになるのかマイナスになるのか、今の時点ではよくわからないのですが・・・。

その反面、HIP HOPシーンでユニークに感じたのは、2018年のシーンの紹介の中で「何かが試されている」(p225)というラッパーが出てきているという言及。要するに上の世代のリスナーにとっては、いまひとつ受け入れがたいような新しいミュージシャンが登場してきているという話なのですが、ただ、それだけ新陳代謝が進んでおり、どんどん新しいタイプのミュージシャンが出てきているということであり、シーンとしてはむしろかなり健全という話なのではないでしょうか。振り返って昨年、ロックシーンではビリー・アイリッシュという18歳のシンガーソングライターがかなり評判になりました。今時の若者の本音を体現化している、ということで絶大な支持を得たのですが、なぜか上の世代にも妙に評判がよく・・・それって、大人にとっても彼女の主張は「非常にわかりやすい」ということを意味する訳で、それって今時の若者の叫びとして正直、どうなの?と感じてしまいました。それよりもやはり上の世代が眉をしかめるようなミュージシャンが登場したということは、それだけ前の世代には登場しなかった新しいタイプのミュージシャンが登場してきた、と同義であり、それだけシーンが活性的ということを意味しているように感じます。そういう意味でもHIP HOPはシーンとしてまだまだ健全なんだな、ということを強く感じました。

正直、長くロックなどと比べて虐げられてきたHIP HOPを強く推したいがために、長谷川町蔵氏、大和田俊之氏両氏の主張は、「とりあえずHIP HOPならばなんでもOK」的な感じもあって、それはそれで批評としてどうなの?という部分もなきにしもあらずなのですが、そこらへんを差し引いても非常に興味深く楽しむことが出来た1冊でした。ただ、これでとりあえず2019年までカバーできたわけで、第4弾はまた4年後くらいになるのでしょうか?そうすると、あまりにも間が空きすぎてしまう感も・・・。一冊の「本」としては難しいかもしれませんが、電子書籍の形で、この本で言えば1章分のみ、毎年、アップデートする形でリリースしてくれないかなぁ。HIP HOPみたいな目まぐるしく状況が変わるシーンの中で旧来型の「書籍」みたいな形は合っていないのかもしれませんね。2020年以降の話はどういう形で発刊されるのかなぁ。

第1弾の感想はこちら

第2弾の感想はこちら

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2019年10月15日 (火)

コミックソングからポピュラーミュージック史を眺める

今回も最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。今回読んだのはこちら。

ライターの矢野利裕による「コミックソングがJ-POPを作った~軽薄の音楽史」という1冊。ポピュラーソングの黎明期から今に続くまで脈々と歌われるコミックソングというジャンル。本作はそのコミックソングからJ-POPというよりも日本のポピュラーミュージックシーンを分析する1冊となっています。そういう紹介を聴いて、単に日本で売れたコミックソングを順々に紹介していく本、最初はそんな予想の元に読み始めました。しかし、実際にはこの本はそんな単純にコミックソングを紹介するだけの本ではありませんでした。

このコミックソングというジャンル、アメリカではノヴェルティソングと呼ばれているのはご存じの方も多いかもしれません。この「ノヴェルティ」は「珍しさ・目新しさ」という意味あり、いままでになかった音楽が入って来た時に、まずは「その珍妙さをフックにして、人々のあいだで音楽が広まっていく」ということを著者は指摘しています。この「『ノヴェルティ』性によって音楽が広まっていく」という力学に着目した上で、その視点から日本のポピュラーミュージック史を分析した力作となっていました。

この「ノヴェルティ」性によって音楽が広まっていくと言われて、おそらく私のようなアラフォー世代にとって思い出されるのはHIP HOPでしょう。HIP HOP、特に日本語ラップは、EAST END×YURIによる「DA.YO.NE」がヒットしたように、最初はコミックソング的に扱われてきました。しかし、それにより徐々にラップが広まっていき、Dragon AshがZEEBRAをフューチャーした「Grateful Days」のヒットによって一気にブレイクしました。本書ではそんなHIP HOPがノヴェルティ性により広がっていく側面ももちろん分析していますし、さらにそんな新しい音楽がノヴェルティ性を軸として広まっていく様子を戦前の日本のポピュラーミュージックの黎明期まで遡り紹介しています。

個人的に特に興味深かったのがこの戦前のポップス史の分析。戦前のヒットメイカーとしてよく取り上げられる添田唖蝉坊という演歌師がいます。彼は「オッペケペー節」のような政治性の強い歌を歌い、その社会的な側面をよく取り上げられます。しかし本書では彼の政治的スタンスよりもむしろ「『オッペケペー』という珍妙な言葉とサウンドが人々の気を引いた」と指摘。ほかにも「まっくろけ節」や「東京節」などもユーモラスな言葉のリズムというノヴェルティ性がヒットの要因となっており、そういう音楽の意味から解放された音感、いわば「音楽の軽薄さ」こそが重要であるという著者の分析には、目からうろこが落ちる思いがしました。

著者の本書を通じた重要な主張のひとつが、この「音楽の軽薄さ」の重要性であり、まさに副題の通り、日本のポピュラーミュージックの中の「軽薄さ」に焦点を当てて、その歴史を綴っています。特に興味深かったのが戦時下におけるジャズ。戦時下のジャズマンはジャズを演奏しつつも、歌詞を軍国主義的なものにすることにより当局の規制を逃れようとした歴史を紹介しています。まさに歌詞の内容ではなく、サウンドそれ自体が政治的なアクションを取っている例であり、「音楽の軽薄さ」と述べていますが、時として歌詞などの意味から離れたサウンドそれ自体が強いメッセージ性を持ちうる場合もあることがとても興味深く感じました。

戦後のポピュラーミュージック史でも、トニー谷からクレイジーキャッツ、ドリフターズにスネークマンショーからさらにタモリからダウンタウンへと続いていき、最近ではマキタスポーツに至るまで、日本のポップソングの中で輝かしい歴史を誇るコミックソングの系譜が紹介されています。また「音楽の軽薄さ」という観点では小室哲哉を巡る「音楽の軽薄さ」を紹介。確かに音楽の精神性よりリズムの楽しさをただ重視する小室哲哉の方向性はファンの立場からも納得のいく指摘でした(かつこの点が、「良心的な音楽ファン」から小室哲哉が批判される大きな要素なんでしょうね)。

ただ「あとがき」でも著書が書いているように、あまりにも奥の深い日本のコミックソング、書き切れていないことが多くありました。個人的にもピコ太郎やPERFECT FUMANにあれだけ分量を裂くよりも、例えば音楽のジャンルが受け入れられる時の「ノヴェルティ性」という意味では、メタルにおける聖飢魔Ⅱや日本のファンクにおける米米CLUBあたりを取り上げた方が本書の趣旨に合うのでは?

もっとも著者が終始指摘している「音楽の軽薄さ」と評している音楽の身体的な楽しさは、この手の音楽評論では無視されがちなのですが、実は音楽の本質とも言える部分であり、そういう意味でも本書の分析は最初から最後まで非常に興味深く楽しむことが出来ました。思った以上に音楽の本質に切り込んだ興味深い、鋭い分析に何度もうなずかされた1冊でした。

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2019年10月 7日 (月)

歌は世につれ

今日はまた、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

今回読んだのは芸能ライターのとみさわ昭仁による「レコード越しの戦後史」という一冊。戦後に生じた様々な出来事を、それに関連して発売された歌謡曲とリンクさせて紹介して戦後史を概観しようと試みた一冊です。

「歌は世につれ世は歌につれ」というのは歌謡曲を語る際によく言及される言葉ですが、この本で紹介されている曲はまさに「歌は世につれ」を体現化している曲がいろいろと紹介されています。もっとも必ずしもヒットしたり話題となった曲ばかりではなく、便乗商法的に売り出された曲やほとんど流通しなかったような「知る人ぞ知る」曲も含まれているため、重箱の隅をつつくような選曲も少なくないのですが、ただ、パンダが日本にやって来た時は本書曰く「100種類以上」のパンダに関連するレコードがリリースされたり、ほかにも80年代に都市伝説として一躍話題となった口裂け女にちなんだレコードが存在していたり、アポロ11号の月面着陸にちなんで「月の世界でランデブー」(椿まみ)、「静かの海のブルース」(宝田明)なんて歌謡曲がリリースされたりと、ある種の節操のなさに歌謡曲のしたたかさを感じてしまいます。

最近では良くも悪くもこの手の便乗歌がグッと減ってしまったような感じがします。もっとも最大の理由がそもそもCDが売れなくなってしまい、世の中の出来事に便乗した曲を作ったとしてもお金儲けが出来なくなってしまったから、という理由が大きいのでしょう。まあ、安直な便乗ソングには閉口することも少なくはないのですが、そういう曲が少なくなってしまうことには寂しさも感じられます。もっとも、以前よりも少なくなったとはいえ、世の流行に便乗する曲の存在がなくなることはなく、今回、この記事を書くにあたっていろいろと調べてみたところ、タピオカブームに乗った↓みたいな曲をみつけてしまいました。ちなみに歌っている方を含めて全くの初耳です。

またこの本でひとつ興味深かったのが、「あとがき」の記載。この本に美空ひばりの曲が1曲も紹介されていない、という点でした。「あとがき」で著者曰く「彼女の300曲を超えるシングル盤には、本書の企画趣旨に合う曲がなかった」という記載があるのですが、安直に世の中のトピックに便乗した曲を作らなかった、というのはおそらく彼女の矜持なのでしょう。いまほど「国民的歌手」として評価が定着していなかった活動初期の頃から、そのような曲を作っていなかったという点にも彼女の高い志も感じますし、安直に時代に便乗した曲を作らなかったからこそ、逆に多くの人に愛される曲を歌い続けることが出来た、ということもあるのかもしれません。

そんな訳で、なかなか興味深く楽しみながら読むことの出来た一冊ではあるのですが、率直に言って、読み終わった後の感想としては中途半端なものを感じてしまいました。本の構成としては、戦後史の出来事を主軸として、それに関連する歌を紹介する流れとなっています。確かにトピックによっては歌謡曲と上手くリンクさせて記述できたような項目もあるのですが、ただ単に戦後史の出来事を記述したあと、欄外のトピック的に関連する歌謡曲を紹介するだけで終わっている項目も少なくありません。かと思えば、あくまでも関連する歌謡曲が発売されていることを前提としているため、戦後史の重要な出来事であっても関連する歌謡曲がない場合は全く言及されることはありません。個人的には、歌をまず紹介した上で、それに関連する戦後史のトピックを紹介するような構成の方が本のテーマがより明確になってよかったような感じがします。この構成だと、戦後史の紹介としても戦後史と歌謡曲のリンクという意味でも中途半端な印象が強く残ってしまったのが残念に感じました。

エッセイ的にそれなりに楽しめた本ではあるものの、もうちょっと時代と歌謡曲のリンクの在り方についてはつっこんでほしかったように感じます。2,000円近い値段の本としてはちょっと物足りなかったかなぁ。雑誌などの一コーナーとしてなら興味深くおもしろい内容であったとは思うのですが・・・。

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2019年9月29日 (日)

アフリカ音楽入門の入門

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

今回紹介するのは、アフリカ出身のパーカッショニスト、ムクナ・チャカトゥンバによるアフリカ音楽の入門書、「はじめまして!アフリカ音楽」です。ムクナ・チャカトゥンバは1990年により日本を拠点に音楽活動を行い、劇団四季のミュージカル「ライオンキング」の初代パーッカショニストを3年務めるなど活躍したものの2014年に66歳で逝去しています。本著はもともと2003年に「アフリカン・ドラムは魂の響き」というタイトルでリリースされた本を2015年に一部再編・改題し再発刊したもの。以前から気になっていたのですが、最近、図書館でみかけてざっと中身を読んでみたところ、あらためて内容に興味を惹かれて、遅ればせながら購入し読んでみた1冊となります。

本書はタイトルやこの記事の表題の通り、アフリカ音楽を全く知らないような初心者に対して、アフリカ音楽とはどういうものか、を紹介したもの。第1章ではざっとアフリカの音楽について概略を紹介した後、第2章では彼の生い立ちを通じて主に彼の出身国、コンゴ民主共和国での人々と音楽の関わり、第3章ではコンゴの音楽の紹介、第4章ではコンゴの音楽のリズムパターンの紹介、そして第5章では主にコンゴの文化についての紹介しています。

アフリカ音楽と一言で言っても、アフリカ大陸は非常に広く、音楽的にも様々な種類があります。ただ、ムクナ自身がコンゴ出身のミュージシャンということもあって、ここで紹介されているのはコンゴの音楽がメイン。他の地域の音楽については第1章でざっと触れられているだけです。そういう意味ではこの本を持って「アフリカ音楽入門」と言ってしまうには紹介されているジャンルが狭すぎると言えなくもないのですが、コンゴといえばKonono No.1やKasai Allstars、今は活動休止状態のようですが、一時期日本でも大きな話題となったStaff Benda Bililiなど数多くのミュージシャンを輩出している地域であり、かつ一般的にイメージされるような典型的な「アフリカ音楽」を聴けるような地域でもあったりします。そういう意味ではアフリカ音楽の最初の一歩としてコンゴの音楽を知るのはピッタリなのかもしれません。

本書では徹底的に初心者に対して書かれた本であるため、専門用語等はほとんど用いられていません。アフリカの音楽の特徴であるコール・アンド・レスポンスやポリリズムなども紹介されているのですが、その用語自体は登場してきません。ただ一方ではアフリカの音楽でよく使われる楽器については写真付で細かく紹介されているほか、コンゴの音楽のリズムパターンについても代表的なものについて細かく紹介されています。さらに本書にはCDもついており、そこでまた楽器のことやリズムのこと、さらにはコンゴで歌われている歌なども紹介。本書の最後にはCDの内容について詳細な解説ものついており、本を読むだけではなく耳からもアフリカの音楽で使われている楽器やリズムについて詳しく知ることが出来ます。

ただここで紹介されているアフリカ音楽の入門の入門的な知識については正直言うと、アフリカの音楽に興味を持ってワールドミュージックの音楽ガイドなどを読んだりCDを聴いたりしても、意外となかなか説明してくれない知識のように感じます。実際、私もアフリカの音楽が好きで、CDを多く聴いたり、ガイド本をいろいろと読んだりしているのですが、この本を読んではじめて知ったことも少なくありません。これはアフリカ音楽に限らない話かもしれませんが、評論家やライターはともすれば「ある程度知っている」前提で文章を書きがちであり、基礎中の基礎の知識を書かなかったり、あるいはこの本で書かれているコンゴのリズムパターンの話のような、音楽自体の純理論的な知識については意外と書けない評論家が多いため、入門の入門のような本書の記載が、逆にアフリカ音楽の説明としては意外と新鮮味を感じさせる結果になっているように感じました。また、アフリカの音楽を知るためにその背景となるコンゴの文化も紹介されている点も大きなポイント。これによりコンゴの音楽についてより深い視点から理解することが出来るようになっています。

若干残念だったのは、これでアフリカ音楽に興味を持った人が次に聴くべきミュージシャンやアルバムなどの紹介がほとんどなかった点。コンゴの音楽が影響を受けたキューバのミュージシャンたちの紹介はあったものの、肝心のコンゴのミュージシャンたちの紹介はありませんでした。この点は入門書としてはちょっと残念。簡単なディスクガイドとかがあったら良かったのに、と思ってしまいました。

もっともその点を差し引いてもアフリカの音楽を知るための最初の一歩としては最適な1冊だったと思いますし、意外とアフリカ音楽について既に興味を持っていて、いろいろと聴いている人にとっても、この本を読むことによってさらに深い理解を得られる1冊のように感じます。まさにアフリカ音楽の入門の入門として幅広くお勧めできる良書だと思います。アフリカの音楽に少しでも興味がある方は読んでおいて損のない1冊です。

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2019年8月10日 (土)

「究極の100枚」というのはちょっと言い過ぎな気が・・・

今日も最近読んだ音楽関係の書籍の紹介です。

光文社新書から出版された「教養としてのロック名盤ベスト100」。以前から様々な形で出版されているロックの名盤集。著者は、以前、当サイトでも紹介した「日本のロック名盤ベスト100」の著者でもある音楽評論家の川崎大助氏。そういう意味で本著はその「日本のロック名盤ベスト100」の続編的な立ち位置と言えるかもしれません。

まず正直言ってしまうとこの「ベスト100」。日本における一般的な評価から考えるとかなり癖のあるリストになっています。その理由としては、同書でベスト100として選んでいるのは川崎氏の「主観」によるものではなく、アメリカの音楽誌「ローリング・ストーン」誌が2012年に発表した「500 Greatest Albums of All Time」とイギリスのNMEが2013年に発表した「The 500 Greatest Albums of All Time」を比較して、どちらのリストにもピックアップされているアルバムを抜き出した上、単純に順位に従ってポイントをつけて合算したもの、であるため。本人は「このような計算にもとづいたリストが公表されることは、僕が知るかぎり、国際的にみて前例はないはずだ」と自画自賛しているのですが、誰もが最初に思いつきそうなやり方だと思うのですが・・・・・・。まあ、膨大なリストを集計して得点化するというのはかなり大変な作業であることは間違いなく、それをやってしまった、という点には敬意を評したいところですが・・・。

ただ、その結果として、本人も後書き等で散々述べているのですが、日本で一般的に考えられている「名盤」がかなりランク圏外になっており、非常に癖のつよいランキングとなっています。同書でも具体的に述べられているのですが、レッチリやU2、ポリスもエルトン・ジョンもoasisもビョークもクイーンも載っていません。逆にPavementの「Slanted and Enchanted」とかBlondieの「Parallel Lines」などもランクインしているのですが、ここらへんは日本での名盤集では少なくともベスト100にはまず入ってくることはない気がします。同書では冒頭にこの100枚を「究極の100枚」と記載し、「あなたがロック通を自認していて、なおかつこの『100枚』のうち1枚でも聞き漏らしがあったらなー正直言ってちょっと『まずい』かもしれない」と書いているのですが、さすがに「それは言い過ぎでは?」と思ってしまいます。

もっとも、私たちが日本で「名盤だ」と思っているようなアルバムも、実は欧米ではそれほど高い評価を得てない、ある種の「ビック・イン・ジャパン」だったということだけなのかもしれませんし、そういう意味では「欧米」の基準を知ることが出来るという意味では興味深いリストと言えるかもしれません。逆にArctic MonkeysとかThe Strokesとか意外と欧米でも高い評価を得ているんだな、と気が付かされますし、個人的にはPixesの評価が高い点もうれしく感じました。

ネタバレになるので上位陣については書きませんが、ベスト10についてはオーソドックスなランキングで、1位についてもまあ納得感のある印象。「え?そんなに評価が高いの?」というアルバムも少なくありませんが、これを基準にして片っ端からアルバムを聴いていっても間違いなさそうなリストなのは事実。強い癖はあるものの、それなりにまとまっていた「名盤集」になっていました。

さて、そんな「名盤」を川崎大助氏が解説していくわけですが、正直言えばこちらにも癖があります(笑)。以前の「日本のロック名盤ベスト100」の感想でも書いたのですが、彼は今時珍しくなった「ロック至上主義」的な見方があり、それはそれで悪くはないのですが、ただちょっと思い入れが強すぎるような部分がありますし、それ以前に「ロック」系以外のCD評についてはちょっと雑に感じてしまう部分も。特にAretha Franklinの「Lady Soul」のCD評など、収録曲が売れてかついろいろとカバーされているという事実だけが記されており、正直思い入れがないんだろうなぁ、ということを如実に感じてしまいます。

また、偏りが多くて癖のあるリストと本人も言っているのだから、個人的には「+α」として10枚程度、ランク外になったものの聴くべき「名盤」をリストアップしてCD評を載せて欲しかったな、という感じもします。そこらへんは本のボリュームとして載せられなかったのは、それとも主観的な部分を徹底的に排除したかったのかは不明なのですが・・・それとも、それは巷にありふれている他の「名盤ガイド」を読んでくれ、ということなのでしょうか。

このように様々な側面から非常に癖の強い1冊であることは間違いありませんが、ただロックの名盤をいろいろと聴こうとする最初の一歩としては間違いはない感じ。また、ロック好きにとっても聴き漏らしがないかのチェックにもちょうどよいリストかもしれません。まあ、この手の「ベスト100」って日本だとロケノンがやってもミューマガがやっても強い「癖」のついたリストが出来上がるので、それに比べても幾分はマシかもしれませんし・・・。

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