書籍・雑誌

2023年5月29日 (月)

かつて社会現象になったバンドの自叙伝

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

1990年に当時大流行していたテレビ番組「いかすバンド天国」への出演を機に話題となり、一時期は「たま現象」とも呼ばれる社会現象的な人気を博したバンド、たま。そのメンバーである石川浩司がたまでの活動を綴った自叙伝「『たま』という船に乗っていた」です。この本を元とした漫画がWeb上で連載され、発売されたものを以前紹介しました。もともと、元となる本書は書籍の形でリリースされていたものが一度は絶版。その後、石川浩司のWebサイト上にアップされていたのですが、漫画連載に合わせて掲載を取りやめていたものを、今後は逆に漫画化につられる形で書籍にて再販されたのが同書となります。

その漫画版の方がおもしろかったので、原作の方も今回購入。もちろん、内容の方は漫画版とほぼ一緒です。ただ、石川浩司の書く文章は非常に軽快な文章。口語中心の文章なのですが、ともすればこの手の軽薄体はむしろ読みにくいケースも多いのですが、彼の文書はスラスラと読むことが出来ます。なにげに文書を書く才能も感じてしまいます。

一方で、漫画版と比べてみると、漫画版の方は非常によく出来た内容ということを感じます。特に原作の方は軽快な文体なだけに、様々な出来事が、思ったよりもサラッと書いてしまっていて、場面によっては「え、このくらいで終わり?」と思ってしまい部分は少なくありません。個人的に同書に興味を持ったのは、たまが経験してきた、80年代あたりのアンダーグラウンドシーンや、ブレイク後のバンドブーム最中の音楽シーンなどについて、裏事情も含めて、当事者としての視点を知ることが出来るかな、という興味がありました。

実際、そういう当事者ならではの記述も少なくはなかったのですが、全体的には比較的あっさりとした内容。その点はちょっと残念に感じました。ただ、その原作と比べると漫画版の方は、そこに「絵」が加わることによって、当時の雰囲気がより伝わってくる内容に。ここらへん、漫画化にあたって当時の状況などを取材したのでしょうね。何気に漫画版の方が、原作にしっかり肉付けをされており、この凝った仕事ぶりをあらためて実感できました。

ただとはいえ、石川浩司本人の書く軽快な作風の本作も魅力的。メンバーとしてバンドを楽しく演っていたんだな、ということが伝わってきます。特にたまというと、世間一般では「一発屋」というイメージが強く、特に売れなくなってからは、苦労した・・・とみられがちなのですが、この本を読むと、そんな悲壮感は全く無し。ここらへんはバンドとしてあくまでもマイペースに活動を続けてきたからでしょうし、また、本書でも書いているのですが、最後まで音楽一本でごはんが食える程度には稼いでいたみたいで、そういう意味では、本書でも書いてありますが、売れなくなってからも活動としては全く変わらなかったということを、本書の軽快な文体からも感じ取れます。

そんな訳で、このたまの歩みについて、非常におもしろく読むことができる1冊。たまというバンドを、名前程度、あるいはヒットした「さよなら人類」程度しか知らない人でも、これはこれで楽しめる1冊だったと思います。とても楽しい1冊でしたし、あらためてたまの曲についても聴いてみたくなった1冊でした。

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2023年5月22日 (月)

「セクシー歌謡」から日本ポップス史を眺める

今回は、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介。ちょっと遅ればせながらなのですが、Kindle Unlimitedに入っていたので読んでみました。

「にっぽんセクシー歌謡史」。音楽ライターの馬飼野元宏による作品。日本の、特に高度経済成長期によくリリースされた、いわゆる「お色気歌謡」にスポットをあてて、そのルーツや今に至る展開を検証した1冊となります。いかにも男性の興味を惹きそうな題材の1冊で、イメージ的には昔の「お色気歌謡」の際どいレコードジャケットや歌詞を集めて、世の殿方を喜ばせるような一品・・・というイメージも浮かんできますが、これがそんなイメージからは全く異なった、硬派な内容。今回は電子書籍で読んだものの、紙の本にすると592ページにわたり、この日本の流行歌の中で、性的なイメージを表に押し出したポピュラーソングの歴史をたどる、内容となっていました。

いままでも、あるテーマを切り口として日本のポップス史を語った書籍は何冊か紹介していきました。例えば「コミックソングがJ-POPを作った~軽薄の音楽史」ではノベルティーソングを切り口としてポップス史を語っていますし、「踊る昭和歌謡」では「踊る」という視点からポップス史を描いています。そして本作は、「セクシー歌謡」、要するに性的な要素を売りとした曲を主軸として日本のポップス史を通史的に眺めた1冊ということになります。これがまた著者の馬飼野元宏渾身の仕事となっており、最初は戦前の日本歌謡からスタート。ここでも何度か取り上げた戦前のスター、二村定一を取り上げ、また戦前から戦後にかけて人気を博した、歌う芸者である鶯芸者の活躍を描いています。

その後も戦後の「セクシー歌謡」の変遷について詳しく描写。さらには奥村チヨや山本リンダなどの、特に活躍したシンガーについては、よりスポットをあてて、詳しくその活動について説明しています。「セクシー歌謡」あるいは「お色気歌謡」というと、イメージとしてB級色が強く、日本歌謡曲の「レアグルーヴ」的に取り上げられがちなのですが、本書を読むと、「セクシー歌謡」という路線は、むしろ日本ポップス史においては、本家本流、中心に位置していた流れなのだな、ということを感じます。

ただ一方、そんな日本歌謡曲の中心に位置していたようなセクシー歌謡のほかにも、ヒットの恩恵になんとかあやかろうとしたB級のセクシー歌謡も多く存在したわけで、本書ではそんな曲もしっかりとフォローしています。また後半では、量的には女性ほど多くないものの、男性によるセクシー歌謡にも言及しています。そんな中ではあのつボイノリオも登場していました。

私も昭和の売れなかった歌謡曲については「レアグルーヴ」的に何曲か聴いたことがありました。この際どいセクシー歌謡について、当初聴いた時は「何だ、この曲は?」と思って聴いていたのですが、この本を読んで、はじめてそんなB級セクシー歌謡が、日本ポップス史の中でどのような位置づけになっているのか、はじめて知ることが出来ました。

しかし残念ながら著者の主張に賛同できない部分がありました。それがラスト、セクシー歌謡について、今でも歌手の認知度も高く、たびたび再評価される理由として、これらのセクシー歌謡について「根本には女性に敬意を抱き、時に崇拝するほどの真摯な感情を含有しているから」と語っています。同書の流れの中で少々唐突であり、ラストにむりやりまとめた感も否めないのですが、残念ながらこの著者の意見には同意しかねます。というのも、私が本書を読んで感じたことの一つに、このセクシー歌謡の歴史は、やはりどうしても異性からの願望を本人の意思とは関係なく、無理やり歌い手に反映させたものである(もちろん歌い手が男性の場合も含む)ということを感じたからです。実際、同書の記載の中で、歌手がこのような性的な部分を前面に押し出した曲を歌うのを嫌がった、という表現が散見されます。また、女性SSWでセクシー歌謡を歌った人がほとんどいないという点も、やはり異性のイメージの押し付けだったから、ということを感じさせますし、椎名林檎が、この「セクシー歌謡」的な要素を楽曲に取り込みながら、著者曰く、性的な部分についてはどこか他人事という点も、やはり、セクシー歌謡が歌い手本人にとっては、異性から無理やり押し付けられたもの、という側面が強い証左ではないでしょうか。

逆に私がなぜセクシー歌謡がたびたび再評価されるのかというと、やはりそこは男性(あるいは女性)の本能に起因する部分があるから、ではないかと思います。だからこそ、男女平等が強く謡われ、女性が性的な部分を男性の願望のままに売り出すやり方が認められなくなったとしても、今後もセクシー歌謡は姿を変え生き続けるでしょうし、また過去のセクシー歌謡が(ある意味、現時点におけるポリティカリー・コレクトネスをスルーできるがゆえに)再評価されるのではないでしょうか。

そんな点は気になりつつも、本書全体としては著書の丁寧かつ力の入った仕事ぶりに圧倒されるような出来になっており、セクシー歌謡という観点からの日本ポップス史について興味深く知ることが出来ました。また、同じ日本ポップス史でも、時にはコミックソング、時には踊り、そして時にはセクシー歌謡と様々な切り口で語れる語れるあたり、日本ポップス史の奥深さを感じました。

前述の通り、かなりのボリューム感のある作品。ただ、それだけに情報量も半端ありません。男性がエロ目的で読みだすとがっかりするかもしれませんが(笑)歌謡曲、日本ポップス史に興味がある方なら、間違いなく楽しめる、要チェックの1冊です。

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2023年4月28日 (金)

ボブ・ディラン入門

先日、ボブ・ディランのライブレポートを載せました。その中で、ライブに先立っての予習はしてきませんでした、と書いたのですが、厳密に言うと、事前にちょっとだけボブ・ディランの予習はしてきました。それが今回紹介する音楽関連の書籍。2月に発売された、音楽評論家、北中正和によるボブ・ディランの評伝、タイトルそのまま「ボブ・ディラン」です。

北中氏は、以前、同じく新潮新書で「ビートルズ」というタイトルそのままの評伝本を執筆していますので、基本的にはそれに続く形での新刊。ボブ・ディランの来日公演が発表された直後、今年の2月に発売されています。おそらく、来日公演を前提に、事前に準備してあり、来日公演の発表に合わせて発売されたのでしょう。

音楽系の出版社ではなく、新潮社の、それも手軽に手に取れる新書本での販売ということもあって、ターゲットは基本的に熱心な音楽ファンではなく、もうちょっとライトなリスナー層でしょうか。トータル3万円近い金額を払って、来日公演に足を運ぶような熱心なファンをターゲットにしているのかは微妙なのですが・・・もうちょっとライトなリスナー層にボブ・ディランのことを知ってもらい、あわよくば来日公演にも足を運んでもらおう、という魂胆でしょうか。

そういうこともあって、内容自体は非常にシンプルで、ボブ・ディランの入門書的な内容になっていました。最初は彼の簡単な活動歴の紹介からスタート。フォークシンガーからスタートし、ロックへの転身。さらにバイク事故からの隠遁生活、そしてその後の活動からノーベル賞へという流れが簡単に紹介されています。

その後はディランの曲と政治との関わりや、ブルースやフォークソングからの影響、さらにフランク・シナトラとの接点から彼の音楽が様々なジャンルからの影響を受けている点を映し出しています。特にこのボブ・ディランの曲が様々な音楽、文化から影響を受けて成立しているという点は本書の中でもかなりの分量を裂いており、最後の第8章では「ボブ・ディランは剽窃者なのか?」と題して、彼の書く歌詞は、様々な文学作品などを踏まえた作品であること紹介しています。

本書はあくまでも初心者向けの入門書的な役割を果たしているため、特に著者による斬新な解釈はありませんし、目新しいことはほとんどありません。むしろボブ・ディランを聴くには最低限、知らなくてはいけないことをあらためて1冊にまとめた、という印象の強く作品になっています。

全体的なテーマはボブ・ディランがいかに様々な文化の影響を受けたか、ということに焦点を当てているため、一方ではボブ・ディランの生い立ちなどについてはほとんど記載はありません。また、彼のディスコグラフィーなどもなく、その点は初心者向けとしては不親切だったかもしれません。実際、この本を読んだ後、最初の1枚として何を聴けばよいのか、迷う人も出てくるかもしれません。その点は、ディスコグラフィーや彼の活動をまとめた年表的なものがあれば、より初心者にもわかりやすくなったのではないでしょうか。

そういう気になった点はありつつも、概ね、ボブ・ディランについて非常によく集約されている1冊となっており、内容の読みやすさもあり、入門書としては最適な1冊だったのではないでしょうか。ボブ・ディランはどんなミュージシャンなのか知りたいような方には、まず手に取って損のない評伝でした。

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2023年4月16日 (日)

90年代オルタナ系を総花的に紹介

今回は、最近読んだ音楽系の書籍の紹介。

「90年代ディスクガイド USオルタナティヴ/インディ・ロック編」。タイトルそのまま、90年代のアメリカのオルタナ系ロック、インディー系ロックのアルバムを紹介するディスクガイド。音楽評論家の松村正人氏編集による1冊です。

内容も基本的にはタイトルそのまま。1990年代のオルタナ系ロックシーンのミュージシャンについて、最初は「Pre90s」として90年代以前のミュージシャンながらもその後のシーンに影響を与えたミュージシャンからスタートし、1990年代について1年毎に区切り、その年にリリースされたアルバムについて紹介。主要なミュージシャンについては個別にページを設定し、そのミュージシャンに関連するアルバムも含めてまとめて紹介しています。

ちなみに個別に取り上げたミュージシャンはSonic Youth、Pixiesからスタート。その後はNirvana、Pearl Jam、スマパンにR.E.M。Dinasour Jr.、Beck、レッチリ、Beastie Boys、NINなど大物をしっかり取り上げつつ、全体的にはインディー系のバンドを多く取り上げている印象があります。一方、有名どころは抑えつつもアルバム単位では取り上げられていたものの、Rage Against The MachineやWEEZERについては個別のページで取り上げられていないのはなぜ?

一方、ディスクガイドとして取り上げられているアルバムについては比較的、総花的に取り上げられている印象も。帯にも書いてありますが、ハードコアやパワーポップから、ポストロックまで幅広いミュージシャンが紹介されており、オフスプ、KORNのような、正直、サブカル的にはあまり評価の高くないようなバンドまでしっかりと取り上げられていました。

また、インタビュー記事としてボアダムスのEYヨとOGRE YOU ASSHOLEの出戸学へのインタビューも実施。こちらは音楽ファン的なマニアックな視点からの切り口はユニークでありつつ、非常に独自性のあるインタビューにもなっていました。どちらかというと出戸学へのインタビューはOGRE YOU ASSHOLEの音楽の源流として、なかなか興味ある内容になっていたように感じます。

個人的には90年代のオルタナ系ロックは以前から好みのジャンルではあり、いろいろなミュージシャンを積極的に聴いていたのですが、それでもまだ、知らないミュージシャン、アルバムも多く、まだまだ勉強不足も実感させられました。このディスクガイドを読んで、興味の出てきたミュージシャンも少なくなく、いろいろと聴いてみたく感じたディスクガイド。このジャンルが好きな方には、とりあえずはお勧めできる1冊だと思います。

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2023年4月 9日 (日)

二律背反的な立場もユニーク

今日は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

ミュージシャンであり、最近では週間文春の「考えるヒット」の連載などで音楽評論家としても活躍している近田春夫の新刊。60年代後半に日本のヒットシーンで一世を風靡した音楽のムーブメント、グループサウンズについて取り上げた、著書名もそのまま「グループサウンズ」。もともと、近田春夫はグループサウンズに造詣が深いのですが、ある意味、そんなシーンを総括するような1冊となっています。

グループサウンズとジャンルは、もともとベンチャーズやビートルズ、ローリング・ストーンズといった欧米のギターロックに強い影響を受け、数多くのバンドが誕生したことがそのきっかけになっています。そのようにして登場した多くのバンドは、いずれも欧米の音楽シーンの強い影響を受け、洋楽テイストの強いロックを演奏して人気を博していました。そんなシーンに目をつけて、当時のレコード会社はそんなバンドをデビューさせたのですが、ところが、そうやってデビューさせた曲は、当時の歌謡界の大物作家に作詞作曲をさせたような歌謡曲そのものの楽曲。本来は、洋楽志向の強いバンドだったにも関わらず、グループサウンズのブームの中で、楽曲は歌謡曲に無理やりよせられて、「つまらない歌謡曲」を歌わざるを得なかった・・・これがグループサウンズに対する評論家的な見方となっています。

一方で、一般的に「懐かしのグループサウンズ」という扱いをされる時は、そのような見方は全く加味されません。むしろ歌謡曲に無理やりよせられて歌わされた「ヒット曲」をノルタルジックな感情たっぷりに取り扱われるのがもうひとつのグループサウンズの見方・・・こちらの見方の方が一般的ですし、なおかつ多数派の見方であることは間違いないでしょう。

本書が非常にユニークだったのは文春新書という媒体で、前者のような見方を求める音楽ファン層ではなく、後者のような見方をもとめる一般層を対象としつつ、しかし近田春夫の論調としては、むしろ前者のような見方が色濃く記載されている内容となっている点でしょう。前者のような「音楽ファン向け」では、通常、むしろB級とされるようなバンドがよく取り上げられるのに対して、本書で取り上げられているのはスパイダーズ、ブルーコメッツ、ザ・タイガース・・・といったいわばグループサウンズブースの中心にいた売れ線バンドばかり。それにも関わらず、近田春夫はそんなバンドの「売れ線」のヒット曲をつまらないと切って捨てて、そんなバンドが背後に抱えていた洋楽からの影響について積極的に分析しています。

さらに近田春夫自身、音楽的な観点からは決してグループサウンズを評価していない部分も見受けられます。本書でもGSが短命だった理由として「音楽そのものに対する研究の度合いが浅かった」と切って捨てています。ただ一方で、同じ文脈で、GSについて「軽佻浮薄なところこそ、俺なんかはどうしようもなく惹かれているんだけどさ(笑)」と語っています。ここらへん、本書の中でバンドの音楽性について分析しつつ、一方ではそんな部分から切り離された軽佻浮薄な点に惹かれるという、ある種の二律背反性が非常にユニークに感じました。これだけ売れ線バンドを取り上げつつ、「近田春夫の選ぶGS10曲」の冒頭が、あの山口富士夫が参加していたことでカルト的な人気を博しているB級GSバンド、ザ・ダイナマイツの曲ですしね・・・。

ただもちろん、バンド評については、近田春夫らしいユニークな切り口で分析しつつ、かつ「歌謡曲」という文脈で語られる場合には無視される洋楽からの影響についても分析されているため、非常に立体的なバンド像が浮かび上がってきます。単なる売れ線バンド、歌謡曲バンドではなく、「ロックバンド」としてのグループサウンズの側面は、非常に興味深く、あらためて彼らの曲を聴いてみたくもなりました。

一方でちょっと残念だったのは、本書の作りとして、バンド毎での分析に力を入れられていたため、グループサウンズブーム全体の流れについては、少々つかみにくい内容になっていた点でした。それこそグループサウンズブームをリアルタイムで体験していたような層を対象にしたからこそ、全体的な流れについては、いまさらあえて触れなかったという可能性もあるのですが、私のようにグループサウンズブームを「知識」としてしか知らない層には、もうちょっと全体の流れについて説明が欲しかったかな、という印象も受けました。

そんなマイナス要素もありつつも、ただ全体としては、グループサウンズについて「ヒット曲」しか知らないような層をターゲットに加えつつも、音楽ファンにとっても読みごたえのある内容になっていたと思います。読んでいて、あらためてここで紹介されているような曲についてチェックしたくなった1冊。グループサウンズ、引いては60年代後半の日本のミュージックシーンについて知りたい方には最適な新書本でした。

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2023年3月24日 (金)

彼の人柄もわかる遺作

おそらく私が「rockin'on」誌を読んで、最初にその文体から書き手がわかるようになったのは間違いなく松村雄策氏の文章でしょう。

とにかく、彼の書く評論は非常に独特でした。最初は音楽とは全く関係ない、彼の日常にまつわるエッセイからスタートします。そんな音楽とは全く関係ないエッセイが続いたかと思えば、途中にその「日々の出来事」から、時としてこじつけのようにミュージシャンに対するエピソードに展開。最後は、音楽にまつわる話で終わるのですが、時として、ミュージシャンが登場するのは最後の最後。ほとんどが彼の日常にまつわるエッセイで終わるような評論すらありました。

正直、最初は「音楽と関係ないじゃん」と、あまりいい印象を受けませんでした。しかし、そんな氏の文章を何度か読むうちに、徐々にその独特の文体が気に入るようになってきました。なによりも、書き手の自己主張が激しい「rockin'on」の評論の中で、書き手の日常を綴りながらも、決して自己主張をするわけではなく、どこか暖かさを感じる彼の文体には大きな魅力を感じていました。

今回紹介するのは、音楽評論家松村雄策氏のエッセイ集「僕の樹には誰もいない」。彼は昨年3月、70歳でこの世を去りましたが、本作はその彼が生前に残した、ほぼ「rockin'on」誌に残した作品をまとめた1冊。なぜかロッキン・オン社ではなく、河出書房新社からの発行となります。

冒頭にも書いた通り、彼の書く論文は非常に独特。音専誌に寄稿した文章でありつつ、時として音楽以上に自らの日常を描いたエッセイであることが多々あり、また音楽に関しても、「評論」というよりも彼のそのミュージシャンに対する思い出を語ることが多く、正直、「音楽評論家」というよりも「エッセイスト」といった肩書の方がピンとくるかもしれません。

ただ、そんな彼の文章が非常に魅力的なのは前述の通り、自己主張をするわけでもない自然体の文体、そして何よりも音楽、特に彼が好きなミュージシャンに対する愛情が真摯に伝わってくる作風になっているからだと思います。

とにかくビートルズが好きな彼は、このエッセイ集でも至る所でビートルズの思い出が語られます。基本的にリアルタイムに経験した内容なだけに、非常に説得力のある内容になっていますし、ある意味、しっかりとした知識の裏付けもあるだけに単なるおじさんの思い出語りになっている訳ではなく、ポピュラーミュージック史の証言者としての役割も果たしています。

特に「rockin'on」誌では、時として、話題のミュージシャンを必要以上に持ち上げて、話題にならなくなるとほとんど取り上げなくなる、というケースが目立つのですが、彼の場合、エッセイ集全体を通じて、好きなミュージシャンについて全くぶれずに応援しているだけに読んでいて非常に信頼感のある印象もあります。日本人ミュージシャンではCOILの岡本定義と、元PEALOUTの近藤智洋を応援しているのですが、終始一貫して応援し、取り上げており、そのぶれなさ具合にも信用が置けまし、また誠実な彼の人柄も感じることが出来ます。

このエッセイ集も、そんな彼の人柄が伝わる文章が多く収録されており、また彼の日常を垣間見る内容にもまた、松村雄策という人物を身近に感じられる、そんな魅力的な1冊となっていました。それだけに彼の遺稿となった「Still Alive And...」はリアルタイムでも読んでショックを受けたのですが、あらためて読んでいて胸がグッとなりました・・・。

最近、ビートルズ関連のCDなどが発売されると、彼が生きていたら、どんな論文を読めたんだろう・・・ということをいつも考えてしまいます。それだけ強い印象を私たちに残してくれた松村雄策氏。あらためてそのご冥福をお祈り申します。数多くの素晴らしい作品を、ありがとうございました。

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2023年3月11日 (土)

ちょっと癖のある入門書

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

今回は、ちょっと毛色が違ってクラシック関連の書籍になります。音楽評論家の許光俊によるクラシックの入門書「はじめてのクラシック音楽」。クラシック音楽というジャンルは興味を持つ方は多い一方、非常に敷居が高く感じるジャンルでもあるため、この手の入門書は数多く出ていますが、そのうちの1冊。新書形態で読みやすそうな内容だったので手に取ってみました。

私自身は「これでクラシック音楽を幅広く聴いてみよう」・・・と強く思った訳でもなく、また、この手のクラシック音楽入門書は何冊か読んだことあるのですが、そんな中、今回読んだこの「入門書」について感じるのは、まず「入門書」としては比較的癖のある内容だったかな、ということを感じました。どうも、この音楽評論家の許氏は、自分の個性的な意見を強く押し出すタイプの評論家のようで、そこらへん好き嫌いがわかれそうなタイプのようですが、それでも同書については「入門書」ということで、かなり意見は控えめだったよう。それでも要所要所に彼のクラシック音楽に対する見方が垣間見れる1冊になっていました。

そんな率直な物言いもあってか、まず内容的には読みやすい文体になっているのが大きなプラスポイント。また、「クラシック音楽とはどのような音楽か」からスタートし、「クラシック音楽の聴き方」や、さらにクラシック音楽に出てくる用語の解説も簡潔に紹介しているため、クラシック音楽の初心者についてはわかりやすく、またクラシック音楽に対して、どのようなスタンスで臨めばよいのか、というのも非常にわかりやすく書かれていました。

またこの本で「入門書」としてありがたかったのが、クラシックの演奏家・指揮者の紹介に、かなりの部分を割いている点でした。この手のクラシックの入門書は、クラシックの基本的な用語や作曲家についての解説でほとんどを占められており、演奏家についての紹介をしている本というのはいままでほとんど出会ったことがありません。ただ、クラシック音楽というのは、演奏家・指揮者によってかなり内容が変わってしまうジャンル。そういう意味では演奏家・指揮者の紹介に、かなりのボリュームを割いているというのは、初心者にとってはかなりありがたく、またクラシック音楽の世界をより深く知ることができる内容になっていました。

一方、賛否がわかれそうなのが、まさに上にも書いた許氏の見方が強く反映しているという点。「入門書」ということで、独自の意見は比較的抑え気味なのですが、それでも特に演奏家・指揮者の紹介では「これが一般的な見方なんだろうか・・・」とちょっと戸惑ってしまうような物言いもあります。例えばカラヤンの項では彼をかなり批判的に書いていますし、小澤征爾についても批判的に記載しています。ここらへん、ある種の見方を知ることが出来る点ではおもしろくもある反面、一般的な見方なのかどうなのか、初心者には判断できず、「入門書」としてはどうなんだろう・・・と感じてしまいます。

さらに物足りなさを感じた点としては、まずクラシック音楽全体の「歴史」についてはほとんど記載がなかった点。一般的にクラシックの入門書では、バロック音楽、古典派、ロマン派といった感じで、時代毎にまとめられており、クラシック音楽全体の歴史についてわかるような記載が多いのですが、この本では作曲家は主に「出身国」毎にまとめられており、一応、章によって時代区分はなされているものの、若干、クラシック音楽全体の流れについてはわかりにくかったように思います。ここらへん、時代区分で作曲家を並べなかったのは、わざとなのかもしれませんが・・・。

また、これを読んで、「じゃあ、クラシックを聴いてみよう」という方に対して、手にとるべき音源の紹介もなかった点も非常に残念。特に本書の中には、初心者はオンラインよりもCDを手に取って聴いてほしい、ということを書いてあるんですから、まず初心者が聴いてみるべき、お勧めのCDの紹介はほしかったなぁ。これについてもちょっと残念に感じました。

そういう訳で、「入門書」としてちょっと癖のある部分も感じられたため、おそらく他のオーソドックスな「入門書」と一緒に読んだ方が無難なようにも感じます。ただ、オーソドックスな「入門書」では物足りなさを感じられる部分を、同書ではしっかりとフォローしており、そういう意味でも「入門書」としての機能を果たしている1冊と言えるかもしれません。個人的にはなかなかクラシック音楽まで手が回らないのですが・・・ただ、これを読んで、またクラシック音楽に挑戦してみようかな、とも思えた1冊でした。

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2023年2月17日 (金)

J-POPをめぐる「物語」

今日はまた、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

今回紹介するのは、音楽評論家の佐々木敦による「増補・決定版 ニッポンの音楽」。もともと2014年に講談社新書から発売されたものを、その後の音楽シーンの情勢を加味した上で、あらたに文庫本という形態でリリースされた本で、音楽評論家の佐々木敦が日本のポップスシーンについて総括的に分析した1冊です。

同書の大きな特徴として、各章に一組(一人)の代表的なミュージシャンを登場させ、そのミュージシャンを中心とした「物語」として日本のポップスシーンの歴史を語っている、という点でしょう。最初ははっぴいえんどからスタートし、YMO、フリッパーズ・ギター、ピチカート・ファイヴ、小室哲哉、そして中田ヤスタカと続いていきます。「はじめに」でこの登場人物たちの「言動や振る舞いに記述の視点を思い切って収斂されることで、ひとつの『物語=歴史』として『ニッポンの音楽』は展開していきます」と記載しています。

その「ニッポンの音楽」をめぐる物語の中で、彼は「外」と「内」に関するかかわり方についてスポットをあてています。端的に言えば洋楽からの影響をどう取り込むのか、という点なのですが、「外」と「内」に距離があり明確に区別されていたはっぴいえんどやYMOの時代から、「外」と「内」の区分にほとんど意味をもたらさなくなった中田ヤスタカの時代までの変容をしっかりと分析しています。

正直言って、物語の登場人物を絞ったというのは、かなり大胆な試みのように感じます。実際、ミュージシャンの偏りについては批判も多いみたいで、文庫本のあとがきではそのような批判についても触れています。ただ、「はじめに」を読めばわかるように、著者はあえて登場するミュージシャンを絞り込んで記載をしていることは明確ですし、このような批判はさすがに読者の読解力のなさを疑わせるレベルだと思います。また、著者の描く「ニッポンの音楽」の物語の中、確かにこの登場人物については各時代を象徴する存在であり、取り上げるのは自然であるように感じます。

ただ、その上であえて言ってしまえば、最近になればなるほど、この「物語」に違和感が生じてしまっているのも事実だと思います。例えば、ゼロ年代の主人公として中田ヤスタカを登場させています。確かに2014年の時点においてPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅのヒットで、彼がいわば小室哲哉に続くような時代の寵児、とみられていた時期がありました。ただ、2022年の今となると、結局中田ヤスタカは、一時期の小室哲哉や小林武史のようにチャートを席巻するようなことはありませんでした。これは中田ヤスタカ自身、必要以上にプロデューサー業で手を広げず、一時の小室系みたいに時代のあだ花として消費されることを回避しようとしたようにも感じます。しかし、今となってはゼロ年代を中田ヤスタカ一人に象徴させるのは、かなり難しいようにも感じます。

その違和感は今回の文庫本化にあたって追加された「ボーナストラック」でより強く感じます。ここで様々な登場人物を取り上げていますが、著者の描く「ニッポンの音楽」の物語の中でピンと来るようなミュージシャンはいません。星野源を登場させていますが、正直、ちょっと違和感がありますし、折坂悠太も登場させていますが、「日本的な要素と、海外の先端的な音作りが巧みにミックス」というのはその通りなのですが、物語の行きつく先が、日本的な音楽と洋楽の融合、というのはあまりにも陳腐すぎます。さらに2022年の時点に物語であるにも関わらず、コロナ禍の影響を無視しているのにも違和感もあります。

これは著者の描く物語が日本の「外」と「内」というものを軸としているため、2020年代という今の時代においては、それが意味をなさなくなってきているから、ではないでしょうか。それにも関わらず、いままでの物語の延長線上に2020年代を語ろうとしているからこそ、違和感を覚えてしまうのではないでしょうか。著者の描く物語は2000年代、いや90年代で既に幕を閉じていたようにも感じます。

とはいえ、そんな違和感を含みながらも、一つの物語として非常に興味深く「ニッポンの音楽」を描いている1冊だと思います。著者も意識しているように、これはひとつの見方であり、偏っている部分はある点は否定できません。そのため、純粋に日本のポピュラーミュージックの歴史を知ろうとした場合、この1冊だけに頼るのは非常に危険であることは間違いありません。ただ、その点を加味した上でひとつの「物語」として読んだ場合、なるほど著者の見方も「ニッポンの音楽」の中で間違いなくひとつの核だったんだろうなぁ、とは思います。

そういう意味で非常に興味深く読むことが出来ましたし、また改めて勉強にもなった1冊でした。J-POPの歴史を知るためのひとつのとっかかりとしてはちょうどよい1冊だと思います。

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2023年1月 3日 (火)

KANの歌詞の魅力をあらためて実感

新年2発目の通常更新は、最近読んだ音楽関係の書籍の紹介です。

KANの歌詞を集めた「詩集」、「きらむの和歌詞」。先日行われたKANのライブの物販で購入した1冊。その時のライブレポートでもチラリと取り上げましたが、その後、無事(?)読み終わりましたので、今回は同書の感想となります。

基本的に今回のこの書籍は、簡単に書いてしまうと、彼が書いた歌詞が並べてあるだけ。そこにKAN自ら書いた、その歌詞の背景の説明などが書かれています。そのため本を読み進めるというのは、基本的にはKANの歌詞を読み進めるという形となります。もともとKANというミュージシャンは、その歌詞が魅力的で、かつ、しっかりとその歌詞を聴かせるスタイルの曲が多いだけに、今回あらためて歌詞を「本」という形で書いて、「これ、こんな歌詞だったのか!」なんていう驚きはありませんでした。

ただそれでも、あらためて彼の歌詞をこのような形で読み進めていくと、新たな発見も少なくありませんでした。抒情性ある歌詞が多いという印象もさることながら、ロマンチックな歌詞が多いということはあらためて強く実感します。また、彼の「知る人ぞ知る」的な名バラードである「1989(A Ballade of Bobby&Olivia)」も、歌詞を読むと、ビリー・ジョエルからの影響が歌詞の側面からも顕著であることを強く感じます。

また、今回のこの歌詞集の目玉とも言えるのがKANちゃん自身による歌詞の解説でしょう。あらためて、彼はこうやって歌詞を書いているんだ、この歌詞にはこういう背景があるんだ、ということを知ることができ、ファンならば間違いなく必読といえる内容となっています。その中で特に印象に残っているのが、彼の奥様への想いをのせた歌が非常に多いという点。KANちゃんが既婚者という事実はファンなら百も承知の話ですが、正直、ライブなどでは奥様の話をしたことがほとんど記憶にありません。ただ、この歌詞集では多くの曲の背景として奥様(「愛妻」と書かれています)とのエピソードが書かれており、当たり前といえば当たり前なのですが、奥様への愛情が歌詞に与えた影響の大きさをあらためて感じました。

ただ、そんなKANの歌詞集ですが、賛否両論があるのが、ほぼ彼の歌詞を並べただけの内容で税込3,000円というお値段。KAN自らの歌詞解説は確かに読み応えはあるものの、300ページある内容のうち30ページ程度で、ボリューム的にはちょっと物足りない点が否めません。率直な印象として、歌詞解説がこのボリュームでこの値段というのは高いかな、というのは感じてしまいます。

もっとも一方で、このKANによる歌詞解説自体はファンなら必読とも言えるないようで、3,000円という値段はともかく、まずはチェックしたい内容なのは間違いないでしょう。ファンであっても正直、ちょっとお高めという印象を受けてしまうようにも思うのですが、個人的にはファンとしての「お布施」的な意味も込めて買いました(笑)。

そんな訳で、正直なところファン以外にはお勧めするのはかなり厳しい1冊だと思います。これを買うくらいならば、KANのベスト盤を1枚買うことをお勧めします。なにげにKANの曲はサブスク解禁されていないようですし・・・。ただファンにとっては、読んでおきたい1冊だと思います。あえて「購入して損はない」とまでは言いませんが、お布施の意味を込めて・・・。1,500円くらいだったら、文句なしでお勧めできたのですが・・・。

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2022年11月22日 (火)

まさか「メロン牧場」で・・・。

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

電気グルーヴが長年、音楽誌「ROCKIN'ON JAPAN」誌で掲載している連載を1冊にまとめた「電気グルーヴのメロン牧場-花嫁は死神7」。タイトル通り、これが7冊目となります。

電気グルーヴといえば2019年3月にピエール瀧がコカイン所持で逮捕され、大きな衝撃が走りました。その逮捕を受け、電気グルーヴのCDが販売停止となり、ストリーミング等も配信停止となる事態となり、賛否両論が巻き起こりました。そんな中、あまり話題にはなかなかったものの、「表現の自由」の矜持を見せたのが出版界で、逮捕直前に発売された6巻目も販売休止にならず、また他の書籍類も一切、販売停止等の処置は取られませんでした。実際、この出版会の処置についてはメンバー、特に石野卓球も相当感謝しているようで、以前紹介したリットー・ミュージックの「電気グルーヴのSound & Recording 〜PRODUCTION INTERVIEWS 1992-2019」でも感謝の意を表していますし、本書でも「やっぱり今回電気グルーヴが復活するにあたって、いちばん力になったのが、リットーミュージックとロッキング・オン社(p93)」と「死の商人だから(p94)」と茶化しながらも、律儀に感謝しているあたりが、(リットーミュージックのムック本の感想でも書いたのですが)石野卓球の律儀な性格を感じてしまいます。

さて、そんな6冊目から約2年8ヶ月ぶりに発売された今回の7冊目ですが、今回の「メロン牧場」、まさか

「メロン牧場」を読んでいて、涙腺が緩むことになるとは思いませんでした!

「メロン牧場」を読んでいて、親孝行しなけりゃいけないな、と思うことになるとは思いませんでした!

・・・詳しくはネタバレになってしまうので、同書を読んでほしいのですが、ただ一言言えるのは、前回以上に非常に読み応えのある1冊になっているという点でした。

なんといっても今回の「メロン牧場」では大きなポイントとなるのが、ピエール瀧逮捕前後の回が収録されている点。さすがに逮捕直後の2019年4月号、5月号は休みとなっているのですが、6月号はまだ瀧が釈放される前で石野卓球1人でしゃべっています。ピエール瀧が逮捕された直後、ワイドショー近辺の「相方である石野卓球も謝罪すべき」という圧力に負けず、主にTwitterを中心に正常営業の悪ふざけのツイートを続け賛否両論を集めた彼(・・・というよりはファンからの圧倒的な賛同と、石野卓球を全く知らなかったような層からの反発、といった感じでしょうか)ですが、ここではそういう言動を取った理由についても(もちろんいつも通りに半分茶化した感じではありますが)しっかり語られています。

そこにはしっかりとした石野卓球なりの考えがあり、かつ、一本筋が通った確固たるスタンスを感じます。もちろん、その考え方についても賛否あるかもしれませんが、少なくとも、世間の空気と同調圧力という、理屈のない訳の分からない感情論で叩いていたワイドショー近辺とは勝負にならなかったな、ということを強く感じます。

また、立派に感じたのは、そんな石野卓球のスタンスをしっかりと引き継ぎつつ、ピエール瀧を逮捕前と全く変わらないスタンスで受け入れたロッキング・オン(というかインタビュアーの山崎洋一郎)のスタンスで、ピエール瀧復帰の第一声から「お務め、ごくろうさまでした!(p52)」といつも通りのジョークからスタートし、いつも通りの「メロン牧場」が展開していきます。最近ではすっかりアイドル誌になってしまってロックのかけらも感じられない「ROCKIN'ON JAPAN」には霹靂としていたのですが、ここのスタンスに関しては、ロック誌として最後に残されたような矜持も感じました。

そんなピエール瀧の逮捕にまつわる本人の裏話もあったり、今回の逮捕にあたっての電気グルーヴの事務所独立の話もあったり、以前の「メロン牧場」は電気グルーヴの日常にまつわる「ネタ」をグダグダと話している内容だったのですが(今回もそういうグダグダ話もありましたが)この7冊目に関しては、電気グルーヴや石野卓球近辺で大きな事件・出来事が相次ぎ、それだけに非常に読み応えのある内容でしたし、電気グルーヴのファンなら必読の1冊となっていました。

そんな訳で、いつもの「メロン牧場」に増して読み応えのあった1冊。帯の紹介に「今回の『メロン牧場』はいつもよりドラマティックで笑いながらもちょっと泣けます」という煽り文に全くの偽りがないところが驚くべきところ。心よりお勧めしたい1冊です!

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