書籍・雑誌

2025年11月 9日 (日)

oasis全曲を豊富なエピソードに絡めて紹介

今年、再結成を果たし、先日の日本公演も大盛況で大きな話題となったoasis。その再結成や来日公演に合わせて、oasis関連の書籍がいろいろと販売されています。その中でも面白そうなもの、手軽に読めそうなものをピックアップし、いろいろと読んでいるのですが、今回紹介するのは、そんな中、私が読んでみたoasis関連の書籍の1冊です。

「What's the story? オアシス全曲解説」。NMEの音楽ジャーナリスト、テッド・ケスラーとヘイミッシュ・マクベインによる著書。タイトル通り、oasisが過去に発表した全曲を取り上げて、1曲1曲解説を加えた1冊。「全曲解説」という建付けは伊達じゃなく、アルバムやシングルのカップリング曲はもちろん、日本盤のみでボーナストラックに収録された曲も網羅。まさに文字通り、全曲取り上げて、1曲1曲に解説を加えています。

それだけにかなりボリューミーな1冊で、全452ページ、ハードカバーの本書。そんな読み応えのある一方、文章は比較的平易で読みやすく、スラスラ読める、読みやすい内容に。これは訳者の力でもあるのかもしれませんが・・・。そして、エピソード満載の内容で、個人的には、ここ最近読んだoasisの関連書籍の中で、ダントツで面白い1冊だったと思います。

全曲解説ということで、oasisの楽曲が発表順に並び、それぞれの解説がついている内容となっています。ただ、解説といっても音楽的な分析とかはほとんどなく、基本的にそれらの曲にまつわるエピソードが並んでいる構成。また、楽曲解説の間に、ライブや記者会見など、著者2人がoasisと関わった「現場」でのレポート記事も載っており、こちらもエピソード満載となっています。

このエピソードが非常におもしろく、ドキュメンタリー映画「オアシス:スーパーソニック」で紹介されたエピソードも引用されているのですが、その一方、初耳のエピソードも満載。初期のエピソードはもちろん、本書ではoasis解散まで追った作品になっているため、「スーパーソニック」では取り上げられていない時期のエピソードも多く、特にoasis後期については、自分も一時期に比べて「熱」が醒めていたこともあって、逐一話題を追っていなかったため、今回、はじめて知ったようなエピソードも数多くありました。また、イギリス国内で、CMやテレビ番組などでどのように取り上げられてきたのか、というのは日本でも紹介されないケースが多いため、日本だとあまり知られていないような曲が、本国では人気があったり、また、他のミュージシャンのカバーや、ソロとなってからのノエル、リアムがライブなどでレパートリーに入れた曲もコメントされており、意外な曲が人気だったり、評価が高かったりして、日本での見方とは違った視点での取り上げられ方もまた、新鮮味を覚えました。

また、非常に興味深かったのは、それぞれの曲の元ネタになりそうな曲、「パクリではないか」と話題になった似たようなタイプの曲、影響を受けたような曲も紹介されているのもおもしろいところ。特に元ネタや似たようなタイプの曲は、日本のメディアでは取り上げられることがほとんどないため、こういうところをズバズバ指摘するのも、いい意味でイギリスらしいな、とも感じます。また、元ネタや影響を受けたような曲に関しては、ちょっと意外なミュージシャンや日本ではあまり知名度が高くないバンドなども少なくなく、これを機に、oasisに影響を与えたミュージシャンとしてチェックしてみようかな、とも感じました。

そして、こちらも興味深かったのが、日本に関するエピソードも結構取り上げられていること。日本のメディアでのインタビューなどで日本のファンについて言及することは多いのですが、あくまでも日本のファン向けのファンサービスと思っていましたが、特に結成初期において、英語の通じない、イギリスから遥か遠い島国の日本で熱烈に受け入れられたことは、メンバーにとっても相当うれしかったようです。特に、oasisがはじめてアンコールに応じたライブが名古屋のクラブクアトロでのライブだったそうで、名古屋が意外な形で登場してきたのもちょっとうれしかったりします。

そんな訳で、非常にボリューミーな内容でしたが、読み応え満載の1冊。oasisファンならば、まずは読むべき1冊だと思います。oasisに関しては、アルバムはもちろん全曲聴いているのですが、シングルのカップリングについては聴いていない曲も多く、これを機に、あらためてoasisの楽曲を全曲聴きなおしてみたくなりました。oasisの魅力を再認識できたのはもちろん、これだけ多くのエピソードを曲にからめて紹介した、著者2人のジャーナリストとしての力量に感服した、そんな力作でした

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2025年11月 2日 (日)

ラテン音楽を網羅的に濃く紹介

今回は、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

「ゼロからわかる!ラテン音楽入門」。書店に行くとよく並んでいる、初心者向け、というよりもそのジャンルをさらっとなぞるだけなぞってみよう・・・程度の興味しかないような層に向けてのお手軽な入門書レベルのシリーズ・・・かと思いきや、ラテン音楽について実によくまとめられた、ラテン音楽に興味がある方はもちろん、ワールドミュージック全般に興味がある方にもおすすめできる、入門レベルながらもかなり濃い内容の1冊でした。

「ラテン音楽」とは、いわば中南米地域の音楽。もともとスペインやポルトガルの植民地だったこれらの地域に、奴隷としてアフリカの黒人が連れてこられた結果、スペインやポルトガルなどの西洋系の音楽と、アフリカ系の音楽が混在した独自かつ豊かな音楽文化が生まれました。

本書では、そんな「ラテン音楽」を網羅的に紹介しています。第1章ではラテン音楽に関する概要の紹介。第2章ではラテン音楽の主なジャンルについて紹介した後、第3章では、そんなラテン音楽の代表的なミュージシャンたちを紹介。第4章では、そんなラテン音楽の現在の状況を、第5章ではラテン音楽の歴史を紹介した後に、第6章では中南米の音楽を国ごとに紹介。最後の第7章では、ラテン音楽と様々な音楽ジャンルとのつながりを紹介しています。全192ページというボリュームの中で、ラテン音楽をあらゆる切り口から紹介しており、かなりボリューミーな内容に仕上がっています。

内容的にかなり詰め込んだ内容になっているため、入門レベルとはいえ、様々な固有名詞が次々と登場。その点はちょっと読みにくい部分があったことは否めませんが、次々と登場してくるラテンのミュージシャンたちには俄然、興味が湧いてきます。特にうれしいのは、それぞれのジャンルにおすすめのアルバムも載っており、読んだ後、どんな作品に手をつければよいのかもわかりやすく紹介しているのはうれしいところ。さらに章ごとにSpotifyのプレイリストがQRコードで紹介されており、こちらもSpotifyによって代表的なラテンの楽曲についてチェックすることもできます。

さらに第6章のラテンアメリカ各国の音楽についてはかなりマニアックな部分も網羅。ブラジルやメキシコのような大国だけではなく、例えばニカラグアやウルグアイといった、ちょっとマニアックな国の音楽までちゃんとフォローしてあり、入門書でありながらも、コアなリスナー向けでも読み応えがあるかも。第4章では、ラテン音楽の現在もしっかりとフォローしており、ここでは当サイトでも紹介したこともあるBad BunnyやRosaliaといった、最近話題のラテン系ミュージシャンも紹介されています。

そして第7章も非常に興味深い内容で、ラテン音楽と他のジャンルとのつながりを紹介。日本の歌謡曲やHIP HOPとのつながりや、ジャズ、さらにはクラシックとのつながりも紹介しています。ポピュラーミュージックの書籍だと、どうしてもクラシックについてはあまりフォローされないケースが多いのですが、そんなクラシックに対してラテン音楽がどのような影響を与えてきたのかも紹介されており、本書の網羅する範囲の広さを感じさせます。

なお、一方でラテン音楽を広く網羅的に紹介している影響で、例えばブラジル音楽にように、それだけで大きな市場があるような国の音楽については、サラッと触れた程度。例えばラテンのスターの紹介でも、ブラジル音楽の大物、ジョアン・ジルベルトやカルメン・ミランダのようなミュージシャンたちは紹介されていません。また、レゲエに関しては完全にスルー。ジャマイカの音楽としても紹介されていません。レゲエはレゲエで、ラテン系音楽からは独立したジャンル、という位置づけなのでしょうか。

そんな点は差し引いても、ただラテン音楽の入門書としても、さらに多少ラテン音楽を知っているような方にでも、かなりおすすめできる網羅的、かつ内容の濃い、読み応えのある1冊になっていました。今後、これを機に、ここで紹介されているアルバムをいろいろとあさって、ラテン音楽についても積極的に聴いていきたいです。

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2025年9月19日 (金)

ちょっと薄っぺらく感じる部分もあるが・・・

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。oasis再結成及び来日ライブに合わせて、oasis関連の書籍がいろいろと発売されていますが、本書はそんな1冊。「オアシス-不滅のロック物語-」。「ROKIN'ON JAPAN」の元副編集長の音楽ライター、小川智宏による著書。ちょっと珍しいハヤカワ新書からのリリース、って、早川書房もいつのまにか新書を発刊していたんだ・・・。

本書は大きく2つのパートから分かれていて、前半ではoasisの歴史をたどり、後半では日本における洋楽受容史や海外におけるロックの現状からoasisの立ち位置とロックの未来を模索する評論パートとなっています。

前半に記載されているoasisの歴史については、ブリティッシュロックの歴史に軽く触れた後、ノエル、リアム兄弟の生い立ちからスタートし、oasisの結成からブレイク、その後の活動から解散、それぞれのソロ活動から再結成に至るまで描いています。生い立ちからネブワースでのライブまでは、以前にドキュメンタリー映画が公開され、先日も当サイトでインタビュー集を紹介したばかりですので、ファンにとっては完全におなじみな内容。目新しさはありません。また、ネブワース以降についても基本的にはリアルタイムに追ってきた話ばかりなので、こちらも目新しさはありません。ただ、今回の再結成に関しての騒動の中で、彼らのことが気になった初心者にとっては、oasisというバンドがどういうバンドなのか知るためにちょうどよいまとめ記事だったかもしれません。

ただ、この前半部分についてはドキュメンタリー映画「oasis supersonic」やインタビュー集を参考にしていないようで、こちらの内容との微妙な齟齬が見られます。例えばoasisとアラン・マッギーがはじめて出あったライブについて、ドキュメンタリー映画やインタビュー集ではアランが当時の彼女のライブを見に来た、と記載されていますが、本書ではガールフレンドをハンティングしに来た、みたいな感じで書かれています。ここらへん、本人の証言でも必ずしも事実ではない部分があるので、どちらが本当かはわからないのですが・・・インタビュー集は間に合わなかったかもしれませんが、ドキュメンタリー映画はもう8年も前の公開で、DVDもリリースされているんだから、参考にしてほしかった気はします。

一方、全体的に気にかかってしまうのが後半の、日本の洋楽受容史や海外におけるロックの現状からoasisの立ち位置とロックの未来を模索する評論パート。言っていることについては概ね大外しはしていな感はある一方、全体的に薄っぺらさを感じてしまいます。特に、ロック史などに関して他の評論にあたったり、データやら当時の雑誌記事にあたることもなく、また、関係者へのインタビューもなく、ある意味、「著者の思い込み」の部分が少なくありません。もちろん、長く音楽業界に身を置いてきた著者なので、大きな間違いはないのかもしれませんし、また、おそらく変な押し付けを回避するためか、突飛な議論は飛び出してこないのですが、それだけ物足りなさを感じてしまいました。

特にちょっと疑問に感じてしまったのはロックに関する興亡の物語で、物語的にきれいに収めるために、「ここ最近、注目のバンドが多く登場し、再び盛り上がりつつある」という話にまとめ、その中にoasisの再結成を位置づけようとしているのですが・・・そうかぁ??ヒットシーンを見ると、日本やイギリスはともかく、アメリカにおいて完全にロックバンドは衰退してしまっていますし、やはり世界的に見ても、ロックが現時点で衰退してしまっている感は否めません。一方ではインディーシーンまで含まれば、おもしろいロックバンドというのは時代にかかわらず出てきていますし、そういう意味で無理やりロックの興亡とoasisを結び付けようとしている本書の記述にはかなり疑問を感じてしまいます。こういう無理やりに「物語」を都合よく作り出そうとする点が、いかにもロッキンオン系のライターだな、と悪い意味で感じてもしまうのですが。

そんな気になる点もありつつ、ただ一方で全体的には、特に今回の再結成騒動ではじめてoasisというバンドを気になった方にとってはちょうどよい「入門書」ですし、ファンにとっても、あらためてoasisがどういうバンドだったのか振り替えるにはちょうど良い1冊だったように思います。oasisというバンドの魅力の理由を知ることが出来る1冊です。

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2025年8月29日 (金)

圧巻のインタビュー集

今日は最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。

「supersonic~THE COMPLETE,AUTHORISED AND UNCUT INTERVIEWS」(邦題:「スーパーソニック~完全、公式、ノーカット・インタビュー」。2017年にoasisの結成から1996年に行われたネブワースでのライブまでの模様を追ったドキュメンタリー映画「oasis:supersonic」が公開されましたが、本作はその時に行われたインタビューの完全版。ノエルは16時間以上、リアムは12時間以上に及ぶインタビューを行い、その取材模様をノーカットで収録した、圧倒的なインタビュー集となっています。今年、oasisが再結成されて話題となり、この大ボリュームのインタビューの全貌が解禁された、ということでしょうか。

もともと、映画もリアルタイムで見に行って、その後リリースされたDVDも購入してみているので、本書は映画、DVDに続く3度目のアイテムといった感じでしょうか。インタビューで語られている概ねな内容については既に映画でも取り上げられているため、目新しさというのはありません。ただ、映画で見た時とは印象が若干異なったような部分もチラホラ感じます。例えばノエルがリアムのバンドに加わった場面。映画ではもっとノエルが自信たっぷりにバンドに半ば無理やり参加したように描かれていましたが、インタビューではもうちょっと淡々とした感じで描かれています。また、初期メンバーのトニー・マッキャロルが脱退する時のエピソードでも、映画ではトニーに対するいじめの描写が酷かったのですが、インタビューではいじめに対する言及はあまりありません。

映画の方は、インタビューの中からピックアップし、映像を加えてドラマチックに構成しているのに対して、インタビューの方は当事者本人の証言ということで、もうちょっと淡々と語られている印象を受けます。もちろん、トニーの脱退に関する件については、本人たちがいじめを証言しにくいという事情もあったのでしょう。ただ、ここに限らず、全体的に映画に比べて物語は淡々と進んでいった印象は強く、同じような出来事でも映画とはちょっと違った印象を受けるような場面も多々ありました。

また、今回のインタビューで特徴的なのは、とにかく"fuck""fucking"を会話の中で多数登場してくる点(笑)。彼らが会話の中で、この単語を大量に使うということは認識していましたが、ポジティブな文脈にもネガティブな文脈にも使いすぎていて、読んでいて思わず笑ってしまう場面も。インタビューでは雰囲気を伝えるために、訳者があえて「ファック」「ファッキン」とカタカナでそのまま残しているのですが、この2つの言葉をありとあらゆる意味で使っていて、正直、わけがわかりません。まあ、日本語でいうところの若者が多様している「やばい」と同じような感じでしょうか。ちょっとビックリなのはこの2語、リアム、ノエルだけではなく、他のひとたち・・・ともすれば2人の母親まで多様しており、イギリスの労働者階級の雰囲気が垣間見れるようなインタビューとなっています。

さて、そんな訳で圧巻なインタビュー集とはいえ、基本的には映画で紹介されている内容に沿った内容なのですが、それでもやはり、このインタビュー集であらためて興味深く読むことが出来た発言も何か所もありました(ひょっとしたら映画でも取り上げられていたけど、気が付かなかっただけかもしれませんが)。例えば「第四十一章 兄と弟」では、ノエル、リアムお互いにお互いのことを語っているのですが、特にリアムはストレートにノエルのことを「死ぬほど奴を愛しているよ」と語っており、かなりストレートに兄への愛情を語っています。ノエルにしてもなんだかんだいいつつ弟を思っているような部分は垣間見れて、再結成した今となっては、やはりなんだかんだいっても仲がいい・・・とまではいかなくても家族なんだな、ということを感じてしまいます。

また、最後「第五十五章 後悔はない」では、ノエルが「おれは自分自身がそんなにグレートだとは思っていない。おれは歌を書くが、自分自身が果たす役割ってのはすごく小さい。」と謙虚に語っているのも印象的。基本的にはノエルはインタビュー全体にどこか真面目さを感じますが、ここらへんの発言については意外さも感じました。

本にすると全696ページ。かなりボリュームあって分厚い1冊となっており、そのインタビュー内容も含めて圧巻の1冊となっていました。「ファック」をそのまま残した訳も含めて、インタビューの雰囲気も伝わっており、読み応えのある内容。ファンなら是非読んでおくべき1冊です。

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2025年8月12日 (火)

現代の視点からクラシックの名盤を紹介

今回は最近読んだ音楽関連の書籍です。ただ、ちょっといつもとは毛色が違うのですが・・・

批評家の本間ひろむによるクラシック音楽のガイド本。「21世紀のクラシック新名盤 革新者たちの絶対必聴アルバム」。クラシック音楽に関しても、以前から手を広げてみたいなぁ、と思いつつ、時々、挑戦したりするのですが、何枚か聴いて結局挫折、ということを何度か繰り返しています。今回も懲りずに挑戦しようと思い読んでみたのが本書。クラシック音楽というと、同じ楽曲でありつつ、演奏者や指揮者、録音時期などでバリエーションがあり、同じ楽曲でもどのアルバムを聴けばよいのか迷うケースが多いのですが、そんな迷いの指標となるような「名盤ガイド」となっています。

本書は、現代の視点からクラシックのアルバムを評価し、巻末に「名盤・新名盤ガイド」として、定番のアルバムとしての名盤21枚と、現代の視点から新たに選定したアルバム19枚が収録されています。ユニークなのが「配信で聴く」と題されており、アルバム毎にSpotify、Amazon Music、Apple MusicのQRコードがついており、このQRコードをスキャンするとすぐにアルバムが聴ける仕組みとなっています。

クラシック音楽というと、既に過去の音楽というイメージが強いのですが、この名盤ガイドではあくまでも現代のクラシック音楽のシーンを追いかけており、クラシック音楽というジャンルでも、現代においても新たな名盤が誕生するような、ちゃんと「生きている」ジャンルであることをあらためて実感しました。クラシック音楽のガイド本というと、どうしても過去の作曲家にスポットをあてた本が多い中、現代の音楽家にしっかりとスポットをあてられているのは、私のようなクラッシックに疎い人にとっては新鮮にも感じました。

ただ、書籍としては率直に言うと読みにくい・・・・・・いや、星海社新書の新書本のため、文章自体は非常に「軽い」です。しかし、登場する人物や固有名詞が、クラシック初心者の私にとってはなじみがなく、かつ、文章中にほとんど詳しい説明がないまま、次々と固有名詞が登場してくるため、正直、かなりわかりにくいです。ただ、こればかりは著者の責任ではなく、単純に私のような完全な初心者向きではなく、ある程度、現代のクラシックシーンを把握している人向けだから、ということなのでしょう。そういう意味で、初心向きとしてはあまりお勧めしがたい1冊だとは思います。

また、これは初心者とか関係なくちょっと残念だった点ですが、後ろの名盤ガイドで登場しているアルバムと、前半の文中のつながりがちょっとわかりにくい。前半の文中に、後半の名盤ガイドで登場するアルバムが紹介されているのですが、特に該当のアルバムが太字になっている訳でも、後ろの名盤ガイドの何番に相当するのかも記載がないために、両者のつながりが非常にわかりにくくなっていました。これは私が初心者とか関係ない話なので、ちょっと残念な感じ。もっと前半の文章と後半の名盤ガイドをちゃんとリンクしておいてくれれば、より参考にしやすかったと思うのですが・・・。

そんな感じで、正直、初心者向きではなく、おそらくクラシックの中上級者向けの名盤ガイドではないかとは思うのですが、それでも、後ろの名盤ガイドはかなり役に立ちそう。興味のあるアルバムから、順に聴いてみて、またクラシック音楽に挑戦してみようかと思います。あと、最近話題のピアニスト、角野隼斗のアルバムも新名盤として載っており、なんとなく話題先行にも思ったのですが、クラシック界でもちゃんと評価されているということですね。手始めに、彼のアルバムから聴いてみようかなぁ・・・。

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2025年8月10日 (日)

大衆が歌い継いだ古謡を丹念に収集したSSWによるエッセイ集

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。

シンガーソングライター寺尾紗穂「戦前音楽探訪」。ミュージック・マガジン誌に2019年から2024年にかけて連載していた、タイトル通り、主に戦前の音楽を題材とした彼女のエッセイ集をまとめた1冊です。

彼女はもともと「わたしの好きなわらべうた」と題された、日本各地で伝わるわらべ歌を収集し、自ら歌うアルバムを2枚リリース。今年の6月も、日本各地で伝わる労働歌をカバーした「わたしの好きな労働歌」をリリースするなど、以前から積極的に、日本各地で一般大衆によって歌い継がれてきた、いわゆる「古謡」を収集し、自ら歌い継いできていました。

本書に関しては、まさにそんな彼女が出会った古謡にまつわるエピソードをエッセイという形で綴ったのが本書。この本で取り上げられているのは主に2つのテーマにわかれており、前半が、主に労働歌など、戦前の大衆が、その生活の中で歌ってきた歌に関するエッセイ。そして後半が主に戦時中の音楽に関するエピソードを取り上げています。

まず印象的だったのが彼女が全国各地で埋もれてしまっている古謡を、実に積極的に発掘しているというバイタリティー。ライブなどでいろいろな街に行くと、図書館に足を運び、そこで伝わる古謡を発掘しているそうで、この本を読むと、日本各地にいかに数多く、大衆によって歌い継がれてきた歌があるんだなぁ、ということを強く感じさせます。特に印象に残ったのが、私の地元、愛知県の稲武につたわる民謡「稲武のうた」で、間引きについてストレートに歌った歌詞がかなりのインパクト。昔の大衆の心境が如実に伝わってくる古謡の数々は、今の私たちにも大きなインパクトを与えます。

一方、後半に関しては戦争と音楽に関してのエピソードや歌がまとめられています。戦時下で歌われた曲の中にも様々な人の思いがあり、また、多くの作曲家が戦争に強力し、戦争を鼓舞するような歌詞の曲を書きつつも、その中でも濃淡を感じさせる点も興味深く読むことが出来ます。特に印象的だったのは特攻隊に関する替え歌のエピソードで、特攻隊が出陣前に待機したという浅間温泉で伝わる、特攻隊へ出征する兵士で歌われた替え歌のエピソードは、非常に胸をうつものがあります。

このように、主に戦前、一般大衆の中で歌われた「歌」についてまとめられたエッセイ。そのため、一方では戦前の歌謡曲やヒット曲、また戦前に流行したジャズに関する記載はなく、「戦前音楽」というタイトルから、そのような楽曲に関する記載を期待すると、若干肩透かしを食らうかもしれません。

あと、基本的に本書はエッセイ集。そのため、全体的には著者の雑感などのエピソードがメインとなっています。古謡についてかなり詳しい彼女なだけに、個人的にはこのような雑感集のようなエッセイという形ではなく、古謡や戦前音楽について、体系的にまとめた著作を読んでみたいなぁ、とも感じました。正直言うと、これだけ詳しい知識がありながら、内容的にあまりにあっさりしすぎている感もあったので・・・。彼女はあくまでもシンガーソングライターであって研究者ではないので、そこまでの時間は取れないのかもしれませんが、彼女の持つ知識を体系化した1冊にも期待したくなりました。

そんな訳で、日本には、古謡という形で大衆の声が様々な形で残っているんだな、ということをあらためて実感したのと同時に、それらの古謡を丹念に収集する彼女の活動にあらためて感服したエッセイ集。日本に伝わる大衆音楽に興味がある方にはお勧めしたい1冊でした。

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2025年7月14日 (月)

VOL.2も圧巻の(特にワールド・ミュージック)内容

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。

MUSIC MAGAZINEから発刊しているディスクガイド「ミュージック・ガイドブック 2010-2024 VOL.2」。以前、同作の「VOL.1」を紹介しましたが、その第2弾。その時にも紹介しましたが、この「ミュージック・ガイドブック」シリーズは、もともと伝統あるタイトルということで、過去3回にわかって、同じタイトルのディスク・ガイドがリリースされてきたそうです。今回は、1994年以来、約30年ぶりとなる発刊。タイトル通り、2010年から2024年にかけてのアルバムがジャンル毎にわけて紹介されています。「VOL.1」同様、今回もB5サイズ全344ページという、圧巻の内容となっています。

前回はエレクトロミュージックやロック、メインストリーム・ポップ、東アジアの音楽などが紹介されてきました。今回は、HIP HOPからスタートし、ジャズ、そして後半を占めるのが世界各国のワールド・ミュージックとなります。

今回のディスクガイドでなんといっても真骨頂と言えるのは、本書の後半を占めるワールド・ミュージックのディスクガイドでしょう。アフリカからスタートし、ブラジルをはじめとした南米地域、レゲエをはじめとするカリブ海地域に、中東、東南アジア地域、さらにはギリシャやポルトガルなどのヨーロッパまで、まさに世界中のポピュラーミュージックがズラリと並んでいます。

この世界の音楽を、こうやってディスクガイドとして聴くと、あらためて世界というのはなんと広いのか、ということを感じさせますし、その地域ごとに豊富なポピュラーミュージックの文化が花開いているという事実を感じ、この世界の音楽の幅広さについてあらためて実感させられます。

章毎に、それぞれのジャンルのこの約20年間の歴史が紹介されているのですが、特にワールド・ミュージックの各国のポピュラーミュージックの歴史については勉強になります。どの国も米英のポップスの影響を受けつつ、しっかり独自の音楽文化が培われており、あらためて様々な国独自のポピュラーミュージックへの興味を駆り立てられます。正直、聴きなれない固有名詞も多く、かなり読みにくいのは間違いないのですが、それを差し引いても、知的好奇心を狩り立たせられるような内容と、そしてディスクガイドとなっていました。ワールド・ミュージックに興味がある方にとっては、間違いなく要チェックと言えるでしょう。

ただし、一方でHIP HOPについては正直、ちょっと物足りないのではないか、ということも感じてしまいました。特にこの約20年間、HIP HOPというジャンルは大きく変動し、様々な出来事が起こりましたが、そこを網羅しているとは言い難い内容。私もHIP HOPには詳しくはありませんが、それでもちょっと物足りなさを感じてしまいます。「VOL.1」においてもメインストリームの「売れている」音楽をかなり軽視している傾向がありますが、正直、HIP HOPに関しても、そんなMUSIC MAGAZINEの悪癖を感じてしまいました。

そんな訳で、ワールド・ミュージック好きにはお勧めしたい1冊。一方、HIP HOPに興味があれば、他のディスクガイドをお勧めしたい感もあります・・・。そこらへんの「偏り」もいかにもMUSIC MAGAZINEらしさを感じてしまうのですが・・・。ちなみに、この2冊、今回邦楽は対象外。邦楽については、後日、あらたなディスクガイドがリリースされるのでしょうか。良くも悪くもMUSIC MAGAZINEらしさを感じたディスクガイドでした。

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2025年6月30日 (月)

ザ・タイマーズから私たちが引き継ぐこと

今回は最近読んだ音楽関係の書籍の紹介です。

「ザ・タイマーズからのメッセージ」。ザ・タイマーズは、忌野清志郎にとてもよく似ているZERRYなる人物率いるパンクロックバンド。1988年に突如結成され、ライブや学園祭にゲリラ的に登場し、世の話題をさらいました。特に1989年にはフジテレビの音楽番組「ヒットスタジオR&N」で、事前の予定を無視して、いきなりFM東京を罵倒する曲を歌い出した「FM東京事件」や、1994年に行った福岡でのライブでは、ライブがはじまる前に放送された、彼らのライブのお約束だったライブ中止のアナウンスが、当時、福岡市で騒がれていた渇水騒動を取り入れたリアルなものだったため、実際に観客の一部が帰ってしまったというトラブルが発生するなど、いろいろと世間を騒がせるニュースも起こしていました。

私も彼らについては、2016年にリリースした再発版や、昨年リリースされた35周年記念盤を聴いて当サイトでも取り上げてきました。ただ、正直なところザ・タイマーズについては今聴くと、かなりわかりにくい部分も多々ありました。楽曲自体も、その時代をダイレクトに反映した時事ネタ的なものも多く、その点でもわかりにくいという点もありますし、なによりも、忌野清志郎がなぜ、あえてザ・タイマーズというバンドを立ち上げたのか、また、その中でどうしてこのような騒動を起こし続けたのか、疑問に感じる点もありました。

そんな中、35周年記念盤のリリースに合わせるように刊行されたのが本作。音楽ライターの本田隆が、ザ・タイマーズの活動を多面的に分析した1冊となります。本書が非常に興味深かったのは、本田隆によるザ・タイマーズの活動の概略が記載された後、ザ・タイマーズの関係者によるインタビューが行われている点。ZERRY以外のメンバー全員のインタビューが行われているほか、当時の東芝EMIの制作担当、広報担当、ツアーマネージャー、さらには彼らのMVを担当した安齋肇にもインタビューを実施。その中で、ザ・タイマーズの活動、また前述の「事件」(特に「FM東京事件」)が様々な立場から多面的に語られれています。

それぞれの立場から微妙に異なるザ・タイマーズの捉え方もなかなか興味深かったのですが、一方で読んでいてまず感じたのは、みんなカリスマ性ある忌野清志郎というスターに引っ張られる形で巻き込まれ、かつ、このザ・タイマーズの活動を心より楽しんでいたんだな、ということは強く感じます。ザ・タイマーズというバンド自体、忌野清志郎が自分のやりたいことをかなり自由に行っていただけに、前述の事件のようにかなり無茶した感のある活動でしたし、なによりメンバー全員、ザ・タイマーズ以外のバンド活動をやりながらの活動だったようで、ザ・タイマーズの活動によって、寝る時間を惜しんで活動を続けていたようです。その中で、かなり迷惑を受けたような方いるでしょう。しかし、インタビューではそんなことはおくびにも出さず、みんなどこか懐かしく、そして楽しげに当時の活動を振り返って語っているのが印象的でした。

また、忌野清志郎自体、バンドマンと名乗り続け、ザ・タイマーズもあくまでも「バンド」ということを重要視していた点も印象的でした。とはいえ、やはり活動の中心にいたのは忌野清志郎本人。本書についても、ザ・タイマーズとしての活動が語られつつも、全体としてはザ・タイマーズとして活動していた1980年代中盤以降の忌野清志郎の活動や心境にスポットがあてられる結果となっていました。

特に1988年にリリースした「COVERS」が原発反対の楽曲を歌ったことから東芝EMIからの販売が中止となったことからザ・タイマーズとしての活動に繋がってくるのですが、その中で当時、「COVERS」についてはRCサクセションの中でも反対意見があったことや、当時、RCサクセションの活動にも行き詰まりを感じたこと、そしてそのような中で、あえてバンドとしてのもっともシンプルな形を追求したザ・タイマーズというスタイルを立ち上げたことが語られています。ここらへん、あらためてなぜ忌野清志郎がザ・タイマーズというバンドをあのような形で立ち上げたのか、理解することが出来ました。

そんなザ・タイマーズの活動について多面的かつ包括的に記載した本作は、わかりやすそうで実は時代に寄り添っていたためわかりにくい部分も多い、ザ・タイマーズについてより深く知ることが出来る1冊になっていました。ただ一方でちょっと気になったのは、この書籍のタイトルにもなっているメッセージでした。ここでザ・タイマーズからのメッセージとして「リスナーに考え続けること」と指摘しています。このメッセージ、重要なことである一方、玉石混合の情報があふれかえっている現在においては、一歩間違えれば非常に危険性も伴うメッセージにも感じました。

というのもおそらく、情報の取り方や理解を間違えると、この「考える」という行為、一気に陰謀論にはまりかねる危険性も十分にあるからです。現在社会において陰謀論に囚われた人たちは、間違いなく「自分たちはよく考えている」と認識しているでしょう。しかし、情報の取り方を間違えたり、理解があまりに主観的かつ一方的だったであった結果、その「考え」が間違えた方向へ行ってしまい、暴走し、それに自分たちが全く気が付いていないという状況になっています。「考え続けること」というのは、ともすれば自分たちの主観に陥りやすく、一歩間違えると非常にリスクも伴うメッセージのようにも感じました。

ただ一方で、この本で忌野清志郎が私たちに送っているメッセージで、今の時代でも普遍的に通じる重要なものも記載されています。それは彼が楽曲を通じて送っている「ラブアンドピース」のメッセージ。よくよく聴くとザ・タイマーズの楽曲、反権力的な歌詞は多いものの、誰かを傷つけたり、揶揄したりするような楽曲はありません。陰謀論に陥ると、よく自分と考えの異なる人たちを攻撃する傾向が強いのですすが、彼がライブでもよく叫んでいた「愛し合ってるかい」の精神を根本に持ち続けること、これが実は非常に重要な、普遍的なメッセージではないか、ということを感じました。

ザ・タイマーズというバンドのことをよく知るために、さらには忌野清志郎という偉大なスターを知るためにも、最適な1冊だと思います。これを読んで、あらためてザ・タイマーズのアルバムもまた聴いてみたくなりました。この時代に、ザ・タイマーズ、忌野清志郎の不在という事実を残念に感じてしまいますが、ザ・タイマーズのメッセージを私たちが引き続くためにも、音楽と共にお勧めしたい1冊です。

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2025年6月24日 (火)

ポピュラーミュージックを網羅した圧巻のディスクガイド

今回は最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。

MUSIC MAGAZINEから発刊しているディスクガイド「ミュージック・ガイドブック 2010-2024 VOL.1」。もともと伝統あるタイトルだそうで、オールジャンルのディスクガイドとして、この「ミュージック・ガイドブック」、いままで1983年、88年、94年と3回にわたって発刊されてきました。1994年以降、しばらくご無沙汰だったのですが、約30年ぶりとなる発刊。タイトル通り、2010年から2024年までにリリースされたポピュラーミュージックのオールジャンルのアルバムが、ジャンル毎に整理されて掲載されています。B5サイズ全320ページというかなりのボリューム感で、とにかく圧巻のディスクガイドという印象を受けます。

これだけの量にも関わらず、VOL.2が後日リリースされており、本作では、主にエレクトロやルーツミュージック、ロック、ポップスのアルバムが収録。ある意味、ここ15年のうちもっともホットなジャンルと言えるHIP HOPはVOL.2にまわされていますし、ソウル、R&B、ジャズ、ワールドミュージックもVOL.2。ちなみに日本のポップスは対象外となっており、こちらは他にリリースが予定されているようです。

この15年におきたポピュラーミュージックの流れを、それぞれのジャンル毎に解説。そして、それぞれのジャンル毎に代表するアルバムをピックアップする構成となっています。そのため、あらためて2010年以降のポピュラーミュージックの流れについて、非常に勉強となった内容に。ともすれば普段、音楽を聴いていると、気になるアルバムや評判の良いアルバムをピンポイントで聴くケースがほとんど。そのため、点と点では優れたミュージシャンやアルバムを把握していても、そんなアルバム同士が線でつながらないようなケースが少なくありません。

今回、このガイドブックでは、まさに、そんな私が聴いてきたアルバムが、ポピュラーミュージックの流れの中でどのような位置にいるのか、ミュージシャンが作り出したサウンドはどのようなところから影響があり、どんな意味があったのか、あらためて理解できるような内容となっており、また、紹介されている近似のアルバムにも興味が惹かれるような構成になっていました。まさにポピュラーミュージックに興味がある方、特に様々なジャンルを幅広く聴いてみたいと考えている方には最適なガイドブックだったと思います。

一方、このガイドブックを読んで、最近のポピュラーミュージックシーンの中で強く感じたのが、ジャンルの細分化が激しく進んでいるという点でした。エレクトロひとつの中にジューク、フットワーク、グローカルビーツ等々、細かくジャンル分けがされています。よく言えば、様々なミュージシャンたちがシーンに登場し、様々な音楽を作り出しているとも言えるのですが、悪く言えば、これといってシーンを圧倒するようなジャンルがあらわれず、全体的に小物化してしまっている印象も否めませんでした。

また、ミュージック・マガジンらしい悪癖として気になった部分もあり、それが「売れているジャンル」に対する矮小化で、エレクトロやアンビエントなどのジャンルに関しては、ここまで詳しくジャンル分けし、分析しているのに対して、ロックやポップスに関してはジャンル分けが非常に雑。特にメインストリームポップについては「その他大勢」的なまとめ方となっており、AviciiとPharrell WilliamsとテイラースウィフトとAdeleとBring Me The Horizonが同じ項目って、ちょっとありえないような感じもします。

むしろ、他で分析しているアンダーグラウンドやサブカルチャーシーンを含むポピュラーミュージックの流れの中で、メインストリームのポップスたちがどのような影響を受けているのか、あるいは与えているのか、というのは、ポピュラーミュージックを語る中で最も重要な観点だと思いますが、この点が完全に抜け落ちているように感じます。個人的にポピュラーミュージックは大衆音楽である以上、「売れている」というのは非常に重要な要素であると思っているのですが(売れている=優れているではないとは思いますが)、以前からミュージック・マガジンの視点は、この「売れている」という要素を非常に軽視する傾向があることが気にかかっていました。このガイドブックでも残念ながら、そんなミュージック・マガジンの悪い傾向が、強く反映されてしまったように思います。

そんな点、残念な点はありつつも、圧巻のディスクガイドでポピュラーミュージックに関してあらためて新たな視点を得られたガイドブックだったと思います。前述のように、幅広いジャンルでポピュラーミュージックを聴きたいと思う方には、手を取っておきたい1冊です。

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2025年6月17日 (火)

「老い」を意識しつつ、日常生活を描いたエッセイ集

いきなりプライベートな話題で、なおかつ暗い話からスタートして恐縮ですが、先日、私の義母がなくなりました。74歳。大往生ではないものの、「若すぎる」という年齢でもありません。ただ、彼女を見送って思ったのが、次は私の世代の番だ、ということでした。私の父は私が20代の頃に亡くなりましたが、そういう感情は抱きませんでした。また、8年前に私の祖母が亡くなっているのですが、この時も私の母が健在だったこともあり(ちなみに私の実母はバリバリ元気です)、そういう感情も抱きませんでした。

ただ、義母が亡くなった時にそういう感情を抱いたのは、私自身、50歳を手前にして徐々に「老い」を意識せざるを得ないことが増えたからかもしれません。もちろんまだ40代ですので、老けたなぁ、とまで思ったことはありません。ただ、あきらかに身体が、若い時分とは異なっていることを強く感じます。老眼が酷くなりましたし、腹痛が収まらず、病院で受診したら流動性食道炎と言われました(ガンでなくてよかったのですが・・・)。身体は私たちの魂の乗り物である、ということは時々言われることですが、まさに私が乗っているその乗り物に、いろいろとガタが来はじめている・・・そう感じる経験が徐々に増えてきました。

今回は、最近読んだ書籍の紹介。音楽評論家で、自らも歌手としても活躍していた、2022年に亡くなった松村雄策のエッセイ集「ハウリングの音が聴こえる」。2014年4月から2018年3月まで、4年間にわたって集英社の文芸誌「小説すばる」に連載されていたエッセイをまとめた1冊となります。連載の最後が2018年で、まだ亡くなる4年前ですので、このエッセイ自体、亡くなることを意識したような内容ではないのですが、読んでいて感じたのは、松村雄策自身が感じる「老い」というものが、強くあらわれたエッセイ集となっていました。

松村雄策といえば、ご存じロック雑誌「ロッキンオン」の創設者の1人であって、どちらかというと「ロッキンオン」でのコラムやCD評のイメージが強いかもしれません。彼のコラムのスタイルは非常に独特で、最初は音楽とは全く関係ない、日常のコラムからスタートし、その後、その日常の出来事を「音楽」に結び付けてひとつのコラムとしてまとめるというスタイル。今回、私のプライベートな話からスタートしたもの、そんな氏のスタイルをつたないながらもちょっとだけ真似してみた次第です。

ただ、こちらのエッセイに関しては、連載誌が文芸誌ということもあって、「音楽」の部分よりも、むしろ前半に日常の部分に主眼を置かれたエッセイが目立ちます。基本的に必ず音楽の話に帰結するのですが、エッセイに関してはかなりむりやり結びつけていたり、最後に申し訳程度に、音楽の話題に触れている程度。おそらく「ロッキンオン」のコラムでは、まず音楽のネタありきでコラムを書いているのに対して、こちらはむしろ彼の言いたいことの主眼は「日常の出来事」であり、音楽は最後にむりやり結びつけている程度にも感じました。

そしてこの「日常」に関して言えば、意識の有無にかかわらず、どうしてもやはり「老い」を感じさせる部分が強くあらわれています。昔の思い出話も多いですし、特にエッセイの後半では、昔なじみのミュージシャンや音楽関連の方の逝去の話題がよく出てきています。また、常々、父親の死んだ年齢と母親の死んだ年齢のちょうど真ん中の65歳くらいで自分は死ぬんだろう、という話をしており、多かれ少なかれどこか「死」を意識したような部分も感じさせました。

とはいっても、全体的な文章の基調は決して暗い訳ではありません。むしろ「老い」や「死」を意識して、それを悲観的に捉えているというよりも、文章全体に関してある種の「達観」が感じられます。それはある種の達観もあるでしょうし、彼がそれまでの人生において、やりたいことをやれてきた、ということもあるのかもしれません。そのため、「老い」を感じさせつつ、エッセイ全体としてはほのぼのとした日常風景や彼の趣味の描写がメインとなっており、楽しみながら読める内容となっていました。

また、音楽に限らず趣味の話題が多いのも特徴的で、彼自身、音楽以上にプロレスや落語に詳しいと語っているように、プロレスや落語の話題も出てきますし、また、大相撲や彼の好きなプロ野球のヤクルトスワローズの話題も多く登場します。ここらへんの多趣味さも、「老い」の中にも「生きがい」を感じさせる大きな要素にも感じました。

そんな訳で、「老い」を感じさせるエッセイでありつつも、決して暗くならず、「老い」の中で趣味を楽しんでいる彼の生き様を感じさせるエッセイでした。一応、音楽の話題が多いのですが、内容的には音楽に限らず、日常を描いたエッセイ集として、音楽リスナーに限らず楽しめる内容だったと思います。決して派手な話題はない中で、これだけ読ませる文章を書くのはさすが。素直に、とても楽しめたエッセイ集でした。

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