表現者、星野源について
今日は最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。
「星野源論」。ご存じ、いまや「国民的スター」と言っても過言ではない、ミュージシャンとして、そして俳優としても大活躍の星野源について分析した評論本。ライターで編集者の小田部仁が編者となり、ライターの戸部田誠と、おなじくライターのつやちゃんがそれぞれ評論を手掛けた2部構成の内容となっており、前半の戸部田氏のパートでは、ミュージシャンとしてのみならず星野源の芸能活動前半から、彼の表現について探り、後半つやちゃんのパートでは、音楽という側面に焦点をあてて、彼の表現を分析する構成となっています。
このうち、非常におもしろく、興味深く読むことが出来たのが前半のパートでした。正直言うと、私自身、星野源の音楽はSAKEROCK時代から追い続けており、彼のアルバムもデビューアルバム「ばかのうた」もリアルタイムで聴いており、すべてのアルバムを追い続けています。ただ一方、ミュージシャン星野源についてはその活動をリアルタイムで追っているものの、星野源本人のファンか、と言われるとそうではなく、正直、彼のテレビ番組などはあまり追いかけていませんでした。
もちろん、彼がいままで出演してきた「おげんさんといっしょ」や「星野源のおんがくこうろん」など、番組として放送された事実は知っていましたが、いままでわざわざテレビを見る、ということはありませんでした。それだけに今回、この「星野源論」ではじめて、それらの番組のアバンギャルドさ、アナーキーさを知り、特に「おげんさんといっしょ」など、リアルタイムで見ておけばよかったなぁ~と非常に後悔しましたし、今回の評論の中で、星野源という人物がどのようなスタンスで活動を行っていたのか、ということをあらためて知ることが出来ました。
本書の中で星野源のことを「アナーキーなポップスター」という言い方をしていますが、彼の活動はアバンギャルドでありながらも、一方でポピュラリティーを保っているという絶妙なバランス感覚を実感します。個人的には彼のスタイルについて、どこか90年代サブカルチャーの空気感を受け継いでいるように感じます。本書の中でも、いわゆるサブカル文化からの影響を記載していますが、イメージとして感じたのは、以前、当サイトでも紹介した「オールナイトロングー私にとっての電気グルーヴのオールナイトニッポンとその時代ー」の世界観。70年代的な、明確な政治的反権力でもなく、昨今のような体制への迎合的なスタンスでもなく、でも現在の体制に対してどこか皮肉的な視点を忘れていないスタンス。「マス」に対してどこか距離を置き、アバンギャルドな姿勢を貫きつつ、でも一方ではしっかりと「ポップ」であるというスタンスが、ある意味、90年代っぽさを感じますし、個人的には、本書では言及されていませんし、また、音楽的な影響は感じませんが、どこか電気グルーヴにも通じるような部分すら感じられました。星野源という人物の行動の意味が、あらためてよく理解できると同時に、いままでミュージシャンとしてしか興味を持たなかった星野源の、「表現者」としてのスタンスに俄然、興味がわいてきた評論になっていました。
一方、ちょっと残念に感じられたのが後半のつやちゃんの評論。星野源の音楽の側面に焦点をあてた評論になっているのですが、正直言うと、悪い意味で「ロッキンオン的」な評論に感じてしまいました。
要するに、ほとんどが彼の音楽の概念的な説明に終始しており、音楽性の解説やサウンド面での詳細な説明はあまり多くありません。また、一番違和感を覚えたのが、終始、「星野源の音楽」にばかり焦点があてられており、彼の音楽が彼の活動の中で、外部からどのような影響を受けて生み出されたものか、ということの言及がほとんどなかったという点。特に最新アルバム「Gen」では、ルイス・コールやサム・ゲンデルなど、最近のエレクトリックジャズシーンの重要人物などが参加し、世界の音楽シーンとリンクしたようなアルバムになっているなど、海外からの影響も顕著な音楽性を感じられるのですが、そのような外からの影響への言及も皆無。過去から現在に至るまで、星野源もミュージシャンである以上、様々なシーンからの影響を受け、そして、意図して様々な音楽へ挑戦を行っていると思うのですが、そのような分析はほとんどありません。読んでいて、あまりにも星野源の音楽を、孤立させて評価し、かつ、概念的に考えようとし過ぎている感があり、違和感を覚える評論になっていました。
本書について、特に前半においては星野源という人物の魅力をあらためて強く感じることが出来、ミュージシャンとしてではなく、表現者星野源の興味が俄然わいてきた1冊となってきました。熱心なファンは言うまでもありませんが、そこまでではないものの星野源という人物に興味がある方についてはチェックして損のない1冊かと思います。これからの彼がどんな活動を行うのか、非常に注目したくなってくる1冊でした。


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