書籍・雑誌

2017年10月13日 (金)

日本語ラップに対する愛情あふれる一冊

もともとは同人誌として発行されており、その頃から気にはなっていたのですが同人誌に書き下ろしも加えて商業誌として発売された日本語ラップのガイド本を購入してきました。

70年代の少女漫画風という今となってはちょっと珍しい画風で「ジャンプスクエア」などで連載を持っていた漫画家、服部昇大氏による「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」。このタイトルだけでアラフォー世代以上にはピンと来るかもしれませんが、70年代から90年代まで少女漫画などの裏表紙によく見かけたがくぶん総合教育センターのボールペン習字通信講座の宣伝漫画「日ペンの美子ちゃん」のパロディー漫画。懐かしの少女漫画風な画風はもちろんのこと、9コマ漫画で話の流れ関係なくむりやりボールペン字講座ならぬ日本語ラップを薦めてくる流れは本家同様。「美子ちゃん」の漫画の下についていた「体験者の声」のコーナーまでパロディーとして再現されており、アラフォー世代以上にはある種の懐かしさすら感じる漫画になっています。

ちなみに作者の服部昇大氏はそのパロディー漫画の出来の良さから、なんと本家「日ペンの美子ちゃん」の6代目作者として採用されるという驚きの展開に。以前のような雑誌への広告ではなくWebサイト上での展開がメインのようですが、こちらも時事ネタを含みつつ、かなり尖ったユニークな漫画を展開しています。

さてこの漫画は「美子ちゃん」ならぬ「美ー子ちゃん」が日本語ラップとは何かを紹介したり、日本語ラップに対する偏見に対して反論を展開したりしつつ、日本語ラップの名盤(珍盤)を紹介するギャグ漫画になっています。

まず本作を読んでまず感じるのは、作者の日本語ラップに対する惜しみない愛情。とにかくいろいろなシチュエーションに対してお勧めする日本語ラップのアルバムが列挙されており、そこからはとにかくいろんなタイプの人に日本語ラップを聴いてほしいという情熱が感じられます。最新のラップ事情もしっかりフォローされており、個人的にもかなり勉強になりました。また「ラップリスナーは基本的にめんどくさい」と言いつつも、お勧めしているアルバムはかなりポップス寄りも含めて幅は広い感じ。SEAMOとかDOBERMAN INFINITYとかも「アリ」なんだ・・・(いや、個人的にSEAMOは好きなんですが)。あと水曜日のカンパネラも紹介されていますが、あまり「ラップ」という括りでは聴いていなかったので、ここで紹介されていたのはちょっと意外でした。

また本作では様々なタイプの日本語ラップを紹介しています。以前から今の日本において(というか世界規模でも)ラップあるいはHIP HOPというジャンルは最も勢いがあり、自由度の高いジャンルであると思っていたのですが、本作を読んでその個人的な認識が裏付けられました。ここでも紹介したことのある「メシ物ラップ」のDJみそしるとMCごはんやら、吉田沙保里だけをテーマに作られたMC松島の「She's a hero」なんてアルバムもあったりと、この幅広さ、ジャンルの許容量の大きさが日本語ラップの大きな魅力でしょう。

特に今回はじめて知ったのがGOMESSという自閉症のラッパー。自らの障害を武器にしているのも素晴らしいですし、こういうラッパーが登場してくるという日本語ラップの幅の広さに驚かされます。本書の表紙に「ラップが今 日本でもっともまともな音楽よ」というよくよく考えればかなり挑発的なセリフが登場してくるのですが、確かにこういう様々なタイプのラッパーが登場してきて自由に自らを表現できるシーンというのは、今、日本語ラップくらいではないでしょうか。それだけに「まともな音楽」という表現は間違いない事実だと思います。

思えばいままでは今の日本語ラップの位置にいたのがロックだったのでしょう。ただここ最近のロックは正直なところ、おもしろいと思えるミュージシャンが少なくなってしまいました。出てくるバンドの多くがいわゆるフェス受けを狙うだけのパンク風ポップバンドがメイン。雑誌のインタビュー記事などを読んでもインタビュアーとなれ合ったような「おしゃべり」ばかり。一方、ラップ系のミュージシャンは見た目が不良っぽくでもインタビュー記事などを読むと、自分たちがやっている音楽に対して非常に意識的に、真摯に取り組んでいることがわかるような記事が多く、読み応えあるインタビュー記事がほとんど。漫画の中で日本語ラップに対する偏見として「ラッパー=DQNという指摘」をあげています。確かに見た目不良っぽいラッパーが多いのは事実ですが、音楽に対する姿勢という意味ではむしろロック系よりも「真面目」な人が多いように感じます。

本書では日本語ラップの魅力を主にパンチラインの側面から語ったものが多く、トラックの魅力について言及した記事が少ないのはちょっと残念なのですが、日本語ラップの魅力をこれでもかと感じられる漫画になっていました。漫画という読みやすさを含めて日本語ラップについて知りたい、何から聴けばよいかわからないという方には最適な一冊。作者の日本語ラップに対する愛情が最初から最後までこれでもかというほどあふれだしている一冊でした。

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2017年6月10日 (土)

ラップが映す「今」

今回は最近読んだ音楽関係の本の紹介。以前、ここでも紹介した「文科系のためのヒップホップ入門」の著者として知られる大和田俊之、音楽評論家磯部涼、そして批評家としての活動のほか、ラッパーとしても活動している吉田雅史の3名による共著「ラップは何を映しているのか-『日本語ラップ』から『トランプ後の世界』まで」。もともとラップミュージックというのは社会性を大きく反映したリリックの作品が多く、アメリカのラップは和訳がついていても何を語りたいのか、その背景を詳しく知らないと理解しがたい曲が少なくありません。そんな中でタイトル通り、ラップという音楽が何を語っているのか、また何を語ってきたのかを取り上げた同書は、そのテーマ性からして非常に興味深く、今回、手にとってみました。

本は全部で3部構成、3人による鼎談の形をとった構成となっています。第一章は「ラップはいまを映しているか」という表題でブラック・ライブズ・マター(BLM)(2012年にフロリダで黒人男性のトレイヴォン・マーティンが射殺され翌年容疑者が無罪になった事件に端を発し、全米に拡大した社会運動)やトランプ大統領の当選劇などといった現在の社会問題に対してラッパーたちがどのようなスタンスをとってきたか、ということを語っています。

全3章の中でダントツでおもしろかったのがこの第一章。日本にいると情報としては入ってきているものの、概括的にはなかなか捉えずらいアメリカのHIP HOPシーンが語られており、興味深いものがありました。特に、日本ではともすれば黒人層が一枚岩のように感じてしまうのですが、BLMでも大統領選でもラッパーによってスタンスに差が生じており、そんなに単純な話ではないということは興味深く感じました。またおもしろかったのが、以前、フジロックにSEALDsのメンバーが参加することになった際、「音楽に政治を持ち込むな」という言説が起こりましたが、アメリカでも同様に、音楽へ政治を持ち込むことが最近では嫌がられる傾向にあることは興味深く感じました。トランプ大統領選挙でも昨今の日本でもそうですが、極端に右か左かの言説が目立ち、自分とは意見を異なる層に対する必要以上のバッシングが目立つ中、自分とは異なる意見は聴きたくない、と感じる人が増えているのでしょうか。

そして第二章は「USラップが映してきたもの」、第三章は「日本にラップが根づくまで」と題してそれぞれアメリカと日本のラップミュージック史を概括的に語っています。ただ正直言うとこの2章についてはちょっとわかりづらく感じました。ラップミュージックに詳しい3人による鼎談だからでしょうか、全体的に大前提となる基本的な情報が割愛されており、ラップミュージック史の中でのいくつかのテーマを抽出して語っている形式のため、ある程度ラップミュージックの歴史に詳しくないと、ちょっとわかりにくさを感じるかもしれません。

また全体的に3人それぞれが自らの史観を主張するというよりはシーンをザッと紹介するような形式のため若干議論が上滑りしちゃっているようにも感じました。ラップミュージックの現状としては理解できても、その現状がどのような意味を持つのか、またどのようなスタンスをとるのが望ましいラップミュージックの姿なのか、いまひとつわかりにくかったように感じます。

あとちょっと気になる部分がありました。それはp178からp180でRhymesterの最近の曲に対する批判。「The Choice Is Yours」を「民主主義というシステムの歌としか聴こえない」と批判していたり、メッセージにはっきりとしたスタンスをのせていないという点で「悪い意味で価値相対主義」と語って、「アフター・トランプの世界で再生すると、なおさらぬるい曲」と批判しています。ただ、トランプ大統領後の話でいえば、上にも書きましたが左右どちらも極端な言説と反対派に対する過激なバッシングが目立ち、それがまったく効果をあげていないという現実があります。そういう中でTwitterでもよく見かける、左右どちらかのスタンスを支持することを強制し、それを避ける人をバッシングする傾向(正直、これはどちらかというと左側に多いように感じます)をこの意見から感じ、うんざりしてしまいました。

また、ここのページでもRhymesterの「The Choice Is Yours」を「Choise Is Yours」と書いたり、p199で歌謡ラップとして批判しているGReeeeNを「GreeN」と書いたり、ここらへんの固有名詞に対する雑な扱いに関してもマイナスポイント。これは著者本人たちではなく、出版社の毎日新聞出版の失態かもしれませんが・・・。

第二章、第三章についてもおもしろく興味深い指摘がたくさんあり、紹介されるラップに関しては聴いてみたいと思わせる曲も多かったのですが、一方で気の合った3人による鼎談というスタイルからなのか、若干内輪的な部分を感じてしまう部分も否定できませんでした。これに関してはちょっと残念な感じがします。そういう意味では非常に惜しさを感じる1冊でした。ただ第一章については今のシーンを概括的に手っ取り早く知るにはとてもよくまとまっていると思います。この第一章だけでも読む価値ありの1冊でした。

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2017年5月 8日 (月)

あくまでもアナログ盤の名盤集

本日はまた最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

今回紹介するのはブルースやソウルの専門誌「Blues&Soul Records」編纂による「アナログ・レコードで聴くブルースの名盤50選」。タイトル通り、ブルースの名盤、それもアナログ・レコードでリリースされたアルバムを50枚紹介している名盤ガイドです。

アルバムは1枚につき基本4ページにわたって紹介。うち最初の2ページはアナログ盤のジャケットとレーベルをカラーで紹介。次の1ページでそのアナログ盤に関しての解説を載せた後、最後の1ページは収録曲の演者や録音年などの解説という流れとなっています。

この書籍、いわゆる名盤ガイドなのですがひとつ大きなポイントがあります。それはあくまでもアナログ・レコードの名盤ガイドという点。それもブルースが再評価された60年代70年代あたりにリリースされたようなアナログ盤がメインとなっており、今の時点においてCDで聴ける「ブルースの名盤」とはちょっと異なるセレクトになっています。

例えばT-BONE WALKERに関しては「THE GREAT BLUES VOCALS AND GUTIAR OF T-BONE WAKER」が紹介されていますが本作はCD化されておらず、彼に関してのアルバムの紹介では同作のジャケットのイラストをつかった「モダン・ブルース・ギターの父」が紹介されるケースがほとんど。またB.B.KINGは「THE JUNGLE」が紹介されており同作はCD化もされているのですが、CDの「名盤集」にはあまり取り上げられていない印象を受けます。

最後の方は主に戦前ブルースを集めたオムニバスアルバムが多く紹介されていますが、戦前ブルースのミュージシャンに関して多くの編集盤がリリースされている現在、ここで取り上げられているオムニバス盤が紹介されるケースは少ないように思います。ただ、ラストに紹介されている「RCAブルースの古典」はCD化された今でも不朽の名作として紹介される作品。私もこのアルバムではじめて戦前ブルースに触れました・・・。

この書籍はどちらかというと60年代70年代のブルース再評価の流れの中でブルースミュージシャンがどのような取り上げられ方をしたか、ということが主眼になっているように感じます。実際、解説文にもそのような視点からの解説が多かったように思います。そういう意味では戦後のブルース再評価の雰囲気、または70年代の日本におけるブルースブームを追体験する1冊と言えるかもしれません。

そんなこともあって本作は若干お勧めできるユーザー層が限られてきそう。具体的に言うと

(1)ブルースブームをリアルタイムで体験し、あの時代を懐かしみたい方
(2)ブルース好きが高じてLP盤を集めようと思っている方

にはかなりお勧めできる1冊だと思います。一方で

(3)ブルースは好きだけどLP盤まで手が回らない方(あるいはCDで十分と思っている方)
(4)これからブルースを聴こうと思っている初心者

にはあまりお勧めできないかもしれません。一応最後にCD化の状況の紹介もありますが、こちらはおまけ的。値段も税別2,500円とそこそこ値が張りますし、(3)(4)のタイプの方は無理に手に取らない方が無難かも・・・。私自身はこの中で(3)なのですが、正直ちょっと高かったかな・・・という印象も受けました。

もっとも編者の方向性としてはあくまでもアナログ盤の名盤ガイドを意図している訳で、(3)(4)のタイプが同書の対象外となってしまうのは仕方ないのかもしれません。実際、仕事ぶりは非常に丁寧。オールカラーで紹介されるジャケット写真や裏表紙は私が見てもワクワクしてきますし、解説文もわずか1ページとはいえ読み応えはあります。ブルースのアナログ盤に興味があるのなら間違いなく必読の1冊です。

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2017年3月17日 (金)

ブルースの歌詞の世界へようこそ

今日紹介するのは最近読んだ音楽関連の本の紹介。今回は日本のブルース研究の第一人者である小出斉氏の書いたブルースの「歌詞」にスポットをあてた一冊です。

タイトルは「意味も知らずにブルースを歌うな!」。かなり刺激的なタイトルですが、そのタイトルの通りブルースの名曲についてその歌詞を掘り下げて紹介しています。内容は3章にわかれており、第1章ではロバート・ジョンソンの「クロスロード・ブルース」やTボーン・ウォーカーの「ストーミー・マンディ」なんていうブルースを聴き始めたら真っ先に出会うような超スタンダードナンバーを紹介。第2章ではB.B.キングの「ロック・ミー・ベイビー」やアルバート・キングの「悪い星の下に生まれて」のような、これまたブルースの有名曲のうち、いかにも「ブルース」らしい素材を取り上げた曲を紹介。そして第3章はちょっと異色で、ブルースの題材としてあまり取り上げられないようなテーマを歌った曲を紹介しています。

1曲につきさかれているページは6ページ程度。1ページ目は楽曲のイメージがイラストで描かれていて、2、3ページ目は楽曲の解説。3ページ目に英文の歌詞が記載されており、欄外では歌詞の中で使われている英単語の訳が数点記載されているほか、コード進行も記載されています。その後はシンガーの紹介、紹介された楽曲が収録されているアルバムの紹介、聴き比べてみたいカバー曲の紹介と続いています。

そんな構成になっているため歌詞についての解説は2、3ページ程度。歌詞の中の要点を絞って解説しているという印象。ただきちんと楽曲の肝は抑えられており、その曲の歌詞のおもしろさはきちんと伝わってきます。特にブルースの場合は歌詞にダブルミーニングが用いられていたり、リアルタイムのブラックコミュニティーの人たちにしか通じないような言い回しが用いられていたりして、英語に詳しくてもなかなか読み取れない部分が多いのですが、そういったポイントもしっかりと抑えられた解説になっています。

ただし、短い内容に要約されているため全訳はついておらず、また背後にある当時の黒人社会の状況への言及もあまりありません。この点に関しては若干物足りなさも感じるような解説もあったのですが・・・ただおそらく著者はブルースのマニア向けに深く掘り下げるというよりは、ブルースを聴き始めた初心者向けに、ブルースの歌詞のおもしろさを伝えることを最優先にしているように感じます。

実際、ブルースをこれから聴き始めようとする初心者にとっては最適な構成になっていると思います。まずブルースを聴くなら抑えておきたい曲が並び、その曲を歌うミュージシャンと曲が収録されているアルバムの簡単な紹介が続いており、ブルースといってなにを聞いたらいいかわからないという方にとっては最適な入門書ともいえる内容になっていました。

もちろん、ある程度ブルースを聴いているような方にとっても、ともすればあまり深く考えず聴いてしまう歌詞の世界をあらためて味わうことの出来る一冊になっていると思います。この本でブルースの歌詞の裏側に広がる世界をもっともっと知りたいというのならば、さらに他の本を読んでみてほしいといったところなのでしょうか。個人的にはそういうブルースの歌詞の世界にはまってしまった人が次に読むべき本をブックガイド的に載せておいてほしかったかも、とも思いました。

そんな訳で物足りなさを感じたような部分はありつつも、とても楽しむことできました。特に紹介されている曲を自分が持っているCDやYou Tubeなどで聴きながら読むと、より楽しめる本だと思います。ブルースの入門書的にも、あらためて歌詞の魅力に触れたい方にとっても要点がおさえられたわかりやすい1冊でした。

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2017年2月 6日 (月)

あなたの知らない世界

今回紹介する本は、70年代から80年代、日本にインディー系のロックバンドが萌芽してきた頃、そんなインディー勢のさらに地下でうごめいていた音楽シーンの状況を追った一冊、「地下音楽への招待」。1978年に吉祥寺で開店した伝説的なライブハウス「マイナー」を中心軸としてその周辺のフリージャズやサイケロック、パンクロック、アバンギャルド系のミュージシャンの活動について紹介しています。

著者は本人も70年代後半から80年代にかけて数多くのインディー系バンドで活動した剛田武(・・・ジャイアン?)。彼が当時の地下音楽近辺で活躍していたミュージシャンたちや、それにとどまらずイベントのオーガナイザー、この手の音楽を多く取り扱っていたレコード店の店主、音楽雑誌の編集長などにもインタビューを試み、音楽のみに留まらず、その当時のアンダーグラウンドなミュージックシーン全体を読み取ろうとした非常に丁寧かつ奥深い仕事ぶりが目立つ作品となっています。

はっきりいってしまうと私自身、本書で紹介されているアンダーグラウンドミュージックは全く詳しくありません。この本で頻繁に登場する灰野敬二はさすがに知っていますが、本書で「ある程度意識的に日本のロックを聴く者ならば必ずどこかで出会うはずの名前」と紹介されている工藤冬里については残念ながら完全に初耳でした。ただ、本書でもインタビューを受けている竹田賢一率いるA-Musikについては、ソウルフラワーユニオンと組んで曲をリリースしている影響で知っていたのですが・・・。(あと、ソウルフラワーがらみといえばモノノケ・サミットの一員である大熊ワタルが登場してきたのもちょっとビックリしましたが)

また正直言ってこの手のアンダーグラウンドミュージックが好きかどうかといわれると非常に微妙。例えばフリージャズとかオーネット・コールマンや阿部薫を聴いたことはあるのですが、正直全く楽しめませんでしたし、サイケやプログレもポップなメロが入ったわかりやすさがないとあまり好きになれないタイプ。個人的にはミーハーな耳を持っていると自認しているので、おそらくリアルタイムにこういうシーンのことを知っていたとしても興味は持ったかもしれないけどはまれなかっただろうなぁ、とは思います。

ただそんな私でもこの本は非常に楽しめる一冊となっていました。自分の全く知らない世界、あるいはほとんど縁のない世界について垣間見るようなワクワク感を覚えながら読み進めていきました。参考文献の欄などを除き全416ページというボリュームで本自体もとても分厚いのですが、一気に読み進めることが出来ました。次から次へと見ず知らずの固有名詞が飛び出すのですが、それに対して膨大な量の注釈がついているのも本書の特徴。この注釈もまた、当時のシーンを知るのに重要な情報となっています。

ここで紹介されているアンダーグラウンドシーン自体、政治的にもアンダーグラウンドなシーン、例えば新左翼とリンクするような部分が若干あります。暴力をもいとわない極左的な思想には全く共感しないのですが、それでも社会的に「やばい」部分を外からこっそり垣間見るような感覚というのもまた、この本を読むうえで感じたわくわく感の一因のように感じます。

そして音楽を紹介する一冊だけに読んでいく中でどうしても気になるのは彼らがどういう音を奏でていたか、ということなのでしょうが、それも特典CDとして70分以上の音源がついてくるというありがたい仕様となっています。本書で紹介されたミュージシャンやイベントでの貴重な音源が収録されており、現場でどのような音が鳴り響いていたかがわかります。

アンダーグラウンドなシーンの紹介ですが、本書自体はインタビューを中心として理路整然とした構成になっており読みやすさがあるのですが、それを一気に覆すのが第13章の山崎春美へのインタビュー。「私はこの本を認めない」と宣言した彼へのインタビューは、インタビュー記事自体、彼自身により大幅な加筆が行われています。「この本を認めない」とするのはこの本で主軸として取り上げられている園田佐登志に対する反感がメインにあるようですが、その肝心な園田佐登志へのインタビューの中で「この間、山崎(春美)と話して」という一文があり、両者の交流も垣間見れるため、山崎春美のこの檄文も一種の彼なりのパフォーマンスなのかもしれません。

本書で若干残念だったのは70年代80年代のアンダーグラウンドシーンにスポットをあてられて、そのシーンのその後への影響がほとんどわからなかったこと。唯一、第10章で紹介されているアンダーグラウンドなレコード店、モダーンミュージックとのかかわりにおいて坂本慎太郎や、ゆらゆら帝国やORGE YOU ASSHOLEのプロデュースでも知られる石原洋が登場する程度。またこのようなアンダーグラウンドシーンの現在の状況もわからない点も残念に感じました。

そんな気になる点もありつつも、70年代80年代のアンダーグラウンドシーンが手に取るようにわかる力作。おそらくアンダーグラウンドミュージックにほとんど興味がなかったとしても自分の知らない世界を垣間見る快感に楽しめる作品ではないでしょうか。かなり分厚い本書のボリュームや3,000円強というちょっとお高めの値段にたじろいでしまうかもしれませんが、それを差し引いてもお勧めできる一冊です。

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2017年1月 4日 (水)

丁寧な仕事ぶりが好感触

本日の更新は先日読んだ音楽関連の書籍のご紹介です。

タイトルは「ロバート・ジョンソンより前にブルース・ギターを物にした9人のギタリスト」。例によってブルース関連の本です。タイトル通り、ロバート・ジョンソンが活躍した以前、1920年代から30年代に活躍した9人のブルースギタリストの活動を追った評伝。シルヴェスター・ウィーヴァー/パパ・チャーリー・ジャクソン/ブラインド・レモン・ジェファーソン/ブラインド・ブレイク/ブラインド・ウィリー・マクテル/ブラインド・ウィリー・ジョンソン/ロニー・ジョンソン/ミシシッピ・ジョン・ハート/タンパ・レッドという9人のギタリストが紹介されています。

著者はジャス・オブレヒトというアメリカでギター・プレイヤー誌を手掛けたこともある元編集長。アメリカのLiving Blues誌で「Blues Book Of The Year」を受賞するなど大きな話題にもなったそうです。

数多くのエピソードがころだっているロックスターたちと異なりブルースのミュージシャン、特に戦前ブルースのミュージシャンたちはその「生き様」というものがほとんど伝わってきません。ミュージシャンによっては写真すら1枚あるかないかという状況です。

そんな中、同書では知られざる戦前のブルースギタリストの生涯について丁寧に綴っています。様々な参考文献からミュージシャンたちの情報をピックアップしており、かつ出展元も記載。非常に誠実さを感じる仕事ぶりが特徴的でした。情報はあくまでも事実を淡々と記しているイメージで著者の感想的な部分はほとんど入っていません。

また音楽に関しても楽曲の特徴について下手に煽るような形ではなく具体的な描写が多く、ここらへんも著者の誠実性を感じるとともに、ギター・プレイヤー誌の元編集長ならではの記述のように感じます。

取り上げたミュージシャンの生涯を淡々とつづるスタイルのため基本的にはその時代背景や社会性などといった付加的な要素に深く突っ込むことはありません。ただその具体的に淡々と記された事実から、その当時のアメリカ黒人が置かれていた時代背景を読み取るのは比較的容易にも感じます。

さらにこの本で非常に魅力的なのはミュージシャンの写真、当時の広告、レコードのレーベルなどの写真が惜しげもなくつかわれていること。同時代のミュージシャンや関係者の証言も頻繁に使われており、淡々とした書きぶりながらも、登場するミュージシャンの人となりや生き様を知るには十分な魅力を感じる内容でした。

「音楽はあくまでも『曲』が勝負であり、ミュージシャンの人となりなどは関係ない」という意見、確かに正論であり事実だと思います。しかしこうやってミュージシャンの人となりを知ることによって、より曲が魅力的に感じられるのも事実。今回、この評伝を読んであらためて登場するミュージシャンたちの曲を聴きたくなりました。

ちなみに本作、ロバート・ジョンソンの名前が登場しますが原題は「Early Blues-The First Stars Of Blues Guitar」。登場する9人のギタリストはロバート・ジョンソンと直接関係ありませんし、また本書の中でロバート・ジョンションもほとんど登場してきません。おそらく日本で売れるためにあえてロバート・ジョンソンの名前を冠したと思うのですが・・・その点のみご注意を。

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2016年10月15日 (土)

くるりの歴史を語る

本日は最近読んだ音楽関連の本の紹介。今回は、先日発売されたくるりのインタビュー本です。

元ロッキンオン・ジャパンのライターでもある宇野維正氏がくるりの岸田繁と佐藤征史に結成からいままでのくるりの歴史についてロングインタビューを実施した一冊。くるりといえばデビュー以来ほぼアルバム毎にその音楽性を変え続けてきたミュージシャン。さらに言えばバンド結成以来、メンバーの出入りが日本のバンドとしては珍しく、非常に激しいバンドとして知られています。それだけにくるりは今もっともその「歴史」について語ってほしいミュージシャンと言えるかもしれません。

それだけにいろいろと「今だからこそ言える話」を期待してこの本を読んでみたのですが、これが非常におもしろく、かつ興味深い内容に仕上がっていました。それこそ岸田、佐藤の生い立ちからスタートし2人の出会い、くるりの結成、デビューからブレイク、おなじみ「ワンダーフォーゲル」などのヒットやその後の活躍までインタビューでかかなり突っ込んで話を聴いています。特にアルバム制作の背景や狙いまでも岸田繁が語っており、この本を読んだ後、あらためてくるりの過去のアルバムを聴きなおしたくなるような、そんな一冊になっていました。

で、おそらくこれを読む方の多くが気になるであろうくるりのメンバー加入、脱退の理由についてなのですが、これがきちんと期待通り、かなり赤裸々な理由が述べられています。これに関してはあくまでも岸田、佐藤側からの見解であり、脱退した側からの言い分もあるのでしょうが(森信行に関しては別途インタビューを受けていますが)、読んでいてある種の納得感はありました。結局、個々にメンバーが増減した理由はわかるのですが、くるりというバンドが全体としてなぜこれだけメンバーの増減が多いか、という理由は語られていません。ただ、インタビューからうかがえる岸田繁の行動の随所からもうかがえるのですが、良く言えば音楽に対して真摯に取り組んでいる、悪く言えばやはり少々自分勝手できまぐれな部分がある・・・今回のインタビューから読み取れる理由はこんなところでしょうか?

また今回のインタビューの中でちょっと意外にも思ったのは佐久間正英とのエピソード。彼のプロデュースワークって(以前もここに書いたことがあるのですが)少々混線気味のミュージシャンの音の交通整理をしている、という印象を受けていたのですが、岸田曰く「ピンポイントですぐその場で結果が出ることだけを言ってくる」ということ。彼自身も佐久間正英について「今の今まで、本当にすごいなって思ったプロデューサーは、佐久間さん以外はあんまりいない」と語っており、このインタビューからも佐久間正英のすごさを感じられます。

さらに印象的だったのが佐藤征史に関するエピソード。インタビューの中で岸田繁は「佐藤は佐藤で狂ってるから」という言葉を何度か口にしたそうですが、時に「岸田のワンマンバンド」と称されかねないくるりというバンドの中における佐藤征史の位置づけについてもしっかり語っています。まあ、確かに岸田繁という才気あふれる、ある意味「狂った」人物と上手くやっていっている佐藤征史が凡人なわけないよなぁ・・・。音楽的側面からも佐藤征史のすごさを語っており、これも非常に興味深い内容でした。

最初から最後まで興味深いエピソードの連続で、くるりが好きなら必読の1冊。期待した以上に濃い内容でした。

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2016年9月27日 (火)

戦前の「インチキ」歌劇文化

まず今回は書籍の紹介から。

ここでも何度か取り上げた戦前のSP盤復刻を専門とするレーベル「ぐらもくらぶ」。今回紹介するのはその「ぐらもくらぶ」の音源と連動する形で発売されている書籍「ぐらもくらぶシリーズ」の最新刊「あゝ浅草オペラ 写真でたどる魅惑の『インチキ』歌劇」です。著者は小針侑起氏。若干29歳の若さながらも浅草オペラ研究の第一人者としてNHKや宝塚歌劇の時代考証も担当している新進気鋭の研究家だそうです。

本書で取り上げられている「浅草オペラ」とは大正時代に浅草を中心に熱狂的な支持を集めた和製オペレッタのムーブメントのことだそうです。「浅草オペラ」といってもオペラからは程遠く、副題として愛情込めてつけられた「インチキ」という肩書さながら、西洋文化を情報量が少ないながらも国内で懸命に模倣しつつも、大衆に受けいられれるように変容した独特の、良くも悪くも「泥臭い」、芸能文化が花開いた模様が描かれています。

「浅草オペラ」は「オペラ」と「ジゴロ」(あるいは「ごろつき」)の造語として誕生した、熱烈なファンを差す言葉としての「ペラゴロ」なる言葉まで生み出されるほどの人気を集めたものの、大正12年の関東大震災で浅草が事実上崩壊したことによりそのブームは終焉を迎えてしまいます。当時はある種の「際物」扱いされていたため語られる機会も少なかったようですが、今の芸能界にも確実にその影響を残している文化だそうです。

本作はそんな「浅草オペラ」を当時の写真をふんだんに用いて紹介した一冊。正統派な歴史本の中ではあまり語られることのないような大衆文化を、ある意味「裏」の部分まで赤裸々に紹介しており、その当時の庶民文化をあるがまま知れて非常に興味深いものがあります。戦争や思想統制、女性蔑視や芸能に対する賤視思想といった暗い影がありつつも西洋文化に対する積極的な取り込みや演劇に対する情熱、また「演劇」とは直接関係ないかもしれませんが、意外と自由な恋愛模様とそれに伴うスキャンダルなども描かれており当時の人々のたくましさ、明るさなども感じることが出来ました。

なにより写真を多用しているため当時の雰囲気も(白黒なのでわかりにくい部分がありつつも)感じされる部分が本書の大きなポイント。男性の立場としては、女優さんが、今の視点からしても意外とモダンでかわいらしいのが印象的でした(笑)。

また著者は「平成のペラゴロ」を名乗るほど熱狂的な浅草オペラのファンながらも、本書に関しては当時の情報を数多く収集し批判的に検討を加え非常に丁寧に浅草オペラ史を紡いでいっています。変な主観が混じることもなく、客観的な視点を保った冷静な論評も印象的。ネット社会で情報があふれかえっている時代に慣れた世代だからこその情報分析能力の高さを感じることも出来ました。

構成としては浅草オペラの概略を1章で紹介した後、2章以降で浅草オペラに絡む出来事の紹介を綴っています。登場する人物や当時の歌劇団の名前が複雑に入り組んでいて、正直ちょっとわかりにくい部分があったのは事実。もっともこれは著者の力量というよりは、それだけ当時の浅草オペラや歌劇界に様々な団体が乱立し、それらがくっついたり離れたり、紆余曲折があったためだと思われます。

個人的には「音楽史」的なイメージで本書を読みだしたのですが、正直、内容的には音楽の描写は少な目で「演劇史」的な位置づけの強い本でした。とはいえ当時の大衆文化を知ることが出来、最後まで興味深く読むことが出来ました。

Title:和製オペレッタの黎明 浅草オペラからお伽歌劇まで

で、こちらはそんな「浅草オペラ」の音源を紹介したぐらもくらぶの企画盤。まあこの企画盤に付随する形で発売されたのが上記の書籍なのですが・・・。当時の和製オペレッタや浅草オペラでも積極的に取り上げられたという、当時のおとぎ話を歌劇にした「お伽歌劇」が収録されています。

歌劇については洋楽風のフレーズと、浪曲、浪花節など和風のフレーズがチャンポンになっており、「慣れ親しんだお伽話をオペレッタにする」というスタイルも含め、当時、どのようにして洋楽が受容されていったかが良くわかります。

また庶民の様子をコミカルに描いた脚本からは当時の庶民の文化がよく伝わってきます。例えば親子の浅草での1日を描いた「浅草遊覧」では当時の娯楽の模様がよくわかりますし、「茶目子の一年 クリスマスの巻」などでは、当時から既にクリスマスにサンタクロースという風習が根付いていたのがちょっと驚かされます。ここらへん、「歴史」の観点からも非常に興味深く聴くことが出来ます。

他にも「ボンボン大将」などは軍隊をユーモラスにおちょくっており、時代ながらではながら一般大衆の軍隊へのちょっとシニカルな視点も感じることが出来ます。さらに「天保より大正」などは江戸時代の人がいきなり大正時代にあらわれて文明に戸惑わされる「タイムスリップ」物。この手のネタは藤子不二雄の漫画あたりにもよく登場してくるネタですが、この時代からそういうアイディアがあったのはちょっとビックリ。もっとも、今の時代なら「でも近代化されて遠い昔の私たちが持っていた大切なものを忘れてしまったね」的な現代文明への批判的なネタも織り込みそうなものですが、この曲では無邪気に文明開化を賞賛して終わっています。

今から聴くと正直、いろいろな面で拙さを感じる部分もあるのですが、それを差し引いても当時の文化を興味深く垣間見れることが出来て、非常に楽しめた作品でした。戦前の大衆文化に興味がある方、なにより日本史が好きな方にも上の書籍を含めてお勧めした内容。どちらもお腹いっぱいに満足行く作品でした。

評価:★★★★★

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2016年9月 4日 (日)

ブルースの名著が再翻訳

ブルースに関して、なかなか素敵な本の和訳が発売されました。さっそく手にとって読んでみましたので今日はその本のご紹介です。

Conversation_blues_2

ポール・オリヴァーというイギリスのブルース研究家により1965年に発売された書籍「ブルースと話し込む」(原題 Conversation with the BLUES)。1996年に邦訳版が発売されましたが既に絶版。それがこのほど音楽評論家の日暮泰文氏の和訳により再発売されました。

この本はもともと1960年にオリヴァーが妻とともにアメリカにわたり3カ月間、アメリカはミシシッピ、テネシー、アーカンソーをはじめとして各地で収録したブルースミュージシャンのインタビューをまとめたもの。そのインタビューを通じてブルースという音楽とは何かということを浮き彫りにしようという試みがされています。

インタビューのテーマは多岐にわたっており、ブルースとは何か、といったテーマからスタートし、当時の黒人の暮らしぶりや(音楽以外の)仕事の話、飲み屋での出来事やレコーディングでのエピソード、ステージの話や他のブルースミュージシャンの話など様々。1960年といえば公民権法が成立する(1964年)直前。そういう時代のアメリカの黒人の生活ぶりも感じられる内容になっています。

インタビューはミュージシャン毎にまとめて掲載されている形ではなく、インタビューをぶつ切りにして、似たようなエピソードを並べて展開していくような構成。よく海外のドキュメンタリーなんかで複数の関係者にインタビューを取ったうえでそれをぶつ切りにして、ドキュメンタリーの流れにあわせてインタビューをつなぎあわせていく手法がありますが、まさにそれを紙上でやった感じ。読んでいてなんとなくブルースに関するドキュメンタリー映画を見ているようなそんな気分になりました。

さて私をはじめ多くの日本人がブルースという音楽に魅せられる理由、それは一種の異文化に対するあこがれ。国籍も人種も生活スタイルも違うアメリカの黒人の歌という異文化に対する憧憬が大きな理由・・・そう感じていました。

しかし今回この書籍を読み、ブルースミュージシャンたちの話を聴いているとむしろブルースに惹かれる大きな理由としては歌い手に対する共感が大きな要素ではないか、ということを感じました。ブルースで歌われているテーマはいわゆる日常生活で辛いことがあったり、好きな女性にふられたり、仕事が上手くいかなかったり・・・背景にある文化は私たち日本人とは大きくことなるものの、そこで歌われている根本的なテーマや心境は私たちにも共感する部分が多くあります。

この本の中にもこんな一節がありました。

「そんなレコードのある部分には、聴く人間にブルースをもたらす悲しいことがあったり、人生の傷に触れたり、友だちのことだったり、たった今起きていることを考えさせられたりする。その歌のようなことが起きてなくても、これは他人ゴトではないなと強く思わせもするわけだ。だからこれは気持ちをすごく揺り動かすことで、それがブルースに発展してゆくのさ。」
(ジョン・リー・フッカー 本書p208、209)

さらにこのインタビューの最後はこんな言葉で締めくくられています。

「つらい生き方をしてきたということ、これがあんたをブルーにする。すさんだライフ・スタイル、これがあんたをブルーにする。そこでブルースを歌いだすんだ、ブルースにやられた時にな。」
(エドウィン・バスター・ビケンズ 本書p217)

もちろん純粋な音楽的魅力もブルースに惹かれる大きな要因です。ただ50年以上前のアメリカの黒人であろうが現在の私たちであろうが、辛いこと悲しいことなどがあったりした時に感じる心境は同じ。それを歌にしたブルースに、私たち日本人も強く惹かれるのではないでしょうか。

そういった歌詞に対する共感は、いままでブルースを聴いてきた過程においてももちろん感じてきました。ただその漠然と感じていたことがこの本を読むことにより、より明確にブルースの魅力として気が付くことが出来たように思います。そんなブルースに対する再発見も出来た1冊でした。

ちなみに本書、装丁もまたそそられます。上の写真でわかるかどうかわかりませんが、洋書のペーパーバッグのような装丁。それもまたブルースの本としてピッタリな、なんともいえない雰囲気があったりします。ブルースが好きなら絶対読むべき1冊。読み進めていくうちにいろいろな発見がある実に興味深い1冊でした。

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2016年4月23日 (土)

ダンスミュージックを通じて見た昭和歌謡史

以前から気になっていた本なのですが、ようやく読んでみました。

大阪大学の准教授で大衆音楽研究家である輪島裕介氏による「踊る昭和歌謡」。以前、彼の著書で「創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史」という本を紹介したことがあるのですが、これが非常に優れた名著だっただけに、この本も発売当初から非常に気になっていました。

最初のイメージではこの新書本、昭和歌謡曲の中のダンスミュージックを羅列的に紹介していく本と思っていました。しかし実際に読んでみるとそれは大きな勘違いでした。この本で輪島氏が提示しているのは、「踊る」という視点を通じて見た、あらたな「昭和歌謡史観」でした。

この本の最初、「はじめに」で著者はいきなりこういう文章から切り出しています。「大衆音楽とは、踊る音楽である。」。大衆音楽は音楽にあわせて歌ったり踊ったり合いの手を入れたりすることが出来る音楽。それと対照的に音だけを集中的に聴き取る音楽を「芸術音楽」として、「大衆音楽」と「芸術音楽」の二項対立論を提示しています。

その前提に基づいて(この「大衆音楽」=「踊れる音楽」という図式は決して著者のオリジナルではないそうですが)昭和歌謡史を論じているのが本作。特に昭和歌謡史がともすれば、欧米の音楽から強い影響を受けたフォーク音楽、ニューミュージック、J-POPという流れと、その対極としての日本的要素が強い演歌、歌謡曲、アイドルポップといったふたつの流れで語られることが多い中、その狭間で語られることがほとんどないラテンからの影響を本書の前半で大きく取り上げて語っています。

特にユニークだったのが1950年代から60年代にかけて、「ニューリズム」と称して海外のリズムを積極的に、そして次々と日本に紹介し取り入れていった流れ。マンボやらカリプソやら南米系のリズムが次々と登場し、日本に大きな影響を与えていったことがわかります。今みたいにパソコンのクリックひとつで世界中の音楽に容易に触れることが出来る時代とは違い、海外の情報がほとんど入ってこなかった時代に、時には「大きな誤解」を含みながらも新たなサウンドが次々と紹介されるという音楽シーンは、いまだに90年代J-POPそのままの音が幅を利かせ、ともすれば停滞気味にすら感じられる今のミュージックシーンと比べてなんともうらやましさも感じてしまいます。

その中でも一章をあてて大きく取り上げられているのが日本生まれのリズム「ドドンパ」。いまでもその名前だけは聞いたことがある、という方も多いかもしれません。リズムを聴けば、「ああ、あれ」と思う方も多いでしょう。この「ドドンパ」が誕生に至った流れや当時の流行、その影響などを詳しく記述しており、この本の中のひとつのハイライトとなっています。

以前紹介した「創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史」の大きな魅力は、1974年生まれで、おそらくリアルタイムで昭和歌謡全盛期を知らない輪島氏が当時の資料や証言などを丹念に拾い上げて、客観的姿勢から当時の音楽シーンを描こうとする姿勢でしたが本作もそのスタンスが貫かれておき、大きな魅力となっていました。おそらくリアルタイムで50年代60年代を経験してきた人ではある意味主観的になりすぎるところを、丁寧に、客観的に描こうとしているからこそ、逆にその時代の空気感がより伝わってきているように思います。

ただちょっと残念だったのが、それ以降の音楽シーンについてはあまり深く切り込んでいなかった点でした。特に80年代から90年代に一世を風靡したユーロビートなど、日本でにも異常なまでにヒットした、という点ではもっと突っ込みがいのあるブームだったと思うのですが・・・著者の専門外だった、ということあでしょうか。もうちょっと切り込んでほしかったな、とも思ってしまいました。

そこらへんはちょっと残念だったのですが、日本の歌謡史に興味がある方には必読の1冊だと思います。特にダンスミュージックといえば、例えば80年代のディスコにしろ90年代のユーロビートにしろ2000年代のトランスにしろ現在のEDMにしろ、とかく音楽の中では軽んじられる傾向にあるジャンル。まあ、時として必要以上に機能的に特化しすぎる傾向にあるだけに、音楽ファンの中で軽視されるのは仕方ない部分もあるのですが、本書を読み、ダンスが音楽シーンに与える影響を強く考えさせられ、かつ踊れる音楽について大いに見直しました。

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