映画・テレビ

2023年10月31日 (火)

ノスタルジーを感じながら

今回も先日見た、音楽関連の映画の紹介です。

今年はEPICレーベルの創立45周年。その節目の年を記念して、EPICレーベルで発表されたライブ・フィルムを、毎週木曜日の7時から一夜限定で上映するイベント「EPIC レコード創立45周年記念 毎木7ライヴ・フィルム・フェスティヴァル2023 -THE LIVE IS ALIVE!-」が開催されました。今回見たのは、そのうちの6回目。10月26日(木)に行われた「渡辺美里『misato born IV 愛と感動の超青春ライブ』」を見てきました。

私が見てきたのは、東京品川の「T・ジョイ PRINCE 品川」。122席の会場で、半数弱程度の人の入りといった感じでしたでしょうか。一夜限りとはいえ、平日の夜ということを考えると、そこそこの客の入りといった感じ。やはり彼女の最盛期は80年代後半から90年代前半でしたので、観客層はおそらくほとんどが50代以上。渡辺美里のライブへ行ってもいつもそうなのですが、40代後半の私の年代が、むしろ「若手」になってしまっています・・・。

今回のイベント、「映画」というよりも、過去に発売された映像作品を映画館という空間で大音量・高音質で楽しむというイベント。この日流されたのも、1990年にVHSでリリースされた同タイトルの映像作品をそのまま流しただけのイベントで、今回のイベントに合わせた特典映像があるわけでもありません。このVHSこそ持っていませんが、映像自体は一度は見たことある映像ばかりでした。

ちなみに特殊なイベントということで、映画だと恒例の予告編はなし。例の「映画泥棒」のCMもなく、いきなり本編からスタートしたのにはかなり違和感が・・・。

ちなみにこの「born IV」の映像は1989年7月26日の西武球場でのライブの模様と、11月に行われた東京ドームでのライブの模様を収録したもの。ファンにはおなじみの話なので、映像には一切説明もなかったのですが、この7月26日のライブ、豪雨と落雷に見舞われて、ライブが途中で中止になったファンには有名なライブ。その後、その埋め合わせ的に「史上最大の学園祭」と題して、東京ドームワンマンライブが行われたもの。時期的にはアルバム「Flower bed」リリース後のライブで、秋の東京ドームライブは、シングル「虹をみたかい」がチャート1位を獲得した直後のステージ。まさに彼女の全盛期のライブで、1986年から2005年まで毎年行われていた西武スタジアムでのライブですが、この年は唯一、2日間公演だったという点も、その当時の人気のほどがうかがえます。

そんな訳で、正直なところ、映像自体は特に目新しいものではありません。ただ、それを映画館という場所で、大音量・高音質で聴けるという点、非常に貴重な体験をすることが出来たひと時でした。彼女の曲については、ベスト盤リリースや「30周年記念盤」リリースのタイミングで聴いていたり、時々、今でも曲を聴いていたりしています。ただ、こういうイベントで、当時の映像、当時の歌声で集中しながら聴いていると、(この映像の頃はまだ、渡辺美里を聴きはじめる前なのですが)ふと自分がはじめて渡辺美里と出会って、はまって、そして何度も聴いた、中学生や高校生の頃を思い出してしまいました。聴いていて、その当時の事、渡辺美里に関する、友人や、その当時好きだった女の子の事も思い出してきてしまったりして、とても甘酸っぱい気持ちになりながら、渡辺美里の歌に耳を傾けていました。

また、そんなノスタルジックな気持ちから離れて、客観的な気持ちで彼女の歌を聴いていても、やはりあらためて、圧倒的な声量、歌の上手さを感じます。彼女はこの時、若干23歳。でも、その年齢を感じさないすごみを感じさせます。もっとも、この時点でかなり完成されすぎてしまっていて、その後、正直、ほとんど変化がない、という点も良くも悪くも気になってしまうのですが。

さらに会場の盛り上がりのすごさも、その当時の渡辺美里人気とその勢いを感じさせます。西武球場のライブが雨で中止になった時に「青春のバカヤロー」と叫ぶシーンがあって、率直な感想として少々痛いのですが(苦笑)、ただ、そのちょっと痛々しい発言がそのまま受け入れてしまうだけの勢いと盛り上がりが映像を通じて、30年以上たった今でも伝わってくるようでした。

渡辺美里全盛期の彼女の勢い、実力、そして魅力を感じさせてくれるイベント。全13曲1時間11分。決して長くはないものの、充実感のある内容になっていました。そして、私自身はちょっと中学生や高校生の頃に戻り、ノスタルジックな気持ちにひたった、そんな夜でした。

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2023年10月29日 (日)

オリジナルメンバーでのレコーディング風景を捉えた映画

映画「くるりのえいが」を見てきました。

タイトルそのままなのですが、文字通り、ロックバンドくるりのドキュメンタリー映画。ただし、バンド「くるり」の軌跡を追ったドキュメンタリーではなく、先日リリースされたニューアルバム「感覚は道標」のレコーディングに密着したドキュメンタリーとなっています。この新作「感覚は道標」は、くるりのオリジナルメンバー、森信行が参加したことでも大きな話題となったアルバム。このドキュメンタリーでは、そんなオリジナルくるりのメンバー3人の友情を描いたドキュメンタリーにもなっていました。

個人的にくるりというとデビュー作「さよならストレンジャー」以来のファンであるだけに、オリジナルくるりの3人が並んでいる姿を見るだけで胸が熱くなってきます。実は、この映画を見る時点では、オリジナルアルバム「感覚は道標」をまだ聴いていなかっただけに、アルバム音源に対しても、白紙の気持ちでこの映画にのぞむことが出来ました。

今回の映画は、あくまでも新作「感覚は道標」の制作過程を追ったドキュメンタリーとなっていました。全編は伊豆でのスタジオでの制作風景。その後、今年3月に京都のライブハウス「拾得」で行われたライブの模様が収録され、そのライブから「尼崎の魚」、新曲の「California coconuts」、そして「東京」の3曲の演奏が映画には収録されていました。後半は、京都市内や伊豆のスタジオで行われたレコーディングの模様が収録され、特にアルバム収録曲「In Your Life」が完成するまでの過程を追った構成となっています。

この映画の大きな特徴としては、この手のドキュメンタリー映画にナレーションがつくのが一般的なのですが、この映画にはそんなナレーションは一切ありませんでした。そのため、基本的には映画全体として淡々とレコーディングの模様を追った構成となっており、そういう意味では、映画的な部分はちょっと薄く、よくCDに付随するDVDに収録されているようなレコーディングドキュメンタリーに近い内容になっていました。その点、「映画的」なものを求めるとすると、ちょっと物足りなさも感じてしまうかもしれません。

ただ、とはいってもやはり、オリジナルメンバー3人でのレコーディングの模様を追ったドキュメンタリー映像は貴重。くるりの音楽がどのように出来てくるのかが、そのまま収録された内容は見ごたえはありますし、またオフショット映像などでのオリジナルくるりの3人の関係性を垣間見れる映像もまた、貴重なショットと言えると思います。

途中、くるりの昔のMVも挿入され、昔のオリジナルくるりの3人との比較もまた興味深い構成に。というか、あらためて見ると、やはり20代のメンバーは若いなぁ・・・というか、私自身もくるりの3人と同じ年なので、あの頃はあれだけ自分も若かったんだよなぁ・・・と、リアルタイムでくるりを追っていた身からすると、非常に感慨深く見てしまいました。

くるりの楽曲の完成の過程を興味深く見つつ、かつ、オリジナルくるりの3人が一緒に活動しているだけに胸が熱くなりながら見ていたのですが、ただ、最後に収録されているメンバー3人の、特に森信行のインタビューを聴いて、やはりもうくるりはあくまでも岸田、佐藤2人のバンドなんだな、ということを感じてしまいました。おそらく、インタビューの内容から考えると、森信行本人がそのことを一番強く感じているようですし、今回のレコーディングではメンバー3人が、ある意味、デビュー当初に戻った感覚でレコーディングを行っていたのですが、それと同時に、もう本当の意味でのデビュー当初には戻れないんだ、ということを実感してしまう内容にもなっていたように感じました。

ある意味、卒業後、20年以上経ってから、学生時代の仲間たちと久しぶりに集まった飲み会、そんなイメージでしょうか。その場では、まるで学生時代に戻ったかのような錯覚を覚えます。しかし、それと同時に、かなり変わってしまった自分たちは、もう本当の意味では昔には戻れない・・・そんな寂しさもどこか感じてしまう。最初は3人が一緒に楽曲を作っている姿に、素直に懐かしさを感じつつも、最後まで映画を見て、そんな感情が残ってしまいました。

おそらく、森信行を含めてのレコーディングはこれ1枚で、再び2人のくるりに戻るのでしょう。もう昔には戻れないという寂しさを感じさせつつも、ただきっと、また何年か後に、この3人でのプレイがくるりの歩みに必要となる時期がやってくるのではないか、映画を見ていてそうも感じました。また、そんな機会を期待しつつ、オリジナルくるり3人での貴重な風景が楽しめる、そんな映画。どちらかというと初心者にくるりを紹介する、というよりもファンズムービー的な要素が強いのですが、ファンであるのならば、というよりも、デビュー当初、くるりを聴いていた方ならば、是非チェックしてほしい、そんな映画でした。

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2023年8月13日 (日)

スピッツの秘密ライブ

昨日の「ドキュメント サニーデイ・サービス」に続き、今日も最近見た、音楽関連の映画の紹介です。

実は、その「ドキュメント サニーデイ・サービス」と同じ日に見たのですが・・・こちらはスピッツの映画「劇場版 優しいスピッツ a secret session in Obihiro」です。

もともと2022年1月にWOWWOWで放送されたライヴ番組「優しいスピッツ a secret session in Obiriro」に、当日のドキュメント映像と、監督である松居大悟とスピッツのメンバーによるアフタートーク集が加わった特別版として編集され、映画として公開された作品となります。

Yasashiispitz

このライブのもともとのきっかけとしては、映画タイトルの元とまっている2019年のスピッツのヒット曲「優しいあの子」。この作品は、北海道・十勝地方を舞台としたNHK連続テレビ小説「なつぞら」の主題歌として起用されました。これをきっかけに、スピッツの帯広でのライブが予定されていたそうですが、コロナ禍により延期となってしまいます。

そのため、今回のオリジナルライブの舞台として選ばれたのが帯広。大正11年に建設され、現在は国指定の重要文化財となっている旧双葉幼稚園園舎にて、この映像のためだけのライブが行われました。舞台となったのは、その幼稚園で遊戯室として使用されていた八角形の小さなホール。そこにスピッツのメンバーが円形に集まり、ライブを行いました。

基本的にはこの映画、スピッツのライブ演奏を淡々と撮るようなスタイルが続きます。まずユニークだったのがその音の響き。音楽ホールではなく小さな遊戯室でのライブということでまわりの壁に音が反響していました。草野マサムネ本人も「昔やっていた学園祭のライブみたい。音楽について配慮していないホールで行うライブのような」と言っていましたが、まさにそんな雰囲気になっていました。

また、メンバーが向かい合ってのセッションということもあって、1曲1曲、メンバー同士の会話が入り、ちょっとまったりした雰囲気でライブは進みます。そういう意味では本格的なライブというよりは、リハーサルのセッションといった雰囲気のあるライブになっていました。「a secret session」というタイトルの通り、「秘密のライブ」を意識した感じの、ちょっと覗き見したような感じのあるカメラワークも目立つ構成となっていましたが、まさにそんなスピッツのライブリハーサルを覗き見しているような、そんな映像になっていました。

セットリストは「つぐみ」からスタートし、「冷たい頬」、そしてちょっと意外だったのがライブではかなり久しぶりに披露となった「ハヤテ」へと続きます。比較的全体的に懐かしいナンバーが目立つ感じもありました。中盤では大定番の「空も飛べるはず」や、今回のライブのきっかけとなった「優しいあの子」なども披露。さらに後半には、北海道に因んで、この曲は是非演りたかったという「雪風」も。最後はかなり初期のナンバー「名前をつけてやる」から、最後は「運命の人」で締めくくり。「優しいスピッツ」というタイトルの通り、比較的優しい、メロディアスに聴かせるタイプの曲が目立ったセットリストとなっていました。

映画自体は基本的にはライブ映像。前述のように隠し撮り的なスタイルを意識したショットもありつつも、基本的にはシンプルにメンバーの演奏を撮影するスタイルであり、途中、いきなり画像サイズを1対1にするような飛び道具もありつつも、比較的シンプルな映像で、十分スピッツのライブを楽しめる映画になっていたと思います。

映画化にあたっては、前述の通り、当日のドキュメンタル映像と監督とメンバーとのアフタートーク映像を入れています。ただ、この特典映像については正直、DVD化されたような時についてくる特典映像レベル。WOWWOWで見た映像を、あらためて映画館で見れる、というメリットはあるものの、WOWWOWで見た人にとっては、あらためて、この追加映像目当てに映画館に足を運ぶほどではなかったと思います。

もっとも個人的にはWOWWOWを見ていなかったのでこのライブ映像を見るのはこの映画がはじめて。もちろん、存分にスピッツのライブ映像を楽しむことが出来ました。あらためてやはりスピッツはいいバンドなぁ、と感じられたライブ映像。満足して映画館を後にすることが出来ました。

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2023年8月12日 (土)

サニーデイの魅力を存分に感じる

今回は最近見た、音楽関係の映画の紹介です。

映画「ドキュメント サニーデイ・サービス」。AV監督としても知られるカンパニー松尾監督による、タイトル通り、サニーデイ・サービスの歩みを追ったドキュメンタリー。もともとは2020年からスタートする予定だったサニーデイ・サービスのライブツアーのドキュメントを撮る予定だったそうですが、コロナ禍でライブツアーは延期となり、結果としてサニーデイの活動自体のドキュメンタリー映画となったそうです。

そのため映画は、まずコロナ禍直前、新メンバーの大工原幹雄の加入シーンからスタート。しかし、その後、コロナ禍が襲ってライブツアーは延期となり、コロナ禍の中で開店した曽我部恵一のカレー屋で、彼自ら厨房に立つという、なかなか衝撃的なシーンも映し出され、図らずも、コロナ禍の中での苦境も記録するドキュメントとなっています。

Sunnydaymovie1 その後、前半はサニーデイの歩みを追ったドキュメンタリーが続き、中盤以降後半は、おそらく当初の予定だったサニーデイ・サービスのライブツアーの模様を追ったドキュメンタリー映画という構成となっていました。前半については、サニーデイのメンバー、曽我部恵一と田中貴によるインタビューを中心に、サニーデイにゆかりのある関係者に対するインタビュー、さらには初期サニーデイの貴重なMVやライブ映像なども加えた映像となっています。

この前半の関係者に対するインタビューでは、個人的に懐かしい!と感じるミュージシャンが続々と登場してきます。NORTHERN BRIGHTの新井仁や、SUGIURAMNこと杉浦英治(なぜか劇中にSUGIURAMNという言葉は出てきませんでしたが・・・)、さらにホフディランの2人も登場し、サニーデイに関しての思い出を語っていました。

このドキュメンタリーでは初期サニーデイの音源も登場していたのですが、いかにも当時流行りだった「渋谷系」を模倣しただけといった感じの曲調で、劇中でもやついいちろうがコメントしていたように、当時、評価が悪かった理由は今でもわかります。ただ、こんな音源でも、劇中にも登場していたMIDIレコードのディレクター、渡邊文武は契約したんですよね・・・あの中から、あとにつながる曽我部恵一の才能を見出すというのは、驚きすら感じさせます。

さて、そんな関係者のインタビュー+当時の映像というスタイルはこの手のドキュメント映画でよくありがちな構成で進むのですが、このドキュメンタリーでとてもよいなと感じたのは、曽我部恵一の持つ、天才肌の職人気質な側面と、サニーデイ・サービスのバンドとしての側面をしっかりと捉えていた、という点だと思います。

サニーデイ・サービスといえば、とかく曽我部恵一のワンマンバンドと見られがちです。ただ、バンドとしてのドキュメントなので当たり前と言えば当たり前なのかもしれませんが、田中貴や丸山晴茂、さらには新メンバーである大工原幹雄にもしっかりとスポットがあてられており、特に最初のサニーデイのグルーヴ感は、あの3人だったからこそ奏でられた、ということも強調されています。田中貴のインタビューもドキュメンタリーの中心軸となっているのですが、プロのミュージシャンなのである意味当たり前なのですが、彼もまた、曽我部恵一とは別の側面で、いい意味で癖のある一本の筋の通ったミュージシャンなんだな、ということを感じさせます。

Sunnydaymovie2

さらにバンドとして印象的だったのが丸山晴茂追悼コンサートのシーン。ドラムレスで曽我部恵一と田中貴の2人のみでのステージだったのですが、2人のプレイに非常に鬼気迫るものがあり、この2人のプレイヤーとしての側面によりスポットのあたったステージングとなっていました。この映画の中でも非常に印象に残るシーンのひとつとなっていました。

そして、そんなバンドとしてのサニーデイと同時に描かれていたのが、曽我部恵一の天才肌の職人気質な側面。特に、ライブのリハーサルシーンにおいて、曽我部恵一が田中貴にかなり厳しい指示を飛ばすシーンも写されています。最初の活動休止直前は、バンドメンバーの仲も見るからに悪かったという表現もあり、曽我部恵一の頭の中で鳴っている音を、バンドが表現できないもどかしさがあった、という証言もありました。一方で、若いころは音源の音が絶対的な正解と思っていたが、今はバンドとして正解はいろいろあると考え方が変化した・・・という曽我部恵一本人の証言もあり、やはり年をとって、いい意味で考え方が変化したことをうかがわせます。だからこそ、新生サニーデイは順調に、既に再結成前により長いこと活動を続けているんでしょうね。

サニーデイ・サービスというバンドの持つ、様々な側面、魅力をしっかりとらえられていた、とてもよいドキュメンタリー映画だったと思います。2時間半という長丁場の映画だったのですが、途中、飽きることなく最後まで楽しむことが出来ましたし、見終わった後、あらためてサニーデイのアルバムを聴きたくなるドキュメンタリーでした。

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2023年4月17日 (月)

ジャズの魅力がダイレクトに伝わる傑作アニメ映画

先日、最近話題となっている映画「BLUE GIANT」を見に行きました。

この原作になったマンガは知っていましたし、映画になったことも知っていたのですが、原作も読んでおらずなんとなくスルーしており、映画も最初は興味がなかったのですが、非常に評判がいいということで気になり、遅ればせながら先日足を運んできたのですが、確かに高い評判も納得の素晴らしい映画でした。

この「BLUE GIANT」という映画はジャズをテーマとした映画で、テナーサックスプレイヤーの主人公、宮本大が東京で仲間と出会って成長していく物語。音楽を通じて人々に感動を与える内容になっているのですが、この手の音楽映画で難しいのはこの「音楽」の取り扱い。主人公の演奏によって人々の心が動かされる・・・という展開が、特にマンガの場合、デフォルメ気味に描かれることが少なくありません。

そのため、映画の中の音楽は、それなりのものを描かなくてはいけなくなってしまうという難題にぶちあたってしまいます。この難題から、ある意味逃げてしまって酷評されたのがマンガ「BECK」の実写映画版。マンガでは主人公の「歌」が人々の心を動かす大きなキーになっているのですが、映画ではなんと、この「歌」の部分を「無音」にしてしまうという、「逃げ」の表現をしてしまい酷評を受けました。

しかし、この映画ではこの難題にガッチリと取り組むどころか、音楽を前面に押し出し、映画の中で実に4分の1が演奏シーンという音楽映画を作り上げています。なんといっても音楽担当には上原ひろみを起用。彼女自身が劇中のピアノ演奏を担当しているほか、サックスは馬場智章、ドラムスは石若駿という世界レベルの実力を持ったプレイヤーを配置。演奏シーンでも本格的なプレイを聴かせてくれます。

そのため、物語と同じく、文句なしにその演奏に心動かされる映像が出来上がっていました。映画評では「まるでライブハウスにいるような」という評価もされているそうですが、その評価も納得。物語の中での観客の感情と同期できるという、非常に幸せな鑑賞体験をすることの出来る映画になっていました。

もうひとつ素晴らしかったのが、映画の中で主人公はジャズの魅力として「激しいところ」と表現しています。これはとてもおもしろい視点で、ジャズというと一般的に「おとなしく聴く大人のムード音楽」というイメージが今や一般的となっています。しかし、確かに情熱的に感情を込めたプレイの激しさは決してロックに負けていません。そして、その魅力を、前述の通り、一流のプレイヤーの演奏によってしっかり再現しており、主人公の語るジャズの魅力を、映画を観ている私たちにもしっかりと伝えられています。

この映画のサントラ盤は、ヒットを記録しているのですが、そりゃあ、これだけ映画の中で魅力的なプレイを聴かされれば、サントラも聴きたくなっちゃうでしょう。そんな訳でサントラ盤のレビューも。

Title:BLUE GIANT(オリジナル・サウンドトラック)
Musician:上原ひろみ

実は、私はこのサントラ盤、映画とは関係なく、映画より前に聴いていたのですが・・・サントラ盤ということで、劇中の熱いプレイだけではなく、劇伴曲も収録されています。そういう意味では終始、劇中のような熱いプレイが展開する内容を期待すると、若干期待はずれの部分はあるかもしれません。

ただ、もちろん本編において要所で主人公たちがプレイしていた音源は収録されており、映画を観ていた方にとっては、映画の中での感動がよみがえるのは間違いないでしょう。そして、それを差し引いても、上原ひろみのニューアルバムとして聴き応えのある作品。劇伴曲でも彼女のピアノも聴くことが出来ます。

正直、サントラを聴くだけだと、上原ひろみの普段の作品と比べると、彼女の個性は抑え気味。映画の中で主人公が目指すような激しいプレイを聴くことは出来るのですが、上原ひろみのいつものアルバムは、もっとアグレッシブで独創的なので、これを聴いてその魅力に目覚めた方は、ぜひとも彼女の他のアルバムを聴いてほしいかも。ただもちろん上原ひろみをはじめ、トリオを組んでいる馬場智章、石若駿の魅力的なプレイが収録されていますので映画関係なく、上原ひろみファンなら間違いなく要チェックの、「上原ひろみの新作」としても聴くことが出来る内容になっていました。映画を観て感動した方はもちろん、映画を観ていなくても十分に楽しめる1枚でした。

評価:★★★★

上原ひろみ 過去の作品
BEYOUND THE STANDARD(HIROMI'S SONICBLOOM)
Duet(Chick&Hiromi)
VOICE(上原ひろみ featuring Anthony Jackson and Simon Phillips)
MOVE(上原ひろみ featuring Anthony Jackson and Simon Phillips)
Get Together~LIVE IN TOKYO~(矢野顕子×上原ひろみ)
ALIVE(上原ひろみ THE TRIO PROJECT)
SPARK (上原ひろみ THE TRIO PROJECT)
ライヴ・イン・モントリオール(上原ひろみ×エドマール・カスタネーダ)
ラーメンな女たち(矢野顕子×上原ひろみ)
Spectrum
Silver Lining Suite(上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット)

以下、ネタバレの感想も

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2022年6月 3日 (金)

名古屋にこだわった映画

今日は最近見た映画の感想です。名古屋を拠点に活動を続け、デビュー35周年を迎えるスラッシュ・メタルバンドOUTRAGE。日本のみならず海外でも活躍する彼らですが、その彼らのデビュー35周年を記念した映画「鋼音色の空の彼方へ」を見てきました。

この映画、単純なOUTRAGEのドキュメンタリー映画ではありません。正直、公式サイトを見ても若干わかりにくさがあるのですが、劇中劇の形態を取るフィクション。OUTRAGEの映画「OUTRAGE THE MOVIE」を撮影するためにあつめられた4人の今時の若者を中心に、それぞれの若者が壁にぶつかりつつ、映画撮影を通じてOUTRAGEの遍歴と彼らを重ね合わせることにより、OUTRAGEに魅せられていくのと同時に、壁を乗り越え、さらには4人の間にも絆が生まれてくる、そんな「物語」になっています。以前、the pillowsが30周年記念として制作した映画「王様になれ」が、彼らのドキュメンタリーではなく、the pillowsを媒介とした若い男女の物語となっていましたが、スタイルとしてはそれに近いものを感じます。

正直言うと、OUTRAGEに関してはほとんど思い入れはありません。それでもこの映画に興味を抱いたのは、名古屋を拠点に活動する彼らということもあって、映画全編にわたって名古屋にこだわったという点。登場するキャストも名古屋に縁のある人たちばかりならば、撮影場所も全て名古屋市内。監督も、OUTRAGEの映像作品を手掛けた山田貴教監督がつとています。

そんなこともあって期待半分、不安半分で映画に臨んだのですが、結果としてはとても楽しめた映画で、満足して映画館を後にすることが出来ました。この映画の大きな魅力を一言で言うと、いい意味で非常にベタだった、ということ。OUTRAGE役として登場するのは、いかにも今時の若者といった感じの4人。その4人がそれぞれの物語を展開していくのですが、それぞれがわかりやすい形で悩みを抱えていて、わかりやすい形でトラブルが発生して、わかりやすい形で乗り越えていく・・・と書くとかなり陳腐な感じがするのですが、ただ、悪い意味でひねくれた部分がなく、素直に映画に没頭することが出来る展開になっていました。

また、この監督自体、物語の描き方としてベタではあるものの非常にあっさりした描き方をしており、必要以上に説明的な内容だったり、感情過多な内容は避けており、ある程度以上の解釈は、観客に投げるような撮り方をしていました。特に今回、名古屋が舞台で名古屋にこだわった、という内容なのですが、そこで不安してあがるのが、ベタベタな名古屋弁ばかりが登場し、ステレオタイプな名古屋の描き方をされることでした。確かに、コメダやら世界の山ちゃんやら、いかにも名古屋的なアイテムは登場するのですが、基本的にメインキャストは名古屋弁を話しませんし、変にステレオタイプな名古屋の表現は登場してこず、そういう意味でも安心してみることが出来ました。

個人的には非常に楽しめた映画。見ようかどうか迷っていたのですが、見て正解でした。ただ、一方、正直なところ映画としての「粗さ」も目立ったのですが・・・ここらへんはネタバレ混みの感想で。

(以下、ネタバレ込みの感想です)

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2021年11月16日 (火)

最新曲から懐かしいナンバーまで披露

Spitz_streaming_ticket  今回は最近見た音楽関連の映画の感想です。といっても、映画館で見たわけではなくオンラインでの上演。今回紹介するのは、スピッツのライブツアーの模様を映画として「SPITZ JAMBOREE TOUR 2021"NEW MIKKE"THE MOVIE」。今年6月19日に横浜アリーナで行われたライブ映像をそのまま映画とした作品で、劇場公開の後、「オンライン」での公開となり、今回はそのオンライン上映を見てみました。

 

この「オンライン上映」なかなかユニークで、普通、オンラインというと、決められた時間であればいつでも視聴可能というのが常なのですが、この「映画」は事前に上映時間が決められ、その時間毎にオンラインでチケットが販売されるスタイル。私は先日11月8日の21時の会で参加したのですが、本当の映画がはじまるように、ワクワクしながらパソコンの前でスタンバイしました。

最初はメンバーのステージ入りのシーンが短く写されると、そのままライブはスタート。まず「見っけ」「はぐれ狼」と最新アルバム「見っけ」からのナンバーが続きます。さらにちょっと懐かしい「エスカルゴ」へ。ロッキンなバンドサウンドを聴かせつつ、田村明浩のベースソロを挟んで「けもの道」とロックなスピッツが続いていきます。

「稲穂」を哀愁たっぷりに聴かせた後、短いMCを挟み、懐かしい「遙か」へ。その後も「快速」と再び「見っけ」からの曲を挟んだ後、「放浪カモメはどこまでも」「ワタリ」、さらにアルバム「見っけ」から「ラジオデイズ」と、しっかりとロックバンド、スピッツとしてバンドサウンドを聴かせるナンバーが続いていきます。

ここで再びMC。Mステに出演した時のエピソード。周りがみんな踊るミュージシャンばかりなのでスピッツも踊った方がいいのか、と思ったと草野正宗のコメントに「スピッツにそれは求められていない」という三輪テツヤからの冷静な突っ込みが入っていました。

そこから「優しいあの子」「ヒビスクス」「水色の街」「まがった僕のしっぽ」と比較的メロディアスに聴かせるナンバーが続きます。ここでちょっと長めのMCが入り、ここからは懐かしい楽曲が。まず「青い車」!ブレイク前の楽曲で、個人的にも大好きな1曲で、これはうれしい選曲です。さらに「YM71D」を挟み「ロビンソン」へ!そして「ありがとさん」に続き、「楓」へ!懐かしいナンバーと最新アルバムからの曲を交互に披露してくれる構成で、特に昔の曲に関しては感涙モノ。また最近アルバムの曲も、昔の曲に決してひけ劣っておらず、変らぬ彼らの実力を感じさせます。

懐かしナンバーはまだまだ続きます。MCを挟み「渚」「8823」「俺のすべて」と長年のファン感涙ものの曲が続きます。コロナ禍の中で会場のファンは声を出せない状況ですが、現地はもりあがったんだろうなぁ。そして本編ラストはこの時点での最新シングルとなる「紫の夜を超えて」で締めくくりとなりました。

そしてアンコールへ。アンコールはちょっと懐かしい「群青」からスタート。メンバー紹介の長めのMCを挟み、これまた懐かしい「うめぼし」へ。ラストは最新アルバム「見っけ」から「ヤマブキ」を披露し終了。約2時間半のステージでした。

といった感じで、完全にライブレポのようになってしまった今回の映画の感想。まあ、「映画」といっても事実上、ライブの模様をそのまま映像として流しただけで、そういう意味では「オンラインライブ」みたいなものと言えるかもしれません。映画館で見れたのならば、音響と大迫力の映像で楽しめたのかもしれませんが、家でパソコンで見るには、単なるライブ映像になってしまったかな、といった感があります。まあ、もちろん、それでも十分楽しめたのですが。

ちなみに映像作品ならではのカメラワークは変なカット割りなどはなく、比較的おとなしく、しっかりメンバーの動向を映したものになっており、そういう意味では安心して楽しめたライブ映像になっていました。また、懐かしい曲から最新のナンバーまでバランスよい選曲も非常によく、時代を超えて変わらないスピッツの魅力も感じられました。やはりスピッツのライブは楽しいですね。また、是非ともナマで彼らのライブは見てみたいです!

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2021年10月 1日 (金)

oasisが絶頂だった日

先日に引き続き、また音楽系で見たい映画があるので足を運んできました。

Oasislive

「オアシス:ネブワース1996」。これは、今なお伝説のライブとして語り継がれているoasisのネブワースで行われたライブの模様を収録したライブドキュメンタリー。1996年8月10日、11日に行われたこのライブは、2日間で25万人を動員。予約の段階で250万件の申し込みが殺到し、実に全イギリス人の2%が申し込みを行ったという、今でも数多くの興行成績の記録を持ち続けているイベントです。1996年というと、前年にかのアルバム「(What's The Story)Morning Glory」をリリースし、全世界で2,500万枚を売り上げるという大ヒットを記録。まさに彼らにとって絶頂期に実施されたライブイベントとなっています。

今回は、その彼らの伝説とも言えるライブの模様を、oasisやRADIOHEADのプロモーションビデオも手掛けている映画監督のジェイク・スコットがメガホンを取り制作。未公開映像も数多く収録したほか、メンバー本人のコメントももちろん収録されたライブドキュメンタリーと仕上げています。

まずライブ自体の方は申し分ありません。彼らが脂にのりまくっていた全盛期のライブであり、この2日間で25万人という莫大な広さを持つ会場のスケール感でも違和感のない大物然とした雰囲気を既に兼ね備えています。選曲も、この時点のライブなので当たり前ですが、基本的に彼らの最高傑作といわれる1枚目、2枚目のアルバムからの選曲がほとんどなので捨て曲が全くない名曲揃い。さらに今となっては、やはりリアム、ノエルのギャラガー兄弟が同じ舞台で仲良くたっているというのが何とも言えず感無量な感も・・・。この2人が仲直りして、oasisが復活する日は来るのでしょうか・・・??

さて今回の映画ですが、ただ、今回の映画は単なるライブ映像を公開した映画ではなく、基本的にはドキュメンタリー仕立てとなっています。そのテーマが、ファン視点からのoasis。映画の中には数多くのファンのインタビューが登場し、それを中心に映画は構成されています。さらに映画のスタートは、このライブの開催が発表された段階からスタート。まだインターネットが普及していなかった当時、チケットを取るために電話をかけまくったというエピソードも披露されるなど、徹底的にファンの視点から描かれるドキュメンタリーとなっており、ある意味、私たちにとっても、ネブワースを追体験できるような、そんなドキュメンタリーになっていました。

そのため、あらためて感じるのは、oasisの音楽が生み出すファンの一体感でした。もちろん、この2日間で25万人という会場にファンが集まり、一緒に盛り上がるという点で大きな一体感を生み出しているのですが、加えて、インタビューでも述べられていましたが、みんながみんな、oasisの曲の歌詞を覚えていて歌えているという事実。確かにoasisの曲は、映画を観ていても一緒に歌いたくなるような、そんな衝動にかられるような曲がほとんど。そんな曲だからこそ、ファンはより一体感を覚え、この一体感の強さこそが、oasisがあれだけ歴史的な人気を獲得した大きな要因だったのではないでしょうか。今回の映画を観て、あらためてそんなことを強く感じました。

ただ今回の映画、そんなことを気が付かせてくれた一方、構成的に気になる部分もありました。それは、ドキュメンタリー仕立てにするために、ライブ映像にファンのインタビューを重ね、かつほとんどフルでの演奏がなかって点でした。確かに先日見たばかりの「サマー・オブ・ソウル」もそのような構成になっており、演奏の部分はブツ切れになっていました。ただそれは、あのライブをめぐる社会的状況を説明するために、限られた時間の中に情報を詰め込んだ結果、仕方なくライブ映像がブツ切れかつナレーションをかぶせた結果のようにも感じました。しかし、この映画に関しては、正直、ライブ映像に重ねるほどのインタビュー音源が必要とは思えません・・・。ファンからのインタビュー部分はしっかりとライブ映像とわけて、もっとライブ自体をしっかり見たかったなぁ、とは強く感じました。

そういった点は気になり、ライブ映像の部分では物足りない、もっと見たかったなぁ・・・と思う部分はありましたが、それを差し引いても、やはりoasisの最盛期のライブには、あらためて見入ってしまいました。あらためてすごいバンドだったんだなぁ、と再認識できた映画。これはDVDも買わなくては!あと、ライブアルバムのリリースも予定されているので、そちらも間違いなく買う予定です!DVDで見ると、また新しい感想も生まれてくるのかも。そちらも楽しみです。

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2021年9月24日 (金)

「革命」が起きた時

今回もまた、先日見てきた映画の感想です。

今回見てきたのは、特にブラックミュージックのリスナーで話題となっているドキュメンタリー映画「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」でした。この映画は、1969年の6月から8月にかけて、ニューヨークはハーレムにあるマウント・モリス公園で行われた「ハーレム・カルチュラル・フェスティヴァル」という野外イベントの模様を映画化したもの。監督は、かのHIP HOPグループTHE ROOTSのドラマーであり、プロデューサーでもあるクエストラヴことアミール・トンプソンが手掛けたもの。彼にとっては映画初監督作品だそうです。もともと映像化を予定し、ライブの模様は収録されていたのですが、結局商品化されることなくお蔵入りされていました。そのライブ映像はかなり膨大に及ぶものだったそうですが、そんな貴重な映像をあらためて掘り起こし、再編集。今回、映画として約2時間の作品にまとまりました。

このライブ映像、とにかく豪華な出演者陣が魅力的で、若き日の、どころかある種の「幼さ」すら残しているスティーヴィー・ワンダーをはじめ、脂ののりきったB.B.キング、マヘリア・ジャクソンにステイプル・シンガーズ、ニーナ・シモンやグラヴィス・ナイト&ザ・ヒップス、さらにはスライ&ザ・ファミリーストーンなどなど。まさにその当時を代表するヒットメイカーたちが揃った超豪華なラインナップ。さらにはアフリカ系やラテン系のグループまで加わり、R&B、ソウルに留まらない、幅広いミュージシャンたちが参加していました。

Summerofsoul  時代的にも多くのミュージシャンたちにとって脂ののった時期のパフォーマンスですから、ただただその迫力ある演奏に見入ってしまいます。特に印象的だったのはスライ&ザ・ファミリーストーンで、まさにのりののっている彼らのファンキーなパフォーマンスは、以前聴いたことある彼らのCD音源とは全く比較にならないくらい迫力にあふれているもの。ゴスペルの女王と言われるマヘリア・ジャクソンのパフォーマンスも、既にこの時期は晩年にさしかかっている彼女ですが、ステイプル・シンガーズのメイヴィス・ステイプルズの力を借りつつ、そのパワフルなボーカルに全く衰えはなく、その歌唱力には圧倒されます。

非常に興味深いのは、この日のステージ、比較的ポップ寄りと目されているミュージシャンたちも登場するのですが、オリジナル音源よりもソウルフルなパフォーマンスを聴かせてくれます。フィフス・ディメンションは白人グループに間違われるほどのポップ寄りの路線を普段は取っていながらも、この日のパフォーマンスではよりソウルフルな彼女たちの演奏が楽しめますし、テンプテーションから独立したばかりのデイヴィッド・ラフィンはスタンダードナンバー「My Girl」を聴かせてくれるのですが、こちらもオリジナルよりもソウルなアレンジに。どちらもブラックミュージシャンとしての矜持を感じさせるパフォーマンスを聴かせてくれます。

また、映画として見ていて楽しかったのはブラック系のミュージシャンたちはみんな、非常におしゃれに着飾って、パフォーマンスを含めてしっかりと「魅せる」ステージを演じており、そういう意味で音楽それ自体以上に、見ていてとても楽しめるパフォーマンスだったということでした。

途中にはラテン系やアフリカ系のミュージシャンも加わり、そんな魅力的なパフォーマンスが次から次へと登場してくるわけで、パフォーマンスに魅了されつつ、「次はどんなミュージシャンが出てくるんだろう?」とドキドキワクワクしながら見ることが出来た、あっという間の2時間でした。

ただ一方、純粋にライブ映像のみを期待して見に来たとしたら、少々違和感を覚える構成だったかもしれません。というのも本作は、ライブ映像がメインというよりも、むしろこのライブの成り立ちやライブの背景にある当時のアメリカの黒人社会をめぐる状況などが、関係者のインタビューなどを中心に構成され、その合間にライブ映像が挟まるような構成になっており、映画としては「ライブ映画」というよりは、むしろ「ドキュメンタリー映画」と言える内容になっているからです。

そのためライブ映像が他の映像や関係者の証言と重なるように入っていたり、1曲のパフォーマンスが途中で切れたりと、「ライブ自体をしっかりと見せてくれよ!」と思うこともあるかもしれません。しかし、これはおそらく、そういう音楽ファンの欲求を理解した上で、この野外ライブの意味を考えた時に、しっかりとその背景にある、1969年当時のアメリカの黒人をめぐる状況について解説しないといけない、という考えがあった上での構成だったのではないでしょうか。このライブは、その当時、公民権運動で黒人の社会的意識が変化していく中、彼らが「ブラック」として誇りを持つ中で、自分たちの音楽を演奏する場所を自分たちの手で開催した、まさにサブタイトルの通り、「革命」であった、ということを強く訴えかけてきます。

しかし残念ながら今日、このライブイベントはほとんど「忘れられたイベント」になりつつあります。実際、「ポップス史」を書いた本でこのライブのことが取り上げられたのを読んだ記憶はありませんし、私も今回、この映画になってはじめてこのライブイベントのことを知りました。クロージングの中で「このライブは歴史的に重要なものではないとされた。本当に歴史的に重要なものだからだ」という逆説的かつ皮肉的な言及がされましたが、確かに、こういうイベントが完全に無視されている時点で、ポピュラーミュージックの歴史においても、まだまだ白人視点からの歴史観が強いことを実感させられました。ライブパフォーマンスを心から楽しめた一方、様々なことを考えさせられる映画でもありました。

そんな訳で、ブラックミュージックが好きならば、間違いなくチェックしてほしい映画。ただ、この映画を通じてクエストラヴが訴えたいことは重々理解できたのですが、一方やはりライブパフォーマンスだけをもっと見てみたい!!ここらへん、DVDになった時に、ライブパフォーマンスだけをボリュームたっぷりに収録したボーナスディスクとか発売されないかなぁ。そんな期待もしたくなる、素晴らしいライブ映像の連続でした。

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2021年6月12日 (土)

圧巻のステージパフォーマンス

コロナ禍で、ここ1年以上、映画館から足が遠のいていましたが、先日、久しぶりに映画を観てきました。まあ、純粋に見たい映画がなかったというのもありますが・・・。それが「アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン」。「ソウルの女王」と呼ばれたアレサ・フランクリンが1972年に行ったゴスペルコンサートの模様を収録したフィルムの待望の映画化となります。

もともと映画化を想定して行われたゴスペルライブなのですが、撮影現場でいわゆる「カチンコ」を使わなかったために音と映像の同期が上手くいかず、お蔵入りになってしまった作品。その後、技術的な問題は克服できたものの、今度はアレサ本人から許可がおりず映画化は断念されたものの、2018年にアレサが鬼籍に入ったことから映画化に向けて動き出し、撮影から40年以上の月日を経て、ようやくこのたび映画化されたといういわくつきの作品。ただし、ライブ音源のみは別途ライブアルバムとしてリリースされ、ゴスペルでは珍しいミリオンセラーを達成。現在でもアレサの・・・という枠組みを超えた「名盤」として知られる1枚となっています。

「カチンコ」を使うのを忘れるくらい、現場はバタバタしていたみたいで、その模様は映像にも残っています。ただ、この不慣れさゆえに、映像としては変に凝った編集もありません。一部、リハーサルの映像と本番の映像を重ねる試みはあるものの、基本的には当日のライブの模様をそのまま撮影して使用しているスタイルになっており、それが今となっては、当日の雰囲気がそのまま伝わってくる貴重な映像としての価値を高める結果となっています。

1a7420f486bd932746ec851cda3223f2さて、肝心のライブパフォーマンスは2日間にわかって行われているのですが、まず気になるのはその会場の狭さ(!)。ちょっとした学校の体育館程度の広さしかありませんし、アレサも演壇の上で直立不動で歌うか、ピアノの弾き語りで歌うかという、比較的シンプルなパフォーマンスですし、バックの聖歌隊は椅子に座って歌っていますし、バンドメンバーは演台と観客席の間の狭いスペースに押し込められるように陣取って演奏を聴かせてくれています。それであれだけスケール感のあるパフォーマンスを聴かせてくれる点は驚くべき事実です。

パフォーマンスは主にアレサも敬愛するグリーヴランド師の司会を中心として進められます。彼も歌やピアノ演奏で参加しているのですが、その彼のパフォーマンスも非常にアグレッシブで特筆すべき内容ですし、バンドメンバーであるコーネル・デュプリー、チャック・レイニー、バーナード・パーディー、そしてケン・ラパーのパフォーマンスの素晴らしさ、バックのコーラスをつとめる聖歌隊の素晴らしさも言うまでもありません。

そしてもちろん一番印象に残ったのは言うまでもなくアレサ本人のパフォーマンス。普段、ソウルミュージシャンとして活躍してきた彼女が、その原点とも言えるゴスペルに挑戦したパフォーマンスということもあり、彼女の表情からはどこか緊張感も覚えますし、その歌声も普段以上に力が入っているように感じます。しかし、その身体のどこから出てくるんだ、と思われるような力強い、そしてそれだけ歌を張り上げながらも、音が一切ぶれない歌声に、まずは圧倒されます。そしてその一方でただ声を張り上げるだけではなく、やさしく聴かせる部分では特に、その表現力のある歌声に聴き惚れてしまうのではないでしょうか。そのボーカリストとしての実力をいかんなく感じられる映像に、終始くぎ付けされます。

特に1日目に関しては、序盤「Wholy Holy」などのバラードナンバーでじっくり聴かせつつ、中盤には「What A Frend We Have In Jesus」などで徐々にアップテンポに盛り上げ、会場の高揚感を高めつつ、ラストではおなじみ「Amazing Grace」を表現力たっぷりに力強く歌い上げるという展開には鳥肌すら立ってきます。最後の「Amazing Grace」ではあまりの圧倒ぶりに、グリーヴランド師が目じりをおさえて涙を流すというシーンが撮られているのですが、確かに私もあの現場にいたら、涙が出てきてしまうように感じました。実際、映画を観ているだけで目じりが熱くなってきましたし・・・。今回の映画、歌詞にも字幕がついているのでゴスペルの歌詞の内容もよくわかるのですが、確かにこうやって音楽で高揚感を高めつつ、歌詞にキリスト教の教えを織り込めば、神への帰依が深まるよなぁ、なんてことも感じてしまいました。

そして2日目のパフォーマンスの見どころといえば、なんと会場にローリング・ストーンズのミック・ジャガーとチャーリー・ワッツの姿が映っているという点。そして、アレサの父親であるC・L・フランクリンが会場に登場してくる点でしょう。アレサの父親のC・L・フランクリンも説教師として非常に有名な人物で、そのたたずまいからもただ者ならぬカリスマ性を感じます。途中、歌の間に彼の演説が入ってくるのですが、この演説も、私のような日本人でも、半分くらい意味がわかるような平易な英語表現をゆっくりとわかりやすく語りつつ、アレサの素晴らしさと父親として娘を思う気持ちを短い内容の中でうまく織り込んでくる素晴らしいスピーチとなっており、確かに説教師として人気を博した理由もよくわかります。その後、アレサがピアノの弾き語りをする中で、やさしくタオルで彼女の汗をぬぐってあげるシーンもあり、親子の関係が垣間見れる暖かいシーンも映し出されていました。

映画としては特にこれといった構成もなく、シンプルなコンサートフィルムといった様相の内容でしたが、だからこそ、当日のライブの雰囲気がそのまま伝わってくる素晴らしい、そして貴重な映像になっていた作品でした。どこまで劇場公開が続くかわかりませんし、コロナ禍の中ですので劇場に足を運ぶのを躊躇してしまう向きもあるかもしれませんが・・・しっかりと感染予防対策をしてぜひとも映画館で見てほしい作品だと思います。アレサのボーカリストとしてのすごさをあらためて痛感した作品でした。

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