思ったより骨太感もある入門書
今回は最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。
「世界一おもしろい現代ヒップホップ入門」。YouTuberとして活躍しているEJによるHIP HOP入門書。HIP HOPの歴史、HIP HOPとはどういうジャンルなのか、概説的に取り上げられている書籍で、「世界一おもしろい」というタイトル通り、非常にわかりやすそうな内容であったため、読んでみました。本書は序章含めて5つのチャプターに分かれており、Chapter0では、まずHIP HOPがどのような音楽なのか、Chapter1,2では本場アメリカでのHIP HOPの歴史、Chapter3では日本でのHIP HOPの紹介、Chapter4ではHIP HOPにおけるライフスタイルについて紹介、解説しています。
まず、予想以上に面白く、勉強になったのがChapter1,2の本場アメリカでのHIP HOPの歴史に関する項目。基本的にアメリカにおけるHIP HOP誕生に関するストーリーから、その後の展開、ギャングスターラップの登場や、HIP HOPの歴史で欠かせないビーフに関する事項、さらにはその結果の悲劇として生じた2パックとノートリアルB.I.G.の悲劇、さらには最後は、直近でHIP HOPに関するニュースとして大きな話題となったケンドリック・ラマーとDrakeのビーフに至るまで、HIP HOPの歴史について追いかけています。
HIP HOPの歴史を語るには、それなりにボリューム感が必要かと思うのですが、本書では2章でまとめているためザックリとしたまとめになっています。ただ、キーになる部分は抑えているため、いままでのHIP HOPの流れはしっかりとつかめる内容になっており、特に初心者にとっては、むしろわかりやすい感じがします。それよりも本書で感心したのは、これだけ概括的な内容でありながらも、HIP HOPの背景となるアメリカにおける社会問題、特に黒人差別がどうHIP HOPカルチャーに結び付いたのか、というのをしっかりと記載されている点でした。
いままでのHIP HOPの歴史に関して何冊か読んだことがあり、ここでも取り上げたことがあります。例えば「ライムスター宇多丸の『ラップ史』入門」や、HIP HOP入門書として話題となった名著「文科系のためのヒップホップ入門」がそれです。それらの書籍にもHIP HOPをめぐる社会的問題とのリンクも記載はされていましたが、そこまで詳しくはなく。本書に関しては、入門書という限られたボリュームの中で、社会問題とのつながりについてしっかりと記載があり、今回あらためて勉強となったと共に、思ったよりも骨太感があり、また、著者のHIP HOPに関するしっかりとした視点を感じることが出来た記載になっていました。
一方、物足りなさを感じたのがChapter3の日本のHIP HOPの紹介について。こちらもかなりザックリとした紹介なのですが、どうも著者自体が、日本のHIP HOPのうち、例えばスチャダラパーやRIP SLYMEのような、ポップ系、文科系的なHIP HOPをどうも評価していないように感じられ、そちら方向のグループの取扱いが非常に低く感じます。特にKICK THE CAN CREWなどはほぼ無視されているほか、なんといってもさすがにRhymesterを取り上げておらず、それはちょっと手落ち感がありすぎないか?という感じもします。
ここらへんにつながるのがChapter4での記載で、「HIP HOPに大切なのはリアルであること」という論説が述べられています。このこと自体はもちろんHIP HOPの基本中の基本な理解ですが、一方では日本のHIP HOPの中で、例えばAnarchyやBAD HOPのような「下流社会」についてラップしたグループを「リアル」として、スチャダラパーやRIP SLYMEのようなグループを「リアルじゃない」とするのにはかなり違和感があります(本書では「リアルじゃない」とまで直接述べている訳ではありませんが)。特に日本においては、アメリカの黒人差別ような社会問題は大きくは生じていない訳で、その中で、下流社会についてラップすればリアルというのは、ちょっと理解として単純すぎるようにも感じました。
全体としてザックリな紹介であり、また日本のHIP HOPの記載に関しては疑問を感じるような部分もありつつも、一方ではこれだけのザックリとした入門書でありつつも骨太な記載も目立ち、特に本場アメリカのHIP HOPに関しては、入門者の最初の1冊としてはかなりお勧めできる入門書だと思います。ただ、実際に曲を聴いてみようとした入門者に対して紹介されているのがアルバムではなくプレイリストで楽曲単位であるのは、今の時代だからなのか・・・とも思ってしまうのですが、その点を差し引いても、入門書として最適な1冊。HIP HOP、特に本場アメリカのHIP HOPについていろいろと知りたいと思っている方にはお勧めの1冊です。

















最近のコメント