オルタナ精神、いまだ衰えず
Title:PLAY ME
Musician:Kim Gordon
80年代以降のアメリカ・インディーロックシーンを代表するロックバンド、SONIC YOUTH。現在、活動休止中のこのバンドでベースとボーカルを担当していたのが彼女、キム・ゴードン。いわば「レジェンド」とも言っていい存在ですが、そんな彼女も現在72歳。失礼ながら「おばあちゃん」とも言っていい年齢ですが、積極的に活動を続けています。本作は、そんな彼女のキム・ゴードン単独名義ではソロ3作目となるアルバムです。
そんなまさに大ベテランのレジェンドである彼女ですが、このアルバムで一番驚くべき内容は、現在のサウンドを積極的に取り入れた、実に挑戦的なアルバムになっているという点でしょう。タイトルチューンである「PLAY ME」から、いきなりブーンバップ風のHIP HOPなトラックからスタート。彼女のボーカルはラップというよりもポエトリーリーディングに近いものですが、ポストロック的な嗜好もある、今風のビートミュージックとなっています。
ほかにも1分30秒程度の短いナンバーながらも「BLACK OUT」はトラップを取り入れたような今風なHIP HOPの曲調となっていますし、同じく「SQUARE JAW」もトラップ的なサウンドのHIP HOP風な曲。最後を飾る「BYEBYE25!」に至っては、インダストリアル的な要素を入れた不穏なビートを前面に押し出したサウンドと彼女のラップ的なボーカルで、アンダーグラウンドHIP HOPの1曲、と言われても全く違和感のない作品に仕上がっています。
全体的に非常に今時な、ビートミュージックに沿った作風になっている今回のアルバム。前作も今風のサウンドを取り入れてHIP HOP寄りになった作風でしたが、今回はその方向性がより強くあらわれた作品になっていました。これを演じるのが彼女の年齢が72歳ということを考えると、新しいものを取り入れようとする好奇心や柔軟さに驚かされます。職業柄、様々な世代の方とお会いすることが多いのですが、周りに素直に耳を傾けて、新しいものを積極的に取り入れようとする方は、大体40代まで。50代以降、特に成功された方は、やはり自分の成功体験からか、新しいもの積極的に取り入れるのに抵抗感を覚える方がほとんどです。そんな中、先日もAIを取り入れたユーミンのアルバムを紹介しましたが、やはり才能があり、なおかつ現在も現役で活動する方というのは、年齢に関係なく好奇心旺盛で、新しいものでも否定することなく取り入れていくんだな、ということを実感します。また同時に、私も50代を間近に控えて、新しい事業にも柔軟に対応していきたい、と自戒させられました。
また、「SUBCON」のようなインダストリアル的な作風も目立ちのも特徴的。「NOT TODAY」のようなメロディアスなギターロックナンバーもあり、ソニックユース時代からのリスナーにとってもここらへんは聴きやすいかもしれません。全体を通じてのゴツゴツとした感じのサウンドメイキングはソニックユースに通じるものも感じます。ソニックユースをリアルタイムで聴いていたようなリスナー層にとって、彼女の今奏でる音楽は戸惑うかもしれませんが、ソニックユースが80年代に奏でていたようなオルタナティブな立ち位置にいるミュージシャンたちが今、奏でている音楽はこのような「音」なのかもしれません。そういう意味でも彼女のオルタナ精神がいまだに衰えていないことを強く感じます。
さらに、彼女の衰えないオルタナ精神を感じさせる点として、本作の歌詞も上げられるでしょう。本作ではかなりストレートな社会派な歌詞が目立ちます。「DIRTY TECH」は、タイトル通り、GAFAMのような巨大なテックカンパニーを強烈に皮肉っているような曲ですし、「POST EMPIRE」という、現在をあらたな帝国主義になぞらえるような曲もあります。そして一番インパクトが大きいのは最後の「BYEBYE25!」で、"Immigrants"(移民)、"Diversity"(多様性)、"Transgender"(トランスジェンダー)など、トランプ政権下でタブーとされている「単語」をただ羅列していく歌詞。そして最後に"Bye-bye Bye-bye"と締めくくられており、現代社会に対する強烈な皮肉となっています。前述の通りのアンダーグラウンドHIP HOP的な不穏なトラックにのって、彼女はただ淡々と語るのみ、というボーカルスタイルも実に不気味なナンバー。強烈なインパクトを残しての締めくくりとなっています。
かなりストレートな社会派的な歌詞は賛否もあるようですが、今の時代、ここまで言わざるを得ないという彼女の力強い意思も感じられます。サウンドの面からも歌詞の面からも、72歳、全く衰えない現役オルタナミュージシャン、キム・ゴードンの力強さを感じさせる傑作。ある意味、この時代を反映された作品という意味でも、今年を代表する1枚と言えるかもしません。オルタナ精神、いまだ衰えず。そう実感させられる作品でした。
評価:★★★★★
Kim Gordon 過去の作品
The Collective
ほかに聴いたアルバム
BIG MAMA/Flying Lotus
Flyign Lotusの新作は、7曲入り13分というかなり短いEP盤。ちょっと意外なことに、自身のレーベル、Brainfeederから初のリリースとなる作品だそうです。短い作品ではあるものの、様々なアイディアが詰め込まれた実験的な作風が特徴的。かつ、ゲーム音楽のサントラ的と評されるように、リスナー的にはゲーム音楽っぽさを感じる作風となっており、そのため、実験的な作風でありつつも非常にポップで耳なじみやすく聴きやすい作品となっていました。この遊び心あふれる実験音楽精神は彼らしさを感じますし、初心者が聴くにはピッタリの作品かと。もちろん、熱心なファンにとってもうれしい新作です。
評価:★★★★★
Flying Lotus 過去の作品
Cosmogramma
PATTERN+GRID WORLD
UNTIL THE QUIET COMES
Flamagra
YASUKE
| 固定リンク
「アルバムレビュー(洋楽)2026年」カテゴリの記事
- 大人のシンガーソングライターへの脱皮(2026.06.01)
- ポピュラリティーと実験性のバランスが絶妙(2026.05.26)


コメント
〈Post Empire〉と〈Nail Biter〉は同じ曲みたいな?
〈ByeBye25!〉は《The Collective》(2024)に収録された〈ByeBye〉のリメイクで、
「トランプが事実上禁止している言葉が全て掲載されているサイトから、歌詞を借用することを思いついた」 という。
太腿ペインティング 「PLAY ME」 を描いたのは愛娘ココ(Coco Gordon Moore)。
見開き紙ジャケ仕様、4つ折りポスター・カード付き。
先着購入特典はクリアファイル(A4)、ロゴ・ステッカー、Zine(A5・8P)でした。
投稿: sknys | 2026年5月28日 (木) 19時41分