音楽史を深堀り
今回は最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。
「名曲のたくらみ 音楽史から解き明かす10章」。朝日新書から出版された1冊で、京都出身、愛知県立芸術大学で声楽を学び、現在はロンドン大学ゴールドスミス校音楽学部準教授として、音楽史概説などの講義を担当している松本直美による著書となります。
この曲は、タイトル通り、主にクラシック音楽の名曲を取り上げて、その曲にまつわる背景について様々に物語っている1冊となります。紹介されている名曲は、誰もが知っているヴィヴァルディの「四季」からはじまり、ショパン、バッハ、ベートーヴェン、モーツアルトなどといった超有名な作曲家勢から、知名度は高いものの、「通」の間では「名曲」に「」書きがつくような「乙女の祈り」、さらに最後にはあのQueenの名曲「ボヘミアンラプソディ」まで名前を連ねています。
まずこの各曲の「物語」について、かなりおもしろく、興味深く読むことが出来ました。この手のクラシック音楽の「エピソード集」というのは、「クラシック入門」的な書籍でよくありがちです。ただ、大抵は曲にまつわるエピソードや、作曲家のエピソードなどについて、ありきたりな逸話集的に軽く載せる程度で終了してしまうケースがほとんどです。ただ、本書に関しては、その曲に関するエピソードを、音楽史にからめてしっかりと深堀りされています。例えばバッハの「トッカータとフーガ ニ短調 BWV565」では、クラシックにまつわる真作と贋作のエピソードが、音楽史にからめて語られていますし、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの「おお、貴方の教会」では、クラシック音楽と女性作曲家にまつわる話を、こちらも音楽史にからめて語られています。単純なエピソード集ではなく、その曲を通じて音楽史がしっかりと語られており、曲そのものに加えて、それにまつわる多面的な側面が切り取られており、非常に興味深く読み進めることが出来ました。
また、この著書で興味深く感じられるのが、まずクラシックとポピュラーミュージックとのかかわりが随所で語られる、という点でした。ヴィヴァルディの「四季」の項目では、ディープパープルの「ハイウェイ・スター」がバロック音楽からの影響を受けている点を指摘したり、前述の通り、最後の章ではQueenの「ボヘミアンラプソディ」を取り上げたりと、著者自身がポピュラーミュージックにもそれなりに造詣が深いようで、本書の中ではポピュラーミュージックについても語られています。ここらへん、特にポップス系の音楽評論家は、概してクラシックへほとんど造詣がないため、ポップスとクラシックとの関わりについてほとんど語られることがないために、本書で語られるポップスとクラシックとの関わりについては非常に新鮮で、興味深く読むことが出来ました。
さらに本書で魅力的なのは楽曲の音楽的な側面の分析と、エピソード的な話が、ほどよいバランスで取り上げられているという点でした。前述のような「クラシック入門」的な書籍では、正直、クラシック初心者に対するエピソードに終始されており、音楽的な側面を語られることがほとんどありません。逆に、もうちょっと専門的な書籍となると、クラシックの音楽的な部分が詳しく記載されているものの、素人にはどうにも理解しずらい部分が少なくありません。本書ではその両者がバランスよく書かれており、初心者から、ある程度「音楽的な知識」があるような層まで楽しめるような構成になっていました。
そんな訳で、よくありがちな入門書的なクラシック音楽のエピソード集とはちょっと異なる、より音楽史の観点から深堀して、クラシック音楽を楽しめる1冊になっています。「ボヘミアンラプソディ」が取り上げられている通り、ポピュラーミュージックが専門のリスナーでも興味深く読むことが出来る1冊ではないでしょうか。かなり興味深い記述の連続に、グイグイと読み進めることが出来た1冊。クラシック音楽の様々な歴史を知ることが出来、より音楽への興味が深まりました。
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