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2026年3月 7日 (土)

懐かしい90年代J-POPシーン

今日は最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。

今回紹介するのは、ラジオ構成作家やDJとしても活躍しているミラッキこと大村綾人によるJ-POPの評論本「90年代J-POP なぜあの名曲は『2位』だったのか」。タイトル通り、オリコンチャートで最高位2位だった50曲を紹介。その背景から時代性や音楽性を読み解くという評論本となっています。ここで紹介されている90年代というのは(ここでも何度か言及していますが)私にとってもちょうど中学生から大学生にあたる時期で、もっともヒットシーンの曲を聴きまくり、想い出のある頃。そんな時期の曲をどのように分析しているのか、興味を惹かれて読んでみました。

ただ、ちょっと残念なのは、この本、厳密には詳細なチャート分析の本ではありません。確かに、最高位2位というのは、単なる「運」による要素も強く、ここで取り上げられている曲が最高位2位だったのはやはり偶然という要素が強くなってしまいます。そういう意味で、著者はJ-POP評のとっかかりとして「最高位2位」という事象を使ったのでしょう。

もっとも一方、90年代に最高位2位というのは意味もあります。80年代までヒット曲というのは音楽番組や口コミを通じて、徐々に順位をあげてヒットする、という形態が多かったのに対して、90年代に入ると、ドラマタイアップなどで耳になじませつつ、販売日にあわせた音楽番組への出演やCMなどによる大量の露出により、大量の広告宣伝費を投入し、初動売上に絞った販売戦略が一般的となります。この方式が最終的には「握手券商法」やAKB48の「投票券商法」につながり、オリコンチャートの信頼性の失墜へとつながる訳。

そうすると、初登場で2位に終わるというのは、初動売上に頼れないような、例えばアイドル性が低いミュージシャンのヒット曲や、口コミにより徐々にチャートをあげていった曲、あるいは1位を目指しながら思わぬ伏兵で1位を獲得できなかった曲というようにパターンが出てきます。そういうったことを前提にチャート分析するのもおもしろかったとは思うのですが・・・まあ、あくまでもJ-POP評が主眼ということなのでしょう。

さて、そんなJ-POP評ですが、非常によく分析されており、興味深い記述も多くみられ、私もはじめて知ったような事実も少なくなかった反面、もうちょっと突っ込んでほしかったなぁ、と思うような分析もあり、ムラが見られてしまったのはちょっと残念に感じました。

例えば楽曲の制作過程や背景についてのエピソードを、過去の雑誌記事やXなどのコメントから丹念に拾ってきており、丁寧な記事づくりをしている印象を受けます。個人的にはELTが「ジェネリックZARD」と表現されていたのははじめて知りましたし、SHAZNAのブレイク後の苦労談などもはじめてしった事実でした。ここらへん、当事者本人のコメントなどを丁寧にひろいあげており、納得感のある分析が行われているように感じました。

しかし一方で、もうちょっと突っ込んでほしかったかも、と思うような記事もあり、例えば川本真琴の「1/2」の分析では、岡村靖幸プロデュースのデビュー曲「愛の才能」について触れられているのですが、岡村靖幸について著者はほとんど思い入れがないようで、名前だけ出してほとんどスルーされています。また、大滝詠一の「幸せな結末」については、このヒットの時に著者は既に大滝詠一を聴いていた、という自慢話のようなエピソードが入っているのですが、肝心の大滝詠一の音楽性についてはほとんど掘り下げられていません。この点も少々残念に感じました。

また、これは仕方ないことかもしれませんが、やはりこの段階の年齢や立ち位置により、同じシーンでも感じ方が違う場合があり、その点は、「なるほど」と感じる部分もありつつも「そうか?」と思う部分もチラホラ。特に音楽シーンの動向をまとめた途中のコラムでは、そのようなことを思うような点も少なくなく、例えば小室系の失速の理由について、安室奈美恵の活動休止を挙げており、これについては「なるほど」と思う反面、小室系が一気に失速した1998年頃には、彼のR&Bやクラブミュージックの趣味性を押し出したような曲が目立つようになり、かつ単純に小室系のメロディーが飽きられた、という要素が強いのではないかとも感じます。

ここらへん、どうしても年齢的なものや当時聴いていた音楽、シーンへの思い入れの違いなどで、感じ方が違ってしまうのは仕方ないのですが、この点、もうちょっと自説を補強するような当時の雑誌記事や関係者のコメントなどがあれば納得感が出ていたのかな、という感じがします。その点は惜しかったようにも思います。

ただし、1点だけ疑問に感じた記述として、浜崎あゆみの「appears」の音楽評の中で、30万枚限定シングルため、1位の宇多田ヒカルの「Addicted To You」に次ぐ2位に終わったのですが、これに関して「上下をつけないことで、音楽界全体の盛り上がり、嗜好の多様性を消さなかった」と評しているのですが、この後、2001年に宇多田ヒカルの「Distance」に浜崎あゆみのベストアルバム「A BEST」を同一発売日にぶつけてきたんだから、それはないだろう、と思ってしまいます。そもそもアルバム同時発売のシングルなので、宇多田ヒカルとどちらが上下か、なんて意識は、スタッフになかったと思うのですが・・・。

そんな訳で、非常に興味深い分析も多くみられた反面、ちょっと分析が浅いように感じたり、「そうか?」と思うような記述も少なくなかった1冊になっていました。ただ、全体的に、疑問に感じた浜崎あゆみの1点を除き「大外し」はないと思うので、90年代のJ-POPを後追いで聴こうという方には参考にある1冊かと思います。また、リアルタイムにこれらの曲を聴いていた世代には、「なるほど、そうだったのか」「そうそう、そうだった!」と懐かしく感じつつ、「そうだっけ?」と所々で突っ込みを入れながら読むのも楽しいかも。マニアックなチャート分析を期待すると、ちょっと期待外れかもしれませんが、懐かしいあの頃のJ-POPを追体験するのは、読んで損のない1冊かと思います。

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