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2026年2月10日 (火)

この悲しくも美しい世界で

Title:Sad and Beautiful World
Musician:Mavis Staples

現在、御年86歳(!)。1950年代からザ・ステイプル・シンガーズの一員として活動を続け、最近でも比較的コンスタントにアルバムをリリースし続けるという、年齢を感じさせない驚異的な活動を続けるメイヴィス・ステイプルズ。2019年にアルバム「We Get By」をリリース後、2022年にリリースした「Carry Me Home」は2011年に録音した作品をリリースしたものと、さすがにここに来て活動ペースが・・・と思いきや、約6年ぶりとなるニューアルバムをリリースしてきました。それでも、86歳という年齢ながらも、ボーカリストとして衰えを全く感じさせない作品となっており、その精力的な活動ぶりにあらためて驚かされる作品となっています。

今回のアルバムは基本的に過去の楽曲のカバーがメイン。本作書下ろしによる新曲は1曲のみとなっています。まず冒頭を飾るのがトム・ウェイツの「Chicago」のカバー。ギターサウンドを前面に押し出しつつ、ホーンセッションも入ったロッキンなナンバーに。迫力ある演奏をバックに、しっかりロックしている力強いメイヴィスのボーカルに、まずは驚かされます。

続く2曲「Beautiful Strangers」はグッと雰囲気が変わって、ムーディーに聴かせる楽曲。こちらも年齢を感じさせない色っぽさも感じるボーカルに、逆に年を経たからこそ感じられる絶妙な感情がこもったカバーに。ちなみにこの曲、日本ではあまり知られていませんが、Kevin Morbyというテキサス出身のシンガーソングライターによる2020年の楽曲で、最近の曲もカバーとして積極的に取り入れている彼女の方針にも若々しさを感じます。

さらにタイトルチューンでもある「Sad and Beautiful World」は、こちらはスパークルホースというオルタナ系ロックバンドによる1995年の楽曲。こちらもタイトル通り、悲しさと美しさが共存した叙情的な作風が特徴的。そんな機微のある曲調をしっかりと歌い上げている点に、彼女のボーカリストとしての実力を感じさせます。

カバーのセレクトとして印象的だったのが中盤の「Godspeed」で、この曲はなんとフランク・オーシャンの楽曲のカバー。静かなホーンセッションも入り、厳かな雰囲気も感じさせる楽曲を力強く歌い上げています。また、「We Got to Have Peace」もカーティス・メイフィールドによる反戦歌のカバー。祈るような気持ちで歌い上げているボーカルが心に響き、特に今の時代だからこそ、胸にグッとくるような作品になっています。

後半のレナード・コーエンの「Anthem」のカバーも印象的。ピアノとギターの音色をバックに泣きメロを感情たっぷりに聴かせてくれます。続くフォークのスタンダードナンバー「Satisfies Mind」も同じく、感情たっぷりに泣きメロを歌い上げる彼女のボーカルが心に響きます。そして、しんみり聴かせる2曲に続くラストナンバーはソウルフルな「Everybody Needs Love」。まさに「愛」の大切さを歌い上げるナンバーで、アルバムを締めくくるにピッタリな楽曲となっています。

アルバムはタイトル通り、「悲しくも美しいこの世界」というコンセプトに従った、悲しい現実とその中での希望を歌ったような曲が多く、まさに長く生きてきた彼女の、この世界に対する実感が込められたような内容となっています。そんな曲を歌い上げる彼女のボーカルは、年齢を感じさせない迫力と艶がある一方、年齢を経たからこそ歌うことが出来るような感情の機微をしっかりと歌い込んだボーカルが実に魅力的。まさに彼女しか歌うことが出来ない珠玉の1枚となっていました。ここに来て、これだけのアルバムを作れるということに驚嘆させられますが・・・まだまだ彼女の活躍は続きそうです。

評価:★★★★★

Mavis Staples 過去の作品
One True Vine
If All I Was Was Black
Live In London
We Get By
Carry Me Home(Mavis Staples&Levon Helm)


ほかに聴いたアルバム

WINGS/Paul McCartney&WINGS

かのポール・マッカートニーが、ビートルズ解散後の1971年に結成し、その後約10年間活動を続けたバンドWINGS。「JET」「007 死ぬのはやつらだ」など、数多くのヒット曲を世に送り出したバンドですが、今回、ポール自らが選曲した、2枚組のベスト盤がリリースされました。そんなWINGSの曲を今回、まとめて聴いたのははじめてなのですが、ビートルズに続き、様々な音楽性を取り込もうとする意欲的な作風と、同時に、その実験性を上回るポップスであることを追求しようとするポールのスタンス、さらにはそんな天性のメロディーメイカー、ポールが生み出したポップソングの数々が楽しめるアルバム。ビートルズ解散後も全く衰えることのなかったポールの魅力を満喫できるベストアルバムでした。

評価:★★★★★

PAUL McCARTNEY 過去の作品
Good Evening New York City
NEW
Egypt Station
McCartneyIII
McCartney III Imagined
One Hand Clapping(Paum McCartney&Wings)

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