独特なセレクションにジャズの「奥深さ」を感じる
今回は、最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。
「20世紀ジャズ名盤100」。音楽評論家で、自らもサックス奏者としても活躍する大谷能生による著作。以前紹介した「日本語ラップ名盤100」や「ヒップホップ名盤100」と同じシリーズの1冊となります。
本書は21世紀から見た20世紀の100年間のジャズを振り替えるというコンセプトで選ばれた100枚のアルバム。まず、この100枚ですが、非常にユニークなセレクトになっています。この手のジャズの名盤を紹介する本は数多く出ていますが、おそらく、そこで選ばれているアルバムと、本書で紹介されているアルバムは大きく異なります。もちろん、チャーリー・パーカーやマイリス・デイビス、ビル・エバンスやソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーンなど、おなじみのレジェンドたちもしっかりとフォローされています(ただ、そこで紹介されているアルバムは、「名盤ガイド」で紹介されそうなアルバムとちょっとずれていたりもします)。しかし、それ以上に、この手の名盤ガイドであまりピックアップされないような、というか、ジャズ初心者である私にとっては、名前を完全にはじめて聴くようなミュージシャンたちが数多く取り上げられています。
そんなミュージシャンたちが取り上げられている背景として、大谷能生がセレクトするジャズの基準が、ちょっと独特という点があります。まず本書の第1章「ポップスの古層としてのジャズ」では、戦前において、「ジャズ」という音楽がアメリカンポップの代名詞的に用いられていた時代を踏まえた上での「ジャズ」が紹介されています。そのため、一般的に今となっては「ジャズ」というジャンルからちょっと外れそうなミュージシャンも紹介されています。例えばベッシー・スミスやルイ・ジョーダンが紹介されていますが、おそらくこれらのミュージシャンは、今ではジャズではなくブルースの枠組みで紹介されることが多いと思います。ただ、今ではブルースと分化されたジャンルを含めて、当時は「ジャズ」とひとまとまりとなっていた音楽をひとくくりにすることにより、戦前の黒人ポップスの幅広さ、奥深さを浮き上がらせようとしている点が、本書の大きな特徴となっています。
もうひとつの要素が、2章以降で見受けられる、「先駆的、実験的な音楽としてのジャズ」という基準でした。正直、ここで取り上げられているアルバムのほとんどが、私が聴いたことないアルバムばかり。そのため、詳しいことはわかりませんが、解説文を読む限り、結構、フリージャズのミュージシャンが多く取り上げられていたような印象を受けます。フリージャズというジャンルは、今でも賛否あるジャンルであり、そのわかりにくさもあって、この手の「ジャズ名盤」的なアルバムではさほど取り上げられない印象も受けます。ただ、本書ではそんな実験的なジャズも多く取り上げられているような印象を受けます。その結果としておそらく著者としては、ともすれば現在、「大人のムーディーな音楽」と捉えられがちなジャズというジャンルが、実は非常に挑戦的、先駆的なジャンルであるという点を強調しようとしているように感じました。
結果として、この手の名盤ガイドは通常、初心者向けであるケースが多いのですが、正直本書に関しては、決して初心者向けではありません。むしろ、完全にジャズの初心者が、最初に聴くアルバムの参考として本書を選ぶと、若干、困惑しそうな印象も受けます。ある程度、一般的に言われるようなジャズの名盤を一通り聴いた後に、ジャズの他の側面を知るためにチェックすべき次の100枚、そんな印象を受ける1冊でした。
ただ一方で、初心者向けではない1冊ですが、文体については比較的読みやすく、ある程度固有名詞が多く登場してくる点、途中ひっかかる部分はあるものの、ジャズの初心者でも読みやすい内容になっていたように感じます。ここらへんは著者の文才による部分が大きいようにも感じるのですが・・・。
ちなみに本書のもうひとつ大きな特徴として、日本のジャズミュージシャンが多く取り上げられている点があります。戦前はあきれたぼういずという、今となってはあまりジャズというジャンルで取り上げられなさそうなヴォードヴィルグループが取り上げられていますし、戦後も阿部薫や山下洋輔など、日本のジャズシーンを代表するミュージシャンなれど、洋楽メインの名盤ガイドではあまり取り上げられないミュージシャンたちも多く取り上げられています。日本のジャズを紹介する名盤ガイドは正直少ない印象も受けるため、この点はちょうどよい名盤ガイドと言えるかもしれません。
かなり独特なセレクションで、この手の名盤ガイドに飛びつきそうな初心者にとっては必ずしもお勧めできる1冊ではないかもしれませんが、通常の名盤ガイドとはまた異なるジャズの側面を垣間見ることの出来る100枚で、一言で「ジャズ」という名前で括られても、その音楽性には非常に幅広いものがあるというジャズの奥深さを感じられる名盤ガイドになっていました。私も正直、ジャズに関してはあまり詳しくないので、この名盤をもとにいろいろ聴いていこうかどうかはちょっと躊躇するのですが・・・それでもまだ知らない「ジャズ」の奥深さを感じる、非常に興味深い1冊でした。
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