最後の3年間を描く
今回は、先日見てきた映画の感想です。
「Ryuichi Sakamoto:Diaries」。2023年に71歳で逝去した坂本龍一の、最後の3年半を、彼が書いた日記を軸として追ったドキュメンタリー。もともとNHKのドキュメンタリーとして放送した内容に、新たに音楽や映像を加えて再構築したものだそうです。がん告知で余命宣告を受けた2020年から映画はスタートし、最後は逝去の2日前の映像まで公開され、その3年半、坂本龍一本人の映像や言葉、関係者へのインタビュー、さらには坂本龍一の音楽で、映画はすすんでいきます。
この映画で感じたのは、この3年半という最後の月日の中で、坂本龍一は2つの顔を見せていたように感じました。ひとつは天才音楽家として、自身の最期に向かう姿。この時期の坂本龍一は、最後に研ぎ澄まされた「音」の世界に興味があったようで、最後まで様々な音の世界を追求し、映画の中でも「雲の音楽を作りたい」と語っていたように、この世界に流れている音の本質的な部分を探っていたように感じます。また、手術の後、雨の音に癒されたり、最期の時まで、鈴などが奏でる美しい音色をめでていたようで、最期まで音へのこだわりを感じさせました。
そしてもうひとつ見せていたのは、ひとりの人間として、死に直面した坂本龍一の姿。余命宣告のことを「死刑宣告」と絶望的に日記に綴ったり、「あえて言霊を信じてみる」と書き「ナオル 治る」と日記に綴ったり、死の恐怖と戦いながら、残された短い時に向かい続けるひとりの男性の姿が描かれていました。
個人的に、アラフィフとなり「死」について考えることが増えてきました。特にそのきっかけとなったのは、昨年2月の義母の逝去。彼女も約2年間のがんの闘病の末での死だったのですが、74歳という、大往生とは言えないものの、決して「早すぎる」といった感じでもない彼女の「死」を迎えた時に、親の世代が亡くなり、次は自分たちの世代の番だ・・・という気持ちが沸き起こってきてしまいました(自分の実母はまだまだ元気ですが)。また、ここ数年、やはり身体に「不調」を感じる機会が増え、死につながるような体調不良はないのですが、身体が自分の魂の乗り物だと解釈した時、この「乗り物」も徐々にガタが来始めているな、とも感じ、年齢的にまだちょっと先のこととはいえ、「死」について意識する機会が増えてきました。
そんな中で、この映画では、やはりその死に立ち向かう坂本龍一の姿に、非常に興味が湧いたと共に、もし自分が同じ境遇に陥ったら・・・という思いを感じつつ、映画を鑑賞していました。映画の中で、自分の余命宣告を前に決して取り乱した姿は見せておらず、淡々と受け入れたようにも感じます。ただ一方、日記の端々や映画の映像からは、死に対する恐怖や長く生きられないことへの無念を感じさせる部分も少なくなく、自分がその立場だったらどうなるだろうか、そんなことを考えながら見入っていました(ただ、この時期に連載されていたエッセイ「ぼくは、あと何回満月を見るだろう」では術後妄想に悩まされた話もあるので、取り乱したような姿はあえて映画では省略したのでしょうが)。
また一方、映画で興味深く見ることが出来たのはもうひとつの側面、天才音楽家坂本龍一の姿。映画の冒頭、ニューヨークの自宅の庭にピアノを放置し、ピアノがどのように朽ち、自然に帰るのかを観察する実験を行う姿が映し出されます。この実験自体、彼のがんとは直接関係ないのですが、奇しくも、ピアノの朽ちる姿と、坂本龍一の姿が同一視されるような形になっています。ただ、映画後半に出てくる、自然に帰ろうとする朽ちたピアノの姿は、どこか美しさも感じられ、それが死に向かう坂本龍一の姿と、美しいシンメトリーを奏でているようにも感じました。
また、最後は、単なる音や、「雲の音楽」といった、自然の奏でる波長に興味を抱く姿も、ここらへんの興味についても、他の著書によるとがん告知の前から興味が向いていたようですが、音楽家としてある程度の到達点まで達したようにも感じます。一方では、10年後まで音楽を作りたい、と劇中語っていたように、最後まで音楽に対する意欲は失っておらず、最後の最後まで音楽家として生きる彼の姿に感銘も受けました。
最期に、息子からの質問に対して「楽しい人生だった・・・」「死に対して、もう恐怖はない」と語っていたというのも印象的。最期にすべてを受け入れて、そして人生を満足して旅立っていった姿にも、思わず胸が熱くなるのと同時に、第三者から見て、いい人生だったんだなぁ、とも感じました。自分は最期、ああいう風に旅立てるのだろうか、そんなことも感じてしまうラストでした。
そんな訳で、天才音楽家坂本龍一の最期としても、ひとりの71歳の人間、坂本龍一の最期としても、いろいろと感銘を受け、また考えさせられる部分も多いドキュメンタリーでした。ちょっと早い最期だったかもしれませんが、ただ一方、10年後の彼の音楽を聴いてみたかった反面、いろいろな意味でやり切った感もあるのかな、とも感じました。最期に向かう人間のドキュメンタリーとしても興味深い映画。坂本龍一に少しでも興味がある方ならお勧めしたい1本です。
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