彼女のルーツを巡るダンスアルバム
Title:Black Star
Musician:Amaarae
本作が3作目となるガーナ系アメリカ人ミュージシャン、Amaaraeのニューアルバム。今回のアルバムタイトル「Black Star」には3つの意味が込められているそうで、まずは彼女のルーツであるガーナ、自己意識、そしてダンスミュージックのルーツが黒人であることを示しているそうです。まずこのアルバムジャケット、これはガーナの国旗をモチーフとしており、ガーナの国旗は赤、黄色、緑の3色の帯の真ん中に黒い星のマークがついているのですが、今回、その黒い星の部分に彼女自身が座っているデザイン。まさに彼女のルーツ、ガーナをダイレクトにあらわしているといっていいでしょう。
まさにそんなテーマ性のあるアルバムだけに、トライバルなリズムが目立つ、強いエレクトロビートを主体としたダンスアルバムとなった本作。トライバルなビートで力強く聴かせるバイレ・ファンクの影響を色濃く受けた「Stuck Up」からスタートし、軽快でトライバルなエレクトロビートにラップのリズムが印象的な「Starkilla」、さらには中盤の「Girlie-Pop!」や「S.M.O.」などは、ガーナの伝統的な音楽、ハイライフやアフロビートなどの影響も感じられ、アルバムのテーマである、彼女のルーツであるガーナ、あるいはダンスミュージックのルーツが黒人音楽であるという彼女の主張が、強く感じられる構成となっています。
そんなテーマ性のある内容だけに、ここまでの感想を読んで、ともすれば取っつきにくいという印象を受けた方もいるかもしれませんが・・・むしろ逆。全体的にかなりポップで聴きやすい内容のアルバムに仕上がっていました。
前に書いた通り、全体的にエレクトロサウンドで強いビートで聴かせるリズミカルなダンスアルバム。そこにメロディアスな歌や、ラップ気味のボーカルが載るスタイル。前半は特にトライバルなビートで高揚感を感じさせるダンスチューンが目立ち、一方、後半には「Fineshyt」のようなトランスを取り入れたナンバーや、EDM的な「FREE THE YOUTH」と疾走感のあるダンスチューンで、リスナーを楽しませます。
多彩なゲスト陣もアルバムに彩りを加えており、「Kiss Me Thru The Phone pt2」ではPinkPantheressが参加し、ハイパーポップ風のアレンジで、メロウな歌を聴かせるミディアムチューンのポップ。チャーリー・・ウィルソンが参加した「Dream Scenario」ではタイトル通りにドリーミーにスタート。終盤では、チャーリーによるソウルフルなボーカルを聴かせてくれる展開もユニークな楽曲に仕上がっています。
何よりも彼女自身の歌声がキュートで非常に魅力的。トライバルなビートとは対照的ですらある彼女の、垢ぬけたとも表現できる清涼感あるキュートなボーカルが楽曲にインパクトを与え、そしていい意味での聴きやすさによって楽曲のポピュラリティーを増すことによる結果を生み出しています。
楽曲のタイプ的にはちょっと異なるかもしれませんが、個人的には、ラップ気味のリズミカルな歌とエレクトロのビート、そしてキュートな女性ボーカル、さらにはどこか感じるコミカルさという点で、水曜日のカンパネラを彷彿とさせる部分も・・・。ただ、ポップで聴きやすいダンスミュージックという点では間違いなく、水カンと通じる部分はありますし、いい意味で広いリスナー層が楽しめるポップなダンスアルバムだと思います。
そのテーマ性もさることながら、バラエティー富んだ挑戦的なサウンド、さらにはポピュラリティーを含めて、今年のベスト盤候補と言える傑作だったと思います。アフリカ系の音楽が好きな方はもちろん、ダンスミュージックが好きなら文句なしにお勧めのアルバムです。
評価:★★★★★
Amaarae 過去の作品
THE ANGEL YOU DON'T KNOW
Fountain Baby
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