裸のラリーズのコアな部分を感じる
Title:拾得 Jittoku ‘76
Musician:裸のラリーズ
ここ最近、次々と過去のライブ音源がリリースされ、その全貌があきらかにされつつある裸のラリーズ。ただ、水谷孝逝去後にリリースされた一連の音源はいずれも80年代、90年代の音源だったのですが、ここに来て、1976年の音源がリリースされました。本作は1976年7月30日に京都のライブハウス、拾得で行われたライブの模様を収録された音源。以前、1977年のライブ音源はリリースされていましたが、それよりさらに1年前の音源ということになります。ちなみに今や京都を代表するライブハウスとして知名度の高い拾得ですが、1973年にオープンということで、ライブ会場としても開業したばかりの会場での録音となります。
メンバーは水谷孝(G/Vo.)とオリジナルメンバーの中村武志(G)、さらに頭脳警察にも参加していたことがある楢崎裕史(Ba)、吉祥寺のライブハウス「OZ」の元スタッフでOZバンドのメンバーでも三巻敏朗(Dr)の4人組の編成。このメンバーは、翌年のライブ音源をおさめた「'77 Live」と同じラインナップとなります。
まず、本作の特徴的なのは音が良いという点。このライブ音源、ラジカセの内臓マイクをつかって録音されたそうで、決して機材的には恵まれた状況での録音ではないのですが、録音状況は比較的、良い状態になっています。前作「屋根裏 YaneUra Sept. '80」もかなり録音状況のよい作品でした。正式な機材を用いて録音された前作には、さすがに及ばないものの、水谷孝のボーカルもしっかり捉えられており、会場を埋め尽くすフィードバックノイズも変にハウリングを起こすことなく、比較的クリアに収録されています。これだけの音源がしっかり残されていたというのはちょっと驚きでもあります。
そして、もっと大きな特徴なのが、彼らとしては比較的短い曲が多いという点。例えば、「'77 Live」ではほぼすべての曲が10分強。曲によっては20分近い曲も収録されている一方、このアルバムでは1曲あたり6~8分程度の曲がほとんど。10分を超える曲は2曲しか収録されていません。
そのため、曲の構成も「'77 Live」やそれ以降のラリーズの曲とはちょっと異なります。彼らの曲の特徴というと、いうまでもなく、これでもかというフィードバックノイズを延々と繰り広げるインプロビゼーションの連続。音圧で攻め寄せてくる圧巻の音世界が大きな特徴となっています。一方、本作でも、もちろんフィードバックノイズが特徴的ではあるものの、基本的には決まった構成のメロディー、歌が主軸となっている展開となります。
そういう意味では、他のラリーズのアルバムで感じるような、圧倒的なノイズに圧倒されるという感じではありません。ある意味、歌やメロディーがしっかり聴こえてくる曲であるがゆえに、聴きやすさすら感じるかもしれません。そういう意味では、比較的ラリーズの初心者向けと言えるかもしれません。ただ一方で、聴きやすいゆえに、裸のラリーズ独特の衝撃という点はちょっと薄いかもしれません。また、メロディーラインは、どうしても70年代的な要素を感じさせるものであり、今から聴くと若干「昔の」というイメージも否定できません。そういう意味では、裸のラリーズの最初の1枚としてこのアルバムを聴いてしまうと、「なんだこんなものか」と誤解してしまう危険性も否定はできません。
そういう点は気になりつつも、ただ、圧倒的なサイケなサウンドはこのアルバムでも健在。インプロビゼーション的な要素は薄めであるからこそ、逆に裸のラリーズのもっとも核になるような部分が表にあらわれているアルバムとも言えるかもしれません。そういう意味では、不気味な雰囲気満載のサイケなサウンドや水谷孝のメランコリックでダウナーな歌も実に魅力的。間違いなく、裸のラリーズがどんなバンドか知るためには、また欠かせないであろうアルバムがリリースされた、とも言えるかもしれません。
徐々にその姿が明らかになってきた裸のラリーズ。今後もこのような音源のリリースは続くのでしょうか。次は彼らのどのような姿を見せてくれるのか、今後の展開にも期待したいところです。
評価:★★★★★
裸のラリーズ 過去の作品
67-’69 STUDIO et LIVE
MIZUTANI / Les Rallizes Dénudés
'77 LIVE
CITTA'93
BAUS'93
屋根裏 YaneUra Oct.'80
屋根裏 YaneUra Sept. '80
ほかに聴いたアルバム
Eiichi Ohtaki’s NIAGARA 50th Odyssey Remix EP/大滝詠一
ナイアガラ・レコード50周年を記念したリミックス作品集。参加ミュージシャンとしてCorneliusやスチャダラパーのようなベテラン勢が参加している一方、Night Tempo、原口沙輔、Kroiの千葉大樹、さらにはMega Shinnosukeが「君は天然色」をカバー。ある意味挑戦的とも言える作品で、大滝詠一が存命だったら企画として許されなかっただろうなぁ・・・と思いつつ、案の定、大滝詠一のファンからは賛否両論というよりも否定的な評価がメインのよう。確かに、かなりガラッと変わっている部分もあるため、受け入れられなさそうな部分も感じつつ、ただ一方、ともすれば大滝詠一の曲をリアルタイムで全く聴いたことないような世代が、このように彼の楽曲をリミックスするのは、次の世代に引き継がれていくという意味で、非常に意義深いリミックスアルバムなのかもしれません。どうせならば、オールドファンからの反発上等で、もっと若手の、例えばボカロPとかをどんどん取り込んだリミックス盤とかリリースしたらおもしろいかも。
評価:★★★★
大滝詠一 過去の作品
EACH TIME 30th Anniversary Edition
Best Always
NIAGARA MOON -40th Anniversary Edition-
DEBUT AGAIN
NIAGARA CONCERT '83
Happy Ending
A LONG VACATION 40th Anniversary Edition
大瀧詠一 乗合馬車 (Omnibus) 50th Anniversary Edition
大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK/NIAGARA ONDO BOOK
暑さのせいEP
EACH TIME 40th Anniversary Edition
B-EACH TIME L-ONG 40th Anniversary Edition
BLACK LIST/BARBEE BOYS
BARBEE BOYSデビュー40周年企画のリマスター版。今回は1988年にリリースされた彼ら初となるベスト盤。4作目発売後にリリースされたベストアルバムながらも収録曲は1作目2作目が中心なのは、この時期、一気にブレイクした彼らが、ブレイクした後のあらたなファンに対して、過去の作品を聴いてほしいという思いからリリースしたのでしょうか。初期作品がメインということで、KONTAと杏子それぞれ別々にボーカルを取った作品も目立つのですが、初期代表曲が網羅されており、確かに最初の1枚としてはうってつけのベストアルバムといった感じになっています。
評価:★★★★★
BARBEE BOYS 過去の作品
Master Bee
1st OPTION
Freebee
3rd.BREAK
LISTEN! BARBEE BOYS 4
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