89歳にして挑戦心あふれる新作
Title:Ain't Done With The Blues(邦題:終わりなきブルースの旅)
Musician:Buddy Guy
ブルース界におけるリビング・レジェンド、Buddy Guy。1960年代、70年代の、まだ多くのレジェンドたちが現役で活動を続けていた時代から活動を続けて、いまだに現役を続ける数少ないブルースミュージシャンとなってしまった彼は、なんと今年で89歳(!)。そんな年齢にも関わらず、いまだに精力的な活動を続けており、ここに来て約3年ぶりとなるアルバムを、彼の89歳の誕生日である89歳でリリースしてきました。
その年になっても第一線で活動を続ける彼のアグレッシブさには驚嘆しますが、ただ正直、アルバムを聴き始めて、最初はちょっと不安になりました。アルバムの冒頭を飾る「Hooker Thing」はJohn Lee Hookerの「Boogie Chilen」のオマージュの、1分程度の短いナンバー。シンプルなギターこそ、味わいの深さを感じるのですが、そのボーカルは明らかによれよれで、89歳のそれ。ある程度、よれよれのボーカルもブルースにとっては「味わい」となってプラスに影響するのですが、この曲の場合は、まず彼の寄る年波を感じて心配になってしまいました。
しかし、そんな不安は続く2曲目「Been There Done That」で吹き飛びます。力強いグルーヴィーなギターサウンドで、ブルースよりもハードロック寄りにすら感じるパワフルな楽曲で、彼のいままでのキャリアを誇りつつ"still alive and well"と歌い上げる彼の歌声はヘヴィーなバンドサウンドに負けることなくパワフル。現役感バリバリの力強さを感じさせます。
さらに今回のアルバムで非常におもしろいのは、ブルースに限らずこの年齢になって幅広いジャンルからの影響を取り入れた挑戦心を感じさせる点でしょう。前述のハードロック的な「Been There Done That」にはじまり、「I Got Sumpin' For You」は軽快なリズムでロックンロールの色合いが強い作品になっていますし、「Jesus Loves The Sinner」は、タイトルからしてもそうなのですが、ゴスペルの影響を受けた作品。かのゴスペルグループThe Blind Boys of Alabamaも参加した作品に。「I Don't Forget」はバンドサウンドにはサイケの要素も感じますし、「Send Me Some Loving」はムーディーでメロウは60年代ソウルな作風となっています。
基本的にはブルースを基調としつつも、そんなブルースというジャンルに留まらない挑戦心を感じさせる今回のアルバム。全体的にはヘヴィーなバンドサウンドを前に押し出したような作品が多く、一方、それに全く負けていない彼のボーカルも強い印象に残ります。一方では、昔ながらのブルースの王道路線もしっかりと意識しており、ギターとピアノで力強く聴かせる「Blues Chase The Blues Away」や同じくピアノでムーディーに力強く聴かせる「Love On A Budget」など、これぞブルースといったナンバーも目立ちます。
さらには前述のJohn Lee Hookerに捧げた曲の他にもLightnin' Hopkinsに捧げた「One From Lightnin'」やJ.B.Lenoirの「Talk To Your Daughter」のカバーなどもあり、先人に対する敬意も強く感じさせます。
ここ最近の彼の作品は、昔ながらのブルースをなぞったような、良く言えば安定感を感じさせる一方、悪く言えば、目新しさもなく、昔取った杵柄で活動を続けているような作品が続いており、とはいえ、彼の年齢といままでのキャリアを考えれば仕方ないな・・・とも思っていたのですが、そんな中、89歳という年齢でリリースされた新作が、これほど挑戦心にあふれる1枚となっていたのが驚きです。オレはまだまだ現役だ、という彼の強い主張も感じさせるアルバムになっていました。2023年にはフェアウェルツアーを開始し、それも途中に体調の悪化により延期になるなど、心配していたのですが、このアルバムを聴く限りだと、まだまだ元気そうで、まだまだ次の新作、その次の新作も期待できそう。Buddy Guyのこれからの活躍にも期待したくなる傑作でした。
評価:★★★★★
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