お得感あるベスト盤3作
レコード会社横断の廉価版ベストアルバムの共通タイトル「ゴールデン☆ベスト」シリーズ。なにげに貴重な音源や、知る人ぞ知る的なミュージシャンの楽曲を聴けたりするので、最近はよくチェックしているのですが、今回は7月、ワーナーからリリースされた第七弾タイトルのうち、3作の紹介です。
Title:ゴールデン☆ベスト 泉谷しげる WARNER WORKS
Musician:泉谷しげる
まず泉谷しげるがワーナーに残した音源をまとめたベスト盤。ただ、ワーナーに所属していたのは、彼の長いキャリアの中で1978年から82年と比較的短く、その間、オリジナルアルバムを2枚、ライブアルバムを1枚リリースしたのみに留まります。ただ、本作はそのワーナーに残した音源をすべて収録。特にオリジナルアルバムの2枚「'80のバラッド」「都会のランナー」はいずれも加藤和彦プロデュースによる作品で、泉谷しげるの代表作として取り上げられるケースも多く、いわばもっとも脂ののった時期だったと言えるでしょう。
基本的に、ぶっきらぼうなしゃがれ声のボーカルで、楽曲はかなり泥臭い雰囲気。一般的な泉谷しげるのイメージにピッタリマッチするような雰囲気を醸し出していますが、一方で、歌詞にしろメロディーにしろ、かなり歌謡曲っぽい雰囲気の曲も少なくなく、どちらかというと反骨的なイメージのある泉谷しげるからすると、意外な印象も受けます。
また作風として特徴的に感じたのは、全体的にフォーク、ロック、歌謡曲的な要素のごった煮といった印象を受ける反面、若干、その結果全体的に中途半端に感じます。フォークとしてはロックや歌謡曲の要素が強すぎるし、ロックとしてはやはりフォークや歌謡曲の要素が強すぎるし・・・ちょっとチグハグしたものも感じました。ただ一方、このごった煮的なサウンドを無理やりひとつに押し込めてしまう強引さも、泉谷しげるらしさなのかもしれませんが。
そんな訳で泉谷しげるのミュージシャンとして勢いのあった時代の作品をまとめて聴けるという意味ではお得なアルバム。全曲収録なので「ベスト盤」とはちょっと違うかもしれませんが・・・。
評価:★★★★
Title:ゴールデン☆ベスト Deadly Drive 2025
Musician:伊藤銀次
かの「NIAGARA TRIANGLE Vol.1」に参加。デビュー当初の佐野元春や、ウルフルズのプロデューサーとしても知られるシンガーソングライター、伊藤銀次のゴールデンベスト。ただ、ベスト盤ではなく、1977年にリリースした彼のデビューアルバム「DEADLY DRIVE」の再編成版で、オリジナル音源と、2017年にリリースされた40周年記念盤に収録された曲をピックアップしたアルバムとなります。
この「DEADLY DRIVE」というアルバム、いわゆる名盤と言えるアルバムかと言われると一般的な評価は微妙で、Amazonなどのレビューでも否定的な評価もありますし、伊藤銀次本人も「失敗作」と述べているなど、必ずしも手放しで絶賛されているアルバムではありません。ただ、楽曲はピアノの音色を入れてメランコリックに聴かせるシティポップが並び、レゲエ、ラテンなサウンドやファンク的なアプローチもあるなど、かなり意欲的な作品。シティポップ系の歌モノに関しては、メランコリックなメロディーラインを含めて非常に絶品で、ナイアガラの盟友、山下達郎のシュガーベイブのアルバムにも負けていません。正直、インスト曲も多く、この点、ちょっと散漫な印象を受けてしまい、この点、評価を落としている点は否めませんが、それを差し引いても、間違いなく傑作といえる作品だったと思います。
ちなみに40周年記念盤は既に廃盤になっているようなので、そういう意味でもちょうどよい企画。また、40周年記念盤は収録曲が多すぎるという意見もあるようなので、全17曲1時間15分という収録曲、時間もちょうど良い長さかと。ナイアガラ系、シティポップが好きなら、チェックしておきたいアルバムです。
評価:★★★★★
Title:ゴールデン☆ベスト 濱田金吾 BEST COLLECTION 〜MOON YEARS〜
Musician:濱田金吾
今回、完全に初耳のミュージシャンだったのが彼。1974年にフォーク・グループ、クラフトのメンバーとしてデビューし、解散後、シンガーソングライターとして活動していたそうです。一時期、同姓の浜田省吾がブレイクしたことから「ハマダといえば、キンゴで〜す」というきやっちコピーがつけられていたとか・・・正直、かなり、かなり寒いです・・・。ちなみに彼もワーナー所属だったのは、社内カンパニーのアルファ・ムーンに所属していた1982年から83年の2年のみ。その間、2枚のアルバムがリリースされており、2002年にはその2枚のアルバムから12曲をセレクトしたベストアルバム「BEST COLLECTION~MOON YEARS~」がリリースされていましたが、今回は、そのベスト盤をベースに、2枚のアルバムから曲を追加。さらに最新リマスターを行ったアルバムとなります。
楽曲的には、いかにも80年代初頭のムーディーな歌謡曲的な作風。ほどよく都会的でメランコリック、ただ、同時期の(例えば上に紹介した伊藤銀次の作品と比べると)あまりにも歌謡曲寄りな印象はあり、今聴くと、古臭さは否めません。ただ、一回りして、その「古臭さ」が魅力的、と言えないこともないのですが・・・。そしてもうひとつは、全体的によくあるタイプの楽曲という印象。濱田金吾としての個性は薄いように感じました。シンガーソングライターとしては大きなブレイクもなかったのですが、そこらへんが大きな要因のようにも感じます。
一方で、楽曲自体は比較的メロディアスで、インパクトもあり、良くできているという印象も抱きます。彼はシンガーソングライターとして以上に作曲家として数多くのミュージシャンに楽曲提供を行っていますが、むしろ彼の適正としては、自らが歌うよりも作家として楽曲を提供する方にあったのでしょう。このベストアルバムからも、その理由もわかるように感じました。
評価:★★★★
そんな訳で70年代後半から80年代初頭の男性シンガーソングライターの3作。それぞれタイプの違うミュージシャンながらも、こういう機会ではないとなかなかチェックしないアルバムなだけに、聴きごたえがありました。興味がある方は、手軽に楽しめるベスト盤なだけに、一度、是非。
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