ザ・タイマーズから私たちが引き継ぐこと
今回は最近読んだ音楽関係の書籍の紹介です。
「ザ・タイマーズからのメッセージ」。ザ・タイマーズは、忌野清志郎にとてもよく似ているZERRYなる人物率いるパンクロックバンド。1988年に突如結成され、ライブや学園祭にゲリラ的に登場し、世の話題をさらいました。特に1989年にはフジテレビの音楽番組「ヒットスタジオR&N」で、事前の予定を無視して、いきなりFM東京を罵倒する曲を歌い出した「FM東京事件」や、1994年に行った福岡でのライブでは、ライブがはじまる前に放送された、彼らのライブのお約束だったライブ中止のアナウンスが、当時、福岡市で騒がれていた渇水騒動を取り入れたリアルなものだったため、実際に観客の一部が帰ってしまったというトラブルが発生するなど、いろいろと世間を騒がせるニュースも起こしていました。
私も彼らについては、2016年にリリースした再発版や、昨年リリースされた35周年記念盤を聴いて当サイトでも取り上げてきました。ただ、正直なところザ・タイマーズについては今聴くと、かなりわかりにくい部分も多々ありました。楽曲自体も、その時代をダイレクトに反映した時事ネタ的なものも多く、その点でもわかりにくいという点もありますし、なによりも、忌野清志郎がなぜ、あえてザ・タイマーズというバンドを立ち上げたのか、また、その中でどうしてこのような騒動を起こし続けたのか、疑問に感じる点もありました。
そんな中、35周年記念盤のリリースに合わせるように刊行されたのが本作。音楽ライターの本田隆が、ザ・タイマーズの活動を多面的に分析した1冊となります。本書が非常に興味深かったのは、本田隆によるザ・タイマーズの活動の概略が記載された後、ザ・タイマーズの関係者によるインタビューが行われている点。ZERRY以外のメンバー全員のインタビューが行われているほか、当時の東芝EMIの制作担当、広報担当、ツアーマネージャー、さらには彼らのMVを担当した安齋肇にもインタビューを実施。その中で、ザ・タイマーズの活動、また前述の「事件」(特に「FM東京事件」)が様々な立場から多面的に語られれています。
それぞれの立場から微妙に異なるザ・タイマーズの捉え方もなかなか興味深かったのですが、一方で読んでいてまず感じたのは、みんなカリスマ性ある忌野清志郎というスターに引っ張られる形で巻き込まれ、かつ、このザ・タイマーズの活動を心より楽しんでいたんだな、ということは強く感じます。ザ・タイマーズというバンド自体、忌野清志郎が自分のやりたいことをかなり自由に行っていただけに、前述の事件のようにかなり無茶した感のある活動でしたし、なによりメンバー全員、ザ・タイマーズ以外のバンド活動をやりながらの活動だったようで、ザ・タイマーズの活動によって、寝る時間を惜しんで活動を続けていたようです。その中で、かなり迷惑を受けたような方いるでしょう。しかし、インタビューではそんなことはおくびにも出さず、みんなどこか懐かしく、そして楽しげに当時の活動を振り返って語っているのが印象的でした。
また、忌野清志郎自体、バンドマンと名乗り続け、ザ・タイマーズもあくまでも「バンド」ということを重要視していた点も印象的でした。とはいえ、やはり活動の中心にいたのは忌野清志郎本人。本書についても、ザ・タイマーズとしての活動が語られつつも、全体としてはザ・タイマーズとして活動していた1980年代中盤以降の忌野清志郎の活動や心境にスポットがあてられる結果となっていました。
特に1988年にリリースした「COVERS」が原発反対の楽曲を歌ったことから東芝EMIからの販売が中止となったことからザ・タイマーズとしての活動に繋がってくるのですが、その中で当時、「COVERS」についてはRCサクセションの中でも反対意見があったことや、当時、RCサクセションの活動にも行き詰まりを感じたこと、そしてそのような中で、あえてバンドとしてのもっともシンプルな形を追求したザ・タイマーズというスタイルを立ち上げたことが語られています。ここらへん、あらためてなぜ忌野清志郎がザ・タイマーズというバンドをあのような形で立ち上げたのか、理解することが出来ました。
そんなザ・タイマーズの活動について多面的かつ包括的に記載した本作は、わかりやすそうで実は時代に寄り添っていたためわかりにくい部分も多い、ザ・タイマーズについてより深く知ることが出来る1冊になっていました。ただ一方でちょっと気になったのは、この書籍のタイトルにもなっているメッセージでした。ここでザ・タイマーズからのメッセージとして「リスナーに考え続けること」と指摘しています。このメッセージ、重要なことである一方、玉石混合の情報があふれかえっている現在においては、一歩間違えれば非常に危険性も伴うメッセージにも感じました。
というのもおそらく、情報の取り方や理解を間違えると、この「考える」という行為、一気に陰謀論にはまりかねる危険性も十分にあるからです。現在社会において陰謀論に囚われた人たちは、間違いなく「自分たちはよく考えている」と認識しているでしょう。しかし、情報の取り方を間違えたり、理解があまりに主観的かつ一方的だったであった結果、その「考え」が間違えた方向へ行ってしまい、暴走し、それに自分たちが全く気が付いていないという状況になっています。「考え続けること」というのは、ともすれば自分たちの主観に陥りやすく、一歩間違えると非常にリスクも伴うメッセージのようにも感じました。
ただ一方で、この本で忌野清志郎が私たちに送っているメッセージで、今の時代でも普遍的に通じる重要なものも記載されています。それは彼が楽曲を通じて送っている「ラブアンドピース」のメッセージ。よくよく聴くとザ・タイマーズの楽曲、反権力的な歌詞は多いものの、誰かを傷つけたり、揶揄したりするような楽曲はありません。陰謀論に陥ると、よく自分と考えの異なる人たちを攻撃する傾向が強いのですすが、彼がライブでもよく叫んでいた「愛し合ってるかい」の精神を根本に持ち続けること、これが実は非常に重要な、普遍的なメッセージではないか、ということを感じました。
ザ・タイマーズというバンドのことをよく知るために、さらには忌野清志郎という偉大なスターを知るためにも、最適な1冊だと思います。これを読んで、あらためてザ・タイマーズのアルバムもまた聴いてみたくなりました。この時代に、ザ・タイマーズ、忌野清志郎の不在という事実を残念に感じてしまいますが、ザ・タイマーズのメッセージを私たちが引き続くためにも、音楽と共にお勧めしたい1冊です。








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