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2025年2月16日 (日)

KANの全シングルを網羅

Title:KAN A面 Collection
Musician:KAN

昨日紹介した本に続き、今日もKANのCDの紹介です。先日、ベスト盤を紹介したばかりのシンガーソングライターKAN。彼の1周忌に合わせる形でリリースされたのが、こちらは3枚組のシングルコレクションとなります。彼のデビューシングル「テレビの中に」から、結果としてラストシングルとなってしまった「ポップミュージック」まで、彼のシングルがリリース順に収録したアルバムとなります。

ただ本作は、ミュージシャンサイドは非公認の、いわゆるレコード会社側が勝手にリリースしたベストアルバムとなります。そのため、公式サイトでは一切紹介されていません。以前からこの手のベスト盤はたびたびリリースされ、ミュージシャン側とトラブルになるケースが少なくありませんでした。最近は、サブスクの浸透で、あまりこの手のベストがリリースされなくなったので、この手の話はあまり聞かなくなったのですが・・・「死人に口なし」といった感じなのでしょうか。ちょっと悲しい感じもします。

しかし、とはいえ今回のシングルコレクション、そんな点を差し引いても、非常に魅力的な作品集になっていたと思います。以前の「IDEAS3」のレビューでも書いたのですが、KANには傑作が多すぎて、このベスト盤では正直、彼の代表曲を網羅しきれていません。例えばシングルベースでも、「REGRETS」「涙の夕焼け」などといった曲も収録されていません。ある意味、ベスト盤を補完する意味では、チェックしてほしい、と言わざるを得ないベスト盤になっています。

あと、個人的に、ベスト盤にあまり収録されないような曲をあらためて聴けたのがうれしい感じなのですが・・・例えば大ヒットした「愛は勝つ」の後にリリースされた「イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ」。正直、あきらかに「愛は勝つ」の後を意識した楽曲であり、KAN本人にもファンにも評判はよくなく、ライブでもほとんど披露されない曲なのですが(以前、発売されたKANの詞集にも収録されていませんでした・・・)、個人的には実は結構好きなんですよね、この曲。軽快ながらも力強さを感じるポップナンバーが妙に耳に引っ掛かります。「愛は勝つ」の後、はじめてリアルタイムに、リリース直後に聴いたシングルだから、という思い出補正もあるかもしれませんが。

もうひとつ、今回のシングルコレクション、彼のシングルをリリース順に並べてあり、KANの音楽的な変遷を知れる、という点でも意味はある内容だったと思います。特にあらためて感じたのですが、KANはデビューから30年近く音楽活動を続けていたのですが、最後に至るまでほとんどマンネリというのを感じさせません。厳密に言えば、本作のDisc3の導入あたりでは、若干、失速気味に感じる部分もあるのですが、むしろ最後にリリースした2枚のシングル「桜ナイトフィーバー」「ポップミュージック」は、むしろ若い頃の勢いを取り戻したかのような軽快な垢ぬけたポップチューンとなっています。「桜ナイトフィーバー」もその後、ハロプロのアイドルグループがカバーしているのですが、「ポップミュージック」もリリース直後にアイドルグループのJuice=Juiceがカバー。おそらく、当初からアイドルグループへの楽曲提供を想定したいたナンバーなのでしょう。それだけに、「売れる」ことをあえて意識したような、インパクトのあるポップチューンに仕上がっており、あらためて聴くと、これだけインパクトのあるナンバーを、この期に及んで書いてきているあたり、KANの底知れぬポップミュージシャンとしての才能を感じますし、あらためて早すぎる彼の逝去を惜しく感じました。

前述の通り、レコード会社が勝手にリリースしたベストアルバムであるため、賛否両論はありそうな本作。個人的にも、KAN本人の意に沿っているかどうか微妙なこの企画を、もろ手あげて評価してよいのか迷うところはあるのですが・・・とはいえ、前述の通り、それを差し引いても非常に魅力的であり、KANというミュージシャンの実力がしっかりとわかるベストアルバムだったのは間違いないと思います。ベストアルバム「IDEAS3」の次に、チェックしてみて損はないシングル集だと思います。

評価:★★★★★

KAN 過去の作品
IDEAS~the very best of KAN~
LIVE弾き語りばったり#7~ウルトラタブン~
カンチガイもハナハダしい私の人生
Songs Out of Bounds
何の変哲もないLove Songs(木村和)
Think Your Cool Kick Yell Demo!
6×9=53
弾き語りばったり #19 今ここでエンジンさえ掛かれば
la RINASCENTE
la RiSCOPERTA
23歳
IDEASⅢ~the very best of KAN~


ほかに聴いたアルバム

LAST/Anarchy

約3年ぶりとなるAnarchyのニューアルバム。今回のアルバムでは客演が一切なく、彼だけがラップをつづる点が大きな特徴。また、ZOT on the WAVE、Chaki Zulu、DJ JAM、Ryosuke“Dr.R”Sakai、KREVAといった幅広いミュージシャンがトラック作成に関わっているのも大きな特徴となっています。結果として全体的にメランコリックなトラックにメロディアスなラップが特徴的な作品に。今回の作品では特に彼の出自について綴ったラップが目立ち、客演なしという点も含めてAnarchyの原点に立ち返ったアルバムとも言えるかもしれません。ただ、全体的にはどこかネタ切れ気味な感がしてしまい、出自をつづったラップについてもいままでのようなヤバさがあまり感じられなかったのは残念。若干、ちょっと狙いすぎでは?とも感じてしまう部分も・・・。

評価:★★★★

Anarchy 過去の作品
Dream and Drama
Diggin' Anarchy
DGKA(DIRTY GHETTO KING ANARCHY)
NEW YANKEE
BLKFLG
THE KING
NOISE CANCEL

Under Blue/Eve

動画投稿サイトに歌唱動画をアップする、いわゆる「歌い手」やボカロPとしても活躍するシンガーソングライターの約2年半ぶりのニューアルバム。前作まででいかにも昔のボカロっぽい曲は減り、楽曲に一般性が増した反面、バラエティーの面で物足りなさを感じました。一方本作については、ギターロック路線からエレクトロやドリーミーなポップ、ラップ風のボーカルを聴かせる曲などバラエティーがグッと増えた感じに。正直、良くも悪くも器用貧乏でルーツレスっぽい感じはJ-POPらしいなぁ、とは感じるのですが、アルバム毎に進歩している感じがあります。これからの活躍に期待です。

評価:★★★★

Eve 過去の作品
おとぎ
Smile
廻廻奇譚 / 蒼のワルツ
廻人

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