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2025年2月17日 (月)

本当に突然のゲリラリリース

Title:GNX
Musician:Kendrick Lamar

昨年11月22日、突如リリースされたKendrick Lamarのニューアルバム。匂わせ告知等も一切なく、何の前情報もなしの突然のリリースということで、ファンならずともかなり驚きをもって迎えられた最新作。先行シングル曲などもなく、完全新作という形でのニューアルバムとなっていました。ちなみにタイトルのGNXとは、ゼネラル・モーターズが1987年に発表した高級車の車名だそうで、彼が生まれた年に547台のみ製造され、希少価値も高い自動車だそうで、彼にとっては父親が乗っていた車で、思い入れの深い1台だそうです。

毎回テーマ性を持ったアルバムをリリースしてくる彼ですが、今回はゲリラリリースという点も影響したのか、特に統一的なコンセプトはない模様。ただ一方で、生まれ故郷ロサンゼルスをテーマとした曲が多いようで、特に「dodger blue」は大谷翔平が所属していることで日本人にもおなじみ、ロサンゼルス・ドジャーズをタイトルで掛けたLA讃歌だとか。また、ゲストラッパーも多く参加している本作ですが、ほとんどが日本ではあまり知名度もないようなロサンゼルス出身のラッパーを起用しており、この点でも彼のロサンゼルス愛を感じさせるアルバムとなっています。

ただ、アルバムを聴いてまず感じるのは、全体的にいい意味で聴きやすい内容に仕上がっているという点でした。アルバム1曲目の「wacced out murals」は、かなりダークで、怒っているような雰囲気のラップにちょっとドキリとさせられますが、続く「squabble up」は軽快なラップがダークながらもどこかコミカルさも。さらに3曲目「luther」ではゲストボーカルとしてSZAが参加。彼女のメロウな歌声も優しく響く、メランコリックな歌モノの楽曲に仕上がっています。

その後もメランコリックなピアノのフレーズが美しい「reincarnated」や、リズミカルなラップのやり取りにどこかコミカルさも感じる「tv off」、メランコリックに聴かせる歌モノの「dodger blue」、メロウに聴かせる歌が爽やかな「heart pt.6」に、ラストを締めくくる「gloria」にはゲストボーカルで再びSZAが登場。最後も切ない歌を聴かせる、メランコリックな歌モノの楽曲で締めくくられています。

全12曲44分強という短さもアルバムが聴きやすい大きな要素だと思うのですが、もうひとつ大きな要素だと思うのが、プロデューサーとして、盟友Sounwaveと共に、Jack Antonoffを起用している点も大きいのではないでしょうか。Jack Antonoffは現在、Taylor SwiftやLana Del Reyなどを手掛ける売れっ子プロデューサーなのですが、もともとアメリカのポップロックバンドFUN.で名をはせたミュージシャン。昨年は彼のバンドBleachersで傑作アルバムをリリースしています。どちらかというとポップフィールドのミュージシャンなので、ケンドリックとの組み合わせはちょっと意外性を覚えるのですが、だからこそ、いい意味で聴きやすさを覚えるアルバムになったのではないでしょうか。

個人的には44分強という長さも含めて、ケンドリックのいままでのアルバムで一番楽しめたアルバムのように感じます(ということを前作でも書いていますが、前作よりもさらに楽しめたアルバムだったように感じます)。本年度の年間ベスト候補の1枚。突然のリリースでしたが、さすがケンドリックということを感じさせる作品でした。

評価:★★★★★

Kendrick Lamar 過去の作品
Good Kid M.a.a.D City
To Pimp A Butterfly
untitled unmastered.
DAMN.
Mr. Morale & the Big Steppers


ほかに聴いたアルバム

One Assassination Under God – Chapter 1/Marilyn Manson

約4年ぶりとなるマリリン・マンソンの新譜。ボーカル、マリリン・マンソンが、2021年に元恋人からの性的虐待の告発を受け、しばらく活動休止状態だったようです。日本でもアメリカでも似たような話があるのですが・・・。性的虐待疑惑自体は起訴が出来ないということになり、マリリン・マンソンとしても活動を再開。新譜のリリースとなったようです。ただ、この性的虐待疑惑は、時効となっていたり、明確な証拠がなかったりという理由で起訴が出来なかったようで、完全に冤罪で無罪放免という感じではないようで、若干のモヤモヤ感は残るのですが・・・。

そんなアルバム自体は、「いつものマリリン・マンソン」といった感じ。ヘヴィーなサウンドにメランコリックなメロディーラインで、独特の怪しげな雰囲気を醸し出している内容に。昔からのファンならば、とりあえずは安心して楽しめそうなアルバムになっていますし、いろいろとゴタゴタがあっても、このレベルの作品をしっかりと作り上げてくるあたりには、彼らの実力を感じされます。実にマリリン・マンソンらしいと感じられるアルバムでした。

評価:★★★★

Marilyn Manson 過去の作品
THE HIGH END OF LOW
Heaven Upside Down
WE ARE CHAOS

How To Dismantle An Atomic Bomb(Re-Assemble Edition)/U2

2004年にリリースし、グラミー賞を受賞するなど高い評価を受けたU2のアルバムの20周年記念盤。今回は、オリジナル盤のリマスターに加えて、「How To Re-Assemble An Atomic Bomb」と名付けられた、オリジナルレコーディング時に同時にレコーディングされた未発表音源も収録されています。オリジナルの「How To Dismantle~」は、高い評判が納得の、インパクトあるポップなメロディーが流れつつも、ダイナミックなロックサウンドが特徴的な、U2の魅力がしっかりとつまった作品。基本的に未発表音源も、オリジナルの延長線上の作品。確かにオリジナルに収録されている楽曲ほどのインパクトは薄いかもしれませんが、これはこれで非常に魅力的な楽曲が並んでいます。オリジナルともども、チェックしておきたい作品です。

評価:★★★★★

U2 過去の作品
No Line on the Horizon
Songs of Innocence
Songs Of Experience
The Virtual Road – U2 Go Home: Live From Slane Castle Ireland EP
Live At Red Rocks: Under A Blood Red Sky EP
The Virtual Road – PopMart Live From Mexico City EP
The Virtual Road – iNNOCENCE + eXPERIENCE Live In Paris EP
Songs Of Surrender
ZOO TV Live In Dublin 1993 EP

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