「ブルースとは何か?」を感じさせるモキュメンタリー形式の映画
今日は、最近見た音楽関連の映画の紹介です。
音楽ドキュメンタリー作家、ロバート・マンスーリスが監督をつとめた映画「ブルースの魂」。もともとは1970年代に撮影され、監督自らアメリカのミシシッピ・デルタを旅して、数多くのブルースのミュージシャンたちの映像やインタビューをおさめ、映画は完成されたものの、お蔵入りに。ただ、このたびB.B.KING生誕100周年を記念して、2Kレストア版が作成され、昨年7月にアメリカで公開。さらに昨年末から今年にかけて日本でも公開され、制作から50年以上の月日を経て、ようやく日の目を見ることとなった作品です。
本作の特徴としては、数多くの伝説的なブルースミュージシャンたちの実際の演奏やインタビューを取り上げながら、その間にニューヨークはハーレムに住む、若いカップルを描いた「ドラマ」パートが入ってくる点。ドキュメンタリーとドラマをシームレスにつないだ、ちょっと特殊な感じの構成となっています。ただ、全体的にこの映画が描きたかったのは、ブルースという音楽がどのように誕生し、どのような人たちに聴かれていたのか、という点。そのため、ドラマパートについても、役者へのインタビューの形態をとっている部分があり、まるで「本当のカップル」を取材しているかのような、ノンフィクション的な雰囲気を醸し出しています。いわばモキュメンタリーともとらえられる作品となっていました。
まず、この映画の肝ともなっているのは、なんといってもこの映画の半数を占めるブルースミュージシャンたちの演奏シーンでしょう。時代は1970年代。まだまだレジェンドと呼ばれるブルースミュージシャンたちが現役でバリバリ活動していた時代。今となっては非常に貴重な演奏風景が収められています。特に今となっては、なかなか見ることが出来ない、ブルースミュージシャンたちの卓越した演奏技法にまずは目を奪われます。前半ではファリー・ルイスやブラウニー・マギーなどのギタープレイには特に目を見張るものがありました。
さらにルーズヴェルト・サイクスのパワフルなボーカルやバリバリ現役だったバディ・ガイの、まだまだ若々しく、感情的で迫力のあるギターの演奏に惹かれつつ、なんといってもこの映画のハイライトとも言えるのは、後半にたっぷりと聴かせてくれるB.B.KINGのライブパフォーマンス。顔いっぱいに、これでもかというほどの汗をかきつつ、まさにそれだけ力が入っているということを感じさせるような迫力たっぷりのパフォーマンスを聴かせてくれます。これら多くのレジェンドたちのパフォーマンスを見れるだけでこの映画の価値がある、と言って間違いないでしょう。
一方、ドラマパートの方は、正直言えば、そんなに大したことはありません。公式サイトでは「若いカップルの愛と苦闘の物語」と書いていますが、はっきり言えば、たわいのない痴話喧嘩を取り上げたもの。貧乏な暮らしの中で、偏見からなかなかうまくいかない男性と女性の物語といえば、社会性もありそうですが、本人たちが(特に男性が)上手くいかないのは自業自得な部分や自堕落な部分が多く、正直言えば、同情できるような状況ではなく、どちらかというと、そんな男性に精神的に依存している女性も含めて、主人公は「ダメ人間」の部類に入るような人間でしょう。
ただ、そんな「ダメ人間」であっても、決して否定することなく、優しく寄り添ってくれる音楽、それがブルースという音楽の大きな魅力のように感じました。思えば本作の登場人物たちを「ダメ人間」と否定することは簡単です。しかし、考えてみれば私たちだって、そんな人たちを簡単に糾弾できるような立派な人間でしょうか。私たちだって、ついつい自堕落に走ってしまったり、ダメなことだ、とわかっていてやってしまうことも少なくありません。そんなダメな部分こそ、ある意味もっとも人間が人間らしい部分であり、そしてそんなところも優しく包み込んで、そして寄り添ってくれるような音楽、それがブルースではないか、とこの映画を見ていて強く感じました。
かつて落語の名人、立川談志は、落語のことを「人間の業の肯定である」と語っていました。今回、この映画を見て頭に浮かんだ言葉がそれで、ある意味、ブルースという音楽に関しても同じようなことが言えるのではないでしょうか。特に本作のドラマパートからは、そんなブルースというのがどのような音楽であるのか、その物語を通じて感じ取れるようにも思いました。
そんな訳で、ブルースという音楽が好きなら、あるいは興味を持っているのならば、間違いなくチェックしてほしい映画だと思います。ドラマパートの物語自体には、それほど魅力はないのですが、ただ、この映画を通じて、ブルースとはどんな音楽なのか、感じ取れる素晴らしい映画だったと思います。お勧めです。
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