「アニソン」の歴史も感じる、充実の12枚組ボックスセット
Title:藤子・F・不二雄生誕90周年記念 藤子・F・不二雄 MUSIC HISTORY
今年は藤子・F・不二雄こと藤本弘先生の生誕90周年にあたる年。それを記念し、様々な企画が行われていましたが、本作は企画の中のひとつで、藤子・F・不二雄作品のアニメやドラマ主題歌・挿入歌などが収録されているCDボックス。以前も同様の企画が行われたことがありましたが、本作では、収録内容はかなり徹底されており、ドラえもんやパーマン、キテレツ大百科などおなじみのアニメはもちろんのこと、2002年に放映されたドラマの「エスパー魔美」の主題歌や、今年放映されたNetflixアニメ「T・Pぼん」、個人的にはかなり懐かしいテレビ番組「藤子不二雄ワイド」の主題歌まで収録。全12枚組という、フルボリュームな内容に、ギッシリと藤子Fアニメ(ドラマ)の主題歌が収録されており、先生の作品が何度もアニメ化(ドラマ化)されて、多くの人に親しまれてきたんだなぁ、ということをあらためて感じます。
ただ、それだけ徹底された収録内容ながらも、いくつか未収録になっている曲もあり、まずは1973年に日本テレビで放映された「ドラえもん」の曲は未収録。藤本先生も内容については否定的だったようですから、こちらは完全に「なかったこと」になっているんだろうなぁ、ということも感じます。また、キテレツ大百科のエンディングだったTOKIOの「うわさのキッス」も未収録。これは(旧)ジャニーズが許可を出さなかったのか、とも思うのですが、一方、Kis-My-Ft2「光のシグナル」や忍者の「おーい!車屋さん」が収録されているので、そういう訳ではないのでしょう。やはり山口達也の件が関連しているのか・・・?また、ちょっと謎なところでは、2017年に放映されたドラマ「スーパーサラリーマン左江内氏」の主題歌、三代目J Soul Brothersの「HAPPY」も未収録。こちらはドラマもアンタッチャブルな存在じゃないはずなので・・・ただ、LDHが許諾しなかったのでしょうか。
さて、この膨大な主題歌集、リアルタイムに聴いていなかっただけに、あまり詳しく知らない曲もあれば、逆に小学生のころ、毎週心待ちにしてみていた番組の主題歌もあったりするので、非常に懐かしい思いをしながら聴いた曲もあったりと、かなりボリュームのある内容でしたが、子供のころに帰ったように楽しめた内容でした。そしてこの主題歌集を聴いて感じたのは、特に90年代以前、アニメソングがいまのように「売れ筋のミュージシャン」が歌う訳ではなく、あくまでもキッズソングとして扱われていた時代の曲に、特徴的なものをふたつ感じました。
まずはあまり「売れる」ことを意識していないキッズソングだから、ということもあって、逆にユニークでちょっと挑戦的にすら感じさせる曲が少なくないこと。特に「キテレツ大百科」関連の曲に特徴的で、いまやJ-POPのスタンダードナンバーともなっている「はじめてのチュウ」などが典型的。他にも「すいみん不足」など、かなりユニークな曲が目立ち、あまり売れることを意識しなくてもよかったからこその曲というのが、今となっては面白さを感じます。
あと、多いのが、いわゆるこれから売っていこうというアイドルの曲も目立つという点。こちらも当時のアニメソングは今の様なタイアップ効果があまり期待されなかった反面、アニメのヒットによっては、「誰もが知っている曲」に大化けする可能性もあったことから、売り出していこうというアイドルのタイアップにピッタリだったのかもしれません。それこそキテレツ大百科では、後にX JAPANのToshiの奥さんとなり、洗脳騒動の黒幕となってしまった元アイドルの守谷香が曲を歌っているほか、21えもんの忍者や、ひょっとしたら谷村有美あたりもこの並びと言えるかもしれません。
また、このアニメソングの取り扱いという意味で興味深く感じたのが、ドラえもん映画の主題歌のラインアップ。これがまさに、80年代から今に至るまで、アニメソングがどのような捉えられ方をしたか、というのがよくわかるような曲となっており、初期の作品は、ドラえもん(大山のぶ代)本人が歌っていたり、正直、あまり曲が売れることを意識していないような曲が並びます。これが90年代あたりは完全に迷走しており、いわゆる「芸能人」が主題歌を歌うことになっているのですが、「なんでこんな人が選ばれたのか?」というのが不思議なようなラインアップ。アニメソングの主題歌がJ-POPとして売れ始めた時期ではあるものの、まだ今よりも軽視されていた(特にドラえもんのような子供向けのアニメについて)傾向がうかがえるようなラインナップとなっています。
これが2000年代以降、特に声優陣が変更になってからは様変わり。今を時めくようなミュージシャンたちが主題歌を歌うようになり、最近でも星野源やミスチル、ヒゲダンにVaundyなどといった大物が参加。本作では未収録ながらも、来年の映画の主題歌はあいみょんですから、すっかりドラえもん映画の主題歌も様変わりしました。特にこれらの作品が収録されているDisc12については、アニメ主題歌集というよりは、最新のJ-POPのオムニバスとして楽しめるような内容になっていました。
ただ・・・正直、ドラえもん映画主題歌、やはり好きなのは、自分がリアルタイムで見ていたということもあるのですが、最初期のナンバーなんですけどね。「少年期」や「ポケットの中に」、「友達だから」とか、本当に名曲揃いなんですよね。
そんな懐かしさを感じつつ、アニメソングの立ち位置の変化も感じさせつつ、それを含めて、藤子Fアニメの歴史も感じさせるオムニバスアルバムでした。個人的には、藤子アニメというと、当然、藤本先生の作品のみならず、藤子Aこと安孫子素雄先生の作品も、同じ「藤子不二雄作品」として楽しんでいただけに、本当は、安孫子先生の作品、忍者ハットリくんや怪物くんなどの主題歌も合わせたボックスセットを希望したいのですが・・・それは、今では無理は話なのでしょうが・・・。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
BOYS and/SOPHIA
2022年、9年ぶりに活動を再開したSOPHIA。昨年、10年ぶりの新曲がリリースされましたが、デビュー30周年を迎えた今年は、「もう一度デビューする」をテーマに、彼らのデビュー作「BOYS」のオマージュ作をリリース。「BOYS」収録曲中心のセルフカバーに新曲2曲を加えた構成になっています。基本的に、シンセにバンドサウンドを加えたサウンドを軸に、メランコリックでポップなメロが特徴的。30年前の曲ながらも、しっかりしたメロディーラインを書いているだけに、30年後のセルフカバーにもしっかり耐えられる楽曲となっています。その聴かせるメロはさすが。今後の本格的な活動再開と久々のフルアルバムにも期待したいところです。
評価:★★★★
SOPHIA 過去の作品
2007
BAND AGE
15
ALL SINGLES 「A」
ALL-B SIDE 「B」
未来大人宣言
20th ANNIVERSARY BESTI YOUNG <1995-2000>
20th ANNIVERSARY BESTII YOUNG ADULT <2001-2007>
20th ANNIVERSARY BESTIII ADULT <2008-2013>
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