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2024年12月 6日 (金)

ブルースへの愛情を感じさせるコラム

今日は、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

ブルースバンド、ローラー・コースターのギタリストであり、ブルース評論家の第一人者として活躍していた小出斉。今年1月に66歳という若さで惜しまれつつこの世を去りました。そんな彼が、1993年から2017年まで、実に24年にわたってギター・マガジン誌に掲載していたコラム「ブルース雨アラレ」。その全285回に及ぶ連載を完全網羅したのが本作「小出斉のブルース雨アラレ~選りすぐりの名盤、迷盤、700枚超のディスク紹介を添えて~」です。

285回に及ぶ連載をすべて収録しているというだけあって、かなりのボリューム感。ページ数は592ページにも及び、書籍だと、まるで辞書のような分厚さとなっています。それだけ、この24年にわたる歴史の重み(?)を感じさせる1冊となっています。

ただ、本書、サブタイトルで「700枚超のディスク紹介を添えて」と書かれていますが、期待するようなブルースのディスクガイドではありません。ここで紹介されているアルバムのほとんどは、ブルースの代表的な名盤、ではなく、連載当時にリリースされた新譜やリイシュー盤、企画盤ばかり。それが定番のアルバムとなり、今でもチェックすべきアルバムも少なくはありませんが、ブルース入門的にアルバムを聴こうとするのならば、彼が残した名著「ブルースCDガイドブック」などの方が今でも有効です。

本書でメインとなるのは、小出斉のエッセイ的なコラム。連載スタート当初は、CDのアルバム紹介がメインとなっていたのですが、中盤以降、アルバム紹介は徐々に減り、ほとんど彼の日々の生活やブルースへの想い、また自身のバンドのライブ活動などに関するエッセイがメインとなってきます。そのため本作は、ブルースの本、というよりも、あくまでも小出斉の本、というのが主眼となっていました。

また彼は、評論家であるため読ませる文章を書くのは間違いありませんが、正直、エッセイストとして特筆すべき視点のエッセイを書く・・・といったタイプではありません。そのため、小出斉にある程度思い入れのある方ではないと、なかなかこのボリューミーなコラムを読むのは難かしいかもしれませんし、そもそも本書の意義として、偉大なブルース評論家、小出斉の業績を残す、という記録的側面が強いのかもしれません。

ただ、そんな中で強く感じるのは、何よりも小出斉のブルースに対する愛情の深さでした。序盤から最後まで、昔のブルースミュージシャンのリイシューから、現役のブルースミュージシャンの新譜までしっかりとチェックし、愛情を感じさせるレビューを記載していますし、自らのライブ活動に関してのコラムに関しても、ミュージシャンとして本当にブルースを演奏をするのが楽しいんだろうな、ということはコラムを通じても伝わってきます。そういう意味でも彼のコラムを通じて、ブルースという音楽のすばらしさを感じさせるコラムになっていました。

また、本書を読んでもう一つ感じたのは、この24年を通じてのブルースをめぐる環境の大きな変化でした。このコラムがはじまった1993年の時点においては、まだ存命なブルースのレジェンドたちも少なくなく、リイシューも含めて多くのブルース関連のCDが発売され、さらに国内においても本場のブルースミュージシャンが来日・演奏するブルースのライブイベントがいくつか開催されていました。

それがこのコラムが終盤を迎える2010年代においては、ほとんどのブルースのレジェンドがこの世を去り、国内のブルースイベントは終焉を迎え、ブルースの新たなCDもあまり発売されなくなりました。ディスクガイドとしてはじまったコラムが、小出斉自身のエッセイとなってくるのはブルースの新たなCDのリリース数の激減も大きな要因だったのでしょう。単純にCDというメディアがストリーミングに変化していった、という理由もあるのでしょうが、それ以上にブルースの音源がほぼCDで出し尽くしてしまった、というのも大きな理由なのでしょう。この24年という年月はブルースというジャンルにおいては、あまりに長い年月だったということを実感させられました。

そんな訳で、ブルース関連書籍というよりも、小出斉個人のエッセイという要素が強い本作。そういう意味では純粋なブルースの入門書的にはあまりお勧めできません。ただ、小出斉のブルースへの愛情を通じて、ブルースという音楽のすばらしさを感じされるコラムであることは間違いなく、そういう意味でもブルース好きにとっては読んで損のない1冊です。

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