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2024年12月21日 (土)

60年代ソウルの入門書として最適な1冊

今回は、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。

今回読んだのは、ミュージック・マガジン誌の増刊号、「アルバム・セレクション」シリーズの最新刊「60年代ソウル」です。以前から、このシリーズの書籍で、以前、「80年代ソウル」という書籍を紹介しましたが、今回はその60年代版。また、他にも「70年代ソウル」という書籍もリリースされており、これで60年代から80年代まで揃ったということになっています。

他のシリーズと同様なのですが、最初は「ARTIST PICKUP」としてミュージシャン毎に略歴と代表するアルバム数枚の紹介。その後はジャンルにわけて、アルバムの紹介という構成。「ARTIST PICKUP」ではサム・クックやレイ・チャールズからスタートし、「ザ・シュプリームズ」や「ザ・テンプテーションズ」など約20組のミュージシャンが紹介されています。ちなみに「ジェイムズ・ブラウン」と「アレサ・フランクリン」は60年代、70年代の2年代にわたり「ARTIST PICKUP」として取り上げられており、ここらへんは帝王・女王のすごさを感じます。

一方、後半では「INSTRUMENTALISTS」「PIONEERS」「MALE SINGERS」「FEMALE SINGERS」「VOCAL GROUPS/DUOS」と、主にミュージシャンの「形態」によって区別されています。「70年代ソウル」「80年代ソウル」いずれも、ここの分け方は基本的に音楽のジャンルによる区分だっただけに、後の年代とはちょっと異なる構成になっているのですが、この点はまだ60年代においてソウルミュージックとされるジャンルについては、後の世代ほど、ジャンル毎に色分けできるほどの音楽的なバラエティーがまだなかった、ということなのでしょうか。ただ、サザンソウルとノーザンソウルで大きく色分けできそうなので、著者の嗜好による部分も大きいようにも感じるのですが。

さて、今回の著書の特徴として一番大きかった点は、他の「70年代ソウル」「80年代ソウル」が複数のライターによる著作であるのに対して、本作は音楽評論家、鈴木啓志ひとりの著作であるという点でした。この鈴木啓志は現在76歳という大ベテラン。この60年代ソウルをリアルタイムで聴いていた世代であり、そういう意味では貴重な存在。実際、リアルタイムで音楽に触れていたからこその感想やその当時の状況の描写が要所要所に記載されており、今となっては貴重な証言とも感じられます。一方で、そのため単なる個人の感想では?と感じる部分のなきにしもあらず。「ARTIST PICKUP」でも、例えば「ザ・デルズ」が取り上げられているのですが、他のディスクガイドなどではそこまで重要視されている感もなく、ここらへんは良くも悪くも鈴木啓志個人の見解的な部分も感じます。

また、「60年代ソウル」ということですが、「ARTIST PICKUP」の中に、ブルースミュージシャンであるボビー・ブランドが登場していたり、B.B KINGのアルバムも紹介されていたりと、この手のガイドブックではソウルミュージックと一線を画して紹介されそうなブルース系のシンガーも登場。一方、ドゥーワップなどは明確にソウルと区別されて「別物」として記載されており、ここらへんもある種、彼の嗜好も感じさせます。

ただ、とはいっても全体的にはおそらく意識的に個人の嗜好は抑え気味となっており、全体的には非常にスタンダードなディスクガイドとなっています。紹介されているアルバムに関しても、個人の嗜好を抑えて、あえて代表的なアルバムを選んでいる部分もあり(かつ、それを明確に記載しているのですが)、その点を含めて60年代ソウルの入門書としても最適な1冊であり、また、60年代ソウルを総花的に知るにも最適な1冊だと思います。ここで紹介されているアルバムで、既に聴いたことのあるアルバムも少なくないのですが、大きく取り上げられているアルバムの中でも未聴のアルバムも多くあり、一度聴いてみなくては、とも感じました。ちなみに最後の最後に紹介されているアルバムはSLY&THE FAMILY STONEの「Stand!」となっており、スライは「70年代ソウル」の「ARTIST PICKUP」の一組目として登場しています。そういう点で上手く次の世代にリンクされており、そういう意味でもよく出来た構成にも感じました。

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