歌詞の世界には「ブルース」を感じる
Title:しゅー・しゃいん
Musician:寺尾紗穂
女性シンガーソングライター寺尾紗穂の約2年ぶりとなるニューアルバム。シンガーソングライターとしての活動のみならず、エッセイストや書評家としても精力的な活動が目立つ彼女。今回のアルバムに関しては、そんな文筆業としての活躍が楽曲にも反映されているような、歌詞に強い印象が残る作品が目立ったように感じます。
サウンドやメロディーラインについては基本的にシンプル。1曲目のタイトルチューン「しゅー・しゃいん」ではホーンセッションも入ってジャジーなサウンドを聴かせてくれたり、「ゴールはどこだい」ではノイジーでサイケなテイストのギターが入ってきたりするのですが、シンプルなピアノの音色に基本的にはアコースティックなサウンドをベースとした、シンプルなサウンド構成がメイン。そこに清涼感あふれる彼女の優しい歌声が重なり、魅力的な「歌」をしっかりと聴かせてくれるような作品になっていました。
そして、今回のアルバムに関しては、そんなシンプルな「歌」でしっかりと聴かせてくれる歌詞が大きなインパクトとなっていました。彼女の描く歌詞は、いわば社会の中で必死に生きていく人たちにスポットをあてた内容が印象的。まずタイトルチューンである「しゅー・しゃいん」。戦後間もないころの日本において、靴磨きでその日その日に必死に生きている人が主人公。時代背景的には戦後すぐという時代をターゲットにしつつも、どこか苦しい社会事情の中に必死で生きている現代の人たちの姿も反映されているように感じてしまいます。
アルバムの最後を締めくくる加川良のカバー「こんばんはお月さん」も、まさにそんな人々の生活にスポットをあてた歌詞が印象的。日常の辛さを月に吐露する歌詞が胸に響いてきます。また、印象に強く残る歌詞といえば「骨の姉さん」もまさにそんな1曲。おそらく、既に死んでしまった姉さんに対して、語り掛ける歌詞になっており、胸にしみる歌詞になっています。
また歌詞が印象的なのは「悲しみが悲しみであるうちに」も同じ。
「検索しても検索しても終わらないの
僕のかなしみ」
からスタートし、
「検索しても検索しても
見つからないの
戦争のやめ方」
まで、続く内容で、シニカルにインターネット依存的な世の中を取り上げつつ、社会派な歌詞が強烈な印象を残すような作品になっていました。
そして、これらの歌詞を聴いて感じられるのは、彼女の歌詞からはどこか「ブルース」の要素を感じられる点でした。まあ、ブルースといってもいろいろなタイプがあるので、ちょっとイメージ論的に語っている部分もあるのですが、いわば社会の中で必死に生きている人たちの吐露という点で、ブルースとの共通点を強く感じさせます。楽曲的には、決してブルースの要素は強くないのですが、その歌詞の世界にブルースとの共通項を感じてしまう、そんなアルバムだったように思います。
非常に魅力的かつインパクトのある歌詞の世界が胸に響いてくるそんなアルバム。メロディーやサウンドの側面で派手さはありませんが、聴き終わった後、強い印象を残す作品になっていました。その「歌」をじっくりと味わいたい作品でした。
評価:★★★★★
寺尾紗穂 過去の作品
余白のメロディ
ほかに聴いたアルバム
WONDER BOY'S AKUMU CLUB/野田洋次郎
RADWIMPSのボーカル、野田洋次郎のソロアルバム。いままでソロ活動はillion名義での活動となっていましたが、今回から本名、野田洋次郎での活動になるとか。楽曲的にはエレクトロを取り入れたり、HIP HOPやトラップの曲があったり、ジャジーな曲があったりと、様々なサウンドに挑戦しており、RADWIMPSとして演れないことをソロとして演っているというスタンスはillionと同様。ただ、かなり実験性の強かったillion名義の曲と比べると、基本的にメロディアスでポップな曲がメイン。そういう意味で頭でっかちさを感じたillionと比べると、ポップな要素とのバランスは良くなったように感じます。ただ一方、メロディーのインパクトという面は、やはりちょっと物足りなさは否めず、様々なサウンドに挑戦したため、アルバム全体としてもとっちらかしているような印象も。まあ、あくまでもRADWIMPSの活動がありきで、そこで演りきれない部分をソロで演っているといった感じなのでしょう。
評価:★★★★
F(U)NTASY/木村カエラ
メジャーデビュー20周年を記念してリリースされた5曲入りのEP盤。特に彼女自身が作詞した「Twenty」は、この20年間を振り返りつつ、未来を見据える、20周年を記念すべき楽曲となっています。この曲を含めて5曲、どれも陽気で明るいポップな楽曲が並んでおり、木村カエラの良さを、より前に押し出したような作品に。アニバーサリーイヤーを記念するにふさわしいEPに仕上がっていました。
評価:★★★★
木村カエラ 過去の作品
+1
HOCUS POCUS
5years
8EIGHT8
Sync
ROCK
10years
MIETA
PUNKY
¿WHO?
いちご
ZIG ZAG
KAELA presents on-line LIVE 2020 “NEVERLAND”
MAGNETIC
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2024年」カテゴリの記事
- 「アニソン」の歴史も感じる、充実の12枚組ボックスセット(2024.12.29)
- 沖縄独自の結婚式文化を楽しめるコンピレーション(2024.12.28)
- 「ライブアルバム」というよりは・・・(2024.12.23)
- ロック志向、ルーツ志向の強い35年目のアルバム(2024.12.20)
- オリジナルとは全く異なる魅力を感じる傑作(2024.12.17)
コメント