かつて日本にあった文化の貴重な記録
かつて、日本では「瞽女」と呼ばれる盲目の女芸人がいました。三味線を携えて、全国の村々で歌を唄いながら渡り歩いたそうで、特に江戸時代には、ほぼ全国的に活動していたそうです。以前、当サイトでも、その瞽女について取り上げた本を紹介しましたが、その時から、瞽女うたがどのようなものか気になっていました。その本を紹介したのももう10年も前になるのですが・・・その瞽女うたを録音した貴重な音源が収録されたCDが復刻された、ということでこのたび聴いてみました。
Title:瞽女うた-長岡瞽女篇
瞽女は主に新潟で、長岡瞽女と高田瞽女が最も大きな集団だったそうですが、まずこちらは長岡瞽女の録音を収録した1枚。長岡瞽女の最後の瞽女となった金子セキ、中静ミサオを中心として、昭和33年から昭和51年までの録音が収録されています。
Title:瞽女うたⅡ-高田瞽女篇
こちらは瞽女のもう片方のグループである高田瞽女の、こちらも最後の瞽女となった杉本キクイ、杉本シズ、難波コトミの3名による録音。昭和29年から昭和44年にかけての録音が収録されています。
この瞽女うたという文化、盲目の女性芸人による文化であるという点、雪深い新潟の芸能であるという点、また、このジャケットもいかにもおどろおどろしい絵となっている点からも、いかにも前近代的な、世間から虐げられたような人たちの心の叫び・・・みたいにとらえてしまいがちですが、この奏でられる唄を聴くと、そんな雰囲気はほとんどなく、むしろ「明るい」とすら感じます。これは、書籍「瞽女うた」の感想でも書いたのですが、彼女たちの唄は、決して自分たちの心境を吐露するような歌でも、辛い労働を少しでもやわらげるため歌うような労働歌でも、同一地域の人たちだけが楽しむような民謡でもなく、広い地域の人たちを楽しませるための唄であり、いわば「エンタテイメント」である、という点が大きいのでしょう。
だから、新潟の瞽女にも関わらず「鹿児島小原節」も歌っていますし、「松前口説」や「三河万歳」なども歌っています。ここらへんの地域を問わず、おそらくその地域地域で親しまれた歌を自由に歌うスタイルは、いかにも彼女たちが「エンタテイナー」であったことを物語っていますし、また、その歌声にもどこか明るさも感じさせます。軽快な歌声を聴かせるような曲があったかと思えば、同じ節回しで淡々と物語を語るような「葛の葉子別れ」のような曲もあったりと、楽曲にバリエーションがあるものまた、様々なスタイルで聴き手を楽しませようとしているからなのでしょう。
どちらも非常に貴重な音源。じっくりと楽しむというよりも、昔、確かに日本に存在した文化を残した記録音源という意味合いが強いのですが、興味があれば是非とも聴きたいCDだと思います。
評価:どちらも★★★★★
そして、今回、同時に復刻していたため、購入して視聴してみたのがこのDVDでした。
記録映画「瞽女さんの唄が聞こえる」。昭和46年に、まだギリギリ健在であった高田瞽女の最後の3人、杉本キクイ、杉本シズ、難波コトミの3人の瞽女としての活動や生活を追ったドキュメンタリー。前述のCD「瞽女うたⅡ」を収録した3名でもあります。「記録映画」といっても、全35分弱のテレビドキュメンタリー的な内容。3人の普段の生活ぶりから、旅の模様まで収録されており、瞽女という文化がなくなった今となっては、ある意味、CD以上に貴重な映像資料となっています。
瞽女の記録映像の部分は基本的に白黒映像とはいえ、画像の状況はかなり良く、彼女たちを記録するのにギリギリ間に合った、といった感想も抱きます。記録映画の後には瞽女唄も収録されており、瞽女がどういう人だったのか、どのような唄を歌っていたのか、またどのような文化だったのか、ということがよくわかるようにまとめられており、あえて言えば瞽女について知りたい、といのであれば、まずこのDVDを見ればよい、という内容になっています。
このCDとDVD、さらには前述の書籍を一通り読むことによって、おそらくこの瞽女という文化をよく理解できるのではないでしょうか。現在、瞽女唄を歌い継いでいる方はいるようですが、基本的にもう旅に出ることはありませんし、瞽女という文化はなくなってしまいました。その点について、記録映画では「惜しいこと」のように語っている部分もありますが、ただ私はそうとは思いません。もともとこの瞽女という文化は、前近代的で福祉制度も人権制度も十分ではなかった時代に、盲目の人が生きて行くために支え合った自助的な文化。記録映画の中でも語られていますが、当時盲目の女性は瞽女になるか按摩になるかしか選択肢がなかった時代の文化です。人権という考えが確立され、福祉制度も進んだ現在において、盲目の方でも普通に様々な職業に就職でき、社会活動を営めるようになった現在では、瞽女という文化がなくなった、というのは当然と言えるでしょう。ただ、このような形で音源や映像の形で、その文化をギリギリ記録できたというのは、幸いだったように思います。かつて日本にあった文化の貴重な記録に触れることが出来たCDとDVDでした。
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