すごみを感じる最期のパフォーマンス
Title:Opus
Musician:坂本龍一
昨年3月、71歳で惜しまれつつこの世を去った音楽家、坂本龍一。本作は、今年4月に公開された、彼のコンサート映画の音源を収録したアルバム。2022年9月に、彼が「日本でいちばん音のいいスタジオ」と評する東京のNHK509スタジオで、ヤマハのグランドピアノのみで演奏された模様を収録したものとなります。
もともと、本作の一部は2022年の12月にピアノソロコンサート「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022」としてオンライン配信されました。私もその時、リアルタイムで鑑賞し、その感想を当サイトにもアップしています。今回の作品はいわばその時のライブの完全版。本作収録の20曲中12曲は、オンラインライブで配信済。8曲については、この映画で初公開となっています。
本作で、やはりまずは注目したいのはその選曲でしょう。本作を収録した段階で、これが最期であることを意識したパフォーマンスとなっていた訳ですが、選曲は彼の音楽活動を総括する形で、彼自身が選曲した20曲。それだけに、その選曲にも深い意味を感じられます。例えば本作の冒頭を飾るのが「Lack Of Love」という、ドリームキャストのゲームに提供した楽曲からスタートという点で、かなり意外性のある選曲。ゲームへの楽曲提供というのも異色的な作品ながらも、とても悲しげなメロディーが印象に残る楽曲で、それだけ思い入れのある1曲ということだったのでしょうか。
この曲に限らず、比較的、知る人ぞ知る的な楽曲が並ぶ作品となっており、いわばベスト盤的な選曲とは全く異なります。ただ、その後も、「BB」は、彼が出演した映画「ラストエンペラー」の監督であるベルナルド・ベルトルッチへ捧げた1曲だそうで、2018年に亡くなった彼への弔いの1曲。さらに「for Johann」も同じく、2018年に亡くなった音楽家のヨハン・ヨハンソンへ捧げた1曲だそうで、このような選曲を行うあたりも、彼なりの活動の集大成、そしていままでかかわってきた人たちへの感謝の気持ちを感じさせます。
さらに「Aqua」は彼の愛娘、坂本美雨への楽曲。この選曲に関しても、父親としての愛情を感じられます。また、YMOのナンバーとしても「TongPoo」が選曲されています。こちらもピアノアレンジすることにより際立つメロディーラインの美しさが印象的。そして、彼の最後のアルバムとなった「12」からも「20220302 - sarabande」「20180219」も選曲。特に、「20180219」は、ピアノの弦に、様々な「異物」を挟むことによって独特の音が鳴るように仕組まれたPrepared Pianoを使用。最後の最後まで実験精神を感じられる演奏になっています。
そして、ラストから3曲前の楽曲が「Happy End」というのも、彼らしいウィットさを感じます。さらにそこから彼の代表曲ともいえる「Merry Christmas Mr.Lawrence」へ。ハイライトにこの曲を持ってくるあたりは、彼のこの曲へ関する思い入れの深さも感じさせる選曲となっていました。
全20曲、1時間36分に及ぶパフォーマンス。グランドピアノ1本で静かに聴かせる演奏が続きます。ただ、オンラインライブの時にも感じたのですが、これが最期であるということを意識したパフォーマンスは、まさに鬼気迫るもの。ピアノだけで研ぎ澄まされた演奏はシンプルながらも、いやシンプルだからこそ、耳を惹きつけて離しません。やはりそれ以上にすごいのは演奏の迫力。はっきり言って、これが最期だとはとても感じられません。ピアノのタッチも非常に力強く、衰えなどは全くありません。それだけ、このパフォーマンスにかける意気込みも感じられました。
映画は残念ながら見ることが出来なかったのですが、DVDなどもリリースされているので、機会があればそちらもチェックしてみたいところ。あらためて音楽家坂本龍一のすごさを感じされた作品でした。
評価:★★★★★
坂本龍一 過去の作品
out of noise
UTAU(大貫妙子&坂本龍一)
flumina(fennesz+sakamoto)
playing the piano usa 2010/korea 2011-ustream viewers selection-
THREE
Playing The Orchestra 2013
Year Book 2005-2014
The Best of 'Playing the Orchestra 2014'
Year Book 1971-1979
async
Year Book 1980-1984
ASYNC-REMODELS
Year Book 1985-1989
「天命の城」オリジナル・サウンドトラック
BTTB-20th Anniversary Edition-
BLACK MIRROR : SMITHEREENS ORIGINAL SOUND TRACK
Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020
12
サウンドトラック「怪物」
TRAVESIA RYUICHI SAKAMOTO CURATED BY INARRITU
The Best of Tohoku Youth Orchestra 2013~2023(東北ユースオーケストラと坂本龍一)
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