偉大なるドラマーへ捧げる評伝
今日は最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。
世界を代表するロックンロールバンド、THE ROLLING STONES。そのオリジナルメンバーでありドラマーのチャーリー・ワッツ。2021年に80歳で惜しまれつつこの世を去った彼。偉大なるバンド、ローリング・ストーンズの独特のリズムを担っていたメンバーの死は音楽シーンに大きなショックを与えました。本作は、そんなチャーリー・ワッツの生涯を綴った公認の評伝「チャーリー・ワッツ公認評伝 人生と時代とストーンズ」(原題 Charlie’s Good Tonight: The Life, the Times, and the rolling Stones:The Authorized Biography of Charlie Watts)。作者は30年以上にわたりストーンズの取材を続けてきたジャーナリストのポール・セクストン。「公認評伝」というタイトルの通り、遺族からの承諾も取れた1冊となっているそうです。2022年9月にまずは本国イギリスで出版。昨年8月に邦訳が日本でも出版され、私も遅ればせながら本書を読んでみました。
全392ページからなる、かなりの重厚感もある本作。遺族からのインタビューも多数収録されているほか、前文にはミックとキースがコメントを寄せています。全9章から成り立つ本書は、チャーリー・ワッツの人生が、ストーンズの歩みと共に語られているほか、章の間には「バックビート」と称して、そのチャーリー・ワッツの人柄に関する様々なエピソードも挿入されています。
やはり本書を読んで強く印象付けられるのは、間違いなくチャーリー・ワッツの人柄の部分でしょう。いままでもわかってはいたことなのですが、破天荒なミックやキースと比べると、彼の性格を一言で言えば、圧倒的な常識人。バンドを離れた彼は、なによりも家族を大切にする心優しき英国紳士。ストーンズのメンバーの中で唯一離婚歴がないのは彼ですし、また、ストーンズといえば(特にキース)、薬物というイメージとは切っても切り離せない中、チャーリーも一応経験こそあるようですが、ほぼ無縁。ストーンズという世界を代表する巨大バンドのメンバーでありながらも、彼の日常のエピソードは、そんな常識人としてのエピソードが多く、奇人変人的なエピソードの多いミックやキースと比べると、読んでいて親しみやすさすら感じられました。
ただ一方で、もちろん、あのストーンズのドラマーとして第一線で活動し続けた彼が、凡人と同様の「一般人」である訳はありません。特に要所要所に感じさせる彼の「こだわり」のエピソードも数多く紹介されています。特にファッションに関しては、かなりのこだわりがあったようで、そんな彼のファッションに対する思いを感じさせる話や、またコレクター気質もあったそうで、そんなエピソードも数多く紹介されています。すごく下世話な言い方をすると「おたく気質」があったんだろうな、と感じてしまうチャーリー。ただ、そんなこだわりのエピソードもまた、どこか親近感も覚えてしまいます。
また、特にストーンズに関する興味深いエピソードとしては、彼自身、非常に音楽に対して幅広い好奇心を示していたという点。ストーンズと言えば、スタートはブルースの影響を強く受けたバンドだったのですが、その後、時代が下るとレゲエやディスコなどの要素を取り入れた曲も発表しているのですが、どちらかというと新しいジャンルの音楽に関して消極的なキースに対して、ミックと、そしてチャーリーはそういった新しいジャンルの音楽をかなりポジティブに捉えていたエピソードが語られています。チャーリーと言えば、もともとはジャズドラマーとしてそのキャリアをスタートさせており、生涯、ジャズを愛好していたことはよく知られていますし、また、クラシック音楽に対しても興味があったとか。ジャンルを問わず、様々な音楽へと興味を抱いていたエピソードの数々には、彼が心の底から音楽が好きだったんだろうなぁ、ということを強く感じました。晩年、インターネットに対してはほとんど興味を示さなかったそうで、音楽とそれ以外のテクノロジー的な部分との興味の持ち方への差がまたユニークにも感じました。
本当にチャーリー・ワッツに関する、そして彼に関連するストーンズに関するエピソード満載の評伝で、ワクワクしながら読み進めることが出来た1冊となっていました。また、もうひとつ大きな特徴だったのは、洋書の和訳本なのですが、日本語が非常に読みやすかったという点。音楽関連の評論書の邦訳本などは、和訳がこなれていない部分が多く、読んでいて非常に読みにくいというケースも多々あるのですが、本書に関しては和訳を手掛けた久保田祐子の文章力が優れている影響でしょうか、違和感なく読み進められる和訳となっており、スラスラと読み進めることが出来ました。
チャーリー・ワッツのファンはもちろんですが、まずはTHE ROLLING STONESが好きだったのならば、間違いなくお勧めした評伝。かなりボリュームがある内容ですが、興味深いエピソード満載で読み応えもあり、一気に読み進めることが出来た1冊。チャーリー・ワッツという人物の人柄が伝わってきて、また彼がいかに素晴らしい人物であったか、ということをあらためて感じられた評伝でした。
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