バラエティーの増した3作目
Title:This Is How Tomorrow Moves
Musician:beabadoobee
イギリスのシンガーソングライター、beabadoobee(ビーバドゥービー)の3枚目となるニューアルバム。デビュー作「Fake It Flower」からいきなり話題となりブレイク。2022年にはサマソニにも来日し、話題となりました。そして本作では初の全英チャート1位を獲得。さらなる飛躍を果たしたアルバムとなりました。
もともと彼女は、90年代オルタナ系ロックからの影響を公言しており、デビュー作もその方向性に沿ったアルバムになっていました。ただ一方、2枚目となる前作「Beatopia」ではギターロック路線からポップ路線に大きなシフト。その後の方向性にも注目を集めました。
そしてリリースされた3作目。結果としては前作を踏襲するポップ路線のアルバムになっていました。もっと言えば、楽曲のバリエーションは増えて、ロックというよりもポップスシンガーであることを前に押し出したような作風に。売上面では前作はデビュー作を上回っただけに、その路線を続けるということなのでしょう。
とはいえまず序盤は、基本的に彼のルーツであるギターロック路線の楽曲からスタートしています。哀愁たっぷりのギターロック「Take A Bite」からスタートし、続く「California」は、まさに90年代のグランジ系のサウンドを踏襲したギターロック路線。ミディアムチューンの「One Time」も力強いバンドサウンドが特徴的な楽曲となっています。
ただ、楽曲の雰囲気が変わるのは中盤以降。ピアノも入ってレトロ調のポップスとなっている「Real man」に、フォーキーな「Tie My Shoes」。さらに「Girl Song」はピアノの弾き語りでしんみり聴かせるナンバーに、トラッド風の「Ever Seen」やメロウでけだるい、南国風のサウンドが特徴的な「A Cruel Affair」と、様々な作風の曲が展開していきます。
アルバムとしては非常にバラエティーの飛んだ作風となっているのですが、ただそれでもアルバム全体として統一感があり、強い魅力を感じさせるのは、やはり彼女の最大の魅力であるポップでキュートなメロディーラインがあるからでしょう。先行シングルにもなっている「Coming Home」は、まさにそんなキュートなポップが魅力的なアコースティックのナンバーになっていますし、特にアルバム終盤の「The Man Who Left Too Soon」や「This Is How It Went」はアコースティックベースのシンプルなサウンドをバックに、キュートでメロディーラインが特徴的な曲で締めくくられており、アルバムを聴き終わった後、そんなイメージをより強く印象付ける構成になっていました。
ギターロックという統一感のあったデビュー作などに比べると、アルバムの統一感が薄れた影響でちょっと最初、地味という印象も抱く作品になっていました。ただ、キュートなメロはやはり大きな魅力で、何度か聴いてみると、優れたポップアルバムということに気が付きました。いい意味で万人受けするポップ路線の楽曲が並んでいますので、洋楽を普段聴かないようなリスナー層にもアピールできそうなポピュラリティーがあります。サマソニにも出演しましたし、日本でももっと知名度があがっていいように感じるシンガー。個人的にデビュー作のようなギターロック路線のアルバムをまた聴きたいとは思ってしまうのですが・・・これはこれで魅力的な傑作でした。
評価:★★★★★
beabadoobee過去の作品
Fake It Flowers
Beatopia
ほかに聴いたアルバム
Milton+esperanza/Milton Nascimento&Esperanza Spalding
ジャズベーシストであり、グラミー賞受賞歴もあるエスペランサ・スポルディングと、「ブラジルの声」という異名を持つ、ブラジルを代表するシンガーソングライター、ミルトン・ナリメントが組んでリリースしたアルバム。ピアノやフルート、アコースティックギターなど、アコースティックな楽器をベースに、ジャジーでメロウに聴かせる歌が魅力的。基本的にエスペランサがメインボーカルを取っているものの、ミルトン・ナリメントは御年80歳ながらも、さすが「ブラジルの声」という異名を持つ彼だけに、いまなお力強く、そしてセクシーな魅力を感じさせるボーカルを聴くことが出来ます。ジャズをベースに、ちょっとラテンの要素も入った音楽性も独特でユニーク。コラボの相性の良さも感じるアルバムでした。
評価:★★★★★
3rd Shift/J.U.S.×SQUADDA B
アメリカはデトロイトのラッパー、J.U.Sと、同じくアメリカ・オークランドのラッパーでプロデューサーのSQUADDA Bによるコラボアルバム。ダークでメランコリックなトラップベースのリズミカルなトラックに、ダウナー気味ながらもリズミカルなラップが重なるスタイル。全14曲で28分という短さもあって、いい意味でサクサク聴ける内容になっており、ポピュラリティーも十分。テンポよいリズムとラップの楽しめるアルバムでした。
評価:★★★★★
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