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2024年10月

2024年10月 8日 (火)

バラエティーの増した3作目

Title:This Is How Tomorrow Moves
Musician:beabadoobee

イギリスのシンガーソングライター、beabadoobee(ビーバドゥービー)の3枚目となるニューアルバム。デビュー作「Fake It Flower」からいきなり話題となりブレイク。2022年にはサマソニにも来日し、話題となりました。そして本作では初の全英チャート1位を獲得。さらなる飛躍を果たしたアルバムとなりました。

もともと彼女は、90年代オルタナ系ロックからの影響を公言しており、デビュー作もその方向性に沿ったアルバムになっていました。ただ一方、2枚目となる前作「Beatopia」ではギターロック路線からポップ路線に大きなシフト。その後の方向性にも注目を集めました。

そしてリリースされた3作目。結果としては前作を踏襲するポップ路線のアルバムになっていました。もっと言えば、楽曲のバリエーションは増えて、ロックというよりもポップスシンガーであることを前に押し出したような作風に。売上面では前作はデビュー作を上回っただけに、その路線を続けるということなのでしょう。

とはいえまず序盤は、基本的に彼のルーツであるギターロック路線の楽曲からスタートしています。哀愁たっぷりのギターロック「Take A Bite」からスタートし、続く「California」は、まさに90年代のグランジ系のサウンドを踏襲したギターロック路線。ミディアムチューンの「One Time」も力強いバンドサウンドが特徴的な楽曲となっています。

 ただ、楽曲の雰囲気が変わるのは中盤以降。ピアノも入ってレトロ調のポップスとなっている「Real man」に、フォーキーな「Tie My Shoes」。さらに「Girl Song」はピアノの弾き語りでしんみり聴かせるナンバーに、トラッド風の「Ever Seen」やメロウでけだるい、南国風のサウンドが特徴的な「A Cruel Affair」と、様々な作風の曲が展開していきます。

アルバムとしては非常にバラエティーの飛んだ作風となっているのですが、ただそれでもアルバム全体として統一感があり、強い魅力を感じさせるのは、やはり彼女の最大の魅力であるポップでキュートなメロディーラインがあるからでしょう。先行シングルにもなっている「Coming Home」は、まさにそんなキュートなポップが魅力的なアコースティックのナンバーになっていますし、特にアルバム終盤の「The Man Who Left Too Soon」「This Is How It Went」はアコースティックベースのシンプルなサウンドをバックに、キュートでメロディーラインが特徴的な曲で締めくくられており、アルバムを聴き終わった後、そんなイメージをより強く印象付ける構成になっていました。

ギターロックという統一感のあったデビュー作などに比べると、アルバムの統一感が薄れた影響でちょっと最初、地味という印象も抱く作品になっていました。ただ、キュートなメロはやはり大きな魅力で、何度か聴いてみると、優れたポップアルバムということに気が付きました。いい意味で万人受けするポップ路線の楽曲が並んでいますので、洋楽を普段聴かないようなリスナー層にもアピールできそうなポピュラリティーがあります。サマソニにも出演しましたし、日本でももっと知名度があがっていいように感じるシンガー。個人的にデビュー作のようなギターロック路線のアルバムをまた聴きたいとは思ってしまうのですが・・・これはこれで魅力的な傑作でした。

評価:★★★★★

beabadoobee過去の作品
Fake It Flowers
Beatopia


ほかに聴いたアルバム

Milton+esperanza/Milton Nascimento&Esperanza Spalding

ジャズベーシストであり、グラミー賞受賞歴もあるエスペランサ・スポルディングと、「ブラジルの声」という異名を持つ、ブラジルを代表するシンガーソングライター、ミルトン・ナリメントが組んでリリースしたアルバム。ピアノやフルート、アコースティックギターなど、アコースティックな楽器をベースに、ジャジーでメロウに聴かせる歌が魅力的。基本的にエスペランサがメインボーカルを取っているものの、ミルトン・ナリメントは御年80歳ながらも、さすが「ブラジルの声」という異名を持つ彼だけに、いまなお力強く、そしてセクシーな魅力を感じさせるボーカルを聴くことが出来ます。ジャズをベースに、ちょっとラテンの要素も入った音楽性も独特でユニーク。コラボの相性の良さも感じるアルバムでした。

評価:★★★★★

3rd Shift/J.U.S.×SQUADDA B

Jus_3rd

アメリカはデトロイトのラッパー、J.U.Sと、同じくアメリカ・オークランドのラッパーでプロデューサーのSQUADDA Bによるコラボアルバム。ダークでメランコリックなトラップベースのリズミカルなトラックに、ダウナー気味ながらもリズミカルなラップが重なるスタイル。全14曲で28分という短さもあって、いい意味でサクサク聴ける内容になっており、ポピュラリティーも十分。テンポよいリズムとラップの楽しめるアルバムでした。

評価:★★★★★

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2024年10月 7日 (月)

コミカルさも感じるテクノが心地よい

Title:DONGRHYTHM
Musician:どんぐりず

最近、注目を集めているエレクトロユニット、どんぐりず。2022年にはフジロックに初出演。深夜時間帯にも関わらず、入場制限が生じるなど、大反響を巻き起こしたそうで、その後もサマソニなどに出演し、大きな話題を呼びました。メンバーはラッパーの森とトラックメイカーのチョモの2人組ユニット。本作が4作目となるオリジナルアルバムとなります。

このアルバムに最初に出会ったのは、実は某タワーレコードの試聴機コーナー。最近では、CDショップに行く回数もめっきり減ってしまったのですが、行って、試聴機コーナーでいろいろと聴いてみると、今でもよくおもしろそうなアルバムに出会うのですが、本作は、なにげなく試聴してみた1枚が、かなりのヒットだった作品。名前だけはどこかで聴いたような・・・程度の認識だったのですが、今回はじめてアルバムを聴いてみました。

楽曲は、ジャンル的にはテクノ、ハウス。リズミカルなビートを全編に聴かせる、あえて言えばかなり王道的、ストレートな作風といった感じ。基本的にはエレクトロのビートに森のラップが加わるようなスタイル。サウンドやメロディーラインは至ってポップでどこかコミカルさも感じられます。

このどこかユーモアさを感じさせるテクノミュージックというスタイルは比較的広い範疇で、電気グルーヴとの類似性も感じさせます。実際、「Onsen」は、歌詞やメロディーの節回しも含めて完全に電気グルーヴっぽい感じになっており、正直、人によっては怒る人も出てくるかも・・・・・・。

ただ、電気グルーヴっぽい楽曲はこの曲くらいで、他の曲に関しては、例えば「Hacha Mecha」はどちらかというとUNDERWORLDっぽさを感じさせるテクノチューン。ただ、和風な横笛の音色がここに加わっているのがユニークな作風に。「bingo bango bongo」もタイトルそのまま、ラテン風のリズムがユニークな作品に。「Rapa Dan Dan」はスペーシーなエレクトロチューンと、バリエーションも感じさせます。また、電気グルーヴとの比較という観点で言えば、ラッパーがユニットに入っているように、基本的にはエレクトロのトラックとラップという組み合わせとなっており、その点も大きな違いでしょうか。個人的には主に2000年代に活動していたヒップホップユニット、アルファに近いような雰囲気も感じました。

ポップでコミカルなエレクトロチューンがとにかく楽しく、インパクトも十分。難しいこと抜きに楽しめるアルバムでした。正直、まだサウンド的にいろいろと挑戦している感もあり、前述のように電気グルーヴやUNDERWORLD、アルファとの類似性が感じられるように「これがどんぐりずの音だ!」とはっきりと確立したものはまだ完成されていない部分もあります。ただ、逆にだからこそ、まだまだ伸びしろを感じられるユニット。確かに各所で注目のグループとして名前があがるのも納得の1枚でした。

評価:★★★★★

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2024年10月 6日 (日)

James Blakeらしい楽曲にHIP HOPの要素をプラス

Title:Bad Cameo
Musician:James Blake,Lil Yachty

Badcameo

イギリスのエレクトロミュージシャン、James Blakeの最新作。デビュー作「James Blake」が大きな話題となり一躍ブレイクした後、最近では2019年にリリースした「Assume Form」がグラミー賞にノミネート。現時点での最新アルバム「Playing Robots into Heaven」も、原点回帰的な傑作アルバムに仕上がっていました。

そんな彼の最新作は、アメリカのHIP HOPミュージシャン、リル・ヨッティとのコラボレーションアルバム。彼も2018年にリリースしたアルバム「Lil Boat 2」が全米ビルボードチャートで2位を獲得するなど大ヒットを記録。昨年リリースした「Let's Start Here」も最高位9位を記録するなど、大人気のミュージシャンです。

イギリスのエレクトロミュージシャンとアメリカのHIP HOPミュージシャン・・・意外といった感じまでは受けないものの、なかなか興味深い組み合わせですが、ただ、基本的にはJames Blakeの楽曲の方向性がベースとなっている作品だったと思います。冒頭を飾る「Save The Savior」は、重厚なエレクトロサウンドをベースに、メランコリックなメロディーの流れる楽曲。リル・ヨッティのラップも加わっていますが、まずはそのJames Blakeがファルセット気味に美しく歌い上げる、その「歌」に耳がいきます。

続く「In Grey」もドリーミーなエレクトロサウンドに耳がいく、メランコリックでメロディアスな作品。「Midnight」もファルセット気味に聴かせるJames Blakeの切なくメランコリックな歌が強く印象に残ります。中盤以降も、特に「Run Away From The Rabbit」などは、静かなピアノの音が流れる中、子供のコーラスラインも入って荘厳さも感じさせる「歌」が印象的な、James Blakeらしい作風の曲になっていますし、最後の「Red Carpet」も荘厳に歌を聴かせる楽曲で締めくくり。おそらく、James Blakeが好きならば気に入りそうな、そんなアルバムになっていたと思います。

もちろん、一方ではリル・ヨッティとのコラボらしさを見せる部分ももちろん要所要所に感じられます。「Woo」などはリル・ヨッティのラップも目立つ作品で、メランコリックなJames Blakeの歌が前面に立ちつつも、リズムにはHIP HOP的な要素も感じます。また「Twice」も、同じくループするトラックにHIP HOPからの影響を強く感じさせる作品に。James Blakeのメランコリックな歌に、リル・ヨッティのラップも効果的に加わっており、コラボらしい作品となっています。

James Blakeは前作も傑作でしたし、本作についても、彼自身、目新しいスタイルを提示している感じではないものの、ドリーミーなサウンドとメランコリックなその歌は非常に魅力的。そこにリル・ヨッティのHIP HOP的な要素が程よく組み込まれており、心地のよさを感じさせる傑作に仕上がっていました。非常に程よいコラボアルバムです。

評価:★★★★★

JAMES BLAKE 過去の作品
JAMES BLAKE
ENOUGH THUNDER
OVERGROWN
The Colour In Anything
Assume From
Covers
Friends That Break Your Heart
Playing Robots Into Heaven


ほかに聴いたアルバム

Ultimate Love Songs Collection/DORIS

Ultimate-doris

日本語の情報がほとんどないので、ちょっと謎な部分も大きいのですが・・・アメリカ・ニュージャージー州出身のHIP HOPミュージシャンによる最新作。ジャンル的には「オルタナティブ・ヒップホップ」にカテゴライズされるミュージシャンのようで、49分弱という長さながらも、脅威の50曲入りというアルバム。様々なサウンドや曲がサンプリングされた楽曲が並び、日本人にもおなじみなカーディガンズ(懐かしい!)の曲もサンプリング。様々なアイディアが次から次へと展開されるようなアルバムといった感じで、ただ、全体的にはメロウな女性ボーカルの歌と男性ラッパーという組み合わせと、ループするトラックという構成がメイン。次から次へと展開していくサウンドに、最後まで耳を離せないようなアルバムになっていました。

評価:★★★★

No More Water: The Gospel of James Baldwin/Meshell Ndegeocello

ネオソウルの先駆け的存在とも言われているアメリカのシンガーソングライターによる最新作。前作「The Omnichord Real Book」ではじめて彼のアルバムを聴き、そのきっかけは、Music Magazine誌のジャズ部門での年間ベスト1位獲得だったのですが、本作はジャズというよりもソウルのアルバムといった感じ。ただ、トライバルなビートを入れてきたり、ジャジーなサウンドを入れてきたりと、バラエティーもあり一言では言い表せない複雑さがあります。一方で軸となる「歌」はソウルフルでメロウに聴かせる、比較的いい意味で広い層が楽しめそうなソウルのナンバーに仕上げており、そういう意味ではポピュラリティーとのバランスがほどよく取れたアルバムにも感じました。

評価:★★★★★

Meshell Ndegeocello 過去の作品
The Omnichord Real Book

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2024年10月 5日 (土)

60年代ブリティッシュ・ロックの奥深さを知る

今回は、最近読んだ音楽関連の書籍の感想です。

MUSIC MAGAZINE増刊のアルバム・セレクションシリーズの最新作。「60年代ブリティッシュ・ロック」。同シリーズは音楽雑誌の「ミュージック・マガジン」の増刊として発行しているディスクガイドの1冊。当サイトでもいままで何度か紹介してきましたが、最新シリーズは音楽評論家の大鷹俊一監修により、タイトル通り、60年代のイギリスのロックのアルバムを紹介する1冊となっています。

基本的にはディスクガイドとして非常にオーソドックスな1冊。本書に限らず、当シリーズは同じような構成なのですが、前半はミュージシャン毎にコーナーが設けられ、各ミュージシャンの略歴と代表的なアルバム数枚の紹介。ここではビートルズ、ストーンズにはじまり、キンクスやTHE WHO、ジミヘンやCREAM、ピンク・フロイドにキング・クリムゾン、デイヴィット・ボウイまで60年代イギリスの代表的なミュージシャンがズラリと並びます。ジミヘンはアメリカのミュージシャンですが、デビューはイギリスなのでこちらの枠組みということなのでしょう。

後半は1960年から1969年までのアルバムを、1年毎に区切ってリリース順に紹介。こちらにはレッドツェッペリンやエルトン・ジョンのアルバムも紹介。時代に沿ったイギリスのロックシーンの流れをつかむことが出来ます。どちらもセレクトされているミュージシャン、アルバムについては基本のミュージシャンやアルバムがしっかり抑えられており、「入門書」としてもしっかり機能するようなアルバムとなっています。

さて、本書を読んで驚かされた点が2点あります。それが、1960年代におけるイギリスのロックシーンの充実ぶりと、このわずか10年という期間のロックシーンの発展のすさまじさでした。

1960年代におけるイギリスのロックシーンの充実ぶりについては、本書のイントロダクションの冒頭に、監修の大鷹俊一自身で「60年代ブリティッシュ・シーンにはロックの魅力と秘密のすべてが詰まっている」と書いていますが、まさにその通り。ここで紹介されているイギリスのミュージシャンたちだけで、ほぼ60年代のロックシーンを語れてしまうのではないか、というほどのメンバーがそろっています。このディスクガイドでは、あらためてその事実を突きつけられて、あらためてこの時期のイギリスのロックシーンの充実ぶりに驚かされました。

これは単なる推測なのですが、イギリスという土地柄、アメリカと一定の距離があったために、アメリカで盛んになってきていたブルースやソウルというブラックミュージックを、差別的な感情なしに接することが出来、その結果、見事にブリティッシュ・ロックという形で花開いたのでしょう。もちろん、アメリカと同じ英語圏であり、歌がアメリカという巨大消費地で容易に受け入れられたという点も大きな要素なのでしょうが。

また、60年代というわずか10年でのロックの発展ぶりにも驚かされます。1960年のロックは、まさにオールディーズと呼ばれるようなシンプルなロックンロールだったのに、そこからわずか10年で、ブルースロックにサイケやプログレまで花開き、1969年にはキングクリムゾンの「In The Court Of The Crimson King」がリリースされているという発展のスピードには驚かされます。このディスクガイドで紹介されているミュージシャンやアルバムの登場が、わずか10年の間という事実には、あらためて驚かされました。

そんな本書なだけに、60年代ブリティッシュ・ロックの・・・というよりは、60年代のロックの入門書と言ってしまってもいいような1冊。アルバムの紹介も、ミュージシャンの略歴やアルバムリリースの背景にもちゃんと触れられており、その点でも入門書としてもピッタリの1冊だったと思います。あえていえば、ミュージシャンの略歴などで60年代で終わらせてしまっており、70年代以降の活躍があまり触れられていない点は、本書の性格として仕方ないとはいえ、ちょっと残念にも感じるのですが・・・。内容的にも比較的シンプルで、必要十分な知識がまとめられており、著者の好みや癖などもあまり感じられず、そういう意味でも非常にオーソドックスなディスクガイド。60年代ブリティッシュ・ロックの魅力をあらためて感じた1冊でした。

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2024年10月 4日 (金)

「お茶の間」対応(?)

Title:LOST CORNER
Musician:米津玄師

おそらく、今、もっとも日本で一番勢いのあるミュージシャンの一人である米津玄師の、約4年ぶりとなるニューアルバム。その充実ぶりは本作に収録されている曲にもあらわれています。アニメ「チェンソーマン」主題歌として大ヒットを記録した「KICK BACK」に、映画「シン・ウルトラマン」主題歌「M八七」、NHK朝ドラ「虎に翼」主題歌「さよーならまたいつか!」、さらには映画「君たちはどう生きるか」主題歌「地球儀」まで。アルバム自体、全20曲というボリューム感もさることながら、うち11曲が既発表曲という内容となっています。

その既発表曲の多くがタイアップ曲という点もまた、彼の勢いをあらわしているのですが、そのタイアップ先もまた特筆すべき感があり、ウルトラマン映画に、NHKの朝ドラにジブリ映画と、完全に「お茶の間レベル」の人気と知名度を確保しているタイアップ先ばかり。そういうこともあって、今回の米津玄師のアルバムも、「お茶の間対応」な作品といった感じがします。

「お茶の間対応」な作品というと、いかにもな売れ線の無難なミュージシャンという解釈をされそうですが、そうではなく、いい意味で広い層の支持を集めそうな、インパクトがあるヒットポテンシャルのある作品ばかりという意味。朝ドラ主題歌の「さよーならまたいつか!」も、ストリングスを入れつつ、ちょっと切ないメロが耳に残るインパクト強いメロディーラインが魅力的ですし、ウルトラマン映画の主題歌「M八七」もストリングスでスケール感を出しつつ、悲しげなメロディーラインが耳に残ります。特に印象的なのは、ジブリ映画主題歌の「地球儀」で、郷愁感のあって涙腺を刺激するような歌詞とメロディーラインが耳に残ります。

かつての米津玄師といえば、ネットコミュニティー発のミュージシャンらしく、パッと聴いただけでは聴き取りにくいような早口の歌詞や、これでもかというほど詰め込んだ過剰気味なアレンジに、少々リスナーを選ぶような幻想的な歌詞の世界観が特徴的だったのですが、今の彼の曲は、そういった聴く人を選ぶような要素はほとんどありません。そういう意味でも、「国民的ミュージシャン」になったんだな、ということも強く感じます。

ただ一方で、そういうかつての米津玄師の要素が完全に消えてなくなったか、というとそうではない点もまた彼の大きな魅力でしょう。アレンジにしろメロディーラインにしろ、複雑な要素は残しており、バンドサウンドにストリングスやエレクトロサウンドの要素を加えて、時としてサンプリングもうまく使用するスタイルは、かなり凝ったものを感じます。むしろ、デビュー当初は「過剰気味」と考えられたアレンジの複雑な要素を、うまく過剰さを感じさせないバランスの良さを身に着けたと言えるかもしれません。

歌詞の世界についても、どこか虚無的な部分というか、社会に疎外されたような人々の観点を残しているというか、朝ドラ主題歌の「さよーならまたいつか」にしても、「さよなら100年先でまた会いましょう」という歌詞に、今の時代にはまだ認められないような、主人公の疎外感と、そのような中での決意のようなものを感じさせます。「お茶の間」レベルのヒット曲を連続させながらも、どこか毒のような要素が潜んでいるのも大きな魅力に感じます。

要するに、デビュー当初の米津玄師からすっかり変わってしまった・・・というよりも、デビュー当初の彼のスタイルを、広いリスナー層にも受け入れてもらうために、ちゃんと彼のコアな部分を残した上でうまく変容させた、と言っていいかもしれません。そういう点でも彼の才能、実力を感じることが出来ます。

ただし、今回のアルバム、ちょっと気になったのは、ひとつのアルバムとしてのまとまりは悪く、ともすればプレイリスト的に感じてしまう、という点でした。YOASOBIやVaundyのように、既発表曲だけを並べ、アルバムに関しては完全にプレイリスト化してしまっているミュージシャンも少なくありませんが、本作の場合、半分近くがアルバム曲であり、その点、決して既発表曲の寄せ集め、といった感じではありません。

しかし、既発表曲についてバリエーションが多すぎて、アルバム全体としてのまとまりに欠ける部分があり、結果として数多いヒット曲が目立つため、プレイリスト的に感じてしまうのでしょう。比較的、既発表曲が多かったにもかかわらず、曲順を工夫することによって、「アルバム」的になっていた先日のヒゲダンのニューアルバムとはある意味対照的といったイメージも・・・。それも、それだけ米津玄師が様々な曲調に対応できる実力を持っているから、とも言えるのでしょうが。

もっとも、そんな点を差し引いても、本作が本年度ベストクラスの傑作であることは間違いないと思います。彼の勢いと実力を存分に詰め込んだ、そんなアルバム。あらためて彼のすごさを感じさせてくれました。

評価:★★★★★

米津玄師 過去の作品
diorama
YANKEE
Bremen
BOOTLEG
STRAY SHEEP


ほかに聴いたアルバム

進撃の記憶/Linked Horizon

Sound Horizonのタイアップ用名義であるLinked Horizon。特にいままで、テレビアニメ「進撃の巨人」関連には数多くの楽曲を提供してきていましたが、本作はそんな「進撃の巨人」関連の楽曲を集めたベスト盤。これでもか、というほどダイナミックで、仰々しい楽曲が並ぶ作品なのですが、「進撃の巨人」の世界観にもマッチしている感じで、以前のアルバムは聴いていてその仰々しさに胸焼け気味になったのですが、私自身聴きなれたためか、本作に関しては、そこまで胸焼け気味にならず最後まで楽しめたアルバムになっていました。

評価:★★★★

Sound Horizon 過去の作品
Moira
Marchen
Chronology[2005-2010]
Nein
進撃の軌跡(Linked Horizon)

BIRDMAN/和田唱

Birdmanwadasho

TRICERATOPSのボーカリストによる3枚目のソロアルバム。ルーツ志向のロックンロールというトライセラのスタイルとは大きく異なり、ピアノやストリングスを取り入れたサウンドや、打ち込みを取り入れたサウンドがメイン。メロディーラインは至ってポップなのはトライセラと同様ながらも、歌詞はパーソナルな心境を反映されたものがメイン。いままでの作品以上にポップスさが増した感もあり、さらにソロアルバムらしさが増した感のあるアルバム。ただ、トライセラはこのたび、無期限の活動休止を発表。本作は、その活動休止発表前にリリースされた作品ですが、ソロとバンドの差が顕著だっただけに、バンドはバンドで活動を続けるものと思っていました。バンドが活動休止になったとなると、ソロでの次回作はバンド色の強い楽曲が入ってくることになるのかなぁ。このアルバムリリース後にバンドが活動休止というのは、ちょっと意外にも感じられる、そんなソロらしいソロアルバムでした。

評価:★★★★

和田唱 過去の作品
地球 東京 僕の部屋
ALBUM.

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2024年10月 3日 (木)

コレサワが2週連続の1位!

今週のTikTok Weekly

https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=tiktok

先週のTikTokチャートで1位を獲得したコレサワ「元彼女のみなさまへ」が見事今週も1位をキープ。2週連続の1位獲得となっています。ちなみに通常のチャートだと、ストリーミング数で20位を獲得。今後のさらなるヒットもあるのでしょうか?


今週のHot Albums

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週も日本の男性アイドルグループが1位獲得です。

今週1位はNumber_i「No.I」が獲得。現在、TOBEに所属している、元King&Princeのメンバーによるアイドルグループ。本作がフルアルバムとしては1枚目のアルバムとなります。CD販売数及びダウンロード数で共に1位獲得。CDは公式サイトでの通販のみのようで、そのためオリコンチャートでは未反映となっています。

2位はWayV「The Highest」がランクイン。韓国の男性アイドルグループNCTより、中国系メンバーを集めたサブグループによる6曲入りのEP盤。CD販売数2位、ダウンロード数19位。オリコン週間アルバムランキングでは本作が初動売上6万2千枚を記録し、1位初登場。前作「Give Me That」はリリース5週目に8千枚を売り上げて5位にランクインしており、その時の売上を大きく上回る結果となっています。

3位は三枝明那「UniVerse」がランクイン。CD販売数3位、ダウンロード数9位。バーチャルYouTuberグループにじさんじ所属のバーチャルライバー。本作がデビュー作となります。オリコンでは初動売上5万9千枚で2位初登場。

続いて4位以下は、4位に男性アイドルグループAXXX1S「大変でエスケープ(^o^)/」が初登場。5位もスターダストプロモーション所属の男性アイドルグループICExのデビューアルバム「Retro Toy Pop」がランクイン。6位には、こちらもバーチャルYouTuberさくらみこ「flower rhapsody」がランクイン。8位にはメディアミックス作品「ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル ALL STARS」及び「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」に登場する架空のアイドルグループ虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会「どこにいても君は君」が初登場でランクイン。9位には、Mrs.GREEN APPLE「The White Lounge in CINEMA - Original Soundtrack -」が初登場。現在ヒット中の、Mrs.GREEN APPLEのライブドキュメンタリー映画「The White Lounge in CINEMA」の配信限定のサントラ盤。そして最後10位には、メイド姿で演奏する5人組ガールズハードロックバンドBAND-MAID「Epic Narratives」が初登場でランクインしています。


今週のHeatseekers Songs

https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=heat_seekers

今週のHeatseekers Songsは、先週と変わらず弌誠「モエチャッカファイア」が2週目の1位獲得。特に動画再生回数では2位を獲得。今後の総合チャートでの上位ランクインも期待されます。


今週のニコニコVOCALOID SONGS

https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=niconico

ボカロチャートは、サツキ「メズマライザー」が今週も1位。これで3週連続、通算8週目の1位獲得となっています。

今週のHot Albums&各種チャートは以上。チャート評はまた来週の水曜日に!

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2024年10月 2日 (水)

Mrs.GREEN APPLEの快進撃は続く

今週のHot100

http://www.billboard-japan.com/chart_insight/

今週、ベスト100圏内に15曲同時ランクインと話題となったMrs.GREEN APPLEですが、今週も快進撃が続いています。まず大ヒット中の「ライラック」は今週も2位をキープ。ストリーミング数は15週連続、動画再生回数も3週連続の1位。これで24週連続のベスト10ヒット&通算17週目のベスト3ヒットとなりました。

また、6位には先週4位だった「familie」が2ランクダウンながらもベスト10をキープ、「ケセラセラ」も9位から8位にアップし、通算28週目のベスト10ヒットを記録。さらに今週、「ダンスホール」が20位から10位に大きくアップ。昨年1月4日付チャート以来のベスト10返り咲き。これで今週は4曲同時ベスト10ヒットという記録に。さらには11位には「青と夏」、13位に「点描の唄 feat.井上苑子」、16位に「Soranji」と、ベスト20圏内に今週も7曲同時ランクインという結果になっています。

ただ、今週1位は旧ジャニーズ系。1位はHey!Say!JUMP「UMP」が獲得。CD販売数1位、ラジオオンエア数6位。オリコン週間シングルランキングでは初動売上21万6千枚で1位初登場。前作「DEAR MY LOVER」の初動24万2千枚(1位)からダウンしています。

3位はback number「新しい恋人達に」が先週から同順位をキープ。ダウンロード数は4位から5位にダウンしたものの、ストリーミング数が3位から2位にアップ。これで通算9週目のベスト10ヒット&通算4週目のベスト3ヒットとなrました。

続いて4位以下ですが、今週は初登場曲がゼロ。代わりに、あと1曲、ベスト10返り咲き曲がありました。それが10位の米津玄師「さよーならまたいつか!」。先週のベスト20圏外から一気にランクアップ。5月22日付チャート以来、19週ぶりのベスト10返り咲きとなります。特にダウンロード数がベスト20圏外から4位、動画再生回数も20位から5位と一気にアップ。9月27日で、本作が主題歌となっていたNHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」が最終回を迎えた影響でしょう。また、18日には、「虎に翼×米津玄師スペシャル」というスペシャル番組が放送された影響も大きそうです。

他のロングヒット曲は、まずこっちのけんと「はいよろこんで」が7位から4位にアップ。これで11週連続のベスト10ヒットになります。ダウンロード数は9位から3位にアップ。ストリーミング数は先週と変わらず8位をキープ。動画再生回数も先週から変わらず3位。ベスト3ヒットを伺う位置となってきましたが、ただその割にはストリーミング数が伸び悩んでいる感も・・・。

5位にはCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が先週の6位から再びアップ。こちらもストリーミング数は4週連続の5位、動画再生回数も3週連続の4位となっています。これで37週連続のベスト10ヒットとなります。

Omoinotake「幾億光年」も先週の8位から7位にアップ。こちらもストリーミング数は6週連続の4位をキープ。これで通算32週目のベスト10ヒットとなりました。

今週のHot100は以上。明日はHot Albums&各種チャート!

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2024年10月 1日 (火)

すごみを感じる最期のパフォーマンス

Title:Opus
Musician:坂本龍一

昨年3月、71歳で惜しまれつつこの世を去った音楽家、坂本龍一。本作は、今年4月に公開された、彼のコンサート映画の音源を収録したアルバム。2022年9月に、彼が「日本でいちばん音のいいスタジオ」と評する東京のNHK509スタジオで、ヤマハのグランドピアノのみで演奏された模様を収録したものとなります。

もともと、本作の一部は2022年の12月にピアノソロコンサート「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022」としてオンライン配信されました。私もその時、リアルタイムで鑑賞し、その感想を当サイトにもアップしています。今回の作品はいわばその時のライブの完全版。本作収録の20曲中12曲は、オンラインライブで配信済。8曲については、この映画で初公開となっています。

本作で、やはりまずは注目したいのはその選曲でしょう。本作を収録した段階で、これが最期であることを意識したパフォーマンスとなっていた訳ですが、選曲は彼の音楽活動を総括する形で、彼自身が選曲した20曲。それだけに、その選曲にも深い意味を感じられます。例えば本作の冒頭を飾るのが「Lack Of Love」という、ドリームキャストのゲームに提供した楽曲からスタートという点で、かなり意外性のある選曲。ゲームへの楽曲提供というのも異色的な作品ながらも、とても悲しげなメロディーが印象に残る楽曲で、それだけ思い入れのある1曲ということだったのでしょうか。

この曲に限らず、比較的、知る人ぞ知る的な楽曲が並ぶ作品となっており、いわばベスト盤的な選曲とは全く異なります。ただ、その後も、「BB」は、彼が出演した映画「ラストエンペラー」の監督であるベルナルド・ベルトルッチへ捧げた1曲だそうで、2018年に亡くなった彼への弔いの1曲。さらに「for Johann」も同じく、2018年に亡くなった音楽家のヨハン・ヨハンソンへ捧げた1曲だそうで、このような選曲を行うあたりも、彼なりの活動の集大成、そしていままでかかわってきた人たちへの感謝の気持ちを感じさせます。

さらに「Aqua」は彼の愛娘、坂本美雨への楽曲。この選曲に関しても、父親としての愛情を感じられます。また、YMOのナンバーとしても「TongPoo」が選曲されています。こちらもピアノアレンジすることにより際立つメロディーラインの美しさが印象的。そして、彼の最後のアルバムとなった「12」からも「20220302 - sarabande」「20180219」も選曲。特に、「20180219」は、ピアノの弦に、様々な「異物」を挟むことによって独特の音が鳴るように仕組まれたPrepared Pianoを使用。最後の最後まで実験精神を感じられる演奏になっています。

そして、ラストから3曲前の楽曲が「Happy End」というのも、彼らしいウィットさを感じます。さらにそこから彼の代表曲ともいえる「Merry Christmas Mr.Lawrence」へ。ハイライトにこの曲を持ってくるあたりは、彼のこの曲へ関する思い入れの深さも感じさせる選曲となっていました。

全20曲、1時間36分に及ぶパフォーマンス。グランドピアノ1本で静かに聴かせる演奏が続きます。ただ、オンラインライブの時にも感じたのですが、これが最期であるということを意識したパフォーマンスは、まさに鬼気迫るもの。ピアノだけで研ぎ澄まされた演奏はシンプルながらも、いやシンプルだからこそ、耳を惹きつけて離しません。やはりそれ以上にすごいのは演奏の迫力。はっきり言って、これが最期だとはとても感じられません。ピアノのタッチも非常に力強く、衰えなどは全くありません。それだけ、このパフォーマンスにかける意気込みも感じられました。

映画は残念ながら見ることが出来なかったのですが、DVDなどもリリースされているので、機会があればそちらもチェックしてみたいところ。あらためて音楽家坂本龍一のすごさを感じされた作品でした。

評価:★★★★★

坂本龍一 過去の作品
out of noise
UTAU(大貫妙子&坂本龍一)
flumina(fennesz+sakamoto)
playing the piano usa 2010/korea 2011-ustream viewers selection-
THREE
Playing The Orchestra 2013
Year Book 2005-2014
The Best of 'Playing the Orchestra 2014'
Year Book 1971-1979
async
Year Book 1980-1984

ASYNC-REMODELS
Year Book 1985-1989
「天命の城」オリジナル・サウンドトラック
BTTB-20th Anniversary Edition-
BLACK MIRROR : SMITHEREENS ORIGINAL SOUND TRACK
Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020
12
サウンドトラック「怪物」
TRAVESIA RYUICHI SAKAMOTO CURATED BY INARRITU
The Best of Tohoku Youth Orchestra 2013~2023(東北ユースオーケストラと坂本龍一)

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