山口冨士夫在籍時の貴重な音源
Title:屋根裏 YaneUra Oct.'80
Musician:裸のラリーズ
ここ最近、かつて幻と言われていた音源の再発からスタートし、多くのライブ音源がCDとしてリリース。「幻のバンド」から、徐々にその実態を世に現わしてきている裸のラリーズ。今回もまた、ライブ音源がリリースされました。今回リリースされた音源は、1980年10月29日に東京のライブハウス、屋根裏で行われたライブ音源を収録したもの。このライブ音源が非常に貴重なものであるのは、村八分やTEARDROPSでの活動でも知られる伝説的なギタリスト、山口冨士夫が参加した音源であるため。山口冨士夫は1980年にラリーズに加入し、翌年の3月には脱退。その期間中、行ったライブ活動はわずか7回だったそうで、このライブ音源はそのうちの1回を収録したものということですから、その貴重さはわかるかと思います。
そんな、まさに日本ロック史上に残る貴重なライブの模様を収めた音源であるのですが、まず感じるのは非常に音がいい、ということ。1980年という時代のライブハウスでの音源でもあるにも関わらず、かなり音はクリアに聴こえます。いままで聴いたラリーズのライブアルバムのうち、60年代70年代に比較してももちろんのこと、90年代の録音音源である「CITTA '93」と比べても遜色ありませんし、「BAUS '93」と比べると、こちらの方がより録音状態は良好になっています。
また、山口冨士夫が加わり、ツインギターの体制となったことにより、むしろ音的にはまとまり、裸のラリーズの目指す音楽の方向性がクリアになっているようにすら感じました。
今回の山口冨士夫のギターは、水谷孝のギターと対立して緊迫感あるプレイを聴かせる、というよりも2人が協力してラリーズの音楽を作り上げているというように思います。例えば「俺は暗黒」では2人のギタープレイを聴かせてくれていますが、どちらもノイズを響かせる強烈なギターサウンドを対立させることなく、ともにラリーズのサイケな音世界を作り上げていますし、それは続く「氷の炎」でも同様。本作でももちろん、これでもかというほど狂暴な、ノイズギターの洪水に圧倒されるアルバムになっているのですが、水谷孝と山口冨士夫の2人の共演により、裸のラリーズの世界が、より強調されたように感じました。
また、このツインギターの効用としてもうひとつ感じたのは、他のライブアルバムに比べると水谷孝の「歌」がより目立つものになっていたように感じます。個人的な推測に過ぎないのですが、山口冨士夫のギターがあるからこそ、水谷孝は自身の歌により集中できたのかもしれません。結果、裸のラリーズが狂気のギターサウンドの裏に実は隠し持っていた「ポップ」な部分を強く感じることが出来たように思います。
ある意味、この点でもっとも印象的だったのが彼らの代表作でもある「夜、暗殺者の夜」で、強烈なギターノイズに、メロディアスなギターが絡むような構成となっており、他のライブ音源などに比べても、よりメロディアスな部分が強調されていたようにすら感じました。
これだけライブ音源として「まとまりがあってポップだ」と書いてしまうと、特に裸のラリーズのようなタイプのバンドだと、むしろライブ音源としてまとまりすぎており、緊迫感という意味では他のアルバムの方が上だ・・・と捉えられてしまうかもしれません。しかし、実態としては全くそんなことはなく、ライブ音源として裸のラリーズの狂気や緊迫感はこのアルバムでもしっかり捉えられています。ともすればギターノイズを強調しすぎるあまり、むしろ音的に割れてしまったような音源もある中、今回のライブ音源は間違いなく、裸のラリーズのバンドとしての実力、魅力がしっかりと収められているアルバムとなっており、個人的にはいままで聴いたライブ音源の中でベストに上げても過言ではない作品ですらあったように感じました。
それだけ山口冨士夫のギターは、裸のラリーズのサウンドのひとつのパーツとしてピッタリとあてはまっていたと思うのですが、1年程度、わずか7回のライブだけで脱退してしまったというのは、この音源の内容を考えると、逆に意外に感じてしまいます。まあ、水谷孝と山口冨士夫という2人の個性的なギタリストが、やはり長く同じバンドで活動できなかったのでしょうね。ただ、他の回のライブ音源も世に出てくれないかな、とも期待してしまったりして。どんどん音源の発掘が進むラリーズ。今後、どのような音源が出てくるのかも、楽しみです。
評価:★★★★★
裸のラリーズ 過去の作品
67-’69 STUDIO et LIVE
MIZUTANI / Les Rallizes Dénudés
'77 LIVE
CITTA'93
BAUS'93
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