「長谷川白紙」のアルバム
Title:魔法学校
Musician:長谷川白紙
フルアルバムとしては約4年8か月ぶりと、ちょっと久々となるシンガーソングライター、長谷川白紙のニューアルバム。今回のアルバムで大きな話題となっているのが、かのFlying Lotusが主宰するレーベル、Brainfeederへの移籍後初となる作品という点。海外への積極的な進出・・・といった感じではないのでしょうが、ただネットの普及により、海外のレーベルとの距離も一気に近づき、よりボーダーレスな活動が可能になっているように感じます。
また、もう今回のアルバムリリースに際してひとつのトピックスとなったのが、いままで頑なに拒んでいた自身の写真を今回公開したという点。いままで、長谷川白紙を「男性シンガーソングライター」と勝手に書いてしまっていたのですが、いままでジェンダーも公開していなかったようで、かつてTwitterで、音楽を聴く上で男か女かは意味をなさない、という趣旨の発言もしていたそうです。実際、公開された白紙のアーティスト写真は、やはりジェンダーレスを意識したような写真となっています。
女性が歌うこと、あるいは男性が歌うことに意味のある曲もあるので、楽曲において性別が関係ない、とまでは言えないのですが、ただ実際、ファルセットボイスで美しく聴かせる白紙の歌にジェンダーは意味をなさないのかもしれません。今回のアルバムでも、現代ジャズな要素を取り入れたアバンギャルドなサウンドの中で鳴り響く白紙のボーカルは、あくまでも楽曲の中の様々なサウンド要素のひとつとなっており、ジェンダーは意識されません。さらに言えば今回のアルバムでは、よりファルセットを強調し、性別不詳な感は強くなっており、よりジェンダーレスを意識したボーカルスタイルをとっているように感じます。
さらに今回のアルバムに関しては前作「エアにに」と比べてよりアバンギャルドな要素が強く、かつそんなサウンドをより前に押し出したような楽曲が増えたように感じます。アルバムの冒頭を飾る「行っちゃった」はまさにそんなアバンギャルドさを前面に押し出した、迫力あるサウンドが襲い掛かるような楽曲になっていますし、KID FRESINOとのコラボ曲となった「行つてしまった」も、これでもかというほどBPMをあげたサウンドで突っ走るアバンギャルドなサウンドが特徴的です。
ただ一方で、ファルセット主体で聴かせる長谷川白紙の「歌」はこのアバンギャルドなサウンドの中でも非常にポップに鳴り響いています。バーチャルシンガー花譜への提供曲のセルフカバーである「蕾に雷」では、ジャズの要素も強いサウンドの中、清涼感ある歌をポップに聴かせてくれていますし、ピアノアルペジオ主体と本作の中では比較的シンプルなサウンドとなっている「禁物」では、メランコリックな歌は心に響いてきます。
さて、そんなアバンギャルドさとポップスさを兼ね備えた本作ですが、海外のレーベルからのリリースという意味でのボーダーレス、性別を意識させないボーカルスタイルという意味でのジェンダーレス、音楽を楽しむ上では、本来「不要」であるはずの「壁」を取り除いた作品になっていたように感じます。もっと言えば、このボーダーレスやジェンダーレスをあまり意識させない点も大きな特徴だったように感じます。特にジェンダーレスに関しては、この点を意識した場合、あえて前に押し出しているミュージシャンが多いように感じます。ただ長谷川白紙の本作に関しては、その点も非常に自然体。そういう意味でも、純粋に長谷川白紙というひとりのシンガーソングライターによる音楽を楽しめるアルバムと言えるのかもしれません。個人的には、サウンド的にちょっと詰め込みすぎていて、「エアにに」の方が良かったかな、とは思うのですが、それを差し引いても十分傑作と言える作品だったと思います。ごちゃごちゃと理屈抜きで、「壁」を作らずに純粋に「長谷川白紙のアルバム」として楽しみたい1枚でした。
評価:★★★★★
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