「アンビエント」と一言で言っても・・・
Title:Ethreal Essence
Musician:Cornelius
ソロデビュー30周年を迎えた小山田圭吾ことCorneliusのニューアルバム。例のオリンピックをめぐる炎上騒動以降、ミュージシャンとしての活動も心配されたのですが、昨年は無事、ニューアルバムもリリース。さらに今回に新たなアルバムをリリースと、ミュージシャンとしての活動は正常モードに戻ってきており、個人的にはかなりホッとしています。ただし今回のアルバムは新作ではなく、ここ最近発表した彼の作品のうちアンビエント色の強い作品をまとめた企画盤的な作品。ただし、13曲中9曲が、CD化も配信も今回が初という構成。そういう意味では、よっぽど熱心に彼の活動を追いかけているようなファン以外にとっては、初耳の作品も多く、「新作」と同じようなイメージで聴くことの出来る作品になっていました。
ただ、一言でアンビエント色が強い、といってもアンビエントとして一定方向を目指して作った作品ではないので、曲調はバラバラ。1曲目の「Quantum Ghost」はスペーシーなエレクトロチューンからスタートしたかと思えば、続く「Sketch for Spring」はギターでゆっくりと聴かせるインスト。「サウナ好きすぎ、より深く」は音数を絞ったドリーミーなエレクトロサウンドが特徴の彼らしい歌モノ。ドラマ「サ道」の主題歌ということで、サウナに因んだ歌詞もまたユニークな作品になっています。
中盤の「Koko」もかなりユニークかつ実験的な作品。谷川俊太郎展の展示楽曲らしいのですが、谷川俊太郎の詩を谷川自身が朗読。その一つ一つの声を解析してドレミの音に当て込んだ曲だそうで、谷川の朗読が鮮やかなメロディーに変化していくユニークな作品に仕上がっています。
「Forbidden Apple」は配信シングルということもあって、ある意味、Corneliusらしさを感じさせるエレクトロのポップチューン。「Melting Moment」は夏の夕方の海辺のような気だるさを感じさせるギターの音色と波の音が耳を惹くAOR風の楽曲に仕上げていますし、そしてラストを締めくくる「Thatness And Thereness」は「A Tribute to Ryuichi Sakamoto」に収録された坂本龍一のナンバーのカバー。しんみり聴かせる歌モノがドリーミーで心地よい楽曲に仕上がっており、気持ちよくアルバムは幕を下ろします。
このように「アンビエント」と一言で言っても作風はバラバラ。ポップな色合いが強い作品から、実験的な作品まで様々に収録されており、その音楽性の幅広さを感じさせますし、そこに小山田圭吾の変わらぬ実力も感じさせます。また、既発表曲から選ばれた楽曲を収録した企画盤ということもあって、アルバムとしての流れみたいなものは薄い反面、全体的に柔らかさを感じさせつつ、音数を絞った楽曲はいかにもCorneliusらしく、その結果、ちゃんとアルバムとしての統一感も保たれた作品になっていました。
アンビエントということで派手な作風はありませんが、しっかりと心に染み入るアルバムになっている本作。インパクトという面でも十分、心に残りますし、特に最近のアルバムはアンビエント寄りの作品が多いだけに、ここ最近の彼の活動の中のピースとしてもしっかりとはまる1枚になっていました。
評価:★★★★★
cornelius 過去の作品
CM3
FANTASMA
「NHKデザインあ」
CM4
攻殻機動隊 新劇場版 O.S.T.music by Cornelius
Mellow Waves
デザインあ2
Ripple Waves
デザインあ3
夢中夢-Dream In Dream-
ほかに聴いたアルバム
1980年11月28日 札幌教育文化会館実況録音盤/森田童子
1993年に「ぼくたちの失敗」がドラマ主題歌に起用され、一躍、名前を知られたものの、リアルタイムで活動していた時は、どちらかというとカルト的な人気を誇っていたシンガーソングライター森田童子。いままで2枚のライブアルバムがリリースされていたものの、今回、はじめて1980年のライブ音源がリリース。貴重な音源として話題を呼んでいます。
・・・が、このライブ音源、録音状況がかなり悪い。あきらかにライブ会場でカセットテープレコーダーを用いての録音となっており、ボタンを押す音やらレコーダーを動かす音やらもそのまま入っています。さらにMCもそのまま収録されているのですが、音が悪すぎて聴き取れません・・・。正直、今の時代、AIを使ってもっと音をクリアにするような技法もあるように思うのですが、この音質のままリリースしようとしたレコード会社の方針に疑問を感じてしまいます。こんな不十分な音質でしかリリースできないのならば、もっと技術の進歩を待って欲しかった・・・。貴重な音源ではあるものの、かなり熱心なファン以外にはあまりお勧めできない1枚です。
評価:★★★
森田童子 過去の作品
FM東京パイオニア・サウンドアプローチ実況録音盤
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2024年」カテゴリの記事
- 安定した良作(2024.09.06)
コメント