暖かい歌モノの傑作
Title:呪文
Musician:折坂悠太
個人的に、今、最も新作のリリースを待っているミュージシャンの一人が折坂悠太です。2018年にリリースされた彼の2枚目のアルバム「平成」で一躍注目を集めた彼。同作も文句なしの傑作でしたが、それに続く2021年のアルバム「心理」も「平成」に勝るとも劣らない傑作で、2021年の私的年間ベストアルバムの1位に選んだほど、個人的にもはまったアルバムでした。
そんな待ちに待ったとも言える彼の最新アルバム。前作から約2年8ヶ月。ちょっと久々のアルバムとなりましたが、個人的には、もう前作からそんなに月日が経ったのか・・・という印象も同時に受けます。単純に私が年を取って時間がたつのが早くなった、ということもあるのですが、それ以上にそれだけ前作のインパクトが大きかったということもあるのでしょう。
さて、そんな折坂悠太の楽曲と言うと、様々なタイプの音楽を取り入れた無国籍な音楽性が特徴的ですが、今回のアルバムに関しては、よりシンプルに、歌を聴かせるような作品になっていました。特に序盤、「スペル」はアコギでしんみり聴かせるフォーキーな作風となっていますし、続く「夜香木」はムーディーなサックスも入って、郷愁感たっぷりの楽曲に。続く「人人」もまた、シンプルなアコースティックのサウンドで聴かせてくれるムーディーでアコースティックな作品となっています。アルバムの最後を締めくくる「ハチス」もサックス入って伸びやかに聴かせるムーディーでメロディアスに歌をしっかり聴かせる作品で締めくくり。こぶしを利かせた折坂悠太のボーカルも印象的ですし、伸びやかなサックスの音色にちょっとシティポップ的な要素も感じます。
ただ、もちろん全編アコースティックでムーディーなだけのアルバム・・・ではありません。例えば「無言」などは、最初はアコースティックサウンドでフォーキーに聴かせる作品なのですが、後半はノイジーなサウンドが入ってサイケな要素も感じます。また「凪」もテンポよくメロディアスなポップスなのですが、軽快なギターサウンドでグルーヴィーなリズム感が魅力的。「努努」も力強く疾走感あるバンドサウンドにホーンセッションも加わったサウンドはプログレッシブロックからの影響を強く感じます。ちなみに最後にはアルバムタイトルにも繋がったようにも感じる「うん べれ びんぼ うば」という奇妙な歌詞が登場してくるのも楽曲に独特の魅力を加えています。
さらに歌詞というと耳に残るのは「正気」でしょう。基本的に日常を描いたような暖かい雰囲気の歌詞が多い中、ラストに
「私は本気です
戦争しないです」
(「正気」より 作詞 折坂悠太)
という歌詞が登場。ワンフレーズのみながらも印象的なフレーズで、彼の力強いメッセージも感じます。
インパクトの強かった前作に比べると、前々作「平成」と近い、ちょっと地味な雰囲気も感じさせます。ただ、歌モノを中心としつつも、折坂悠太らしい様々な音楽性も垣間見れる傑作アルバムに仕上がっており、今回もまた年間ベスト候補とも言える1枚だと思います。彼の実力をあらためて感じさせれたアルバムでした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
MELLOW FELLOW/DOPING PANDA×the band apart
DOPING PANDAとthe band apartによるスピリットEP。両者のコラボ作「MELLOW FELLOW」「SEE YOU」に、DOPING PANDAは新曲「goodbye to the old me」を、the band apartはthe band apart(naked)でリリースされている「夢太郎」のバンドアレンジバージョンを収録。さらにお互いがお互いの曲をカバーした楽曲を加えた作品に。微妙に方向性の異なる感のある2人ですが、それぞれがそれぞれの持ち味をしっかりと出している楽曲が並んでいますし、コラボ作「MELLOW FELLOW」では、DOPING PANDAらしい軽快なダンスチューンながらも、ギターやメランコリックなメロはthe band apartらしさを強く感じる作品になっており、まさにコラボならではの内容に。お互いの良さがしっかり出ているスピリットになっていました。
評価:★★★★★
DOPING PANDA 過去の作品
Dopamaniacs
decadance
anthem
THE BEST OF DOPING PANDA
YELLOW FUNK
Doping Panda
High Hopes
the band apart 過去の作品
Adze of penguin
shit
the Surface ep
SCENT OF AUGUST
街の14景
謎のオープンワールド
1(the band apart(naked))
Memories to Go
前へ(□□□ feat.the band apart)
2(the band apart(naked))
20years
POOL e.p.
3(the band apart(naked))
Ninja of Four
4(the band apart(naked))
マジカル・パワー・マコ ゴールデン☆ベスト/マジカル・パワー・マコ
主に70年代から80年代にかけて注目を集めた男性シンガーソングライター、マジカル・パワー・マコのベスト盤。Wikipediaの説明によると「奇想天外で実験的な音楽性が一部で絶賛される」と記載されていますが、まさにそんなイメージの、スペーシーなエレクトロの楽曲がメイン。ただ、曲によってはよりアバンギャルドさを増した曲や、逆にハードロック風の曲、フォーキーな作品などもあり、まさにバラバラな音楽性が特徴的。それが面白いといえば面白いのですが、どこか地面に足がついていないような感がしてしまうのも否めません。
90年代に入ると、「『宇宙人との交信のための音楽』と作りはじめる」なんて奇抜な説明がWikipediaになされています。不思議ちゃんと言えば言葉は良いのですが、ここらへん、今一つ音楽的に軸足がどこにあるのか感じられないが故に、簡単に変な方向に走ってしまうんだろうなぁ、と感じたりします。Twitterを見ると、現在も活動をしているのですが、かなり奇抜な内容で、かつ陰謀論的なツイートもリツイートしており、かなり微妙な感じ。なんとなく、こうなってしまうのも「さもありなん」といった印象も受けてしまうのですが・・・。ある意味、「奇盤」に近いかもしれませんが、このベストに収録されている作品については、それなりにユニークで楽しめる内容だと思いますので、興味のある方は、どうぞ。
評価:★★★
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