楽曲のバラエティーは富んでいるが・・・。
Title:残夢
Musician:Ado
「狂言」以来、約2年半ぶりとなるAdoの2枚目のオリジナルアルバム。ONE PIECEの映画の劇中歌によるアルバムやカバーアルバムのリリースなどもあったため、オリジナルアルバムが2枚目、かつ2年半もインターバルが開いていたことが意外に感じます。大ヒットした配信シングル「唱」を含む16曲入り。うち、14曲が配信シングルとしてリリース済というのは、最近のアルバムによるある傾向になります。
オリジナルアルバムの前作「狂言」では、作家陣に彼女と同様、ネット発のミュージシャンである、いわゆるボカロPを起用していた彼女。一方、ONE PIECEの劇中歌では、J-POP系のミュージシャンたちを作家陣として起用されており、売れるとやはりそういう「有名所のミュージシャンたち」を作家陣として用いてしまうのか・・・とちょっと複雑な気持ちになりました。ただ今回のオリジナルアルバムでは、著名なJ-POPミュージシャンを起用する一方で、ボカロPも多く作家陣として起用しており、ネット発のミュージシャンとしての矜持も感じさせる作家陣のセレクトとなっていました。
今回のアルバムもまた、彼女のパワフルな歌唱力をこれでもかというほど聴かせるような楽曲が目立ちます。彼女がブレイクした「うっせえわ」もそうですし、本作に収録されている大ヒットシングル「唱」もそうですが、基本的にドスの利いた低音ボーカルで力強く歌い上げるタイプの曲が彼女のスタイルとしては求められているのでしょう。カバーアルバムを聴くと、もっと緩急つけて表現力を聴かせるようなタイプの曲も対応できるシンガーだとは思うのですが、期待に応えるとどうしても、力強くがなり上げるタイプの曲がメインとなってしまうのでしょう。
その上で今回のアルバムに関しては比較的バリエーションのある作風になっているように感じます。Mitchie Mが手掛けた「オールナイトレディオ」はシティポップ風の作品になっていましたし、なとりが手掛ける「MIRROR」はネオソウル風、Vaundyが手掛ける「いばら」は90年代のJ-POP風のギターロック路線と楽曲によっていろいろなタイプの曲が並びます。ただ、その結果として感じてしまうのは、いまひとつAdoのミュージシャンとしての方向性がいまひとつはっきりしないという点でした。
もともとAdo自体が、シンガーソングライターではなくあくまでもボーカリストである、という点にも起因しているのでしょう。ただ、今回のアルバムではいろいろなタイプの曲を起用に歌うがゆえに、ミュージシャンとしてAdoがどのような方向に向かうのか、彼女の軸はどこにあるのか、いまひとつはっきりと感じられず、ただ与えられている曲を起用に歌い上げているだけ・・・いろいろな方向性に散らばった曲を聴くと、どうしてもそう感じてしまいます。
そんな中で比較的、ボカロPとの相性の良さを感じます。ヒットした「唱」もボカロPによる提供曲ですし、あえていえば変な癖がないゆえに、聴いていてAdoのボーカルだけにスポットがあてられる形となり、結果、Adoの魅力を最大限引き出しているのかもしれません。一方、今回のアルバムで言えば、椎名林檎が提供した「行方知れず」はどこか椎名林檎のボーカルに引っ張られているような感がありますし、B'zが提供した「DIGNITY」もいかにもB'zらしいロックバラードに感じます。ここらへん、厳しいことを言ってしまえば、Adoのミュージシャンとしての方向性が定まっていないため、提供するミュージシャンの個性が強い場合には、そのミュージシャンの個性にAdoが引っ張られて行ってしまう傾向になるのかもしれません。
そういう意味でもAdoとしての今後の課題も感じられた作品。個人的にはバラエティーの持たせ方としても、もっとしんみりと表現力を生かしたような作品を増やして、Adoのボーカリストとしての実力を伸ばしたうえで、彼女だけの個性を確立させていった方がいいようにも感じたのですが。まあ、まだまだ伸びしろのあるミュージシャンなだけに、これからといった部分も大きいのでしょう。彼女がどのように自己のスタイルを確立していくのか、今後に注目したいところです。
評価:★★★★
Ado 過去の作品
狂言
ウタの歌 ONE PIECE FILM RED
Adoの歌ってみたアルバム
ほかに聴いたアルバム
Timeless Melodies -a tribute to dustbox-
パンクロックバンドdustboxが現在のメンバーとなってから25周年を記念してリリースされたトリビュートアルバム。先日、スプリットアルバムをリリースしたばかりのHAWAIIAN6やlocofrankのほか、04Limited Sazabysのような下の世代のバンドも参加。パンク系バンドをメインにかなり豪華なメンバーが名前を連ねています。楽曲的にはパンクなカバーがメインなのですが、女性ボーカルでシンセを入れて軽快なポップ風のカバーに仕上げたWienners「Emotions」やエレクトロサウンドを取り入れたDALLJUB STEP CLUB「New Cosmos」をはじめ、同じパンクの枠内であっても意外とバラエティーに富んだ展開が楽しめます。dustboxのファンはもちろん、参加ミュージシャンに興味があればチェックして損はないトリビュートアルバムになっていました。
評価:★★★★
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