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2024年8月 4日 (日)

挑戦的な試みも感じさせる日本ロックの嚆矢的バンドのベスト盤

Title:モップス ゴールデン☆ベスト
Musician:モップス

複数のレコード会社が、廉価版ベストアルバムとしてリリースしている「ゴールデン☆ベスト」シリーズ。何気に様々なミュージシャンの「入門盤」として聴くには、代表曲がほどよくまとまっていて最適なシリーズだったりするのですが、今回はモップスのゴールデン☆ベストがリリースされたので聴いてみました。モップスは60年代後半から70年代にかけて活躍したグループ。グループサウンズのブームに乗って出てきたバンドで、グループサウンズの一組として紹介されることも多いのですが、本格的な洋楽ロック志向のバンドで、日本のサイケデリックロックの先駆けとしても評価の高いバンド。いままで、単発的に楽曲を聴いていたことはあるのですが、今回、ゴールデンベストという形ではじめて彼らの楽曲をまとめて聴いてみました。

アルバムは、彼らの代表曲が発売順に並べられている構成。まず何より序盤、非常に力強い本格的なハードロック志向の作品に強く耳を惹かれます。「ジェニ・ジェニ70」などは、まあにシャウトも加わって、非常に力強いバンドサウンドのガレージロック風のナンバー。「朝日のあたる家」はご存じアニマルズのカバーで知られるアメリカのフォークソングなのですが、こちらも彼ら流の切ないかすれ声のシャウトが印象的なハードロック風のカバーに仕上げています。

さらに彼らの曲で大きな特徴的なのが、洋楽ロックの影響をストレートに受けていながら、その中に日本的な要素を多分に織り込んでいる点でしょう。例えば前述の「朝日のあたる家」は途中、尺八の音を入れてきていますし、「御意見無用」は、こちらもヘヴィーなブルースロックなのですが、途中で「ええじゃないか」の合いの手とリズムを入れてきたりもしています。さらに「なむまいだあ(河内音頭)」もタイトル通り、河内音頭をハードロック風にアレンジしたもの。この手の日本の民謡と西洋音楽との融合というのは、ともすれば戦前から行われてきた試みで、その試み自体は決して珍しいものではないのですが、彼らの場合は民謡に本格的なロックを取り入れることによって、単なる「ロック風の歌謡曲」に留まらない、「日本のロックンロール」を生み出そうとしている点が強く印象に残る内容となっています。

日本風といってユニークなのが「月光仮面」で、こちら、1950年代に一世を風靡したテレビ番組「月光仮面」の主題歌をブルースロック風にカバーした曲。とはいえ、正統派のカバーというよりも、途中、スーパーマンのネタと入れてくるなど、コミカルなカバーになっています。また「森の石松」も浪曲でおなじみだった素材をロック風にカバーした曲。こちらもかなりコミカルな楽曲。「石松三十石船道中」からのパロディーなのですが、浪曲がすっかり流行らなくなってしまった今では、おそらく聴いてもネタ元がさっぱりわからないのではないでしょうか。逆に言えば、モップスが活躍していた頃は、モップスを聴くような若い世代でも浪曲ネタが難なく理解できるほど、世間的には広く流布されていた、ということなのでしょう。ちょっとモップスの感想とは関係なのですが、どんな流行しているものだろうと、時代が変わればすっかり世間から忘れ去られてしまう・・・という無情さも感じてしまいます。

モップスの話に戻すと・・・中盤「たどりついたらいつも雨ふり」は彼らにとって最大のヒットとなったナンバー。作詞作曲は吉田拓郎が手掛けており、メロディーラインはフォークソングっぽいのですが、力強いガレージ風のバンドサウンドがしっかり鳴っている骨太のロックナンバーになっています。ただ、残念ながらこの曲のヒットで、同じような路線を求められたのでしょうか、それ以降の彼らの楽曲はフォーク寄りにシフト。これはこれでメロディアスで爽やかな曲調は心地よいのですが、ロックバンドとして見ると、いささか物足りなさを感じてしまいます。

最後の方はちょっとロックバンドとして失速してしまった感は否めないのですが、アルバム全体を通じて、日本のロックバンドの嚆矢的なバンドとして、今聴いてもカッコよさを感じさせるアルバムになっていました。日本的なサウンドとの融合を目指す挑戦心や、ノベルティーソング的なコミカルさも含めて、実に魅力的なバンドだったということを今なお感じさせてくれます。そんな彼らの代表曲がほとよく収録されたアルバムになっており、入門盤といて文句なしにお勧めできる作品です。

評価:★★★★★

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