ただただそのボーカルのすごみに立ち尽くしてしまいました。
Title:浅川マキ ゴールデン☆ベスト
Musician:浅川マキ
「アンダーグラウンドの女王」と呼ばれ、目立ったヒット曲こそないものの、一部では熱烈な支持を集めているシンガー、浅川マキ。2010年に67歳という若さでこの世を去ってから早14年。日本のみならず海外でも評価が高いようで、2015年にはイギリスでベスト盤もリリースされたようです。
ただし、今回紹介するのはレコード会社各社共同の廉価版ベスト企画「ゴールデン☆ベスト」の一環としてリリースされたベストアルバム。正直、この手の企画に似つかわしいかどうかかなり微妙な感もあります。しかし、実際に聴いてみるとそんな懸念は一掃されます。まさに「情念」とでも言うべき彼女のそのスモーキーでムーディー、感情たっぷりの歌声に心揺さぶられるベストアルバムとなっていました。
彼女の楽曲は、基本的にフォークやブルースの影響を強く感じさせる楽曲。そこにジャズやロック、さらには歌謡曲的な要素も強く感じます。いわゆるムード歌謡曲的な「日本のブルース」とも少々異なるのですが、かといってアメリカのブルースをそのままカバーしているのとも異なる、「和製ブルース」という表現が一番ピッタリくるかもしれません。
ただ、なによりそんな楽曲の中で際立っているのが彼女のボーカル。上にも書いた通り、その独特のボーカルには聴いていてゾクゾクさせられます。このベスト盤の冒頭を飾るのが「夜が明けたら」というメジャーデビュー作。感情こもった低音のボーカルも魅力的なのですが、なによりも曲の中での息づかいや間の取り方が実に絶妙。力強くも色っぽく、聴いていて一気に耳を惹かれます。事実上のデビュー作からこの完成度というのは、本当に驚かされます。
「赤い橋」もかなり印象に残る1曲。アコギアルペジオでフォーキーな作風で、非常に不気味さを感じさせる曲が特徴的なのですが、それを軽くビバーブをかけたボーカルで歌われると、幻想的で不気味な雰囲気が増幅されて非常に心に響いてきます。また、「朝日楼(朝日のあたる家)」も特筆すべき作品。ボブ・ディランやアニマルズのカバーでも知られるアメリカのフォークソングなのですが、娼婦に身を落とした女性の怨念を、これでもかというほど表現したボーカルで、これほど浅川マキの歌手としての方向性とマッチした曲はないのではないでしょうか。基本的にアコギ1本のシンプルなカバーなのですが、彼女のボーカルのすごみを嫌というほど感じさせるカバーに仕上がっています。
「ブルー・スピリット・ブルース」もそのボーカルが耳を惹きます。こちらもアメリカの楽曲のカバーなのですが、彼女にかかると、非常に女性の怨念を感じるくすんだ雰囲気の楽曲へと変貌を遂げます。女性の心情を力強く感情たっぷりに歌い上げるそのスタイルは、間違いなく心に響いてきます。「それはスポットライトではない」は、郷愁感あふれるナンバー。楽曲的には70年代フォークの色合いが強いのですが、彼女の力強いボーカルによって、しっかりと浅川マキの世界観を作り上げています。
女性の怨念、情熱、感情をこれでもかというほど込めたボーカルは、聴いていて思わず立ち尽くしてしまうようなすごみがあります。正直、ボーカリストとしての表現力という観点だけで言えば、間違いなく歴史的にも日本屈指のボーカリストであることは間違いないと思います。今回のアルバムも、聴き始めると、いわゆる「ながら聴き」が出来なくなり、彼女のボーカルにただただ聴き入るだけ、という状況になってしまいました。以前、一度ベスト盤は聴いたことはあったものの、あらためて浅川マキというボーカリストのすごさを実感できたベストアルバム。このベスト盤に限らなくてもいいのですが、一度は是非、彼女のボーカルにふれてほしい、そう強く感じます。
評価:★★★★★
浅川マキ 過去の作品
Long Good-bye
ほかに聴いたアルバム
SEX MACHINEGUNES ゴールデン☆ベスト/SEX MACHINEGUNS
各レコード会社共通の廉価版ベストシリーズ、ゴールデン☆ベストの、こちらはSEX MACHINEGUNS版。2008年まで所属した東芝EMI時代の曲を収録した作品で、要するに、彼らが今よりも人気のあった時期の作品を収録したベスト盤。代表曲は過不足なく収録されており、1枚のアルバムで収められていることから、入門盤としても最適な1枚。何度も聴いた代表曲ばかりですが、本格的なヘヴィーメタルなサウンドとコミカルな歌詞のギャップがおもしろく、何度聴いても思わずクスっと笑ってしまう部分も。一時期に比べると、すっかり人気の面で落ち込んでしまった彼らですが、昨年、はじめて足を運んだライブを見る限り、バンドとしての実力は全く衰えていません。今からでも遅くないので、マシンガンズ未経験者は是非ともチェックしてほしい1枚です。
評価:★★★★★
SEX MACHINEGUNS 過去の作品
キャメロン
SMG
LOVE GAMES
METAL MONSTER
マシンガンズにしやがれ!!
IRON SOUL
地獄の暴走列車
eyes/おいしくるメロンパン
3ピースバンド、おいしくるメロンパンの約1年ぶりの新作は5曲入りのミニアルバム。ポップ志向が強く、ヒットポテンシャルもあるメランコリックで爽やかなメロディーラインと、意外と骨太で分厚いバンドサウンドの対比が今回もユニーク。かなりロックなバンドサウンドには耳を惹かれます。ただ、ミニアルバムばかりでこれで8枚目。そろそろフルアルバムを聴きたいのですが。
評価:★★★★
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