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2024年7月 6日 (土)

初期鬼束ちひろ作品を網羅

Title:UN AMNESIAC GIRL ~First Code (2000 - 2003)~
Musician:鬼束ちひろ

鬼束ちひろの東芝EMI在籍時にリリースした「インソムニア」「This Armor」「Sugar High」の3枚のアルバムのリマスター版に、初期の貴重な音源を収録した「スペシャル・トラック集」を加えた4枚組のCD BOX。2000年に「月光」がドラマ「トリック」の主題歌となりスマッシュヒットを記録。一躍注目を集めた彼女の、最も勢いのあった時期をまとめたBOXセットとなります。

今回、収録されているアルバムについては、リアルタイムに聴いているのですが、その当時、旧サイトに書いた感想をこちらに再掲します。今、以上に拙い文章になるのですが、ご容赦ください・・・。



インソムニア

昨年は「月光」がロングヒットを記録して、今年は「眩暈」がこれまた大ヒットし、ヒットチャートの常連の「仲間入り」をした感の強い鬼束ちひろですが、このたびようやく1stアルバムが発売されました。私は最初正直彼女にはあまり興味がなかったのですが、何度か彼女の歌声を聴くうちに、その力強さみ魅せられていきました。
 ただ、その期待をもって聴いた1stアルバム、確かにいいアルバムなことはいいアルバムだったとは思うのですが、思ったほどじゃなかったなぁ、という印象を抱きました。最初から最後まで非常に力強い彼女の歌が聴け、どの曲もそれなりのインパクトもあり、メロディーラインもしっかりしていたのですが、どうも最後まで似たような曲が多かったと思います。結局、「月光」でイメージ付けさせられた彼女のイメージに沿った形でつくられてしまったため、かなり制約の多いつくりの内容になってしまったのではないでしょうか。アルバムというのは必ずしもシングルの延長とは限らない以上、もっと自由なアルバムをつくってもよかったのではないでしょうか。さらにもう一点、全体的にアレンジが安っぽい印象を受けました。確かに、彼女のようなタイプのミュージシャンは、彼女の「歌」が重要である以上、あまりアレンジの部分が突き抜けているのもまた問題です。しかし、このアルバムに関して言えば、ちょっとアレンジが引っ込みすぎて、単なる「伴奏」に終わっていたため、結果、曲自体も安っぽく聴こえてしまいました。以上、2点のために、アルバム全体がシングルを聴いて期待するよりも、いまいちだったような気がします。レコード会社の圧倒的なバックアップのもとブレイクした彼女なだけに、いまだにレコード会社の操り人形状態ではないのか、と思ってしまいました。今後のシングル、及びアルバムにおける自由な曲づくりを期待したいところです。

 



This Armor

ここ最近、人気もすっかり定着した感のある鬼束ちひろですが、このたび、彼女の2ndアルバムがリリースされました。デビューアルバムでもある前作では、シングルなどの鬼束のイメージそのままの、思いっきり感情をこめて歌い上げるようなタイプばかりのナンバーで、ちょっと飽きてしまったのですが、今作も、基本的に前作と同じような路線、歌い上げてじっくりと聴かせるようなタイプの曲の多いアルバムになっていました。

 それにも関わらず、個人的には前作よりもこちらのアルバムが気に入りました。インタビューなどで、「前作をさらに深化させたアルバム」と語っていたのですが、その「深化」が成功したからでしょう。確かに似たようなタイプのナンバーが多いアルバムでしたが、アルバム全体として最後まで飽きさせることのない内容になっているのは、やはり曲の持っているパワーが大きかったからでしょう。そのため、前作と似たようなタイプのアルバムでありながら、マンネリを感じることなく聴くことができました。

 ただ、とはいえそろそろ彼女も前作や今作のような「感情的に歌い上げる」楽曲ばかりではいけない時期に来ていると思います。もっといろいろなタイプの曲を作り、歌い、さらに可能性を広げる時期に来ているのではないでしょうか。シングルをそのまま延長させただけのアルバムはこれが最後、ということを願っています。次回作では、私たちの知らない彼女のあたらしい魅力を見せてくれるアルバムを期待したいところです。



Sugar High

前作より、わずか9ヶ月というインターバルでリリースされたニューアルバム。ジャケットの写真にはちょいとびっくり。鬼束ちひろのイメージと違う・・・(^^;;最初、中澤裕子か小柳ユキかと思ったよ・・・。

 今回のアルバムは、サウンド的には、鬼束ちひろの原点に戻ったような内容だったと思います。基本的にピアノをベースとしたシンプルなサウンド。そのため、より鬼束ちひろの歌声や歌詞の世界がクリアになった作品が並んでいました。鬼束ちひろの、力強いボーカルには、同時に包容力も感じさせます。あくまでサウンドをシンプルにした今回の作品で、彼女は、より自分のボーカリストとしての側面を見つめなおすことができたのではないでしょうか。

 そして今回、私は、サウンドこそ原点に戻ったのですが、一方でアルバム全体の雰囲気は、いままでの鬼束ちひろと大きく異なるものを感じました。今回の作品でも、いままでの鬼束ちひろと同じく、「歌い上げる」ような作品が並んでいました。しかし、いままでの彼女の作品が、ともすれば内向きに感じられる楽曲が多かったのに対して、今回の新作では、より攻撃的に、外向きのベクトルを強く感じさせるような作品が多かったような印象を受けました。そのため、いままでと同じバラードであっても、決してマンネリを感じさせない、鬼束ちひろの世界をさらに一歩押し進めた内容に仕上がっていたと思います。

 前作、彼女は「作品を『深化』させた」と語っていましたが、私はむしろ今作で、その「深化」が実を結んだ印象を受けました。鬼束ちひろにとって、あらたな一歩を感じさせる作品だったと思います。まだまだ彼女の勢いは続いていきそう・・・今後の活躍が楽しみになってくるアルバムでした。

さて、この3枚のアルバムを続けて聴いてみてあらためて感じるのですが、「月光」のイメージが強すぎて、それと似たような曲ばかり最初から最後まで求められていたということを、あらためて強く感じました。結局、このBOXセットでは「スペシャル・トラック集」に収録されている「私とワルツを」を最後に、ユニバーサルに移籍し、移籍後初のシングルとなる「育つ雑草」はロック色の強い作品で、いままでの彼女のスタイルとガラッと変えたということで大きな話題となりましたが、確かに、初期の彼女のようなバラードナンバーばかりを歌わされていたら、こういう曲も歌いたくなるよな、ということは強く感じます。

また彼女、ご存じの通り、デビュー以来、いろいろなトラブルを起こして話題となることも少なくないのですが、このような似たようなバラード曲ばかりを歌わされ続けたのであれば、本人もストレスがたまるだろうな、ということは想像できてしまいます。もっとも、静かに歌い上げるバラード曲の出来が一番良いというのは間違いないので、「月光」のヒットがなかったとしても、結局、同じような道をたどる結果になったのかもしれませんが。

結局は、現状、オリジナル曲としては最新シングルとなる「スロウダンス」は初期のようにストリングスバックに聴かせるバラード曲となっているので、こういうタイプの曲が一番彼女に合っている、ということになってしまうのでしょうが、ただ、このBOXセットであらためて初期の曲を聴くと、ちょっとあまりにも似たような曲が多かったのではないか、ということをあらためて感じてしまいました。

最後の「スペシャル・トラック集」はアルバム未収録のシングルやカップリング曲、またライブ音源、さらにはチューリップの「青春の影」のカバーも収録。ちなみに「青春の影」は配信限定シングルとして、こちらだけはストリーミング配信もされています。こちらも基本的にはピアノやアコギをバックにしんみり聴かせる曲がメイン。このアルバムも含めて、似たような曲が多いという印象は否めない構成になっていました。

とはいえ、それでも名曲は多く、最後までしっかりと聴けてしまうあたりはさすがといった感じなのでしょうが。というか、一般的に知られる彼女の曲は、ほとんどこのBOXセットに収録されているんでしょうが。あらためて、初期鬼束ちひろの作品を網羅的に楽しめたBOXセットになっていました。久しぶりに彼女の魅力に触れたい方はお勧めの作品です。

評価:★★★★★

鬼束ちひろ 過去の作品
LAS VEGAS
DOROTHY
ONE OF PILLARS~BEST OF CHIHIRO ONITSUKA 2000-2010
剣と楓
FAMOUS MICROPHONE
GOOD BYE TRAIN~ALL TIME BEST 2000-2013
シンドローム
Tiny Screams
REQUIEM AND SILENCE
HYSTERIA


ほかに聴いたアルバム

URC銘曲集3 伊藤銀次セレクション ‐フォークとロックの出会い、そして自由への旅立ち

日本インディーレーベルの先駆けと言われるURC。その販売権が2023年にソニーミュージックに移り、URCの名盤がCD化されていますが、それと同時にURCの曲をテーマ別にセレクションしたコンピレーションCDがリリースされています。本作がタイトル通り、その第3弾。URCのセッションでギタリストデビューを果たした伊藤銀次によるセレクション。今回のセレクションはタイトル通り、一般的なフォークソングの枠組みに留まらないような曲が多く、ブルージーな曲、ギターを激しくかきならすようなロックテイストの曲、もっとコミカルな曲など、非常に個性的な曲が並びます。まさに自由への旅立ちの通り、従来のフォークソングに枠組みには飽き足らないミュージシャンたちの曲がセレクトされている印象。非常におもしろかったですし、またURCの奥深さ、当時のミュージシャンたちの勢いも感じさせるようなコンピ盤になっていました。

評価:★★★★★

URC銘曲集-1 戦争と平和
心に響くフォークソング -イムジン河 (URC銘曲集2)

EACH TIME 40th Anniversary Edition/大滝詠一

突然の逝去後、10年以上が立った今でも、次々とアルバムがリリースされる大滝詠一。本作は、1984年にリリースされた、結果として彼の最後のスタジオ・フルアルバムとなった「EACH TIME」の40周年記念盤。洋楽趣味あふれるアレンジで聴かせる爽やかで軽快なポップスは、いかにも大滝詠一らしさを感じます。この後、結果としてスタジオ・フルアルバムをリリースしなかったので、ある意味、大滝詠一サウンドの完成形と言えるのかもしれません。一方、おもしろかったのはDisc2で、本作のリリース直後に作曲家井上大輔のラジオ番組に出た時のトークがまるごと収録。本作に関する裏話や音楽に対する思いなども聴くことができる貴重な音源になっていました。ファンならずとも要チェックの企画盤です。

評価:★★★★★

大滝詠一 過去の作品
EACH TIME 30th Anniversary Edition
Best Always
NIAGARA MOON -40th Anniversary Edition-
DEBUT AGAIN
NIAGARA CONCERT '83
Happy Ending
A LONG VACATION 40th Anniversary Edition
大瀧詠一 乗合馬車 (Omnibus) 50th Anniversary Edition
大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK/NIAGARA ONDO BOOK
暑さのせいEP

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