60年代ポップのいいとこ取り
Title:A Drema Is All We Know
Muscian:The Lemon Twigs
ブライアン・ダダリオとマイケル・ダダリオの兄弟による、アメリカのロックデゥオ、The Lemon Twigsの、ちょうど1年ぶりとなるニューアルバム。ここ最近、立て続けに優れたポップなアルバムをリリースし、注目度や評価があがっている彼ら。評価の高かった前作からわずか1年でリリースされた本作もまた、注目高まる彼らへの期待にしっかりと応えたアルバムに仕上がっていました。
まずアルバムの感想を一言で言ってしまえば、これでもかというほど心地よいキュートなギターポップの並ぶ作品となっています。今回のアルバムに関して、彼ら自身「マービー・ビーチ」なる造語で表現しています。こちら音楽的にリバプールとローレル・キャニオン(=カリフォルニアにある60年代から70年代にかけて、数多くのミュージシャンたちが住んでいた地域)と表現しており、要するに、60年代のマージー・ビートと、ビーチ・ボーイズやママス&パパスのような60年代のアメリカ西海岸のポップソングを融合させたような音楽ということを表現したのでしょう。
そんなリバプールのサウンドもローレル・キャニオンのサウンドも、非常にキュートなメロディーラインを聴かせてくれるポップスという共通項がありますが、今回のアルバムはそんな両者の楽曲の良いとこ取りをしたポップスが並ぶ作品になっています。まず1曲目「My Golden Years」の最初のギターのストロークから、思わずガッツポーズをしてしまうようなポップスリスナーも多いのではないでしょうか。ポップでちょっぴり切ないキュートなギタポの本作。まさに「マービー・ビーチ」ということを実感させられる本作。個人的にはどこかラーズや、80年代のギタポの要素も感じます。
「They Don't Know How To Fall In Place」もギターのエフェクトがいかにも60年代的ですし、途中に入るハーモニーも、60年代フォークの影響を色濃く感じるキュートでポップな作品。タイトルチューンの「A Dream Is All I Know」も、ちょっぴり切ないメロディーが心地よいポップソング。イントロにテルミンを入れていたり、隠し味的に入っているサイケな楽曲に深みを与えています。
ミディアムチューンでドゥーワップの要素を入れた「In The Eyes Of The Girl」は、マージービートというよりもアメリカの色合いの強いポップス。軽快なバンドサウンドで楽しさと切なさを同居させたような「How Can I Love Her More?」も、いかにも60年代的なポップスで、耳を惹きます。
絶妙なハーモニーが実に美しく、暖かいメロディーを聴かせてくれる「Ember Days」も魅力的ですし、マイナーコードでちょっと怪しい雰囲気を醸し出す「Peppermint Roses」も、こちらはマージービートの色合いの強いナンバーで耳を惹きます。そしてラストを飾るのは「Rock On(Over and over)」で、タイトル通り、ノイジーなギターサウンドも耳を惹くロックンロールのナンバー。こちら懐かしい60年代的な雰囲気満載で、アルバムは幕を下ろします。
まさに前述した通り、英米の60年代ポップスのいいとこどりしたような、これでもかというほどキュートでポップなアルバム。もっと言えば、うっすら80年代ギタポの影響も感じられ、そういう意味では今から昔に至るまでのポップソングをいいとこどりした感じもあり、そりゃあ、これだけの傑作が生みだされるような、といった印象も受けます。もちろん、それはネガティブな意味ではなく、昔の曲のいいとこどりしつつも、これだけの優れたポップソングにまとめあげているのは彼らの実力。申し分ない傑作アルバム、それも今年を代表する1枚と言ってもいい作品に仕上がっていました。
ただ、残念ながらチャートアクションはあまり芳しくなく、スコットランドチャートでベスト10入りしているものの、アメリカビルボードでは圏外。イギリスでもダウンロードチャートで24位にランクインしている程度に留まっており、ブレイクにはまだほど遠い状況となっています。ただ日本では、ビルボードチャートで82位にランクイン。こちらもチャート下位とはいえ、洋楽が苦戦している日本の状況を考えると、英米でブレイクしていない彼らがチャートインしてくることがある意味快挙で、それだけ日本での注目度の高さを伺えます。いわば「ビッグ・イン・ジャパン」的な立ち位置になるのでしょうか?でも、これだけ優れたポップソングを書くバンドなだけに、いずれ英米でも人気は高まるはず。日本での人気の高さに日本人の先見性の高さを誇りたいところ。これからの活躍に期待です。
評価:★★★★★
The Lemon Twigs 過去の作品
Songs For The General Public
EVERYTHING HARMONY
ほかに聴いたアルバム
Blue Electric Light/Lenny Kravitz
ちょっと久しぶり、約6年ぶりとなるレニー・クラビッツのニューアルバム。今回のアルバムも実に彼らしさを感じるアルバムで、ほどよくヘヴィーでノイジーなテンポのよいギターサウンドが心地よく、いかにも「ロック然」とした楽曲が並んでいます。ギターサウンドの中にほどよくエレクトロサウンドを取り入れている点も、楽曲にダイナミズムを増してほどよいインパクトに。目新しさはありませんが、レニー・クラビッツを聴いた、ロックを聴いたという満足感を覚えるアルバムになっていました。
評価:★★★★
Lenny Kravitz 過去の作品
Black and White America
Strut
Raise Vibration
66/Paul Weller
66歳の誕生日の前日にリリースされた、ポール・ウェラー兄貴のニューアルバム。四捨五入して70歳という年に達しても、まだまだ現役感あふれる活動で元気いっぱいの兄貴。ただ、楽曲の円熟味は以前に増しているような感もあります。今回もムーディーな雰囲気の、いかにも「大人のロック」といった雰囲気の曲が並ぶアルバムに。卒はない、といった印象もありますが、完成度も高く、大ベテランの彼らしいアルバムに仕上がっていました。最近は70歳を過ぎても元気いっぱいなロックシンガーも少なくありませんが、彼もまだまだ元気にその活動を続けてくれそうです。
評価:★★★★
Paul Weller 過去の作品
22 DREAMS
Wake Up The Nation
Sonik Kicks
A Kind Revolution
True Meanings
In Anohter Room
Fat Pop
An Orchestrated Songbook
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