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2024年6月 3日 (月)

デビュー25周年の初のオールタイムベスト

Title:SCIENCE FICTION
Musician:宇多田ヒカル

彼女のデビュー25周年を記念してリリースされた、宇多田ヒカル初となるオールタイムベスト。いままでシングルコレクションや本人が直接関与していないUtada名義でのベスト盤のリリースはありましたが、純然たるオールタイムベストとしては本作が初となります。ただ、宇多田ヒカルのあの「Automatic」がリリースされ、衝撃が走ってからもう25年も経つのか・・・というのは、時の流れの速さをつくづくと感じてしまいます。

そんな彼女の代表曲を収録したベスト盤ですが、その多くが「2022 Mix」「2024 Mix」としてリミックスがほどこされているほか、「Addicted To You」「traveling」「光」ではRe-Recordingとして今回は新録バージョンが収録されています。「Addicted To You」はサウンドがよりタイトとなり、「travling」ではエレクトロサウンドの音が今風にアップデート。原曲とはかなり違った雰囲気になっている点に、単なるベスト盤にはとどまらせない彼女のこだわりを感じます。

ただ一方、今回、「Automatic」「First Love」のようなデビュー間もない時期の作品をあらためて聴いたのですが、今から聴いてみても、その完成度の高さに驚かされます。「First Love」なんで、あのムード感たっぷりの雰囲気、まさか10代の女の子がつくって歌っていたなんて、今聴いても信じられません。

しかし、彼女がすさまじいのは既にデビュー当初において楽曲を完成させていたにも関わらず、その後、25年かけて今なお進化を続けているという点でしょう。デビュー当初のスタイルに留まることなく、しっかりと今どきのポップスに楽曲をアップデートしています。今回、新曲「Electricity」を収録しているのですが、打ち込みベースのサウンドを含め、楽曲としてしっかり今の時代のトップを走るような作風となっており、現役感を感じられるどころか、25年目のベテランにして、全く若手に負けていないトップランナーとしての姿を感じさせます。

また、デビュー当初は、「本場アメリカのR&Bばりの楽曲を聴かせてくれる『本物』」のような売り文句でしたり、確かにデビュー当初の作品は洋楽に引け劣らない本格的なR&Bの作風が魅力的でしたが、今から聴くと、彼女は決して「本場のR&B」なんていう枠組みにはおさまらず、ポピュラーミュージックとして非常に優れたメロディー、そしてウィットに富んだ優れた歌詞を書く、最高級のポップスミュージシャンとしての実力を持っていることを再認識させられます。特にメロディーラインに関しては、いまさらながら、本格的なR&Bという以上に、日本人の琴線に触れるようなムーディーなメロディーも多く、むしろいい意味で非常に日本人的な部分を感じさせます。

また歌詞にしても

「別に会う必要なんて無い
しなきゃいけないこと沢山あるし
毎日話す必要なんて無い
電話代かさんで迷惑してるんだ」
(「Addiccted To You」より 作詞 宇多田ヒカル)

なんていうラブソングらしからぬ歌詞からスタートしたり、

「初めてのルーブルは
なんてことなかったわ
私だけのモナリザ
もうとっくに出会ってたから」
(「One Last Kiss」より 作詞 宇多田ヒカル)

みたいな、かなりインパクトあるフレーズが登場してきたり、ウィットに富みつつ、どこかユーモアセンスも感じさせる歌詞が実に魅力的。サウンドの面でもメロディーの面でも歌詞の面でも、その実力を存分に感じることが出来ます。日本の女性シンガーソングライターと言えば、松任谷由実や中島みゆきがシーンのトップとして人気、実力ともに君臨していますが、既に宇多田ヒカルはそんなレジェンドたちと比べて、勝るとも劣らないレベルに既に到達しているように感じます。

いまさらながら彼女を聴いてみたいと思っている方はもちろん、新しいミックスや再録があるだけに、彼女のアルバムをすべて聴いているような方もお勧めしたい作品です。宇多田ヒカルの魅力を存分に感じさせるベスト盤でした。

評価:★★★★★

宇多田ヒカル 過去の作品
HEAT STATION
This Is The One(Utada)
Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2
Fantome
初恋
One Last Kiss
BADモード
Hikaru Utada Live Sessions from Air Studios


ほかに聴いたアルバム

UNLOCK!/Little Glee Monster

彼女たち7枚目となるオリジナルアルバム。随所にソウル志向的な要素は感じつつも、基本的には爽やかなJ-POP路線を聴かせる彼女たち。ファン層的にやはり本格志向は難しいのでしょうか。ただ、徐々に大人に成長していこうとする長期的なスタンスを楽曲の合間からのぞかせたりして、今後に注目したいところ。通常版は2枚組で、Disc2はいままでの彼女たちの代表曲を、今のメンバーで歌いなおしたバージョンが収録。新メンバーとしての体制がしっかり固まりつつあるということでしょうか。こちらの側面からもこれからの活躍に期待したいところです。

評価:★★★★

Little Glee Monster 過去の作品
Joyful Monster
juice
FLAVA
I Feel The Light
BRIGHT NEW WORLD
GRADTI∞N
Journey
Fanfare

ETERNAL/清春

TBS系バラエティー「水曜日のダウンタウン」で、「清春の新曲 歌詞を書き起こせるまで脱出できない生活」なる企画がオンエアされ、話題となりました。私自身はこの番組は見ていないのですが、ここで久しぶりに清春の名前を聞き、そういえばどうしているんだろうなぁ、と調べたところ、ニューアルバムのリリースを知った次第で・・・ま、この番組自体、このアルバムの宣伝を兼ねていたのでしょうが・・・約4年ぶりとなる新作なのですが、個人的に黒夢やSADSのアルバムは聴いてきたのですが、清春名義の作品を聴くのはこれがはじめて。基本的にロックバンドの黒夢、SADSと比べると、こちらは清春の趣味性、というか耽美的な部分がこれでもかというほど出ている曲が並び、哀愁たっぷりのメロディーラインを、あの独特な節回しで歌い上げる曲が並びます。特にラテンの要素が強かったのが印象的かつちょっと意外な印象も。癖が強いだけに好き嫌いはわかれそうですが、あの清春のキャラクター的な部分が好きなら間違いなく気に入りそうな1枚です。

評価:★★★★

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