THEシティポップ
Title:Peppermint Time ~20th Anniversary Best~
Musician:土岐麻子
もともと、私が土岐麻子の名前を知ったのはCymbalsの時でした。1998年にデビューした3人組バンドのCymbalsは、当時、どちらかというと「ネオアコ系のギターポップバンド」で、当時は他に、advantage Lucyや、後にfeaturing Nino名義でスマッシュヒットを出すRound Table、また、後に俳優として活躍する金剛地武志が所属していたyes,mama ok?あたりと並んでネオ渋谷系的な扱いで、その中でも特に注目を集めたバンドのひとつでした。
しかしCymbalsは2004年に解散。そして同年に彼女は、父親であるサックス奏者の土岐英史との共同プロデュースによるソロアルバム「STANDARDS〜土岐麻子ジャズを歌う〜」でデビュー。それから20年。ソロデビュー20周年としてリリースされたオールタイムベストが本作です。上にも書いた通り、Cymbalsとして活動していた頃から知っている身としては、もう、あれから20年か、自分も歳をとったな・・・としみじみと感じてしまいます(ということは先日の宇多田ヒカルのベスト盤でも感じたのですが・・・)。
今回、2枚組となっているベストアルバムですが、それぞれDisc1は「Pepperサイド」、Disc2は「Mintサイド」となっているそうです。Disc1は比較的アップテンポな曲が、Disc2はミディアムテンポでメロウに聴かせる曲が並んでいます。基本的に爽快なポップソングがメインながらも、その中に様々な音楽性を加えているのが彼女の特徴。エレクトロサウンドで軽快な「トーキョー・ドライブ」、ラップも入った「Ice Cream Talk」、ボッサの要素の入った「mellow yellow」、ジャジーな「都会」などなど。今回のベストアルバムでも様々なゲスト陣が参加した曲が並んでいるのですが、そのようなゲスト陣の音楽性も反映させつつ、彼女自身も幅広い音楽的な素養を感じさせるベスト盤となっています。
そんな彼女の音楽を一言で言うならば、まさに「シティポップ」の一言が最適でしょう。最近ではすっかりそのジャンルが定着し、ともすれば海外でも評価の高いこのシティポップという分野。ジャズやAORの要素の強い大人のポップスというイメージで、例えば山下達郎や角松敏生などがその代表格的なミュージシャンとみなされています。純粋に音楽性の問題で言えば、ジャズやAORの要素は彼女の楽曲にも色濃く見られるのですが、前述のミュージシャンたちの音楽と土岐麻子の楽曲はちょっと異なるかもしれません。ただ、「シティポップ」を都会の「街の」音楽と定義づけた時に、まさに彼女の音楽はピッタリマッチ。「トーキョー・ドライブ」「BOYフロム世田谷」など、まさに東京の「街」をテーマとした歌詞の曲も目立ちますし、クールでスタイリッシュ、どこか冷めたような雰囲気もある作風もまた、都会的なイメージにピッタリ。彼女の楽曲こそ、まさに「シティポップ」というイメージにピッタリ来る楽曲と言えるでしょう。
ただソロデビューから20年、Cymbalsの時代から25年以上活動を続けていますが、正直なところ、彼女自身、Cymbals自体を含めて大きなヒット曲を持っていません。あえて言えば、本作にも収録されている「Gift~あなたはマドンナ~」が資生堂のCMソングに起用され、スマッシュヒットを記録した程度。アルバムはチャートで20位から30位程度を記録し、一定以上の人気は確保しているのですが、残念ながら大ブレイクには至っていません。
確かに過去のベスト盤の感想でも書いたのですが、彼女の楽曲は残念ながらインパクトという面では若干物足りなさを感じる側面もある点は否定できません。それでも20年以上の期間にわたり第一線で彼女が活動を続けているというのは、やはり清涼感あふれるキュートな彼女のボーカルも大きな魅力。さらに、やはり都会的なスタイリッシュな作風もまた、彼女のボーカルに非常にマッチしているという点も大きいのではないでしょうか。あらためてオールタイムベストを聴いて、土岐麻子というミュージシャンの魅力を強く感じました。
彼女はCMソングもいろいろと歌っていたり、他のミュージシャンの曲にゲスト参加しているケースも多いので、彼女の歌は知らなくても、その歌声は聴いたことある、という方も多いかも。2枚組でちょっとボリューミーではあるものの、土岐麻子の最初のアルバムとしては最適なベスト盤。個人的にはオールタイムベストならば、Cymbals時代の曲も入れてほしかったかも、という気もしないでもなかったのですが・・・それを差し引いても、彼女の魅力を存分に味わえるお勧めのベスト盤でした。
評価:★★★★★
土岐麻子 過去のアルバム
TALKIN'
Summerin'
TOUCH
VOICE~WORKS BEST~
乱反射ガール
BEST! 2004-2011
CASSETTEFUL DAYS~Japanese Pops Covers~
HEARTBREAKIN'
STANDARDS in a sentimental mood ~土岐麻子ジャズを歌う~
Bittersweet
PINK
HIGHLIGHT-The Very Best of Toki Asako-
SAFARI
TOKI CHIC REMIX
PASSION BLUE
HOME TOWN~Cover Songs~
Twilight
ほかに聴いたアルバム
The Best of Tohoku Youth Orchestra 2013~2023/東北ユースオーケストラと坂本龍一
2013年に宮城県松島町で行われた音楽祭「Lucerne Festival ARK NOVA 松島 2013」をきっかけに企画・編成されたオーケストラ、東北ユースオーケストラ。地元の小・中・高・大学生を中心に結成され、かの坂本龍一が代表・音楽監督をつとめたことでも知られています。本作は、同オーケストラの初となる作品集。ピアノは坂本龍一の演奏によるものであることに加えて、彼の代表作「Behind The Mask」や「The Last Emperor」を演奏しているほか、坂本龍一が楽団のために書き下ろした「いま時間が傾いて」も収録されています。
基本的に本格的な交響楽は収録されていないので、イージーリスニング的な要素が強いのですが、その分、交響楽になじみがなくても楽しむことが出来る作品。吉永小百合やのんによる朗読作品も収録されているのですが、こちらも秀逸。坂本龍一によるピアノはもちろん、楽団による演奏も素晴らしく、坂本龍一に対する思い入れ等を抜きにしても素直に楽しめるアルバムでした。もちろん、坂本龍一の最期の1枚としても聴くべき作品なのは間違いないでしょう。
評価:★★★★
坂本龍一 過去の作品
out of noise
UTAU(大貫妙子&坂本龍一)
flumina(fennesz+sakamoto)
playing the piano usa 2010/korea 2011-ustream viewers selection-
THREE
Playing The Orchestra 2013
Year Book 2005-2014
The Best of 'Playing the Orchestra 2014'
Year Book 1971-1979
async
Year Book 1980-1984
ASYNC-REMODELS
Year Book 1985-1989
「天命の城」オリジナル・サウンドトラック
BTTB-20th Anniversary Edition-
BLACK MIRROR : SMITHEREENS ORIGINAL SOUND TRACK
Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020
12
サウンドトラック「怪物」
TRAVESIA RYUICHI SAKAMOTO CURATED BY INARRITU
NAKED~TOUR 2023~/家入レオ
昨年リリースしたアルバム「Naked」を引き下げる形でのライブツアー「家入レオTOUR 2023~NAKED~」から、昨年11月11日にKT Zepp Yokohamaで行われた公演の模様を収めてライブアルバム。もともと、家入レオの楽曲自体、90年代のガールズポップを彷彿とさせる部分があって、個人的にはちょっと壺な部分もあるのですが、ライブに関しても、いかにも昔ながらのJ-POPのノリをそのまま体現したような盛り上げ方で、ある種の懐かしさすら感じられました。意外と楽しそうな雰囲気を感じられるライブ盤。一度見に行ってみてもいいかも・・・。
評価:★★★★
家入レオ 過去の作品
LEO
a boy
20
WE
5th Anniversary Best
TIME
DUO
Answer
10th Anniversary Best
Naked
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