« バラエティー富んだ内容ながらもVampire Weekendらしさも | トップページ | 絶妙なバランスの3ピースバンド »

2024年6月 1日 (土)

おそらく今年1番の問題作

Title:VULTURES 1
Musician:¥$

Vultures1

おそらく、今、世界において最大のお騒がせミュージシャン、イェことカニエ・ウェスト。一時期は、アメリカを代表するセレブとして脚光を浴びる立場だったものの、2022年あたりから、反ユダヤ的な発言や白人至上主義的な発言を繰り返し行うようになり非常に問題視され、また、アメリカの保守系にすり寄るような立場も目立つようになりました。そんな中、長年、彼とコラボを行ってきたアディダスが契約を打ち切り大きな話題と呼び、その後も所属事務所やレコード会社との契約も切られるなど、事実上、その差別的な言動により、シーンから追い出されるような形となりました。

そんな中、リリースされたのが今回のアルバム。カニエ・ウェストと同じくラッパーのタイ・ダラー・サインが組んだユニット¥$名義でのアルバムとなっていますが、事実上、カニエのニューアルバムとして注目されています。リリース形態も完全インディペンデント。大手レコード会社や事務所を通すことなくリリースされた作品なのですが、様々なメディアが本作をどう取り扱ってよいか、かなり迷っているようにも感じました。

というのも、純粋に本作を(歌詞の内容を考えずに)聴くと、ヒットメイカーとしてアメリカのシーンに君臨した、カニエ・ウェストの実力を感じることが出来る作品となっているからです。正直、サウンド的には目新しさは感じられません。そういう意味で、過去のカニエの作品の中で上位に入るかどうかは微妙な部分があります。しかし、荘厳さを感じつつ、メランコリックでほどよくリズミカルなトラック、軽快で、メロディアスさを感じさせるラップに、ほどよいタイミングで入ってくる歌。全16曲1時間弱の内容。HIP HOPの熱心なリスナーではない私でも、聴き込んでしまう魅力は間違いなく感じられます。

ただし、前述のカニエをめぐる言動の酷さもさることながら、今回のアルバムに関しても、そのような言動を反省するでもなく、むしろ煽り立てる部分もある内容もあり、正直なところ、カニエの昨今の言動と本作を切り離すことはかなり困難ではないか、と思われます。

特に酷いリリックとしては「PROBLEMATIC」の中に"I'm not racist.It's a preference"(自分は差別主義者ではない。単なる好みの問題だ)と、ある意味、差別する人にとってはお決まりのような言い草も登場します。他にも、反ユダヤ的な言説を肯定するかのようなリリックなども登場してくるようです。幸か不幸か、英語話者ではない私たちにとっては、このアルバムのリリックをそのまま理解することは困難です。「登場してくるようです」というのは、このアルバムに関するレビュー記事などを読んで知った部分が多いから。そういう意味では、歌詞の内容を知らずに聴ける私たち日本人にとっては、彼の言動関係なく素直に楽しめるアルバムと言えるのかもしれませんが・・・ただ、やはり彼の過去の言動や、このアルバムのリリックから考えると、このアルバムの評価はかなり微妙なものと言わざるを得ません。

ただ、このような言説や完全インディペンデントという発売形態にも関わらず、結果として本作はビルボードチャートで1位を獲得するなど、その根強い人気を感じさせる結果となっています。残念ながら、彼の言説に賛同的な考えを示す人もいるのでしょう。また、私自身、結果としてストリーミングで聴いている以上、売上に少なからず貢献してしまっていることは否めませんが・・・。

評価:★★

KANYE WEST 過去の作品
GRADUATION
808s&Heartbreak
MY BEAUTIFUL DARK TWISTED FANTASY
YEEZUS
The Life Of Pablo
Ye
Jesus Is King
Donda


ほかに聴いたアルバム

Papercuts:Singles Collection(2000-2023)/Linkin Park

本国アメリカはもちろん、日本でも高い評価を誇るロックバンド、リンキン・パーク。2017年にボーカルのチェスター・ベニントンが自殺という衝撃的なニュースが飛び込んできました。ただ、2025年には新ボーカルを加えての再結成というニュースも入ってきており、チェスターの死を乗り越えて、新たな一歩を踏み出そうとする彼ら。そんな彼らのいままでの活動を総括するようにリリースされたのが、この初となるシングルベストとなります。最後に収録されている「Friendly Fire」は亡きチェスターがボーカルを取る未発表曲となっており、まさに感涙モノの作品となっています。

そんなこのシングルベスト。あらためて彼らの曲を聴いたのですが、メランコリックなメロディーラインとダイナミックなバンドサウンドは、良くも悪くもベタ。ただ、このわかりやすさが、彼らの人気の元であり、そして大きな魅力のようにも感じました。ちょっとウェット感もあるメロディーラインは日本人の好みにもピッタリマッチしそうで、この点も日本でも大きな人気のある理由かもしれません。今後、おそらく新ボーカルを迎えて活動を再開するであろう彼ら。亡きチェスターのためにも、今後踏み出す新たな一歩に期待したいところでしょう。

評価:★★★★

LINKIN PARK 過去の作品
A THOUSAND SUNS
LIVING THINGS
The Hunting Party
One More Light

|

« バラエティー富んだ内容ながらもVampire Weekendらしさも | トップページ | 絶妙なバランスの3ピースバンド »

アルバムレビュー(洋楽)2024年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« バラエティー富んだ内容ながらもVampire Weekendらしさも | トップページ | 絶妙なバランスの3ピースバンド »