絶妙なバランスの3ピースバンド
Title:If I don't make it,I love u
Musician:Still house Plants
イギリスはグラスゴーの3人組ロックバンドによる3枚目のアルバム。音を聴くのもはじめてなら、バンド名を聞くのも本作がはじめて。現時点においてバンドの英語版のWikiページもないほど、まだまだ知る人ぞ知る的なバンドのようですが、この3作目は各種メディアで高い評価を受けているようで、一気に注目を集めるバンドとなっているようです。
確かに聴いていて非常におもしろいバンドであることは間違いありません。ジャンル的には「アヴァン・ロック」という紹介のされ方をされているサイトもありました。アヴァン・ロックというジャンルもいまひとつ耳慣れないジャンルではあるのですが、日本ではエクスペリメンタル・ロックという呼び方もするようで、Wikipediaでは「一般的な作曲と演奏のテクニックの限界を押し広げたり、ジャンルの基本的な要素を元に実験を行ったりするものである。」という紹介のされ方をしていました。
楽曲の特徴として、まず耳を惹くのがそのボーカル。女性ボーカルなのですが、ちょっとドスを利かせたような力強い声を聴かせたかと思えば、非常に伸びのある歌声でメロウに歌い上げる歌も。そのボーカルはソウルの要素を感じさせる一方、どこか冷めたような、淡々としたようなボーカルを聴かせる部分もあり、この、熱量があるように感じさせつつも、一方ではどこか突き放したようなクールな雰囲気も同時に秘めたような独特なボーカルが魅力的に感じます。
そして、さらに魅力的だったのが、このボーカルと共に耳に飛び込んでくるバンドサウンドでしょう。ベースレスのサウンドなのですが、プログレッシブ・ロックの影響を強く感じさせるかなり複雑に構成されたギターやドラムの音が強く印象に残ります。変拍子を取り入れた複雑なドラムのリズムに、独特のフレーズを奏でるギターの音色が魅力的。決してポップではないのですが、その複雑なサウンドが間違いなく強く耳に残ります。
このバンドサウンドで面白いのが、ループするサウンドにミニマル的な要素を強く感じた点でした。「Silver grit passes thru my teeth」や「Headlight」あたりが特徴的なのですが、ボーカルも含めて楽曲がループする構成となっており、ミニマル的なサウンドが独自のグルーヴ感を醸し出しています。このテンポよいループ感はある意味、ポストロック的であり、かつてのプログレッシブ・ロックとは一線を画する独自性のように感じます。
また、もうひとつユニークなのが、このギターとドラムス、そしてボーカルがそれぞれ主張し合って、微妙にかみ合うようなかみ合わないような、絶妙なバランスを保っている点でした。ギターのフレーズは微妙にボーカルの歌とはリンクしていませんし、複雑な変拍子のリズムはまたギターやボーカルとは別の主張を繰り広げています。ただ、それにも関わらず結果として曲としてはちゃんと成立しており、この微妙なバランスゆえの緊張感もまた、大きな魅力となっています。
正直、決してポップなメロディーを楽しめるようなバンドではないですし、万人向けといった感じではないかもしれません。ただ、独自性のあるサウンドはいい意味で癖があって、強く惹かれるバンドであることは間違いないと思います。プログレッシブ・ロックやポストロックが好きなら間違いなくはまりそうなバンド。このアルバムで一気に注目を集めたので今後の活躍にも期待できそうです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
A LA SALA/Khruangbin
アメリカ・テキサス出身のスリーピースバンド。前作「MORDECHAI」は「タイ式ファンクグループ」と紹介されるなど、エキゾチックな作風で独特なグルーヴ感が非常に魅力的な作品でした。今回も期待して聴いたのですが・・・今回のアルバムも前作同様にメランコリックな作風ではあったものの、エキゾチックな要素はほとんどなく、独特なグルーヴ感もゼロ。単なるメランコリックでムーディーな楽曲を聴かせるバンドといった感じになってしまって、一気に平凡になってしまった感が・・・。前作がかなり良かっただけに落差が激しいのですが、どうしちゃったんでしょうか?非常に残念です。
評価:★★★
Khruangbin 過去の作品
MORDECHAI
THE TORTURED POETS DEPARTMENT:THE ANTHOLOGY/Taylor Swift
日本でも高い人気を誇り、おそらく現在、世界で一番人気のある女性シンガーといえるテイラー・スウィフトの新作。「THE TORTURED POETS DEPARTMENT」リリース日に、同作に15曲が追加された「完全版」が突然リリース。当初のバージョンでアルバムを予約して購入したファンからは批判が起こるなど、その売り方には若干の物議も醸し出しています。ここ最近、インディー系のミュージシャンと組んで、インディーポップ寄りの作品をリリースしてきた彼女でしたが、今回のアルバムは、比較的初期の彼女を彷彿とさせるような正統派のアメリカンポップといった印象のポップチューンが並びます。1曲1曲は天性のメロディーセンスを感じさせるポップなナンバーが並んでいます。ただ、比較的似たようなタイプの曲が多く、さすがに31曲2時間強のフルボリュームのアルバムになると、徐々に聴いていて飽きが来てしまいました・・・。1時間程度の内容ならば傑作だったと思うのですが、ちょっとトゥーマッチだったかなぁ。過ぎたるは及ばざるがごとしといった感じかも。
評価:★★★★
TAYLOR SWIFT 過去の作品
FEARLESS
RED
1989
REPUTATION
Lover
folklore
evermore
Fearless (Taylor's Version)
RED(Taylor's Version)
Midnights
Speak Now(Taylor's Version)
1989(Taylor's Version)
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