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2024年5月26日 (日)

売れっ子プロデューサーのソロ作

Title:BLEACHERS
Musician:Bleachers

グラミー賞8度の受賞経験を持つアメリカの男性シンガーソングライター、ジャック・アントロノフによるソロプロジェクト、BLEACHERSの約3年ぶりとなるニューアルバム。今回紹介するアルバムについて、「宣伝文」通りに紹介するのならば、このような紹介になります。ジャック・アントロノフというと、主にテイラー・スウィフトのプロデューサーとしても知られ、他にもセイント・ヴィンセントやThe1975のプロデュースなども手掛ける、まさに「売れっ子」のプロデューサーなのですが、今回、このアルバム評を書くにあたって、彼がどういうミュージシャンなのか調べている中で、はじめて知ったことがあります。彼、もともとミュージシャンとしてのキャリアのスタートは、ロックバンド、fun.のメンバーだったんですね。いたなぁ、fun.!懐かしい!

もともとfun.は2008年に結成された3人組ロックバンド。2枚目のアルバム「Some Nights」がビルボードチャートで1位を獲得するなど大ヒットを記録。グラミー賞の最優秀新人賞を取るなど、かなり話題となりました。過去ログをあさっていたら、当サイトでもリアルタイムに取り上げていました。当時は輸入盤がわずか1,000円で発売していたのですね。おそらく、CDからダウンロードへの過渡期で、CDの売上を少しでも伸ばすため、話題のミュージシャンのCDを安く販売していたのでしょう。ただ、歴史的円安となった今では、この価格設定はもはや考えられません・・・。

当時の感想を読んでみると、ポップなメロディーラインをそれなりにはまりつつも、ちょっと一本調子なメロに飽きが来てしまっていたようです。fun.は結局、このアルバムを最後に活動を休止。ある意味、「一発屋」なバンドになってしまったのですが、そのメンバーがいつの間にか、これだけ活躍していたとは・・・。日本でも、大石昌良や江口亮のような、元のバンドがいつの間にか活動休止していても、そのメンバーがプロデューサー的にブレイクするケースは少なくないので、彼もそんなケースの一人ということなのでしょうね。

そう考えると、全体的に楽しいポップなメロディーラインを聴かせてくれる本作は、fun.からの流れ、と言ってもいいかもしれません。「Tiny Moves」のような、分厚いサウンドにキュートでちょっとメランコリックなメロなどは、まさにfun.の時代を彷彿とさせるような。アルバム冒頭を飾る「I Am Right On Time」もギターサウンドでテンポよく、ポップでキュートなメロが魅力的。「Modern Girl」も軽快なギターロックナンバーが心地よいポップス。ギターのサウンドや途中に入るサックスなど、80年代のポップスを彷彿とさせてメロディーのインパクトも十分。かなり明るくワクワクするようなポップに仕上がっています。

ただ、前述のように、fun.を聴いた時の感想はちょっと一本調子で飽きが来てしまう、という印象を受けていました。それから12年。もちろん、今回のアルバムはそのfun.とは大きく異なります。サックスも入ってムーディーなAOR調の「Me Before You」、爽やかなアコギでフォーキーに聴かせる「Woke Up Today」、ファルセットボーカルも入ってニューウェーヴ風の「Call Me After Midnight」など、楽曲のバリエーションはかなり豊富。最後までリスナーの耳を惹きつけて飽きさせません。

もちろん、これらの曲を含めて、キュートでポップなメロディーラインという魅力は変らず、このメロがアルバム全体に統一感を与えています。fun.での大ブレイクから20年。すっかり売れっ子プロデューサーとなったジャック・アントロノフですが、若々しさを感じたfun.の時代を比べて、すっかりベテラン。いい意味で大御所的な余裕も感じさせるアルバムで、彼の魅力を存分に引き出しているアルバムに仕上がっていました。

個人的には年間ベスト候補とも言えるポップでキュートな傑作アルバムだったと思います。ロックやポップス好き、80年代的な懐かしさも感じさせるためアラフォー、アラフィフ世代まで、文句なしに楽しめる作品です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Rampen (apm: alien pop music)/Einstürzende Neubauten

ドイツを代表するインダストリアル・ミュージックのバンドによる約4年ぶりのニューアルバム。もともと、電気グルーヴが影響を受けたバンドとして取り上げていて、彼らのことをはじめて知り、今回、ニューアルバムがリリースされたということでチェックしてみました。全体的にダークでダウナーな作風で統一された作品。静かな雰囲気の中に、メタリックなサウンドが加わり、不気味な雰囲気が醸し出しています。正直、電気グルーヴとの共通点は少ないので、電気のファンにお勧め、といった感じではないのですが、好きな人にははまりそうな音かも。

評価:★★★★

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