ブラックミュージックに新たな視点を
今回は、最近読んだ音楽関連の書籍の紹介です。
自らを「暗黒批評家」と名乗るライター、後藤護による著書「黒人音楽史 奇想な宇宙」。「ゴシック・カルチャー入門」などの著者である彼が、ゴスやホラー的なサブカル視点からブラックミュージックを分析した1冊となっています。
ここで注意が必要なのは同書、「黒人音楽史」と、ある意味「黒人音楽入門」的な印象を受けるタイトルとなっていますが、内容的には決して入門書という本ではありません。むしろ、本書が取り上げているのはオーバーグラウンドなブラックミュージックではあまり語られることのないアンダーグラウンド的なブラックミュージックの世界。しかし、アメリカの黒人の精神的な部分を考えると、むしろブラックミュージックの本質はこちらにあるのではないか、とすら感じてしまうような視点から、黒人音楽の歴史を取り上げています。
本書では、著者はひとつの言葉をキーワードとしています。「アフロ・マニエリスム」。著者の造語というこの言葉、本書の中で明確な定義はありませんが、ここで「マニエリスム」とは美術用語だそうで、ルネサンス期からバロック期への移行期に興った、社会的な混乱による精神的危機を反映した作風が特徴的だとか。アメリカにおける黒人の精神性から特筆すべき、特に著者が得意とするゴシック的なアンダーグラウンドの世界を取り上げることにより、黒人音楽に横たわる精神性を読み解く試みがなされています。
そのため、ここで取り上げられる音楽は、通常のブラックミュージックの歴史ではあまり取り上げられることのない音楽、ミュージシャンたち。第1章でいきなり大きく取り上げられているM・ラマ―というミュージシャンは、私も寡聞にして初耳のミュージシャンですし、第3章のジャズでは、フリージャズのアルバート・アイラー、第4章ではサン・ラーが取り上げられているほか、第6章ではヒップホップのサブジャンルであるホラーコアが取り上げられています。いずれも名前くらいは聴いたことあるミュージシャン、ジャンルですが、通常の「ブラックミュージックの歴史」では大きくは取り上げられないミュージシャンやジャンルばかりです。
アメリカの黒人の精神性から、その文化を切り取るという試みはなかなか興味深く、いままで私が見聞きしてきたブラックミュージックに新たな視点を与えてくれる1冊だったと思います。ブラックミュージックを知るための最初の1冊としてはお勧めしにくい本ではあると思うのですが、ソウルミュージックやHIP HOPについて、ある程度の知識がある方にとっては、非常に興味深く読める本ではないでしょうか。
ただ、一方、マイナス点も・・・本書の特徴として非常に様々な書籍から引用されています。そんなこともまで引用する必要あるの??というようなものまで徹底されており、後ろに記載されている参考書籍もかなりのボリュームとなっています。ただ、全体的に言いまわしが非常に難しい。不必要に難しくこねくり回している感もあり、正直、もっと平易な表現で書いた方がわかるやすく、ここまで難解な表現を用いるのは著者の自己満足では??とすら感じる部分もありました。
また、その引用された書籍もサブカルチャー界隈の本がほとんどで、個人的にはもうちょっと哲学や文化人類学の学術的な書籍にまで突っ込んで分析してほしかったかも、という印象も受けました。読んでいて、若干、論理的に飛躍していないか?という部分も無きにしも非ずだったので・・・。そこらへん、癖のある部分もあり、そういう意味でも万人向けではないのかもしれませんが、ブラックミュージック好きなら興味深く読める1冊だと思います。
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