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2024年5月 3日 (金)

レジェンドの初のソロ作

Title:Bars of My Life
Musician:Mummy-D

RHYMESTERといえばご存じ、日本のHIP HOP黎明期から活動し、日本のHIP HOPシーンの中でレジェンドとも言える立ち位置のグループ。そのRHYMESTERのMCの一人が彼、Mummy-D。様々なミュージシャンとコラボを行っており、その声にも非常に特徴があるため、おそらくHIP HOPをあまり聴かない方でも、その声を聴けば、「ああ、あの声の人ね」と思い当たる方も多いのではないでしょうか。

その彼が、なんとRHYMESTERとしてのデビューから34年目にしてリリースした初のソロアルバムが本作。かなり豪華なゲスト陣が特徴的で、客演としてH ZETTRIOやミッキー吉野、Nulbarich、さかいゆう。プロデューサーとしてDJ KRUSHなどといったメンバーがズラリと名前をそろえています。

ただ、そんな豪華ゲスト陣の中でも特にインパクトが大きかったのですが、THA BLUE HERBのILL-BOSSTINOが参加している点でしょう。RHYMESTERとTHA BLUE HERB、特にMummy-DとBOSSといえば、かつては両者がBEEF(=争い)を繰り広げられていた者同士。決して激しい応報があった訳ではありませんが、RHYMESTERとTHA BLUE HERBという日本のHIP HOPシーンの中でも人気・評価共に高い実力者同士のBEEFは大きなインパクトを与えました。個人的にもTHA BLUE HERBの「サイの角のようにただ独り歩め」の中の「ミスターアブストラクトって呼び名ははずれたな」というリリックは、かなり印象に残っています。

もっとも、その後はお互い徐々に和解にむかって進み、ライブにも共演するなど完全に和解。今回のMummy-Dでは、なんとゲストとして参加するまでの仲に至った点は、やはり感慨深いものがあります。BOSSが参加した「同じ月を見ていた」は、お互い、札幌と東京にはじめて足を踏み入れた時の感慨を綴ったラップ。最初はMummy-Dのラップからスタートするのですが、中盤、BOSSの独特のラップがスタートした時は、やはりゾクゾクっと来るものがありました。

さて、そんな彼、初となるソロアルバム。タイトルの「Bar」は、音楽用語の小節のこと。人生の小節と題された本作は、彼のHIP HOP人生を振り返るようなリリックが大きな特徴となっています。タイトルチューンとなる「Bars of My Life」はまさにこれまでの歩みをリリックに綴っています。他にも「マイク持つ者よ」もHIP HOPについて綴ったリリックで、タイトル通り、MCへのエールにもなっていますし、「バックミラーの中の街」は横浜の思い出をつづった曲。「Spread Love」では亡くなったラッパーの名前が登場してきますし、ラストを飾る「Kiss Your Life」も自らの子供の頃について、自分の子供に語り掛ける内容の曲となっています。

初のソロアルバムということもあって、自らのこと、HIP HOPのことを綴った楽曲が並んだ本作。ある意味、非常にソロアルバムらしいソロアルバムと言えるでしょう。BOSSの客演といい、その歌詞の内容といい、長年、RHYMESTERを聴いてきたような方なら、おそらく胸に来るものがあるように思います。

またトラックの方も、ジャジーな「Free」やエレクトロトラックを聴かせる「バックミラーの中の街」、ラストの「Kiss Your Life」はアコースティックなサウンドを取り入れた歌モノとバラエティーも豊富。その点でも、彼のキャリアを出し切ったような内容になっていました。

ただ、それだけ聴きごたえもあるアルバムなのですが、ちょっと物足りなさを感じてしまった点があって、それがMummy-Dのラップ自体。彼の声は非常に特徴的で、癖のあるラップなのですが、どちらかというと客演向きの声といったイメージがあり、メインを取るとなると、若干、違和感を覚えてしまった点が否めません。このアルバムに関しても、やはり他のボーカリストやラッパーと絡んだような曲の方がしっくり来ます。こればかりはどうしようもない点ではあるとは思うのですが・・・。いいアルバムだとは思いますし、RHYMESTERが好きなら聴くべき1枚だとは思うのですが、やはりRHYMESTERの方がいいかな・・・とも正直思ってしまった1枚でした。

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

はじめから自由だった/ハンブレッダーズ

最近、徐々に人気を上げている注目の若手ロックバンド、ハンブレッダーズ。アルバムをリリースすればチャートでも20位圏内に送る込んでくるようになり、ブレイク寸前となっています。今回、はじめて彼らの作品を聴いてみました。タイトルからして、かなりパンキッシュな内容を予想するのですが、楽曲的には良くありがちなJ-POPのギターロックバンドといった印象。楽曲によってはパンキッシュな作品もあるのですが、基本的には日常を歌ったメロディアスな楽曲が並びます。まあ、確かに売れそうな感はしますが・・・。

評価:★★★

覚悟を決めろ!/サバシスター

こちらも最近注目のブレイク寸前の若手ロックバンド。女の子3人組のパンクロックバンドで、あのPIZZA OF DEATH MANAGEMENT所属で、本作がアルバムとしてはデビュー作となります。こちらは軽快ながらもパンキッシュなバンドサウンドをしっかりと聴かせてくれている一方、メロディーは至ってポップでいい意味での聴きやすさも。またメランコリックなメロディーラインはフォークっぽさも感じます。タイトル通り、上京したころの心境を歌った「東京こえー」や、ぬいぐるみに感情をこめて歌った「しげちゃん」などユーモラスながらも印象に残る歌詞もきちっと書いている感じ。サウンドにしろメロにしろ、まだ良くも悪くも若々しさがあり、独自性という意味ではもう一歩な部分もあるのですが、今後に注目したい、そんなバンドでした。

評価:★★★★

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